特許拒絶査定不服審判
2022-006786
眼疾患を処置するためのABCB5(+)幹細胞
- 審判番号
- 2022-006786
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-036040
- 請求日
- 2022年05月06日
- 審決日
- 2024年06月20日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
- 【請求人代理人】葛和 清司
- 【請求人】スケペンス アイ リサーチ インスティテュート
- 【請求人代理人】葛和 清司
- 【請求人】アメリカ合衆国
- 【請求人代理人】葛和 清司
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 名和 大輔
- 審判官 田中 耕一郎
- 分類
- P18 .537-Z (C12N) / P18 .536-Z (C12N) / P18 .56 -Z (C12N) / P18 .575-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 36040「眼疾患を処置するためのABCB5(+)幹細胞」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月31日出願公開、特開2019-189600〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成26年2月19日(パリ条約による優先権主張 2013年2月19日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2015-558916号の一部を、平成31年2月28日に新たな特許出願としたものであって、その手続の主な経緯は以下のとおりである。
令和 2年 4月24日付け:拒絶理由通知書
令和 2年11月11日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 3月12日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 9月16日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年12月24日付け:拒絶査定
令和 4年 5月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 4年 6月 7日 :手続補正書(請求の理由)の提出
第2 令和4年5月6日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年5月6日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正は、令和3年9月16日提出の手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項8に、
「【請求項8】
対象への移植用の眼移植片を作製する方法であって、単離されたABCB5(+)眼幹細胞の集団を選抜すること、および前記単離されたABCB5(+)眼幹細胞を基質に播種して、眼移植片を作製することを含み、前記ABCB5(+)眼幹細胞の集団は、少なくとも90%のABCB5(+)眼幹細胞で構成されており、任意に、単離されたABCB5(+)眼幹細胞は、単離されたABCB5(+)ヒト眼幹細胞である、前記方法。」とあったものを、
「【請求項8】
対象への移植用の眼移植片を作製する方法であって、単離されたABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞の集団を選抜すること、および前記単離されたABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞を基質に播種して、眼移植片を作製することを含み、前記ABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞の集団は、少なくとも90%のABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞で構成されており、任意に、単離されたABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞は、単離されたABCB5(+)ヒト角膜輪部、網膜または角膜幹細胞である、前記方法。」とする補正事項を含むものである。
2.目的要件について
上記補正事項によって、補正後の請求項8は、補正前の請求項8の「ABCB5(+)眼幹細胞」、「ABCB5(+)ヒト眼幹細胞」が、「ABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞」、「ABCB5(+)ヒト角膜輪部、網膜または角膜幹細胞」にそれぞれ補正されており、これらは補正前の請求項8の発明特定事項を限定するものである。
したがって、上記補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項8に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。
3.独立特許要件について
(1)本件補正発明
補正後の請求項8に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、補正後の請求項8に記載される以下のとおりのものである。
「【請求項8】
対象への移植用の眼移植片を作製する方法であって、単離されたABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞の集団を選抜すること、および前記単離されたABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞を基質に播種して、眼移植片を作製することを含み、前記ABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞の集団は、少なくとも90%のABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞で構成されており、任意に、単離されたABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞は、単離されたABCB5(+)ヒト角膜輪部、網膜または角膜幹細胞である、前記方法。」
(2)当審の判断
ア 本願の発明の詳細な説明の記載事項
本願の発明の詳細な説明には、以下のとおりの事項が記載されている(なお、下線は当審合議体が付した。)。
(ア)発明の概要
「【0003】
発明の概要
本発明は、いくつかの側面では、例えば角膜疾患および/または網膜疾患などの眼の異常の処置のための、ABCB5(+)幹細胞(例えばヒト幹細胞)の使用に一般的に関する。本発明は、ABCB5が眼の幹細胞によって発現されており、かかるABCB5(+)幹細胞が正常な眼の発生に必要であり、眼創傷(例えば眼表面創傷)を有する対象に対して投与されたときそれらの細胞が細胞再生の能力があるという発見に一部基づいている。例えば、ABCB5(+)角膜輪部幹細胞は正常な角膜発生に必要であり、角膜再生の能力がある。同様に、ABCB5(+)網膜色素上皮(RPE)細胞は正常な網膜発生に必要であり、網膜再生の能力がある。
したがって本発明のいくつかの側面では、眼の異常を有する対象を処置する方法が本明細書において提供され、これは対象の眼細胞を再生するために有効な量の単離されたABCB5(+)幹細胞を対象に対して投与することを含む。
いくつかの態様では眼の異常は角膜疾患である。いくつかの態様では、角膜疾患は角膜上皮幹細胞疲弊症(LSCD)を原因とする盲目である。「角膜上皮幹細胞疲弊症」は、本明細書では、重症もしく両眼性、片眼性、または部分LSCDを指す[5]。いくつかの態様では、単離されたABCB5(+)角膜輪部幹細胞が対象に投与されて、角膜疾患を処置する。
【0004】
いくつかの態様では眼の異常は網膜疾患である。いくつかの態様では網膜疾患は黄斑変性である。
いくつかの態様では網膜疾患は網膜炎である。いくつかの態様では、単離されたABCB5(+)網膜幹細胞(例えばABCB5(+)RPE幹細胞)が対象に投与されて、角膜疾患を処置する。
本発明のさらに別の側面では、対象への移植用の眼移植片を作製する方法が本明細書において提供され、この方法は、単離されたABCB5(+)幹細胞を基質に播種して眼移植片を作製することを含む。
いくつかの態様では、基質はフィブリンゲル、羊膜、アミノグリカン、またはその組み合わせを含む。いくつかの態様では基質は人工角膜である。かかる態様では、基質、例えば人工角膜は無細胞性コラーゲンを含む。
本発明のいくつかの側面では、対象への移植用の単離されたABCB5(+)幹細胞が濃縮された眼移植片が本明細書において提供される。」
(イ)詳細な説明
「【0022】
詳細な説明
角膜上皮のホメオスタシスおよび再生は、眼の基底角膜輪部上皮にある角膜輪部幹細胞(LSC)の集団によって保たれている[1~3]。それらの細胞は新たな角膜細胞を生じて損傷したものと交換するが、負傷または疾患を原因とするLSCの喪失は世界的に盲目の主因である[4]。健康な眼由来のLSCの移植は、多くの場合にはLSCDの患者に利用可能な唯一の治療オプションである。移植の奏功は移植片中にあるLSCの度数に第一に依存している[5]。しかしながら本発明以前には、この細胞亜集団の予期された濃縮を可能にする角膜輪部幹細胞遺伝子は報告されていなかった[5]。
【0023】
本発明は、ATP結合カセット、サブファミリーB(MDR/TAP)、メンバー5(ABCB5)[6、7]がLSCをマークし、且つ角膜輪部幹細胞維持、角膜発生および修復に必要であるという発見、およびドナーから予期して単離されたABCB5陽性(ABCB5(+))LSCが移植によって角膜を復元する能力を有するという発見に一部基づいている。したがって、本発明の種々の側面および態様は、眼の異常を有する対象を処置する方法、眼のABCB5(+)幹細胞を単離する方法、移植用の眼移植片を選抜および/または作製する方法、眼細胞再生を促進する方法、さらにはそれらの細胞表面へのABCB5の発現を特徴とする単離された眼幹細胞を含有する移植片および調製物に関する。
【0024】
本発明の発明者は、野生型マウスのin vivoの標識保持LSCおよび健康なヒトのΔΝp63α陽性LSCの表面にABCB5が一様に発現されているということを本明細書において立証する。それらの知見と一致して、本発明者は、ABCB5陽性角膜輪部幹細胞の度数がLSCD患者においてかなり減少しているということも立証する。新規に作製されたAbcb5ノックアウト(KO)マウスを用いたABCB5の機能喪失研究は、増強された増殖およびアポトーシスを原因とする静止LSCの枯渇を引き起こし、不良な角膜分化および創傷治癒をもたらした。これは、ABCB5(+)LSCが角膜を復元するという実証された能力を説明する。マウス遺伝子KO、in vivoの角膜輪部幹細胞の追跡、および角膜輪部幹細胞移植モデルの結果、ならびにヒト生検標本の表現型的および機能的な移植片分析による並行して得られた知見は、ABCB5が哺乳動物のLSCを同定するという収束的な一連の証拠を示している。角膜発生および修復に必須の機能を有する分子的に定義されたLSCの同定および予期された単離は、角膜疾患、特にLSCDを原因とする角膜性の盲目の処置にとって重要な意味を有する。
【0025】
「ABCB5(+)幹細胞」は、本明細書で用いられる場合、自己複製および分化して多数の成体細胞系譜の成熟細胞になる能力を有する細胞を指す。それらの細胞は細胞表面へのABCB5の発現を特徴とする。本発明の一部の実施形態ではABCB5(+)幹細胞は角膜輪部幹細胞である。いくつかの態様ではABCB5(+)幹細胞は網膜幹細胞である。ABCB5(+)幹細胞は眼の基底角膜輪部上皮または網膜色素上皮(RPE)から得られる(例えば、単離または誘導され得る)。いくつかの態様ではABCB5(+)幹細胞はヒトの眼から得られる。他のABCB5(+)幹細胞型(例えば角膜中央から得られるもの)が本発明の種々の側面および態様に用いられ得る。
【0026】
ABCB5(+)眼幹細胞は、基底角膜輪部上皮またはRPEの眼細胞を含む眼組織の試料を単離し、次にABCB5(+)幹細胞を精製することによって対象から得られる。当業者には当然のことながら、試料はいくつもの方法でABCB5を有する眼幹細胞を濃縮され得る。例えば、眼幹細胞は、細胞表面分子上のABCB5と抗体または他の結合分子との結合によって選抜され得る。眼細胞はドナーからそのまま得られ、または凍結保存による保存から戻され得る。眼幹細胞は、例えばABCB5に対する抗体を用いて単離され、標準的な手法を用いる培養によってまたは例えば液体窒素中で凍結されて、後の使用のために維持され得る。眼から細胞を得るために本発明で用いられ得る方法の限定しない例は例の項に記載されており、図14Aに図示されている。」
「【0029】
ABCB5(+)幹細胞(例えば、ABCB5(+)LSC)は単離され得る。「単離されたABCB5(+)幹細胞」は、本明細書で用いられる場合、それが元々見いだされた生物から取り出された細胞、またはかかる細胞の子孫を指す。単離された細胞は、天然の環境とは異なる条件に置かれた細胞も指す。かかる細胞は、後で第2の生物に導入され得、またはそれが単離された元の生物(または、それが遺伝されて来た細胞もしくは細胞の集団)に再導入され得る。かかる細胞は、本発明の方法に従って操作された後でも単離された細胞と見なされる。用語「単離された」は、他の細胞との組み合わせもしくは混合物としてのまたはin vivo環境においてのその細胞の爾後の使用を排除しない。」
「【0032】
ABCB5(+)幹細胞(例えばABCB5(+)LSC)は眼の異常を処置するために有用である。いくつかの態様では眼の異常は眼創傷であり、眼の瘢痕化に至り得、これは翻って低下した視力または盲目を引き起こし得る。いくつかの態様では、ABCB5(+)幹細胞(例えばABCB5(+)LSC)が用いられて、角膜疾患、例えば角膜上皮幹細胞疲弊症(LSCD)を原因とする盲目などを処置し得る。いくつかの態様では、ABCB5(+)幹細胞(例えば、ABCB5(+)LSCおよび/またはABCB5(+)RPE幹細胞)が用いられて、網膜疾患、例えば黄斑変性または網膜炎/網膜色素変性症などを処置し得る。黄斑変性は黄斑の変質を含む一群の異常を指し、鋭敏ではっきりした視界に必要な中央視力の喪失を引き起こす。これは65歳以上の者の視力喪失および盲目の主因である。黄斑変性はAMDまたはARMD(加齢黄斑変性)とも呼ばれ得る。網膜炎は網膜の炎症を指し、盲目に至り得る。網膜色素変性症は遺伝的な異常または炎症反応の結果であり得、中央視力喪失に至り得る進行性の周辺視力喪失および夜間視力障害(夜盲症)を特徴とする一群の遺伝性疾患を指す。」
「【0042】
角膜は虹彩、瞳孔、および前眼房を覆う眼の透明な前部である。角膜は前眼房および水晶体と一緒になって光を屈折させ、角膜は眼の全屈折力の約2/3を占める。霊長類の角膜は5つの層、すなわち角膜上皮(多細胞上皮組織層)、ボーマン層(コラーゲン繊維の密な層)、角膜実質(コラーゲン繊維(例えばI型コラーゲン原繊維)および角膜実質細胞からなる中間層)、デスメ膜(角膜上皮細胞が誘導される元の薄層であり、IV型コラーゲン原繊維から構成される)、および角膜内皮(ミトコンドリアに富む細胞の単層扁平または低立方層)を有する。本発明の組成物は単離された調製物および眼移植片を含み、ABCB5(+)幹細胞に加えて5つの角膜層の細胞亜型のいずれか1つまたは2つ以上を含み得る。いくつかの態様では、組成物は5つの角膜層の細胞亜型のいずれか1つまたは2つ以上を含まない。
【0043】
網膜は、眼の内表面を内張りしている組織の感光性層である。網膜そのものはシナプスによって相互連結されたニューロンの数層を有し、それらは光受容体細胞、例えば桿体、錐体、および神経節細胞を含んでいる。本発明の組成物(単離された調製物および眼移植片を含む)は、ABCB5(+)幹細胞に加えて網膜の神経細胞亜型(RPEの網膜上皮細胞を含む)のいずれか1つまたは2つ以上を含み得る。いくつかの態様では、組成物は網膜の神経細胞亜型のいずれか1つまたは2つ以上を含まない。
移植への使用を意図される組成物(例えば眼移植片)の細胞は、同種他家由来または同系であり得る。いくつかの態様では、細胞は皮膚幹細胞(例えば間葉系幹細胞)ではない。したがっていくつかの態様では、本発明の組成物の細胞はABCB5(+)間葉系幹細胞を含有しない(すなわち排除する)。
【0044】
いくつかの態様では、組成物(眼移植片も含む)はABCB5(+)幹細胞が濃縮されている。いくつかの態様では眼移植片はABCB5(+)LSCが濃縮されている。いくつかの態様では眼移植片はABCB5(+)RPE幹細胞が濃縮されている。」
「【0052】
・・・例えば、リプログラミングされたABCB5(+)細胞は種々の異常(例えば遺伝学的な異常)を処置するために用いられ得、それらは限定なしに鎌状赤血球貧血、パーキンソン病、血友病A、虚血性心疾患などの心疾患、アルツハイマー病、脊髄損傷、脳卒中、熱傷、糖尿病、骨関節炎、および関節リウマチを含む。」
(ウ)実施例
「【0059】
<例1.ABCB5は角膜輪部幹細胞(LSC)の分子マーカーである>
ABCB5が哺乳動物の眼の遅い細胞周期の標識保持角膜輪部幹細胞のマーカーであるかどうかを検討するために、in vivoのBrdUベースの「瞬間標識追跡」実験[2]が実施された。
・・・
【0061】
Abcb5WTマウスの標識保持角膜輪部幹細胞および健康なヒトのΔΝp63α(+)LSCの表面へのABCB5の発現と、臨床LSCD患者における減少したABCB5(+)細胞の度数という並行して得られた知見とは、ABCB5がLSCを標識付けるということを示した。」
「【0062】
<例2.ABCB5は角膜発生および再生を制御する>
角膜発生および再生にABCB5(+)LSCが果たす可能な機能上の役割を検討するために、マウスAbcb5遺伝子(GenBank JQ655148)のエクソン10の欠失を有するAbcb5KOマウスが作製された。
・・・
【0066】
・・・変異体マウスは、WTマウスと比較して有意に減少した角膜輪部および角膜のPAX6および角膜KRT12の発現を示した(角膜輪部PAX6はそれぞれ0.3±0.3%および18.0±4.6%、P=0.0181。角膜PAX6はそれぞれ8.3±4.6%および42.0±7.6%、P=0.0192。角膜KRT12はそれぞれ6.5±6.5%および47.7±8.2%、P=0.0382)(図2E、図10)。これは、正常な角膜発生に果たすABCB5の新規の必須な役割を立証している。」
「【0067】
<例3.ABCB5は角膜輪部幹細胞の静止を制御する>
角膜再生が完全なABCB5機能に依存的かどうかを確認するために、Abcb5KOおよびWTマウスが角膜中央上皮創面切除創傷を受け、次に角膜再生の評価が行われた(図11A~11D)。
・・・
【0069】
・・・8週間の追跡期間後には、標識保持LSCの度数は、Abcb5KOマウスではAbcb5WT対照と比較して顕著且つ有意に(89%)減少していた(度数はそれぞれ0.1±0.1%および0.9±0.3%、P=0.0152)(図3Aおよび3B)。これは、ABCB5機能の消滅が、通常は静止LSCの細胞増殖を誘導するということを立証している。したがって、ABCB5は遅い細胞周期のLSCの維持に必要である。細胞周期からの脱出はLSCの維持、したがって正常な分化に必須であるので、これらの結果はAbcb5KOマウスにおいて観察された角膜分化不全の説明を提供する(図3E)。」
「【0070】
<例4.角膜上皮幹細胞疲弊症の処置にABCB5(+)角膜輪部幹細胞が果たす再生的な役割>
ABCB5が移植片中の角膜輪部幹細胞の予期された濃縮用の分子マーカーであり、移植の成果を改善するかどうかを検討するために、移植された角膜輪部上皮細胞の角膜再生能が検討された(図14Aおよび14Bならびに図15A~15C)。マウスドナー角膜輪部上皮細胞が、誘導された角膜上皮幹細胞疲弊症(LSCD)の同系C57BL/6Jレシピエントマウスの眼に移植された。ヒトドナー角膜輪部上皮細胞が、誘導された角膜上皮幹細胞疲弊症の免疫不全NOD.Cg‐PrkdcscidIl2rgtmlWjl/SzJ(NSG)マウスの眼に移植された。4種類のドナー移植片、すなわち(i)ABCB5(+)角膜輪部上皮細胞、(ii)ABCB5(-)角膜輪部上皮細胞、(iii)未分離の角膜輪部上皮細胞、および(iv)細胞を含有しない移植片(フィブリンゲル担体のみ)が実施された(フィブリンゲル担体/移植片あたり500細胞、1片眼移植片/マウス、n=5マウス/処置群)(表2)。
・・・
【0073】
・・・同系ABCB5(+)角膜輪部細胞移植片は、透明な角膜の発生と正常な組織像をレシピエントマウスにもたらし、より多い分化したKRT12(+)角膜上皮細胞数を生じさせ(細胞の47%。未分離またはABCB5(-)角膜輪部細胞の処置レジメンと比較または担体のみの対照と比較して有意に増大した。P<0.001)、杯細胞形成または上皮結膜化を防いだ(図4A、図16)。
【0074】
・・・驚くべきことに、単離したてのヒトABCB5(+)角膜輪部細胞移植片のみが、透明な角膜の発生と正常な組織像をレシピエントNSGマウスにもたらし、多数のKRT12+細胞を含有する重層上皮層の存在(細胞の31%。担体のみと比較またはABCB5(-)もしくは未分離角膜輪部細胞処置レジメンと比較して有意に増大した。P<0.001)およびLSCDに特徴的な上皮結膜化の不在をもたらした(図4B、図17)。
【0075】
・・・さらに、未分離またはABCB5(+)細胞移植片と比較してABCB5(-)の同様の生存率にもかかわらず(表2、図15A~15C)、ABCB5(-)細胞を移植された眼はヒト特異的なβ2Μ、PAX6、またはKRT12転写物発現を欠いていた(図4B)。これは、長期生着能がヒトABCB5(+)角膜輪部細胞集団に専ら含まれているということを示している。
【0076】
本明細書に記載の例は、ABCB5(+)細胞の度数が角膜上皮幹細胞疲弊症(LSCD)において減少しているということ、ABCB5陽性は角膜輪部幹細胞(LSC)が濃縮された遅い細胞周期およびΔNp63α陽性の集団の優先的な特徴であるということ、予期して単離されたABCB5(+)角膜輪部細胞が専らLSCDを回復させる能力があるということを実証している。これは、ABCB5陽性がLSCを定義するということを示唆している。これらの発見は、Abcb5遺伝子ノックアウト(KO)マウスにおけるABCB5の機能喪失がLSCDを引き起こし、LSCの自己複製能力の消滅によってLSC依存的な角膜発生および再生を損なうということを示すデータによってさらに裏付けられる。これらの結果はいくつかの重要な意味を有している。
【0077】
第1に、ヒトLSCの上首尾な濃縮はLSCD治療の分野を決定的に進歩させる可能性を有している。なぜならば、長期的な臨床的奏功は移植片中にある角膜輪部幹細胞の度数に依存することが示されたからであり[5]、本発明以前には予期された角膜輪部幹細胞濃縮のマーカーは利用可能でなかったからである。実際に、これらの例は、移植片中への予期された角膜輪部幹細胞濃縮がLSCDの治療奏功率をかなり向上させ得るということを示している。角膜輪部幹細胞表面のABCB5発現は、モノクローナル抗体ベースの細胞ソーティング戦略とかなりの角膜輪部幹細胞濃縮とを本明細書に記載したように可能にする。これは、細胞内発現されたΔΝp63αまたはそれに代わる角膜輪部幹細胞マーカー候補[17]とは違っており、それらはLSCDからの回復の能力があるLSCの予期された単離に上首尾に用いられては来なかった。このことは、臨床の角膜輪部幹細胞移植のための角膜輪部幹細胞単離用にも可能なマーカーとしてのABCB5の有望性を強調している。
【0078】
第2に、本明細書に記載のデータは、幹細胞の静止の維持に果たすABCB5の新規のin vivoの生理的役割を明らかにしている。具体的には、新規に作製されたAbcb5KOマウスにおけるABCB5の機能の消滅は、遅い細胞周期のLSCの喪失と、G0/G1細胞周期進行を制御する分子(角膜輪部幹細胞マーカーΔΝp63αを含む)の阻害された発現とをもたらした。これは、通常は静止LSCによるABCB5とΔΝp63αとの観察された共発現を説明し、Abcb5KO角膜において観察された分化した細胞の減少を伴う角膜輪部幹細胞増殖とアポトーシスとの誘導の説明を提供する。なぜなら、細胞が細胞周期から脱出する能力は幹細胞プールの維持および正常な分化の両方にとって重要だからである。」
イ 判断
上記アのとおり、発明の詳細な説明には、本件補正発明が解決しようとする課題が明示的には記載されていないものの、「発明の概要 本発明は、いくつかの側面では、例えば角膜疾患および/または網膜疾患などの眼の異常の処置のための、ABCB5(+)幹細胞(例えばヒト幹細胞)の使用に一般的に関する。・・・したがって本発明のいくつかの側面では、眼の異常を有する対象を処置する方法が本明細書において提供され、これは対象の眼細胞を再生するために有効な量の単離されたABCB5(+)幹細胞を対象に対して投与することを含む。」(上記ア(ア)【0003】)と記載されていることからみて、同課題は、眼の異常を有する対象を処置するために使用するABCB5(+)幹細胞を提供すること、であると認められる。
そして、本件補正発明には、「ABCB5(+)角膜輪部、網膜または角膜幹細胞」において「網膜」を選択した場合の発明である「対象への移植用の眼移植片を作製する方法であって、単離されたABCB5(+)網膜幹細胞の集団を選抜すること、および前記単離されたABCB5(+)網膜幹細胞を基質に播種して、眼移植片を作製することを含み、前記ABCB5(+)網膜幹細胞の集団は、少なくとも90%のABCB5(+)網膜幹細胞で構成されており、任意に、単離されたABCB5(+)網膜幹細胞は、単離されたABCB5(+)ヒト網膜幹細胞である、前記方法。」が含まれる。
したがって、本願がサポート要件を満たすには、発明の詳細な説明において、「少なくとも90%のABCB5(+)網膜幹細胞で構成され」た「単離されたABCB5(+)網膜幹細胞の集団」を提供することができ、さらに当該集団を用いて「作製」した「移植用の眼移植片」を使用して、眼の異常を有する「対象」を処置することができることが、当業者が認識できるように記載されている必要がある。そして、前記「眼の異常を有する「対象」を処置する」とは、本願明細書において「処置」に関して、「例えば角膜疾患および/または網膜疾患などの眼の異常の処置のためのABCB5(+)幹細胞(例えばヒト幹細胞)の使用に一般的に関する。」(上記ア(ア)【0003】)「例えば、リプログラミングされたABCB5(+)細胞は種々の異常(例えば遺伝学的な異常)を処置するために用いられ得、それらは限定なしに鎌状赤血球貧血、パーキンソン病、血友病A、虚血性心疾患などの心疾患、アルツハイマー病、脊髄損傷、脳卒中、熱傷、糖尿病、骨関節炎、および関節リウマチを含む。」(上記ア(イ)【0052】)等と記載されていることから、疾患に対する処置であり、「眼の異常を有する「対象」を治療する」ことを意味すると解される。
これに対して、発明の詳細な説明の記載をみると、上記ア(ウ)のとおり、実施例はいずれもヒト及びマウスのABCB5(+)角膜輪部幹細胞に関するものであり、ヒト角膜輪部上皮細胞から濃縮されたABCB5(+)幹細胞が、角膜上皮幹細胞疲弊症マウスの症状を回復させる能力を有すること(上記ア(ウ)例4)が具体的なデータによって示されるとともに、ABCB5は角膜輪部幹細胞のマーカーであり(上記ア(ウ)例1)、ABCB5ノックアウトマウスは角膜上皮に異常を呈し(上記ア(ウ)例2)、角膜中央上皮創傷後の角膜復元にも異常を呈したこと(上記ア(ウ)例3)も観察されている。
しかしながら、網膜に関しては何ら実施例がないばかりか、例2及び3で用いられたABCB5ノックアウトマウスの網膜組織に異常が見いだされたか否かさえ示されていないので、発明の詳細な説明には、網膜にABCB5(+)細胞が存在することの手がかりとなる実験結果は何ら示されていないといえる。
そこで、発明の詳細な説明の実施例以外の記載について検討すると、「ABCB5(+)網膜幹細胞」について、「同様に、ABCB5(+)網膜色素上皮(RPE)細胞は正常な網膜発生に必要であり、網膜再生の能力がある。」(上記ア(ア)【0003】)、「いくつかの態様では眼の異常は網膜疾患である。いくつかの態様では網膜疾患は黄斑変性である。いくつかの態様では網膜疾患は網膜炎である。いくつかの態様では、単離されたABCB5(+)網膜幹細胞(例えばABCB5(+)RPE幹細胞)が対象に投与されて、角膜疾患を処置する。」(上記ア(ア)【0004】)、「いくつかの態様ではABCB5(+)幹細胞は網膜幹細胞である。ABCB5(+)幹細胞は眼の基底角膜輪部上皮または網膜色素上皮(RPE)から得られる(例えば、単離または誘導され得る)。」(上記ア(イ)【0025】)、「ABCB5(+)眼幹細胞は、基底角膜輪部上皮またはRPEの眼細胞を含む眼組織の試料を単離し、次にABCB5(+)幹細胞を精製することによって対象から得られる。」(上記ア(イ)【0026】)、「いくつかの態様では、ABCB5(+)幹細胞(例えば、ABCB5(+)LSCおよび/またはABCB5(+)RPE幹細胞)が用いられて、網膜疾患、例えば黄斑変性または網膜炎/網膜色素変性症などを処置し得る。」(上記ア(イ)【0032】)といった一般的な記載があるのみで、実施例で示された角膜輪部と同様に、網膜においてもABCB5(+)幹細胞が存在し、ABCB5(+)網膜幹細胞が眼の異常を有する対象を治療できることについて、合理的な説明や根拠は何ら記載されていない。
そして、令和3年3月12日付け拒絶理由通知書、及び令和3年12月24日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)でも指摘したとおり、発生の過程において(幹)細胞に発現するタンパク質の種類や量、あるいはその役割については、組織に応じて異なり得ることが本願出願時の技術常識である。具体的には、角膜は、眼球外膜の前方に位置して外界からの光を屈折・通過させる、無色透明、無血管性の組織であるのに対して、網膜は、眼球内膜に接して、光センサーとしての視細胞、視細胞からの情報を処理する神経細胞である、双極細胞、神経節細胞等が層状構造をなす組織であり、角膜と網膜とは、構造も、それを構成する細胞も機能も大きく異なるのだから(必要であれば、「J.Illum.Engng.Inst.Jpn., 照明学会誌, 1997, Vol.81, No.6, p.488-492」等参照、本願明細書の上記ア(イ)【0042】~【0043】でも同様の内容が記載されている)、当業者であれば、上記技術常識に基づき、実施例に示された角膜輪部上皮から得られる角膜輪部幹細胞と、(存在すると仮定して)網膜色素上皮から得られる網膜幹細胞とは、異なるタンパク質を発現する異なる細胞であると考えるのが自然である。実際、本願出願日前に公開された文献「British Medical Bulletin, 2008, Vol.85, Issue 1, p.47-61」(要約、第52頁「Characterization and isolation of retinal stem cells」、第56頁「Characterization of LESC」等参照)には、角膜については、角膜輪部に上皮細胞の幹細胞が存在しており、同幹細胞の移植治療は、眼に損傷を有する患者に有効である一方で、網膜の再生はより困難性が高く、幹細胞を用いた網膜再生治療は実現されていないこと、及び角膜輪部幹細胞を特徴づけるタンパク質因子は、ビメンチン、ケラチン19、EGF、p63α、PAX6、Shh等であり、網膜幹細胞を特徴づけるタンパク質因子は、Shh、Pax6、bHLH、Chx10、Sox2等である、すなわち、角膜輪部幹細胞と網膜幹細胞は、異なるタンパク質を発現する異なる細胞であることが記載されている。
そうすると、本願出願日の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明には、角膜輪部幹細胞を単離又は濃縮する際に有効であると同定された細胞マーカーであるABCB5が、網膜幹細胞を単離又は濃縮する際にも有効であり、そしてABCB5(+)により濃縮された角膜輪部幹細胞で確認された治療効果が、ABCB5(+)により濃縮された網膜幹細胞でも同様に奏されると当業者が認識できる程度に記載されているとは到底認めることができない。
よって、発明の詳細な説明においては、「少なくとも90%のABCB5(+)網膜幹細胞で構成され」た「単離されたABCB5(+)網膜幹細胞の集団」を提供することができ、さらに当該集団を用いて「作製」した「移植用の眼移植片」を使用して、眼の異常を有する「対象」を処置することができることが、当業者が認識できるようには記載されていないというべきである。
したがって、上記本件補正発明は、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、上記のとおり、「角膜輪部幹細胞を単離又は濃縮する際に有効であると同定された細胞マーカーであるABCB5が、網膜幹細胞を単離又は濃縮する際にも有効である、そしてABCB5(+)により濃縮された角膜輪部幹細胞で確認された治療効果が、ABCB5(+)により濃縮された網膜幹細胞でも同様に奏されると当業者が認識できる程度に記載されているとは到底認めることができない」ところ、「ABCB5(+)網膜幹細胞」に係る発明について、当業者が発明を理解できる程度に開示されているということはできず、発明の詳細な説明は、上記本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
ウ 請求人の主張に対して
請求人は、原審での令和3年9月16日付け意見書において、概ね以下の点を主張している。
従来は、ABCB5(+)幹細胞の集団が眼組織に存在していることは知られておらず、本願によって初めて、このことが発見され、角膜輪部細胞集団を用いることによりこれらABCB5(+)幹細胞の特性が見出されたものであり、かかる細胞の特性と本願明細書の記載に基づけば、当業者は、かかる細胞が眼におけるABCB5(+)眼幹細胞の典型的な代表例に過ぎないことを理解するとともに、ABCB5(+)幹細胞が、角膜や網膜における障害を含む目の疾患や創傷を処置するために用いられ得ることを理解することができる。そして、本願明細書において開示されているデータの他にも、例えば、ABCB5が、眼細胞における新規の前駆細胞マーカーであり、網膜の発生と再生に必須であるといった内容の、本願のデータと整合する網膜組織での実験データが出されている(Ksander et al., IOVS, v.57, No.12, 2016, https://ivos.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2562567)ことからも理解されるように、当業者は、ABCB5(+)眼幹細胞が、角膜輪部細胞に限定されるものでなく、そして、ABCB5(+)眼幹細胞が、網膜および角膜組織の両方の修復に有用であることを認識できるものである。
請求人の上記主張について検討する。
発明の詳細な説明には、網膜についての実施例は記載されておらず、本願出願日当時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明に記載されたABCB5(+)角膜輪部幹細胞についての実施例や網膜についての一般的記載に基づいて、網膜についても同様にABCB5(+)幹細胞が存在し、眼の異常の治療に使用することができる、すなわち、ABCB5(+)網膜幹細胞も課題を解決できると当業者が認識できるとは認められないことは、上記イで述べたとおりである。それにもかかわらず、特許出願後に網膜についての実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、サポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。したがって、請求人が提出した網膜についての実験データ(Ksander et al., IOVS, v.57, No.12, 2016, https://ivos.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2562567)は、発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足するものとして参酌することはできない。
念のため、当該実験データの内容について検討してみても、網膜色素上皮細胞の2~8%がABCB5を発現し、そのような細胞は分化した網膜色素上皮細胞のマーカーであるRPE65を発現しないことやABCB5ノックアウトマウスが網膜異常を呈することを示すにとどまり、ABCB5(+)網膜幹細胞が眼の異常の治療に使用できることを裏付けるものではない。よって、仮に当該実験データの内容を参酌したとしても、本願がサポート要件及び実施可能要件を満たすものと認めることはできない。
以上のとおり、請求人の上記主張は採用できるものではない。
(3)独立特許要件についてのまとめ
したがって、上記(2)に記載したとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものである。
4.補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1~22に係る発明は、令和3年9月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~22に記載の事項により特定される発明であり、そのうち、請求項8に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項8】
対象への移植用の眼移植片を作製する方法であって、単離されたABCB5(+)眼幹細胞の集団を選抜すること、および前記単離されたABCB5(+)眼幹細胞を基質に播種して、眼移植片を作製することを含み、前記ABCB5(+)眼幹細胞の集団は、少なくとも90%のABCB5(+)眼幹細胞で構成されており、任意に、単離されたABCB5(+)眼幹細胞は、単離されたABCB5(+)ヒト眼幹細胞である、前記方法。」
第4 原査定の理由
原査定の理由は、本願の請求項8~9、11~14、19に係る発明は、特許法第36条第6項第1号、及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない、というものである。
第5 当審の判断
本願発明の解決しようとする課題は、請求項8及び本願明細書の記載からみて、眼の異常を有する対象を処置するために使用するABCB5(+)幹細胞を提供すること、であると認められる。
そして、本願発明における「ABCB(+)眼幹細胞」は、「ABCB5(+)角膜輪部幹細胞」に加えて、「ABCB5(+)網膜幹細胞」等、眼組織由来かつABCB(+)である多様な幹細胞を含むものである。
したがって、上記第2の3と同様の理由により、本願発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、発明の詳細な説明は、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
よって、本願は、請求項8に係る発明について、特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、請求項8に係る発明について、特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-006786