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特許拒絶査定不服審判

2022-006412

磁性粉末の製造方法

審判番号
2022-006412
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-177609外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年04月27日
審決日
2022年12月06日
公報発行日
2023年01月27日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WY (B22F) / P18 .121-WY (B22F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-177609「磁性粉末の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 4月 8日出願公開、特開2021- 55133、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

目次 ▾ 9項目
理 由

第1 手続の経緯

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この出願(以下、「本願」ともいう。)は、令和 1年 9月27日の出願であって、令和 3年10月20日付けで拒絶理由が通知され、同年12月20日に意見書、手続補正書が提出されたものの、令和 4年 1月31日付けで拒絶査定がされた。

これに対し、同年 4月27日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年 8月 5日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年10月14日に意見書、手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願請求項1~13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明13」といい、これらを総称して「本願発明」という。)は、令和 4年10月14日に提出された手続補正書によって補正された(以下、当該補正を「本件補正」という。)特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、
(2)前記(1)の工程で得られたアルキルシリケートの混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程、
(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程、および、
続きを表示(全44行)
(4)前記(3)の工程で得られた混合物から緻密なシリカ薄膜が形成された磁性粉末を得る工程を含む磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記SmFeLaN系異方性磁性粉末の粒径が、3.9μm以上6μm以下である請求項1に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記酸性溶液のpHが、3以上4以下である請求項1または2に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記酸性溶液とともに、アルコールを混合する請求項1~3のいずれか1項に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記アルコールの添加量が、前記アルキルシリケート100重量部に対して30重量部以上200重量部以下である請求項4に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記アルキルシリケートの混合量が、前記磁性粉末100重量部に対して1重量部以上4重量部以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
さらに、工程(2)の前に、前記SmFeLaN系異方性磁性粉末をリン酸処理する工程を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
さらに、工程(4)の後に、シランカップリング剤で処理する工程を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
前記SmFeLaN系異方性磁性粉末は、SmとFeとLaとを含む沈殿物から得られる請求項1~8のいずれか1項に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項10】
(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、
(2)前記(1)の工程で得られたアルキルシリケートの混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程、
(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程、
(4)前記(3)の工程で得られた混合物から緻密なシリカ薄膜が形成された磁性粉末を得る工程、および、
(5)前記(4)の工程で得られた磁性粉末と熱可塑性樹脂を混合する工程
を含むボンド磁石用コンパウンドの製造方法。
【請求項11】
前記ボンド磁石用コンパウンドに占める前記SmFeLaN系磁性粉末の含有量が、62体積%以上である請求項10に記載のボンド磁石用コンパウンドの製造方法。
【請求項12】
(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、
(2)前記(1)の工程で得られたアルキルシリケートの混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程、
(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程、
(4)前記(3)の工程で得られた混合物から緻密なシリカ薄膜が形成された磁性粉末を得る工程、
(5)前記(4)の工程で得られた磁性粉末と熱可塑性樹脂を混合する工程、および、
(6)前記(5)の工程で得られた混合物を射出成形する工程
を含むボンド磁石の製造方法。
【請求項13】
(1)アルキルシリケートとアルコールとpHが2以上6以下である酸性溶液を、前記酸性溶液の混合量が前記アルキルシリケート100重量部に対して5重量部以上100重量部以下となるように混合し、白濁から透明に変化した混合液を得る工程、
(2)前記混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程、
(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とpHが9以上13以下であるアルカリ溶液を混合する工程、および、
(4)前記(3)の工程で得られた混合物を60℃以上250℃以下で加熱し、シリカ薄膜が形成された磁性粉末を得る工程、
を含む磁性粉末の製造方法。」

第3 原査定と当審から通知した拒絶理由の概要

1 原査定(令和 4年 1月31日付け拒絶査定)の拒絶理由の概要

理由.(進歩性)この出願の請求項1~10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧

1.特開平8-111306号公報

2.特開2017-117937号公報

3.特開2000-309802号公報

2 令和4年8月5日付けで当審から通知した拒絶理由の概要

理由1(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由2(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断

1 原査定の拒絶理由(進歩性)について

(1)引用文献1の記載事項

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原査定の拒絶理由に引用された上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。(なお、「・・・」は記載の省略を表す。また、下線は当審による。以下同様。)

(1a)「【特許請求の範囲】

【請求項1】 Nd-Fe-B系磁石粉末の表面に二酸化ケイ素の保護皮膜が形成されていることを特徴とする耐食性に優れたボンド磁石用Nd-Fe-B系磁石粉末。

【請求項2】 請求項1記載の磁石粉末を樹脂バインダーで結合したことを特徴とするボンド磁石。

【請求項3】 エチルシリケートを用いたゾル・ゲル反応によりNd-Fe-B系磁石粉末表面に二酸化ケイ素の保護皮膜を形成することを特徴とする耐食性に優れたボンド磁石用Nd-Fe-B系磁石粉末の製造方法。

【請求項4】 ・・・」

(1b)「【発明の詳細な説明】

【0001】

【産業上の利用分野】この発明は、耐食性に優れたボンド磁石用Nd-Fe-B系磁石粉末、この磁石粉末で作製したNd-Fe-B系ボンド磁石、およびボンド磁石用Nd-Fe-B系磁石粉末の製造方法に関するものである。

【0002】

【従来の技術】一般に、Nd-Fe-B系磁石粉末を樹脂バインダーで結合して所定の寸法形状に成形したNd-Fe-B系ボンド磁石は比較的安価で高い磁気特性を有するとともに、寸法精度が高く、薄肉で複雑な形状の磁石に容易に製造できるところから、電気電子機器に広く使用されている。

【0003】しかしながら、一般にNd-Fe-B系磁石粉末は酸化しやすく、このため多湿高温環境下で保存することができないのは勿論のこと、このNd-Fe-B系磁石粉末を樹脂バインダーで結合したボンド磁石を上記多湿高温環境下で使用しても酸化し、磁気特性が大幅に低下することは避けられなかった。

【0004】この対策として、Nd-Fe-B系磁石粉末表面にポリオレフィン、ポリスチレン等の高分子保護皮膜を形成し、耐食性の改善を図ることが提案されている(特開平4-257202号公報参照)。

【0005】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記高分子保護皮膜は、(a) 100°C程度の比較的低温で熱劣化を起こして急速に防食性を失うため、多湿、高温の環境下での使用に限界がある、(b) O 2 やH2 Oに対するバリヤー性が十分でないために、通常10μm以上の厚膜とする必要があるが、このような厚膜にすると実効的なボンド磁石中での磁石粉末の体積分率が下がり、ボンド磁石の磁気特性を低下させる、などの課題があった。

【0006】

【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明者等は、かかる課題を解決するべく研究を行った結果、(イ) 二酸化ケイ素(以下、SiO 2 で示す)皮膜は、Nd-Fe-B系ボンド磁石の使用温度範囲内の高温環境下でも物性に変化がなく、したがって高温環境下における防食性の低下はない、(ロ) SiO 2 皮膜は、高分子皮膜に比べてO2 やH2 Oに対するバリヤー性が高く、またNd-Fe-B系磁石粉末に対する密着性もよく、従って、Nd-Fe-B系磁石粉末に対する保護皮膜としては高分子皮膜よりも薄くすることができ、このSiO2 皮膜を形成した磁石粉末を用いて作製したボンド磁石は高分子皮膜を形成した磁石粉末を用いて作製したボンド磁石に比べて磁石粉末の体積分率を向上させることができるので、ボンド磁石の磁気特性を向上させることができる、などの研究結果が得られたのである。」

(1c)「【0010】この発明の耐食性に優れたボンド磁石用Nd-Fe-B系磁石粉末のSiO2保護皮膜は、下記の方法で形成する。

【0011】(I) エチルシリケートを用いたゾル・ゲル反応によるSiO2 保護皮膜の形成方法。

【0012】先ず、Si(OC2 H5 )4 (テトラエチルオルトシリケート)のアルコール溶液に加水分解反応の触媒として少量の酸を添加したのち、撹拌し放置すると化1に示される加水分解が起きる。

【0013】

【化1】

[図:0001392972000001.jpg]

【0014】この加水分解が起きた溶液をさらにアルコールで希釈する。この希釈された溶液濃度はSiO2 換算で0.1~5wt%となるように希釈することが好ましい。その理由は、溶液中のSiO2 換算濃度が0.1wt%未満では連続した皮膜の形成が困難であり、またSiO2 換算濃度が5wt%を越えると皮膜の厚さが2μmよりも厚くなり、磁性体の体積分率が下がり、ボンド磁石の磁気特性が落ちるとともに、それ以降の工程の加熱処理時に皮膜に割れが入り、かえって耐食性改善効果が減少するからである。

【0015】このようにして作成した溶液に、Nd-Fe-B系磁石粉末を浸漬し、ろ別後室温で撹拌しながら乾燥すると、磁石粉末の表面にSi(OH)4 モノマーの皮膜が一様に形成され、このSi(OH)4 モノマー皮膜が形成された磁石粉末を加熱するとSi(OH)4 モノマーが縮合反応し、磁石粉末の表面に緻密で連続したSiO2 皮膜が形成される。

【0016】上記Si(OH)4 モノマーに縮合反応を起こさせる加熱雰囲気は、真空またはAr,N2 などの不活性ガス雰囲気が好ましく、その加熱温度は80~500℃が好ましい。縮合反応を促進するためには80℃以上の温度が必要であり、また磁石粉末の金属組織変化が起こらないためには500℃以下であることが望ましい。

・・・

【0019】したがって、この発明は、(4) エチルシリケートを用いたゾル・ゲル反応により、またはプラズマ化学蒸着法により、Nd-Fe-B系磁石粉末表面に二酸化ケイ素の保護皮膜を形成する耐食性に優れたボンド磁石用Nd-Fe-B系磁石粉末の製造方法に特徴を有するものである。

【0020】この発明のSiO2 皮膜を形成するためのNd-Fe-B系磁石粉末は、粉砕磁石粉末、液体急冷法による等方性磁石粉末、水素処理による異方性磁石粉末のいずれの粉末でもよいが、特に耐食性が劣る粉砕磁石粉末または水素処理磁石粉末に適用すると効果がある。」

(1d)「【0021】上記(I)および(II)の方法で得られたこの発明のSiO2 皮膜を有するNd-Fe-B系磁石粉末をナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどの熱可塑性樹脂と混合し、この混合物を射出成形または押出成形してボンド磁石を作製することができる。」

(1e)「【0024】

【実施例】プラズマアーク溶解してNd:12.6at%、Co:11.6at%、B:6.0at%、Ga:1.0at%、Fe:残部からなる組成のインゴットを作製し、このインゴットにAr雰囲気中、温度:1120℃、20時間保持したのちArガスで急冷の均質化焼鈍を施し、この均質化焼鈍したインゴットをジョークラッシャにより10mm角以下に粗粉砕し、この粗粉砕したものを真空炉に装入し、真空炉内の雰囲気を1気圧のH2 フロー雰囲気とし、真空炉内の温度を830℃まで昇温し、同温度で3時間保持したのち真空排気を行い、1×10-2Torrの真空度となるまで脱水素を行なったのち直ちにArガスにより急冷し、ブラウンミルにより粉砕し、平均粒度:約100μmのNd-Fe-B系磁石粉末を作製した。

【0025】実施例1

テトラエチルオルトシリケート(以下、TEOSと記す)をイソプロピルアルコールで溶解し、40.9wt%TEOSアルコール溶液を作製し、この40.9wt%TEOSアルコール溶液に対して、触媒として0.3wt%硝酸水溶液を7.1wt%添加し撹拌したのち24時間放置した。

【0026】このようにして得られた溶液をイソプロピルアルコールで21倍に希釈し、SiO2 換算で0.5wt%の表面処理溶液を作製した。

【0027】上記平均粒度:約100μmのNd-Fe-B系磁石粉末を上記表面処理溶液に浸漬し、ろ別したのち室温で撹拌しながら乾燥し、上記Nd-Fe-B系磁石粉末表面にSi(OH)4 皮膜を形成し、ついで2×10-5Torrの真空雰囲気中、温度:250℃で1時間加熱し、SiO2 平均膜厚:1μmの本発明磁石粉末1を作製した。

【0028】この本発明磁石粉末1に対して2.5wt%のビスマレイミドトリアジン樹脂を添加し混合したのち、配向磁界15KOeを圧縮方向と平行に印加しながら圧力:6ton /cm2 で常温圧縮成形して直径:10mm、高さ:7mmの成形体を作製し、この成形体をAr気流中、温度:150℃、30分保持の条件で樹脂硬化させ、本発明ボンド磁石1を作製した。

・・・

【0031】従来例1~3

ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンをそれぞれキシレンに溶解させて樹脂濃度を調整し、溶液の粘度を500センチポイズに調整した。これら各種溶液に上記Nd-Fe-B系磁石粉末を浸漬した後、ろ別して緩やかに撹拌しながらブロワーで乾燥し、平均膜厚:15μmのポリエチレン皮膜を形成した従来磁石粉末1、平均膜厚:15μmのポリプロピレン皮膜を形成した従来磁石粉末2および平均膜厚:15μmのポリスチレン皮膜を形成した従来磁石粉末3をそれぞれ作製した。さらにこれら従来磁石粉末1,2および3を用い、実施例1と同様にして、それぞれ従来ボンド磁石1,2および3を作製した。

【0032】上記実施例1~2および従来例1~3で得られた本発明磁石粉末1~2および従来磁石粉末1~3をそれぞれ10g秤量し、この本発明磁石粉末1~2および従来磁石粉末1~3を大気中、温度:65℃、温度:95%の多湿高温雰囲気に500時間保持し、再び重量を測定し、その差を酸化量として求め、表1に示した。

【0033】

【表1】

[図:0001392972000002.jpg]

」

【0034】表1に示される結果から、平均膜厚1μmのSiO2 皮膜を形成した本発明磁石粉末1~2は、平均膜厚:15μmのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン皮膜をそれぞれ形成した従来磁石粉末1~3に比べて重量差が少ないところから耐食性に優れていることがわかる。

【0035】さらに、本発明ボンド磁石1~2および従来ボンド磁石1~3について50KOeのパルス着磁を施したのち、オープンフラックスを磁束計を用いて引き抜き法により測定し、また磁気特性をBHカーブトレーサを用いて最大印加磁界20KOeで測定し、その結果を表2に示した。

【0036】これら測定が終ったのち再び50KOeのパルス着磁を施したこれらボンド磁石を80℃、95%RHに保った恒温恒湿槽に装入し、500時間保持したのち取り出して外観の発錆状態を観察し、さらにオープンフラックスを測定し、恒温恒湿槽装入前後の減少率を求めてその結果を表2に示し、耐食性の評価を行った。さらに本発明ボンド磁石1~2および従来ボンド磁石1~3について、130℃に保持された恒温槽に装入し、500時間保持したのち取り出して恒温槽装入前後のオープンフラックスを測定し、その減少率を求めてその結果を表2に示し、耐熱性の評価を行った。

【0037】

【表2】

[図:0001392972000003.jpg]

【0038】表2に示される結果から、本発明磁石粉末1~2で作製された本発明ボンド磁石1~2はいずれも従来磁石粉末1~3で作製された従来ボンド磁石1~3に比べて耐食耐熱性に優れていることがわかる。」

(1f)「【0039】

【発明の効果】上述のように、この発明の製造方法で作製したSiO2 皮膜を有するこの発明のボンド磁石用Nd-Fe-B系磁石粉末は、従来の高分子皮膜を有するNd-Fe-B系磁石粉末よりも磁気特性および耐食耐熱性に優れたボンド磁石を製造することができ、電気電子産業の発展に大いに貢献しうるものである。」

(2)引用文献1に記載された発明

ア 上記(1)によれば、引用文献1には、二酸化ケイ素の保護皮膜を備えたNd-Fe-B系磁石粉末の製造方法が記載されている(請求項1等)。

その製造方法とは、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)のアルコール溶液に、加水分解反応の触媒として少量の酸を添加したのち、撹拌し放置するとTEOSの加水分解が起き(【0012】)、この加水分解が起きた溶液をさらにアルコールで希釈して作成した溶液に、Nd-Fe-B系磁石粉末を浸漬し、ろ別後室温で撹拌しながら乾燥すると、上記磁石粉末の表面にSi(OH)4 モノマーの皮膜が一様に形成され、このSi(OH)4 モノマー皮膜が形成された磁石粉末を加熱すると、Si(OH)4 モノマーが縮合反応し、磁石粉末の表面に緻密で連続したSiO2 皮膜が形成される(【0014】~【0015】)という現象を利用した、エチルシリケートを用いたゾル・ゲル反応により、異方性のNd-Fe-B系磁石粉末表面に二酸化ケイ素の保護皮膜を形成する方法である(【0019】)。

イ 上記製造方法として、具体的に、実施例1の製造方法に注目する。

まず、TEOSをイソプロピルアルコールで溶解してTEOSアルコール溶液を作製し、このTEOSアルコール溶液に対して、触媒として硝酸水溶液を添加し撹拌したのち24時間放置し、このようにして得られた溶液をイソプロピルアルコールで21倍に希釈して表面処理溶液を作製する。

次に、Nd-Fe-B系磁石粉末を上記表面処理溶液に浸漬する。

次に、Nd-Fe-B系磁石粉末を浸漬した上記表面処理溶液を、ろ別したのち室温で撹拌しながら乾燥し、上記Nd-Fe-B系磁石粉末表面にSi(OH)4 皮膜を形成し、ついで2×10-5Torrの真空雰囲気中、温度:250℃で1時間加熱する。

以上の工程により、SiO2 平均膜厚:1μmの磁石粉末が作製された(【0025】~【0027】)。ここで、平均膜厚が1μmであるSiO2は、二酸化ケイ素の保護皮膜を意味している。

ウ したがって、引用文献1には、実施例1に注目すると、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>

「(1)テトラエチルオルトシリケートのイソプロピルアルコール溶液に硝酸水溶液を添加し撹拌し24時間放置し、さらにイソプロピルアルコールで希釈して表面処理溶液を作製する工程、
(2)得られた表面処理溶液にNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬する工程、
(3)得られたNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬した溶液を、ろ別したのち室温で撹拌しながら乾燥し、ついで2×10-5Torrの真空雰囲気中、温度:250℃で1時間加熱する工程、および、
(4)前記(3)の工程により、平均膜厚が1μmである二酸化ケイ素の保護皮膜を形成した磁石粉末を作製する工程を含む磁石粉末の製造方法。」

(3)引用文献2の記載事項

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原査定の拒絶理由に引用された上記引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【発明が解決しようとする課題】

・・・

【0007】

本発明は、磁気特性が良く、耐熱性のある希土類-鉄-窒素系の異方性磁性粉末およびその製造方法を提供することを課題とする。」

(2b)「【0060】

得られたスラリーに対して、リン酸溶液を加えた。

リン酸溶液を、磁性粒子固形分に対してPO4として1wt%分投入した。

5分攪拌後、固液分離した後80℃で真空乾燥を3時間行い磁性粉末を得た。得られた磁性粉末はSm9.2Fe77.1N13.59La0.11で表された。」

(4)引用文献3の記載事項

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原査定の拒絶理由に引用された上記引用文献3には、以下の事項が記載されている。

(3a)「【発明の詳細な説明】

【0001】

【産業上の利用分野】本発明は希土類系磁性粉末の粒子表面にシリカの薄膜を形成することにより磁性粉末の耐酸化性を改良する技術に関する。

【0002】

【従来の技術】現在、高磁気特性を有する希土類磁石は、磁石の小型化、小片化を可能にし、それを組み込んだ通信機器、情報処理機器といったエレクトロニクス製品の小型化に欠くことのできない材料となっている。特に、希土類ボンド磁石は優れた形状加工性を有し、薄肉微小への成形が可能であることからその使用量は益々増加の一途をたどっている。

【0003】代表的な希土類ボンド磁石には、Sm-Co系、Nd-Fe-B系、Sm-Fe-N系の磁性材料を使用し、これらはそれぞれ高い磁気特性を有している。ところが、これら希土類磁石は希土類元素を構成成分に含み、希土類元素は酸化されやすい元素であることから、基本的にそれを組成に含んだ希土類磁石は酸化されやすい。従って、実用性のある希土類ボンド磁石を得るためには、基本的には耐酸化性を克服しなければならない。

・・・

【0006】

【発明が解決しようとする課題】従って、本発明は上述した問題を解決することを目的として成され、希土類磁性粉末の耐酸化性を改良すると同時に、耐酸化性を改良しても磁気特性を低下しない、また樹脂等との混練時の高温高圧の環境に影響されない高品質な希土類系磁性粉末を得ることを目的としている。」

(3b)「【0007】

【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した課題を解決するためには、希土類磁性粉末の粒子表面に、耐酸化作用のある被覆物を従来の方法よりもさらに均一に被覆することで解決できると考え、種々の被覆材について鋭意検討したところ、エチルシリケートに代表されるアルキルシリケート(ケイ酸エステル化合物、シリコンアルコキシドともいう)を塩基性触媒下で加水解したときに得られるシリカゾルを不活性雰囲気中で希土類磁性粉末に均一混合し、それを加熱することでさらに縮合を進行し、強固で緻密なコロイド状のシリカの膜が形成され、そのシリカ膜に著しい耐酸化性の効果があることを見いだした。

【0008】すなわち、本発明の希土類系磁性粉末は、希土類系磁性粉末の粒子表面に、アルキルシリケートが水分解して得られるシリカが薄膜状に付着していることを特徴とする。

【0009】本発明の希土類磁性粉末の表面処理方法は、組成中に希土類元素を含有する合金または金属間化物からなる希土類系磁性粉末の表面にシリカ被膜を形成する方法において、該磁性粉末に塩基を触媒とするアキルシリケートの加水分解から生成するシリカゾルを混合し、不活性雰囲気中で加熱を行うことを特徴とする。」

(3c)「【0012】<アルキルシリケートの加水分解と塩基性触媒>本発明の最も特徴的なのは、アルキルシリケートの加水分解を塩基性触媒中で行うことである。塩基性水溶液のアルキルシリケートの加水分解、縮合反応メカニズムは、酸性水溶液のそれと根本的に違うことが知られている。塩基性水溶液の場合、アルキルシリケートのアルコキシ基が同時に水酸基に置換される。そのため、Siからシロキサン結合が三次元的に成長し、凝縮した網目構造のシリカゾルが形成される。塩基性触媒としてアンモニア、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、あるいは水酸化物が塩基性を呈する水酸化金属を使用することができるが、アンモニアは後の加熱工程ですべて揮発し残留しないことから最も好ましく使用できる。塩基性触媒下のアルキルシリケートの加水分解及び縮合反応は、広範囲で起こるが、本発明において特に水素イオン濃度(pH)が7.5以上の塩基性が好ましく、特に、8~13の範囲がより好ましい。」

(3d)「【0030】

【作用】希土類磁石粉末表面にシリカの緻密な三次元的な縮重合体が形成されることで縮重合体を熱処理してシリカにゲル化する際、粉末に対し圧縮応力が働くように皮膜が形成される。これは耐酸化性や耐食性の向上はもちろん、皮膜が粒子に強固に接着し、樹脂結合磁石の製造プロセス中におけるコーティングの脱落が激減する。

【0031】緻密なシリカ膜が密着して付着していることで、粒子の表面積がほとんど変化せず、樹脂と混練する際に樹脂への分散性や流動性に有利に働く。樹脂への最適な分散性を選るにはシランカップリング剤等のカップリング処理も必要であるが、シリカ膜が均一で平滑であるため、カップリング剤の必要量は少なくすることができる。」

(3e)

「【0032】
【実施例】[実施例1]ミキサに、平均粒径3μmのSm2Fe17N3系磁性粉末300g、エチルシリケート(n=5)を2.5g噴霧添加して、窒素ガス中1分間混合した。その後、pHが12に調整されたアンモニア1.08gとエタノール3.24gの混合溶液を噴霧添加し、ミキサで窒素ガス中1分間混合した。本発明に使用するミキサは磁性粉末が十分流動するものであれば特に問わない。混合分散が終了するとミキサから磁性粉末を取り出し、減圧下230℃で30分間加熱処理し、Sm2Fe17N3系磁性粉末シリカ薄膜が形成された。
【0033】得られたシリカ被覆された磁性粉末について、XPS(X線光電子分光法)による表面分析を行ったところ、任意の位置に103.5eV付近にピークが観測され、二酸化ケイ素のSi2Pの束縛エネルギーと一致した。このことから、本法で確かにシリカの被覆が成されていることが確認された。この粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図2に示すようであり、図3に示す何も被覆しないものと外観の差はなかった。従って、Sm2Fe17N3磁性粉末の粒子表面には粒子状のシリカを観察されず、このことから上記処理により生成したシリカは粒子状ではなく均一な薄膜状に形成されていると結論される。
【0034】また、得られた粉末のBET法よる比表面積を測定したところ0.7m2/gであり、これはシリカ被覆する前の磁性材料の0.6m2/gに対し1.2倍増加している程度であった。すなわち、シリカ被覆により比表面積の増加はそれほど大きな物ではない。
・・・
【0045】[比較例2]テトラエトキシシランをイソプロピルアルコールに溶解して、50wt%テトラエトキシイランーイソプロピルアルコール溶液を得た。この溶液に対して、酸触媒として、0.3wt%の硝酸水溶液を7wt%添加攪拌し24時間放置した。この溶液をイソプロピルアルコールで20倍に希釈し表面処理溶液を得た。
【0046】この表面処理溶液に、平均粒径3μmのSm2Fe17N3系磁性粉末を浸潰し攪拌した。その後ろ過して室温で乾燥した後、減圧下250℃で1時間加熱することでシリカ被覆した磁性粉末を得た。
【0047】得られたシリカ被覆された磁性粉末について、XPS(X線光電子分光法)による表面分析を行ったところ、任意の位置に103.5eV付近にピークが観測され、二酸化ケイ素Si2Pの束縛エネルギーと一致した。この粉末をSEMで観察したところ、図4に示すように、Sm2Fe17N3磁性粉末の粒子表面には0.1μm程度の微粒子のシリカが観察された。このことから上記処理により生成したシリカは粒子状のシリカが被覆していると結論される
【0048】また、得られた粉末のBET法よる比表面積を測定したところ1.3m2/gであり、これはシリカ被覆する前の磁性材料の0.6m2/gに対し2.2倍に増加していた。この方法によるシリカ被覆は粒子状であるため比表面積は大幅に増加したと結論できる。」

(3f)

「【0064】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の希土類磁性粉末の表面処理方法に従うと、希土類磁性粉末の耐酸化性を改良すると同時に、耐酸化性を改良しても磁気特性を低下しない。また樹脂等との混練時の高温高圧の環境に影響されない高品質な希土類系磁性粉末を及びボンド磁石を得ることができる。」

(3g)

【図2】

[図:0001392972000004.jpg]

【図3】

[図:0001392972000005.jpg]

【図4】

[図:0001392972000006.jpg]

(5)本願発明1について

ア 本願発明1と引用発明の対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

(ア) 引用発明の「テトラエチルオルトシリケート」は、4つのOC2 H5 基を備えるシリケートであるから、「アルキルシリケート」の一種であり、「テトラエチルオルトシリケートのイソプロピルアルコール溶液に硝酸水溶液を添加し撹拌し24時間放置し、さらにイソプロピルアルコールで希釈」することで、「テトラエチルオルトシリケート」と「硝酸水溶液」とが混合するといえる。また、本願発明1の(1)の工程は、本願発明1を引用する本願発明4で特定されているように、アルコールを混合することを許容するものであるから、引用発明の「(1)テトラエチルオルトシリケートのイソプロピルアルコール溶液に硝酸水溶液を添加し撹拌し24時間放置し、さらにイソプロピルアルコールで希釈する工程、」は、本願発明1の「(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、」に相当する。

(イ) 引用発明の(2)の工程において特定される「得られた表面処理溶液」は、アルキルシリケート(テトラエチルシリケート)を含有する混合液であるから、本願発明1の(2)の工程において特定される「前記(1)の工程で得られたアルキルシリケートの混合液」に相当する。

(ウ) 引用発明の(2)の工程において特定される「Nd-Fe-B系異方性磁石粉末」と、本願発明1の(2)の工程において特定される「SmFeLaN系異方性磁性粉末」とは、「異方性磁性粉末」である点で共通する。

(エ) 上記(イ)と(ウ)の検討を踏まえれば、引用発明の「(2)得られた表面処理溶液にNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬する工程」は、浸漬することによって表面処理溶液とNd-Fe-B系異方性磁石粉末が混合されることになるので、本願発明1の「(2)前記(1)の工程で得られたアルキルシリケートの混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程」とは、「(2)前記(1)の工程で得られたアルキルシリケートの混合液と異方性磁性粉末を混合する工程」の点で共通する。

(オ) 引用発明の「(3)得られたNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬した溶液を、ろ別したのち室温で撹拌しながら乾燥し、ついで2×10-5Torrの真空雰囲気中、温度:250℃で1時間加熱する工程」は、「得られたNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬した溶液」が(2)の工程で得られた磁石粉末の混合物であるといえるから、本願発明1の「(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程」とは、「(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物を処理する工程」の点で共通する。

(カ) 引用発明の「(4)前記(3)の工程により、平均膜厚が1μmである二酸化ケイ素の保護皮膜を形成した磁石粉末を作製する工程」と本願発明1の「(4)前記(3)の工程で得られた混合物から緻密なシリカ薄膜が形成された磁性粉末を得る工程」は、「(4)前記(3)の工程で得られた処理物から薄膜が形成された磁性粉末を得る工程」である点で共通する。

(キ) 引用発明の「磁石粉末の製造方法」は、本願発明1の「磁性粉末の製造方法」に相当する。

(ク) してみると、本願発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>

「(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、
(2)前記(1)の工程得られたアルキルシリケートの混合液と異方性磁性粉末を混合する工程、
(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物を処理する工程、および
(4)前記(3)の工程で得られた処理物から薄膜が形成された磁性粉末を得る工程を含む磁性粉末の製造方法。」

<相違点1>

(2)の工程で用いられる「異方性磁性粉末」が、本願発明1では、「SmFeLaN系異方性磁性粉末」であるのに対して、引用発明では、「Nd-Fe-B系異方性磁石粉末」である点。

<相違点2>

(3)の工程において「工程(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物」に対する「処理」が、本願発明1では、「アルカリ溶液を混合する」ことであるのに対して、引用発明では、「ろ別したのち室温で撹拌しながら乾燥し、ついで2×10-5Torrの真空雰囲気中、温度:250℃で1時間加熱する」ことである点。

<相違点3>

(4)の工程において「前記(3)の工程で得られた処理物から」「形成された」「薄膜」が、本願発明1では「緻密なシリカ薄膜」であるのに対して、引用発明では「平均膜厚が1μmである二酸化ケイ素の保護皮膜」である点。

イ 相違点についての判断

(ア) 事案に鑑み、相違点2について検討する。

引用発明は、「(1)テトラエチルオルトシリケートのイソプロピルアルコール溶液に硝酸水溶液を添加し撹拌し24時間放置し、さらにイソプロピルアルコールで希釈して表面処理溶液を作製する工程」において、硝酸の触媒作用によってテトラエチルオルトシリケートを加水分解し、「(2)得られた表面処理溶液にNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬する工程」において、磁石粉末の表面にSi(OH)4 皮膜を形成し、「(3)得られたNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬した溶液を、ろ別したのち室温で撹拌しながら乾燥し、ついで2×10-5Torrの真空雰囲気中、温度:250℃で1時間加熱する工程」において、ろ別後室温で撹拌しながら乾燥することによって、磁石粉末の表面に形成されたSi(OH)4 皮膜を加熱して縮合反応させることにより、磁石粉末の表面に緻密で連続した二酸化ケイ素の保護皮膜を形成するものであるから、二酸化ケイ素の保護皮膜を備えたNd-Fe-B系磁石粉末を製造するにあたって、テトラエチルオルトシリケートの加水分解反応のための触媒として酸を使用している一方、Si(OH)4 皮膜の縮合反応は乾燥及び加熱により行っており、縮合反応を促進するための触媒は用いていないものである。

(イ) したがって、引用発明は、磁石粉末の表面に一様に形成されたSi(OH)4 皮膜を乾燥及び加熱することによって、何の問題もなく縮合反応を行って二酸化ケイ素の保護皮膜を形成しているものであるから、仮に、アルカリ溶液によって脱水縮合反応を行うことが当業者にとって周知の技術事項であるとしても、引用発明において乾燥及び加熱による縮合反応を行う、溶液を使用しない工程に代えて、アルカリ溶液による処理を行う工程を採用する動機があるとはいえない。

(ウ) なお、アルカリ溶液を触媒として用いる処理に関して、引用文献3には以下に示すように、塩基性触媒であるアンモニア水を用いて磁性粉末にシリカ被膜を形成する方法が記載されているので、拒絶査定の理由とはなっていないが、引用発明において引用文献3の記載に基いて相違点2に係る本願発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるかを追加的に検討する。

(エ) 上記(4)で引用した引用文献3の記載によれば、引用文献3に記載された発明は、塩基性水溶液のアルキルシリケートの加水分解、縮合反応メカニズムが、酸性水溶液のそれと根本的に違い、アルキルシリケートのアルコキシ基が同時に水酸基に置換されるため、Siからシロキサン結合が三次元的に成長し、凝縮した網目構造のシリカゾルが形成されるということに着目して(【0012】)、アルキルシリケートの加水分解を塩基性触媒下で行い、得られるシリカゾルを不活性雰囲気中で希土類磁性粉末に均一混合し、それを加熱することでさらに縮合を進行し、強固で緻密なコロイド状のシリカの膜を形成するものであって(【0007】)、引用文献3に記載された発明によれば、希土類磁性粉末の耐酸化性を改良すると同時に、耐酸化性を改良しても磁気特性を低下しない高品質な希土類磁性粉末を得ることができる(【0064】)。

具体的には、例えば、実施例1では、シリカの膜の形成にあたり、アルキルシリケートの加水分解のために塩基性触媒(アンモニアとエタノールの混合溶液)を用いることで、粒子状ではなく均一な薄膜状のシリカの膜が得られるのに対し(【0032】~【0034】)、比較例2では、テトラエトキシシランのアルコール溶液に対して酸触媒(硝酸水溶液)を添加して攪拌、放置して、アルコール希釈することで表面処理溶液を得、上記表面処理溶液に磁性粉末を浸漬し撹拌し、その後ろ過して室温で乾燥した後、減圧下250℃で1時間加熱する方法で形成したシリカ被覆は、粒子状のシリカ被覆であった(【0045】~【0048】)。

(オ) 上記(エ)の引用文献3の記載事項を参照すれば、引用発明は工程(1)においてアルキルシリケートの加水分解を酸触媒である硝酸水溶液を用いて行っているので、形成されるシリカ被膜は粒子状の被膜であり、均一な薄膜状にはならず、耐酸化性の劣るものとなるおそれがあることがわかるから、引用発明において、磁石粉末の耐酸化性(耐食性)を向上するために、工程(1)の加水分解の触媒を酸触媒である硝酸水溶液に代えてアンモニアとエタノールの混合溶液等の塩基性触媒とすることは、当業者が容易になし得ることであるということができる。

(カ) しかし、このように引用発明を変更したとしても、引用発明の(1)の工程において用いられている加水分解の触媒としての酸触媒である硝酸水溶液を、塩基性触媒に置き換えることができるといえるにとどまり、依然として相違点2に係る、本願発明1の「(3)得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程」なる特定事項が充足されることにはならない上に、酸触媒を塩基性触媒に置き換えるのであるから、一致点であった(1)の工程が新たな相違点となる。

(キ) したがって、引用発明において引用文献3の記載に基いて相違点2に係る本願発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるとはいえない。

(ク) また、原査定の拒絶理由に引用された引用文献2には、SmFeLaN系異方性磁性粉末について記載されているものの、アルキルシリケートを用いて上記磁性粉末の表面にシリカ被膜を形成することについて記載されておらず、シリカ被膜を形成する際に使用される触媒についても記載されていないから、引用文献2には、相違点2に関係する事項は記載されていない。

(ケ) さらに、引用文献1~3のいずれにも、加水分解を酸触媒下で行い、その後、縮合反応を塩基性触媒下で行うということは記載されておらず、また、当該事項が当業者に周知の技術であるともいえないから、この点からも、相違点2に係る本願発明1の特定事項に到達し得るものとはいえない。

(コ) したがって、引用発明において、引用文献1~3の記載に基いて、相違点2に係る本願発明1の特定事項とすることは、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(サ) よって、相違点1、3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明と、引用文献1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(シ) なお、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例等が示すとおり、本願発明1は、「(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、(2)前記(1)の工程で得られたアルキルシリケートの混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程、(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程、および、(4)前記(3)の工程で得られた混合物から緻密なシリカ薄膜が形成された磁性粉末を得る工程を含む磁性粉末の製造方法」を採用したことにより、磁性粉末表面に緻密性の高いシリカ被膜を有する残留磁化の高い希土類磁性粉末およびそれら希土類磁性粉末を含んだボンド磁石用コンパウンドを提供することができるという優れた効果を奏するものである(【0009】参照。)。

(ス) また、本願発明の奏する上記効果について、令和 3年12月20日に提出された意見書の「(3)本願発明について」には、以下の記載がある。

「本願発明は、SmFeLaN系異方性磁性粉末にシリカの薄膜を形成する際に、アルキルシリケートを酸性溶液と混合して加水分解させた後に、アルカリ溶液を添加して脱水縮合させることを特徴とします。酸性条件下での加水分解の後に、酸性条件とは異なるアルカリ条件下で脱水縮合を行うことによって、残留磁化の高い磁性粉末を作製できるとともに、残留磁束密度の高いボンド磁石を作製することができます。
本願発明の具体的な効果を説明するために、以下の実験を行いました。
比較実験例1(アルカリ条件下で加水分解と脱水縮合)
本願明細書の実施例1の[Si被膜工程]において、酢酸酸性溶液0.4gの代わりに、pH11.7のアンモニア水(アンモニア含量10%)0.6gを使用して加水分解し、pH12のアンモニア水2.4gを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に行って磁性粉末とボンド磁石を作製した。
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比較実験例2(酸性条件下で加水分解と脱水縮合)
本願明細書の実施例1の[Si被膜工程]において、pH12のアンモニア水2.4gを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に行って磁性粉末とボンド磁石を作製した。
各比較実験例で作製した磁性粉末とボンド磁石を用い、本願明細書の実施例に記載した評価方法により、物性を測定した。測定結果を、実施例1の評価結果とともに表1に示す。
[表1]
[図:0001392972000007.jpg]
表1の結果から、アルカリ条件下で加水分解と脱水縮合を行った場合、比較実験例1のように、残留磁化σrが136.1emu/gの磁性粉末しか得られず、また、残留磁束密度Brが7961Gのボンド磁石しか得られません。酸性条件下で加水分解と脱水縮合を行った場合、比較実験例2のように、残留磁化σrは比較実験例1の磁性粉末よりもさらに低下し、125.9emu/gの磁性粉末しか得られません。なお、磁性粉末の残留磁化σrが低いため、比較実験例2では、ボンド磁石の評価は行っていません。
一方、酸性条件下で加水分解し、アルカリ条件下で脱水縮合させると、実施例1に示すように、残留磁化σrが144.3.1emu/gに大きく向上した磁性粉末が得られ、残留磁束密度Brも8835Gに大きく向上したボンド磁石が得られます。
これらの実験結果から、磁気特性の向上という本願発明の効果をご理解いただけるものと思います。」

上記意見書の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明の【0009】に記載されていた、「本発明の磁性粉末の製造方法では、SmFeLaN系異方性磁性粉末を使用し、酸性条件でアルキルシリケートを加水分解した後に、磁性粉末の存在下、塩基性条件で脱水縮合を行うため、希土類磁性粉末表面に緻密性の高いシリカ被膜を有する残留磁化の高い希土類磁性粉末およびそれら希土類磁性粉末を含んだボンド磁石用コンパウンドを提供することができる。」という効果を比較実験例と対比して説明するために、提示されたものといえる。

そして、上記意見書の記載によれば、酸性条件でアルキルシリケートを加水分解した後に、磁性粉末の存在下、塩基性条件で脱水縮合を行う、本願発明1に係る実施例1は、アルカリ条件下で加水分解と脱水縮合を行う比較実験例1、又は酸性条件下で加水分解と脱水縮合を行う比較実験例2のいずれよりも、CP粉の残留磁化が高く又はボンド磁石の残留磁束密度が高く、磁気特性が向上する効果が得られているところ、このような効果は当業者が予測することができた効果であるとはいえない。

(6)本願発明2~9について

本願発明2~9は、本願発明1を引用することによって本願発明1の特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明と、引用文献1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)本願発明10~12について

本願発明10、12は、いずれも、

「(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、
(2)前記(1)の工程で得られたアルキルシリケートの混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程、
(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程、
(4)前記(3)の工程で得られた混合物から緻密なシリカ薄膜が形成された磁性粉末を得る工程」

という、本願発明1と同一の特定事項を備えており、本願発明10、12と引用発明を対比すると、少なくとも、上記相違点1~3と同じ点で相違しているところ、本願発明1について検討した理由と同様の理由によって、引用文献1~3の記載を参照しても、相違点2に係る本願発明10、12の特定事項に到達し得るものとはいえない。

したがって、相違点1、3やその他の相違点について検討するまでもなく、本願発明10、12は、引用発明と、引用文献1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本願発明11は、本願発明10を引用することによって本願発明10の特定事項を備えるものであるから、本願発明10と同様の理由により、引用発明と、引用文献1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(8)本願発明13について

ア 本願発明13と引用発明の対比

本願発明13と引用発明とを対比する。

(ア) 引用発明の「(1)テトラエチルオルトシリケートのイソプロピルアルコール溶液に硝酸水溶液を添加し撹拌し24時間放置し、さらにイソプロピルアルコールで希釈して表面処理溶液を作製する工程」と、本願発明13の「(1)アルキルシリケートとアルコールとpHが2以上6以下である酸性溶液を、前記酸性溶液の混合量が前記アルキルシリケート100重量部に対して5重量部以上100重量部以下となるように混合し、白濁から透明に変化した混合液を得る工程」とは、「(1)アルキルシリケートとアルコールと酸性溶液を混合し、混合液を得る工程」である点で共通する。

(イ)引用発明の(2)の工程において特定される「得られた表面処理溶液」は、アルキルシリケート(テトラエチルシリケート)を含有する混合液であるから、本願発明13の(2)の工程において特定される「前記混合液」に相当する。

(ウ)引用発明の(2)の工程において特定される「Nd-Fe-B系異方性磁石粉末」と、本願発明13の(2)の工程において特定される「SmFeLaN系異方性磁性粉末」とは、「異方性磁性粉末」である点で共通する。

(エ) 上記(イ)と(ウ)の検討を踏まえれば、引用発明の「(2)得られた表面処理溶液にNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬する工程」は、浸漬することによって表面処理溶液とNd-Fe-B系異方性磁石粉末が混合されることになるので、本願発明13の「(2)前記混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程」とは、「(2)前記混合液と異方性磁性粉末を混合する工程」の点で共通する。

(オ) 引用発明の「(3)得られたNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬した溶液を、ろ別したのち室温で撹拌しながら乾燥し、ついで2×10-5Torrの真空雰囲気中、温度:250℃で1時間加熱する工程」は、「得られたNd-Fe-B系異方性磁石粉末を浸漬した溶液」が(2)の工程で得られた磁石粉末の混合物であるといえるから、本願発明13の「(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とpHが9以上13以下であるアルカリ溶液を混合する工程」とは、「(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物を処理する工程」の点で共通する。

(カ) 引用発明の「ついで2×10-5Torrの真空雰囲気中、温度:250℃で1時間加熱する工程、および、(4)前記(3)の工程により、平均膜厚が1μmである二酸化ケイ素の保護皮膜を形成した磁石粉末を作製する工程」と、本願発明13の「(4)前記(3)の工程で得られた混合物を60℃以上250℃以下で加熱し、シリカ薄膜が形成された磁性粉末を得る工程」とは、「(4)前記(3)の工程で得られた混合物を60℃以上250℃以下で加熱し、薄膜が形成された磁性粉末を得る工程」である点で共通する。

(キ) 引用発明の「磁石粉末の製造方法」は、本願発明13の「磁性粉末の製造方法」に相当する。

(ク) してみると、本願発明13と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>

「(1)アルキルシリケートとアルコールと酸性溶液を混合し、混合液を得る工程、
(2)前記混合液と異方性磁性粉末を混合する工程、
(3)工程(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物を処理する工程、および
(4)前記(3)の工程で得られた混合物を60℃以上250℃以下で加熱し、薄膜が形成された磁性粉末を得る工程、
を含む磁性粉末の製造方法。」

<相違点4>

「(1)アルキルシリケートとアルコールと酸性溶液を混合し、混合液を得る工程」が、本願発明13では、「(1)アルキルシリケートとアルコールとpHが2以上6以下である酸性溶液を、前記酸性溶液の混合量が前記アルキルシリケート100重量部に対して5重量部以上100重量部以下となるように混合し、白濁から透明に変化した混合液を得る工程」であるのに対して、引用発明では、「(1)テトラエチルオルトシリケートのイソプロピルアルコール溶液に硝酸水溶液を添加し撹拌し24時間放置し、さらにイソプロピルアルコールで希釈して表面処理溶液を作製する工程」である点。

<相違点5>

(2)の工程で用いられる「異方性磁性粉末」が、本願発明13では、「SmFeLaN系異方性磁性粉末」であるのに対して、引用発明では、「Nd-Fe-B系異方性磁石粉末」である点。

<相違点6>

(3)の工程において「工程(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物」に対する処理が、本願発明13では、「pHが9以上13以下であるアルカリ溶液を混合する」ことであるのに対して、引用発明では、「ろ別したのち室温で撹拌しながら乾燥し、ついで2×10-5Torrの真空雰囲気中、温度:250℃で1時間加熱する」ことである点。

<相違点7>

(4)の工程において「前記(3)の工程で得られた混合物を60℃以上250℃以下で加熱し」て「形成された」「薄膜」が、本願発明13では「シリカ薄膜」であるのに対して、引用発明では「平均膜厚が1μmである二酸化ケイ素の保護皮膜」である点。

イ 相違点についての判断

相違点6について、アルカリ溶液のpHが特定されていないことを除いて、前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する点で相違することは、相違点2と同様の相違点であるから、上記(5)のイで検討した理由と同様の理由によって、引用発明において、引用文献1~3の記載に基いて、相違点6に係る本願発明13の特定事項とすることは、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

したがって、相違点4、5、7について検討するまでもなく、本願発明13は、引用発明と、引用文献1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(9)小括

以上のとおり、本願の請求項1~13に係る発明は、引用文献1に記載された発明と、引用文献1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 当審から通知した拒絶理由(明確性)について

(1)請求項7について

ア 本件補正前の請求項7に記載された「希土類磁性粉末」と請求項1に記載された「SmFeLaN系異方性磁性粉末」の関係が不明であった。

イ しかしながら、本件補正によって、請求項7の「希土類磁性粉末」が「前記SmFeLaN系異方性磁性粉末」と補正されたことによって、上記の関係は明確になった。

ウ したがって、特許請求の範囲の請求項7の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。

(2)請求項10~12について

ア 本件補正前の請求項10、12には、「(4)得られた磁性粉末」と記載されていたが、(1)~(3)のいずれの工程においても磁性粉末を得ることは明示的には記載されていないため、(1)~(3)の工程と(4)の工程の関係が不明であり、結局、上記「(4)得られた磁性粉末」がどのような磁性粉末であるのか不明であった。

また、(2)~(3)の工程においても「得られた」と記載されているが、どの工程で得られたものであるか不明であった。

さらに、請求項12に「(5)得られた混合物」と記載されているが、混合は(1)~(4)の工程のいずれでも行われており、どの工程で行われた混合の結果得られた混合物であるか不明であった。

イ しかしながら、本件補正によって、請求項10、12において、例えば「前記(1)の工程で得られた」など、一つの工程と他の工程との関係が明示される補正がされたことによって、上記の不明は解消された。

ウ したがって、特許請求の範囲の請求項10、12の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。

(3)請求項11について

ア 本件補正前の請求項11には、「SmFeLaN系磁性粉末の含有量が、62体積%以上」と記載されていたが、「62体積%」とは何の体積に対する体積%であるか不明であった。

イ しかしながら、本件補正によって、請求項11は「前記ボンド磁石用コンパウンドに占める前記SmFeLaN系磁性粉末の含有量が、62体積%以上である」と補正されたので、上記の不明は解消された。

ウ したがって、特許請求の範囲の請求項11の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。

3 当審から通知した拒絶理由(サポート要件)について

(1)本願明細書等の記載

本願の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本願明細書等」という。)には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を意味する。)。

ア「【発明が解決しようとする課題】

【0005】

本発明は、残留磁束密度が高いボンド磁石を作製することができる磁性粉末の製造方法を提供することを目的とする。」

イ「【発明の効果】

【0009】

本発明の磁性粉末の製造方法では、SmFeLaN系異方性磁性粉末を使用し、酸性条件でアルキルシリケートを加水分解した後に、磁性粉末の存在下、塩基性条件で脱水縮合を行うため、希土類磁性粉末表面に緻密性の高いシリカ被膜を有する残留磁化の高い希土類磁性粉末およびそれら希土類磁性粉末を含んだボンド磁石用コンパウンドを提供することができる。また、これらボンド磁石用コンパウンドを使用してボンド磁石を作製する場合において、磁性粉末の高充填が可能となることから、残留磁束密度が高いボンド磁石を提供することができる。」

ウ「【0011】

本実施形態の磁性粉末の製造方法は、

(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、

(2)得られたアルキルシリケートの混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程、および、

(3)得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程

を含むことを特徴とする。

【0012】

[工程(1)]

工程(1)は、アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程である。酸性条件でアルキルシリケートの加水分解を行うため、アルキルシリケートの加水分解が十分に進行する。ここで、酸性条件とは酸性であればよいが、pHは2以上6以下が好ましく、2.5以上5.0以下がより好ましく、3以上4以下がさらに好ましい。pHが2未満では磁性粉末が溶解するため磁気特性や耐酸化性が低下することとなり、pHが6を超えると、アルキルシリケートの加水分解が十分に進行しない傾向がある。

・・・

【0014】

酸性溶液とは、アルキルシリケートの加水分解を促進させる酸触媒としての機能を有する溶液であって、酸を溶媒に溶解させた溶液である。酸としては、例えば、酢酸、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸等が挙げられ、これらの中でも酢酸、塩酸、リン酸が好ましく、中でも乾燥時に除去しやすい点から酢酸が特に好ましい。溶媒としては、例えば、水、エタノール等が挙げられ、これらの中でも水が好ましい。酸性溶液のpHは酸性であればよいが、3以上4以下が好ましい。pHが3未満では工程(2)において希土類磁性粉末と混合する際に希土類磁性粉末の磁気特性を劣化させる傾向があり、4を超えるとアルキルシリケートの加水分解が十分に進行しない傾向がある。酸性溶液の量は、アルキルシリケート100重量部に対して、5重量部以上100重量部以下であればよく、10重量部以上80重量部以下が好ましい。5重量部未満では加水分解が不十分となり、100重量部を超えると、磁性粉末との混合性が悪くなる傾向がある。

【0015】

アルキルシリケート、酸性溶液による加水分解を進行させるために、酸性溶液とともに、アルコールを混合する。また、工程(2)で使用するSmFeLaN系異方性磁性粉末との相溶性を高めることができる。アルコールとしては、例えば、エタノール、メタノールなどが挙げられる。アルコールの添加量は、アルキルシリケート100重量部に対して、30重量部以上200重量部以下の範囲であればよく、40重量部以上80重量部以下が好ましく、50重量部以上60重量部以下がより好ましい。30重量部未満では加水分解が不十分となり、200重量部を超えると、磁性粉末との混合性が悪くなる傾向がある。加水分解が概ね終了したことの目安として、アルキルシリケートと酸性溶液、アルコールを混合した際に、白濁から透明に変化することが挙げられる。」

エ「【0023】

[工程(3)]

工程(3)は、工程(2)で得られた希土類磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程である。工程(3)では、塩基性条件でアルキルシリケートの加水分解物を脱水縮合させるため、脱水縮合反応が十分に進行する。工程(3)の終了時には、表面にシリカ薄膜が形成された希土類磁性粉末が得られる。ここで、塩基性条件とは塩基性であればよいが、pHは9以上13以下が好ましく、10以上13以下がより好ましい。pHが9未満では、脱水縮合が十分に進行しない傾向があり、13を超えると、希土類磁性粉末の磁気特性を劣化させる傾向がある。

【0024】

アルカリ溶液とは、アルキルシリケートの加水分解物の脱水縮合を促進させる塩基性触媒としての機能を有する溶液であって、アルカリ成分を溶媒に溶解させた溶液である。アルカリ成分としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、該水酸化物以外の金属水酸化物等が挙げられる。これらのうち、加熱により揮発しやすい点で、アンモニアが特に好ましい。溶媒としては、例えば、水、エタノール等が挙げられ、このうち水が好ましい。アルカリ溶液のpHは塩基性であればよいが、9以上が好ましい。pHが9未満では加水分解が不十分となる傾向がある。」

オ「【0042】

ボンド磁石用コンパウンドにおけるSmFeLaN系磁性粉末の含有量は、62体積%以上が好ましく、63体積%以上がより好ましい。62体積%未満では、磁気特性が低くなる傾向がある。」

カ「【0047】

実施例1

[溶解工程]

20kgの純水に対し、5kgのFeSO4・7H2Oを混合溶解した。さらに0.48kgのSm2O3と、0.071kgの31.8%LaCl3溶液と、0.72kgの70%硫酸溶液とを加えてよく攪拌し、完全に溶解した。次に、得られた溶液に純水を加え、最終的にFe濃度が0.726mol/L、Sm濃度が0.109mol/L、La濃度が0.0063mol/LとなるようにFe-Sm-La硫酸溶液を調製した。

【0048】

[沈殿工程]

温度が40℃に保たれた純水20kg中に、溶解工程で得られたFe-Sm-La硫酸溶液全量を反応開始から70分間で攪拌しながら滴下し、同時に15%アンモニア液を滴下させ、pHを7~8に調整した。これにより、Fe-Sm-La水酸化物を含むスラリーを得た。得られたスラリーをデカンテーションにより純水で洗浄した後、水酸化物を固液分離した。分離した水酸化物を100℃のオーブン中で10時間乾燥した。

【0049】

[酸化工程]

沈殿工程で得られた水酸化物を大気中900℃で1時間、焼成処理した。冷却後、原料粉末として赤色のFe-Sm-La酸化物を得た。

【0050】

[前処理工程]

上記で得られたFe-Sm-La酸化物100gを、嵩厚10mmとなるように鋼製容器に入れた。容器を炉内に入れ、100Paまで減圧した後、水素ガスを導入しながら、前処理温度の850℃まで昇温し、そのまま15時間保持した。非分散赤外吸収法(ND-IR)(株式会社堀場製作所製のEMGA-820)により酸素濃度を測定したところ、5質量%であった。これにより、Smと結合している酸素は還元されず、Feと結合している酸素のうち、95%が還元される黒色の部分酸化物を得たことがわかった。

【0051】

[還元工程]

前処理工程で得られた部分酸化物60gと平均粒径約6mmの金属カルシウム19.2gとを混合して炉内に入れた。炉内を真空排気した後、アルゴンガス(Arガス)を導入した。1045℃の第一温度まで上昇させて、45分間保持し、その後、1000℃の第二温度に冷却して30分間保持することにより、Fe-Sm-La合金粒子を得た。

【0052】

[窒化工程]

引き続き、炉内温度を100℃まで冷却した後、真空排気を行い、窒素ガスを導入しながら、温度を450℃まで上昇させて、そのまま23時間保持して、磁性粒子を含む塊状生成物を得た。

【0053】

[水洗-表面処理工程]

窒化工程で得られた塊状の生成物を純水3kgに投入し、30分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを10回繰り返した。次いで99.9%酢酸2.5gを投入して15分間攪拌する。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを更に2回繰り返した。

【0054】

[リン酸処理工程]

得られたスラリーに対して、リン酸溶液を加えた。リン酸溶液を、磁性粒子固形分に対してPO4として1wt%分投入した。5分攪拌後、固液分離した後80℃で真空乾燥を3時間行い、磁性粉末を得た。得られた磁性粉末はSm1.97Fe17La0.03N3で表された。

【0055】

[Si被覆工程]

ミキサに、エチルシリケート(Si5O4(OR)12)2.8g、酢酸酸性溶液0.4g、エタノール1.4gを添加し、窒素雰囲気下で1分間混合した。得られたエチルシリケートの混合液に得られた磁性粉末を150g添加し、さらに1分間混合した。得られた磁性粉末の混合物に、pH12のアンモニア水を2.4g添加し、1分間混合した。ミキサから混合物を取り出し、減圧下180℃で30分間加熱処理し、表面にシリカ薄膜が形成されたSm1.97Fe17La0.03N3系異方性磁性粉末を得た。

【0056】

得られた磁性粉末300gに、シランカップリング剤(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)1.2g、pH11.7のアンモニア水(アンモニア含量10重量%)0.6gとエタノール3.6gの混合溶液を添加して、窒素雰囲気下で、1分間混合した。混合物を取り出し、減圧下、90℃で30分間加熱処理し、シリカ膜上にカップリング剤膜が形成された異方性磁性粉末(以下CP粉)を得た。

【0057】

表面処理した異方性磁性粉末92.5質量%と、ポリアミド12を7.5質量%とをミキサで混合した。得られた混合粉を、2軸混練機を用いて220℃で混練し、ボンド磁石用コンパウンドを得、射出成形してボンド磁石を作製した。

【0058】

実施例2

実施例1において、充填量を64vol%に変更したこと以外は、実施例1と同様に操作し、SmFeN系異方性磁性粉末を作製した。また、実施例1と同様に操作して、ボンド磁石用コンパウンドを得、射出成形してボンド磁石を作製した。

【0059】

実施例3

実施例1において、充填量を65vol%に変更したこと以外は、実施例1と同様に操作し、SmFeLaN系異方性磁性粉末を作製した。また、実施例1と同様に操作して、ボンド磁石用コンパウンドを得、射出成形してボンド磁石を作製した。」

キ「【0065】

【表1】

[図:0001392972000008.jpg]

」

(2)本願発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、

上記(1)のアによれば、残留磁束密度が高いボンド磁石を作製することができる磁性粉末の製造方法を提供することである。

(3)上記課題を解決するための手段は、上記(1)のウによれば、磁性粉末の製造方法を、(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程、(2)得られたアルキルシリケートの混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程、および、(3)得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程を含むものとすることである。

(4)ここで、上記酸性溶液は、アルキルシリケートの加水分解を促進させる酸触媒として機能し(【0012】、【0014】)、上記アルカリ溶液は、アルキルシリケートの加水分解物を脱水縮合するための塩基性触媒として機能するものであり(【0023】、【0024】)、その結果、SmFeLaN系異方性磁性粉末の表面には、緻密性の高いシリカ被膜を有する残留磁化の高い磁性粉末を形成することができる(【0009】)。

(5)実際に、上記(1)のカの実施例1において、「エチルシリケート(Si5O4(OR)12)2.8g、酢酸酸性溶液0.4g、エタノール1.4gを添加し、窒素雰囲気下で1分間混合した。得られたエチルシリケートの混合液に得られた磁性粉末を150g添加し、さらに1分間混合した。得られた磁性粉末の混合物に、pH12のアンモニア水を2.4g添加し、1分間混合した。ミキサから混合物を取り出し、減圧下180℃で30分間加熱処理」することにより「表面にシリカ薄膜が形成されたSm1.97Fe17La0.03N3系異方性磁性粉末」が得られている(【0055】)。

そして、シリカ薄膜が形成された実施例1~3は高い残留磁束密度Brと高い保持力iHcが得られているが、Siコート(シリカ薄膜)が形成されていない比較例2は十分な磁気特性が得られていない(【表1】)。

(6)そうすると、上記(2)の課題が解決し得るといえるためには、上記(3)の製造方法が特定されているとともに、SmFeLaN系異方性磁性粉末の表面には、従来よりも緻密性の高いシリカ薄膜が形成されることが必要であると認められる。

(7)そして、本件補正後の請求項1には、上記(3)に記載された(1)~(3)の全ての工程が特定されているとともに、「(4)前記(3)の工程で得られた混合物から緻密なシリカ薄膜が形成された磁性粉末を得る工程を含む」ことが特定されたので、本件補正後の請求項1に係る発明は、上記(2)の課題を解決し得るものであるといえる。

(8)したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。

また、請求項1を引用する請求項2~9、請求項1と同様の記載がある請求項10~12に係る発明についても同様である。

(9)本件補正によって新たに追加された請求項13に係る発明について検討する。

ア 請求項13の「(1)アルキルシリケートとアルコールとpHが2以上6以下である酸性溶液を、前記酸性溶液の混合量が前記アルキルシリケート100重量部に対して5重量部以上100重量部以下となるように混合し、白濁から透明に変化した混合液を得る工程」は、上記(3)に記載した「(1)アルキルシリケートと酸性溶液を混合する工程」に相当する。

イ 請求項13の「(2)前記混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程」は、上記(3)に記載した「(2)得られたアルキルシリケートの混合液とSmFeLaN系異方性磁性粉末を混合する工程」に相当する。

ウ 請求項13の「(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とpHが9以上13以下であるアルカリ溶液を混合する工程」は、上記(3)に記載した「(3)得られた磁性粉末の混合物とアルカリ溶液を混合する工程」に相当する。

エ 請求項13の(1)の工程は、「白濁から透明に変化した混合液を得る工程」であるところ、本願明細書等の段落【0015】によれば、混合液が白濁から透明に変化することは、加水分解が概ね終了したことを意味するから、その後に「(3)前記(2)の工程で得られた磁性粉末の混合物とpHが9以上13以下であるアルカリ溶液を混合する工程」を経て、さらに「(4)前記(3)の工程で得られた混合物を60℃以上250℃以下で加熱し」て「形成された」「シリカ薄膜」は十分に加水分解反応及び脱水縮合反応が進むことにより、緻密なシリカ薄膜となっているものといえる。

オ 以上の検討から、本件補正後の請求項13には、上記(3)に記載した(1)~(3)の全ての工程が特定されているとともに、「(4)前記(3)の工程で得られた混合物を60℃以上250℃以下で加熱し」て「形成された」「シリカ薄膜」は緻密なシリカ薄膜であるといえるから、本件補正後の請求項13に係る発明は、上記(2)の課題を解決し得るものであるといえる。

(10)小括

したがって、請求項1~13に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明に記載したものである。

第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1~13に係る発明は、引用文献1に記載された発明と、引用文献1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本願の特許請求の範囲の請求項7、10~12の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。

また、本願の請求項1~13に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明に記載したものである。

したがって、原査定の拒絶理由と当審から通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することができない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-006412

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