特許拒絶査定不服審判
2022-004705
前処理インク及び繊維の前処理方法
- 審判番号
- 2022-004705
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-058045
- 請求日
- 2022年03月31日
- 審決日
- 2024年03月26日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本化薬株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 塩見 篤史
- 審判官 長谷川 真一
- 分類
- P18 .561-Z (C09D) / P18 .575-Z (C09D) / P18 .16 -Z (C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条の2
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条の2、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 58045「前処理インク及び繊維の前処理方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年10月 3日出願公開、特開2019-167492〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1の手続の経緯
本願は、平成30年3月26日の出願であって、令和3年6月22日付けで拒絶理由が通知され、同年9月29日に意見書及び手続補正書が提出され、令和4年2月3日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、同年同月8日に拒絶査定の謄本が送達された。
これに対して、令和4年3月31日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年3月31日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正後の特許請求の範囲
令和4年3月31日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1~12の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位を含有するカチオンポリマーと、ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超えるアニオン性樹脂と、を含有する前処理インク。
【化1】
[図:0001410602000001.jpg]
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基よりなる群から選択される基を表わし、
Xはハロゲン原子を表わし、
nは1以上の整数を表わす。]
【請求項2】
上記の前処理インクの総質量に対する、カチオンポリマーの含有量が3~25質量%である、請求項1に記載の前処理インク。
【請求項3】
上記アニオン性樹脂が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、ウレタン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、及び塩化ビニリデンから選択される1種類以上のモノマーの重合体;フッ素樹脂;及び天然樹脂から選択される樹脂である、請求項1に記載の前処理インク。
【請求項4】
上記アニオン性樹脂が、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル-ウレタン樹脂、及びウレタン樹脂から選択される樹脂である請求項1に記載の前処理インク。
【請求項5】
さらに界面活性剤を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の前処理インク。
【請求項6】
界面活性剤が、アセチレングリコール及びポリアルキレングリコールから選択される界面活性剤である請求項1~5のいずれか一項に記載の前処理インク。
【請求項7】
上記の界面活性剤が、ポリアルキレングリコールである請求項6に記載の前処理インク。
【請求項8】
上記の前処理インクの総質量に対する、アニオン性樹脂の含有量が1~5質量%である、請求項1に記載の前処理インク。
【請求項9】
上記の前処理インクが、繊維に対する前処理インクである請求項1~8のいずれか一項に記載の前処理インク。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の前処理インクを、繊維に付着させる工程を有する繊維の前処理方法。
【請求項11】
上記の前処理インクを、繊維に付着させる工程が、インクジェットプリンタにより行われる工程である、請求項10に記載の繊維の前処理方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の前処理インクが付着した繊維。」
2 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位を含有するカチオンポリマーと、ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下のアニオン性樹脂とを含有する前処理インク。
【化1】
[図:0001410602000002.jpg]
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基よりなる群から選択される基を表わし、
Xはハロゲン原子を表わし、
nは1以上の整数を表わす。]
【請求項2】
上記の前処理インクの総質量に対する、カチオンポリマーの含有量が3~25質量%である、請求項1に記載の前処理インク。
【請求項3】
上記アニオン性樹脂が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、ウレタン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、及び塩化ビニリデンから選択される1種類以上のモノマーの重合体;フッ素樹脂;及び天然樹脂から選択される樹脂である、請求項1に記載の前処理インク。
【請求項4】
上記アニオン性樹脂が、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル-ウレタン樹脂、及びウレタン樹脂から選択される樹脂である請求項1に記載の前処理インク。
【請求項5】
さらに界面活性剤を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の前処理インク。
【請求項6】
界面活性剤が、アセチレングリコール及びポリアルキレングリコールから選択される界面活性剤である請求項1~5のいずれか一項に記載の前処理インク。
【請求項7】
上記の界面活性剤が、ポリアルキレングリコールである請求項6に記載の前処理インク。
【請求項8】
上記の前処理インクの総質量に対する、アニオン性樹脂の含有量が1~5質量%である、請求項1に記載の前処理インク。
【請求項9】
上記の前処理インクが、繊維に対する前処理インクである請求項1~8のいずれか一項に記載の前処理インク。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の前処理インクを、繊維に付着させる工程を有する繊維の前処理方法。
【請求項11】
上記の前処理インクを、繊維に付着させる工程が、インクジェットプリンタにより行われる工程である、請求項10に記載の繊維の前処理方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の前処理インクが付着した繊維。」
3 補正の適否
(1)補正後の請求項1についての補正
本件補正前後の特許請求の範囲を比較すると、本件補正後の請求項1についての補正は、同請求項1に記載されたアニオン樹脂を「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下」のものから、「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超える」ものに限定するものである。
(2)新規事項の追加について
ア アニオン樹脂のガラス転位温度(Tg)の下限である「-38℃を超える」について、審判請求人は審判請求書の(4-2)補正の要旨において「旧請求項1の記載をもとに、[0026]段落記載にもとづき、アニオン樹脂をガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超えるものに限定しました」と主張しているところ、本願出願当初の明細書の段落【0026】には、「Tgの下限については特に限定されないが、-40℃以上が好ましい」との記載のみであり、「-38℃を超える」との記載はない。また、同明細書の段落【0044】には実施例に用いたアクリル樹脂AR3として「日本合成化学株式会社製のアニオン樹脂、モビニール966A」について「Tg=-38℃」であることが記載されているが、同明細書の段落【0024】には「モビニール・・・966A(Tg=-32℃・・・)」と記載されており、日本合成化学株式会社ホームページ<URL:https://www.jc-resin.com/product/seni.html>において紹介されているモビニール966AのTgは-32℃であることから(後記(3)ウ(イ))、段落【0044】のTg=-38℃の記載は-32℃の誤記であると認められる。なお、同段落【0024】には(メタ)アクリル樹脂、及びスチレン-(メタ)アクリル樹脂の市販品の例として、上記のとおり実施例に用いられている「モビニール966A」のほかに、多数の市販品が列挙されており、そのうちの1つとして「モビニール 952A(Tg=-38℃・・・)」が記載されているものの、同様に列挙されているものには、補正後のガラス転位温度(Tg)の下限値より低い温度の市販品も含まれていることから、これらの列挙された多数の市販品の例の記載から「-38℃を超える」との技術的事項が記載されているとはいえない。
そうすると、アニオン樹脂を「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下」のものから、「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超える」ものに限定する補正は、本願出願当初の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
イ 以上のとおり、請求項1に記載されたアニオン樹脂を「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下」のものから、「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超える」ものに限定する本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
(3)独立特許要件についての検討
ア 前記(2)において検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないが、仮に本件補正が同項の規定を満たしていたと仮定して以下検討する。
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載されたアニオン樹脂を「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下」のものから、「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超える」ものに限定するものであるが、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明1」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。
イ 本件補正発明1
本件補正発明1は、上記1に記載したとおりのものである。
ウ 引用文献の記載事項
(ア)先願4
原査定の拒絶の理由で引用された特願2020-138810号(特開2022-34889号)(平成29年6月30日出願、平成31年1月24日出願公開、以下「先願4」という。)の明細書等(以下「先願明細書等4)には、次の記載がある。
「【請求項1】
捺染において、布帛に付着して用いる処理液組成物であって、
カチオン性化合物と、
ベタインと、
水と、を含有する処理液組成物。」
「【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット捺染用前処理剤では、発色性を高めることはできるものの、前処理痕の発生を抑えることが難しいという課題があることが見出された。詳しくは、多価金属イオンを含む前処理剤を用いて布帛に前処理を施すと、前処理剤が付着した領域に目視で認識可能な外観上の変化、すなわち前処理痕が発生することがあった。このような前処理痕は、染料などで予め濃色に着色された布帛(生地)において顕著となる傾向があり、生地色の色相変化として発現しやすいことが見出された。布帛に前処理を施す際には、色材で染色(捺染)を行う領域以外にも前処理剤を付着させる場合が多い。そのため、捺染を行わない領域に前処理痕が生じると、前処理を施していない領域(前処理痕が生じていない領域)との対比で、ことさらに色相変化などが目立ちやすくなる。したがって、前処理痕の発生により、捺染を行って作製された製品の外観品質が低下するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、発色性を高め、且つ、処理痕の発生を抑えるためになされたものであって、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例]本適用例に係る処理液組成物は、捺染において、布帛に付着して用いる処理液組成物であって、カチオン性化合物と、ベタインと、水と、を含有する。
【0007】
本適用例によれば、前処理にて処理液組成物を付着させた布帛において、前処理痕の発生を抑えることができる。」
「【0038】
<処理液組成物>
本実施形態の処理液組成物(以降、単に「処理液」ともいう。)は、インク組成物を塗工(捺染)して印捺物を製造する際に、印捺物の基材となる布帛に対して、予め付着して用いる。また、インク組成物を捺染する塗布方法には、インクジェット法を採用することが好ましい。インクジェット法とは、インクジェットプリンターなどのインクジェットヘッドから、インク組成物の微小な液滴を吐出させる方法であって、該方法を採用した捺染をインクジェット捺染という。以下、本実施形態に係る処理液に含有される各成分について説明する。なお、本実施形態のインク組成物は、顔料捺染(色材に顔料を採用したインク組成物による捺染)に用いる、水系の顔料インク組成物を例に挙げる。」
「【0178】
<処理液の調製>
実施例1から実施例44、および比較例1から比較例5の各処理液の組成を、表1、表2、表3に示した。表1から表3において、表中の数値の単位は質量%であり、多価金属塩、カルニチン、トリメチルグリシン、γ-ブチロベタイン、ノニオン性界面活性剤以外は、有効成分(固形分)の含有割合で表記している。イオン交換水は、処理液の全質量が100.0質量%となるように調整して添加した。なお、表中に数値の記載がない、「-」表記の欄は、含有しないことを意味する。」
「【0180】
【表2】
[図:0001410602000003.jpg]
」
「【0182】
ここで、実施例1の処理液では、多価金属塩(カチオン性化合物)として硝酸カルシウム4水和物を16.0質量%と、ベタインとしてカルニチンを12.8質量%と、を用いた。樹脂エマルションとしては、スチレン-アクリル系樹脂のモビニール(登録商標)966A(日合成化学社)を2.7質量%用いた。ノニオン性界面活性剤として、アセチレングリコール系界面活性剤のサーフィノール(登録商標)485(商品名、Air Products and Chemicals, Inc.社、HLB値17)を0.2質量%用いた。
【0183】
実施例2から実施例7の処理液は、実施例1の処理液の組成に対して、カルニチン(ベタイン)の添加量を5.0質量%から40.0質量%まで変えた組成である。」
「【0189】
実施例17の処理液は、実施例4の処理液の組成に対して、多価金属塩(カチオン性化合物)を塩化カルシウム2水和物(添加量16.0質量%)に変更した組成である。」
「【0191】
実施例20の処理液は、実施例17の処理液の組成に対して、ベタインをトリメチルグリシンに変更し、添加量を4.8質量%とした組成である。
【0192】
実施例21から実施例26の処理液は、実施例20の処理液の組成に対して、トリメチルグリシン(ベタイン)の添加量を5.0質量%から32.0質量%まで変えた組成である。」
「【0198】
実施例33の処理液は、実施例25の処理液の組成に対して、カチオン性化合物をカチオン性樹脂の市販品のユニセンスKHE104L(商品名、センカ社、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン縮合物)(添加量16.0質量%)に変更した組成である。」
(イ)日本合成化学株式会社ホームページ
日本合成化学株式会社ホームページ<URL:https://www.jc-resin.com/product/seni.html>の製品情報の製品分野一覧の繊維の項には、次の記載がある。
「
[図:0001410602000004.jpg]
[図:0001410602000005.jpg]
」
(ウ)先願明細書等4に記載された発明
先願明細書等4(上記(ア)参照。)の実施例33を中心として、先願明細書等4から次の発明(以下「先願発明4」という。)が認定できる。
(先願発明4)
「捺染において、布帛に付着して用いる処理液組成物であって、
カチオン性樹脂としてユニセンスKHE104L(商品名、センカ社、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン縮合物)16.0質量%と、樹脂エマルジョンとしてモビニール966A(日合成化学社)2.7質量%と、ベタインとしてトリメチルグリシン10.0質量%と、ノニオン界面活性剤としてサーフィノール485(商品名、Air Products and Chemicals, Inc.社、HLB値17)0.2質量%と、水を残量とからなる処理液組成物」
エ 当審の判断
(ア)対比・判断
本件補正発明1と先願発明4を対比すると、先願発明4の「カチオン性樹脂としてユニセンスKHE104L(商品名、センカ社、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン縮合物)」は、本件補正発明1の式(1)における、R1及びR2がメチル基、Xが塩素原子、nが1以上の整数である構造単位を有していることから、本件補正発明1の「下記式(1)で表される構造単位を含有するカチオンポリマー」に相当する。また、先願発明4の「モビニール966A(日合化学社)」は、上記3(2)での検討のとおり、ガラス転位温度が-32℃であることから、本件補正発明1の「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超えるアニオン性樹脂」に相当する。そして、先願発明4の「捺染において、布帛に付着して用いる処理液組成物」は、先願明細書等4の段落【0004】~【0007】、【0038】の記載からみて、インク組成物を塗工(捺染)して印捺物を製造する際に、印捺物の基材となる布帛に対して、予め付着して用いるものであることから、本件補正発明1の「前処理インク」に相当する。
以上のことから、本願補正発明1と先願発明4は、
「下記式(1)で表される構造単位を含有するカチオンポリマーと、ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超えるアニオン性樹脂と、を含有する前処理インク。
【化1】
[図:0001410602000006.jpg]
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基よりなる群から選択される基を表わし、
Xはハロゲン原子を表わし、
nは1以上の整数を表わす。]」
の点で一致し、相違点はない。
(イ)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の3.(4-4)において、「審査官殿のご認定に対し、上記いたしました新請求項1のように、本願発明におけるアニオン性樹脂を、ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超えるものに限定しました。この限定により、審査官殿が指摘されています「先願明細書4に記載の樹脂エマルションとしてのスチレン-アクリル系樹脂(モビニール966A)は、ガラス転移温度が-38℃のアニオン性樹脂であり、新請求項1で規定した-10℃以下を満たす」という指摘には当たりません。」旨主張している。
たしかに、原査定の備考において「ここで、樹脂エマルションとしてのスチレン-アクリル樹脂(モビニール966A)は、本願明細書に記載の実施例でも使用しているガラス転移温度が-38℃のアニオン性樹脂であり(段落[0044]のAR3)」と記載されているが、当該記載は、モビニール966Aが「本願明細書に記載の実施例でも使用している」アニオン性樹脂であることを説示しているのであって、「ガラス転移温度が-38℃」は本願明細書の段落[0044]の記載を転記したものである。そして、モビニール966Aのガラス転位温度については、上記3(2)での検討のとおり、ガラス転位温度が-32℃であり、本件明細書の段落【0044】に記載されたガラス転位温度が誤記であることは明らかであることから、原査定における「ガラス転移温度が-38℃」の記載も誤記であるといえる。さらに、この点について審判請求人も本件明細書の段落【0024】に「966A(Tg=-32℃」と正しいガラス転位温度を記載していることからモビニール966Aの正しいガラス転位温度が-32℃であることを認識していなかったとはいえない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件補正発明1は先願発明4と同一の発明であり、先願明細書等4に記載された発明である。また、本件出願の発明者が先願4の発明者と同一ではなく、また本件の出願の時に、本件の出願人と先願4の出願人とが同一でもない。
よって、本願補正発明は、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(4)補正の却下の決定についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである、あるいは、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記したとおり却下されたので、本願請求項1~12に係る発明は、本件補正前の令和3年9月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、上記第2 2に記載したとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「令和3年6月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由3」であって、要するに、
「理由3:(拡大先願)この出願の請求項1~12に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた先願4の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。」
というものである。
先願4:特願2020-138810号(特開2022-34889号)
3 先願発明4
原査定の拒絶の理由に引用された先願4に記載された発明は、上記第2 3(3)ウ(イ)において認定したとおりである。
4 対比・判断
本願発明1は上記第2 3(1)で検討した本件補正発明1のうち、アニオン樹脂を「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下」ものから、「ガラス転位温度(Tg)が-10℃以下であり、かつ-38℃を超える」ものとする限定を削除したものである。
そうすると、本願発明1の特定事項を全て含み、さらに「ガラス転位温度(Tg)が-38℃を超える」という限定を加えたものである本件補正発明1が、上記第2(3)での検討のとおり、先願発明4と同一であるから、本願発明1も先願発明4と同一である。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-004705