特許拒絶査定不服審判
2022-004529
折りたたみ型ディスプレイ及び携帯端末機器
- 審判番号
- 2022-004529
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-214272
- 請求日
- 2022年03月28日
- 審決日
- 2023年05月10日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東洋紡株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 後藤 慎平
- 審判官 中塚 直樹
- 分類
- P18 .121-WZ (G09F) / P18 .536-WZ (G09F) / P18 .537-WZ (G09F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2016-214272「折りたたみ型ディスプレイ及び携帯端末機器」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月10日出願公開、特開2018- 72663〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年11月1日に出願された特許出願であって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和2年 8月31日付け:拒絶理由通知
令和3年 1月 5日 :意見書、手続補正書の提出
同月18日付け:拒絶理由通知
同年 6月 1日 :意見書、手続補正書の提出
同月 9日付け:拒絶理由通知(最後)
同年10月11日 :意見書、手続補正書の提出
同年12月28日付け:補正却下の決定
同日付け:拒絶査定
(令和4年 1月11日 :査定の謄本の送達)
令和4年 3月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年12月 1日付け:拒絶理由通知書
令和5年 2月 3日 :意見書、手続補正書の提出
なお、令和4年12月1日付けで当審において通知した拒絶理由を、以下「当審拒絶理由」といい、これに対して、令和5年2月3日に請求人から提出された意見書を、以下、単に「意見書」という。
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年2月3日に提出された手続補正書(以下、当該手続補正書による補正を「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「【請求項1】
折りたたんだ際の屈曲半径が5mm以下である折りたたみ型ディスプレイであって、
折りたたみ型ディスプレイの折りたたみ部分を介して連続した単一のハードコートフィルムが配され、
折りたたみ型ディスプレイの表面の少なくとも一部は、ハードコートフィルムが粘着層を介して有機ELモジュールに貼合されてなり、
ハードコートフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、そのポリエチレンテレフタレートフィルムの折りたたみ型ディスプレイの表面側に易接着層とハードコート層とを有し、
ポリエチレンテレフタレートフィルムのヘイズは3%以下であり、ポリエチレンテレフタレートフィルムの全光線透過率は85%以上であり、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは10~75μmであり、
フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒を用いて測定したポリエチレンテレフタレートフィルムの極限粘度が0.73~0.80dL/gであり、
易接着層は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、又はポリエーテル樹脂を含み、
ハードコート層は、ウレタンアクリレート系ハードコート剤又はアクリレート系ハードコート剤を含む塗布液を硬化させてなるものであり、
ハードコート層の厚みは1~40μmであり、
JIS K5600-5-4:1999に準拠して750g荷重で測定したハードコート層の鉛筆硬度がH以上であることを特徴とする折りたたみ型ディスプレイ。」
第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由のうち、本件補正前の請求項1から請求項4に係る発明に対する理由(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
(進歩性の欠如)本件補正前の請求項1から請求項4に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において発行された、下記引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3、5~11に例示される周知技術又は技術常識に基づいて、本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1 特開2016-002764号公報
引用文献2 特開2006-231845号公報
引用文献3 特開2002-258760号公報
引用文献5 国際公開第2016/171173号
引用文献6 特開2016-157110号公報
引用文献7 特開2011-174009号公報)
引用文献8 特開2015-115171号公報
引用文献9 特開2015-25136号公報
引用文献10 特開2013-114198号公報
引用文献11 特開2006-272675号公報
第4 引用文献に記載された発明の認定等
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由において引用した引用文献1(特開2016-002764号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は当合議体が付したもので、以下同様である。
ア 【請求項1】
「【請求項1】
厚さ0.2mm以下の透明な積層体であって、熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層/光硬化樹脂(B)層の層構成を有し、光硬化樹脂(A)層を形成する光硬化樹脂(A)及び光硬化樹脂(B)層を形成する光硬化樹脂(B)の曲げ弾性率がそれぞれ3~6GPaであり、かつ、光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)と光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)の合計(At+Bt)が0.1mm以下であり、光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)と光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)の厚さ比(At/Bt)が1以上であることを特徴とする積層体。」
イ 段落【0001】~【0017】
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムに光硬化樹脂層を2層以上積層してなる透明な積層体に関するものであり、更に詳しくは、表面硬度と耐屈曲性(曲げ耐久性)に優れ、フレキシブルディスプレイの保護フィルムやタッチパネル基板等として有用な積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット等の携帯情報端末の最表面には、傷付防止、飛散防止、内部ディスプレイの保護などを目的とした保護フィルム(以下、「フィルム」とは、「シート」も含む意味である。)が装着されている。かかる保護フィルムは、カバー、ウィンドウ、あるいはカバーウィンドウと言った名称で呼ばれている。
現在、保護フィルムには、厚さ0.3~1mm程度のガラス板や厚さ0.01~0.3mm程度の樹脂積層体が使用されている。かかる保護フィルムには、防汚性、指紋拭き取り性、指/ペンすべり性、印刷適性などの性能も要求されることが多く、更に、消費者の好みの応じて取り替えられる機能も必要となっている。
【0003】
近年、フレキシブルな携帯情報端末や画面が湾曲したテレビが販売され、折り曲げたり丸めたりできるディスプレイも数多く提案されている。かかるディスプレイにも保護フィルムが必要となるが、ガラス板は割れるために消費者の安全性を確保することができない。特に、フレキシブルディスプレイの場合、0.3mm以上のガラス板は曲げることすら困難であり、厚さ0.2mm以下の極薄のガラスフィルムでも、繰り返して屈曲すると割れるため使用は困難である。
【0004】
一方、樹脂積層体もハードコート層が割れるため、繰り返しの屈曲には耐えることができない、いわゆる耐屈曲性を満足できないものである。樹脂製の保護フィルムは、基材となるポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの表面硬度が不足しているために、ハードコート処理を施して樹脂積層体とする必要がある。ハードコート層は、硬いほど、また厚いほど表面硬度の向上が見込まれるが、逆に耐屈曲性は低下し、屈曲させた時に、基材となる樹脂のフレキシブルさに追従できず、ヒビや割れが発生する。
【0005】
なお、表面硬度は、鉛筆硬度やスチールウール耐擦傷性で評価される。要求される表面硬度は、例えば鉛筆硬度の場合、6H以上である。また、耐屈曲性はマンドレル試験で評価される。用途により異なるが、フレキシブルを標榜するからには曲率半径1mm(外径2mm)以下が必要と言われている。
【0006】
そこで、これらの諸特性を満足するために、数多くの積層体が提案されており、例えば、特定の層構成を有するハードコートフィルムが表面硬度に優れる樹脂積層体を与えることが開示されている(例えば、特許文献1~3参照。)。また、特定の活性エネルギー線硬化膜が表面硬度や防汚性に優れる樹脂積層体を与えることが開示されている(例えば、特許文献4~11参照。)。また、脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートと脂環構造を有する多官能(メタ)アクリレートよりなる光重合性組成物が、鉛筆硬度の高い樹脂成形体を与えることが開示されている(例えば、特許文献12参照。)。また、支持フィルムにポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明フィルムを用いて連続的に光硬化成形体を得る手法が開示されている(例えば、特許文献13参照。)。
…(中略)…
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~10の開示技術では、その実施例からも分かるように鉛筆硬度は最高でも5H程度であり、6Hには到達していないものである。また、特許文献11の開示技術には、鉛筆硬度8Hの記載があるが、これはあくまでもガラス板に塗工した場合であり、柔らかい樹脂基材に塗工した場合は最高で5H程度と推測される。更に、特許文献12の開示技術では、鉛筆硬度7Hの樹脂成形体(単板)が得られているが、架橋性高分子のみで構成されているため脆く、繰り返しの屈曲にも耐えるといった耐屈曲性という点では不充分である。また、特許文献13の開示技術では、光硬化時に上下支持体として光学用PETフィルムを用いて樹脂成形体を得ているが、製造後に両面の高価な光学用PETフィルムを破棄することになり、生産性に優れるとは言いがたい。また、いずれの開示技術もフレキシブルディスプレイに要求される耐屈曲性など全ての性能を満足しているとは言いがたく、更なる改良が求められている。
【0009】
そこで、本発明ではこのような背景下において、表面硬度と、繰り返しの屈曲にも耐えるといった耐屈曲性に優れる積層体、更には防汚性を有する保護フィルム、特にフレキシブルディスプレイ用の保護フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
しかるに本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層/光硬化樹脂(B)層の層構成を有するものであり、フレキシブルな熱可塑性樹脂フィルムに特定の曲げ弾性率を有し、特定の厚さを有する光硬化樹脂層を2層設けることにより、高い表面硬度と耐屈曲性を発現できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、厚さ0.2mm以下の透明な積層体であって、熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層/光硬化樹脂(B)層の層構成を有し、光硬化樹脂(A)層を形成する光硬化樹脂(A)及び光硬化樹脂(B)層を形成する光硬化樹脂(B)の曲げ弾性率がそれぞれ3~6GPaであり、かつ、光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)と光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)の合計(At+Bt)が0.1mm以下であり、光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)と光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)の厚さ比(At/Bt)が1以上であることを特徴とする積層体に関するものである。
【0012】
更に、本発明においては、前記積層体を用いてなるディスプレイ用保護フィルムやタッチパネル基板、タッチパネルも提供するものであり、更に、積層体の製造についても提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガラス並みの表面硬度を有し、耐屈曲性に優れる積層体を得ることができる。かかる積層体は、フレキシブルディスプレイ用の保護フィルムやタッチパネル基板として好適である。
…(中略)…
【0017】
本発明において、積層体の透明性については、通常、光線透過率が80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは87%以上、特に好ましくは90%以上である。光線透過率が低すぎると、ディスプレイの高輝度化が困難となる傾向がある。」
ウ 段落【0020】~【0037】
「【0020】
また、本発明においては、光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)と光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)について、下記関係を有することが重要である。
【0021】
即ち、光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)と光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)の合計(At+Bt)が0.1mm以下であり、光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)と光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)の厚さ比(At/Bt)が1以上であることが重要である。
【0022】
厚さの合計(At+Bt)は、0.09mm以下、更には0.08mm以下、特には0.07mm以下であることが好ましい。厚さの合計(At+Bt)が、厚すぎるとフレキシブル性が低下し、耐屈曲性も低下する傾向がある。
【0023】
更に、光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)と光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)の厚さ比(At/Bt)は、1.5以上、更には2以上、特には2.5以上であることが好ましい。厚さ比(At/Bt)が、小さすぎると鉛筆硬度が低下する傾向がある。
【0024】
本発明において、上記熱可塑性樹脂フィルム[I]の厚さは0.15mm以下であることが好ましく、特には0.03~0.15mm、更には0.05~0.12mm、殊には0.07~0.1mmであることが好ましい。かかる厚さが薄すぎるとハンドリングが困難となる傾向があり、厚すぎると積層体の耐屈曲性が低下する傾向がある。
【0025】
また、光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)は、0.01~0.09mmであることが好ましく、特には0.03~0.07mm、更には0.04~0.06mmであることが好ましい。かかる厚さが薄すぎると表面硬度が低下する傾向があり、厚すぎると耐屈曲性が低下する傾向がある。
【0026】
更に、光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)は、0.005~0.05mmであることが好ましく、特には0.01~0.04mm、更には0.015~0.03mmであることが好ましい。かかる厚さが薄すぎると表面硬度が低下する傾向があり、厚すぎると耐屈曲性が低下する傾向がある。
【0027】
本発明で使用される熱可塑性樹脂フィルム[I]は、透明性を有するものであればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、トリアセチルセルロース(TAC)等の熱可塑性樹脂からなるフィルムが挙げられる。これらの中でも安価なPETフィルムや耐熱性に優れるポリイミドフィルムが好適である。
【0028】
本発明における光硬化樹脂(A)層としては、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、チオール/エン付加系樹脂などが挙げられるが、速硬化の点から(メタ)アクリル系樹脂が好ましく、密着性の点から下記成分(a1)、(a2)及び(a3)を含有してなる光硬化性組成物(a)を硬化してなるものであることが好ましい。
(a1)多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物
(a2)脂環構造含有多官能(メタ)アクリレート系化合物
(a3)光重合開始剤
…(中略)…
【0035】
本発明において、光硬化樹脂(B)層としては、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、チオール/エン付加系樹脂などが挙げられるが、速硬化の点から(メタ)アクリル系樹脂が好ましく、密着性の点から下記成分(b1)、(b2)及び(b3)を含有してなる光硬化性組成物(b)を硬化してなるものであることが好ましい。
(b1)多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物
(b2)脂環構造含有多官能(メタ)アクリレート系化合物
(b3)光重合開始剤
【0036】
上記多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(b1)、脂環構造含有多官能(メタ)アクリレート系化合物(b2)、光重合開始剤(b3)については、上述の多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(a1)、脂環構造含有多官能(メタ)アクリレート系化合物(a2)、光重合開始剤(a3)で説明したものと同様のものを例示することができる。
【0037】
光硬化性組成物(b)において、多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(b1)と脂環構造含有多官能(メタ)アクリレート系化合物(b2)の含有割合(重量比)は、(a1)/(a2)=51/49~80/20であることが鉛筆硬度の点で好ましく、特には55/45~65/35、更には60/40~70/30であることが好ましい。かかる含有割合において、(b1)が少なすぎると光硬化樹脂(A)層との密着性が低下する傾向があり、多すぎると積層体に反りが発生する傾向がある。」
エ 段落【0057】、【0082】
「【0057】
かくして本発明の熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層/光硬化樹脂(B)層の層構成を有する積層体が得られるが、かかる積層体における光硬化樹脂(B)層の鉛筆硬度は、6H以上であることが好ましい。より好ましくは7H以上、特に好ましくは8H以上である。鉛筆硬度が低すぎると、保護フィルムとして傷つき防止性が低下する傾向にある。なお、鉛筆硬度の上限は10Hである。かかる鉛筆硬度を上記範囲に調整するに当たっては、上述した光硬化性組成物(b)や(b’)の種類や成分の含有量、フッ素化合物の種類と含有割合を適宜コントロールする手法が挙げられる。例えば、多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物として3~6官能等のものを使用するなどが挙げられる。
「【0082】
(2)鉛筆硬度
JIS K 5600-5-4に準じて、積層体の光硬化樹脂(B)層表面の鉛筆硬度を測定した。」
オ 段落【0060】~【0067】
「【0060】
次に、本発明の積層体の製造方法について詳述する。
本発明の積層体は、PETフィルムなどの熱可塑性樹脂フィルム[I]の上に、光硬化性組成物(a)を塗布し、光硬化して光硬化樹脂(A)層を形成し、次いで、光硬化樹脂(A)層の上に光硬化性組成物(b)または(b’)を塗布し、光硬化して光硬化樹脂(B)層を形成することにより製造される。塗布及び光硬化は、一般的なウェットコートの手法を用いて順次行ってもよいし、光硬化樹脂(A)層の光硬化は熱可塑性樹脂フィルム[I]とガラス板などの透光性材料の間で行ってもよいが、表面硬度や密着性の向上の点で、次の工程(1)~(6)で行うことが好ましい。
【0061】
(1)熱可塑性樹脂フィルム[I]に光硬化性組成物(a)を塗布する工程
(2)光硬化性組成物(a)上に熱可塑性樹脂フィルム[II]をかぶせる工程
(3)活性エネルギー線を照射して光硬化性組成物(a)を硬化させる工程
(4)光硬化樹脂(A)層から熱可塑性樹脂フィルム[II]を剥離する工程
(5)光硬化樹脂(A)層上に光硬化性組成物(b)または(b’)を塗布する工程
(6)活性エネルギー線を照射して光硬化性組成物(b)または(b’)を硬化させる工程
…(中略)…
【0067】
工程(4)において、光硬化樹脂(A)層から熱可塑性樹脂フィルム[II]を剥離し、熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層の積層体を得る。両者の密着性を高めるため、易接着PETフィルムなどの表面処理された熱可塑性樹脂フィルム[I]を用いても良い。」
カ 段落【0071】~【0077】
「【0071】
光硬化性組成物(a)や光硬化性組成物(b)または(b’)を塗布する手法は、特に限定されず、ダイコート、スピンコート、バーコート、スプレーコート、ロールコート、片面をマスクしたディップコート、スクリーン印刷などの公知の手法が用いられる。この中でも、生産性の観点からダイコートが好ましい。
【0072】
光硬化性組成物(a)や光硬化性組成物(b)または(b’)は必要に応じて、有機溶剤を配合し、粘度を調整して使用することも可能である。かかる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、トルエン、キシレン等の芳香族類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、ジアセトンアルコール等が挙げられる。これら上記の有機溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
有機溶剤で希釈する場合は、塗布後、乾燥処理を行った後に光硬化を行う。
…(中略)…
【0077】
本発明の積層体は、ディスプレイの保護フィルムとして非常に有用であり、積層体の片面に粘着剤層を形成し、粘着層付き保護フィルムとすることができる。粘着剤層の材料は特に限定されず、アクリル系やシリコン系の粘着剤が適宜使用される。粘着剤層は、積層体において、熱可塑性樹脂フィルム[I]の、光硬化樹脂(A)層及び光硬化樹脂(B)が積層された逆面に形成されていることが好ましい。」
キ 段落【0083】
「【0083】
(3)耐屈曲性(マンドレル試験)
100mm×50mmの試験片を23℃、50%環境下で48時間放置した後、JISK5600-5-1:1999 円筒形マンドレル法による耐屈曲性の試験(タイプ1の試験装置でマンドレルの直径2mm、折り曲げ時間2秒、23℃50%環境下で試験)を行い、光硬化樹脂層を顕微鏡と目視で観察し、以下の通り評価した。
○・・・変化無し
△・・・顕微鏡でヒビやクラックが観察される
×・・・目視の外観検査で白濁が見られる」
ク 段落【0093】~【0095】、【0115】
「【0093】
<実施例1>
[光硬化性組成物(a)の調製]
6官能脂環構造含有ウレタンアクリレート(a1-1)30部、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート(a2-1)70部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(a3-1)5部を、60℃にて均一になるまで撹拌した後、100μmのフィルターで濾過して光硬化性組成物(a-1)を得た。かかる光硬化性組成物(a-1)を光硬化して得られた光硬化樹脂の曲げ弾性率は4GPaであった。
【0094】
[光硬化性組成物(b)の調製]
6官能脂環構造含有ウレタンアクリレート(b1-1)60部、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート(b2-1)40部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(b3-1)5部、メガファックRS-75(b4-1)1部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100部を、60℃にて均一になるまで撹拌した後、100μmのフィルターで濾過して光硬化性組成物(b-1)を得た。かかる光硬化性組成物(b-1)を80℃で乾燥した後、光硬化した。得られた光硬化樹脂の曲げ弾性率は5GPaであった。
【0095】
[積層体[I]の作製]
熱可塑性樹脂フィルム[I]として、幅200mm、長さ300mm、厚さ0.1mmの2軸延伸PETフィルム(三菱樹脂社製、「ダイヤホイルT600E」)を用意し、該フィルムの易接着面上に、上記の光硬化性組成物(a-1)をバーコートで厚さ0.05mmに塗布した。次いで、熱可塑性樹脂フィルム[II]として、厚さ0.025mmの2軸延伸PETフィルム(三菱樹脂社製、「ダイヤホイルS100」)を用意し、光硬化性組成物(a-1)の上にかぶせ、上部より照度100mw/cm2で、光量1J/cm2の紫外線を照射して光硬化を行い、光硬化樹脂(A)層を形成した。熱可塑性樹脂フィルム[II]を剥離除去した後、遠赤外線加熱装置(二葉科学製「FR-24」)を用いて、光硬化樹脂(A)層の表面が200℃となるよう遠赤外線加熱を1分間行い、更に、常圧プラズマ表面処理装置(積水化学製「RD640」)を用いてプラズマ処理を行った。処理速度は10m/分で行った。最後に、光硬化樹脂(A)層の上に、光硬化性組成物(b-1)をバーコートで厚さ0.02mmに塗布し、80℃で10分間乾燥した後、上述した照射条件で光硬化を行い、光硬化樹脂(B)層を形成した。光硬化樹脂(B)層の表面も200℃となるよう遠赤外線加熱を1分間行い、熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層/光硬化樹脂(B)層の層構成を有する積層体を得た。
得られた積層体については、上記の評価を行ったところ、表2に示されるとおり良好な性能を有していた。」
「【0115】
【表2】
[図:0001399982000001.jpg]
」
(2) 引用文献1の記載から認定した事項
前記(1)キ及びクに摘記した引用文献1の記載から、JISK5600-5-1:1999 円筒形マンドレル法による耐屈曲性の試験(タイプ1の試験装置でマンドレルの直径2mm、折り曲げ時間2秒、23℃50%環境下で試験)を行い、光硬化樹脂層を顕微鏡と目視で観察したときの変化が無い積層体が得られていると認められる。
(3) 引用発明の認定
前記(1)に摘記した事項及び前記(2)において認定した事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明>
「 折り曲げたり丸めたりできるフレキシブルディスプレイであって、(【0003】)
そのフレキシブルディスプレイ用の保護フィルムとして、表面硬度と、繰り返しの屈曲にも耐えるといった耐屈曲性に優れる積層体を有し、(【0009】)
前記積層体は、
熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層/光硬化樹脂(B)層の層構成を有し、(【0011】)
前記積層体の片面に粘着剤層を形成し、粘着剤層は、積層体において、熱可塑性樹脂フィルム[I]の、光硬化樹脂(A)層及び光硬化樹脂(B)が積層された逆面に形成されて、ディスプレイの保護フィルムである粘着層付き保護フィルムとしてなり、(【0077】)
前記熱可塑性樹脂フィルム[I]は、透明性を有するものであり、ポリエチレンテレフタレート(PET)の熱可塑性樹脂からなり、(【0027】)
前記熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層の密着性を高めるため、易接着PETフィルムなどの表面処理された熱可塑性樹脂フィルム[I]を用いても良く、(【0067】)
前記積層体は、光線透過率が85%以上であり、(【0017】)
前記熱可塑性樹脂フィルム[I]の厚さは0.03~0.15mmであり、(【0024】)
前記光硬化樹脂(A)層としては、(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられ、多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物を含有してなる光硬化性組成物(a)を硬化してなるものであり、(【0028】)
前記光硬化樹脂(B)層としては、(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられ、多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物を含有してなる光硬化性組成物(b)を硬化してなるものであり、(【0035】)
光硬化樹脂(A)層の厚さ(At)と光硬化樹脂(B)層の厚さ(Bt)の合計(At+Bt)は、0.07mm以下であり、(【0021】、【0022】)
積層体は、PETフィルムなどの熱可塑性樹脂フィルム[I]の上に、光硬化性組成物を塗布し、光硬化して光硬化樹脂(A)層を形成し、次いで、光硬化樹脂(A)層の上に光硬化性組成物を塗布し、光硬化して光硬化樹脂(B)層を形成することにより製造され、(【0060】)
前記積層体における光硬化樹脂(B)層のJIS K 5600-5-4に準じて測定した鉛筆硬度は、6H以上であり、(【0057】、【0082】)
前記積層体は、JISK5600-5-1:1999 円筒形マンドレル法による耐屈曲性の試験(タイプ1の試験装置でマンドレルの直径2mm、折り曲げ時間2秒、23℃50%環境下で試験)を行い、光硬化樹脂層を顕微鏡と目視で観察したときの変化が無いものである、(前記(2)の認定事項)
フレキシブルディスプレイ。」
2 技術常識及び周知技術の認定
(1) 技術常識Aについて
ア 引用文献12に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である「JIS K 7367-5 : 2000 プラスチック-毛細管形粘度計を用いたポリマー希釈溶液の粘度の求め方-第5部:熱可塑性ポリエステル(TP)ホモポリマー及びコポリマー」、日本規格協会、2000年1月20日(以下「引用文献12」という。)には、次の記載がある。
「1. 適用範囲
この規格は,熱可塑性ポリエステル(TPs)を規定の溶媒で希釈して得た溶液の粘度数を測定する方法を規定する。この方法は,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT),ポリエチレンナフタレート(PEN),及び共重合ポリエステル並びに他のポリエステルなどISO 7792-1に規定され,規定溶媒のどれかに規定条件下で溶解するものに適用できる。
粘度数は,この規格で規定する特定条件によって,ISO 1628-1に規定される一般的な方法で測定する。
熱可塑性ポリエステルの粘度数を測定することによって,そのポリマーの相対的な分子量の大きさを知ることができる。
…(中略)…
3. 原理
溶媒及びポリマー0.005g/ml溶液の25℃における流下時間を通常の方法で測定し,これらの測定結果と適用したポリマー濃度に基づいて粘度数を計算する。
…(中略)…
6. 溶媒及び溶解
6.1溶媒の選択
6.1.1熱可塑性ポリエステルの粘度数の値は,使用する溶媒によって異なる。この規格では,次の6種類の溶媒を規定する。
フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(4.1)
フェノール/1, 1, 2, 2-テトラクロロエタン(4.2)
o-クロロフェノール(4.3)
m-クレゾール(4.4)
ジクロロ酢酸(4.5)
フェノール/2, 4, 6-トリクロロフェノール(4.6)
溶媒の流下時間は,これを使用する際には少なくとも1日に1回測定しなければならない(7.2参照)。その流下時間が,溶媒を準備した際の当初の値から1%以上異なる場合は,その溶媒を廃棄し,新しい溶媒を調製する。
特定の熱可塑性ポリエステルに用いる溶媒は,次に規定する。
6.1.2 PETには,フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50),フェノール/1, 1, 2, 2-テトラクロロエタン(50/50,又は,60/40),o-クロロフェノール,又は,ジクロロ酢酸のいずれかを溶媒として用いる。
備考 これら4種類の溶媒間の粘度数の換算式は,附属書A(参考)A.3.1に示す。
…(中略)…
8. 結果の表示
粘度数は,次の式によって算出し,ml/gで表す。」
「附属書A(参考) ラウンドロビンテスト
…(中略)…
A.3 種々の溶媒で測定した粘度数の相互換算
種々の溶媒で測定した粘度数の相関は,次のとおりである。
A.3.1 PETの粘度数
フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)に溶かしたPETと,フェノール/1, 1, 2, 2-テトラクロロエタン(50/50, 60/40),o-クロロフェノール及びジクロロ酢酸に溶かしたPETの粘度数の相関図を,附属書図A.1に示す。
この図から,直線関係であることが分かる。それらの関係を次に示す。
a) フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)とフェノール/1, 1, 2, 2-テトラクロロエタン(50/50)
y=1.07x-2.00
b) フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)とフェノール/1, 1, 2, 2-テトラクロロエタン(60/40)
y=0.83x+11.07
c) フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)とo-クロロフェノール
y=0.82x+8.40
d) フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)とジクロロ酢酸
y=0.83x+15.00
ここに,y:代替溶媒での粘度数
x: フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)での粘度数」
「
[図:0001399982000002.jpg]
」
イ 技術常識Aの認定
前記アに摘記した引用文献12の「JIS K 7367-5 : 2000」に示されているように、次の事項は、本願の出願前において、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識A」という。)。
[技術常識A]
「ポリエチレンテレフタレートの粘度数の値は、測定に使用する溶媒によって異なり、それぞれ以下の相関関係を有すること。
b) フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)とフェノール/1, 1, 2, 2-テトラクロロエタン(60/40)
y=0.83x+11.07
c) フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)とo-クロロフェノール
y=0.82x+8.40
y:代替溶媒での粘度数(ml/g)
x: フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)での粘度数(ml/g)」
(2) 技術常識Bについて
ア 引用文献13に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である「化学大辞典」、株式会社東京化学同人 出版日:1989年10月20日(以下「引用文献13」という。)の1737頁の「粘度平均分子量」には、次の記載がある。
「 粘度平均分子量[viscosity-average molecular weight]
分子量分布をもつ高分子試料に対する平均分子量の一種.記号は
[図:0001399982000003.jpg]
を用いる.
…(中略)…
また試料全体の固有粘度[η]は
[図:0001399982000004.jpg]
となり,[η]から
[図:0001399982000005.jpg]
が求まる.」
イ 技術常識Bの認定
前記アに摘記した引用文献13に示されているように、次の事項は、本願の出願前において、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識B」という。)。
[技術常識B]
「固有粘度と分子量分布をもつ高分子試料に対する平均分子量との間には正の比例関係があること。」
(3) 技術常識1について
ア 引用文献2に記載された事項
当審拒絶理由において引用した引用文献2(特開2006-231845号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア) 段落【0001】、【0057】
「【0001】
本発明は、透明基材フィルムに、熱または光により硬化したハードコート層を有し、高表面硬度で耐擦傷性に優れ、レベリング性(平滑性)及びリコート性(再塗布性)に優れたハードコートフィルムに関するものである。本発明のハードコート層を透明基材上に設けることによりレベリング性及びリコート性かつ耐擦傷性に優れたハードコートフィルムを得ることができ、さらに本発明のハードコート層を設けた透明基材はPDP、LCD、有機EL、電子ペーパーなどのディスプレイの表面やタッチパネルなどの反射防止フィルムや保護フィルムに好適である。」
「【0057】
このようにして得られた本発明のハードコートフィルムは、製膜工程内で一気にハードコート層を設けることができるので生産性がよく、塗膜表面の硬度が高く、リコート性も優れており、塗膜表面の平滑性にも優れて視認性も優れているので、広範な用途で使用可能である。特に、PDP,LCD,有機EL,電子ペーパーなどのディスプレイの表面の反射防止フィルム基材やタッチパネル基材などとして好適である。」
(イ) 段落【0011】
「【発明の効果】
【0011】
本発明は、ハードコート層表面の平滑性が向上したものであり、その上に設ける機能性材料の塗布性が向上するため、耐摩耗性、リコート性、視認性に優れ、ディスプレイ用反射防止フィルムのようなハードコート機能を有し、かつ多層を積層する用途に好適に用いることができる。」
(ウ) 段落【0012】~【0015】
「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の最良の実施形態の例を説明する。
【0013】
本発明における基材フィルムは、溶融製膜や溶液製膜可能なフィルムである。その具体例としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、トリアセテート及びポリカーボネートからなるフィルムを挙げることができる。これらの内、特に透明性、機械的強度及び寸法安定性などに優れた熱可塑性樹脂、特にポリエステルからなるフィルムが好ましく用いられる。
【0014】
ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリプロピレンナフタレートなどが挙げられ、これらの2種以上が混合されたものであってもよい。また、これらと他のジカルボン酸成分やジオール成分が共重合されたものであってもよいが、この場合は、結晶配向が完了したフィルムにおいて、その結晶化度が好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上のフィルムが好ましい。結晶化度が25%未満の場合には、寸法安定性や機械的強度が不十分となりやすい。結晶化度はラマンスペクトル分析法により測定することができる。
【0015】
上述したフィルムを使用する場合には、その極限粘度(JIS K7367に従い、25℃のo-クロロフェノール中で測定)は、0.4~1.2dl/gが望ましく、より好ましくは0.5~0.8dl/gである。極限粘度が0.4g/dlより小さいと、強度が不足して好ましくない。また極限粘度がこの好適範囲を超えて大きくなっても過剰品質となるばかりか、かえってフィルム製造時の操業性を悪化させ、経済的に好ましくない場合がある。」
イ 引用文献3に記載された事項
当審拒絶理由において引用した引用文献3(特開2002-258760号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表示装置の表示面に貼り合せるのに好適な着色ハードコートフィルムに関する。さらに詳しくは、CRTや液晶表示装置などの電子ディスプレイの表示面に貼り合せることで、映像のコントラストや色純度を向上できる着色ハードコートフィルムに関する。
…(中略)…
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上述の問題を解消し、電子ディスプレイなどの表示装置に、輝度を低下させることなく、高い色純度、高いコントラストおよび優れた反射防止性能を発現させることにある。」
「【0033】以下、本発明の透明基材フィルムとして、好ましい軸配向ポリエステルフィルムについて詳述する。
【0034】本発明における2軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等が例示でき、これらの共重合あるいはブレンドしたものも含まれる。これらのなかでも、ポリエステルの重量を基準として、70重量%以上がポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートからなるものが好ましく、特に2軸配向フィルムとした際の加工性や透明性からエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートが好ましい。
…(中略)…
【0037】該ポリエステルの固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)は0.52~1.50であることが好ましく、さらに好ましくは0.57~1.00、特に好ましくは0.60~0.80である。この固有粘度が0.52未満の場合には製膜性が低下しやすく、他方、固有粘度が1.50を超えると、成形加工性が損なわれる場合がある。」
ウ 技術常識1の認定
(ア) 前記イに摘記した引用文献3の記載中「固有粘度」は、「極限粘度」と同義であることは明らかである(化学大辞典(株式会社東京化学同人 出版日:1989年10月20日 p.588「極限粘度数」)を参照。以下、この審決において同様。)。
(イ) また、前記イに摘記した引用文献3の記載中「固有粘度」の単位について明示はないが、dl/gが慣用的に使用されていること(例えば前述の引用文献2の段落【0015】を参照)に鑑みれば、dl/gであることは自明である。
(ウ)a ここで、ポリエチレンテレフタレートの粘度数(極限粘度)の測定値は、測定に使用する溶媒によって異なり、測定溶媒に応じて、フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)(x)とフェノール/1, 1, 2, 2-テトラクロロエタン(60/40)(y)との間に、「y=0.83x+11.07」の相関関係があり、フェノール/1, 2-ジクロロベンゼン(50/50)(x)とo-クロロフェノール(y)との間に、「y=0.82x+8.40」の相関関係があることは技術常識であり(技術常識Aを参照)、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(60/40)を用いた測定値(Y)とo-クロロフェノールを用いた測定値(X)の換算式はおおむね、「Y=1.0122X+0.0257」となる(x及びyの単位はml/g、X及びYの単位はdl/g)。
b そして、前記引用文献2の段落【0015】に記載された極限粘度の値である「0.5~0.8dl/g」は、上記に従って、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(60/40)を用いた測定値に換算すると、0.5318~0.835(dl/g)となる。
c また、引用文献3の段落【0037】に記載された固有粘度の値である「0.6~0.80」は、同様に換算すると、「0.633~0.835」となる。
(エ) 前記ア及びイに摘記した引用文献2及び引用文献3の記載事項、並びに、前記(ア)~(ウ)の認定事項を総合すると、次の事項は、本願の出願前において、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という。)
[技術常識1]
「ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムの製造において、極限粘度が高すぎるとフィルムの製造・加工が困難になることから、その材料のフェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒を用いて測定した極限粘度の値で評価した場合に0.835(dl/g)程度以下にすること。」
(4) 技術常識2について
ア 引用文献8~10に記載された事項
(ア) 引用文献8に記載された事項
当審拒絶理由において引用した引用文献8(特開2015-115171号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0011】
当該透明導電性フィルムでは、シクロオレフィン系樹脂フィルムに硬化樹脂層を形成しているので、シクロオレフィン系樹脂フィルムの傷付きを防止することができる。また、硬化樹脂層として重量平均分子量が10000以上の高分子量成分(以下、単に「高分子量成分」ともいう。)を含む樹脂組成物が硬化された層を採用しているので、硬化樹脂層における高分子量成分に由来する領域がソフトセグメントとして機能し、その結果、ハードコートフィルムに対して180°折り曲げ試験を行っても破断の発生を防止するだけの柔軟性を硬化樹脂層に付与することができる。これにより、樹脂フィルム搬送時に張力や捻りが加わっても容易に硬化樹脂層が割れず、ハードコートフィルムの破断を防止することができる。」
(イ) 引用文献9に記載された事項
当審拒絶理由において引用した引用文献9(特開2015-25136号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0042】
本発明によるアクリル系共重合体は、フィルム成形した場合の可とう性およびメルトフローレート(MFR)等のフィルム製造効率の観点から、重量平均分子量Mwが、0.5×105以上、2.6×105以下の範囲であり、0.7×105以上、2.4×105以下の範囲であることが好ましく、0.8×105以上、2.2×105以下の範囲であることがより好ましい。アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwを0.5×105以上とすることにより、フィルム成形した場合の可とう性を向上させることができ、その結果、フィルムのMIT耐折度回数を向上させることができる。一方、アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwが2.6×105を超えると、アクリル系共重合体の溶融時の粘度が高くなり過ぎて、フィルムの製造効率が悪化する場合がある。例えば、アクリル系共重合体を用いて押出成形機によりフィルムを製膜する場合、押出成形機には樹脂中の異物等を除去するためのフィルターが備えられているが、樹脂の溶融粘度が高くなり過ぎると、フィルターにかかる圧力が高くなり、フィルター性能が低下したり、場合によってはフィルターが破損してしまう場合がある。本発明によれば、アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwを2.6×105以下とすることにより、メルトフローレート(MFR)を1.0g/10分以上とすることができ、上記したようなフィルム製膜時のフィルター性能の低下を抑制して、製造効率を向上させることができる。したがって、本発明によるアクリル系共重合体は、重量平均分子量Mwが上記範囲内であるため、フィルム成形した場合の可とう性およびフィルム製造効率を向上させることができる。」
(ウ) 引用文献10に記載された事項
当審拒絶理由において引用した引用文献10(特開2013-114198号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0040】
共重合体の重量平均分子量は、5.0×104以上であることが好ましく、1.0×105以上であることがより好ましい。このような共重合体では、樹脂材料の溶融押出においてポリマー主鎖がより配向し易くなるため、一層優れた耐屈曲性を有する光学フィルムが得られる。」
「【0064】
光学フィルムの耐屈曲性の試験方法としては、JIS P8115に準拠したMIT耐屈度試験を行うことができる。本実施形態におけるMIT耐屈度試験回数は、テスター産業株式会社製のBE-201 MIT耐屈度試験機を使用して測定される。なお、テスター産業株式会社製のBE-201 MIT耐屈度試験機は、MIT耐折度試験機とも呼ばれている。測定条件は加重200g、折り曲げ点先端Rは0.38、屈曲速度は175回/分、屈曲角度は左右135°とし、フィルムサンプルの幅は15mmとする。そして、光学フィルムの搬送方向に繰り返し屈曲させたときに破断した屈曲回数と、幅方向に繰り返し屈曲させたときに破断した屈曲回数との平均値をMIT耐屈度試験回数とする。
…(中略)…
【0067】
このようにして得られた光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、且つ、耐屈曲性及び耐熱性に優れる。そのため、この光学フィルムは、液晶表示装置等の光学関連機器に用いられる光学部材として好適に使用することができる。」
イ 技術常識2の認定
前記ア(ア)~(ウ)のいずれを見ても、平均分子量が一定以上の高分子材料を用いることで、当該高分子材料から得られたフィルムが耐屈曲試験に対して優れた性能を有するものとなることが記載されているように、次の事項は、本願の出願前において、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識2」という。)。
[技術常識2]
「一定以上の分子量の高分子材料を用いることで耐屈曲性に優れたフィルムが得られること。」
(5) 技術常識3から技術常識5について
ア 引用文献6、14に記載された事項
(ア) 引用文献6に記載された事項
当審拒絶理由において引用した引用文献6(特開2016-157110号公報)には、以下の事項が記載されている。
a 段落【0002】~【0006】
「【背景技術】
【0002】
近い将来に、単に曲がって固定された形態のカーブドスマートフォンを越えて曲げたり折り畳んだりすることができる形態のモバイル機器が市場に登場する展望である。
【0003】
これは、現在商用化されたカーブドディスプレイよりも一段階進化した形態のフレキシブルディスプレイを適用した製品である。フレキシブルディスプレイ技術は、単に曲がった形態のカーブド(curved)から折り曲げ可能なベンダブル(bendable)、折り畳み可能なフォルダブル(foldable)形態に進化した後、最終的にはくるくる巻き付けることができるローラブル(rollable)形態や大きさを自在に増減できるストレッチブル(stretchable)形態まで進化すると展望される。
【0004】
ディスプレイを折り畳み可能な形態に設計した場合、展開するとタブレット、折り畳みとスマートフォンとして使えるようにして、それぞれ異なるサイズのディスプレイを一つの製品で実現可能となり、またスマートフォンよりは大型のタブレットやTVのような機器の場合、折り畳んで持ち歩くことができるようになればその便利さが倍加すると考えられる。
【0005】
折り畳みディスプレイは、本やノートのように半分に折り畳み可能なディスプレイであって、多くの会社で多様な技術および特許が提案されている。
【0006】
近年、日本のSEL(Semiconductor Energy Laboratory)とAFD(Advanced Film device)、ノキア社が、二つ折りまたは三つ折りに折り畳み可能なOLED折り畳みディスプレイを提案したことがある。」
b 段落【0009】、【0010】、【0019】、【0041】
「【0009】
通常、ディスプレイの場合、最外部にディスプレイの保護のためにガラス材のカバーウインドウを備える。しかし、ガラスの場合、折り畳みディスプレイへの適用が不可能であり、ガラスに代えて、高硬度および耐摩耗特性を持つ高硬度ハードコーティングフィルムが使用されている。
【0010】
ガラス水準の硬度を確保するためには、ハードコーティングフィルム中のハードコーティング層の厚さを厚くする必要があり、その厚さを増加させるほど表面硬度は高くすることができるものの、ハードコーティング層の硬化収縮によってシワやカール(curl)が大きくなるとともに、ハードコーティング層のクラック(または、亀裂)や剥離が生じやすくなるため、実用的に適用することは容易ではない。
【0019】
また、本発明の他の目的は、前記折り畳みハードコーティングフィルムをディスプレイに適用する用途を提供することにある。
【0041】
本発明に係る折り畳みハードコーティングフィルム10は、500g荷重での鉛筆硬度が5H以上、または、7H以上、または、9H以上である高硬度ハードコーティングフィルムである。この折り畳みハードコーティングフィルム10は、摩擦試験機に1kgの荷重で10回往復させたときにスクラッチが10個以下発生する耐スクラッチ性を持つ。さらに、光透過率が87.0%以上、または、90.0%以上であってよく、またヘイズが2.0%以下、または、1.0%以下、または、0.5%以下であってよい。」
c 段落【0042】
「【0042】
特に、折り込み部3aと非折り込み部3bとからなる構造により、過酷な条件下での曲げテスト(5mmマンドレルで20万回屈曲テスト)でもクラックが発生しない。」
(イ) 引用文献14に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である国際公開第2016/047798号(以下「引用文献14」という。)には、以下の事項が記載されている。
「[0041] 本発明のハードコートフィルムにおいて、ハードコート層の厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは1μm~20μm、より好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1μm~10μmである。
ハードコート層の厚みが20μmを超える場合、電子線硬化型樹脂の硬化収縮によりハードコートフィルムのカールが大きくなりすぎてしまい、取り扱い性が低下する。またハードコート層の厚みが1μm未満である場合、ハードコート層は十分なハード性を有さず、ハードコートフィルムの機能を満たさない恐れがある。」
イ 技術常識3の認定
前記ア(ア)bに摘記した引用文献6の記載及び前記ア(イ)に摘記した引用文献14の記載に例示されるように、次の事項は、本願の出願前において、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識3」という。)
[技術常識3]
「ハードコート層の厚みを大きくすることで表面硬度を高くできる一方で、硬化収縮によるカールが大きくなること。」
ウ 技術常識4の認定
前記ア(ア)aに摘記した引用文献6の記載に例示されるように、次の事項は、本願の出願前において、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識4」という。)
[技術常識4]
「有機ELディスプレイを用いた折畳み可能なディスプレイ」という概念。
エ 技術常識5の認定
前記ア(ア)bに摘記した引用文献6の記載に例示されるように、次の事項は、本願の出願前において、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識5」という。)
[技術常識5]
「ディスプレイの最外部に設けるハードコーティングフィルムのヘイズ値は小さいことが望ましく、例えば2.0%以下とすること。」
(6) 周知技術1の認定
ア 引用文献11に記載された事項
当審拒絶理由において引用した引用文献11(特開2006-272675号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
一般に、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等のディスプレイの部材に用いられる光学機能性フィルムの基材には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル系ポリマー、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィン等からなる透明フィルムが用いられている。これらの基材フィルムを各種光学機能フィルムに用いる場合には、基材フィルムに、各種用途に応じた機能層が積層される。例えば、表面の傷つきを防止する保護膜(ハードコート層)、外光の映り込みを防止する反射防止層(AR層)、光の集光や拡散に用いられるプリズム層、輝度を向上する光拡散層等の機能層が挙げられる。これらの基材の中でも、特に、二軸配向ポリエステルフィルムは、優れた透明性、寸法安定性、耐薬品性の点から、各種光学機能性フィルムの基材として広く使用されている。
【0003】
一般に、二軸配向ポリエステルフィルムや二軸配向ポリアミドフィルムのような二軸配向熱可塑性フィルムの場合、フィルム表面は高度に結晶配向しているため、各種塗料、接着剤、インキなどとの密着性に乏しいという欠点がある。このため、従来から二軸配向熱可塑性樹脂フィルム表面に種々の方法で易接着性を付与する方法が提案されてきた。
【0004】
また、ポリオレフィンフィルムのような極性基を有しないフィルムでは、各種塗料、接着剤、インキなどとの密着性が非常に乏しいため、事前にコロナ放電処理、火焔処理などの物理的処理や化学処理を行った後、フィルム表面に種々の方法で易接着性を付与する方法が提案されてきた。
【0005】
易接着性を付与する方法としては例えば、基材の熱可塑性樹脂フィルムの表面に、ポリエステル、アクリル系ポリマー、ポリウレタン、アクリルグラフトポリエステルなどの各種樹脂を被覆層の主たる構成成分とし、塗布法によって基材フィルムに前記被覆層を設ける方法が一般的に知られている。中でも共重合ポリエステル樹脂は、ディスプレイの拡散板やプリズムレンズの基材フィルムとして多用されている二軸配向ポリエステルフィルムとの接着性に優れるため、一般に、被覆層の材料としてよく使われている。また、塗布法としては、結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムに、直接又は必要に応じてコロナ放電処理を施してから、前記樹脂の溶液または樹脂を分散媒で分散させた分散体を含有する水性塗布液を基材フィルムに塗工し、乾燥後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を施して、熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させる方法(いわゆる、インラインコート法)や、熱可塑性樹脂フィルムの製造後、該フィルムに水系または溶剤系の塗布液を塗布後、乾燥する方法(いわゆる、オフラインコート法)が工業的に広く実施されている。」
イ 周知技術1の認定
前記アに摘記した引用文献11の記載に例示されるように、次の事項は、本願の出願前において、当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術1」という。)
[周知技術1]
「基材フィルムとハードコート層などの機能層との密着性を向上させるために、ポリエステル、アクリル系ポリマー、ポリウレタン、アクリルグラフトポリエステルなどの各種樹脂からなる易接着性の被覆層を設けること。」
第5 対比
1 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
(1) 本願発明は「折りたたんだ際の屈曲半径が5mm以下である折りたたみ型ディスプレイ」であるから、柔軟性を有する(フレキシブルである)ことは自明であり、本願発明と引用発明は「フレキシブルディスプレイ」の発明である点で共通する。
(2)ア 引用発明の「積層体」は表面硬度に優れており、本願発明の「ハードコートフィルム」に相当する。
イ ここで、引用発明は、フレキシブルディスプレイ用の保護フィルムとして特に耐屈曲性に優れる積層体を有しているフレキシブルディスプレイであるところ、引用発明の積層体がディスプレイ全体に一様に配置されており、かつ、折り曲げたり丸めたりできるフレキシブルディスプレイの折曲げ部分にも積層体が配されていることは、自明である。
ウ したがって、本願発明と引用発明は、「フレキシブルディスプレイの折曲げ部分を介して連続した単一のハードコートフィルムが配され[ている]」点で共通する。
(3) 引用発明においては、積層体の片面に粘着剤層を形成し、粘着剤層は、積層体において、熱可塑性樹脂フィルム[I]の、光硬化樹脂(A)層及び光硬化樹脂(B)が積層された逆面に形成されて、ディスプレイの保護フィルムである粘着層付き保護フィルムとしており、積層体は粘着剤層を介してディスプレイのパネルに貼合されていると認められるから、本願発明と引用発明は、「フレキシブルディスプレイの表面の少なくとも一部は、ハードコートフィルムが粘着層を介してディスプレイパネルに貼合されて[いる]」点で共通する。
(4)ア(ア) 引用発明の積層体は、熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層/光硬化樹脂(B)層の層構成を有しているところ、引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム[I]」は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、本願発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム」に相当する。
(イ) 「光硬化樹脂(A)層」及び「JIS K 5600-5-4に準じて測定した鉛筆硬度は、6H以上であ[る]」「光硬化樹脂(B)層」は、全体として、本願発明の「ハードコート層」に相当する。
イ また、引用発明においては、前記(3)のディスプレイと積層体の配置関係を踏まえると、フレキシブルディスプレイの表面側に光硬化樹脂層(ハードコート層)が設けられていると認められる。
ウ 引用発明においては、熱可塑性樹脂フィルム[I]/光硬化樹脂(A)層の密着性を高めるため、易接着PETフィルムなどの表面処理された熱可塑性樹脂フィルム[I]を用いていることから、前記ア(イ)を踏まえると、引用発明は、ポリエチレンテレフタレートフィルムとハードコート層の密着性を向上するための措置が施されたものであると言うことができる。
エ 前記ア~ウの検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の点で共通する。
「ハードコートフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、そのポリエチレンテレフタレートフィルムのフレキシブルディスプレイの表面側にハードコート層とを有し、ポリエチレンテレフタレートフィルムとハードコート層の密着性を向上するための措置が施されている」点で共通する。
(5) 引用発明においては、積層体の光線透過率は85%以上であり、積層体を構成する熱可塑性樹脂フィルム[I]についても前記の85%以上の光線透過率を有することは自明である。
したがって、本願発明と引用発明は、「ポリエチレンテレフタレートフィルムの全光線透過率は85%以上であ[る]」点で共通する。
(6) 引用発明においては、光硬化樹脂(A)層及び光硬化樹脂(B)層は、多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物を含有してなる光硬化性組成物(a)を硬化して得られるものであり、また、積層体は、熱可塑性樹脂フィルム[I]の上に、光硬化性組成物を塗布し、光硬化することで光硬化樹脂(A)層及び光硬化樹脂(B)が形成されているから、本願発明と引用発明は、「ハードコート層は、ウレタンアクリレート系ハードコート剤又はアクリレート系ハードコート剤を含む塗布液を硬化させてなるものであ[る]」点で一致する。
(7) 引用発明においては、積層体における光硬化樹脂(B)層のJIS K 5600-5-4に準じて測定した鉛筆硬度は、6H以上であり、JIS K 5600-5-4の「4 原理」によれば、「試験の間,鉛筆は塗面に対して角度45°,荷重750gで押すように取り付ける」ことから、本願発明と引用発明は、「JIS K5600-5-4:1999に準拠して750g荷重で測定したハードコート層の鉛筆硬度がH以上である」点で一致する。
2 一致点及び相違点の認定
前記1の対比分析の検討結果を総合すると、本願発明と引用発明は、次の(1)の一致点において一致し、後記(2)の相違点において相違する。
(1) 一致点
「 フレキシブルディスプレイであって、
フレキシブルディスプレイの折曲げ部分を介して連続した単一のハードコートフィルムが配され、
フレキシブルディスプレイの表面の少なくとも一部は、ハードコートフィルムが粘着層を介してディスプレイパネルに貼合されてなり、
ハードコートフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、そのポリエチレンテレフタレートフィルムのフレキシブルディスプレイの表面側にハードコート層とを有し、ポリエチレンテレフタレートフィルムとハードコート層の密着性を向上するための措置が施されており、
ポリエチレンテレフタレートフィルムの全光線透過率は85%以上であり、
ハードコート層は、ウレタンアクリレート系ハードコート剤又はアクリレート系ハードコート剤を含む塗布液を硬化させてなるものであり、
JIS K5600-5-4:1999に準拠して750g荷重で測定したハードコート層の鉛筆硬度がH以上であることを特徴とするフレキシブルディスプレイ。」
(2) 相違点
ア 相違点1
本願発明においては、
「ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは10~75μmであり、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒を用いて測定したポリエチレンテレフタレートフィルムの極限粘度が0.73~0.80dL/gであ[る]」のに対し、
引用発明においては、
ポリエチレンテレフタレート(PET)の熱可塑性樹脂フィルム[I](本願発明における「ポリエチレンテレフタレートフィルム」に相当する。)の厚さは0.03~0.15mm(30μm~150μm)であり、本願発明のポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みの範囲と重なりはあるものの、その上限値及び下限値において相違し、
また、「熱可塑性樹脂フィルム[I]」の極限粘度について明示されていない点。
イ 相違点2
本願発明においては、
「ハードコート層の厚みは1~40μm」であるのに対し、
引用発明においては、
全体として本願発明における「ハードコート層」に相当する「光硬化樹脂(A)層と光硬化樹脂(B)層」について、その合計の厚さは、0.07mm以下」であり、数値範囲に重なりはあるものの数値範囲が異なる点。
ウ 相違点3
ディスプレイが、
本願発明においては、
「折りたたんだ際の屈曲半径が5mm以下である折りたたみ型ディスプレイであって、折りたたみ型ディスプレイの折りたたみ部分を介して連続した単一のハードコートフィルムが配され」ており、ディスプレイパネルが「有機ELモジュール」であるのに対し、
引用発明においては、
フレキシブルディスプレイが「折り曲げられる」ものの「折りたたみ型」であるか否かが不明であって、それとともに、折りたたんだ際の屈曲半径が5mm以下であるか否かについて不明であり、ディスプレイパネルについて限定がない点。
エ 相違点4
本願発明と引用発明は、ポリエチレンテレフタレートフィルム(熱可塑性樹脂フィルム[I])とハードコート層(光硬化樹脂(A)層及び光硬化樹脂(B)層)の密着性を向上するための措置が施されている点で共通するものの、当該密着性を向上するための措置として、
本願発明においては、易接着層を設けており、「易接着層は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、又はポリエーテル樹脂を含[む]」のに対し、
引用発明においては、易接着PETフィルムなどの表面処理された熱可塑性樹脂フィルム[I]を用いているが、表面処理の具体的内容が明示されていない点。
オ 相違点5
本願発明においては、
「ポリエチレンテレフタレートフィルムのヘイズは3%以下であ[る]」のに対し、
引用発明においては、
「熱可塑性樹脂フィルム[I]」のヘイズ値について明示されていない点。
第6 判断
1 相違点1について
(1) ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みについて
ア(ア) 引用発明においては、ポリエチレンテレフタレート(PET)の熱可塑性樹脂フィルム[I](本願発明における「ポリエチレンテレフタレートフィルム」に相当する。)の厚さは0.03~0.15mm(30μm~150μm)であるところ、昨今の携帯情報端末に対する薄型化軽量化に対する要請の高まりを考慮すれば、これの上限を半分程度にして、30μm~75μmの厚さとすることは、当業者には自明の設計指針にすぎない。
(イ) そうすると、この数値範囲は、相違点1におけるポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みの数値範囲である「10~75μm」を満たす。
イ(ア) 効果について検討すると、本願の明細書の段落【0023】には、次のように記載されている。
「ポリエステルフィルムの厚みは、10~75μmであることが好ましく、25~75μmであることがさらに好ましい。厚みが10μm以上であると鉛筆硬度向上効果が見られ、厚みが75μm以下であると軽量化に有利である他、可撓性、加工性やハンドリング性などに優れる。」
(イ) 他方、引用文献1の【0024】には次のように記載されている。
「熱可塑性樹脂フィルム[I]の厚さは、……かかる厚さが薄すぎるとハンドリングが困難となる傾向があり、厚すぎると積層体の耐屈曲性が低下する傾向がある。」
(ウ) ハンドリング性は本願発明と引用発明で共通する効果であり、また、硬度向上、軽量化、可撓性や加工性は、いずれも当該構成のものとして、予測困難、かつ、格別顕著な効果であるとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、引用発明において、熱可塑性樹脂フィルム[I]の厚さが10~75μmであるようにすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎず、格別のものではない。
(2) ハードコートフィルムの極限粘度を所定範囲とすることについて
ア(ア)a 本願の出願前において、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムの製造において、極限粘度が高すぎるとフィルムの製造・加工が困難になることから、その材料のフェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒を用いて測定した極限粘度の値で評価した場合に0.835(dl/g)程度以下にすること」は、技術常識である(「技術常識1」を参照)」。
b したがって、引用発明において、技術常識1を参照し、製造・加工を容易にする観点から、積層体の熱可塑性樹脂フィルム[I]のフェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒を用いて測定した極限粘度を好適化し、本願発明の0.80dL/g以下程度の値に設定することは当業者が適宜なし得たことであると認められる。
(イ)a 本願の出願前において、「一定以上の分子量の高分子材料を用いることで、耐屈曲性に優れたフィルムが得られること」は技術常識であり(「技術常識2」を参照)、「固有粘度と分子量分布をもつ高分子試料に対する平均分子量との間には正の比例関係があること」も技術常識である(「技術常識B」を参照)。
b してみれば、引用発明において、耐屈曲性に優れたフィルムとするために、分子量が一定の値となるようにその下限値を好適化し、その際に、分子量を固有粘度を指標として評価することは、当業者にとっては設計事項にすぎない。すなわち、引用発明において、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒を用いて測定したポリエチレンテレフタレートフィルムの極限粘度を好適化し、極限粘度の値が0.73L/g以上とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
イ(ア) 効果について検討すると、本願の明細書の段落【0021】及び【0022】には、次のように記載されている。
「【0021】
また、基材フィルムの製造において、少なくとも1種類以上の樹脂ペレットの極限粘度は、0.65~1.0dl/gの範囲が好ましい。極限粘度が0.65dl/g以上であると、得られたフィルムを繰り返し折り曲げた後に変形が発生しづらく、画質を低下させるおそれがないため好ましい。一方、極限粘度が1.00dl/g以下であると、溶融流体の濾圧上昇が大きくなり過ぎることなく、フィルム製造を安定的に操業し易く好ましい。
【0022】
フィルムが単層構成、積層構成であることに関わらず、フィルムの極限粘度は、0.65dL/g以上であることが好ましい。さらに好ましくは0.68dL/g以上である。0.65dL/g以上あれば、十分に耐屈曲性の効果が得られる。一方、極限粘度が1.00dl/g以下であるフィルは、操業性よく製造でき好ましい。」
(イ) 明細書に開示された極限粘度の上限値及び下限値の技術的意義は、それぞれ、「フィルム製造を安定的に操業し易いこと」及び「操業性よく製造できること」並びに「フィルムを繰り返し折り曲げた後に変形が発生しづらいこと」及び「耐屈曲性」であって、これらは技術常識1及び技術常識2が目的とする技術効果(それぞれ「フィルムの製造・加工が困難とならないようにすること」及び「耐屈曲性に優れたフィルムとすること」)と共通するものであるから、相違点1における極限粘度の数値限定の技術効果としては、当該構成のものとして予測困難であり、かつ、格別顕著な効果は認められない。
ウ 以上のとおりであるから、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは10~75μmであり、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒を用いて測定したポリエチレンテレフタレートフィルムの極限粘度が0.73~0.80dL/gであるようにすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎず、格別のものではない。
(3) 相違点1の判断の小括
前記(1)及び(2)において検討したとおりであるから、引用発明において技術常識1及び技術常識2を考慮して、引用発明において相違点1に係る構成を備えるようにすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
2 相違点2について
(1)ア 引用発明においては、全体として本願発明における「ハードコート層」に相当する「光硬化樹脂(A)層と光硬化樹脂(B)層」の厚さの合計は、0.07mm(70μm)以下であるところ、昨今の携帯情報端末に対する薄型化軽量化に対する要請の高まりを考慮すれば、これの上限を半分程度にして、例えば30μm~40μmの厚さとすることは、当業者には自明の設計指針にすぎない。
イ そうすると、この数値範囲は、相違点1における「ハードコート層の厚み」の数値範囲である「1~40μm」を満たす。
(2)ア 効果について検討すると、本願の明細書の段落【0041】には、次のように記載されている。
「(膜厚)
ハードコート層の膜厚としては、1~40μmが好ましい。1μmより厚ければ十分に硬化し、良好な鉛筆硬度が得られる。また厚みを40μm以下にすることで、ハードコートの硬化収縮によるカールを抑制し、フィルムのハンドリング性を向上させることができる。」
イ 「ハードコート層の厚みを大きくすることで表面硬度を高くできる一方で、硬化収縮によるカールが大きくなること」は技術常識であって(「技術常識3」を参照)、良好な鉛筆硬度が得られる程度のものとすることは、ハードコート層の目的からして当然のことであり、また、硬化収縮によるカールを抑制する効果自体も当該構成のものとして前記技術常識3に照らして自明の効果にすぎない。
ウ 以上のとおりであるから、ハードコート層の厚みが1~40μmであるようにすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎず、格別のものではない。
3 相違点3について
(1) 本願の出願前において、有機ELディスプレイを用いた折畳み可能なディスプレイ(折りたたみ型ディスプレイ)という概念は、技術常識である(「技術常識4」を参照)。したがって、引用発明のフレキシブルディスプレイを当該技術常識である有機ELディスプレイを用いた折りたたみ型ディスプレイとすることは、当業者には自明の設計事項にすぎない。
(2) また、引用発明の積層体は、JISK5600-5-1:1999 円筒形マンドレル法による耐屈曲性の試験(タイプ1の試験装置でマンドレルの直径2mm、折り曲げ時間2秒、23℃50%環境下で試験)を行い、光硬化樹脂層を顕微鏡と目視で観察したときの変化が無いものであって、2mm以下の直径(1mm以下の屈曲半径)で折り曲げるディスプレイ用途にも十分適用に足るものであるから、「折りたたんだ際の屈曲半径が5mm以下」である折りたたみ型ディスプレイとすることについても適宜なし得る設計事項にすぎない。
(3) 以上検討のとおり、相違点3に係る本願発明の構成は、引用発明及び技術常識4に基づいて、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。
4 相違点4について
本願の出願前において、基材フィルムとハードコート層などの機能層との密着性を向上させるために、ポリエステル、アクリル系ポリマー、ポリウレタン、アクリルグラフトポリエステルなどの各種樹脂からなる易接着性の被覆層を設けることは周知技術である(「周知技術1」を参照)。
したがって、引用発明の熱可塑性樹脂フィルム[I]とハードコート層の密着性を高めるための措置として、当該周知技術1を採用し、相違点4に係る構成を備えるようにすることは、当業者であれば適宜なし得る設計変更にすぎない。
5 相違点5について
本願の出願前において、「ディスプレイの最外部に設けるハードコーティングフィルムのヘイズ値は小さいことが望ましく、例えば2.0%以下とすること」は、技術常識である(「技術常識5」を参照)。
したがって、引用発明において、積層体のヘイズ値を2.0%以下とするために、当該積層体を構成する熱可塑性樹脂フィルム[I]のヘイズ値を2.0%以下とすることは、当業者にとっては自明の設計指針にすぎないから、「ポリエチレンテレフタレートフィルムのヘイズは3%以下である」という相違点5は、実質的な相違点ではない。
6 総合評価
前記1~5において検討したとおり、引用発明において前記相違点1から相違点5に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、前記相違点1から相違点5を総合的に勘案しても、本願発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
7 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
請求人は、意見書(「4.引用文献に記載の発明と本願発明との対比 (1)上記理由5―1」)において、概略次のとおり主張をしている。
ア 引用文献1の段落【0083】には、「(3)耐屈曲性(マンドレル試験)100mm×50mmの試験片を23℃、50%環境下で48時間放置した後、JIS K5600-5-1:1999 円筒形マンドレル法による耐屈曲性の試験(タイプ1の試験装置でマンドレルの直径2mm、折り曲げ時間2秒、23℃50%環境下で試験)を行い、光硬化樹脂層を顕微鏡と目視で観察し、以下の通り評価した。」と記載されており、引用文献1の耐屈曲性(マンドレル試験)は1回だけの負荷であり、複数回数の負荷を想定した繰り返し耐屈曲性ではない。
そのため、引用文献1の耐屈曲性(マンドレル試験)と、本願発明の繰り返し耐屈曲性(本願の段落【0048】の「屈曲半径3mm、1回/秒の速度で5万回屈曲させる無負荷U字伸縮試験」)とは異なる。
したがって、引用文献1―3、5―11の発明を組み合わせたとしても本願発明にはならない。
イ 本願発明は引用文献1―3、5―11に記載された発明と下記相違点A、Bを有し、当該相違点A、Bにより優れた透過性(全光線透過率)及び視認性(ヘイズ)を有するともに、優れた表面硬度及び繰り返し耐屈曲性を有する。
詳述すると、厚み10~75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの極限粘度が0.73~0.80dL/gである場合、繰り返し耐屈曲性の効果が十分に得られるとともに、ポリエチレンテレフタレートフィルムを操業性よく製造できる。
反対に、厚み10~75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの極限粘度が0.73未満の場合、折りたたみの際に生じる歪みによってポリエチレンテレフタレートフィルムが伸びたり折れ跡がつき、ポリエチレンテレフタレートフィルムを透過する画像の光が散乱してディスプレイの視認性(ヘイズ)が悪くなる。
このような作用効果に関して引用文献1―3、5―11には何らの示唆もなく、請求項1に係る発明が奏する効果は、引用文献1―3、5―11に記載された発明から予測することができない効果である。
A:ポリエチレンテレフタレートフィルムのヘイズは3%以下であり、ポリエチレンテレフタレートフィルムの全光線透過率は85%以上であり、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは10~75μmであり、
フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒により算出したポリエチレンテレフタレートフィルムの極限粘度が0.73~0.80dL/gである。
B:折りたたんだ際の屈曲半径が5mm以下である折りたたみ型ディスプレイ
(2) 請求人の主張についての検討
ア(ア) 請求人の前記(1)アの主張について、要するに、本願発明の耐屈曲性の試験と引用発明の耐屈曲性の試験とは、前者が繰り返し屈曲させたときの評価をし、後者が1回限り屈曲させたときの評価をしている点で異なり、本願発明は引用発明等から進歩性を有する旨を主張する。
しかしながら、請求人が主張する耐屈曲性の試験については、請求項1においてなんら特定されておらず、請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づく主張とは認められないから、請求人の当該主張は参酌できない。
(イ) なお、引用発明において、実施例の試験こそは請求人の主張するように1回限り屈曲させたときの評価を行うものであるが、「繰り返しの屈曲にも耐えるといった耐屈曲性に優れる積層体」(引用文献1の段落【0009】に係る記載を参照)を得ることを目的としており、当然ながら繰り返し屈曲させることを想定しており、引用発明はそれに対応した積層体及びフレキシブルディスプレイに係る発明であることは明らかである。
また、前記第4の2(5)ア(ア)cにおいて摘記した引用文献6の記載に、「20万回屈曲テスト」が記載されており、繰り返し耐屈曲性の試験方法は単なる周知の評価手法の一つにすぎない。
したがって、請求人の前記主張を仮に参酌するとしても、前記6の結論を左右するものではない。
イ 請求人の前記(1)イの主張について、相違点に係る構成の判断については、前記1~5において説示したとおりである。
また、請求人の主張する効果として、「極限粘度が0.73~0.80dL/gである場合、繰り返し耐屈曲性の効果が十分に得られるとともに、ポリエチレンテレフタレートフィルムを操業性よく製造できる」ことについて、耐屈曲性及び操業性に関する効果は、前記技術常識1及び技術常識2として知られた効果にすぎず、「繰り返し」の耐屈曲性についても、当業者が予測し得ない効果とは認められない。
したがって、請求人の前記(1)イの主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-004529