特許拒絶査定不服審判
2022-003264
液晶表示装置
- 審判番号
- 2022-003264
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-523547外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年03月03日
- 審決日
- 2023年04月14日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日東電工株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (G02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-523547「液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月12日国際公開、WO2019/235064〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)4月11日(優先権主張 2018年6月6日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 6月28日付け:拒絶理由通知書
令和3年 8月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年12月 6日付け:拒絶査定
令和4年 3月 3日 :審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和3年8月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「液晶セル、前記液晶セルよりも視認側に配置された第1偏光フィルム、および前記液晶セルよりも背面側に配置された第2偏光フィルムを有する液晶パネル、並びに、バックライトユニットを有する液晶表示装置において、
前記液晶パネルは、波長域570~610nmに極大吸収波長を有し、かつ、
前記バックライトユニットは、
波長域515~545nmに発光スペクトルのピーク強度(Gp)を有し、
波長域605~650nmに発光スペクトルのピーク強度(Rp)を有し、かつ、
前記Gp、前記Rpと、波長域580~600nmにおける発光スペクトルの強度の平均値(Ave1)が、下記式(1)
Ave1≦0.2×{(Gp+Rp)/2} (1)
を満足することを特徴とする液晶表示装置。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~12に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
記
特開2017-187744号公報
第4 引用文献の記載、及び、引用発明の認定
原査定において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2017-187744号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。
1 「【請求項1】
バックライトユニットおよび液晶パネルを含む液晶表示装置において、
前記バックライトユニットがK-Si-F系蛍光体を含む白色発光素子パッケージを含み、
前記バックライトユニットおよび/または液晶パネルが当該構成中に1つ以上のコーティング層または1つ以上の粘着層を備え、前記1つ以上のコーティング層または1つ以上の粘着層が特定波長帯域の光を吸収する1種以上の吸収染料を含む、液晶表示装置。
【請求項2】
前記液晶パネルが上偏光板、第1粘着層、液晶セル、第2粘着層および下偏光板を順次含み、
前記第1粘着層および/または第2粘着層が、特定波長帯域の光を吸収する1種以上の吸収染料を含む、請求項1に記載の液晶表示装置。
・・・中略・・・
【請求項4】
前記吸収染料がRGB以外の主吸収波長帯域を有する、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記吸収染料が、380nm~430nm、480nm~510nmまたは560nm~600nmの主吸収波長帯域を有する、請求項1に記載の液晶表示装置。
・・・中略・・・
【請求項11】
前記白色発光素子パッケージが、K-Si-F系蛍光体を含む樹脂層と、前記K-Si-F系蛍光体を励起させる近紫外線または青色光を発光する発光素子とを含む、請求項1に記載の液晶表示装置。
・・・中略・・・
【請求項15】
前記K-Si-F系蛍光体がK2SiF6:Mn赤色蛍光体である、請求項11に記載の液晶表示装置。」
2 「【0003】
最近のディスプレイ市場は、大面積、高解像度の競争から色感競争へと進化している。故に最近では、優れた色感を有するディスプレイ製造に対する競争が台頭している。
【0004】
液晶表示装置(liquid crystal display、LCD)は、液晶(liquid crystal)の光学的特性を利用して画像を表示するが、画像を表示する液晶パネルが自発光をしない非発光型素子であるため、液晶パネルとともにその背面に配置され、液晶パネルに光を供給するバックライトユニット(back-light unit)を含む構造を有する。液晶表示装置は、モバイル機器、コンピュータのモニタおよびHDTV等に利用される表示装置として脚光を浴びているが、色感の面では他の表示装置に比べてやや劣る。」
3 「【0008】
従って、本発明の目的は、光源から出る純粋なRGB波長の光を最大限に透過させ、RGB波長以外の不要な波長の光は遮断することによって、液晶表示装置の色純度の向上を最大化にできる液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明は、
バックライトユニットおよび液晶パネルを含む液晶表示装置において、
前記バックライトユニットは、K-Si-F系蛍光体を含む白色発光素子パッケージを含み、
前記バックライトユニットおよび/または液晶パネルが当該構成中に1つ以上のコーティング層または1つ以上の粘着層を備え、前記1つ以上のコーティング層または1つ以上の粘着層は特定波長帯域の光を吸収する1種以上の吸収染料を含む液晶表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、特定波長帯域の光を吸収する1種以上の吸収染料を液晶表示装置の粘着層またはコーティング層内に導入し、K-Si-F系蛍光体を発光素子パッケージに適用することにより、光源から出る純粋なRGB波長の光は最大限透過させ、RGB波長以外の不要な波長の光を遮断して色域(color gamut)を向上させることによって、色純度の向上が最大化された液晶表示装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
・・・中略・・・
【図6】図6は、実施例1における液晶表示装置の発光スペクトルである。
・・・中略・・・
【図8】図8は、比較例2における液晶表示装置の発光スペクトルである。」
4 「【0040】
また、前記樹脂層はK-Si-F系蛍光体の外にも、必要に応じて、各種緑色蛍光体、赤色蛍光体、琥珀色(amber)蛍光体およびこれらの組み合わせをさらに含むことができる。」
5 「【実施例】
【0045】
以下、本発明を下記実施例によって、より詳しく説明する。ただし、下記実施例は本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
アクリルバインダー樹脂(Soken社製、GS1000)25重量%と、メチルエチルケトン(MEK)75重量%とを混合して溶液を製造した後、これにTAP系の吸収染料(エスケイケミカル社製、SK-d593、主吸収波長帯域:560nm~600nm)を前記溶液100重量部に対して0.05重量部の量で添加してコーティング層組成物を製造した。
【0047】
拡散フィルム(製造社:SKC-HAAS、製品名:CH19)の片面に、マイヤーバー(mayer bar)を用いて前記コーティング層組成物をコーティングし、乾燥及び硬化して、厚さ5μmのコーティング層(色純度向上フィルム)を形成した後、前記コーティング層が形成された拡散フィルムを下拡散シートにして、コーティング層が導光板に向くようバックライトユニットに導入して本発明の液晶表示装置を製造した(図5参照)。
【0048】
この際、K-Si-F系蛍光体(K2SiF6:Mn)を含む白色発光素子パッケージ(製造社:三星電子、製品名:UN49KU7000FXKR)を適用したバックライトユニットを用いた。
【0049】
具体的に、バックライトユニットは、二重輝度向上フィルム、水平プリズムシート、垂直プリズムシート、下拡散シート、導光板、および反射板が順次積層された構造である。
【0050】
(比較例1)
下拡散シートの片面に吸収染料を含むコーティング層を形成せず、YAG蛍光体(Y3Al5O12:Ce)を含む白色発光素子パッケージを適用したバックライトユニット(製造社:LG電子、製品名:55UB8400)を使用することを除いては、前記実施例1と同一構造の液晶表示装置を製造した。
【0051】
(比較例2)
下拡散シートの片面に吸収染料を含むコーティング層を形成しないことを除いては、前記実施例1と同一構造の(すなわち、構造変更することなく市販のままの)液晶表示装置を製造した。
【0052】
(実験例1)
前記実施例1、ならびに比較例1および2で製造した液晶表示装置について、ラジオメーター(CS-2000;ミノルタ(Minolta)社)を用いて、スペクトルの変化および特性を測定し、その結果を表1および図6~図8に示す。色域(color gamut)は色再現面積を示す。」
6 図6及び8は以下のものである。
図6
[図:0001398840000001.jpg]
図8
[図:0001398840000002.jpg]
7 引用文献1の請求項15には「前記K-Si-F系蛍光体がK2SiF6:Mn赤色蛍光体である」と記載されているところ、それに引用される請求項11には、白色発光素子パッケージが当該蛍光体を励起させる青色光を発光する発光素子を含むことが、記載されている。そして、白色発光を得るためには、青色光を発光する発光素子及び赤色蛍光体に加えて、一般に緑色の発光源が必要となるところ、【0040】の「前記樹脂層はK-Si-F系蛍光体の外にも、必要に応じて、各種緑色蛍光体、赤色蛍光体、琥珀色(amber)蛍光体およびこれらの組み合わせをさらに含むことができる。」の記載にも照らせば、引用文献1には、白色発光素子パッケージがK2SiF6:Mn赤色蛍光体と緑色蛍光体と前記各蛍光体を励起させる青色光を発光する発光素子を含むことが記載されているに等しいと認められる。
8 以上の記載から、引用文献1には、その請求項1に記載された液晶表示装置において、請求項2、4、5、11及び15に記載された技術的事項を備えるとともに、当該請求項5に記載された技術的事項のうち吸収染料の主吸収波長帯域が「560nm~600nm」であって、しかも、上記7で認定した技術的事項をも備える次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「バックライトユニットおよび液晶パネルを含む液晶表示装置において、
前記液晶パネルが上偏光板、第1粘着層、液晶セル、第2粘着層および下偏光板を順次含み、
前記第1粘着層および/または第2粘着層が、特定波長帯域の光を吸収する1種以上の吸収染料を含み、
前記吸収染料が、RGB以外の主吸収波長帯域を有するとともに、560nm~600nmの主吸収波長帯域を有し、
前記バックライトユニットがK2SiF6:Mn赤色蛍光体と緑色蛍光体と前記各蛍光体を励起させる青色光を発光する発光素子を含む白色発光素子パッケージを含む、液晶表示装置。」
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「液晶セル」、「上偏光板」、「下偏光板」、「液晶パネル」、「バックライトユニット」、「液晶表示装置」は、それぞれ、本願発明の「液晶セル」、「第1偏光フィルム」、「第2偏光フィルム」、「液晶パネル」、「バックライトユニット」、「液晶表示装置」に相当する。
2 引用発明の液晶パネルは、第1粘着層および/または第2粘着層が、特定波長帯域の光を吸収する1種以上の吸収染料を含み、当該吸収染料が、560nm~600nmの主吸収波長帯域を有しているものの、「波長域570~610nmに極大吸収波長を有」するか否かは明らかではない。
3 引用発明のバックライトユニットは、K2SiF6:Mn赤色蛍光体と緑色蛍光体と前記各蛍光体を励起させる青色光を発光する発光素子を含む白色発光素子パッケージを含むものの、波長域515~545nmに発光スペクトルのピーク強度(Gp)を有し、波長域605~650nmに発光スペクトルのピーク強度(Rp)を有し、かつ、
前記Gp、前記Rpと、波長域580~600nmにおける発光スペクトルの強度の平均値が、下記式(1)
Ave1≦0.2×{(Gp+Rp)/2} (1)
を満足するか否かは明らかではない。
以上、1~3のとおりであるから、本願発明と引用発明との「一致点」及び「相違点」は、以下のとおりである。
<一致点>
「液晶セル、前記液晶セルよりも視認側に配置された第1偏光フィルム、および前記液晶セルよりも背面側に配置された第2偏光フィルムを有する液晶パネル、並びに、バックライトユニットを有する液晶表示装置。」
<相違点1>
液晶パネルにつき、本願発明は、波長域570~610nmに極大吸収波長を有するのに対して、引用発明は、第1、第2粘着層を有し、第1粘着層および/または第2粘着層が、特定波長帯域の光を吸収する1種以上の吸収染料を含み、当該吸収染料が、RGB以外の主吸収波長帯域を有するとともに560nm~600nmの主吸収波長帯域を有しているものの、「波長域570~610nmに極大吸収波長を有」するか否かは明らかではない点。
<相違点2>
バックライトユニットにつき、本願発明は、波長域515~545nmに発光スペクトルのピーク強度(Gp)を有し、波長域605~650nmに発光スペクトルのピーク強度(Rp)を有し、かつ、前記Gp、前記Rpと、波長域580~600nmにおける発光スペクトルの強度の平均値(Ave1)が、下記式(1)
Ave1≦0.2×{(Gp+Rp)/2} (1)
を満足するのに対し、引用発明は、K2SiF6:Mn赤色蛍光体と緑色蛍光体と前記各蛍光体を励起させる青色光を発光する発光素子を含む白色発光素子パッケージを含むものの、本願発明の式(1)を満たすか否かが明らかでない点。
第6 判断
1 相違点1について
(1)相違点1に係る本願発明の構成は、極大吸収波長が、「吸収染料」において観念されているのではなく「液晶パネル」において観念されていることから、相違点1が実質的であるか否か、また、仮に実質的であるとしても格別でないものであるか否かを検討するに当たっては、引用発明の「液晶パネル」において極大吸収波長がどうなっているのかを検討する必要がある。
そこで引用発明をみると、まず、引用発明の「吸収染料」は「液晶パネル」に含まれているのであり、このことは、当該「吸収染料」が「前記第1粘着層および/または第2粘着層」に含まれるとともに、当該「前記第1粘着層および/または第2粘着層」が「液晶パネル」に含まれることからみて明らかである。
そして、当該「吸収染料」は「560nm~600nmの主吸収波長帯域」を有するところ、その「主吸収波長帯域」という文言に照らして、「吸収染料」は極大吸収波長を有するとともに、その極大吸収波長が当該「560nm~600nm」の波長帯域に存在すると解するのが自然である。このことは、引用文献1に記載された実施例1(【0046】)で用いられているTAP系(テトラアザポルフィリン系)の染料であるSK-d593という製品が、波長580nm近傍に吸収の極大値を有すること(必要ならば、参考文献1(特開2017-129849号公報)の【0011】、【0058】、【0059】、図4(後記の参考図1)の記載を参照。)からも首肯できる。
参考図1
[図:0001398840000003.jpg]
加えて、当該「吸収染料」は「RGB以外の主吸収波長帯域」を有するところ、引用発明においてこのような吸収染料を用いる技術的な意義は、引用文献1の【0003】、【0008】~【0010】等の記載によると、純粋なRGB波長の光を最大限透過させ、RGB波長以外の不要な光を遮断して、液晶表示装置の色域を拡大することにあると認められる。
このように、引用発明の「液晶パネル」は「吸収染料」を含んでいるところ、当該「吸収染料」は「560nm~600nm」の波長帯域に極大吸収波長を有しており、さらに、このような吸収により、RGB波長以外の不要な光を遮断して、液晶表示装置の色域を拡大することができるのであるから、液晶パネルのカラーフィルタが、発光スペクトル分布に影響を与えるものであるとしても、引用発明の「液晶パネル」は、当該「吸収染料」と同様に、当該「560nm~600nm」の波長帯域に極大吸収波長を有していると解するのが自然である。また、仮にそうでないとしても、引用発明において、不要な光である当該波長帯域の光をできるだけ減らすべく「吸収染料」の量を増やすことは、当業者が適宜なし得たことであり、そのようにすることにより、当業者は、「液晶パネル」が当該波長帯域に極大吸収波長を有するという構成に至ることになる。
(2)そして、引用発明の吸収染料の極大吸収波長が「560nm~600nmの主吸収波長帯域」のうちのどの波長になるのかについては、上記(1)で説示した引用文献1の実施例1のとおり、波長580nm近傍であるのが典型的であるし、それはさておくとしても、当該極大吸収波長を、相違点1に係る本願発明の構成のように「波長域570~610nm」とすることは、吸収染料の種類の選択を通じて当業者が適宜設計し得たことにすぎない。
(3)そうすると、引用発明は、本願発明1の相違点1に係る構成を満たしているといえるし、仮にそうでないとしても、吸収染料の種類及び量を適宜選択して、引用発明の「液晶パネル」の極大吸収波長を波長域「570~610nm」に有するようにすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。
2 相違点2について
(1)当該相違点の容易想到性の検討に先立ち、引用発明から出発した当業者が引用発明にどのような構成を採用すれば相違点2に係る本願発明の構成に至るのかについて確認する。
まず、引用発明で用いられるK2SiF6:Mn赤色蛍光体の発光スペクトル分布は、発光スペクトルのピーク強度(Rp)が波長域605~650nmに存在するものであると認められるのであり、このことは、引用文献1の図6や参考文献2(特開2010-209311号公報)の図5(後記の参考図2)からみて明らかである。
参考図2
[図:0001398840000004.jpg]
そのため、引用発明において相違点2に係る本願発明の構成に至るためには、引用発明のバックライトユニットが「波長域515~545nmに発光スペクトルのピーク強度(Gp)を有」するようにするとともに、「波長域580~600nmにおける発光スペクトルの強度の平均値(Ave1)」の値をできるだけ小さくすればよいといえる。
(2)そこで、引用発明から出発した当業者がそのような構成に至るかどうかについて検討する。
ア まず、引用発明の「緑色蛍光体」がどのようなものであるかを検討するために、引用文献1に記載された実施例をみると、実施例1に記載された液晶表示装置の発光スペクトル(図6)が引用発明に係る液晶表示装置の実施例に該当する装置の発光スペクトルと同じであることが、当業者にとって理解できる。
すなわち、実施例1に記載された液晶表示装置は、吸収染料が導入されている位置が液晶パネルではなくバックライトユニットである(【0047】)点において、引用発明に係る液晶表示装置とは異なるものの、そのような位置の相違によって、発光スペクトルの形状が変動するとは考えにくい。そして、実施例1は、引用発明と同様に、「K-Si-F系蛍光体(K2SiF6:Mn)を含む白色発光素子パッケージ」(【0048】)を用いているし、また、実施例1の発光スペクトル(図6)は450nm付近及び530nm付近にピーク強度を有しているところ、これらが、それぞれ、引用発明でいう「青色光を発光する発光素子」及び「緑色蛍光体」を反映したものと解される。
このように、実施例1に記載された液晶表示装置は、引用発明と同様に、青色光を発光する発光素子、緑色蛍光体及びK-Si-F系蛍光体(K2SiF6:Mn)を含む白色発光素子パッケージを用いたものであり、この際、当該発光素子からの青色光によって当該緑色蛍光体及び当該K-Si-F系蛍光体が励起されていることも明らかであって、その他には発光スペクトルに影響を及ぼす点での相違がないと解されることから、実施例1に記載された液晶表示装置の発光スペクトル(図6)は、引用発明に係る液晶表示装置の実施例に該当する装置の発光スペクトルと同じといえる。
イ 上記アによれば、引用発明の「緑色蛍光体」がどのようなものであるかを検討するためには、実施例1に記載された液晶表示装置で用いられた緑色蛍光体をみればよいことになる。
そこで、実施例1に記載された液晶表示装置をみると、これは吸収染料を含むものである。そして、当該液晶表示装置の発光スペクトル(図6)と吸収染料を除外したものに当たる液晶表示装置(比較例2、【0051】)の発光スペクトル(図8)とを対比すると、両者は、波長域580~600nm付近の発光の有無において相違することが理解できる。そうすると、実施例1に記載された液晶表示装置は、吸収染料の影響を除外すると、波長域580~600nmで発光しているといえる。
そして、この波長域580~600nmでの発光は、緑色蛍光体からの発光がそこまで及んでいることが一因なのであり、このことは、吸収染料を除外した比較例2の発光スペクトル(図8)からみて、液晶パネルのカラーフィルタによる一部光の吸収を考慮したとしても、緑色蛍光体の発光分布は580nm~600nmにも渡っていることが理解できることから明らかであるし、また、当該図8とK2SiF6:Mnの発光スペクトル分布を読み取ることができる参考図2(上記(1))とを対比することからも理解できる。
ウ 上記ア及びイによれば、引用発明の「緑色蛍光体」は、それからの発光が波長域580~600nmまで及んでいることが、当業者にとって理解できるといえる。
一方、引用文献1(【0008】)には、「本発明の目的は、光源から出る純粋なRGB波長の光を最大限に透過させ、RGB波長以外の不要な波長の光は遮断することによって、液晶表示装置の色純度の向上を最大化にできる液晶表示装置を提供することである。」と記載されているから、当業者には、光源から出る純粋なRGB波長以外の不要な波長の光を遮断すべく色純度を向上する動機があるといえるところ、色純度の向上自体は、当然に求められる技術的課題であるから、既に何らかの解決がなされたことをもって、当業者がさらなる改善を追求しなくなる性質のものではない。そして、上記のとおり、引用発明の「緑色蛍光体」は、それからの発光が波長域580~600nmまで及んでいることから、この波長域よりも短波長側にも相当程度の強さの発光が存在しており、このような発光が緑の色純度の向上に悪影響を与えることが明らかである。そのため、引用発明から出発した当業者は、その緑色蛍光体の発光スペクトル分布を狭帯域化する動機があるといえる。
そして、発光スペクトル分布を狭帯域化する手法として、より狭帯域の発光スペクトルをもつ波長変換材料を用いること(例えば、量子ドットを用いることが周知技術(特表2013-544018号公報(特に【0017】、【0018】、【0020】、【0024】、【0025】、図1等)、特表2013-539598号公報(特に【0007】、【0009】、【0054】、【0055】等)である。)は、ごく通常の解決手段である。
そうすると、引用発明の「緑色蛍光体」につき、より狭帯域の緑色の波長変換材料を採用することは当業者が容易に想到し得たといえる。そして、そのような波長変換材料の引用発明への採用にあたっては、当該波長変換材料の発光スペクトル分布を十分に狭帯域化することを当業者が当然考慮するといえるし、そのような波長変換材料が「波長域515~545nmに発光スペクトルのピーク強度(Gp)を有」することも通常であるといえる。
このようにして、引用発明のバックライトユニットは、「波長域515~545nmに発光スペクトルのピーク強度(Gp)を有」することになるとともに、「波長域580~600nmにおける発光スペクトルの強度の平均値(Ave1)」の値が小さくなる。そして、その結果、当業者は、相違点2に係る本願発明の構成に自然に至ることになるといえるのであり、このことは、本願発明の実施例3(青色発光ダイオードと緑色蛍光体とKSFを用いている。)の存在からみても首肯できる。
(3)よって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
3 本願発明の効果について
これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の作用効果は、引用発明及び上記周知技術の奏する作用効果に基づいて、本願の優先日当時本願発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
4 請求人の主張について
請求人は、引用文献1には、発光スペクトルの強度の平均値(Ave1)の概念が記載されていないから、引用発明において本願発明の式(1)を満たすように構成することは、当業者であっても容易に想到できない旨主張している。
しかしながら、本願発明は、「液晶表示装置」という物の発明であって、式(1)を満たすように設計するステップを備える液晶表示装置の設計方法といった発明ではないことから、引用発明に基づいて当業者が本願発明を容易に想到し得たというためには、引用発明において、式(1)を満足することを見いだすことや、式(1)を認識した上で、満足するように調整することが必要なわけではなく、引用発明に接した当業者が、本願の優先日以前の周知技術や技術常識も加味した上で容易に想到し得た具体的態様が、本願発明の範囲内に至れば足りるというべきである。
よって、請求人の主張は採用できない。
5 したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2~請求項12に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-003264