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特許拒絶査定不服審判

2022-002466

コンプレッションリング、及びコンプレッションリングを備えたピストン

審判番号
2022-002466
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-513492
請求日
2022年02月18日
審決日
2023年02月28日
公報発行日
2023年05月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】TPR株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人秀和特許事務所
  • 【請求人】日本碍子株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人秀和特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 水野 治彦
  • 審判官 鈴木 充
  • 審判官 木村 麻乃
分類
P18 .121-Z (F16J) / P18 .575-Z (F16J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-513492「コンプレッションリング、及びコンプレッションリングを備えたピストン」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 4月22日国際公開、WO2021/075326〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2020年(令和2年)10月7日(優先権主張2019年10月17日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和3年7月30日付け(発送日:令和3年8月3日)で拒絶理由が通知され、令和3年9月15日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年12月7日付け(発送日:令和3年12月14日)で拒絶査定がされ、これに対して令和4年2月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、令和4年7月1日に上申書が提出されたものである。 第2 令和4年2月18日の手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 令和4年2月18日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 本件補正発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(令和3年9月15日の手続補正書)の請求項1に、 「【請求項1】 内燃機関用ピストンに装着されて用いられるコンプレッションリングであって、 熱伝導率が30W/m・K以上であり、線膨張係数が15×10-6/K以上であり、且つ、250℃で3時間保持した後の張力減退率が50%以下である銅合金からなる、コンプレッションリング。」 とあったものを、 「【請求項1】 内燃機関用ピストンに装着されて用いられるコンプレッションリングであって、 熱伝導率が30W/m・K以上300W/m・K以下であり、線膨張係数が15×10-6/K以上であり、且つ、300℃で3時間保持した後の張力減退率が30%以下である銅合金からなる、コンプレッションリング。」 と補正することを含むものである(下線は補正箇所を示すために当審で付与した。)。 上記補正は、本件補正前の請求項1に記載される発明の発明特定事項である「熱伝導率が30W/m・K以上であ」ることについて、「熱伝導率が30W/m・K以上300W/m・K以下であ」ることに限定するともに、本件補正前の請求項1に記載される発明の発明特定事項である「250℃で3時間保持した後の張力減退率が50%以下である」ことについて、「300℃で3時間保持した後の張力減退率が30%以下である」ことに限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。 2 引用文献、引用発明等 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2018/128775号(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。 なお、日本語訳は、引用文献1の日本語ファミリー文献である特表2020-507038号によった。 ア 「[0002] The present disclosure relates to compression rings made from a copper alloy. The compression rings may be used in pistons (e.g., for internal combustion engines). The rings may exhibit high thermal conductivity, good wear resistance, and thermal stability.」 〔訳〕 「本開示は、銅合金から作製される圧縮リングに関する。圧縮リングは、(例えば、内燃機関のための)ピストンにおいて使用され得る。リングは、高熱伝導率、良好な耐摩耗性、および熱安定性を呈し得る。」 イ 「[0005] Piston compression ring materials currently in use limit the ability of designers to increase efficiency by moving the position of the top compression ring. Alloys with good wear resistance and thermal stability, like the cast iron and steel materials commonly used in piston rings, typically have low thermal conductivity. It would be desirable to provide compression rings with high thermal conductivity, good wear resistance, and thermal stability.」 〔訳〕 「現在使用されているピストン圧縮リング材料は、トップ圧縮リングの位置を移動させることによって効率を増加させる設計者の能力を限定している。ピストンリングにおいて一般的に使用される鋳鉄および鋼材料のような良好な耐摩耗性および熱安定性を伴う合金は、典型的には、低熱伝導率を有する。高熱伝導率、良好な耐摩耗性、および熱安定性を伴う圧縮リングを提供することが、望ましいであろう。」 ウ 「[0006] The present disclosure relates to piston rings made from a copper-containing alloy that comprises copper, nickel, and tin. The piston rings may be used in pistons (e.g., for internal combustion engines). The piston rings exhibit good wear resistance and thermal stability. Methods of making piston assemblies containing the rings are also disclosed.」 〔訳〕 「本開示は、銅と、ニッケルと、スズとを含む銅含有合金から作製されるピストンリングに関する。ピストンリングは、(例えば、内燃機関のための)ピストンにおいて使用され得る。ピストンリングは、良好な耐摩耗性および熱安定性を呈する。リングを含有するピストンアセンブリを作製する方法もまた、開示される。」 エ 「[0040] In the present disclosure, the piston compression rings are made of a copper- containing alloy having higher strength at the piston operating temperatures than do other high conductivity alloys. These alloys also possess the stress relaxation resistance and wear resistance required in compression rings. It is also contemplated that wiper rings or oil rings could be made from the copper-containing alloys described herein. In some exemplary embodiments, the ring may have a weight of up to about 0.25 lbs, including from about 0.10 lbs to about 0.25 lbs, and including about 0.15 lbs. In other exemplary embodiments, the ring may have a weight of from about 0.25 lbs to about 1.0 lbs. The size of the ring will depend on the engine size. It is contemplated that the ring could have an inner diameter (i.e. bore) of as much as 1000 millimeters, or even greater.」 〔訳〕 「本開示では、ピストン圧縮リングは、他の高伝導率合金が有するものよりも高い強度をピストン動作温度において有する銅含有合金から作製される。これらの合金はまた、圧縮リングにおいて要求される耐応力緩和性および耐摩耗性を保有する。また、ワイパリングまたは油リングが、本明細書に説明される銅含有合金から作製され得ることも考慮される。いくつかの例示的実施形態では、リングは、約0.10ポンド~約0.25ポンドを含み、約0.15ポンドを含む、最大約0.25ポンドの重量を有してもよい。他の例示的実施形態では、リングは、約0.25ポンド~約1.0ポンドの重量を有してもよい。リングのサイズは、機関サイズに依存するであろう。リングは、1,000ミリメートルもの、またはさらにそれを上回る内径(すなわち、ボア)を有し得ることが考慮される。」 オ 「[0042] In some particular embodiments, the copper-containing alloy is a copper- nickel-tin alloy that contains: about 8.0 wt% to about 22 wt% nickel; about 4.0 wt% to about 10 wt% tin; and balance copper. In more specific embodiments, the copper-nickel- tin alloy contains: about 14.5 wt% to about 15.5 wt% nickel; about 7.5 wt% to about 8.5 wt% tin; and balance copper. In even more specific embodiments, the copper-nickel-tin alloy contains: about 15 wt% nickel; about 8 wt% tin; and balance copper. This alloy is commercially available from Materion Corporation as ToughMet(R)(当審注:引用文献1において「(R)」は「○」の中に「R」と記載。以下同様。) 3. The ToughMet(R) 3 alloy may be designated "CX" (cast and spinodally hardened), "AT" (wrought and spinodally hardened), or "TS" (wrought, cold worked, and spinodally hardened). ToughMet(R) 3 may have an elastic modulus of about 21 x 106 psi; density of about 9.00 g/cm3; thermal conductivity of about 38 W/m-K to about 40 W/m-K; 0.2% offset yield strength of about 620 MPa to about 1035 MPa; and ultimate tensile strength of about 760 MPa to about 1 140 MPa.」 〔訳〕 「いくつかの特定の実施形態では、銅含有合金は、約8.0重量%~約22重量%のニッケルと、約4.0重量%~約10重量%のスズと、残部の銅とを含有する、銅-ニッケル-スズ合金である。より具体的な実施形態では、銅-ニッケル-スズ合金は、約14.5重量%~約15.5重量%のニッケルと、約7.5重量%~約8.5重量%のスズと、残部の銅とを含有する。さらにより具体的な実施形態では、銅-ニッケル-スズ合金は、約15重量%のニッケルと、約8重量%のスズと、残部の銅とを含有する。本合金は、ToughMet(登録商標)3としてMaterion Corporationから商業的に入手可能である。ToughMet(登録商標)3合金は、「CX」(鋳造およびスピノーダル硬化)、「AT」(鍛造およびスピノーダル硬化)、または「TS」(鍛造、冷間加工、およびスピノーダル硬化)と指定され得る。ToughMet(登録商標)3は、約21×106psiの弾性率、約9.00g/cm3の密度、約38W/m-K~約40W/m-Kの熱伝導率、約620MPa~約1,035MPaの0.2%オフセット降伏強度、および約760MPa~約1,140MPaの極限引張強度を有し得る。」 上記記載事項及び認定事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 〔引用発明〕 「内燃機関のためのピストンにおいて使用される圧縮リングであって、熱伝導率が約38W/m-K~約40W/m-Kである銅合金からなる圧縮リング。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2011/148934号(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。 ア 「[0017] また、球状化セメンタイトの分散量は、顕微鏡組織観察面において、1~6面積%とすることが好ましい。さらにこの範囲の分散量であれば、熱伝導率が35 W/m・K以上となり、熱ヘタリ率(JIS B 8032-5に基づく接線張力減退度)も4%以下となり好ましい。通常使用されているSi-Cr鋼の熱伝導率は31 W/m・K程度であり、35 W/m・K程度の熱伝導率は、優れた熱伝導率を示す従来の片状黒鉛鋳鉄ピストンリングの熱伝導率に匹敵する。金属においては、熱伝導率は主に結晶粒内の自由電子の運動に支配されるため、固溶元素の少ないほど熱伝導率は向上する。本発明に使用するSUP10は、Si-Cr鋼に比べて固溶強化元素であるSiが特に少ないこと、また球状化セメンタイトを形成することも固溶Cを低減して熱伝導率の向上につながると考えられる。また、熱ヘタリ率は、JIS B 8032-5では、スチールリングの場合300℃×3時間の試験条件で接線張力減退度8%以下と規定されているが、小さければ小さいほど好ましく、材料開発における目標値としてSi-Cr鋼と同レベルの4%程度とした。」 上記記載事項から、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。 〔引用文献2記載事項〕 「ピストンリングの接線張力減退度について、JIS B 8032-5では、スチールリングの場合300℃×3時間の試験条件で接線張力減退度8%以下と規定されていること。」 3 対比・判断 本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「内燃機関のためのピストンにおいて使用される圧縮リング」は、その機能又は技術的意義からみて、本件補正発明における「内燃機関用ピストンに装着されて用いられるコンプレッションリング」に相当する。 引用発明における「熱伝導率が約38W/m-K~約40W/m-K」は、本件補正発明における「熱伝導率が30W/m・K以上300W/m・K以下」に含まれる。 よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 〔一致点〕 「燃機関用ピストンに装着されて用いられるコンプレッションリングであって、熱伝導率が30W/m・K以上300W/m・K以下である銅合金からなるコンプレッションリング。」 〔相違点1〕 本件補正発明においては、「線膨張係数が15×10-6/K以上」であるのに対して、引用発明においては、線膨張係数が不明である点。 〔相違点2〕 本件補正発明においては、「300℃で3時間保持した後の張力減退率が30%以下である」のに対して、引用発明においては、かかる事項を備えるのか不明な点。 上記相違点1について検討する。 引用文献1の段落[0042](上記2(1)オ)に記載されたToughMet(登録商標)3ATは、線膨張係数が16.5×10-6/Kの銅合金として知られている(例えば、https://materion.com/-/media/files/alloy/datasheets/toughmet/toughmet-3-at-alloy-rod-tube-and-forged-data-sheet.pdf を参照。)。 また、ToughMet(登録商標)3ATは、同段落に記載されているとおり「約38W/m-K~約40W/m-Kの熱伝導率」を有する銅合金である。 そして、「線膨張係数が16.5×10-6/K」は、「線膨張係数が15×10-6/K以上」に含まれる。 そうすると、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項である「線膨張係数が15×10-6/K以上」は引用発明の銅合金も備えるものであるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。 上記相違点2について検討する。 引用文献2記載事項は、スチール製ではあるがピストンリングの張力減退度が規格で定められていることを開示する。このことと、ピストンリングがおかれる環境及びピストンリングの機能に係る技術常識を踏まえれば、ピストンリングは、高温下で所定時間保持した後の張力減退率が小さいほど好ましいことは、当業者であれば容易に認識し得ることである。 また、引用文献1の「Alloys with good wear resistance and thermal stability, like the cast iron and steel materials commonly used in piston rings, typically have low thermal conductivity. It would be desirable to provide compression rings with high thermal conductivity, good wear resistance, and thermal stability.」(訳:ピストンリングにおいて一般的に使用される鋳鉄および鋼材料のような良好な耐摩耗性および熱安定性を伴う合金は、典型的には、低熱伝導率を有する。高熱伝導率、良好な耐摩耗性、および熱安定性を伴う圧縮リングを提供することが、望ましいであろう。)(上記2(1)イ)との記載によれば、引用発明は、鋳鉄および鋼材料のピストリングのような耐摩耗性および熱安定性を伴いつつ、高熱伝導率のピストンリングを提供しようとするものであるから、引用発明のような銅合金のピストンリングにおいても、引用文献2記載事項及び上記技術常識を踏まえ、高温下で所定時間保持した後の張力減退率が小さいものとすることは、当業者が容易に想起し得ることである。 そして、スチール製のピストンリングを対象としたものではあるが、JIS B 8032-5:2015には、300℃の条件下における張力減退度についても規定されている(JIS B 8032-5:2015の「5 材料 5.2 温度影響下での接線張力減退 表10」には以下のような記載がある点を参照。)。 [図:0001396810000001.jpg] よって、ピストンリングの性能を評価する際の指標として「300℃の条件下における張力減退率」を用いることは、当業者が容易に想起し得ることである。 そして、本願明細書の段落【0016】及び【0028】並びに図2をみても、「300℃で3時間保持した後の張力減退率が30%以下」としたものは、それ以外のものとの比較して、格別顕著な効果あるいは異質な効果を奏するものともいえない。 そうすると、「300℃で3時間保持した後の張力減退率が30%以下」のものとすることは、当業者が通常の創作能力の範囲でなし得たことである。 したがって、引用発明において引用文献2記載事項を踏まえて上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。 そして、本件補正発明が奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものではない。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない 4 審判請求人の主張について 審判請求人は審判請求書において次のように主張している。 「引用文献1には、銅合金における銅の割合を大きくすることで熱伝導率を大きくしすぎた場合、高温環境下では十分なバネ性を維持することが困難であること、具体的には、熱伝導率が30W/m・K以上300W/m・K以下であって300℃で3時間保持した後の張力減退率が30%以下であるものとすることで、熱環境下においても張力を維持可能な、良好な熱伝導性を有するコンプレッションリングを提供することができることについて一切記載、示唆されておりません。 また、引用文献2には、張力減退率が小さければ小さいほどよい、と記載されておりますが、本願のような熱伝導率及び線膨張係数の高い銅合金において、高い熱伝導率と低い張力減退率を両立することは容易ではありません(例えば、[0006]段落を参照)。また、令和3年7月30日付け(起案日)拒絶理由通知書及び令和3年12月7日付け(起案日)の原査定には、コンプレッションリングにおいて、張力減退率をできる限り小さくすることは、従来周知の課題であるとともにJIS B 8032-5:2015においても所定の満たすべき範囲(例えば、250℃で5時間保持した後の張力減退率が25%以下)が定められている旨が記載されておりますが、仮に張力減退率をできる限り小さくすることが、従来周知の課題であったとしても、250℃よりさらに高温である、300℃という相当過酷な条件における張力減退率を30%以下とすることで、熱環境下においても張力を維持可能な、熱伝導率が30W/m・K以上の良好な熱伝導性を有するコンプレッションリングを得られることは、当業者であっても容易に想到することはできません。」 また、請求人は令和4年7月1日の上申書において、次のように主張している。 「しかしながら、JIS B 8032に述べられる一般的なピストンリングは、鋳鉄やスチール材料を用いることが通常であり、JIS B 8032-3:2015(ピストンリング材料)にもピストンリング材料として銅、銅合金は記載されておりません。すなわち、JIS B 8032-5:2015に定められた張力減退率の範囲は、銅合金製ピストンリングを想定したものではありません。 本発明者らは、鋳鉄やスチール材料よりさらに熱伝導性の高い材料である銅をコンプレッションリングに用いることを検討したところ、銅は熱減退が大きくコンプレッションリングには不適であることを見出しております([0006]、[0014]段落)。さらに、高温環境下においてもコンプレッションリングとして必要な張力を維持可能な、良好な熱伝導性を有するコンプレッションリングを提供できる、張力減退率の特定の範囲を見出しました([0015]段落)。 すなわち、銅合金製ピストンリングを検討するにあたり、銅合金製ピストンリングを想定していないJIS B 8032-5:2015は参照すべき規格ではなく、本願発明は、そのような規格に依らずに高い熱伝導率と低い張力減退率を両立する特定の範囲を見出した点において評価されるべきであると考えます。」 上記主張について検討する。 引用文献1の段落[0042](上記2(1)オ)には、銅合金が「約38W/m-K~約40W/m-Kの熱伝導率」、すなわち、「熱伝導率が30W/m・K以上300W/m・K以下」であることが記載されている。 そして、引用発明は、引用文献1の段落[0005](上記2(1)イ)に記載されるとおり、高熱伝導率、良好な耐摩耗性、および熱安定性を伴う圧縮リングを提供するものである。 さらに、スチール製のピストンリングではあるが、張力減退度が規格で定められていることは、引用文献2記載事項に開示されているとおりである。 そうすると、引用発明は「熱伝導率が30W/m・K以上300W/m・K以下」を含み、所定の張力減退度を備えていることは、当業者であれば当然に理解し得ることである。 また、上記相違点2についての検討で述べたとおり、JIS B 8032-5:2015には、300℃の条件下における張力減退度についても規定されている。 当該規格は、スチール製のピストンリングが対象であるが、ピストンリングの性能要求事項でもあるので、銅合金製のピストンリングでは採用できない、あるいは、銅合金製のピストンリングには別の指標がある等の特段の事情がなければ、引用発明のピストンリングの性能を評価する場合に、当業者が当然に参照し得るものである。 そして、ピストンリングがおかれる環境及びピストンリングの機能を踏まえれば、ピストンリングの材質によらず張力減退率は小さい方がよいことは当業者であれば容易に想起し得たことであるから、引用発明の銅合金のピストンリングにおいて、張力減退率を所定の値の範囲とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 さらに、本願の発明の詳細な説明の段落【0016】には「300℃で3時間保持した後の張力減退率が50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることが更に好ましく、30%以下であることが特に好ましい。」と銅合金に求める張力減退率が記載されるのみで、当該範囲と特定することにより、範囲外のものと比べ何らかの臨界的意義があることを開示ないし示唆するものでもない。 してみると、引用発明において引用文献2記載事項に基づいてピストンリングに要求される性能を満たすため、「300℃で3時間保持した後の張力減退率が30%以下」とすることは、当業者の通常の創作能力の範囲でなし得たことである。 そうすると、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、本件補正発明とすることは、当業者が容易になし得たことである したがって、請求人の主張は採用できない。 5 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和3年9月15日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1 」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 (進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1ないし6に対して 引用文献等1及び2 <引用文献等一覧> 1.国際公開第2018/128775号 2.国際公開第2011/148934号 3 引用文献、引用発明等 引用文献1及び2の記載事項及び引用発明は、上記「第2 〔理由〕2」に記載したとおりである。 4 当審の判断 本件補正発明は、上記「第2〔理由〕1 」で述べたように、本願発明の発明特定事項である「熱伝導率が30W/m・K以上」について、「熱伝導率が30W/m・K以上300W/m・K以下」に限定するともに、本願発明の発明特定事項である「250℃で3時間保持した後の張力減退率が50%以下」について、「300℃で3時間保持した後の張力減退率が30%以下」に限定するものであるから、本願発明を限定したものである。 そして、本願発明を限定したものである本件補正発明が、上記「第2〔理由〕3 」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-002466

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  • 2024-009776拒絶査定不服審判 / 2025-07-02 / 原査定取消(特許/登録すべき)シール装置
    共通の審決分類: 121・F16J
  • 2024-000949拒絶査定不服審判 / 2025-02-03 / 原査定取消(特許/登録すべき)密封構造
    共通の審決分類: 121・F16J

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