商標取消審判
2021-300363
イージット
- 審判番号
- 2021-300363
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 取消審判(商標取消の審決)
- 出願番号
- 商願2006-051359
- 登録番号
- 5058137
- 請求日
- 2021年05月14日
- 審決日
- 2022年02月28日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【請求人】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント 株式会社
- 【請求人代理人】稲葉 良幸
- 【請求人代理人】田中 克郎
- 【請求人代理人】石田 昌彦
- 【請求人代理人】太田 雅苗子
- 【被請求人】伊藤 智教
- 【被請求人代理人】鈴木 徳子
- 【被請求人代理人】高松 孝行
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 松江
- 審判官 平澤 芳行
- 審判官 鈴木 雅也
- 分類
- T132 .1 -Z (Y42)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法50条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第50条、商標法第50条第1項、商標法第2条第3項第8号、商標法第50条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第5058137号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第5058137号商標の指定役務中,第42類「環境対策・温室効果ガス削減・省エネルギー用の電子計算機の貸与,電子計算機の貸与,環境対策・温室効果ガス削減・省エネルギー用の電子計算機用プログラムの提供,電子計算機用プログラムの提供」についての商標登録を取り消す。
審判費用は,被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第5058137号商標(以下「本件商標」という。)は,「イージット」の文字を標準文字で表してなり,平成18年6月2日に登録出願,第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として,同19年6月29日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。
そして,本件審判の請求の登録は,令和3年5月27日である。
以下,本件審判の請求の登録前3年以内の期間(平成30年5月27日ないし令和3年5月26日)を「要証期間」という。
第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定役務中,第42類「環境対策・温室効果ガス削減・省エネルギー用の電子計算機の貸与,電子計算機の貸与,環境対策・温室効果ガス削減・省エネルギー用の電子計算機用プログラムの提供,電子計算機用プログラムの提供」について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者の.いずれも使用した事実が存しないから,その登録は商標法第50条第1項の規定により取消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件商標の使用に対する弁駁
ア 本件指定役務についての使用とはいえないこと
本件商標の通常使用権者であるエコエナジー株式会社(以下「エコエナジー社」という。)が,取引先や潜在的顧客に示した又は送付した資料に記載された商標は,単に,エコエナジー社が提供する省エネ診断では,「イージット」という名称のソフトウェア(以下「イージットソフトウェア」という。)を用いて分析を行っている事実を示しているにすぎず,エコエナジー社が当該ソフトウェアの提供に係る役務を提供していることを示す記載は一切ないから,本件商標が具体的な役務との関係において使用されているものとはいえない。すなわち,取引先や潜在的顧客との打ち合わせの際に使用した資料に,本件商標が形式的に表示されていたとしても,当該資料では,被請求人が提供するあるいは近い将来提供することを予定している役務の具体的内容はおろか,被請求人がソフトウェアの提供を行っている又は近い将来行う予定である事実すら明示されておらず,このような商標の使用態様では,本件商標が,本件指定役務との具体的な関係において使用されているものとは到底認められないから,当該行為によって本件商標について使用の事実があったということはできない。
被請求人は,エコエナジー社は,「イージットソフトウェア」を用いた分析を行って省エネ診断を行い,その省エネ診断結果を報告書にまとめて,取引先に報告・説明を行っており,その報告書には,本件商標を示す「イージット(R)」((R)は,登録商標であることを表示したものと認められる,○内に「R」の文字が小さく付されていることを表す。以下同じ。)が記載された資料が含まれており,その省エネ診断結果の説明の中で,取引先に対して個別に「イージットソフトウェア」の提供についても度々提案している旨,また,取引先が,かかる資料を見て,「イージットソフトウェア」の提供サービスについて,価格等の条件を確認してくることもある旨主張する。しかしながら,被請求人は,エコエナジー社が取引先に対して,「イージットソフトウェア」の提供について具体的な提案を行ったことを示す証拠は何ら提出していない。「イージットソフトウェア」の提供について取引先に提案をしているのであれば,通常の取引実情からして,その具体的なサービスの内容,利用条件,利用料等を取引先に示しているはずであるが,そのような資料は一切提出されていない。単に「イージット(R)アプリ」「イージット(R)プログラム」等と表示されているのみで,「イージットソフトウェア」の提供に関する具体的な役務の内容や,当該サービス提供の条件,利用料等も一切明らかにされていない資料に本件商標が表示されていても,本件商標が「電子計算機用プログラムの提供」の役務との具体的な関係において使用されているとは到底認められない。
イ 本件商標の使用は,商標法第50条における使用とは認められないこと
被請求人は,答弁書において,本件商標の通常使用権者であるエコエナジー社は,現時点では「イージットソフトウェア」の提供実績はない旨自認している。にもかかわらず,被請求人は,乙第2号証ないし乙第15号証の証拠を提出し,本件商標が表示された資料を用いて「イージットソフトウェアの提供」の広告宣伝を行っている旨主張する。
しかしながら,被請求人又はエコエナジー社のいずれも「イージットソフトウェア」の提供を行った実績がない以上,乙第2号証ないし乙第15号証は,本件商標に保護に値する信用が化体されていることを証明するものではない。
被請求人は,現時点では「イージットソフトウェア」の提供実績がない旨自認しており,現に提供していない役務に関する広告への商標の使用は,商標法第50条における「指定役務」に関する登録商標の使用とは認められない。
(2)各証拠についての弁駁
ア 乙第2号証について
被請求人が「イージットソフトウェア」の提供サービスについて打診を受けたことに関する証明書(乙2)では,単に,環境省の補助事業に関する報告会において,被請求人により,イージット(R)プログラムという「省エネ診断に関するソフトウェアの提供サービス」を使用して作成した分析結果が示され,「イージット(R)」の分析結果が非常にわかりやすかった,と述べられているにとどまり,当該ソフトウェアの提供サービスの具体的内容は何ら明らかにされていないから,本件商標が本件指定役務との具体的関係において使用されているとは到底いえない。加えて,当該証明書によれば,被請求人は,K氏よりソフトウェアの提供について打診を受けているにもかかわらず,「無償では提供できません」と回答したのみであり,例えば有償での提供が可能なプランを提示する等,当該ソフトウェアの提供サービスについて具体的な提案を行っていないことがうかがえる。潜在的な顧客から宣伝広告の対象となっているサービスの提供について打診を受けたにもかかわらず,「無償では提供できません」とのみ回答し,提供可能なプラン等の説明や紹介を一切行わないなどということは,通常の取引慣習上考えにくく,このことから,当該ソフトウェアの提供に係る業務が実際に行われておらず,また,近い将来に提供が開始される具体的計画もないことは明らかである。
イ 乙第3号証について
環境省の補助事業に関する報告会の議事録(乙3)には,本件商標は使用されておらず,乙第3号証によって本件商標の使用の事実は証明されていない。
ウ 乙第4号証ないし乙第6号証について
乙第4号証は,2021年6月30日付けで発行された,株式会社jPC代表取締役M氏の証明書であり,被請求人は,当該証明書を,2020年7月1日に被請求人がM氏と「イージットソフトウェア」をさらに改良しサブスクリプション方式を含む販売をすることについて,エコエナジー社内において打ち合わせを行ったことの証明として提出している。また,乙第5号証は,被請求人が,M氏との打ち合わせの際に用いた資料「省庁舎全体電力の過去同月比較表」であり,当該比較表の下方には,「このグラフはイージット(R)アプリで作成されています」と記載されており,乙第6号証は,乙第5号証の当該部分を拡大した資料である。
しかしながら,当該証明書には,「イージット(R)」に関し打ち合わせを行った事実が記載されているにすぎず,ソフトウェアの提供サービスについて具体的にどのような説明が被請求人からM氏になされたのかは一切示されていない。また,乙第4号証ないし乙第6号証の資料には,単に「イージット(R)」との記載があるのみで,その役務の内容は全く不明であるから,本件商標が本件指定役務との具体的関係において使用されているなどとは到底認められない。さらに,乙第5号証及び乙第6号証中の「このグラフはイージット(R)アプリで作成されています」との文言は,単に「イージット」という名称のアプリを使用してグラフが生成されたことを示しているにすぎず,本件商標が本件指定役務との具体的な関係において使用されているものとは到底いえない。
被請求人は,本件商標を示す「イージット(R)」が記載されたこれらの資料が,「イージットソフトウェア」の提供サービス自体の広告宣伝機能を十分に果たしている旨主張しているが,これらの資料における本件商標の表示は,単に,エコエナジー社が,「イージット」という名称のアプリを使用して省エネ診断を行っていること,すなわち,エコエナジー社が提供する「省エネに関する診断業務」を広告・宣伝しているものである。乙第4号証ないし乙第6号証には,「イージット(R)アプリ」,「イージット(R)プログラム(イージットソフトウェア)」をオンラインで利用できる等,被請求人又はエコエナジー社が「電子計算機用プログラムの提供」を行っていることを把握できる記載又は説明は一切なく,これらの資料を見た者が,「イージット」という「電子計算機用プログラムの提供」の業務に関する広告・宣伝であると理解することはできないから,本件商標が本件指定役務に関する広告に使用されたと認めることはできない。
エ 乙第7号証及び乙第8号証について
乙第7号証は,エコエナジー社が,2021年2月24日付けで取引先に送付したとされる企画案であり,第3頁に「イージット(R)アプリでの分析」と記載されている。かかる記載も,単に,エコエナジー社が提供する省エネ診断プロジェクトの支援プログラム中の分析検証支援に関わる分析が,「イージット」という名称のアプリを使用して行われている事実を示しているにすぎず,顧客が当該アプリ(ソフトウェア)をオンラインで利用できる等の記載は一切ないから,これより,エコエナジー社が顧客に対し当該アプリ(ソフトウェア)の提供自体を行っていると認めることはできない。乙第7号証の資料下部に,「この支援プログラムは,省エネ診断を受託するものではありません。貴社の省エネ診断プロジェクトを支援するためのプログラムです。」との記載があるとおり,乙第7号証の資料は,エコエナジー社が提供する省エネ診断をサポートするプログラムの紹介を目的とした資料であり,「イージット(R)アプリ」の提供に関する説明は一切されていないから,これをもって,本件商標が本件指定役務に関する広告に使用されたと認めることはできない。
さらに,乙第7号証と同日付で取引先に送付したとされる乙第8号証のリーフレットには,「独自に開発した『省エネプログラム(Ecofitness(R),知省(R)ほか)』と『省エネ診断技法(イージット(R)アプリほか)』であなたの会社の本質的な課題をキャッチし,解決を目指します。」と記載されているが,これも単に,「イージット」という名称のアプリがエコエナジー社による省エネ診断技法として使用されていることを示しているにすぎず,「イージット(R)アプリ」をオンラインで利用できる等,被請求人又はエコエナジー社が「電子計算機用プログラムの提供」を行っていることを把握できる記載又は説明は一切ないから,かかる本件商標の表示をもって,本件商標が本件指定役務に関する広告に使用されたと認めることはできない。
オ 乙第9号証について
被請求人は,エコエナジー社が,乙第7号証及び乙第8号証の資料を実際に顧客に送付したことの証拠として,乙第9号証の送付状を提出しているが,当該送付状には,本件商標は使用されておらず,本件商標の使用の事実は証明されていない。
カ 乙第10号証について
乙第10号証は,「2021省エネルギーフェア」のパンフレットであり,被請求人は,当該エネルギーフェアにおいて,乙第8号証のリーフレットを配布したと主張している。しかしながら,乙第10号証からは,エコエナジー社が同フェアに出展した事実はうかがえるとしても,同フェアにおいて,乙第8号証のリーフレットが実際に配布されたことは明らかではない。なお,仮に乙第8号証のリーフレットが同フェアにおいて実際に配布されていたとしても,乙第8号証における本件商標の表示によって,本件商標が本件指定役務の広告に使用されたと認められるものではない。
キ 乙第11号証及び乙第12号証について
乙第11号証及び乙第12号証は,乙第7号証及び乙第8号証の資料送付の日付を立証するために提出された,被請求人が取引先に送付した電子メールの写しであるが,この電子メール自体には,本件商標は表示されていないから,本件商標の使用の事実は証明されていない。また,仮に乙第7号証及び乙第8号証の資料が取引先に現実に送付されていたとしても,乙第7号証及び乙第8号証の資料からは,エコエナジー社が顧客に対し「イージットソフトウェア」の提供自体を,すなわち,電子計算機用プログラムの提供を行っていると認めることができないため,本件商標が本件指定役務に関する広告に使用されたと認めることはできない。
ク 乙第13号証について
乙第13号証は,エコエナジー社が取引先に送付したカーボンニュートラル対策提案資料であるが,その記載内容より,カーボンニュートラルを実現するプロセスで人材育成ができるエコエナジー社独自の「EcoFitness」というプログラムの導入を顧客に提案する資料であると思われるところ,スライド3の「中核となるソフトウェアは『イージット(R)』です。課題を発見するソフトウェアです。また,『SITDOC(R)』は,イージット(R)により発見された課題を解決するメソッドです。EcoFitness(R)プログラムは,中核となる要素を自社開発し,700を超える事業所での実証を行い,完成されています。」との記載は,エコエナジー社が提供する上記EcoFitnessプログラムの中核となるソフトウェア「イージット」と課題解決メソッド「SITDOC」が,自社開発であることを述べているにとどまり,上記記載から,このソフトウェア自体が顧客の利用に供されるものであると認めることはできない。
ケ 乙第14号証及び乙第15号証について
被請求人は,乙第13号証の資料を取引先に送付したことを明らかにするために,乙第13号証の資料を取引先に送付した際の送付状(乙14)とエコエナジー社から取引先に送られた電子メールの写し(乙15)を提出している。しかしながら,乙第14号証及び乙第15号証の資料自体には,本件商標は表示されていないから,本件商標の使用の事実は証明されていない。
また,仮に,乙第13号証の資料が取引先に実際に送付されていたとしても,乙第13号証の資料からは,エコエナジー社が顧客に対し「イージットソフト」というソフトウェアそのものを顧客の利用に供していると認めることができないため,本件商標が本件指定役務に関する広告に使用されたと認めることはできない。
コ 小括
以上のとおり,被請求人が,取引先又は潜在的顧客に提示又は送付した資料(乙5~乙8,乙13)には,本件商標が形式的に表示されているものの,本件指定役務である「電子提供用プログラムの提供」との具体的な関係において使用されているものではなく,本件指定役務の広告について使用されているものとは到底認められないから,本件指定役務についての本件商標の使用の事実が立証されていないことは明らかである。
3 結語
以上述べたとおり,被請求人が提出する書類等に表示された商標は,全て,本件指定役務についての商標の使用ということはできない。
第3 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第15号証を提出した。
1 本件商標の使用主体
被請求人は,2002年6月設立の東京都台東区浅草橋五丁目4番5号に所在するエコエナジー社の代表取締役を務めている。
被請求人は,エコエナジー社との間で,本件商標に関する商標使用許諾契約を2018年6月13日付けで締結し,エコエナジー社に本件商標の通常使用権を許諾している(乙1)。当該契約は2021年6月13日まで有効であるが,それ以降も契約の変更または解除の意思表示がない場合は2年間同一条件で更新され,以後も同様であるから,現在も効力を有しており,エコエナジー社は,本件商標についての通常使用権者である。
そして,本件商標は通常使用権者であるエコエナジー社が使用している。
2 エコエナジー社の業務内容
エコエナジー社は,設立以来,自治体や大手民間企業を始め700を超える取引先に対し,省エネ対策のための診断を行い,診断結果に基づく対策・実行を支援するコンサルティング業務を主として行っている。
特に,取引先に余計な設備投資をさせずに高い省エネ成果を実現させるコンサルティングには定評があり,省エネ診断から始まり,対策・実行,削減できたコストを原資とする再投資,中長期戦略の立案や経営計画の立案・遂行に至るまで伴走型支援を実施している。
エコエナジー社のコンサルティングは,まず,取引先の省エネ診断を行い,その診断結果に基づき潜在的な課題を見出した上で,最適な省エネ対策や中長期的な戦略等を個別に提案していくというものである。したがって,省エネ診断は業務の根幹をなすと言っても過言ではない。
エコエナジー社の省エネ診断は,独自に開発した診断法や診断技術を用いており,その中でもコアとなる重要な技術は,3年分までの52,560のデータを分析し,わずか10秒で改善ポイントを発見できるソフトウェアである。
エコエナジー社は,「イージットソフトウェア」の提供サービスについて本件商標を取得した。
3 本件商標の使用
エコエナジー社は,現時点では,「イージットソフトウェア」の提供実績はない。しかしながら,本件商標が表示された資料を用い,「イージットソフトウェアの提供」の広告宣伝を行っている。
(1)「イージットソフトウェア」はエコエナジー社の業務の根幹をなす省エネ診断に必ず用いるものであるため,このソフトウェアの提供価格は高額に設定しないと採算が合わない。そして,エコエナジー社の事業は,取引先の事業に深く入り込み,長期にわたり個別対応の伴走支援を行うビジネス体系となっている。
このようなエコエナジー社の特異なビジネス体系により,「イージットソフトウェア」の提供サービスは,一般向けの電子計算機プログラム提供サービスである,例えば会員管理のクラウドサービスの類とは,販売方法や広告方法が全く異なる。
つまり,「イージットソフトウェア」の提供サービスに関する広告は,汎用性のあるソフトウェアの提供サービスのように,ホームページやチラシ等の一般的な広告媒体を通じて行うものではない。
「イージットソフトウェア」は,省エネ診断という非常にニッチな分野で用いられるものであり,かつ,その提供料は数千万円単位の高額なものであることから,使用する者が限られており,その広告宣伝方法も特異なものとなっている。あくまでも,取引先への省エネ診断の報告等の中で,個別に広告宣伝活動を行うものである。
エコエナジー社の業務は,まず,「イージットソフトウェア」を用いた分析を行って省エネ診断を行う。次いで,その省エネ診断結果を報告書にまとめて,取引先に報告・説明をする。
その報告書には,本件商標を示す「イージット(R)」が記された資料が含まれており,その省エネ診断結果の説明の中で,エコエナジー社は,取引先に対して個別に「イージットソフトウェア」の提供についても,度々提案をしている。
乙第2号証は,被請求人が「イージットソフトウェア」の提供サービスについて打診を受けたことに関する証明書である。
当該証明書に記載のとおり,2019年11月26日に長野県飯田市役所で開催された環境省の補助事業(2019年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金)に関する報告会(CO2削減ポテンシャル診断結果報告会)で,省エネ診断員として参加した被請求人は,「イージット(R)プログラム」(イージットソフトウェア)を使用して作成した分析結果を補助事業者(受診事業者)に示した。そして,当該報告会の終盤で,被請求人は,補助事業者である飯田市役所の関係者として参加したK氏から,「イージットソフトウェア」の提供に関し打診を受けている。
また,乙第4号証は,2020年7月1日にエコエナジー本社において,被請求人が株式会社jPCの代表取締役M氏と,「イージットソフトウェア」をさらに改良しサブスクリプション方式を含む販売をすることについて,打ち合わせを行ったことを証明するものである。
被請求人は,打ち合わせの際に,自治体(台東区)に業務として提出した本件商標を示す「イージット(R)」が記載された資料「庁舎全体電力の過去同月比較表」を用い(乙5),サブスクリプション方式を含む「イージットソフトウェア」の販売等について説明している。なお,当該比較表の右下には「2020/6/2エコエナジー(株)作成」という記載がある。
乙第5号証の「庁舎全体電力の過去同月比較表」は,電カデータの数値部分を黒塗りして提出する。
なお,「庁舎全体電力の過去同月比較表」は実際の説明では,A3サイズのものを使用しており,当該比較表の下方に記載されている「このグラフはイージッ卜(R)アプリで作成されています」という文字はA3サイズでは,十分,視認可能である。
これらのことから,本件商標を示す「イージット(R)」が記載された資料は,イージッ卜ソフトウェア」の提供サービス自体の広告宣伝としての機能も十分に果たしていることは明らかである。
また,エコエナジー社のビジネス体系が,長期にわたり取引先に個別対応の伴走支援を行うものであるという取引の実情を鑑みても,本件商標を示す「イージッ卜(R)」が記載された資料が,「イージットソフトウェア」の提供サービス自体の広告宣伝機能を十分に果たしていることは明らかである。
(2)次に,このように広告的機能を有する資料が本件要証期間に,実際に使用されていることを説明する。
ア 乙第7号証及び乙第8号証は,2021年2月24日付けでエコエナジー社が取引先に送付した省エネ診断支援の企画案と直近のリーフレットである。乙第9号証はこれらの資料の送付状である。
乙第7号証の省エネ診断支援企画案の表紙には,「2021年2月23日」と日付が記載されており,3頁の「省エネ診断プロジェクトの支援プログラム」には,「イージット(R)アプリでの分析」という記載がある。
また,乙第8号証のリーフレットには,「省エネ診断技法(イージット(R)アプリほか)」と記載されている。当該リーフレットの右下には,「2020.12」の記載があるが,これは2020年12月9日~11日に開催された展示会「2021 省エネルギーフェア」で配布したものである。エコエナジー社が,当該展示会に出展したことを証する資料として,「2021 省エネルギーフェア」のパンフレットを提出する(乙10)。
なお,乙第9号証の送付状に捺印はされていないが,「2月16日のZoomミーティングをもとにご提案としてまとめたものです。」と記載されている。資料送付の日付の立証をするために,このZoomミーティングについて,被請求人が取引先に送付した2021年1月15日付け及び2021年2月23日付けの電子メールの写しを提出する(乙11,乙12)。
乙第11号証は,2021年1月15日付の電子メールの写しで,「Zoomミーティングの設定は後日ご連絡します。2月16日(火)9:30~10:30 よろしくお願いします」という記載がある。
乙第12号証は,2021年2月23日付けの電子メールの写しで,「2月16日(火)のZoomミーティングでご提案をお約束しました省エネ診断プロジェクトの支援をするための企画(骨子)を添付しますので,ご査収下さい。」という記載がある。
イ 乙第13号証は,エコエナジー社が取引先に送付したカーボンニュートラル対策提案資料である。乙第14号証は,当該資料の送付状である。送付状には「令和3年1月22日」,資料表紙には「2021年1月22日」と,日付が記載されている。
乙第13号証の資料には,「中核となるソフトウェアは『イージット(R)』です。課題を発見するソフトウェアです。また『SITDOC(R)』は,イージット(R)により発見された課題を解決するメソッドです。」「エコエナジーでは,・・・イージット(R)ソフトにより高品質の省エネ診断をご提供しております。」「イージット(R)ソフトの使用により2年分のエネルギーデータ(1系統当たり35,000個)が,わずか10秒で分析できる強みがあります」という記載があり,本件商標が表示されている。
以上のとおり,取引の実情を考慮すると,これらの書類に表示された商標「イージット」が,「3 本件商標の使用(1)」で説明した広告的機能を有していることは明らかである。そして,本件商標は「電子計算機用プログラムの提供」等の役務に関し,通常使用権者であるエコエナジー社によって,本件要証期間に使用されている。また,本件商標の使用は,商標法第2条第3項第8号で規定する「役務に関する広告に商標を付して頒布する行為」に該当する。
4 使用商標の態様
本件商標と実際に使用されている商標の態様は,社会通念上同一であることは明らかである。
5 まとめ
以上のとおり,本件商標の通常使用権者であるエコエナジー社が,本件審判の請求に係る指定役務,第42類「環境対策・温室効果ガス削減・省エネルギー用の電子計算機の貸与,電子計算機の貸与,環境対策・温室効果ガス削減・省エネルギー用の電子計算機用プログラムの提供,電子計算機用プログラムの提供」について,本件商標を本件要証期間に使用している。
第4 審尋及び被請求人の回答
1 審尋
審判長は,令和3年11月30日付け審尋において,被請求人に対し,被請求人が提出した証拠によっては,被請求人が商標法第50条第2項に規定する本件商標の使用をしている事実を証明したものとは認めることができない旨の合議体の暫定的見解及び請求人提出の令和3年9月17日付け審判事件弁駁書に対する回答を求めた。
2 被請求人の回答
被請求人は,上記1の審尋に対し何らの応答もしていない。
第5 当審の判断
被請求人は,本件商標の使用について,エコエナジー社は,現時点では,「イージットソフトウェア」の提供実績はないものの,本件商標が表示された資料を用い,「イージットソフトウェアの提供」の広告宣伝を行っている旨主張するので,以下検討する。
1 被請求人が提出した証拠及び同人の主張によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件商標権者とエコエナジー社との間で締結された,平成30年6月13日付けの商標使用許諾契約書(乙1)には,「伊藤智教とエコエナジー株式会社とは,登録商標第5058137号『イージット』(第42類)を対象商標とする商標の使用許諾に関して契約を締結する。」旨の記載及び「(契約の停止及び解除)第6条 本契約の有効期間は,締結の日より満3年とする。ただし契約満了の6か月前までに,当事者の一方より,本契約の変更または解除の意思表示がない場合は,さらに2か年有効とし,以後2年ごとにこの例による。」の記載がある。
(2)令和3年7月1日付けのK氏による証明書(乙2)には,「2019年11月26日に開催された『CO2削減ポテンシャル診断結果報告会』において,同氏が本件商標権者に対し『イージット(R)プログラム』を無料で提供してほしい旨打診し,本件商標権者から無償では提供できない旨の回答があった。」旨記載があるが,当該プログラムの提供サービスの具体的内容,提供行為は明らかではない。
(3)2021年6月30日付けの株式会社jPCのM氏による証明書(乙4)には,「2020年7月1日に本件商標権者とイージット(R)(省エネ診断に関するソフトウェアの提供サービス)に関し,ソフト開発と販売に関する相談を受け,本件商標権者と打合せを行ったこと,打合せした際の資料に,『このグラフはイージット(R)アプリで作成されています』と記載された庁舎全体電力の過去同月比較グラフ(乙5,乙6)を用いてサービスの内容について説明を受けた。」旨の記載があるが,当該プログラムの提供サービスの具体的内容,提供行為は明らかではない。
(4)2021年2月23日付けエコエナジー社作成に係る省エネ診断支援の企画案(乙7)には,3葉目に「イージット(R)アプリでの分析」「注)この支援プログラムは,・・・貴社の省エネ診断プロジェクトを支援するためのプログラムです。」と記載があるが,当該ソフトウェアの提供サービスの具体的内容,提供行為は明らかではない。
(5)エコエナジー社作成に係る省エネ診断技法に関するリーフレット(乙8)には,省エネ支援のしくみが図解され,省エネ診断技法にイージット(R)アプリが用いられていると紹介されているが,当該ソフトウェアの提供サービスの具体的内容,提供行為は明らかではない。
(6)エコエナジー社作成に係るカーボンニュートラル対策提案資料(乙13)には,4頁に「エコエナジーでは,・・・イージット(R)ソフトにより高品質の省エネ診断をご提供しております。」と記載があるが,当該プログラムの提供サービスの具体的内容,提供行為は明らかではない。
2 判断
(1)本件商標の使用者について 上記1(1)によれば,エコエナジー社は,平成30年6月13日以降,本件商標の通常使用権者であると認められる。
(2)商標法上の「役務」とは,他人のために行う労務又は便益であって,独立して商取引の目的たりうべきものであるところ,「電子計算機用プログラムの提供」とは,他人のために,電気通信回線を通じて,電子計算機用プログラムを提供する役務であると解される。
(3)上記1(2)ないし(6)のとおり,エコエナジー社は,省エネ診断を行うに当たり,「イージット(R)ソフト」を用いていることはうかがえるものの,当該プログラムの提供サービスの具体的内容,提供行為は明らかではなく,電子計算機用プログラムそのものを顧客の利用に供しているものということはできない。
そうすると,エコエナジー社作成の資料に本件商標が表示されていたとしても,エコエナジー社は,「イージットソフトウェアの提供」の広告宣伝を行ったと認めることはできない。
(4)小括
上記のとおり,被請求人が提出した証拠によっては,要証期間内に,本件通常使用権者が,本件審判の請求に係る指定役務について,本件商標を使用したことを認めるに足る事実を見いだせない。
3 まとめ
以上のとおりであるから,被請求人は,要証期間内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者が本件審判の請求に係る指定役務のいずれかについての本件商標の使用をしていた事実を証明したものとは認められない。
また,被請求人は,本件審判の請求に係る指定役務について本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。 したがって,本件商標の登録は,その指定役務中の「結論掲記の指定役務」について,商標法第50条の規定により,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2021-300363