特許拒絶査定不服審判
2021-016063
半導体装置、表示装置、及び、方法
- 審判番号
- 2021-016063
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-090182
- 請求日
- 2021年11月24日
- 審決日
- 2022年08月23日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】シナプティクス・ジャパン合同会社
- 【請求人代理人】狩野 芳正
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼田 耕一
- 審判官 稲葉 和生
- 審判官 野崎 大進
- 分類
- P18 .121-WY (G06F) / P18 .537-WY (G06F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017- 90182「半導体装置、表示装置、及び、方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月29日出願公開、特開2018-190072、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年4月28日の出願であって、令和2年4月14日に手続補正書が提出され、令和3年2月8日付けで拒絶理由が通知され、令和3年4月7日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年8月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して令和3年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、その後、令和4年5月18日付けで当審より拒絶理由が通知され(以下、「当審拒絶理由」という。)、令和4年7月22日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 原査定の概要
原査定(令和3年8月23日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
理由2(進歩性) 本願請求項1-20に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2009-277116号公報
2.特開2012-043394号公報
3.特表2005-524914号公報
4.特開2011-210038号公報
第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1(明確性) この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
本願の請求項11には、「前記複数の画素回路」との記載がある(2箇所)が、この記載よりも前に「複数の画素回路」又は「画素回路」の記載が無く、「前記複数の画素回路」が何を指し示しているのかが不明確である。
第4 本願発明
本願請求項1-20に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明20」という。)は、令和4年7月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-20に記載された事項により特定される発明であって、本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
液晶表示パネルの複数の検出電極の静電容量に依存する容量検出データを取得するように構成されたアナログフロントエンドと、
現タッチ検出フレームに対応する第1容量検出データを受け取り、
前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態に応じて、タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の複数の過去タッチ検出フレームを選択し、
前記第1容量検出データと選択された前記複数の過去タッチ検出フレームに対応する第2容量検出データとに基づいて、前記現タッチ検出フレームに対応するタッチ検出データを生成するように構成された演算回路と
を備える
半導体装置。」
なお、本願発明2-20の概要は以下のとおりである。
本願発明2-12は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明13は、本願発明1に対応する「表示装置」の発明である。
本願発明14-18は、本願発明13を減縮した発明である。
本願発明19は、本願発明1に対応する方法の発明である。
本願発明20は、本願発明19を減縮した発明である。
第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1及び引用発明
(1) 引用文献1
原査定に引用された引用文献1には、以下の記載がある(下線は、特に着目した箇所を示す。以下同様。)。
ア 【図1】
「
[図:0001388209000001.jpg]
」
イ 段落【0018】-【0025】
「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<A:第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る電気光学装置10の構成を示すブロック図である。
電気光学装置10は、画素領域100と、走査線駆動回路20と、データ線駆動回路30と、検出回路40と、制御回路200と、画像処理回路300と、Vcom検出回路400を備える。画素領域100には、X方向に延在するm本の走査線102と、Y方向に延在するn本のデータ線104が設けられている(mとnは、ともに2以上の自然数)。各画素回路Pは、走査線102とデータ線104との交差に対応する位置に配置される。従って、これらの画素回路Pはm行×n列のマトリクス状に配列される。また、図示を省略しているが画素領域100の背面にはバックライトが設けられており、このバックライトからの光が画素領域100の背面側から各画素回路Pを介して出射される。
・・・(中略)・・・
【0022】
Vcom検出回路400は、共通電極の電位がハイレベルであるかローレベルであるかを検出し、検出結果を検出信号Vdetとして制御回路200に出力する。なお、共通電極に供給される共通電位Vcomは極性信号Sfに基づいて生成されるので、検出信号Vdetの代わりに極性信号Sfを用いてもよい。つまり、極性信号Sfを用いることでVcom検出回路400を省略することが可能である。但し、共通電極には大きな寄生容量が付随するので、電源回路が共通電位Vcomを反転させるように動作しても、実際に共通電位Vcomの電位が反転するまでには時間を要する。従って、Vcom検出回路400を用いることで、制御回路200は正確に共通電位Vcomのレベルを検知できる。
・・・(中略)・・・
【0024】
また、図1に示す符号「R」、「G」、「B」は、各画素回路Pの表示色を示す。本実施形態においては、「R」、「G」、「B」の各色を表示色とする3個の画素回路Pが1つの組Cを構成し、この1つの組Cごとに1個のセンシング回路60が設けられている。つまり、画素領域100には、全部でm×n/3個のセンシング回路60が設けられている。各センシング回路60は、後述する接触検出用容量素子の容量値に応じた大きさの検出信号Tを出力する。検出回路40は、各センシング回路60から出力された検出信号Tを信号処理し、1画面分のm×n/3個の容量値を得る。また、検出回路40は、このようにして得られた1画面分の容量値(m×n/3個)を制御回路200に出力する。
【0025】
図2は、センシング回路60の構成を示す回路図である。
センシング回路60は、リセットトランジスタ61と、増幅トランジスタ62と、選択トランジスタ63と、基準容量素子Crと、接触検出用容量素子Clを備える。リセットトランジスタ61のゲートには、第1制御線72を介してリセット信号RESが供給される。リセットトランジスタ61のドレインは電源線70に接続され、そのソースは増幅トランジスタ62のゲートと接続される。また、電源線70には電源電位VRHが供給される。増幅トランジスタ62のドレインは電源線70に接続され、そのソースは選択トランジスタ63のドレインに接続される。選択トランジスタ63のソースは検出線74に接続され、そのゲートには第2制御線76を介して選択信号SELが供給される。増幅トランジスタ62のゲートと第1制御線72との間には、基準容量素子Crが備わる。また、接触検出用容量素子Clの第1電極64には共通電位Vcomが供給され、第2電極65は増幅トランジスタ62のゲートに接続される。」
ウ 【図12】
「
[図:0001388209000002.jpg]
」
エ 段落【0042】
「【0042】
ここで、液晶57に印加される電圧の極性を、画素電極53の電位が共通電極55の電位よりも高電位となる場合を「正極性」、画素電極53の電位が共通電極55の電位よりも低電位となる場合を「負極性」とすると、画素回路P(i,j)の液晶57に印加される電圧の極性は、図11に示すように、奇数フレームの場合に正極性(+)、偶数フレームの場合に負極性(-)となる。また、V反転方式では、同一フレームにおける全ての画素回路Pにおいて液晶57に印加される電圧の極性が共通し、隣接するフレーム間で印加電圧の極性が反転する。」
オ 【図13】
「
[図:0001388209000003.jpg]
」
カ 段落【0044】-【0052】
「【0044】
次に、タッチ判定に係る電気光学装置10の動作について説明する。
図13(a)に示す初期化処理が開始されると、まず、制御回路200は、検出回路40および各センシング回路60を制御して、共通電位Vcomがローレベル(GND)である場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第1基準容量データとして制御回路200内に設けられた第1記憶部(図示省略)に記憶する(ステップS101)。なお、ステップS101では、図12に示した奇数フレーム中の期間Ts(+)において1画面分の容量値を検出することになる。
・・・(中略)・・・
【0046】
次に、制御回路200は、検出回路40および各センシング回路60を制御して、共通電位Vcomがハイレベル(2V)である場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第2基準容量データとして第1記憶部に記憶する(ステップS102)。なお、ステップS102では、図12に示した偶数フレーム中の期間Ts(-)において1画面分の容量値を検出することになる。このステップS102の処理について具体的に説明すると、まず、制御回路200は、フレーム同期信号が立ち下るタイミングで、共通電位Vcomがハイレベルであるかローレベルであるかを検出し、共通電位Vcomがハイレベルであると検出した場合に、検出開始信号を検出回路40に出力する。以降、検出回路40において1画面分の容量値を出力するまでの処理は、上述したステップS101と同様であるため説明を省略する。制御回路200は、1画面分の容量値(m×n/3個)を検出回路40から得ると、これを第2基準容量データとして第1記憶部に記憶する。
【0047】
なお、第1記憶部に記憶された第1基準容量データ(Vcom=Low)と第2基準容量データ(Vcom=Hi)が、タッチ判定を行う際に比較の基準となる1画面分の容量値になる。また、以上説明した初期化処理は、例えば、電気光学装置10の電源投入時や、初期化処理の開始を指示するボタン操作がユーザによって行われた時、あるいは表示画像が切り替わる時や、所定の時間間隔ごとに実行される。そして、この初期化処理により、対象物が画面に接触していない基準状態において検出された第1基準容量データ(Vcom=Low)と第2基準容量データ(Vcom=Hi)が第1記憶部に記憶される。
【0048】
次に、図13(b)に示すタッチ判定処理は、タッチ入力機能がオンの状態、すなわち指やタッチペンによるタッチ入力を受け付ける期間において定期的に実行される。このタッチ判定処理が開始されると、まず、制御回路200は、フレーム同期信号が立ち下るタイミングで、共通電位Vcomがローレベルであるか否かを判定する(ステップS201)。制御回路200は、共通電位Vcomがローレベルであると判定すると(ステップS201:YES)、共通電位Vcomがローレベルである場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第1対象容量データとして制御回路200内に設けられた第2記憶部(図示省略)に記憶する(ステップS202)。このステップS202の処理により、タッチ入力機能がオンの状態において検出された1画面分の容量値(Vcom=Low)が第1対象容量データとして第2記憶部に記憶される。
【0049】
次に、制御回路200は、第1記憶部から第1基準容量データを読み出し、ステップS202において検出された第1対象容量データとの差分を算出する(ステップS203)。第1基準容量データと第1対象容量データは、ともに共通電位Vcomがローレベルの場合に検出された1画面分の容量値(m×n/3個)である。差分データを算出する際には、1画面分の容量値について、同じセンシング回路60で検出された容量値同士が比較され、全部でm×n/3個の差分データが算出される。
【0050】
一方、制御回路200は、ステップS201において共通電位Vcomがローレベルでないと判定した場合(ステップS201:NO)、すなわち共通電位Vcomがハイレベルである場合は、共通電位Vcomがハイレベルである場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第2対象容量データとして第2記憶部に記憶する(ステップS204)。このステップS204の処理により、タッチ入力機能がオンの状態において検出された1画面分の容量値(Vcom=Hi)が第2対象容量データとして第2記憶部に記憶される。
【0051】
次に、制御回路200は、第1記憶部から第2基準容量データを読み出し、ステップS204において検出された第2対象容量データとの差分を算出する(ステップS205)。第2基準容量データと第2対象容量データは、ともに共通電位Vcomがハイレベルの場合に検出された1画面分の容量値(m×n/3個)である。差分データを算出する際には、1画面分の容量値について、同じセンシング回路60で検出された容量値同士が比較され、全部でm×n/3個の差分データが算出される。【0052】
この後、制御回路200は、算出した差分データ(m×n/3個)の各々を予め定められたタッチ判定用の閾値と比較し、比較結果に基づいて、指やタッチペン等の対象物が画面に接触したか否かを判定する(ステップS206)。例えば、制御回路200は、閾値を超える差分データの個数を計数し、計数値が所定値以上の場合にタッチがあると判定する一方、計数値が所定値未満の場合にタッチがないと判定する。また、画面に対する指やタッチペンの接触面積と、画面におけるセンシング回路60の配列密度から、閾値を超える差分データの個数について上限値と下限値を定めておき、上述した計数値が上限値と下限値によって定まる範囲内の値である場合にタッチがあると判定する一方、計数値が上述した範囲内の値でない場合にタッチがないと判定してもよい。」
(2) 引用発明
したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という
。)が記載されていると認められる。
「電気光学装置10は、画素領域100と、走査線駆動回路20と、データ線駆動回路30と、検出回路40と、制御回路200と、画像処理回路300と、Vcom検出回路400を備え、
画素領域100には、X方向に延在するm本の走査線102と、Y方向に延在するn本のデータ線104が設けられ、
Vcom検出回路400は、共通電極の電位がハイレベルであるかローレベルであるかを検出し、検出結果を検出信号Vdetとして制御回路200に出力し、
「R」、「G」、「B」の各色を表示色とする3個の画素回路Pが1つの組Cを構成し、この1つの組Cごとに1個のセンシング回路60が設けられ、画素領域100には、全部でm×n/3個のセンシング回路60が設けられ、各センシング回路60は、接触検出用容量素子の容量値に応じた大きさの検出信号Tを出力し、
検出回路40は、各センシング回路60から出力された検出信号Tを信号処理し、1画面分のm×n/3個の容量値を得て、このようにして得られた1画面分の容量値(m×n/3個)を制御回路200に出力し、
センシング回路60は、リセットトランジスタ61と、増幅トランジスタ62と、選択トランジスタ63と、基準容量素子Crと、接触検出用容量素子Clを備え、
画素回路P(i,j)の液晶57に印加される電圧の極性は、奇数フレームの場合に正極性(+)、偶数フレームの場合に負極性(-)となり、また、V反転方式では、同一フレームにおける全ての画素回路Pにおいて液晶57に印加される電圧の極性が共通し、隣接するフレーム間で印加電圧の極性が反転し、
タッチ判定に係る電気光学装置10の動作について、
初期化処理が開始されると、
制御回路200は、共通電位Vcomがローレベル(GND)である場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第1基準容量データとして制御回路200内に設けられた第1記憶部に記憶し(ステップS101)、
制御回路200は、共通電位Vcomがハイレベル(2V)である場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第2基準容量データとして第1記憶部に記憶し(ステップS102)、
この初期化処理により、対象物が画面に接触していない基準状態において検出された第1基準容量データ(Vcom=Low)と第2基準容量データ(Vcom=Hi)が第1記憶部に記憶され、
タッチ判定処理が開始されると、
共通電位Vcomがローレベルであるか否かを判定し(ステップS201)、
制御回路200は、共通電位Vcomがローレベルであると判定すると(ステップS201:YES)、共通電位Vcomがローレベルである場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第1対象容量データとして制御回路200内に設けられた第2記憶部に記憶し(ステップS202)、
次に、制御回路200は、第1記憶部から第1基準容量データを読み出し、ステップS202において検出された第1対象容量データとの差分を算出し(ステップS203)、
制御回路200は、ステップS201において共通電位Vcomがハイレベルであると判定した場合(ステップS201:NO)、共通電位Vcomがハイレベルである場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第2対象容量データとして第2記憶部に記憶し(ステップS204)、
次に、制御回路200は、第1記憶部から第2基準容量データを読み出し、ステップS204において検出された第2対象容量データとの差分を算出し(ステップS205)、
この後、制御回路200は、算出した差分データ(m×n/3個)の各々を予め定められたタッチ判定用の閾値と比較し、比較結果に基づいて、指やタッチペン等の対象物が画面に接触したか否かを判定する(ステップS206)、
電気光学装置10。」
2 引用文献2について
原査定に引用された引用文献2には、段落【0071】に、以下の記載がある。
「【0071】
まず、液晶ディスプレイ70が表示オフの時には、各座標(1,1)~(M,N)のスキャン基準データのみが取得される。スキャン基準データは、自然発生しているノイズを相殺し、キャリブレーションをかけるために取得される。スキャン基準データは、後に接触情報データを算出する際に利用される。なお、この段階では、液晶ディスプレイ70は駆動していないので、ノイズ影響は発生していない。」
3 引用文献3について
原査定に引用された引用文献3には、段落【0042】-【0043】に、以下の記載がある。
「【0042】
タッチ信号は、力応答タッチセンサ信号の組合せを表わす。センサ信号は、タッチの存在および位置を特定する目的で信号の十分正確な表現を取得できるに足る速度でサンプリングされる。他のサンプリング速度を用いてもよいが、センサ信号は、例えば183Hzの速度でサンプリングすることができる。信号はアナログ/デジタル(A/D)コンバータによりデジタル化され、スケーリング、フィルタリング、および既に決定された較正係数に従う信号補正を含む、各種のデジタル信号処理ステップが実行されてよい。ゼロ押圧力状態を表わす1個以上の基準レベルを、タッチスクリーンに押圧力が加えられていない静止期間中に取得されたタッチ信号サンプルから得ることができる。タッチ位置の計算に用いられる基準レベルは、検知されたタッチ信号の種類に依存する。
【0043】
これまでの説明において、基準レベルは、タッチ信号データストリームに対する正確なゼロ力基準レベルの現時点での最良推定値を表わす。低周波雑音および長期ドリフトを補償する基準レベルは、比較的長期間にわたる静止タッチ信号を反映している。このような基準レベル(ここではベースライン基準値と称する)は例えば、静止タッチ信号サンプルのリアルタイムの移動加重平均を求めることにより取得できる。」
4 引用文献4について
原査定に引用された引用文献4には、段落【0016】-【0018】に、以下の記載がある。
「【0016】
〔1〕<基準容量値と検出容量値との加重平均による擬似的移動平均>
本発明の代表的な実施の形態に係るタッチ判別装置は、夫々容量電極を持つ複数の電極線(20~35)と、順次前記複数の電極線への電荷移動に基づいて当該電極線に係る容量値を検出する検出部(48,58)と、前記電極線に対する被検体の接触の有無を前記検出部で検出された当該電極線の容量値に基づいて判別する判別部(60)と、を有する。前記判別部は、前記接触と非接触の判定基準となる基準容量値を前記電極線毎に記憶する記憶回路(103)と、前記検出部で検出された容量値と当該容量値に対応する電極線の基準容量値との比較結果に基づいて当該電極線に対する被検体の接触の有無を判定する判定回路(114)と、判定回路による判定結果が非接触とされた電極線の基準容量値の更新処理を行う更新処理回路(115,116,117,118)とを有する。前記更新処理回路は、当該電極線の検出容量値に0より大きく1未満の重みパラメータAを乗じた値と、当該電極線に対応する基準容量値に「1-A」を乗じた値との加算結果を基準容量値の更新値とする。
【0017】
上記によれば、今回の非タッチの測定容量値と対応する基準容量値とを加算するとき、現在の基準容量値には上記大きな重みを与え、今回の測定容量値には上記小さな重みを付与することにより、加算される一つの基準容量値は今回以前の複数の測定容量値の擬似的な移動平均になるという意義があり、複数回分の検出容量値を蓄積してその都度移動平均を採るのと実質的に同じ結果を得ることができ、しかも、必要なデータを保持するための記憶エリアを著しく小さくでき、且つ演算処理も簡単になる。
【0018】
〔2〕<基準容量値の更新条件>
項1のタッチ判別装置において、前記更新処理回路は、前記電極線の検出容量値と当該電極線に対応する基準容量値との差分値が更新範囲にあることを条件に基準容量値を更新する。」
第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と、引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。
ア 引用発明の「センシング回路60」は、「「R」、「G」、「B」の各色を表示色とする3個の画素回路Pが1つの組Cを構成し、この1つの組Cごとに1個のセンシング回路60が設けられ、画素領域100には、全部でm×n/3個のセンシング回路60が設けられ、各センシング回路60は、接触検出用容量素子の容量値に応じた大きさの検出信号Tを出力し」ており、また、「アナログ」回路素子であることが明らかな、「リセットトランジスタ61と、増幅トランジスタ62と、選択トランジスタ63と、基準容量素子Crと、接触検出用容量素子Cl」から構成されているから、本願発明1の「液晶表示パネルの複数の検出電極の静電容量に依存する容量検出データを取得するように構成されたアナログフロントエンド」に相当する。
イ 引用発明の「第1対象容量データ」と、「第2対象容量データ」とは、いずれも、本願発明1の「第1容量検出データ」に対応する。
引用発明の「タッチ判定に係る電気光学装置10の動作」における「タッチ判定処理」の一連のステップS201-S206のうち、「ステップS202」と「ステップS204」とは、
「制御回路200は、共通電位Vcomがローレベルであると判定すると(ステップS201:YES)、共通電位Vcomがローレベルである場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第1対象容量データとして制御回路200内に設けられた第2記憶部に記憶し(ステップS202)」、
「一方、制御回路200は、ステップS201において共通電位Vcomがハイレベルであると判定した場合(ステップS201:NO)、共通電位Vcomがハイレベルである場合の1画面分の容量値(m×n/3個)を検出し、これを第2対象容量データとして第2記憶部に記憶し(ステップS204)」、
という処理であるから、本願発明1の「現タッチ検出フレームに対応する第1容量検出データを受け取」る処理に相当する。
ウ 引用発明のステップ「S203」または「S205」で読み出される「第1基準容量データ」または「第2基準容量データ」は、「対象物が画面に接触していない基準状態において検出された第1基準容量データ(Vcom=Low)と第2基準容量データ(Vcom=Hi)」であるから、本願発明1のように「タッチが検出された」過去タッチ検出フレームを選択して、このフレームに対応する容量データを読み出すものではない。
また、引用発明のステップ「S203」または「S205」で読み出される「第1基準容量データ」と「第2基準容量データ」は、「共通電位Vcomがローレベル」であるか、「ハイレベル」であるかに応じて、どちらか一方が択一的に読み出されるから、本願発明1のように同一の表示状態の「複数の」過去タッチ検出フレームを選択して、これらのフレームに対応する容量データを読み出すものではない。
よって、引用発明の「タッチ判定に係る電気光学装置10の動作」における「タッチ判定処理」の一連のステップS201-S206のうち、「ステップS203」の前半で、「次に、制御回路200は、第1記憶部から第1基準容量データを読み出し」ている処理と、「ステップS205」の前半で、「次に、制御回路200は、第1記憶部から第2基準容量データを読み出し」ている処理とは、本願発明1の「前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態に応じて、タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の複数の過去タッチ検出フレームを選択し」ていることと、「前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態に応じて、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の過去タッチ検出フレームを選択し」ている点で共通するといえる。
エ 引用発明の「第1基準容量データ」と、「第2基準容量データ」とは、本願発明1の「第2容量検出データ」に対応する。
引用発明の「制御回路200」は、本願発明1の「演算回路」に相当する。
よって、引用発明の「タッチ判定に係る電気光学装置10の動作」における「タッチ判定処理」の一連のステップS201-S206のうち、「ステップS203」の後半で「ステップS202において検出された第1対象容量データとの差分を算出し」ている処理、「ステップS205」の後半で「ステップS204において検出された第2対象容量データとの差分を算出し」ている処理、及び、「ステップS206」で、「この後、制御回路200は、算出した差分データ(m×n/3個)の各々を予め定められたタッチ判定用の閾値と比較し、比較結果に基づいて、指やタッチペン等の対象物が画面に接触したか否かを判定する(ステップS206)」という処理を行っていることは、本願発明1の「前記第1容量検出データと選択された前記複数の過去タッチ検出フレームに対応する第2容量検出データとに基づいて、前記現タッチ検出フレームに対応するタッチ検出データを生成するように構成された演算回路」と、「前記第1容量検出データと選択された前記過去タッチ検出フレームに対応する第2容量検出データとに基づいて、前記現タッチ検出フレームに対応するタッチ検出データを生成するように構成された演算回路」である点で共通するといえる。
オ 引用発明の「タッチ判定に係る電気光学装置10」は、本願発明1の「半導体装置」に相当する。
(2) 一致点、相違点
よって、本願発明1と引用発明との一致点・相違点は次のとおりであると
いえる。
[一致点]
「液晶表示パネルの複数の検出電極の静電容量に依存する容量検出データを取得するように構成されたアナログフロントエンドと、
現タッチ検出フレームに対応する第1容量検出データを受け取り、
前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態に応じて、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の過去タッチ検出フレームを選択し、
前記第1容量検出データと選択された前記過去タッチ検出フレームに対応する第2容量検出データとに基づいて、前記現タッチ検出フレームに対応するタッチ検出データを生成するように構成された演算回路と
を備える
半導体装置。」
[相違点1]
「過去タッチ検出フレーム」の選択において、本願発明1では、「前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態に応じて、タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の複数の過去タッチ検出フレームを選択し」ているのに対して、引用発明では、「タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む」、同一の表示状態の「複数の」過去タッチ検出フレームを選択することが特定されていない点。
[相違点2]
「タッチ検出データ」の生成において、本願発明1では、「前記第1容量検出データと選択された前記複数の過去タッチ検出フレームに対応する第2容量検出データとに基づいて」、タッチ検出データを生成するのに対して、引用発明では、「複数の」過去タッチ検出フレームに対応する第2容量検出データに基づいて、タッチ検出データを生成することが特定されていない点。
(3) 当審の判断
上記[相違点1]について検討する。
本願発明1の[相違点1]に係る、タッチ検出データの生成のために、「前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態に応じて、タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の複数の過去タッチ検出フレームを選択」する構成は、上記引用文献1-5には記載されておらず、周知技術であるともいえない。
ここで、引用発明は、「タッチ判定処理」に先立つ「初期化処理」において、「第1基準容量データ」(Vcom=Low)と「第2基準容量データ」(Vcom=Hi)を、タッチ検出のための基準となる値として初期設定するものであって、「この初期化処理により、対象物が画面に接触していない基準状態において検出された第1基準容量データ(Vcom=Low)と第2基準容量データ(Vcom=Hi)」のいずれかを用いるものであるから、引用発明には、「タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む」、同一の表示状態の「複数の」過去のタッチ検出フレームを、タッチ検出の基準となる値として用いることは開示されていない。
また、引用文献2(上記「第5」、「2」を参照。)には、タッチスクリーンの制御において、ゲート線の駆動が行われない表示状態を含むように制御する周知技術は記載されるが、本願発明1の[相違点1]に係る、タッチ検出データの生成のために、「前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態に応じて、タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の複数の過去タッチ検出フレームを選択」するという構成は記載されていない。
さらに、引用文献3-4(上記「第5」、「3」、「4」を参照。)には、それぞれ、タッチ検出の手法として、検出された静電容量値と、「複数の」過去に取得した容量値とに基づいて、タッチを検出する周知技術が記載されている。
しかしながら、引用文献3-4のものは、「対象物が画面に接触していない基準状態において検出された」基準となる値を用いるものではないから、本願発明1の[相違点1]に係る、タッチ検出データの生成のために、「タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む」、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の複数の過去タッチ検出フレームを選択するという構成は記載されていない。
よって、本願発明1の[相違点1]に係る構成は、引用文献1-4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、本願発明1は、相違点2について検討するまでもなく、当業者であっても引用文献1-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2 請求項2-20について
本願発明2-12、13-18、19-20のいずれも、本願発明1の上記[相違点1]に係る、タッチ検出データの生成のために、「前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態に応じて、タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の複数の過去タッチ検出フレームを選択」するという構成と、(実質的に)同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
第7 当審拒絶理由の理由1(明確性)について
当審では、請求項11に対し、上記「第3」、「理由1」で示した拒絶の理由を通知しているが、令和4年7月22日になされた手続補正において、請求項11の「前記複数の画素回路」は、「前記液晶表示パネルの複数の画素回路」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。
第8 原査定についての判断
令和4年7月22日付けの手続補正により、補正後の請求項1-20は、本願発明1の上記[相違点1]に係る、タッチ検出データの生成のために、「前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態に応じて、タッチが検出された過去タッチ検出フレームを含む、前記現タッチ検出フレームにおける前記液晶表示パネルの表示状態と同一の表示状態の複数の過去タッチ検出フレームを選択」するという技術的事項を有するものとなった。
当該技術的事項は、原査定における引用文献1-4には記載されておらず、周知技術でもないので、本願発明1-20は、当業者であっても、原査定における引用文献1-4に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。
第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-016063