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特許拒絶査定不服審判

2021-015905

土壌の改質方法

審判番号
2021-015905
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-051040
請求日
2021年11月19日
審決日
2023年10月23日
公報発行日
2024年01月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】高嶋 康豪
  • 【請求人代理人】久保 司
審判長/審判官
  • 審判長 山村 浩
  • 審判官 波多江 進
  • 審判官 野村 伸雄
分類
P18 .536-WZ (G21F) / P18 .537-WZ (G21F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019- 51040「土壌の改質方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月24日出願公開、特開2020-153749〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成31年3月19日の出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。 平成31年 3月27日 :手続補正書の提出 令和 2年 6月 9日付け:拒絶理由通知書 同年 8月13日 :手続補正書及び意見書の提出 令和 3年 1月 7日付け:拒絶理由通知書 同年 3月16日 :手続補正書(以下、この手続補正書によりなされた補正を「本件補正」という。)及び意見書の提出 同年 8月13日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 同年11月19日 :審判請求書の提出 令和 5年 3月13日付け:拒絶理由通知書 同年 5月24日 :意見書及び手続補足書の提出(差出日) 第2 本願発明 本願の請求項1~2に係る発明(以下、これらをまとめて「本願発明」という。)は、令和3年3月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1~2の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 好気性菌と嫌気性菌及び、通性嫌気性菌類の微生物群の微生物が拮抗作用を抑制し、多様な微生物群の共生効果により、共存、共栄を可能にする下記複合発酵法により、土壌を活性化させて培地化させ、 別途腸内細菌由来の細菌を用いて生物のなかでも放射線に強い微生物群である耐放射性細菌の菌床を育成し、 ミネラル・ビタミン・アミノ酸の生理活性物質、及び酸・酵素・D/L-システインを含む酵素水を耐放射性菌を誘導する誘導用酵素水として製造し、 前記培地化させた土壌に対し、耐放射性細菌発現菌床、及び誘導用酵素水を散布してさらに、土壌を発酵させることを特徴とした土壌の改質方法。 複合発酵法は、酵母、乳酸菌類の好気性発酵微生物が働き出すことから始まり、好気性発酵微生物がアミノ酸、糖類、ビタミン、ミネラルの生理活性物質を造り、大腸菌、糸状菌、雑菌類等の好気性有害菌を浄菌し、 次に好気性発酵微生物の乳酸菌が通性嫌気性乳酸菌及び通性嫌気性菌類へと働きをリレーし、通性嫌気性乳酸菌及び通性嫌気性菌類が活性化することで放線菌が現れて抗菌性物質を造り、これが細菌、病原菌、ウィルス、リケッチャーの嫌気性有害菌を浄菌し、前記二つの浄菌作用が連動することで、窒素固定菌であるアゾトバクター、アミロバクター、根瘤菌が空気中から窒素を取り込み固定する働きをし、最後に光合成細菌、藻菌類、化学合成微生物が炭酸ガス、窒素ガスを取り込んで光合成、エネルギー・置換と交換を行うことで複合発酵が可能となる。 【請求項2】 耐放射性細菌は、下記細菌から1ないし複数を選択する請求項1に記載の土壌の改質方法。 アシネトバクター(Acinetobacter)放射線耐性細菌 アルスロバクター ラディオトレランス(Arthrobacter radiotolerance)同上 バシルス セレアス(Bacillus cereus)同上 バシルス プミルス(Bacillus pumilus)同上 パシルス スブチリス(Bacillus subtilis)同上 カンディーダ アルビカンス(Candida albicans)放射線耐性酵母 カンデイーダ シフェール(Candida ciferrll)同上 カンディーダ クルセイ(Candida krusei)同上 クロコシディオプシス(Chroococcidiopsis)放射線耐性ラン藻 クロストリディウム ボツリナム(Clostridium botulinum)放射線耐性細菌 クロストリディウム パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)同上 クリプトコキュス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)放射線耐性酵母 デイノバクター グランディス(Deinobacter grandis)放射線耐性細薗 デイノコキュス プロテオリティキュス(Deinococcus proteolyticus)同上 デイノコキュス ラディオデユランス(Deinococcus radiodurans)同上 デイノコキュス ラディオフィルス(Deinococcus radiophilus)同上 デイノコキュス ラディオプグナンス(Deinococcus radiopugnans)同上 ドゥナリエラ バルダウィル(Dunaliella bardawil)放射線耐性緑藻 エルウィニア sp.(Erwinia sp.)放射線耐性細菌 エスチェリチア コリ(Escherichia coli)同上 ユーグレナ sp.(Euglena sp.)放射線耐性鞭毛虫類 ハロバクテリウム サリナリウム(Halobacterium salinarium)放射線耐性古細菌 ハイメノバクター アクチノスクレルス(Hymenobacter actinosclerus)放射線耐性細菌キネオコキュス ラディオトレランス (Kineococcus radiotolerans)同上 ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)同上 メシロバクテリウム ラディオトレランス(Methylobacterium radiotolerans)同上 マイクロコキュス ラディオデュランス(Micrococcus radiodurans)同上 プセウドモナス sp.(Pseudomonas sp.)同上 プセウドモナス ラディオラ(Pseudomonas radiora)同上 フィロコキュス フリオサス(Pyrococcus furiosus)放射線耐性古細菌 リゾプス ニグリカンス(Rhyzopus nigricans)放射線耐性真菌 ルブロバクター ラディオトレランス(Rubrobacter radiotolerans)放射線耐性細菌 ルブロパクター キラノフィルス(Rubrobacter xylanophilus)同上 セラチア ルクエファシエンス(Serratia llquefaciens)同上 スフィンゴモナス パウシモブリス(Sphingomonas paucimobliis)同上 スピキュリア(Spicuria)放射線耐性真菌 ステノトロフォモナス マルトフィラ(Stenotrophomonas maltophila)放射性耐性細菌トルロプシス(Torulopsis)放射線耐性酵母 イェルシニア エンテロコリティカ(Yersinia emterocolitica)放射性耐性細菌」 第3 当審拒絶理由の概要 令和5年3月13日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、理由2及び理由3の概要は次のとおりである。 理由2(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 理由3(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 記 1 理由2(実施可能要件違反) 本願発明は、その課題を解決する原理が自然法則に反するものであって、実施が可能であるとは認められない。 したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 2 理由3(サポート要件違反) 本願発明は、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 第4 当審の判断 1 当審の判断の概要 (1) 理由2(実施可能要件違反)について 本願発明は、「土壌の改質方法」の発明であるところ、明細書の記載を参酌すると、その「土壌の改質」という用語の意義には、少なくとも土壌における放射線量の低減が含まれ、むしろ、それが典型的に想定されているというべきである。そして、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識からは、原理的に、本願発明によって土壌の放射線量が低減できるとはいえず、しかも、発明の詳細な説明が、当業者が放射線量の低減を行う方法を再現性をもって実施できるように記載されているともいえない。 したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 (2) 理由3(サポート要件違反)について 前記(1)と同様の理由で、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、本願発明によって発明の課題が解決できることを認識できるとはいえないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 2 当審の判断の詳細な説明 (1) 理由2(実施可能要件違反)について ア 本願の明細書の記載 本願発明における「土壌の改質方法」について、本件補正後の明細書及び図面には以下の記載がある。下線は、「改質」という用語の意義に特に関連する記載について、当合議体が付したものである。 (ア) 【0001】-【0005】 「 【技術分野】 【0001】 本発明は、汚染された土壌自体を直接的に改質し、例えば放射性物質で汚染された区域の有効活用を促進する土壌の改質方法に関する。 【背景技術】 【0002】 放射能とは、物質から自発的に放射線が放出される現象、及び放射能を持つ核種のことをいう。また、放射性物質とは、放射性核種(放射能)を含む物質である。 【0003】 放射能及び放射能を含む物質を分解することは不可能とされており、放射性廃棄物は高レベルのものは、ガラス固化してオーバーパックという金属性の容器に封入し、さらに緩衝材として粘土で包み地下深く(300m以上)に埋設する地層処分が選択され、低レベルのものは、発生量を減らす努力がなされており、固体は燃やしたり、燃えないものは圧縮したりして減容し、液体は水分を蒸発させ、セメントなどと混ぜてドラム缶に密封し、鉄筋コンクリートのピットにドラム缶を収納し、ドラム缶とピットの間にセメント系充填材を入れて固め、周囲を水を通しにくいベントナイト混合土で覆い固めて地下水の侵入を防止し埋設している。 【0004】 しかし、前記の技術では、高レベルでも低レベルでも放射性廃棄物の処理が実施されているのではなく、危険性を回避した状態で保存して、放射性廃棄物が放射線を放出して自己崩壊するのを待つものに過ぎない。 【0005】 そこで発明者は先に下記特許文献に示すように、複合微生物体系の複合微生物動態系解析における複合発酵法を用いて、処理槽内の酸化・変敗・腐敗を止め、すべての好気性及び嫌気性フザリウム属菌群(酸化性細菌群)を抑制し、沈殿槽において固形発酵を起こさせることで、複合微生物の循環サイクルを起こさせ、難分解性の放射能・放射性物質に対する分解菌、分解酵素を現生、発現させ分解消失処理を実現することを提案した。 【特許文献1】特開2005-321365号公報」 (イ) 【0008】-【0010】 「 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 前記特許文献1では、必要な数が決定される微生物処理槽と、その槽の後に連結した沈殿槽からなる微生物処理装置を、放射能・放射性物質の処理に必要な発酵、発酵合成、合成の過程の数に応じて設置した廃液・廃水浄化設備であって、各微生物処理槽には、それぞれ所定の微生物が現生・発現するための菌床を投入しかつエアーを供給するように構成し、発酵及び発酵段階の微生物処理装置の前段階に放射能・放射性物質の含有量によって必要な数が決定される加圧タンクを設け、各微生物処理槽に一定量の排水が流入するようにし、各微生物処理装置で処理を終えた処理水をそれぞれ次の段階の微生物処理装置へ滞留が起きない様に水の流れを造って送り、それぞれの沈殿槽において沈殿して固形発酵した菌床をそれぞれ前段階の微生物処理装置の最初の槽へ個別にあるいは同時に返送する様に構成し、最後の沈殿槽において、上澄水を放流水としてオーバーフローさせ、その後にバイオ触媒槽を設け、その後に放射能・放射性物質の質と濃度によって設置する数が決定されるシリカ触媒槽、カーボン触媒槽、マテリアル触媒槽、カーボンフィルター、及びミクロフィルターを設けたことを内容とする。 【0009】 前記特許文献1では汚染された土壌自体を直接的に改質する方法については示されていない。 【0010】 本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、汚染された土壌自体を直接的に改質し、区域の有効活用を促進することができる土壌の改質方法を提供することにある。」 (ウ) 【0012】-【0019】 「 【0012】 本発明によれば、複合発酵法により複合発酵状態を惹起し、複合発酵状態になると、発酵→分解→合成のサイクルが生れ、好気性及び嫌気性有害菌は抑制される。 【0013】 このような生態系が生じると、すべての微生物を共生させる事により共存、共栄させることが可能となり、フザリウム属の占有率がゼロになり、酸化、変敗、腐敗を断ち切り、生態系内における微生物群の死滅率がゼロになることによって、すべての微生物群を発酵から合成に導き、生菌数を1ミリリットルあたり10のn乗から無限大とし、同時に生菌数が1種類1ミリリットルあたり10の9乗を超えると、菌のスケールが10分の1以下となり、凝集化(固形化)を生じ、数千種、数万種の増殖が可能となる。 【0014】 これにより、微生物の高密度化が起こり、微生物のDNA核内に一酸化窒素、二酸化窒素及び高分子タンパク結晶による情報接合とエネルギー接合を引き起こし、その結果、微生物間でのDNA融合が生じ、融合微生物による対抗性菌、耐衡性菌により獲得した酵素及びタンパク質の高分子結合結晶が発生し、情報触媒の作用を現生・発現させ、分解菌並びに分解酵素を現生させる。 【0015】 本発明は複合発酵法により、土壌を活性化させて培地化させ、培地化させた土壌に対し、耐放射性細菌発現菌床、及び酵素水を散布し土壌を撹拌させる事により複合発酵を更に促しさせ、耐放射性細菌の現生/発現を確実に実施できる。 【0016】 特に、酵素水を構成するミネラル・ビタミン・アミノ酸等の生理活性物質、及び酸・酵素・D/L-システイン等の炭素が生物的なフラーレンの法則を生じ、ナノチューブと同様な生物触媒機能を起こす事により汚染された土壌自体を直接的に改質することができる。 【0017】 そして、前記耐放射性細菌を土壌に増加させ、及び、土壌微生物により産出される生体触媒、具体的にはタンパク質内の炭素結晶構造の変化(フラーレン構造構造変化)による触媒作用により放射線量の低減が成される。 【0018】 本発明においては、汚染土壌自体が耐放射性細菌の培地と化す為、人為的な操作が終了した後においても効果が継続し、放射線量の低減が保持される仕組みとなる。 【発明の効果】 【0019】 以上述べたように本発明の土壌の改質方法は、汚染された土壌自体を直接的に改質し放射性物質で汚染された区域の有効活用を促進することができるものである。」 (エ) 【0050】-【0052】 「 【0050】 前記培地化させた土壌に対し、耐放射性細菌発現菌床、及び酵素水を散布することにより複合発酵を更に促進させ、耐放射性細菌の現生/発現を確実に実施する。 【0051】 前記耐放射性細菌及び、土壌微生物により産出される生体触媒、具体的にはタンパク質内の炭素結晶構造の変化(フラーレン構造変化)による触媒作用により放射線量の低減が成される。 【0052】 本発明においては、汚染土壌自体が耐放射性細菌の培地と化す為、人為的な操作が終了した後においても効果が継続し、放射線量の低減が保持される仕組みとなる。」 (オ) 【0053】-【0066】、【図1】-【図5】 「 【0053】 以下に本発明の効果を確認するために行った試験について説明する。現場住所は、福島県双葉郡浪江町大字下津島字小塚65である。 【0054】 図1に現場見取り図を示す。図2に対照地設定の現場見取り図を示す。対象(対照)地は土壌発酵による除染現場近傍に設定した。 【0055】 参考放射線量の定期測定方法として、除染時の放射線量推移を把握するため、地表面(A,B,C,D)4地点について定期測定を実施した。使用機器はTERRA MKS-05である。 【0056】 また、参考放射線量の常時測定方法として、除染時の放射線量推移をより詳細に把握するため、A地点地上15cmの常時測定を実施した。使用機器はapple ipod&ポケットガイガーである。測定値はインターネットライブ配信した。 【0057】 作業サイクルは下記の通りである。 [除染現場] 耕運作業→複合発酵法による土壌培地化(固形バイオ散布、肥液散布、酵素水散布)→耐放射性細菌発現菌床散布→耕運作業→誘導用酵素水散布 [対照地] 耕運作業→水散布→耕運作業水散布 (対照地では複合発酵法による土壌培地化、耐放射性細菌発現菌床散布、誘導用酵素水散布を行わず水散布を行う。) 【0058】 除染結果として現場作業実績の表を図3に示す。 【0059】 現場地表面の放射線量推移を図4に示す。A,B,C,D地点に関し、放射線量は1/4程度以下へ低下した。 【0060】 除染現場および対象地の比較において、本発明による土壌改質による放射性セシウムの各種分析結果を下表2に示す。 【表2】 [図:0001405150000001.jpg] 【0061】 同様に図5に、第一Y軸にポイントAと対象区で計測された放射線量(μSv/h)を示す。なお、参考までに第二Y軸に上述のポイントAと対象区の核種分析結果/放射性セシウムの合計放射能濃度(Bq/kg)を示す。 【0062】 土壌改質開始後20日の時点において、ポイントA/Bともに放射性セシウム濃度が1/15程度まで低減されている。 【0063】 除染終了後28日経過した時点においても各サンプルの放射能濃度は引き続き抑制されている。 【0064】 対象区が初期濃度と比して最終計測において約2.7倍まで高濃度化している事より、放射性セシウムの飛散、落着は継続していると考えられる。 【0065】 よって、土壌改質実施区域の各ポイントの放射能濃度が継続的に抑制されている事は除染作業終了後も土壌中の微生物が活発に活動し、(人が介在した改質作業は終了しているにも関わらず)土壌改質効果が継続し機能している為と思われる。 【0066】 上述の想定は除染作業終了後も放射線量が低く保たれている事からも補完される。」 「【図1】 [図:0001405150000002.jpg] 【図2】 [図:0001405150000003.jpg] 【図3】 [図:0001405150000004.jpg] 【図4】 [図:0001405150000005.jpg] 【図5】 [図:0001405150000006.jpg] 」 イ 本願発明の「土壌の改質方法」について (ア) まず、「土壌の改質方法」の字義についてみると、「改質」とは、それを構成する「改」及び「質」の漢字に照らせば、「質を改めること」を意味すると解される。そして、発明の内容を検討する文脈において「質を改める」ということを理解しようとする以上、「改質」とは、その質を技術的に意味のある形態でもって改めることを意味すると解するのが相当である。 したがって、「土壌の改質方法」における「土壌の改質」とは、土壌の質を技術的に意味のある形態でもって改めることを意味しているといえる。 (イ) 次に、上記アで摘記した明細書の記載によれば、以下の技術的事項が把握できる。 a 本願発明は、難分解性の放射能・放射性物質に対する分解菌、分解酵素を現生、発現させ分解消失処理を実現することを開示する特許文献1では、汚染された土壌自体を直接的に改質する方法については示されていないため、汚染された土壌自体を直接的に改質し、区域の有効活用を促進することができる土壌の改質方法を提供することを目的とする発明であること(上記ア(ア)(イ)) b 本願発明は、複合発酵法により、土壌を活性化させて培地化させ、培地化させた土壌に対し、耐放射性細菌発現菌床、及び酵素水を散布し土壌を撹拌させる事により複合発酵を更に促させ、耐放射性細菌の現生/発現を確実に実施でき、土壌に現生/発現した前記耐放射性細菌及び土壌微生物により産出される生体触媒による触媒作用により放射線量の低減が成され、汚染土壌自体が耐放射性細菌の培地と化す為、人為的な操作が終了した後においても効果が継続し、放射線量の低減が保持され、汚染された土壌自体を直接的に改質し放射性物質で汚染された区域の有効活用を促進することができること(上記ア(ウ)(エ)) c 本願発明の効果を確認するために行った試験では、土壌における細菌の現生/発現を確認することはしておらず、むしろ、もっぱら放射線に係る測定をしており、具体的には、放射線量推移の測定と土壌改質による放射性セシウム濃度の分析を行っていること(上記ア(オ)) (ウ) このように、本願発明である「土壌の改質方法」は、土壌の質を技術的に意味のある形態でもって改める方法を意味するところ、その具体的な技術内容は、複合発酵法によって培地化させた土壌に対して耐放射線細菌の現生/発現を確実に実施することを通じて、放射線量の低減を図り、その結果として、区域の有効活用を促進できるものであるといえることから、本願発明でいう「土壌の改質」には、少なくとも土壌における放射線量の低減が含まれ、むしろ、それが典型的に想定されているというべきである。 ウ 放射線量を低減する方法について 前記イのとおり、本願発明の「土壌の改質方法」には、少なくとも土壌における放射線量の低減が含まれ、むしろ、それが典型的に想定されていることから、以下、当業者が、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づき、本願発明に係る方法によって土壌の放射線量を低減できるかについて検討する。 (ア) 本願発明における土壌の放射線量を低減する原理について a まず、本願発明が放射線量を低減する原理について、発明の詳細な説明には、上記ア(ウ)で摘記した【0016】~【0017】のとおりの次の記載がある。 「【0016】 特に、酵素水を構成するミネラル・ビタミン・アミノ酸等の生理活性物質、及び酸・酵素・D/L-システイン等の炭素が生物的なフラーレンの法則を生じ、ナノチューブと同様な生物触媒機能を起こす事により汚染された土壌自体を直接的に改質することができる。 【0017】 そして、前記耐放射性細菌を土壌に増加させ、及び、土壌微生物により産出される生体触媒、具体的にはタンパク質内の炭素結晶構造の変化(フラーレン構造構造変化)による触媒作用により放射線量の低減が成される。」 b 上記aによれば、本願発明は、耐放射性細菌による所定の作用によって土壌の放射線量の低減を実現するものと解されるところ、そこに開示されている「生物学的なフラーレンの法則」、「ナノチューブと同様な生物触媒機能」及び「タンパク質内の炭素結晶構造の変化(フラーレン構造構造変化)」は、いずれも一般的な技術用語とは認められないし、本願の発明の詳細な説明の他の記載をみてもその意味するところは全く不明である。しかも、耐放射性細菌によって土壌の放射線量の低減が可能であるという本願出願時の技術常識が存在するともいえない。 c そして、土壌の放射線量を低減させるためには、放射線が土壌における放射性物質の存在に由来していることに照らせば、原理的ないし論理的には、その地点における放射性物質の総量を減らすか、又はこれを遮蔽するかが考えられる。しかるところ、本願発明の特定事項は、微生物的なものにとどまることから、上記の各内容をなし得るものとは到底考えられない。 d したがって、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識からは、原理的に、本願発明によって土壌の放射線量が低減できるとはいえない。 (イ) 発明の詳細な説明に記載された試験について 前記(ア)のとおり、本願発明は、原理的に土壌の放射線量を低減できるとはいえないことから、さらに進んで、発明の詳細な説明が、当業者が放射線量の低減を行う方法を再現性をもって実施できるように記載されているかについて検討する。 a 試験についての発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、本願発明の効果を確認するために行った試験として、以下の測定及び分析が行われたことが記載されている(上記ア(オ))。 (a) 除染現場(4地点A~D)及び対照地において、地表面の放射線量推移を定期測定 (b) 除染現場のうちA地点において、地上15cmの放射線量推移を常時測定 (c) 除染現場(4地点A~D)及び対照地において、放射性セシウムの核種分析及び放射能濃度の測定 そして、同記載では、除染現場では「耕運作業→複合発酵法による土壌培地化(固形バイオ散布、肥液散布、酵素水散布)→耐放射性細菌発現菌床散布→耕運作業→誘導用酵素水散布」がなされた一方、対照地では「耕運作業→水散布→耕運作業水散布」がなされたことが記載されている。 さらに、同記載では、これらの測定及び分析の結果として、除染現場では放射線量及び放射能濃度が低下した一方、対照地ではそうなっていないことが記載されている。 b しかしながら、発明の詳細な説明には、単に測定結果が記載されているにすぎず、試料の採取・調製方法や試験の具体的手順といった試験の詳細は不明である。加えて、放射線量推移の測定や、核種分析及び放射能濃度の測定の実施者も不明である。これらのことに加えて、本願発明は、上記(ア)で説示したとおり、原理的に到底理解できるものではないことから、前記の測定結果の信頼性はより慎重に判断されるべきであることを併せ考慮すれば、発明の詳細な説明の前記記載を直ちに信用することはできず、したがって、前記記載によっては、本願発明の特定事項により土壌の放射線量が低減できたとは認め難い。 c これに対し、請求人は、福島県双葉郡浪江町帰還困難区域(立ち入り禁止区域)の放射能除染実証試験報告書(2013年9月26日~同年12月16日)(甲第1号証、以下「甲1」という。)を提出した上で、本願発明の作用により放射線量の低減がなされることが立証されている旨主張する。 そこで以下、甲1によって、本願発明の特定事項によって土壌の放射線量が低減できたといえるかどうかについて検討する。 (a) 浪江町の関与について 甲1の5ページの「5.乙(当審注:乙は株式会社高嶋開発工学総合研究所)の確認事項」における次の記載からみて、甲1の試験結果は公的機関である浪江町が関与するものではない。 「5.乙の確認事項 …(中略)… ○12(当審注:丸囲み数字の12) 甲(当審注:甲は浪江町)がこの実証試験の除染効果に対し効果を公認したかのような宣伝等をおこなわないこと。 ○13(当審注:丸囲み数字の13) 甲が実証試験の内容に関与しているかのような文言は一切使用してはならないこと。 (後略)」 (b) 現場作業サイクルについて 甲1の22ページ等に示されている現場作業サイクルは、明細書【0057】で説明される本願発明のものと異なっている。すなわち、甲1では「耕運作業→固形バイオ散布→液肥散布→MLSS菌床散布→耕運作業→酵素水散布」とされているのに対して、本願発明では「耕運作業→複合発酵法による土壌培地化(固形バイオ散布、肥液散布、酵素水散布)→対放射性細菌発現菌床散布→耕運作業→誘導用酵素水散布」とされており、両者は、対放射性細菌発現菌床散布(MLSS菌床散布)前の酵素水散布の有無において相違している。 一方で、実証試験を行った場所は同一の福島県双葉郡浪江町大字下津島字小塚65である(明細書【0053】及び図1、図2並びに甲1の13、18-19、35ページ)。また、甲1の29ページの現場作業実績は、本願の図3と同じもので、両者の現場作業日は同一である。 このように、発明の詳細な説明と甲1によれば、同一日に同一の場所に対して、異なる作業サイクルを行っていることとなる。 (c) 試験結果について 放射性セシウムの分析結果について、明細書【0060】の表2と甲1の7ページの核種分析報告は、土壌サンプル採取日、放射能濃度のいずれも同一である。 また、本願の図4及び図5と、甲1の30ページ、12ページはそれぞれ同内容であり、両者の放射線量推移は同一である。 これらのことに上記(b)も合わせると、発明の詳細な説明と甲1によれば、異なる作業サイクルを行ったものが全く同一の結果を示していることとなる。 (d) 放射能測定結果報告書について(1) 甲1の43-58ページの放射能測定結果報告書によれば、放射性セシウムの分析は一般財団法人東海技術センターが行ったことが示されており、示されている試料採取日や測定結果は明細書【0060】の表2と整合している。また、各報告書の「2.採取者名」の欄を見ると、平成25年9月25日及び平成25年10月14日に採取した試料(43-52ページ)については「東海プラント分析センター株式会社 松原」とされており、平成26年1月13日に採取した試料(53-58ページ)については「梶田昌史(信州大学工学部技術部)、渡邉澄雄(高嶋開発工学総合研究所)」とされている。 一方、各報告書の末尾には、「試料名称、採取者名、採取日時、採取場所については依頼者のお申し出により記入しました。」と記載されており、東海技術センターが関知するものではないことがうかがえる。 (e) 放射能測定結果報告書について(2) 甲1の43-58ページの放射能測定結果報告書には、各試料の乾土率が記載されているところ、各採取日時毎に各試料の乾土率を比較すると、以下に示すとおり、対照地の乾土率が有意に低い。 [図:0001405150000007.jpg] (f) 甲1についての検討 上記(a)からは、甲1の試験結果は浪江町が関与するものでないことが理解される。 また、上記(b)及び(c)からは、同一日に同一の場所に対して、異なる作業サイクルを行ったものが全く同一の結果を示していることになるから、発明の詳細な説明及び甲1に記載された試験が現実に行われたかすら疑義があるところであるし、それはさておくとしても、試料がこの試験によって採取されたものなのかも疑義がある。 上記(d)からは、放射性セシウムの測定結果には第三者である東海プラント分析センターによる裏付けが認められるとしても、試料採取者については東海プラント分析センターによる裏付けはなされていないこと、また、記載されている各採取者と請求人との関係が不明であることから、第三者による裏付けという点での信頼性が十分であるとはいえない。 上記(e)からは、地点A~Dと対照地では同条件で試料採取又は耕運が行われていない可能性が疑われる。すなわち、土壌に対する放射性セシウムによる汚染は、一般に土壌表層から汚染されることがよく知られており、分析においては、土壌の実質的にどの部分から試料を採取するのかが分析結果に大きく依存する(放射性セシウム濃度は表層であれば高く、深部であれば低くなる。)ことは明らかであるところ、上記(e)の乾土率の有意な差異からみて、上記のとおりいうことができる。 このように、甲1の記載内容は信用し難い上、むしろ、本願の発明の詳細な説明に記載された試験結果に対する疑義を深めるものとなっている。また、仮に甲1の記載内容を考慮できるとしても、甲1の記載内容をもって、本願発明の作用により放射線量の低減がなされることが立証されているとはいえない。 d したがって、発明の詳細な説明は、当業者が放射線量の低減を行う方法を再現性をもって実施できるように記載されているとはいえない。 (ウ) 小括 以上によれば、当業者は、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、本願発明に係る方法によって土壌の放射線量を低減できるとはいえない。 エ 請求人の主張について 請求人は、本願発明は、特許請求の範囲の記載のとおり、「別途腸内細菌由来の細菌を用いて生物のなかでも放射線に強い微生物群である耐放射性細菌の菌床を育成」することを内容とするものであり、「放射性物質で汚染された区域の放射線量を低減する」という課題を直接解決するものではなく、放射性物質で汚染された区域の放射線量を低減という効果は、本願発明により、耐放射性細菌を土壌に増加させることによる2次的効果である旨主張する。 請求人の主張は判然としないところがあるが、本願発明の「土壌の改質方法」は、上記の意味での耐放射性細菌の菌床が育成された土壌を得ることによって足りており、放射線量を低減した土壌を得ることまでを要するものではなく、それは単なる効果にすぎないことをいうものと解される。しかしながら、本願発明は、上記のとおり、「土壌の改質方法」として特定されているのであって、「耐放射性細菌の菌床を育成する方法」として特定されているわけではないし、本願の明細書の記載をみても、「土壌の改質方法」の意義に放射線量を低減した土壌を得ることが含まれないとの明記もない。そして、前記イで検討したとおり、本願発明の「土壌の改質方法」における「土壌の改質」には、少なくとも土壌における放射線量の低減が含まれ、むしろ、それが典型的に想定されている。 したがって、請求人の主張を採用することはできない。 オ 小括 以上検討のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 (2) 理由3(サポート要件違反)について 前記(1)イで検討したとおり、本願発明である「土壌の改質方法」における「土壌の改質」には、少なくとも土壌における放射線量の低減が含まれ、むしろ、それが典型的に想定されている。 そして、本願発明の課題は、前記(1)イ(イ)aで認定した技術的事項に照らせば、難分解性の放射能・放射性物質に対する分解菌、分解酵素を現生、発現させ分解消失処理を実現することを開示する特許文献1では、汚染された土壌自体を直接的に改質する方法については示されていないため、汚染された土壌自体を直接的に改質し、区域の有効活用を促進することができる土壌の改質方法を提供することにあると認められる。 しかるところ、前記(1)ウ(ウ)のとおり、当業者は、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、本願発明に係る方法によって土壌の放射線量を低減できるとはいえないことから、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、本願発明が上記課題を解決できることを認識できるともいえない。 したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 3 当審の判断のまとめ 以上検討のとおり、本願は、特許法36条4項1号及び6項1号に規定する要件を満たしていない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、特許法36条4項1号及び6項1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-015905

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