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特許拒絶査定不服審判

2021-013792

凹凸構造体の製造方法、凹凸構造体を製造する方法に用いられる積層体および当該積層体の製造方法

審判番号
2021-013792
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-565754外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年10月11日
審決日
2022年08月15日
公報発行日
2022年11月25日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (B29C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-565754「凹凸構造体の製造方法、凹凸構造体を製造する方法に用いられる積層体および当該積層体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月25日国際公開、WO2019/142528〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 13項目
理 由

第1 手続等の経緯

特願2019-565754号(以下「本件出願」という。)は、2018年(平成30年)12月5日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年1月19日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 3年 4月 7日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 6月 9日提出:意見書
令和 3年 7月 7日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年10月11日提出:審判請求書
令和 3年10月11日提出:手続補正書

(令和3年10月11日にした手続補正を以下「本件補正」という。)

第2 原査定の概要

原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1~13に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

記

引用文献1:国際公開第2011/024421号
引用文献2:特開2010-161186号公報
引用文献3:特開2013-110135号公報
引用文献4:特開2010-287829号公報

(当合議体注:引用文献1は、主引用例であり、引用文献2~4は、周知技術を示す文献である。)

第3 本願発明

本件出願の請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定されるとおりの、次のものである。

「 モールドの凹凸が反転された凹凸構造体を製造する方法に用いられる積層体であって、
基材層と、フッ素含有環状オレフィンポリマー(A)、1気圧下での沸点が150℃以上350℃以下である光硬化性化合物(B)および光硬化開始剤(C)を含む光硬化性樹脂層と、保護フィルム層とをこの順に備えた積層体。」

(なお、本件補正により、補正前の請求項7における「光硬化性化合物(B)」を、補正前の請求項10の記載に基づき、「1気圧下での沸点が150℃以上350℃以下である光硬化性化合物(B)」と特定するとともに、先行する請求項を削除することに伴って請求項7を請求項6に繰り上げたものである。)

第4 引用文献、引用発明

1 引用文献1の記載事項

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原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、国際公開第2011/024421号(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付与したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。

(1)「 技術分野
[0001] 本発明は、フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物、それを用いて形成される所望の微細なパターンを有する転写体およびその製造方法に関する。
・・・省略・・・
発明が解決しようとする課題
続きを表示(全18行)
[0010] 本発明は、特定のフッ素含有環状オレフィンポリマー、光硬化性化合物および光硬化開始剤を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を用いることで、ナノインプリント転写体の製造工程の加熱、冷却、光照射硬化のプロセスにおける樹脂の弾性率と収縮率の変化を最適化し、モールド表面の微細なパターンが高い寸法精度で転写された転写体を提供することを目的とする。さらに、当該フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を用いることで、高い表面硬度を有する転写体を提供することを目的とする。またさらに、高い寸法精度で転写体を効率よく製造することができ、簡便な工程により大面積の転写体を得ることが可能な転写体の製造方法、さらにこの転写体をレプリカモールドとして用いることで光硬化樹脂の表面に微細なパターンが転写された硬化物を製造する方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0011] 本発明は、以下に示される。
(1) 一般式(1)で表される繰返し構造単位を含有し、かつ、フッ素原子含有率が40~75質量%であるフッ素含有環状オレフィンポリマー(A)、光硬化性化合物(B)および光硬化開始剤(C)を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物。
[0012][化1]
[図:0001390268000001.jpg]
[0013](式(1)中、R1~R4のうち、少なくとも1つは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1~10のアルキル、フッ素を含有する炭素数1~10のアルコキシ、またはフッ素を含有する炭素数2~10のアルコキシアルキルである。R1~R4がフッ素を含有しない基である場合、R1~R4は、水素、炭素数1~10のアルキル、炭素数1~10のアルコキシ、または、炭素数2~10のアルコキシアルキルから選ばれる。R1~R4は同一でも異なっていてもよい。R1~R4が互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
・・・省略・・・
[0032](14) 支持体に、(1)乃至(6)のいずれかに記載のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を塗布することにより塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜の上面を、微細パターンを有するモールド表面で押圧する工程と、
前記モールド表面で押圧された前記塗布膜を加熱し、次いで光を照射することにより、該塗布膜を硬化させる工程と、を含む、モールドの微細パターンが転写された転写体の製造方法。
・・・省略・・・
発明の効果
[0045]】 本発明によれば、主鎖に炭化水素構造、側鎖にフッ素含有脂肪族環構造を有する特定のフッ素含有環状オレフィンポリマーを用いているので、分子間または分子内に水素結合を形成させることができる。さらに、光硬化性化合物および光硬化開始剤を用いているので、光を照射して硬化させた後、転写体の内部および表面に三次元の網目構造を形成させることができる。これらの作用により、ナノインプリント転写体の製造工程の加熱、冷却、光照射硬化のプロセスにおける樹脂の弾性率と収縮率の変化を最適化するとともに硬度をより改善することができる。したがって、本発明の光硬化性化合物および光重合開始剤を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物によれば、モールド表面の微細なパターンが高い寸法精度で転写され、かつ高い表面硬度を有する、微細パターンを表面に有する転写体を形成することができ、かつ簡便な工程により大面積の転写体を得ることができる。この転写体は離脱性に優れ、生産効率も良く工業的に価値がある。」
(2)「発明を実施するための形態
[0047] 本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物(転写用樹脂組成物)は、フッ素含有環状オレフィンポリマー(A)、光硬化性化合物(B)および光硬化開始剤(C)を含有する。
[0048]<フッ素含有環状オレフィンポリマー(A)>
フッ素含有環状オレフィンポリマー(A)は、一般式(1)で表される繰返し構造単位を含有し、かつ、フッ素原子含有率が40~75質量%である。
続きを表示(全23行)
[化7]
[図:0001390268000002.jpg]
[0049] 式(1)中、R1~R4のうち、少なくとも1つは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1~10のアルキル、フッ素を含有する炭素数1~10のアルコキシ、またはフッ素を含有する炭素数2~10のアルコキシアルキルである。R1~R4がフッ素を含有しない基である場合、R1~R4は、水素、炭素数1~10のアルキル、炭素数1~10のアルコキシ、または、炭素数2~10のアルコキシアルキルから選ばれる。R1~R4は同一でも異なっていてもよい。R1~R4が互いに結合して環構造を形成していてもよい。
・・・省略・・・
[0100]<光硬化性化合物(B)>
本発明においてフッ素含有環状オレフィンポリマー(A)と光硬化性化合物(B)の組成は、その質量比(A)/(B)が、通常99.9/0.1~80/20の範囲であり、好ましくは、99.9/0.1~90/10であり、さらに好ましくは99.9/0.1~95/5である。この光硬化性化合物(B)の質量%が20%を超えると、可視光領域の光線透過率が80%を下回ることがある。
[0101] 光硬化性化合物(B)としては、反応性二重結合基を有する化合物、カチオン重合可能な開環重合性化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1分子中に反応性基を1個有しても、複数個有してもよいが、好ましくは2個以上有する化合物が用いられ、異なる反応性基数の化合物を任意の割合で混合して用いても良く、反応性二重結合基を有する化合物とカチオン重合可能な開環重合性化合物を任意の割合で混合して用いても良い。これらにより、フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物をモールドのパターン面に塗布する際の塗布性、光照射硬化時の硬化性を最適化し、転写体内部および表面に効率良く三次元の網目構造を形成させる事で高い表面硬度を有する表面に微細パターンを形成させたナノインプリントフィルムが得られる。
・・・省略・・・
[0110] また、光硬化性化合物(B)のうち、カチオン重合可能な開環重合性化合物としては、例えば、シクロヘキセンエポキシド、ジシクロペンタジエンオキサイド、リモネンジオキサイド、4-ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ジ(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルアルコール、(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル)メチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレン1,2-ジ(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボン酸)エステル、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、フェニルグリシジルエーテル、ジシクロヘキシル-3,3´-ジエポキシド、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、o-、m-、p-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、多価アルコールのポリグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3´,4´-エポキシシクロヘキセンカルボキシレートといった脂環式エポキシ樹脂あるいは水添ビスフェノールAのグリシジルエーテル等のエポキシ化合物等の、エポキシ化合物類。さらに、3-メチル-3-(ブトキシメチル)オキセタン、3-メチル-3-(ペンチロキシメチル)オキセタン、3-メチル-3-(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3-メチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3-メチル-3-(オクチロキシメチル)オキセタン、3-メチル-3-(デカノロキシメチル)オキセタン、3-メチル-3-(ドデカノロキシメチル)オキセタン、3-メチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(ブトキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(ペンチロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(オクチロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(デカノロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(ドデカノロキシメチル)オキセタン、3-(シクロヘキシロキシメチル)オキセタン、3-メチル-3-(シクロヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(シクロヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン、3,3-ジメチルオキセタン、3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-メチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-フェノキシメチルオキセタン、3-n-プロピル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-イソプロピル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-n-ブチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-イソブチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-sec-ブチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-tert-ブチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシル)オキセタン等があり、オキセタニル基を2個以上有する化合物としてビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、1,2-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)]エタン、1,3-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)]プロパン、1,3-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)]-2,2-ジメチル-プロパン、1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ヘキサン、1,4-ビス[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,3-ビス[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,4-ビス{[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、1,4-ビス{[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}シクロヘキサン、4,4´-ビス{[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ビフェニル、4,4´-ビス{[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ビシクロヘキサン、2,3-ビス[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,3-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}シクロヘキサン、4,4´-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ビフェニル、4,4'-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ビシクロヘキサン、2,3-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等のオキセタン化合物類が挙げられる。また、これらのうち、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
・・・省略・・・
[0115]<光硬化開始剤(C)>
光硬化開始剤(光重合開始剤)(C)としては、光の照射によってラジカルを生成する光ラジカル開始剤、光の照射によってカチオンを生成する光カチオン開始剤などが挙げられる。光硬化開始剤(C)の使用量は、光硬化性化合物(B)100質量部に対して通常0.05質量部以上が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。
・・・省略・・・
[0127][転写体の製造方法]
・・・省略・・・
[0131] 具体的には、
(1)本発明のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を、表面に微細パターンを有するモールドの表面に塗布する工程と、塗布された組成物を加熱し、次いで光を照射することにより、該組成物を硬化させる工程と、を含む方法、
(2)支持体(基材)にフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を塗布することにより塗布膜を形成する工程と、塗布膜の上面を、微細パターンを有するモールド表面で押圧する工程と、モールド表面で押圧された前記塗布膜を加熱し、次いで光を照射することにより、該塗布膜を硬化させる工程と、を含む方法、
等を挙げることができる。尚、(2)の方法においては、塗布膜から溶剤を蒸発させた後、モールドで押圧することもできる。」
(3)「 請求の範囲
[請求項1] 一般式(1)で表される繰返し構造単位を含有し、かつ、フッ素原子含有率が40~75質量%であるフッ素含有環状オレフィンポリマー(A)、光硬化性化合物(B)および光硬化開始剤(C)を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物。
[化1]
[図:0001390268000003.jpg]
(式(1)中、R1~R4のうち、少なくとも1つは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1~10のアルキル、フッ素を含有する炭素数1~10のアルコキシ、またはフッ素を含有する炭素数2~10のアルコキシアルキルである。R1~R4がフッ素を含有しない基である場合、R1~R4は、水素、炭素数1~10のアルキル、炭素数1~10のアルコキシ、または、炭素数2~10のアルコキシアルキルから選ばれる。R1~R4は同一でも異なっていてもよい。R1~R4が互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
・・・省略・・・
[請求項14] 支持体に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を塗布することにより塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜の上面を、微細パターンを有するモールド表面で押圧する工程と、
前記モールド表面で押圧された前記塗布膜を加熱し、次いで光を照射することにより、該塗布膜を硬化させる工程と、を含む、モールドの微細パターンが転写された転写体の製造方法。」

2 引用発明

上記1より、引用文献1の請求項14には、支持体に、請求項1に記載の記載のフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を塗布することにより塗布膜を形成した、積層体であって、この積層体は、モールドの微細パターンが転写された転写体の製造に用いられることが記載されているといえる。

そうしてみると、引用文献1には、次の「積層体」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 モールドの微細パターンが転写された転写体の製造に用いられる積層体であって、
支持体に、一般式(1)で表される繰返し構造単位を含有し、かつ、フッ素原子含有率が40~75質量%であるフッ素含有環状オレフィンポリマー(A)、光硬化性化合物(B)および光硬化開始剤(C)を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を塗布することにより塗布膜を形成した、積層体。
[図:0001390268000004.jpg]
(式(1)中、R1~R4のうち、少なくとも1つは、フッ素、フッ素を含有する炭素数1~10のアルキル、フッ素を含有する炭素数1~10のアルコキシ、またはフッ素を含有する炭素数2~10のアルコキシアルキルである。R1~R4がフッ素を含有しない基である場合、R1~R4は、水素、炭素数1~10のアルキル、炭素数1~10のアルコキシ、または、炭素数2~10のアルコキシアルキルから選ばれる。R1~R4は同一でも異なっていてもよい。R1~R4が互いに結合して環構造を形成していてもよい。)」

第5 当審の判断

1 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)モールド、転写体

引用発明の「積層体」は、「モールドの微細パターンが転写された転写体の製造に用いられる」。

上記構成からみて、引用発明の「モールド」は、その文言どおり、本願発明の「モールド」に相当する。

ここで、引用発明の「モールド」の微細パターンは、技術常識から、凹凸であるといえる。また、引用発明の「転写体」は、「モールドの微細パターン」が反転されたものであるといえる。

そうしてみると、引用発明の「転写体」は、本願発明の「凹凸構造体」に相当する。また、引用発明の「転写体」は、本願発明の「凹凸構造体」の「モールドの凹凸が反転された」との要件を満たす。

(2)基材層

引用発明の「積層体」は、「支持体に」、「フッ素含有環状オレフィンポリマー(A)、光硬化性化合物(B)および光硬化開始剤(C)を含有するフッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を塗布することにより塗布膜を形成した」ものである。

ここで、引用発明の「支持体」が層をなすことは、明らかである。

そうしてみると、引用発明の「支持体」は、本願発明の「基材層」に相当する。

(3)フッ素含有環状オレフィンポリマー(A)、光硬化性化合物(B)、光硬化開始剤(C)

引用発明の「フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物」は、「一般式(1)で表される繰返し構造単位を含有し、かつ、フッ素原子含有率が40~75質量%であるフッ素含有環状オレフィンポリマー(A)、光硬化性化合物(B)および光硬化開始剤(C)を含有する」(当合議体注:一般式(1)は、上記第4「2」の「引用発明」において記載したとおりのものであり、記載を省略した。)。

上記組成からみて、引用発明の「フッ素含有環状オレフィンポリマー(A)」、「光硬化性化合物(B)」及び「光硬化開始剤(C)」は、その文言どおり、それぞれ、本願発明の「フッ素含有環状オレフィンポリマー(A)」、「光硬化性化合物(B)」及び「光硬化開始剤(C)」に相当する。

(4)光硬化性樹脂層

上記(2)より、引用発明の「フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を塗布することにより」「形成した」「塗布膜」が層をなすことは、明らかである。また、上記(3)より、引用発明の「フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物」は、本願発明の「光硬化性樹脂」に相当する。

そうしてみると、引用発明の「フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を塗布することにより」「形成した」「塗布膜」は、本願発明の「光硬化性樹脂樹脂層」に相当する。

(5)積層体

上記(1)~(4)を総合すると、引用発明の「積層体」は、本願発明の「積層体」に相当する。

また、上記(1)と上記の点により、引用発明の「積層体」は、本願発明の「積層体」の「モールドの凹凸が反転された凹凸構造体を製造する方法に用いられる」との要件を満たす。

さらに、上記(2)より、引用発明の「積層体」は、「支持体」と、「フッ素含有環状オレフィンポリマー組成物を塗布することにより」「形成した」「塗布膜」をこの順に備えたといえる。そうしてみると、引用発明の「積層体」は、本願発明の「積層体」と、「基材層と」、「光硬化性樹脂層」と、「をこの順に備えた」との点で共通する。

2 一致点・相違点

(1)一致点

以上の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。

「 モールドの凹凸が反転された凹凸構造体を製造する方法に用いられる積層体であって、
基材層と、フッ素含有環状オレフィンポリマー(A)、光硬化性化合物(B)および光硬化開始剤(C)を含む光硬化性樹脂層とをこの順に備えた積層体。」

(2)相違点

本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。

<相違点1>

「光硬化性化合物(B)」が、本願発明は、「1気圧下での沸点が150℃以上350℃以下である」のに対して、引用発明の「光硬化性化合物(B)」は、沸点が明らかでない点。

<相違点2>

本願発明は、「基材層と」、「光硬化性樹脂層と、保護フィルム層とをこの順に備えた」のに対して、引用発明は、そもそも保護フィルム層を備えるものではなく、このような構成ではない点。

3 判断

上記相違点について検討する。

(1)相違点1について

引用文献1の[0110]には、光硬化性化合物(B)について多数の例が示されていて、この中には1気圧下での沸点が150℃以上350℃以下であるものも含まれている。例えば、ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテルの1気圧下での沸点は280℃である(当合議体注:このことは本願明細書の【0146】の【表1】、【0147】の【表2】の記載からも確認できる。)。そして、ナノインプリントの光硬化性化合物としてビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテルを用いることは、特開2011-168003号公報の【0098】~【0100】、特開2011-187824号公報の【0096】~【0101】、特開2011-235571号公報の【0083】~【0085】に記載されているように、周知技術(以下「周知技術1」という。)である。

そうしてみると、引用発明の「光硬化性化合物(B)」として、上記の例示の中から周知技術1であるビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテルを含むようにすることは、当業者にとって何ら格別の困難性はない。そして、ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテルの1気圧下での沸点は280℃であることから、150℃以上350℃以下の範囲内にある。

したがって、引用発明の「光硬化性化合物(B)」を上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について

ナノインプリントにおいて積層体を保護するために保護フィルム層を設けることは、特開2010-161186号公報(以下「周知例1」という。)の【0026】、図1、特開2013-110135号公報(以下「周知例2」という。)の【0021】、図1、特開2010-287829号公報(以下「周知例3」という。)の【0079】~【0080】に記載されているように、周知技術(以下「周知技術2」という。)である。

そうしてみると、積層体を保護するために、引用発明の「積層体」に保護フィルム層を設けることは、当業者にとって何ら格別の困難性はない。

したがって、引用発明において周知技術2を適用して上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

上述したとおりであるが、念のため以下に補足する。

周知例1の請求項1には、「光硬化性組成物が、滑剤としてシリコーン系樹脂及び/又はフッ素原子含有エチレン性化合物を含み」と記載されているのに対して、引用発明の「光硬化性樹脂組成物(B)」はこのような滑剤を含まない。また、周知例2の請求項1には、「反転凹凸パターンが形成された転写層に対してUVオゾン処理を行う」と記載されているのに対して、引用発明においてはこのような処理を行わない。さらに、周知例3の請求項1には、「感光性樹脂層は、少なくともラジカル重合形の感光性樹脂組成物を含有し、20℃における粘度が106Pa・s~1011Pa・sである」と記載されているのに対して、引用発明の「光硬化性樹脂組成物(B)」はこのように特定されていない。

しかしながら、引用発明と上記周知例1~3とは、光硬化性組成物の組成及び機能並びに積層体を製造する際の処理に差異があるとしても、引用発明に周知技術2を適用するに際して阻害要因になるとまではいえない。寧ろ、上述したように、ナノインプリントにおいては積層体を保護するという課題は周知のものであるから、引用発明に周知技術2を適用するのに動機付けがあるといえる。

したがって、上述のように判断したことに誤りはない。

4 効果についての検討

(1)光硬化性化合物(B)の沸点について

本件出願明細書の【0082】及び【0083】には、それぞれ、「光硬化性化合物(B)の1気圧下で測定された沸点は、好ましくは、150℃以上350℃以下であり、より好ましくは150℃以上330℃以下であり、さらに好ましくは150℃以上320℃以下である。」及び「光硬化性化合物(B)の1気圧下での沸点を上記範囲とすることで、光硬化性化合物(B)の揮発による、光硬化性樹脂層102の経時での性状変化を抑制することができる。具体的には、ナノインプリント実施時の埋め込み性悪化を防止し、長期にわたり安定的に保管でき、保管後に用いても一定の寸法の微細凹凸パターンを精度よく転写可能な積層体を製造することができる。」と記載されている。さらに、本件出願明細書の【0149】には、「実施例1~6をより詳細に分析すると、実施例1~4および6と実施例5の、積層体の経時(1日/7日)に伴う寸法精度の評価結果から、光硬化性化合物として沸点が比較的高いものを用いることにより、製造後1日または7日経過した積層体を用いても、製造後1時間の積層体を用いて得られる凹凸パターンとほとんど同じ寸法の凹凸パターンを得られることが分かった。つまり、光硬化性化合物として沸点が比較的高いものを選択することで、長期にわたり安定的に保管でき、保管後に用いても一定の寸法の微細凹凸パターンを精度よく転写可能な積層体を得られることが分かった。」と記載されている。

しかしながら、上記【0082】及び【0083】の記載からは、光硬化性化合物(B)の沸点が高いほうがいいことは理解できても、沸点の下限を150℃とすることの臨界的意義までは読み取れない。

また、本件出願明細書の実施例1~4及び6と実施例5について、積層体の経時変化に伴う寸法変化の評価は、常温(23℃)にて保管したものである(同【0125】)。そして、実施例1~4及び6の光硬化性化合物(B)の沸点は、280℃/240℃であるのに対して、実施例5の光硬化性化合物(B)の沸点は、116℃である(同【0146】及び【0147】)。実施例5の光硬化性化合物(B)の沸点は、116℃と常温(23℃)よりも十分に高いことから、上記記載に接した当業者であれば、実施例1~4及び6と実施例5の積層体の経時変化の差異は、必ずしも揮発によるものであるとは認識されない。例えば、長期の保存安定性(揮発以外の要因による分解のしやすさなど)やフッ素環状オレフィンポリマー(A)との相溶性なども十分に考えられる。また、実施例1~4及び6の光硬化性化合物(B)の沸点は、280℃/240℃であるのに対して、実施例5の光硬化性化合物(B)の沸点は、116℃であることから、沸点の下限を150℃とすることの臨界的意義も不明である。

さらに、光硬化性化合物(B)の沸点の上限を350℃とすることの臨界的意義も不明である。

したがって、光硬化性化合物(B)を1気圧下での沸点が150℃以上350℃以下であるとすることの効果は、本件出願明細書の記載からは確認できない。

(2)保護フィルム層について

本件出願明細書の【0014】には、発明の効果として「本発明によれば、光式ナノインプリントで凹凸構造体を製造する際の、溶剤などの有機化合物の排出を抑えることができる。また、本発明の積層体の光硬化性樹脂層は、フッ素含有環状オレフィンポリマー、すなわち、フッ素を含み、かつ、環状オレフィン骨格を有するポリマーを含む。この「フッ素を含む」ことにより、積層体の保護フィルム層の剥離性を良好にでき、また、凹凸構造体製造時の剥離性についても良好にできることで、モールドのパターンが精度良く転写された凹凸構造体を得ることができる。さらに、「環状オレフィン骨格を有するポリマーを含む」ことにより、保護フィルムを被せた形態で作製する積層体の製造時に光硬化性樹脂層の液だれ等起こさず、かつ、製造された凹凸構造体の形状保持性を良好にできると考えられる。」と記載されている。

しかしながら、フッ素を含む化合物を入れると表面エネルギーが小さくなり剥離性をよくすることができることは、技術常識(例えば、周知例1の【0027】参照。)である。また、周知技術2における保護フィルム層が積層体を保護する機能を有すること、及び引用発明において周知技術2を適用して上記相違点2に係る本願発明の構成とすることが容易想到であることは、上記3(2)で述べたとおりである。

そうしてみると、上記効果は、引用発明及び周知技術2から当業者が予測できる範囲内のものである。

5 審判請求人の主張について

審判請求人は、令和3年10月11日提出の審判請求書において、「引用文献1の[0110]やその他の段落においては、光硬化性化合物の沸点については特に明記されておらず、沸点150℃以上350℃以下のものを選択するという「指針」は何ら存在しません。沸点という観点での示唆が何ら存在しないところで、[0110]等に例示列挙された光硬化性化合物の中から沸点が150℃以上350℃以下であるものを選択することは、本願発明を知らない当業者にとって容易ではありません。また、「揮発性が低い化合物を用いることにより保存性が向上するという効果」が、たとえ当業者が当然予測し得る効果であったとしても、引用文献1においては「保存性の向上」が問題(課題)とされていないことを考慮すると、効果が予測し得るものであったかどうかに関係なく、そもそも揮発性が低い化合物を選択するということ自体に動機付けがあるとは言えず、沸点が150℃以上350℃以下である光硬化性化合物を選択することは容易とは言えません。」(以下「主張1」という。)、「引用文献2~4の記載および引用文献1の記載に基づけば、引用文献1に記載された発明に引用文献2、3または4に記載された事項(保護シートを設ける等の事項)を適用することは、当業者にとって容易とは言えません。」(以下「主張2」という。)と主張している。

しかしながら、上記主張1については、上記3(1)及び4(1)で、上記主張2については、上記3(2)及び4(2)で、それぞれ述べたとおりである。

したがって、審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2021-013792

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