特許拒絶査定不服審判
2021-013516
コンタクトレンズ製品
- 審判番号
- 2021-013516
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-161137
- 請求日
- 2021年10月06日
- 審決日
- 2023年11月07日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】星歐光學股▲ふん▼有限公司
- 【請求人代理人】弁理士法人服部国際特許事務所
- 【請求人代理人】服部 雅紀
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 大▲瀬▼ 裕久
- 審判官 河原 正
- 分類
- P18 .121-WZ (G02C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-161137「コンタクトレンズ製品」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月12日出願公開、特開2019-211789〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 事案の概要
1 手続等の経緯 特願2019-161137号(以下「本件出願」という。)は、平成28年9月1日(パリ条約の例による優先権主張2015年9月15日、台湾、2015年10月29日、台湾)に出願した特願2016-170717号の一部を令和元年9月4日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 9月 3日付け:拒絶理由通知書
令和2年12月22日提出:手続補正書、意見書
令和3年 5月31日付け:拒絶査定
令和3年10月 6日提出:審判請求書
令和3年10月 6日提出:手続補正書(この手続補正書による手続補正を、以下「本件補正」という。)
令和4年 4月 7日提出:上申書
令和5年 5月19日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由」という。)
令和5年 8月23日提出:意見書
第2 本願発明
本件出願の請求項1~13に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「中心領域と、前記中心領域を同心的に囲み、ディオプターが前記中心領域のディオプターと異なる少なくとも1つの環状領域を含む多焦点コンタクトレンズと、
前記多焦点コンタクトレンズを浸し、毛様体筋麻痺剤を含む緩衝液と、
を備え、
前記多焦点コンタクトレンズの材質はヒドロゲルであり、前記ヒドロゲルを調製する組成物は、ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートを含み、前記ヒドロゲルを調製する組成物における前記ヒドロキシエチルメタクリレートの重量百分率濃度は10-96%であり、前記ヒドロゲルを調製する組成物における前記メタクリレートの重量百分率濃度は0.01-5%であり、前記ヒドロゲルを調製する組成物における前記トリメチロールプロパントリメタクリレートの重量百分率濃度は0.01-5%であり、
前記毛様体筋麻痺剤の前記緩衝液における重量百分率濃度ConAと、前記多焦点コンタクトレンズの前記中心領域のディオプターPowCと、前記多焦点コンタクトレンズの第一環状領域の最大ディオプターPowP1と、前記多焦点コンタクトレンズの前記中心領域の直径DiCとは、0.01%≦ConA<0.5%、2.25D≦PowP1-PowC≦3D、4mm≦DiC≦10mmを満たすコンタクトレンズ製品。」
第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、本件出願の請求項1~請求項13に係る発明は、本件出願の最先の優先権主張の日前(以下「本件優先日前」という。)に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2014-32404号公報
引用文献2:特開2015-102870号公報
引用文献3:特表2012-526302号公報
引用文献4:Matthew Lampa,“Center Distance Multifocal Contact Lenses and Myopia Management”,[online],2015年5月17日,specialeyes,[令和5年5月8日検索],インターネット<URL:https://blog.specialeyesqc.com/myopia-control-and-center-distance-multifocal-contact-lenses>
引用文献5:Carly Siu Yin Lam et al.,“Defocus Incorporated Soft Contact (DISC) lens slows myopia progression in Hong Kong Chinese schoolchildren n: a 2-year randomised clinical trial”, British Journal of Ophthalmology,(英),2014年1月,Volume 98,Issue 1,p.40-45
引用文献6:特表2009-540373号公報
引用文献7:特表2011-530726号公報
引用文献8:特開平9-26559号公報
(当合議体注:引用文献1が主引用例、引用文献2及び3が副引用例である。引用文献4~8は、本件優先日当時の周知技術及び技術常識を例示するための文献である。)
第4 当合議体の判断
1 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
(1)引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由の拒絶の理由において、引用文献1として引用された、特開2014-32404号公報は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す(以下同様)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、眼用レンズに関し、より詳細には、近視の進行を、遅延、遅滞、又は防止するように設計された、眼用レンズに関する。本発明の眼用レンズは、アトロピン、硫酸アトロピン一水和物、及びピレンゼピンを含む、ムスカリン様作用薬と組み合わされた近視制御光学素子を含むことにより、近視の進行の制御を改善する効果を作り出す。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0003】
特に子供の場合に、近視の進行を遅延若しくは遅滞させるための数多くの方法が提案され、開発されている。これらの方法としては、多焦点レンズの利用、1つ以上の収差が導入されたレンズの利用、収差を制御するレンズの利用、軸外屈折力レンズの利用、角膜の整形、眼の訓練、及び薬理療法若しくは薬剤治療が挙げられる。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、所望の効果を達成すると共に、現在利用可能な治療法の不利点を最小限に抑えるための、1つ以上の個人療法の利益を組み合わせた、近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つのための治療法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
・・・(中略)・・・
【0009】
本発明は、近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つを目的とする、アトロピン、硫酸アトロピン一水和物、ピレンゼピンなどの選択的若しくは非選択的薬理学的作用剤、及び/又は同様の機能の化合物と共に、近視制御光学素子、多焦点/二重焦点光学素子、単焦点光学素子、及び/又は乱視用光学素子を組み込む、エタフィルコンAなどのハイドロゲル材料、あるいはナラフィルコンA及び/又はナラフィルコンB、ガリフィルコンA又はセノフィルコンAなどのシリコンハイドロゲル(silicon hydrogel)で作製される、組み合わせコンタクトレンズ製品を目的とする。
【0010】
より具体的には、薬理効果、またそれゆえ患者の承諾の増大、並びに近視制御処置結果の増大を利用するために、上述のものを含めた、数多くの選択的又は非選択的拮抗化合物を、より少なく、より安全な投与量で、例えば、1つのコンタクトレンズ当り、そのレンズの0.002~0.83重量パーセントに相当する、0.0005~0.5mgで、近視制御光学素子と組み合わせて使用することができる。本発明のレンズの具体的な有利点は、光学素子と治療薬との相乗効果による、治療有効性の増大であると共に、これらの治療薬が、眼に適用される0.25mgの治療薬に相当する、溶液中0.5パーセントを超える投与量で利用される場合、瞳孔拡張の結果である視覚的アーチファクトが最小限に抑えられるか又は存在しない、許容可能かつ機能的な調節が維持されることである。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、例えば、近視の進行を有効に遅延又は停止させるための、近視制御コンタクトレンズ内の治療薬、例えばアトロピン及び/又はピレンゼピンの、中濃度~低濃度、例えばコンタクトレンズの0.25mg/レンズ未満での組み込みに関する。アトロピンは、天然起源のトロパンアルカロイドであり、眼の筋肉内に見出され、かつ瞳孔のサイズ及びレンズの形状の制御に関与する、ムスカリン受容体をブロックすることによって作用する、非選択的抗ムスカリン剤として分類される。アトロピンは、点眼によって、近視の治療に関して有用であることが、研究で実証されている。アトロピンの点眼は、体循環への薬剤の送達、並びに頻脈、体温上昇、及び興奮などの関連する有害効果を、結果としてもたらす。したがって、好ましい送達の方法は、コンタクトレンズを介したものとすることができる。より具体的には、近視の進行を遅延又は停止させるための、アトロピンなどの選択的若しくは非選択的拮抗薬、又は同様の機能の化合物と共に、近視制御光学素子を組み込む、エタフィルコンAなどのハイドロゲル材料、あるいはナラフィルコンA又はナラフィルコンB、ガリフィルコンA又はセノフィルコンAなどのシリコンハイドロゲル(silicon hydrogel)で作製される組み合わせコンタクトレンズ製品である。本質的には、近視制御光学素子と共に、近視制御薬剤を低用量で組み合わせることは、その光学素子又は薬剤のいずれかからの潜在的な副作用が個々に低減された、より多大な治療有効性を結果としてもたらす、望ましい効果を生じさせると考えられる。更には、患者は、この装置の光学素子によって提供される、近視の屈折矯正から恩恵を受けるため、アトロピンなどの薬理学的作用剤の局所滴下と比較して、服薬遵守を改善することができる。
・・・(中略)・・・
【0014】
本発明によれば、アトロピンなどの治療薬は、2つの形態で利用可能であり、すなわち、アトロピン及び硫酸アトロピン一水和物は、テトラヒドロフラン(THF)及び水(1/3、v/v)、エタノール(EtOH)及び水(1/1、v/v)、pH<2を有する酸性水、グリセロール、あるいは好ましくは緩衝生理食塩溶液などの、適切な溶媒又は溶媒系中に溶解させることができる。次いで、この薬剤/溶媒の混合物を、コンタクトレンズ内に組み込むことができる。コンタクトレンズ内に、この薬剤/溶媒を組み込むためには、溶液中に約0.001重量パーセント~約0.50重量パーセントの範囲の濃度でアトロピン及び/又は硫酸アトロピン一水和物を含む、緩衝生理食塩溶液を有する容器、例えばブリスターパッケージ内に、脱イオン水ですすいだレンズを定置することができる。
・・・(中略)・・・
【0015】
近視の進行を防止又は遅延させるために利用することができる、数多くのコンタクトレンズが存在する。例えば、米国特許第7,637,612号(Menezes)では、近視の進行は、正の球面縦収差を提供する少なくとも1つの領域によって取り囲まれる、光学ゾーンの中心に、遠方視力屈折力の区域を有する、多焦点レンズを提供することによって、実質的に防止することができる点が開示される。
・・・(中略)・・・
【0042】
上述のように、米国特許第7,637,612号(Menezes)は、近視制御光学素子を有するレンズを説明している。図12は、Menezesの例示的なレンズを示す。
【0043】
図12は、光学ゾーン1202及び非光学的レンズ状ゾーン1204を有する、レンズ1200を示す。光学ゾーン1202は、中央ゾーン1206及び周辺ゾーン1208を含む。中央ゾーン1206は、レンズの光軸に中心が配置されており、レンズの光学中心から測定される、約0.5~2mmの、好ましくは、約1~1.5mmの半径を有する。中央ゾーン1206内部の屈折力は、実質的に一定の遠方視力屈折力であり、約-0.50ジオプター~約-12.00ジオプターである。周辺ゾーン1208内の、正の屈折力の追加により、装用者の遠方視力を矯正するために必要な屈折力に追加される屈折力を意味する、遠方視力屈折力に関する過剰矯正を、中央ゾーン1206内に提供することが、望ましい場合がある。
・・・(中略)・・・
【0044】
周辺ゾーン1208は、最も内側の境界1210、すなわちレンズの光学中心に最も近い境界から、周辺ゾーン1208の最も外側の境界1212へと移動するにつれて、連続的かつ漸進的に増大する、正の球面縦収差を提供する。周辺ゾーン1208内の球面縦収差の増大は、レンズの光学中心から約2.5mmの半径で、約0.25~約2ジオプターとすることができ、好ましくは、約0.5~約1.50ジオプターである。周辺ゾーン1208は、約0.5~約3.5mmの、好ましくは、約1~約2mmの幅を有し得る。
【0045】
図12に示すように、中央ゾーン1206及び周辺ゾーン1208は、それらの間に不連続接合部を有するゾーンである。代替的実施形態では、実質的に一定の遠方視力屈折力と正の球面縦収差との間には、不連続接合部が存在せず、実質的に一定の遠方視力屈折力、及び正の球面縦収差の双方が1つのゾーンを形成する。
【0046】
本発明のレンズを設計する際、正の球面縦収差は、装用者の眼球の収差の矯正を超えて導入される。それゆえ、本発明の目的上、好ましくは、レンズ装用者の球面収差が最初に決定され、次いで、その収差の矯正に必要な球面収差が提供される。あるいは、0.1D/mm2などの、母集団平均を、球面収差に関して使用することができる。球面収差は、任意の既知で簡便な方法によって測定することができ、その方法としては、市販の収差計の使用によるものが挙げられるが、これに限定されない。
・・・(中略)・・・
【0049】
上述の発明は、近視の進行の制御を増強するための相乗効果を作り出す、アトロピン及び硫酸アトロピン一水和物を含めた、ムスカリン様作用薬と組み合わされた、近視進行光学素子を含む、眼用レンズ、具体的にはコンタクトレンズを目的とする。・・・(中略)・・・このコンタクトレンズを使用して、硫酸アトロピン、ホマトロピン、スコポラミンHBr、シクロペントレートHCl、トロピカミド、及びフェニレフリンHClを含めた、散瞳薬並びに毛様体筋麻痺薬を送達することができる。」
エ 「【図12】
[図:0001408212000001.jpg]
」
(2)引用発明の認定
引用文献1の【0012】には、「近視の進行を有効に遅延又は停止させるための、近視制御コンタクトレンズ内」に、アトロピン等の治療薬を組み込む、エタフィルコンAなどのハイドロゲル材料で作製される組み合わせコンタクトレンズ製品が記載されている。さらに、同文献の【0014】には、「コンタクトレンズ内に、この薬剤/溶媒を組み込むためには、溶液中に約0.001重量パーセント~約0.50重量パーセントの範囲の濃度でアトロピン及び/又は硫酸アトロピン-水和物を含む、緩衝生理食塩溶液を有する容器、例えばブリスターパッケージ内に、脱イオン水ですすいだレンズを定置することができる。」と記載されている。
また、治療薬の組み込み先となる、上記コンタクトレンズ(近視制御光学素子)の具体例が、同文献の【0015】、【0042】~【0044】及び図12に記載されているところ、これらの記載からは、上記コンタクトレンズが、中央ゾーン及び中央ゾーンを同心円状に囲み、正の屈折力が追加された周辺ゾーンからなる光学ゾーンと非光学的レンズ状ゾーンとを有する多焦点レンズであること、また、前記周辺ゾーンが環状の領域であることが理解される。
以上によれば、引用文献1には、上記組み合わせコンタクトレンズ製品を得る前の段階の発明として、エタフィルコンAなどのハイドロゲル材料で作製されたコンタクトレンズと、アトロピン等の毛様体筋麻痺薬を溶解させた緩衝生理食塩溶液内に前記コンタクトレンズを定置させることで前記コンタクトレンズ内にアトロピン等の毛様体筋麻痺薬を組み込ませることができる緩衝生理食塩溶液と、の組み合わせに係る、次に示す製品の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(当合議体注:アトロピンが毛様体筋麻痺薬に該当することは技術常識である。)
「中央ゾーン及び中央ゾーンを同心円状に囲み、正の屈折力が追加された環状の周辺ゾーンからなる光学ゾーンと、非光学的レンズ状ゾーンとを有する多焦点コンタクトレンズであって、中央ゾーン内部の屈折力は、実質的に一定の遠方視力屈折力であり、約-0.50ジオプター~約-12.00ジオプターであり、周辺ゾーンは、最も内側の境界から、周辺ゾーンの最も外側の境界へと移動するにつれて、連続的かつ漸進的に増大する、正の球面縦収差を提供する、多焦点コンタクトレンズと、
アトロピン等の毛様体筋麻痺薬を溶解させた緩衝生理食塩溶液内に前記コンタクトレンズを定置させることで前記コンタクトレンズ内に毛様体筋麻痺薬を組み込ませることができる前記緩衝生理食塩溶液と、の組み合わせ製品において、
前記コンタクトレンズの材質はエタフィルコンAからなるハイドロゲルであり、
前記コンタクトレンズにおける中央ゾーンの半径は約0.5~2mmであり、
前記緩衝生理食塩溶液における前記毛様体筋麻痺薬は約0.001重量パーセント~約0.50重量パーセントの範囲の濃度である、近視の進行を有効に遅延又は停止させるための組み合わせ製品。」
(3)引用文献3に記載された事項と引用文献3技術事項の認定
ア 引用文献3に記載された事項
当審拒絶理由の拒絶の理由において、引用文献3として引用された、特表2012-526302号公報は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。
(ア)「【0004】
近視の進行を緩和するための努力がなされてきたが、その具体例として、多焦点眼鏡または多焦点コンタクトレンズの使用、光収差に作用するレンズの使用、角膜整形の施術、薬理剤の使用などがある。近視の進行を緩和するための眼科レンズが既に幾つも開示されており、かかるレンズには遠近両方の視認距離でくっきり見える視力をもたらす視力矯正領域と遠近両方の視認距離でピンボケ像をもたらす近視焦点ボケ領域とが設けられている。既に提案されている試みの或るものについて、近視の進行を緩和するという目的に付随する難点の具体例として、医薬品の副作用、不快感、妥協の産物でしかない視力回復、または、これら難点の各種組合せが挙げられる。この他にも、眼科レンズの製造に関与する難点があるが、これは、近視の進行緩和を試行するのに特殊なレンズ設計を必要とするせいである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規なコンタクトレンズ、ならびに、かかる新規なコンタクトレンズの使用法および製造法を発明することを課題とする。本願のコンタクトレンズを使用することで、近視の進行の緩和、眼調節誤差の整復、または、その両方を達成する。換言すると、本願のコンタクトレンズを提供することにより、レンズ装着者が近視の進行緩和または進行排除をすることができるようにし、レンズを使用しなかった場合の片目または両目と比較して、片目または両目の調節誤差の整復効果が顕著となるようにする。
・・・(中略)・・・
【0022】
図1に例示されているように、ヒドロゲルコンタクトレンズ10はヒドロゲルレンズ本体部12を備えている。レンズ本体部12には概ね円形の光学域14が設けられている。光学域14はレンズ本体部12の中心領域に配置されている。光学域には、レンズ本体部12の光軸線16が通っている。光学域14はその輪郭が、最外周に位置する光学域外辺部18によって画定されている。光学域外辺部18に概ね隣接して周辺域20が設けられており、更にまた、周辺域20は光学域外辺部18の外側境界を包囲している。レンズ本体部12は、周辺域20の外側境界を包囲している周端縁域22を更に備えている。
・・・(中略)・・・
【0037】
本発明のコンタクトレンズのレンズ本体部の光学域は、人の遠方視力を矯正するための1種類の実効屈折力を呈する。光学域の寸法は、例えばその直径を約5.0mm以下にすることにより、人が眼調節を行っているような場合には60cm未満の視標距離でその人にくっきりと見える視力を供与するように設定されている。その人が視標距離でくっきりした近距離像を見ているのと同時に、レンズの周辺域、または、周辺域の一部が近視焦点ボケを供与している。従って、周辺域は、光学域の1種類の屈折率に比べてプラス寄りの光屈折力を周辺域にもたらすのに有効な曲率を有していることが分かる(例えば、周辺域の屈折力は光学域の1種類の屈折力に対して+1.0ジオプターから+6.0ジオプターの範囲にするとよい)。」
(イ)「【図1】
[図:0001408212000002.jpg]
」
イ 引用文献3技術事項の認定
(ア)前記アにおいて摘記した事項(【0022】、【0037】及び図1)から、図1におけるヒドロゲルコンタクトレンズ10は、レンズ本体部12の中心領域に配置される光学域14が、人の遠方視力を矯正するための1種類の実効屈折力を呈し、光学域外辺部18に隣接する周辺域20の光屈折力(PowP1)が、近視焦点ボケを供与するために光学域の1種類の屈折率(PowC)に比べて+1.0ジオプターから+6.0ジオプターだけプラス寄りの光屈折力(1D≦PowP1-PowC≦6D)を有するヒドロゲルコンタクトレンズであると認められる。
また、上記ヒドロゲルコンタクトレンズ10は、光学域14と周辺域20の光屈折力が異なっていることから、本願発明及び引用発明と同様、いわゆる、多焦点コンタクトレンズに該当すると認められる。
(イ)前記アにおいて摘記した事項及び上記(ア)の認定事項を総合すると、引用文献3には、次の技術事項(以下「引用文献3技術事項」という。)が記載されていると認められる。
[引用文献3技術事項]
「多焦点ヒドロゲルコンタクトレンズ10のレンズ本体部12の中心領域に配置される光学域14は、人の遠方視力を矯正するための1種類の実効屈折力を呈するようにし、光学域外辺部18に隣接する周辺域20は、近視焦点ボケを供与するために光学域の1種類の屈折率に比べて+1.0ジオプターから+6.0ジオプターだけプラス寄りの光屈折力(1D≦PowP1-PowC≦6D)とした、コンタクトレンズ装着者の近視の進行緩和または進行排除のための多焦点ヒドロゲルコンタクトレンズ。」
(4)引用文献6に記載された事項と技術常識1の認定
ア 引用文献6に記載された事項
当審拒絶理由の拒絶の理由において、引用文献6として引用された、特表2009-540373号公報は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。
「【0002】
[発明の分野]
本発明は、限定はされないが、特に若い人における近視の進行をコントロールするまたは遅らせるために使用されるのに適した方法とコンタクトレンズを含む手段に関する。
・・・(中略)・・・
【0013】
進行性の近視は一般に子供と若年成人を悩ますので、中心光学ゾーンの直径は、通常、約3mmより大きく、かつ眼の正常な瞳孔直径よりも1mmを超えて小さくはならない(つまり[瞳孔直径(mm)-1mm]以上でなければならない)。」
イ 技術常識1の認定
前記アにおいて摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は、本件優先日当時の当業者における技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という)。
[技術常識1]
「特に若い人における近視の進行をコントロールするまたは遅らせるために使用されるのに適したコンタクトレンズにおいては、中心光学ゾーンの直径は通常、約3mmより大きく、かつ[眼の正常な瞳孔直径(mm)-1mm]以上に設定されること。」
(5)引用文献7に記載された事項と技術常識2の認定
ア 引用文献7に記載された事項
当審拒絶理由の拒絶の理由において、引用文献7として引用された、特表2011-530726号公報は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。
「【0027】
小児の平均瞳孔サイズは、直径が約5.0mmであり、通常、レンズ1の光学部10の中心視力領域の直径に対応する。」
イ 技術常識2の認定
前記アにおいて摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は、本件優先日当時の当業者における技術常識であったと認められる(以下「技術常識2」という)。
[技術常識2]
「小児の平均瞳孔サイズは、直径が約5.0mmであること。」
2 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
ア 中心領域および環状領域
引用発明の「中央ゾーン」は、本願発明の「中心領域」に相当する。
また、引用発明の「周辺ゾーン」は、「中央ゾーンを同心円状に囲み、正の屈折力が追加された環状の」ゾーンである。
さらに、引用発明の「中央ゾーン内部の屈折力は」「実質的に一定の遠方視力屈折力」を有しており、また、引用発明の「中央ゾーンを同心円状に囲」む「周辺ゾーンは」、「正の屈折力が追加され」ることから、引用発明の「中央ゾーン」と「周辺ゾーン」は異なるディオプターを有している。
そうすると、引用発明の「周辺ゾーン」は、本願発明の「前記中心領域を同心的に囲み、ディオプターが前記中心領域のディオプターと異なる少なくとも1つの環状領域」に相当する。
イ 多焦点コンタクトレンズ
引用発明の「コンタクトレンズ」は、「中央ゾーン及び中央ゾーンを同心円状に囲み、正の屈折力が追加された環状の周辺ゾーンからなる光学ゾーンと、非光学的レンズ状ゾーンとを有する多焦点コンタクトレンズであ」る。
したがって、上記アの対比結果を踏まえると、引用発明の「コンタクトレンズ」は、本願発明の「中心領域と、前記中心領域を同心的に囲み、ディオプターが前記中心領域のディオプターと異なる少なくとも1つの環状領域を含む多焦点コンタクトレンズ」に相当する。なお、引用発明の「ジオプター」が、本願発明の「ディオプター」に相当することは明らかである。
ウ 毛様体筋麻痺剤を含む緩衝液
引用発明の「緩衝生理食塩溶液」は、「アトロピン等の毛様体筋麻痺薬を溶解させた緩衝生理食塩溶液内にコンタクトレンズを定置させることでコンタクトレンズ内に毛様体筋麻痺薬を組み込ませる」ものであるため、引用発明の「アトロピン等の毛様体筋麻痺薬を溶解させた緩衝生理食塩溶液」は、本願発明の「毛様体筋麻痺剤を含む緩衝液」に相当する。
エ ヒドロゲル
引用発明において、「コンタクトレンズの材質はエタフィルコンAからなるハイドロゲルであ」る。
ここで、本願発明の「多焦点コンタクトレンズ」の材質である「ヒドロゲル」について、本件出願の明細書の発明の詳細な説明(以下「本件明細書等」という。)には、「ヒドロゲルは、例えば、Etafilcon A、・・・(中略)・・・等と呼ばれる材料のような、米国食品医薬品局により第4群として許可されたコンタクトレンズ材料、つまり高水分率(50重量より大きい)のイオン重合体であってもよい。」(【0028】)と記載されている。
以上の記載に照らせば、引用発明の「エタフィルコンAからなるハイドロゲル」は、本願発明の「ヒドロゲル」に相当する。
また、上記イより、引用発明は、本願発明の「前記多焦点コンタクトレンズの材質はヒドロゲルであり」との構成を具備する。
オ 毛様体筋麻痺剤の緩衝液における重量百分率濃度ConA
引用発明の「緩衝生理食塩溶液における」「毛様体筋麻痺薬」の「濃度」は溶液に対する溶質(毛様体筋麻痺薬)の重量パーセント濃度であるため、本願発明の「前記毛様体筋麻痺剤の前記緩衝液における重量百分率濃度ConA」に相当する。
カ コンタクトレンズ製品
本願発明の「コンタクトレンズ製品」は、「(多焦点)コンタクトレンズと、」「コンタクトレンズを浸」す「毛様体筋麻痺薬を含む緩衝液と、を備え」るものである。
したがって、本願発明の「コンタクトレンズ製品」は、実質的にみて、「コンタクトレンズ」と「緩衝液」とを組み合わせた製品である。
他方、引用発明は、「多焦点コンタクトレンズと、」「前記コンタクトレンズを定置させる」「毛様体筋麻痺薬を溶解させた」「緩衝生理食塩溶液と」「の組み合わせ製品」である。
そうすると、引用発明の「多焦点コンタクトレンズと」「緩衝生理食塩溶液と」「の組み合わせ製品」は、本願発明の「コンタクトレンズ製品」に相当するといえる。
(2)一致点及び相違点
ア 一致点
上記対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、次の点で一致する。 「中心領域と、前記中心領域を同心的に囲み、ディオプターが前記中心領域のディオプターと異なる少なくとも1つの環状領域を含む多焦点コンタクトレンズと、前記多焦点コンタクトレンズを浸し、毛様体筋麻痺剤を含む緩衝液と、を備え、前記多焦点コンタクトレンズの材質はヒドロゲルであるコンタクトレンズ製品。」
イ 相違点
本願発明と引用発明とは、次の点で相違する。
(相違点1)
「多焦点コンタクトレンズの材質」である「ヒドロゲル」を調製する「組成物」について、本願発明では、「ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートを含み、前記ヒドロゲルを調製する組成物における前記ヒドロキシエチルメタクリレートの重量百分率濃度は10-96%であり、前記ヒドロゲルを調製する組成物における前記メタクリレートの重量百分率濃度は0.01-5%であり、前記ヒドロゲルを調製する組成物における前記トリメチロールプロパントリメタクリレートの重量百分率濃度は0.01-5%であ」るのに対して、引用発明では「エタフィルコンA」を調製する組成物の組成が特定されていない点。
(相違点2)
「前記毛様体筋麻痺剤の前記緩衝液における重量百分率濃度ConA」について、本願発明では、「0.01%≦ConA<0.5%」であるのに対して、引用発明では、「約0.001~約0.50重量パーセント」である点。
(相違点3)
「前記多焦点コンタクトレンズの前記中心領域のディオプターPowCと、前記多焦点コンタクトレンズの第一環状領域の最大ディオプターPowP1」が、本願発明では、「2.25D≦PowP1-PowC≦3D」を満たすのに対して、引用発明では、「周辺ゾーン」の最大ディオプター値が特定されていないため、「PowP1-PowC」の値が不明である点。
(相違点4)
「前記多焦点コンタクトレンズの前記中心領域の直径DiC」が、本願発明では、「4mm≦DiC≦10mm」であるのに対して、引用発明では、約1~4mm(中央ゾーンの半径は約0.5~2mm)である点。
(3)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明の「コンタクトレンズの材質」である「エタフィルコンA」の組成に関して、引用文献2には、「ハイドロゲル眼科レンズ」を構成する「エタフィルコンA」の具体的な組成物として、「約95%のHEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、1.97%のMAA(メタクリル酸)、・・・(中略)・・・0.10%のTMPTMA(トリメチロールプロパントリメタクリレート)架橋剤」(【0001】、【0018】、【0050】)を用いて調製したものが記載されている。また、特表2010-536617号公報の【0027】、【0037】、【0158】等にも、「ヒドロゲルの眼科レンズ」を構成する「エタフィルコンA」の具体的な組成物について、「約~95%のHEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、1.97%のMAA(メタクリル酸)、・・・(中略)・・・0.10%のTMPTMA(トリメチロールプロパントリメタクリレート)架橋剤」(【0037】)との記載からみて、同様の組成とすることが記載されている。
そうしてみると、「多焦点コンタクトレンズの材質」である「ヒドロゲル」を調製する「組成物」について、引用発明の「エタフィルコンA」を調製する組成物の組成は、本願発明と同じである蓋然性が高い。
仮に蓋然性が高いとまではいえないとしても、上記記載に接した当業者であれば、コンタクトレンズ内に毛様体筋麻痺薬を組み込ませ、近視の進行を有効に遅延又は停止させるという課題を解決するために、コンタクトレンズのエタフィルコンAの最適材料選択を目的として、引用発明の「コンタクトレンズの材質」である「エタフィルコンA」の具体的な組成物として、引用文献2や特表2010-536617号公報に記載された「約95%のHEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、1.97%のMAA(メタクリル酸)、0.10%のTMPTMA(トリメチロールプロパントリメタクリレート)架橋剤」を採用して、本願発明の相違点1に係る構成とすることは、容易に想到し得ることである。
なお、本願発明の「メタクリレート」は、多義的に解釈される余地があるものの、審判請求人が、2021年10月6日付け審判請求書において「本願明細書における「メタクリレート」は原語methacrylic acid(メタクリル酸)の訳語」と主張するとおり、本願発明の「メタクリレート」を「メタクリル酸」と解した。
イ 相違点2について
「毛様体筋麻痺剤の緩衝液における重量百分率濃度ConA」に関して、引用文献1には「約0.001~約0.50重量パーセント」という本願発明と重複する濃度とすることが記載されている。
そして、毛様体筋麻痺剤は近視の進行を遅延、遅滞、防止するための治療薬であるところ、その濃度は、コンタクトレンズの装用者における近視の度合いや眼球の状態等の症状や治療薬の副作用等の諸事情に応じて最適な濃度となるよう設定されるのが通常である。
そうしてみると、引用発明の毛様体筋麻痺剤の濃度を上記諸事情に応じて、引用文献1に記載された濃度の範囲内で最適化して、相違点2に係る「0.01-0.5%」の範囲に設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点3について
「PowC」と「PowP1」に関して、引用文献1には、近視の進行を有効に遅延又は停止させるため(【0001】、【0005】)、「中央ゾーン1206内部の屈折力は、実質的に一定の遠方視力屈折力」としつつ、「周辺ゾーン1208内」に「正の屈折力」を「追加」する(【0043】)ことが記載されていることから、引用発明の「多焦点コンタクトレンズ」を具体化しようとする当業者は、周辺ゾーンに対してどの程度の「正の屈折力」を追加設定すればよいかを検討することとなる。
この点について、上記1(3)イ(イ)に示したとおり、引用文献3には、同じく近視の進行緩和という課題を解決するための多焦点コンタクトレンズの構成において、中央の光学域を囲う周辺域の屈折力を、中央の光学域よりも+1.0~+6.0ジオプターだけプラス寄りの光屈折力(1D≦PowP1-PowC≦6D)とすること(引用文献3技術事項)が記載されている)。さらに、引用文献4(特に、「54 Bifocal」及び「Image D」)には、近視の進行緩和という課題を解決するために加入度を2.50D(PowP1-PowC=2.5D)とした多焦点コンタクトレンズがコンタクトレンズの業界で知られていたことが記載され、引用文献5(”ABSTRACT”,”MATERIALS AND METHODS”)には、加入度を2.50D(PowP1-PowC=2.5D)とした多焦点コンタクトレンズを使用し、実際に近視の進行緩和の効果が確認された実例(臨床例)がそれぞれ記載されている。これらの記載に照らせば、本件優先日当時の当業者であれば、加入度が2.50D程度の多焦点コンタクトレンズが、コンタクトレンズの業界において知られており、かつ、加入度を2.50D程度とすることで近視の進行を遅延させるという効果を奏するという知見を有していたと認められる。
そうしてみると、引用発明において、近視の進行を有効に遅延又は停止させるという課題を解決するために、上記知見を有する当業者は、引用発明の「周辺ゾーン」の最大屈折力を中央ゾーンよりも+1.0~+6.0ジオプターの範囲でプラス寄りに設定する(1D≦PowP1-PowC≦6D)よう動機づけられるといえ、その具体的な設定値の選択において、本件優先日当時に周知であった加入度が2.50D(PowP1-PowC=2.5D)であるコンタクトレンズの上記実例を参考にして、「周辺ゾーン」の最大屈折力の値を「中央ゾーン」の屈折力より+2.25~+3ジオプターの範囲となるよう、すなわち、相違点3に係る本願発明の構成(2.25D≦PowP1-PowC≦3D)の選択を試みることは、容易になし得たことである。
エ 相違点4について
引用発明のコンタクトレンズの「中央ゾーン」の直径に関し、特に若い人における近視の進行をコントロールするまたは遅らせるために使用されるのに適した方法とコンタクトレンズにおいて、中心光学ゾーンの直径は通常、約3mmより大きく、かつ[眼の正常な瞳孔直径(mm)-1mm]以上とすることは技術常識である(技術常識1)。
また、引用文献6には、技術常識1を踏まえた上で、「装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を有する中心光学ゾーン」と「中心光学ゾーンよりも半径方向に外側に配置されており、装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径の実質的に外側に存在するゾーンであって、中心光学ゾーンの屈折力よりも大きな屈折力を有する周辺光学ゾーン」とを有するコンタクトレンズにおいて、「中心光学ゾーン」は「装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径に十分近い差渡し寸法を持」つコンタクトレンズ(【請求項1】)の構成が記載されている。
ここで、小児の平均瞳孔サイズは、直径が約5.0mmであることは技術常識であるから(技術常識2)、技術常識2を心得た当業者は、引用文献6に記載された「特に若い人における近視の進行をコントロールするまたは遅らせるために使用されるのに適したコンタクトレンズ」においては、中心光学ゾーンの直径を5mm程度としていることを理解する。
そして、引用文献1には「特に子供の場合に、近視の進行を遅延若しくは遅滞させるための数多くの方法が提案され、開発されている」(【0003】)ことが記載されていることから、引用発明も子供の近視の進行を有効に遅延又は停止することを目的としていることは明らかである。
そうしてみると、技術常識1及び2を心得た当業者が、近視の進行を遅延又は停止するために、引用文献6に記載された上記事項に倣って近視の進行を遅延又は停止するために、引用発明の「中央ゾーン」の直径を、特に小児の装用者を想定してその瞳孔径に近い約5mmに最適化すること、あるいは小児間の個人差を考慮して、5mmの前後の値であって、相違点4に係る「4mm≦DiC≦10mm」の範囲内の値を選択することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(4)請求人の主張について
審判請求人は、令和5年8月23日提出の意見書において、以下の点を主張している。
(主張1)
本願発明は、コンタクトレンズ製品の毛様体筋麻痺剤と高ADD度数設計とハイドロゲル製造用好適組成物との相乗効果を有する点。
(主張2)
引用文献1には、本願発明の構成「2.25D≦PowP1-PowC≦3D」については記載も示唆もしていない点、さらに、引用文献3~5には、近視を矯正し、及び、近視を抑制するため、多焦点コンタクトレンズ又はその溶液緩衝液に毛様体筋麻 痺剤を使用することは記載されていない点。
(主張3)
本願発明による多焦点コンタクトレンズの中心領域の視度は一定であるが、引用文献3~5の多焦点コンタクトレンズは中心領域の屈折力が変化しており、引用文献3~5では、中心部の屈折力が一定でないため、中心部と周辺部の屈折力の差が小さくなり、多焦点コンタクトレンズの近視抑制効果が低下する点。
上記主張について検討する。
ア 主張1について
相乗効果についての上記主張に関連して、本件出願の明細書には、「子供の偽近視を矯正」するにあたり、「オルソKレンズでは、外部圧力が高すぎ、装用者が不快適になる。持久性の散瞳薬を単独に使用する場合、一般的に、近視の矯正効果を達成するためには高い濃度の分量が必要であるが、薬物副作用の発生率が対応的に向上する」という課題に対して、「その目的は、多焦点コンタクトレンズと、特定濃度の毛様体筋麻痺剤を含む緩衝液と、を備えるコンタクトレンズ製品を提供すること」により、「多焦点コンタクトレンズは、物理的な矯正を与えることができ、毛様体筋麻痺剤が毛様体筋を緩めることに寄与し、近視を効果的に予防し又は近視の発展を制御し、更に、装用の不快適感を避け、薬物副作用の発生率を低下させる」ことが記載されている。
しかし、当該効果は、多焦点コンタクトレンズの物理的調整と毛様体筋麻痺剤による薬物治療の各々の効果を足し合わせた効果に過ぎず、多焦点コンタクトレンズと毛様体筋麻痺剤を組み合わせたことにより生ずる相乗効果に関する具体的な記載はない(仮にあるとしても、コンタクトレンズに毛様体筋麻痺剤を含有させて使用することで、従来よりも「毛様体筋麻痺剤の濃度が適当になり、薬物副作用の発生率を低下させる」(【0008】)程度のものである)。
そして、引用文献1には、本願発明と同じく「特に子供の場合の近視の進行を有効に遅延又は停止」させる上で、「角膜の整形に伴うような不快感、及び薬理療法若しくは薬剤治療に伴うような、潜在的に望ましくない副作用を含めた不利点を被る」という課題に対して、解決手段として多焦点コンタクトレンズと毛様体筋麻痺薬を組み合わせた製品を用いることで、「現在利用可能な治療法の不利点を最小限に抑え」、「治療的に適切な濃度をもたらす」ことができ、「近視の進行の抑制、防止、制御」できるという効果が記載されていることから、本願発明の上記効果は、本願発明の構成から当業者が予測可能な範囲内のものであって、かつ、効果の程度が格別顕著なものということはできない。
また、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の要件を全て満たす実施例が記載されておらず、上記効果は実施例等によってに具体的に裏付けられたものではないから参酌することができない。
したがって、上記主張1は理由がない。
イ 主張2について
引用発明において「2.25D≦PowP1-PowC≦3D」の構成を有するか不明である点(相違点3)については、上記(3)ウにおいて検討したとおりである。
なお、「引用文献3~5」には「近視を矯正し、及び、近視を抑制するため、多焦点コンタクトレンズ又はその溶液緩衝液に毛様体筋麻痺剤を使用することは記載されて」いない旨主張しているが、引用文献3~5に記載されたコンタクトレンズは、いずれも近視を矯正、抑制するために、中心部と周辺部の屈折力を異ならせたものであるため、多焦点コンタクトレンズにほかならない。また、引用文献3~5には、溶液緩衝液に毛様体筋麻痺剤を使用することは記載されていないものの、当該構成は引用発明がすでに具備する構成である。
したがって、上記主張2は理由がない。
ウ 主張3について
審判請求人は「本願発明1による多焦点コンタクトレンズの中心領域の視度は一定」である旨主張しているが、本願発明(請求項1)には、中心領域の視度が一定であることを特定する記載は存在しないため、上記主張3は請求項の記載に基づく主張ではない。
したがって、上記主張3は理由がない。
(5)本願発明の効果について
上記(4)アで説示したとおりである。
(6)小括
本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2~3に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-013516