2021-009571
二軸配向ポリエステルフィルム
- 審判番号
- 2021-009571
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-222133外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年07月19日
- 審決日
- 2022年05月25日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】東レ株式会社
- 分類
- P18 .121-WY (G02B) / P18 .537-WY (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 16項目
第1 手続等の経緯
特願2016-222133号(以下「本件出願」という。)は、平成28年11月15日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年11月20日)の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
第2 本件発明
本件出願の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、令和4年4月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。
「位相差が400nm以下であり、フィルム幅に占める、配向角が20~70°であるフィルム幅方向の領域が全フィルム幅の60%以上のフィルムであって、フィルム厚みが10~25μmであり、フィルム幅方向のフィルムの長さが600mm以上であり、フィルム長手方向のフィルムの長さが100m以上であり、フィルム幅方向における位相差の変動幅が50nm/200mm以下であり、結晶性樹脂を主成分とする層と非晶性樹脂を主成分とする層が交互に3層以上積層されてなり、前記非晶性樹脂が共重合成分としてイソフタル酸を全カルボン酸成分の中で5モル%以上35モル%以下含むポリエステルまたは、共重合成分としてスピログリコールを全グリコール成分の中で5モル%以上40モル%以下含むポリエステルであり、偏光子保護フィルムまたはタッチパネル用の位相差フィルムに用いられることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。」
また、本件発明2は、本件発明1の「二軸配向ポリエステルフィルム」に対してさらに他の発明特定事項を付加したものであり、本件発明3~4は、本件発明1又は2の「二軸配向ポリエステルフィルム」を製造する「二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法」の発明である。
第3 引用文献の記載事項及び引用発明
折りたたみ中(クリックで表示)
1 引用文献1の記載事項
当合議体の拒絶の理由に引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された特開2005-321542号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。
(1)「【技術分野】【0001】本発明は、例えば、位相差板などに用いられる光学フィルムに関し、より詳細には、光学品質の均一性に優れており、配向角度がフィルムの長手方向に対して傾斜している光学フィルムに関する。【背景技術】続きを表示(全39行)【0002】合成樹脂フィルムよりなる位相差板は、様々な液晶表示装置において、波長変換素子や視野角改善素子として用いられている。通常、位相差板は偏光板と積層された状態で用いられている。・・・省略・・・【発明が解決しようとする課題】【0010】上記のように、従来の延伸方法では、いずれも配向軸をフィルム長手方向に対して斜め方向に傾斜させることは可能であったとしても、光学品質の均一なフィルムを得ることは非常に困難であった。また、上述した先行技術に記載のいずれの延伸方法においても、フィルム面内に所望の傾斜角度方向の力だけでなく、横方向などの他の方向にも力が作用するため、二軸性が生じ、Nz係数の小さい一軸性に優れた光学フィルムを得ることは困難であった。【0011】本発明は、上述した従来技術の現状に鑑み、配向軸がフィルム長手方向に対して傾斜されているだけでなく、光学品質の均一性に優れた光学フィルムを提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】【0012】本願の第1の発明は、配向角度の最大値と最小値との差が1°以下であり、フィルムの分子配向軸がフィルム長手方向に対して傾斜されていることを特徴とする光学フィルムである。・・・省略・・・【0051】本発明において、光学フィルムが長尺状フィルムとして提供されている場合には、該光学フィルムをその長さ方向に沿って偏光板の原反フィルムなどと長手方向を一致させて積層し、容易にかつ効率よく位相差板と偏光板との積層構造などを得ることができる。従って、波長変換素子や視野角改善素子などの素子のコストの低減、製造工程の簡略化及び光学品質の向上を図ることが可能となる。【発明を実施するための最良の形態】【0052】以下、本発明の具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。【0053】(実施例1)本実施例では、図1に示した前述の延伸装置1を用いて熱可塑性樹脂フィルムを延伸し、光学フィルムを作製した。熱可塑性樹脂フィルムとして、ポリノルボルネン(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア#1420R」、Tg=142℃)を押出成形機に供給し、230℃で押出成形して得られた幅400mm及び厚さ60μmのポリノルボルネンフィルムを用意した。該ポリノルボルネンフィルムを上記延伸装置により延伸し、位相差フィルムを得た。【0054】図1に示した延伸装置1においては、対をなす左右のクリップ6,7に把持されたポリノルボルネンフィルムを、予熱ゾーン6aにおいて、熱風加熱装置により130℃に昇温し、次に延伸ゾーン6bに導いた。延伸ゾーン6bでは熱風加熱装置により140℃に昇温し、左右のレール4,5は3回屈曲しており、かつ左右の対応する屈曲点を結ぶ直線が屈曲する前のフィルム搬送方向に対して直交するように左右同じ形状の2本のレール4,5を配置しておいた。この左右2本のレール4,5上をポリノルボルネンフィルムの幅方向両端を把持した多数対のクリップ6,7を移動させ、ポリノルボルネンフィルムに配向を与えた。なお、前後のクリップ間ピッチは160mmとした。また、ポリノルボルネンフィルムの進行方向に対する延伸倍率が1.7倍となるようにクリップ6,7の移動速度を設定した。【0055】上記のようにして配向を与えられたポリノルボルネンフィルムを、熱風加熱装置により100℃の温度に設定された冷却ゾーン6cにおいて、ポリノルボルネンフィルムに与えられた配向方向に対して略直交方向に風を吹き付けて冷却し、配向を固定した。【0056】上記のようにして配向が固定されたポリノルボルネンフィルムを巻き取り部1cにおいて巻き取り、位相差フィルムを得た。【0057】得られた位相差フィルムについて幅方向中央部と幅方向両端から50mmの2つの地点、及び幅方向の中間部の2つの地点の合計5点において、自動複屈折計(王子計測機器社製、商品名「KOBRA-21ADH」)により配向角度及び位相差を測定した。配向角度及び位相差のばらつきは、上記5点において測定された値のうちの最大値と最小値との差とした。【0058】得られた位相差フィルムの配向角、配向角度のばらつき、位相差及び位相差のばらつきを下記の表1に示す。・・・省略・・・【0063】【表1】[図:0001384981000001.jpg]」
(2)図1
[図:0001384981000002.jpg]
2 引用発明
引用文献1の【0002】及び【0051】の記載から、引用文献1の実施例1として製造された位相差フィルムは、偏光板と積層された状態で用いられているといえる。ここで、引用文献1の実施例1は、【0063】の【表1】の記載から、配向角27.8°、配向角のバラツキ0.8°、位相差130.7nm、位相差バラツキ4.0nmである。
そうしてみると、引用文献1には、実施例1の位相差フィルムとして、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 ポリノルボルネンフィルムを延伸した、位相差フィルムであって、配向角27.8°、配向角のバラツキ0.8°、位相差130.7nm、位相差バラツキ4.0nmであり、偏光板と積層された状態で用いられている、位相差フィルム。」
第4 対比・判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明は、「位相差フィルムであって」、「配向角27.8°、配向角のバラツキ0.8°、位相差130.7nm、位相差バラツキ4.0nmであり」、「偏光板と積層された状態で用いられている」。
上記構成からみて、引用発明の「位相差フィルム」は、本件発明1の「フィルム」に相当する。
また、引用発明の「フィルム」は、本件発明1の「フィルム」の、「位相差が400nm以下であり」及び「配向角が20~70°である」との要件を満たす。
ここで、引用発明の「偏光板と積層された状態で用いられている」「フィルム」が、偏光子保護フィルムとして機能することは、明らかである。そうしてみると、引用発明の「フィルム」は、本件発明1の「フィルム」の「偏光子保護フィルムまたはタッチパネル用の位相差フィルムに用いられること」との要件を満たす。
さらに、引用発明の「フィルム」は、本件発明1の「二軸配向ポリエステルフィルム」と、「フィルム」の点で共通する。
(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、
「位相差が400nm以下であり、配向角が20~70°であるフィルムであって、偏光子保護フィルムまたはタッチパネル用の位相差フィルムに用いられるフィルム。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
「フィルム」が、本件発明1は、「フィルム幅に占める、配向角が20~70°であるフィルム幅方向の領域が全フィルム幅の60%以上のフィルムであって、フィルム厚みが10~25μmであり、フィルム幅方向のフィルムの長さが600mm以上であり、フィルム長手方向のフィルムの長さが100m以上であり、フィルム幅方向における位相差の変動幅が50nm/200mm以下であ」るのに対して、引用発明の「フィルム」は、「配向角27.8°、配向角のバラツキ0.8°、位相差130.7nm、位相差バラツキ4.0nmであ」ることにとどまり、このように特定されていない点。
(相違点2)
本件発明1は、「結晶性樹脂を主成分とする層と非晶性樹脂を主成分とする層が交互に3層以上積層されてなり、前記非晶性樹脂が共重合成分としてイソフタル酸を全カルボン酸成分の中で5モル%以上35モル%以下含むポリエステルまたは、共重合成分としてスピログリコールを全グリコール成分の中で5モル%以上40モル%以下含むポリエステルであ」るのに対して、引用発明は、「ポリノルボルネンフィルム」であることにとどまり、そもそも、3層以上積層されているものではない点。
(相違点3)
本件発明1は、「二軸配向ポリエステル」であるのに対して、引用発明は、「ポリノルボルネン」である点。
(3)判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
当合議体の拒絶の理由に引用文献2として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-194566号公報(以下、同じく「引用文献2」という。)の【0016】には、結晶性樹脂と非晶性樹脂を交互に5層以上積層された構成であるフィルムが記載され、引用文献2の【0066】、【0099】には実施例としてスピログリコール成分を共重合したPETも記載されている。
しかしながら、引用文献1の【0021】には、光学フィルムとして「ポリエチレンテレフタレート」を用いることが例示されていることにとどまり、引用発明の「ポリノルボルネン」を、引用文献2に記載された上記スピログリコール成分を共重合したPETに置き換える動機付けはない。
そうしてみると、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)であっても、引用発明及び引用文献2に記載された事項によっては、上記相違点2に係る本件発明1の構成には至らない。
したがって、当業者といえども、引用発明において上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、容易になし得たということはできない。
引用文献1の他の実施例を主引用発明としても同様である。
また、引用文献2を主引用例とした場合であっても同様である。
(4)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用文献1~2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたということができない。
2 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2~4も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1~2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたということができない。
第5 サポート要件についての判断
発明が解決しようとする課題について、本件明細書の【0005】及び【0006】には、それぞれ、「しかしこの方法ではフィルムの端部以外は使用できないためロスが非常に大きく、フィルム幅方向の位相差ムラも大きいという問題がある。」及び「この製造方法にて得られたポリエステルフィルムは、一軸延伸フィルムであるため熱寸法安定性が悪く、また、熱処理時のボーイングにより幅方向位相差ムラが発生する問題は解消できていない。」と記載されている。これらの記載から、発明が解決しようとする課題のひとつは、位相差ムラの解消であるといえる。
この点について、本件明細書の【0028】には、「非晶性ポリエステルとしては、共重合成分としてイソフタル酸を含むポリエステルが好ましい。イソフタル酸を含むポリエステルは、結晶性を低下させることができるために、容易に位相差を抑制することができ、かつ、二軸延伸しても厚み方向の屈折率が低下しにくいために、入射角を変えた時の虹ムラも発生しにくくなる。・・・スピログリコールを含むポリエステルは、二軸延伸やボーイングによるフィルム変形において配向しにくいため幅方向の位相差変動が生じにくい。」と記載されている。上記【0028】の記載から、イソフタル酸を含むポリエステル及びスピログリコールを含むポリエステルは、位相差ムラの解消をするものであると読み取れる。この点は、本件明細書の【0069】の【表2】の実施例7~9の評価からも確認できる。
そして、上記第2で示したように、本件発明1は、「結晶性樹脂を主成分とする層と非晶性樹脂を主成分とする層が交互に3層以上積層されてなり、前記非晶性樹脂が共重合成分としてイソフタル酸を全カルボン酸成分の中で5モル%以上35モル%以下含むポリエステルまたは、共重合成分としてスピログリコールを全グリコール成分の中で5モル%以上40モル%以下含むポリエステルであ」る構成を具備する。
そうしてみると、本件発明1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されているといえる。
本件発明2~4は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2~4も、本件発明1と同じ理由により、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されているといえる。
したがって、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載したものである。
第6 原査定の概要及び原査定についての判断
1 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本件出願は、特許請求の範囲(令和2年12月15日提出の手続補正書により補正されたもの)の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
2 原査定について
上記第5で述べたように、令和4年4月8日に提出された手続補正書により補正された本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、原査定の拒絶の理由は解消された。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。
第7 当合議体の拒絶理由について
1 当合議体の拒絶理由の概要
当合議体の拒絶理由の概要は次のとおりである。
(理由1:進歩性)本願請求項1~2に係る発明(令和3年7月19日提出の手続補正書により補正されたもの)は、先の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2・サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲(令和3年7月19日提出の手続補正書により補正されたもの)の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
引用文献等一覧
1.特開2005-321542号公報
2.特開2015-194566号公報
(当合議体注:引用文献1は主引用例であり、引用文献2は副引用例である。)
2 当合議体が通知した拒絶の理由についての判断
理由1について、上記第3及び第4で述べたように、令和4年4月8日に提出された手続補正書により補正された本件発明1~4は、引用文献1~2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたということができない。また、理由2について、上記第5で述べたように、令和4年4月8日に提出された手続補正書により補正された本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、当合議体が通知した拒絶の理由は解消された。
第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当合議体が通知した拒絶の理由いずれによっても、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-009571