特許拒絶査定不服審判
2021-008307
球状のリチウムイオン電池正極材料、リチウムイオン電池、それを用いた通信、電力及びエネルギー貯蔵システム、携帯型記憶装置、並びに、正極材料又はリチウムイオン電池の使用
- 審判番号
- 2021-008307
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-130863外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年06月24日
- 審決日
- 2022年08月31日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】貴州振華新材料股▲ふん▼有限公司
- 【請求人代理人】木村 満
- 【請求人代理人】森川 泰司
- 【請求人代理人】桜田 圭
- 【請求人代理人】美恵 英樹
- 【請求人】貴州振華義龍新材料有限公司
- 【請求人代理人】木村 満
- 【請求人代理人】森川 泰司
- 【請求人代理人】桜田 圭
- 【請求人代理人】美恵 英樹
- 分類
- P18 .536-Z (H01M) / P18 .537-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-130863「球状のリチウムイオン電池正極材料、リチウムイオン電池、それを用いた通信、電力及びエネルギー貯蔵システム、携帯型記憶装置、並びに、正極材料又はリチウムイオン電池の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月 7日出願公開、特開2019- 21626〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)7月10日(パリ条約による優先権主張2017年7月11日、中国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 1年 7月10日付け:拒絶理由通知
令和 1年10月16日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 3月16日付け:拒絶理由通知
令和 2年 9月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 2月17日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 3年 6月24日 :審判請求書の提出
令和 3年 9月 9日 :手続補正書(方式)の提出
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明は、令和2年9月24日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「球状のリチウムイオン電池正極材料であって、前記正極材料は、一般式LiaNixCoyMnzMbO2となっており、そのうち、1.02≦a≦1.20、0.0≦b≦0.5、0.30≦x≦0.60、0.20≦y≦0.4、0.05≦z≦0.50、x+y+z=1、M元素は、Mg、Ti、Al、Zr、Y、Co、Mn、Ni、Ba及び希土類元素から選択される1種又は2種以上であり、前記正極材料は、走査型電子顕微鏡の下において球状の形状を呈する一次粒子及び一次粒子団の凝集によって形成された二次粒子を含み、一次粒子団の凝集によって形成された二次粒子の数量百分率が30%以下であり、
前記正極材料の粉末X線回折スペクトルにおいて、
2θ=64.9°付近の(110)回折ピークの半値幅FWHM(110)は0.07~0.13であり、
2θ=58.7°付近における(107)回折ピークの半値幅FWHM(107)は0.065~0.120であり、結晶粒子のサイズは1000Å~3000Åであり、
2θ=18.7°付近の(003)回折ピークの半値幅FWHM(003)と2θ=44.5°近傍の(104)回折ピークの半値幅FWHM(104)との比率は0.90~1.50の間であり、
2θ=36.7°付近の(101)回折ピークの半値幅FWHM(101)は0.05~0.1である、
ことを特徴とする球状のリチウムイオン電池正極材料。」
第3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、以下の通りである。
1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
●理由1(特許法第36条第4項第1号)、理由3(特許法第36条第6項第2号)
・請求項 1-9
本願明細書中、その結晶粒子のサイズについて算出方法は全く記載されていない。
ここで、出願人は意見書において、「出願人は、X線回折スペクトル(XRD)を測定する装置の条件、物質の種類、応力によるbroadeningなどの要素を総合的に考慮したので、XRDのデータによって総合的に計算して結晶粒子のサイズを得ました。」との主張をするのみで、依然としてどのようにして結晶粒子のサイズを算出したのか明瞭に理解することはできない。
したがって、本願の請求項1-9にかかる発明は不明確であるし、また、発明の詳細な説明は、請求項1-9にかかる発明を当業者が実施ができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
第4 当審の判断
1 理由1について
(1)発明の詳細な説明の記載
ア 本願の明細書の発明の詳細な説明には、「結晶粒子サイズ」に関して、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。
「【0007】
本発明が解決しようとする技術的課題は、前記特許を含む従来の技術では、どのような形態を有するリチウムイオン電池用正極材料であり、粉末X線回折スペクトルにおける(110)、(104)、(101)、(107)の半値幅がどの範囲にあり、(104)、(107)回折ピークの結晶粒子のサイズ、及び(003)と(104)との半値幅比率がどの範囲を有すれば、高い比容量、高温安定性、安全性及び高温サイクル性能に優れるかが明確に定義できていない。また、現在のリチウムイオン正極材料の高温貯蔵特性の更なる向上が必要である。また、本発明者らは、正極材料を製作の際、M源の添加順序は、正極材料の性能に様々な影響を与えることを見出した。如何に上述の高比容量、良好な安定性、安全性、及び高温サイクル性能に優れる正極材料を製作するかは本発明によって解決されるべき問題の1つである。」
「【0016】
好ましくは、前記正極材料において、記載の正極材料の粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=44.5°付近の(104)回折ピークの半値幅FWHM(104)が、0.06~0.105であり、結晶粒子サイズは1100Å~2000Åである。
【0017】
好ましくは、前記正極材料において、記載の正極材料の粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=58.7°付近における(107)回折ピークの半値幅FWHM(107)は0.065~0.12であり、結晶粒子サイズは1000Å~3000Åである。」
「【0046】
好ましくは、前記正極材料の粉末X線回折スペクトル(XRD)において、単一のα-NaFeO2型の層状構造が現れ、且つ2θ=44.5°付近の(104)回折ピークの半値幅FWHM(104)が、0.06~0.105であり、結晶粒子サイズは1100Å~2000Åである。」
「【0048】
好ましくは、前記正極材料の粉末X線回折スペクトル(XRD)において、単一のα-NaFeO2型の層状構造が現れ、且つ2θ=58.7°付近の(107)回折ピークの半値幅FWHM(107)が、0.065~0.12であり、結晶粒子サイズは1000Å~3000Åである。」
「【0070】
本発明における結晶粒子サイズとは、結晶面に垂直な方向の結晶粒子の平均厚さをいう。」
また、【0089】ないし【0136】【表3】には、実施例1ないし4および比較例1ないし3の正極材料の粉末に対してX線回折スペクトル測定を行った測定結果として、(104)回折ピークの結晶粒子のサイズと(107)回折ピークの結晶粒子のサイズが記載されている。
イ 上記「ア」の各記載によれば、本願の発明の詳細な説明には、リチウムイオン電池用正極材料の結晶粒子サイズについて以下の事項が記載されているといえる。
(ア)結晶粒子サイズとは、結晶面に垂直な方向の結晶粒子の平均厚さをいう。
(イ)実施例に係る正極材料のX線回折スペクトル測定による(104)回折ピークの結晶粒子サイズは1100Å~2000Åである。
(ウ)実施例に係る正極材料のX線回折スペクトル測定による(107)回折ピークの結晶粒子サイズは1000Å~3000Åである。
(2)判断
ア 本願の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすためには、本願の発明の詳細な説明の記載又はその示唆、本願の出願当時の技術常識に基づいて、本願発明の各構成を当業者が生産できなければならない。
ここで、本願発明は「2θ=58.7°付近における(107)回折ピークの」「結晶粒子のサイズは1000Å~3000Å」との構成を有するものであるから、本願の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすためには、本願の発明の詳細な説明の記載又はその示唆、本願の出願当時の技術常識に基づいて、本願発明の上記結晶粒子サイズに係る構成を当業者が生産できなければならない。
そして、本願発明の結晶粒子サイズに係る構成を当業者が生産するためには、本願発明の結晶粒子サイズがどのようにして特定されたものであるのか当業者が理解し得るように、本願の発明の詳細な説明に結晶粒子サイズの算出方法等が記載又は示唆されている、もしくは、本願の出願当時の技術常識に基づいて理解し得る必要があるものと認められる。
イ そこで、結晶粒子サイズに関する発明の詳細な説明の記載を検討すると、上記「(1)イ」のように、発明の詳細な説明には、結晶粒子サイズは結晶面に垂直な方向の結晶粒子の平均厚であること、及び、実施例に係る正極材料のX線回折スペクトル測定による(104)回折ピークの結晶粒子サイズは1100Å~2000Å、実施例に係る正極材料のX線回折スペクトル測定による(107)回折ピークの結晶粒子サイズは1000Å~3000Åであることが記載されるものの、X線回折スペクトル測定結果より結晶粒子サイズを求める具体的な構成は記載されていない。
してみると、本願発明の結晶粒子サイズがどのようにして特定されたものであるのか当業者が理解し得るように、本願の発明の詳細な説明に結晶粒子サイズの算出方法等が記載又は示唆されているとはいえない。
ウ 次に、本願発明の結晶粒子サイズがどのようにして特定されたものあるのか、本願の出願当時の技術常識に基づいて当業者が理解し得るか検討する。
(ア)X線回折スペクトル測定結果より結晶粒子サイズを求める方法としては、シェラーの式より結晶子サイズを算出する方法、X線回折スペクトル測定結果の複数の回折ピークより結晶子サイズとひずみを分離して求めるウィリアムソン・ホールの方法(審判請求人が主張している算出方法)が本願の出願当時広く知られている。
(イ)そこでまず、本願発明の結晶粒子サイズがシェラーの式より算出されたものであるのか検討する。
シェラーの式は、D=Kλ/Bcosθ(D:結晶子サイズ、K:シェラー定数、λ:X線の波長、B:回折ピークにおける半値幅、θ:回折角)であるから、結晶子サイズ(結晶粒子サイズ)Dは回折ピークにおける半値幅Bの値に反比例する。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明に記載された実施例および比較例の値は結晶粒子サイズと半値幅が反比例の関係にはない。
してみると、本願発明の結晶粒子サイズはシェラーの式に基づいて算出されたものとは認められない。
(ウ)次に、本願発明の結晶粒子サイズがウィリアムソン・ホールの方法により求められたものであるか検討する。
ウィリアムソン・ホールの方法より結晶粒子サイズを決定する場合、結晶粒子サイズは複数の回折ピークをフィッティング解析することにより得られたものとなる。
これに対し、本願の発明の詳細な説明には、(104)回折ピークの結晶粒子サイズ、(107)回折ピークの結晶粒子サイズがそれぞれ記載されており、結晶粒子サイズは各回折ピーク毎に求められている、すなわち、結晶粒子サイズは単一の回折ピークより求められているものと認められる。
してみると、本願発明の結晶粒子サイズはウィリアムソン・ホールの方法により求められたとは認められない。
(エ)してみると、本願発明の結晶粒子サイズがとのようにして特定されたものあるのか、本願の出願当時の技術常識に基づいて当業者が理解し得るとはいえない。
エ 以上のように、本願発明の結晶粒子サイズがどのようにして特定されたものであるのか当業者が理解し得るように、本願の発明の詳細な説明に結晶粒子サイズの算出方法等が記載又は示唆されている、もしくは、本願の出願当時の技術常識に基づいて理解し得るとはいえないから、本願発明の結晶粒子サイズに係る構成を当業者が生産できるとは認められない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、請求項1にかかる発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
2 理由3について
上記「1 理由1について」で検討したように、本願発明の結晶粒子サイズがどのようにして特定されたものであるのか当業者が理解し得るように、本願の発明の詳細な説明に結晶粒子サイズの算出方法等が記載又は示唆されている、もしくは、本願の出願当時の技術常識に基づいて理解し得るとはいえない。
したがって、本願発明の「2θ=58.7°付近における(107)回折ピークの」「結晶粒子のサイズは1000Å~3000Å」との構成はどのようにして特定されたものであるのか不明であり、本願の請求項1に係る発明は明確でない。
3 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は令和3年9月9日の手続補正書(方式)において、次のように主張している。なお、下線は当審で付与した。
ア 「本願発明の実施例のデータは、Williamson Hallパターンによる多結晶回折ピークのフィッティングであり、平均粒径を決定します。Williamson Hall図のフィッティング計算は、ピーク角度、半ピーク幅と関連しており、製品角度又は半ピーク幅によって異なります。
当業者にとっては、2θ角度範囲系の複数の回折ピークをフィッティング解析した場合には、Williamson Hallパターンを用いて適法化することが考えられます。」(第2頁第27ないし33行)
と主張している。
イ 「本願発明の実施例1~4の物質は、以下で説明するように全て異なることに留意すべきです。これらの異なる物質の格子欠陥、応力の幅化の影響などは全て異なります。
したがって、本願発明の実施例1~4の場合について、統一された公式を用いて、これらの結晶粒子サイズと半ピーク幅との関係がどうなるかを比較できません。周知のように、異なる物質はその結晶内部の格子欠陥などが異なっており、異なる要因が半ピーク幅に影響を及ぼし、結晶粒子サイズと半ピーク幅との関係にも影響を及ぼします。」(第3頁第15ないし20行)
ウ 「出願人は、XRDを測定する器具の条件、物質の種類、応力の幅化などの要素を総合的に考慮したので、XRDのデータによって総合的に計算し、Williamson Hall図による分析で、請求項1に係る発明における結晶粒子のサイズを得ました。このような分析と計算手段は公知常識であります。」(第3頁第34ないし37行)
(2)上記「(1)ア」および「(1)ウ」の主張について
上記「1(2)イ」で検討したように、本願の発明の詳細な説明にはX線回折スペクト測定結果より結晶粒子サイズを求める具体的な構成が記載されていないから、発明の詳細な説明の記載から直ちに、Williamson Hall図のフィッティング計算より本願発明の結晶粒子サイズは決定していると特定することはできず、また、「XRDを測定する器具の条件、物質の種類、応力の幅化などの要素」をどのように考慮し計算したのかも特定できない。
また、上記「1(2)ウ(ウ)」で検討したように、本願における結晶粒子サイズはウィリアムソン・ホールの方法(Williamson Hall図のフィッティング計算)により求められたとは認められない。
(3)上記「(1)イ」の主張について
請求人が主張するように、統一された公式を用いて、結晶粒子サイズと半ピーク幅(当審注:「半ピーク幅」は「X線回折スペクトルの回折ピークにおける半値幅」を指すものと認める。)との関係がどうなるかを比較できないのであれば、回折ピークの半値幅を用いて結晶粒子サイズを求めるには本願の出願当時広く知られた方法に代えて用いた結晶粒子サイズを求めるための構成を本願の発明の詳細な説明に記載する必要があるものと認められる。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明にはX線回折スペクト測定結果より結晶粒子サイズを求める具体的な構成が記載されておらず、結晶粒子サイズを特定方法するための構成は不明である。
(4)以上のことより、審判請求人の主張は採用することができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明について、この出願は、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、この出願は拒絶をすべきものである。
また、本願の請求項1に係る発明について、この出願は、請求項1の記載が明確であるとはいえないから特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、この出願は拒絶をすべきものである。
したがって、その他の請求項について検討するまでもなく、この出願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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