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特許拒絶査定不服審判

2021-006085

動的環境データシステムを有する2次元バーコード、方法および装置

審判番号
2021-006085
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-551251外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年05月12日
審決日
2021年11月01日
公報発行日
2022年04月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (G06K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第17条の2第6項、特許法第29条、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2017-551251「動的環境データシステムを有する2次元バーコード、方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月 6日国際公開、WO2016/160912、平成30年 6月28日国内公表、特表2018-517199〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 9項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2016年3月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年3月30日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年11月29日 :翻訳文提出
平成29年12月18日 :手続補正書の提出
令和2年 3月10日付け:拒絶理由通知書
令和2年 9月17日 :意見書,手続補正書の提出
令和3年 1月 6日付け:拒絶査定
令和3年 5月12日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 令和3年5月12日にされた手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

令和3年5月12日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 補正の内容

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された(下線は,補正箇所である。)。

「基板と,
前記基板上に設けられた2次元誤り訂正バーコードシンボルであって,複数のモジュールをさらに備え,前記複数のモジュールは,選択的に正方形,長方形または円形であり,それぞれのモジュールは,第1の色の状態または第2の色の状態をとる,2次元誤り訂正バーコードシンボルと,
前記基板上に,永久的な色の状態で設けられた第1の層であって,静的な色の状態を有する前記複数のモジュールのサブセットが前記第1の層に提供される,第1の層と,
選択的に前記第1の層を重ね印刷することにより,前記基板上に,センサ色素モジュールパターンで設けられた第2の層であって,前記センサ色素モジュールパターンはセンサディジタル情報を含み,前記第2の層は,環境的条件,物理的条件または生物的条件の発生に応答して,センサ色素の色の状態を変化させる化学的または物理的な状態変化を受けることにより,前記複数のモジュールのサブセットの色の状態を変化させるように構成された,化学作用を有するセンサ色素をさらに備える,第2の層と,を備え,
前記環境的条件,物理的条件または生物的条件は,時間,温度,時間温度積,光,湿度,放射線および毒性からなるグループから選択され,
前記第1の層に提供される前記複数のモジュールのサブセットは,前記複数のモジュールのサブセットの前記色の状態が変更される前と後の両方で読み取り可能な2次元バーコードの記号論内の可読バーコードシンボルを形成する,
センサ付2次元バーコード。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲

本件補正前の,令和2年9月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「基板と,
前記基板上に設けられた2次元誤り訂正バーコードシンボルであって,複数のモジュールをさらに備え,前記複数のモジュールは,選択的に正方形,長方形または円形であり,それぞれのモジュールは,第1の色の状態または第2の色の状態をとる,2次元誤り訂正バーコードシンボルと,
前記基板上に,永久的な色の状態で設けられた第1の層と,
選択的に前記第1の層を重ね印刷することにより,前記基板上に,センサ色素モジュールパターンで設けられた第2の層であって,前記センサ色素モジュールパターンはセンサディジタル情報を含み,前記第2の層は,環境的条件,物理的条件または生物的条件の発生に応答して,センサ色素の色の状態を変化させる化学的または物理的な状態変化を受けることにより,前記複数のモジュールのサブセットの色の状態を変化させるように構成された,化学作用を有するセンサ色素をさらに備える,第2の層と,を備え,
前記環境的条件,物理的条件または生物的条件は,時間,温度,時間温度積,光,湿度,放射線および毒性からなるグループから選択される,
センサ付2次元バーコード。」

2 補正の適否

本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,特許法17条の2第3項(新規事項)の規定に適合している。

上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である,「前記基板上に,永久的な色の状態で設けられた第1の層」について,「静的な色の状態を有する前記複数のモジュールのサブセットが前記第1の層に提供される」という事項,及び,「前記第1の層に提供される前記複数のモジュールのサブセットは,前記複数のモジュールのサブセットの前記色の状態が変更される前と後の両方で読み取り可能な2次元バーコードの記号論内の可読バーコードシンボルを形成する」という事項を付加して限定するものであり,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明とは,発明の単一性の要件を満たしており,特許法17条の2第4項(発明の単一性)の規定に適合している。

そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本件補正発明

本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりであり,下記のとおり説明のために当審において「(A)」ないし「(G)」の符号を付して再掲する(以下,符号を付した構成を「構成A」ないし「構成G」という。)。

(本件補正発明)

(A)基板と,

(B)前記基板上に設けられた2次元誤り訂正バーコードシンボルであって,複数のモジュールをさらに備え,前記複数のモジュールは,選択的に正方形,長方形または円形であり,それぞれのモジュールは,第1の色の状態または第2の色の状態をとる,2次元誤り訂正バーコードシンボルと,

(C)前記基板上に,永久的な色の状態で設けられた第1の層であって,静的な色の状態を有する前記複数のモジュールのサブセットが前記第1の層に提供される,第1の層と,

(D)選択的に前記第1の層を重ね印刷することにより,前記基板上に,センサ色素モジュールパターンで設けられた第2の層であって,前記センサ色素モジュールパターンはセンサディジタル情報を含み,前記第2の層は,環境的条件,物理的条件または生物的条件の発生に応答して,センサ色素の色の状態を変化させる化学的または物理的な状態変化を受けることにより,前記複数のモジュールのサブセットの色の状態を変化させるように構成された,化学作用を有するセンサ色素をさらに備える,第2の層と,を備え,

(E)前記環境的条件,物理的条件または生物的条件は,時間,温度,時間温度積,光,湿度,放射線および毒性からなるグループから選択され,

(F)前記第1の層に提供される前記複数のモジュールのサブセットは,前記複数のモジュールのサブセットの前記色の状態が変更される前と後の両方で読み取り可能な2次元バーコードの記号論内の可読バーコードシンボルを形成する,

(G)センサ付2次元バーコード。

(2)引用文献,引用発明

ア 引用文献1の記載

原査定の拒絶の理由に引用された,特開2002-99879号公報(以下,「引用文献1」という。)には,「バーコード所持体」(発明の名称)として,図面とともに以下の記載がなされている(下線は強調のため当審で付与。「・・・」は省略部分を示す。)。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,カード,ラベル,タグそして帳票類などであって,表面に一次元バーコードや二次元バーコードを有するバーコード所持体に関するものである。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】従来から,バーコードは主に流通業界で広く使用されていて,対象物に印刷して形成されたバーコードをバーコードリーダで読み取り,その読み取り情報に基づいて物流の管理などを行うようにしている。このバーコードは一旦印刷されるとそのバーコード自体を変更することが不可能なため,バーコードが既に印刷形成されているカードやラベルなどバーコード所持体(なお,カード,ラベルに限定されるものではなく,バーコードが付されているもの全てを指す)において,そのバーコードで表現すべき情報が変更された場合には,既に付されているバーコードの上から新たに作成した別のバーコードを記載したものを貼り付けるか,或いはバーコード以外の方法で,修正後の情報を記載するという方法を取らざるを得ないものである。
・・・
【0005】そこで本発明は上記事情に鑑み,新たなバーコード所持体の貼り付けなどを行うことなくそのバーコード所持体に付されているバーコード自体を必要に応じて変更できるようにすることを課題とし,バーコードで表現すべき情報に変更があった場合にも,その変更に容易に対応できるバーコード所持体を用いてバーコード情報による管理などが手間なく,かつ経済的に行えるようにすることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を考慮してなされたもので,バーコードリーダにより通常読み取りされる固定キャラクタとスペースキャラクタとを並べたコードを有するバーコード所持体であって,前記バーコードに少なくとも,サーモクロミックインキで印刷して通常読み取り不能した固定キャラクタとスペースキャラクタとを並べたステルスコードを設け,加熱ないし冷却による前記サーモクロミックインキの可逆変色で前記ステルスコードを現出させて,バーコード情報を変更可能にした構成を有することを特徴とするバーコード所持体を提供して,上記課題を解消するものである。」
(イ)「【0007】
【発明の実施の形態】つぎに本発明を図1に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。図中1は本発明に係るバーコード所持体であって,該バーコード所持体1は基材2の裏面に配した粘着剤や接着剤により他物品の表面に貼り付けることができるようにしたラベル形態のものであり,基材2の表面にはバーコード3が設けられている。前記バーコード3はバーコードリーダにより通常読み取りできるコード4と外部から加熱を行わない限り,読み取りできないようにした通常読み取り不能なステルスコード5とを備えている。
【0008】上記コード4にあっては,暗色系にしてバーコードリーダへの光の戻りをゼロ,或いは小さくした固定キャラクタ40と,明色系にしてバーコードリーダへの光の戻りを多くしたスペースキャラクタ41とが,読み取りさせる情報に応じて各キャラクタ幅を設定した状態で並べ設けられているものである。また,本実施例では,ステルスコード5は,図1(ア)に示すように,上記スペースキャラクタ41の位置に設けられていて,所要温度以上に加熱することで可逆変色(発色)するサーモクロミックインキを印刷して構成されているものであり,加熱しない通常の状態では目視することができないとともに,バーコードリーダによっても読み取りすることができないように設けられている。
【0009】このステルスコード5もコード4と同じように固定キャラクタ50とスペースキャラクタ51とから構成され,読み取りさせる情報に応じて各キャラクタ幅を設定した状態で並べ設けられているものであり,バーコード所持体1全体を,或いはバーコード3の部分を加熱することで,前記サーモクロミックインキが可逆変色して図1(イ)に示されているようにステルスコード5が現出する。そして,コード4のみのときに読み取られているバーコード情報に対して,コード4とステルスコード5とが組み合わされたときに読み取られるバーコード情報が異なるように構成されているものである。例えば,バーコード3が商品の価格情報を読み取りできるようにしているものである場合,コード4のみが読み取られるときのバーコード3では通常の価格情報を読み取られるようにし,そして,ステルスコード5を現出させてコード4とステルスコード5とを組み合わせたときのバーコード3では半額の価格情報を読み取られるようにする。このように,加熱する前と後でバーコード情報を変えることができ,新たなバーコードを記載したバーコード所持体を商品に貼り付けたり,手書きにて変更価格を表示するといいう手間を無くすことができるようになる。そして,ステルスコード5はサーモクロミックインキが可逆変色して現出するものであることから,自然冷却などにて温度を下げることでステルスコード5が消えて元のコード4のみの状態となり(図1(イ)の状態から図1(ア)の状態になる),このコード4でバーコード情報を読み取りさせる商品に対してこのバーコード所持体を再使用できるものとなる。」

(ウ)「【0012】本発明には,公知のバーコードを使用することができる。例示すれば,JAN-13,JAN-8,Code128,Code39,Codebar(NW-7),ITF14(Interleaved 2 to 5)などの一次元バーコード,Code49,Code16K, Codablock,PDF417,SuperCode,UltraCode,VeriCode,CPCode,DataMatrix,Code1,MaxiCode,ArrayTag,AztecCode,DataMatrix ECC200,QRCode,MicroQRなどの二次元バーコードなどが挙げられる。」

(エ)「【図1】
[図:0001383054000001.jpg]
」

イ 引用発明

(ア)上記ア(ア)によれば,引用文献1には,一次元バーコードや二次元バーコードを有する「バーコード所持体」に関し,「バーコード所持体に付されているバーコード自体を必要に応じて変更できるようにすること」を課題とし,バーコードリーダにより「通常読み取りされる固定キャラクタとスペースキャラクタとを並べたコード」を有するバーコード所持体において,「サーモクロミックインキで印刷して通常読み取り不能した固定キャラクタとスペースキャラクタとを並べたステルスコード」を設け,加熱ないし冷却による前記サーモクロミックインキの可逆変色で前記ステルスコードを現出させて,バーコード情報を変更可能とすることが記載されている。

(イ)上記ア(イ)及び(エ)によれば,引用文献1記載の「バーコード所持体」は,「基材2」を有し,その「基材2」の「表面」に「バーコードが設けられている」ものであり,上記ア(ウ)によれば,公知の「二次元バーコード」である「QRcode」を使用できることが記載されている。

(ウ)上記ア(イ)及び(エ)によれば,引用文献1のバーコードは,「バーコードリーダにより通常読み取りできるコード4」の領域と「外部から加熱を行わない限り,読み取りできないようにした通常読み取り不能なステルスコード5」の領域とを備えており,「ステルスコード5」は,「所要温度以上に加熱することで可逆変色(発色)するサーモクロミックインキを印刷して構成」されているものである。なお,「コード4」は,上記ア(ア)の【0002】にも記載されるように,「印刷」により形成されることは明らかである。

(エ)上記ア(イ)及び(エ)によれば,引用文献1の「バーコード」は,「バーコード所持体1全体を,或いはバーコード3の部分を加熱することで,前記サーモクロミックインキが可逆変色して」,「ステルスコード5が現出する」ものであるが,このとき,「ステルスコード5」と「コード4」とは,「コード4のみのときに読み取られているバーコード情報に対して,コード4とステルスコード5とが組み合わされたときに読み取られるバーコード情報が異なるように構成されている」ものである。

(オ)以上より,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお,各構成の符号「(a)」ないし「(f)」は,説明のために当審において付与したものである(以下,符号を付した構成を「構成a」ないし「構成f」という。)。

(引用発明)

(a)基材2と,

(b)基材2の表面に設けられた二次元バーコードであるQRCodeと,

(c)バーコードリーダにより通常読み取りできるコード4が印刷された領域と,

(d)所要温度以上に加熱することで可逆変色(発色)するサーモクロミックインキによりステルスコード5が印刷された領域と,を備え,

(e)コード4のみのときに読み取られているバーコード情報に対して,コード4とステルスコード5とが組み合わされたときに読み取られるバーコード情報が異なるように構成されている

(f)バーコード所持体1。

(3)対比

本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 本件補正発明の構成A,Bと引用発明の構成a,bについて

引用発明の「基材2」及び「基材2の表面に設けられたバーコード」は,それぞれ,本件補正発明の「基板」及び「基板上に設けられたバーコードシンボル」に相当する。ここで,引用発明のバーコードである「QRcode」(QRコード)は,誤り訂正機能を有する2次元バーコードシンボルであるから,本件補正発明の「2次元誤り訂正バーコードシンボル」に相当し,また,QRコードは,正方形である複数のモジュールが用いられる点で,本件補正発明の「複数のモジュールは,選択的に,正方形,長方形または円形であり」なる特定事項と差異はない。そして,QRコードは,モジュールとして,暗色系のもの(例えば黒)と明色系のもの(例えば白)との2種類を使用するから,「正方形である複数のモジュール」は,第1の色の状態または第2の色の状態をとるものといえる。

したがって,引用発明の構成a,bと本件補正発明の構成A,Bとの間には差異がない。

イ 本件補正発明の構成Cと引用発明の構成cについて

引用発明における「バーコードリーダにより通常読み取りできるコード4」は,加熱される前の状態である,「通常読み取り」に供されるものであると同時に,加熱により現出する「ステルスコード5とあわせた読み取り」にも供されるものであるから,「コード4」の色の状態は,加熱の前後で変わることを想定していないといえる。そうすると,「コード4」の色の状態は,少なくとも「ステルスコード5」が現出する程度の加熱状態に対しては,「永久的な色の状態で設けられ,静的な色の状態を有する複数のモジュールのサブセット」として設けられたものといえる。

一方,引用発明のコード4が印刷された領域と,本件補正発明の「永久的な色の状態で設けられた第1の層」とは,いずれも「領域」(他の領域と区別するため,以下,「第1の領域」と称する。)を形成している点では共通するものの,引用発明の「コード4」の領域は「層」を構成しているとはいえない点で,本件補正発明の「永久的な色の状態で設けられた第1の層」と相違する。

ウ 本件補正発明の構成D,Eと引用発明の構成dについて

引用発明のサーモクロミックインキは,所要温度以上に加熱することで変色するから,かかるサーモクロミックインキで印刷された領域における色の変化は,所要温度以上の温度を検知するセンサとして機能しており,その色の変化によってデジタル情報であるステルスコード5を現出させるものであるから,ステルスコード5が印刷された領域は,「センサディジタル情報」を含む「センサ色素モジュールパターン」が設けられたものであって,「色の状態を変化させるように構成された,化学作用を有するセンサ色素」を備えたものであるといえる。

ただし,引用発明のサーモクロミックインキは,所要温度以上の「温度」に応答して色の状態が変化するものであるから,その「色の状態の変化」の条件は「温度」であり,本件補正発明の「時間,温度,時間温度積,光,湿度,放射線および毒性からなるグループから選択された環境的条件,物理的条件または生物的条件の発生に応答して,センサ色素の色の状態を変化させる化学的または物理的な状態変化を受けることにより,色の状態を変化させるように構成される」ことは開示していない点で相違する。

また,引用発明の「ステルスコード5」が印刷された領域と,本件補正発明の「センサ色素モジュールパターンで設けられた第2の層」とは,いずれも「領域」(他の領域と区別するため,以下,「第2の領域」と称する。)を形成している点では共通するものの,引用発明の「ステルスコード5」の領域は「層」を構成しているとはいえない点で,本件補正発明の「センサ色素モジュールパターンで設けられた第2の層」と相違し,また,本件補正発明の「第2の層」が「選択的に前記第1の層を重ね印刷すること」により設けられているのに対し,引用発明のステルスコード5の領域は,コード4の領域を重ね印刷することにより設けられているかどうか不明な点で相違する。

エ 本件補正発明の構成Fと引用発明の構成eについて

引用発明は,「コード4のみのときに読み取られているバーコード情報に対して,コード4とステルスコード5とが組み合わされたときに読み取られるバーコード情報が異なるように構成されている」ものであるから,コード4のみの状態,及び,コード4とステルスコード5とが組み合わされた状態の両方において,バーコード情報の読み取りが可能となっている。したがって,コード4のバーコード情報は,ステルスコード5の色の状態が変更される前と後の両方において,QRコードとして所定の規則に従って読み取りが行われるものであるから,引用発明のコード4のバーコード情報は,「2次元バーコードの記号論内の可読バーコードシンボル」を形成するものであるといえる。そうすると,引用発明の「コード4」は,本件補正発明の構成Fにおいて,第1の層に提供される「複数のモジュールのサブセットは,前記複数のモジュールのサブセットの前記色の状態が変更される前と後の両方で読み取り可能な2次元バーコードの記号論内の可読バーコードシンボルを形成する」ものに該当するといえる。

したがって,引用発明の構成eと本件補正発明の構成Fとは,上記イで検討した相違点を除いて一致する。

オ 本件補正発明の構成Gと引用発明の構成fについて

引用発明の「バーコード所持体1」は,「2次元バーコード」を構成するものであって,通常読み取り可能なコード4と,加熱することで発色するステルスコード5とにより,加熱されていることを検知できる機能を有するから,「センサ付き2次元バーコード」に相当するということができる。

カ 一致点,相違点

したがって,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)

基板と,

前記基板上に設けられた2次元誤り訂正バーコードシンボルであって,正方形である複数のモジュールを備え,それぞれのモジュールは,第1の色の状態または第2の色の状態をとる,2次元誤り訂正バーコードシンボルと,

前記基板上に,永久的な色の状態で設けられた第1の領域であって,静的な色の状態を有する前記複数のモジュールのサブセットが前記第1の領域に提供される,第1の領域と,

前記基板上に,センサ色素モジュールパターンで設けられた第2の領域であって,前記センサ色素モジュールパターンはセンサディジタル情報を含み,前記第2の領域は,環境的条件の発生に応答して,センサ色素の色の状態を変化させる化学的な状態変化を受けることにより,前記複数のモジュールのサブセットの色の状態を変化させるように構成された,化学作用を有するセンサ色素をさらに備える,第2の領域と,を備え,

前記環境的条件は,温度であり,

前記第1の領域に提供される前記複数のモジュールのサブセットは,前記複数のモジュールのサブセットの前記色の状態が変更される前と後の両方で読み取り可能な2次元バーコードの記号論内の可読バーコードシンボルを形成する,

センサ付2次元バーコード。

(相違点1)

本件補正発明は,基板上に,永久的な色の状態で設けられた「第1の層」と,センサ色素モジュールパターンで設けられた「第2の層」を備えるのに対して,引用発明は,基材2の表面に,通常読み取り可能なコード4の領域と,加熱により現出するステルスコード5の領域とを備えるものの,それぞれが「層」をなしているとはいえない点。

(相違点2)

本件補正発明は,「選択的に第1の層を重ね印刷することにより」,「第2の層」を設けるのに対し,引用発明のステルスコード5の領域は,コード4の領域を重ね印刷することにより設けられているかどうか不明な点。

(相違点3)

本件補正発明の「第2の層」の「複数のモジュールのサブセット」は,「時間,温度,時間温度積,光,湿度,放射線および毒性からなるグループから選択され」た環境的条件,物理的条件または生物的条件の発生に応答して,センサ色素の色の状態を変化させる化学的または物理的な状態変化を受けることにより,色の状態を変化させるように構成された,化学作用を有するセンサ色素」を備えるのに対し,引用発明のステルスコード5は,所要温度以上に加熱することで可逆変色(発色)するサーモクロミックインキにより印刷されたものであり,「時間,温度,時間温度積,光,湿度,放射線および毒性からなるグループから選択され」た条件の発生に応答して色の状態を変化させるように構成されていない点。

(4)判断

上記相違点について検討する。

ア 相違点1及び2について

複数の異なるインクを用いて一の印刷媒体を形成するにあたり,個々のインクを順次重ねて印刷することは,例示するまでもなく広く知られた周知技術である。

そして,引用発明のバーコード所持体1を作成するにあたり,当該周知技術を採用し,基材の表面に,通常読み取りできるコード4を第1層として印刷した後,その上に,第2層としてサーモクロミックインクによるステルスコード5を選択的に重ねて印刷する手順とすることにより,上記相違点1及び2に係る本件補正発明の構成を得ることに,当業者が困難を要するものとはいえない。

イ 相違点3について

引用発明の「サーモクロミックインキ」は,所要温度以上に加熱することにより変化するものであり,本件補正発明において,第2層に使用される「化学作用を有するセンサ色素」を特定する事項のうち,「温度」という「環境的条件」の発生に応答して,「化学的」な状態変化を受けて,色の状態を変化させるように構成された「化学作用を有するセンサ色素」に該当する。

本件補正発明は,色の状態を変化させる条件が,「時間,温度,時間温度積,光,湿度,放射線および毒性からなるグループから選択され」たものとされているが,そのグループ中に「温度」が含まれる以上,引用発明の「サーモクロミックインキ」も,色の状態を変化させる条件は,「時間,温度,時間温度積,光,湿度,放射線および毒性からなるグループから選択され」たものにあたるから,上記相違点3は,実質的な相違点を構成しないといえる。

なお,光により色が変わるフォトクロミックインクのように,温度以外の他の条件により色が変わるインクも広く知られており,引用発明が採用したサーモクロミックインキに代えて,温度以外の諸条件により色が変わるインクを用いて,引用発明の課題である「バーコード所持体に付されているバーコード自体を必要に応じて変更できるようにすること」を実現することに,当業者が困難を要するものとは認められないから,引用発明のステルスコード5について,温度以外の諸条件を含んだ,「時間,温度,時間温度積,光,湿度,放射線および毒性からなるグループから選択され」た環境的条件,物理的条件または生物的条件の発生に応答して,センサ色素の色の状態を変化させる化学的または物理的な状態変化を受けることにより,色の状態を変化させるように構成された「化学作用を有するセンサ色素」を採用することに,当業者が格別の創作能力を要するものとはいえない。

ウ まとめ

上記のとおり,上記相違点1乃至3に係る構成は,当業者であれば容易に想到し得るものであり,本件補正発明に関する作用,効果も,引用文献1の記載ならびに周知技術に基づいて,当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,本件補正発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ 請求人の主張について

請求人は,引用文献1に記載されているのは,従来から誤り訂正が行われない1次元バーコードについて,熱せられると黒に変わるステルスコード5を用いてバーコード情報を変更することであって,温度等に応じて色を変化させる動的インクを印刷された動的モジュールを,誤り訂正コードを備える2次元バーコードに使用すると,エラーとして扱われ,無いものとして処理されるから,引用文献1に記載された発明のように,動的モジュールを,2次元バーコードに単純に追加することはできないとして,本件補正発明が進歩性を有する旨主張する。

しかしながら,上記(2)に示したとおり,引用文献1には,誤り訂正機能を備える2次元バーコードであるQRコードを使用することが開示されており,その場合には,加熱の前後でそれぞれ有効なコード情報を示すQRコードを構成するように,コード4とステルスコード5を配置することは,当業者が当然に行うことであり,引用文献1に開示された発明の課題である「バーコード所持体に付されているバーコード自体を必要に応じて変更できるようにすること」(【0005】)からみても,誤り訂正処理によって,加熱の前後で同じコード情報になってしまうような位置に,ステルスコードを設けることは,決して採り得ない態様であるといえる。したがって,引用文献1に記載された事項を把握するにあたり,そのような採り得ない態様を前提とする請求人の主張は,その前提からして誤りという他ないから,到底採用することはできない。

(5)本件補正についてのむすび

よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

令和3年5月12日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,令和2年9月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし38に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2の[理由]の1(2)に記載のとおりのものである。

2 引用文献,引用発明

原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項ならびに引用発明は,前記第2の[理由]の2(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は,前記第2の[理由]の2にて検討した本件補正発明から,「第1の層」についての限定事項である,「静的な色の状態を有する前記複数のモジュールのサブセットが前記第1の層に提供される」との事項,及び,「前記第1の層に提供される前記複数のモジュールのサブセットは,前記複数のモジュールのサブセットの前記色の状態が変更される前と後の両方で読み取り可能な2次元バーコードの記号論内の可読バーコードシンボルを形成する」との事項を削除したものである。

そうすると,本願発明の特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]の2(3)及び(4)に記載したとおり,引用発明ならびに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

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2021-006085

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