特許拒絶査定不服審判
2021-005285
成形体及び成形体の製造方法
- 審判番号
- 2021-005285
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-558650
- 請求日
- 2021年04月23日
- 審決日
- 2022年10月31日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】昭和電工マテリアルズ株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人太陽国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 加々美 一恵
- 審判官 石附 直弥
- 分類
- P18 .121-WZ (B29C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-558650「成形体及び成形体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 8月19日国際公開、WO2021/161586〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)10月15日(優先権主張 令和2年2月10日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年12月11日付け:拒絶理由通知書
令和3年 1月 8日 :意見書、手続補正書
令和3年 3月15日付け:拒絶査定
令和3年 4月23日 :審判請求書
令和4年 7月26日付け:拒絶理由通知書
令和4年 9月 5日 :意見書、手続補正書
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和4年9月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。(下線は、請求人が付したもので、補正箇所を示す。)
「樹脂とセルとを含み、
前記セルの平均径が0.03mm~0.13mmであり、
断面の単位面積あたりの前記セルの個数が20個/mm2以上であり、
前記セルの面積率が12%~24%である、自動車用部材として用いるための成形体。」
第3 拒絶の理由
令和4年7月26日付けの当審が通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である下記の引用文献1~4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
1.特開2003-039475号公報
2.特開2002-234046号公報
3.特開平8-268006号公報
4.特開2016-216601号公報
第4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定
1 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-234046号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。(なお、下線は合議体が付した。以下同様。)
【請求項1】空隙を殆ど有しないスキン層および発泡コア層からなる熱可塑性樹脂発泡成形体において、少なくとも発泡コア層中層部の厚み方向および平面方向それぞれの断面における気泡の短径(D1)と長径(D2)の比がD1:D2=1:1~2の範囲であり、かつスキン層の厚みが平均気泡径の2~5倍であることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体。
【請求項2】少なくとも発泡コア層中層部の厚み方向および平面方向の断面における平均気泡数がそれぞれ20~50個/mm2 であり、それぞれの断面における樹脂部の占める面積割合が40%以上である請求項1記載の熱可塑性樹脂発泡成形体。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱可塑性樹脂発泡成形体およびその製造方法に関する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このようなことから、本発明者は、耐衝撃性に優れ、しかも軽量かつ剛性にも優れた熱可塑性樹脂発泡成形体を開発すべく検討の結果、本発明に至った。
【0012】発泡コア層(2)中の気泡(3)は、多すぎると気泡が微少となり、また少なすぎると単一の気泡に応力集中を生じるため耐衝撃性の低下を来す。そのため気泡の数は、上記の各断面において20~50個/mm2程度であることが望ましい。ここで、気泡の数は、上記の各断面において気泡径の測定を行った気泡の数を0.5mm角当りの気泡数とし、この数を4倍した値を1mm2当りの数として用いる。
【0013】また、上記の各断面において、発泡コア層(2)中の樹脂部(4)の占める面積割合は40%以上であることが望ましい。樹脂部(4)の占める割合が少なすぎると気泡間に存在する樹脂壁が薄くなり衝撃強度の低下を来す。樹脂部の占める割合の上限は特に限定されないが、軽量性の面から60%程度であることが望ましい。
【0014】発泡コア層(2)の樹脂部(4)の占める面積割合は、次の計算により求める。すなわち、上記の各断面において測定を行った気泡径(D1、D2)から単一気泡径(D3=(D1+D2)/2)を概算し、測定を行った気泡全ての単一気泡径の平均値を取り、平均気泡径(D)とする。この平均気泡径(D)を用いて算出した円形の面積(A3)を気泡1個あたりの面積とし、この円形の面積(A3)に上記の1mm2当りの気泡数を掛けた面積(A)mm2を空隙部の面積とし、樹脂部の占める面積割合を(1?A)×100(%)の式より求める。
【0020】発泡成形体の厚みは用途により適宜選択されるが、例えば、自動車内装用のトリム材として用いる場合は、2~5mm、望ましくは3mm~4mm程度である。また、パッケージトレーやスピーカーボードといった高い曲げ剛性を必要とする用途には5~15mm、望ましくは8~12mm程度である。
【0021】発泡成形体の単位面積当たりの質量は、軽ければ軽いほど好ましいが、自動車トリム用途には1000~3000g/m2、望ましくは1500~2500g/m2程度である。また、高い曲げ剛性を必要とする用途には3000~5000g/m2程度である。
【0022】本発明の熱可塑性樹脂発泡成形体は、成形体全体が前記したようなスキン層および発泡コア層からなる必要はなく、成形体としての主要部分が前記したようなスキン層および発泡コア層からなる部分で構成されておればよく、また、成形体の使用目的によってはこのような発泡部分あるいは非発泡部分には、例えば自動車内装材としてドアトリム、インパネなどとして使用される場合には、スピーカーグリル(18)やドア開閉レバー取付け部、ドアポケット、エアー吹き出し口などの開口孔(17)などが設けられていてもよい。(図12)更には、同一材料あるいは金属や木材等の異種材料からなる別部品が一体的に取り付けられていてもよい。
(2)引用発明
上記(1)より、引用文献2には下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、引用発明の認定の根拠となった箇所をかっこ内に示した。
(引用発明)
少なくとも発泡コア層中層部の厚み方向および平面方向の断面における平均気泡数がそれぞれ20~50個/mm2 であり、(【請求項2】)
上記断面は樹脂部と空隙部とからなり、(【0013】【0014】)
自動車内装材として使用される、(【0021】~【0022】)
熱可塑性樹脂発泡成形体。(【請求項2】)
(ここで、発泡コア層の樹脂部の占める面積割合は、次の計算により求める。すなわち、上記の各断面において測定を行った気泡径から単一気泡径を概算し、測定を行った気泡全ての単一気泡径の平均値を取り、平均気泡径(D)とする。この平均気泡径(D)を用いて算出した円形の面積(A3)を気泡1個あたりの面積とし、この円形の面積(A3)に上記の1mm2当りの気泡数を掛けた面積(A)mm2を空隙部の面積とし、樹脂部の占める面積割合を(1-A)×100(%)の式より求める。)(【0014】)
2 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-039475号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、軽量であり、剛性が高く、その上衝撃に対して充分な強度を有する、廉価な車両用部材およびその製造方法を提供することを主な目的としている。
【0017】さらに、本発明における架橋重合体成形物は、反応射出成形(RIM成形)で製造されるジシクロペンタジエンやトリシクロペンタジエンを代表例とするメタセシス重合性環状オレフィンの架橋重合体中に比較的均一で微細な気泡を多数含有するものである。これにより、軽量化、肉厚化、高剛性化を達成したことを最大の特徴とするものである。該気泡の平均サイズは100μm直径より小さい必要がある。100μmより大きいと脆くなり車両用部材としての強度が低下する。1μmより小さい気泡は一般に作製が困難であり、また気泡を含有することによる効果が小さい。本発明では、該架橋重合体成形物の比重が0.55~0.95の範囲である。比重が0.55より小さい場合は該重合体に比較的大きい気泡(空洞)が多いか、小さい気泡が繋がった状態となり強度や耐衝撃性が劣化する。比重が0.95より大きい場合は本発明の目的である該重合体の軽量化に効果がない。本発明は、微細な気泡を架橋重合体(成形物中)に生成せしめる事により軽量化を達成すると同時に、該気泡が重合体中の不可避的に存在する欠陥と同じサイズかまたは小さい時には材料の持つ本来の機械的強度を大きくは低下させない、という現象を利用し、これを軽量化と大きい曲げ剛性が要求される車両用部材に適用したものである。故に、上述のように、本発明の気泡のサイズは100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である必要がある。また、本発明の気泡は大多数(おおよそ70%以上)が独立した気泡であり、互いに連通し連続気泡を実質的に形成していないことが好ましい。連続した気泡が多いと、衝撃に対して十分な強度を有さない場合がある。
3 引用文献3
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-268006号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
【0007】以下、本発明について更に詳しく説明する。本発明の第一の態様に従えば、気泡占有面積率が20%以上、好ましくは20~100%で厚さが0.1~2mm、好ましくは1~2mmの発泡ゴムの薄層から成る防音シートを空気入りタイヤのキャップトレッド面の少なくとも溝部に設ける。ここで気泡占有面積率とは発泡ゴムの単位面積当りに占める気泡の面積比率を意味する。
4 引用文献4
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2016-216601号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
【0044】
また、本発明の発泡成形体は、発泡成形体の断面における気泡15の割合(以下「気泡割合」ともいう。)が10面積%以上35面積%以下であることが好ましい。気泡の割合が過小である場合には、十分に軽量化を図ることが困難となる。一方、気泡の割合が過大である場合には、剛性の高い島相による気泡の形状の保持効果を十分に得られず、発泡成形体の剛性が低下するおそれがある。
【0045】
発泡成形体における気泡割合は、発泡成形体を切断し、その断面をレーザー顕微鏡「VK9510」(キーエンス社製)によって得られた画像における気泡15について、画像内の気泡15の全面積を測定し、画像の全面積に対する気泡の面積の割合として算出されるものである。
【0068】
【表1】
[図:0001392522000001.jpg]
第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「熱可塑性樹脂」は、本願発明の「樹脂」に相当する。
引用発明の「発泡」「気泡」「空隙部」は、いずれも本願発明の「セル」に相当する。
引用発明の「発泡コア層中層部の厚み方向および平面方向の断面における平均気泡数がそれぞれ20~50個/mm2」であることは、本願発明の「断面の単位面積あたりの前記セルの個数が20個/mm2以上」であることに相当する。
引用発明の「自動車内装材として使用される」は、本願発明の「自動車用部材として用いる」に相当する。
引用発明の「熱可塑性樹脂発泡成形体」は、本願発明の「成形体」に相当する。
とすると、本願発明と引用発明は以下の点で一致し、また相違する。
(一致点)
樹脂とセルとを含み、
断面の単位面積あたりの前記セルの個数が20個/mm2以上である、
自動車用部材として用いるための成形体。
(相違点1)
本願発明では、セルの平均径が0.03mm~0.13mmであるのに対し、引用発明では、セルの平均径について不明である点。
(相違点2)
セルの占める割合について、本願発明では、「観察領域におけるすべてのセルの合計面積÷観察領域の面積×100%」で計算されるセルの面積率が12%~24%であるのに対し、引用発明では、「各断面において測定を行った気泡径から単一気泡径を概算し、測定を行った気泡全ての単一気泡径の平均値を取り、平均気泡径(D)とする。この平均気泡径(D)を用いて算出した円形の面積(A3)を気泡1個あたりの面積とし、この円形の面積(A3)に上記の1mm2当りの気泡数を掛けた面積(A)mm2を空隙部の面積とし、樹脂部の占める面積割合を(1-A)×100(%)の式より求める」方法で得られた樹脂部の占める面積割合については示されているものの、セルの面積率は不明である点。
第6 判断
1 相違点1について
引用発明は、【0004】に「本発明者は、耐衝撃性に優れ、しかも軽量かつ剛性にも優れた熱可塑性樹脂発泡成形体を開発すべく検討の結果、本発明に至った。」と記載されているとおり、耐衝撃性に優れしかも軽量かつ剛性にも優れた熱可塑性樹脂発泡成形体を開発することを課題とするものである。軽量化と機械的強度の両立は、自動車内装材等に用いられる樹脂発泡成形体の分野で望まれる課題であって、引用文献1には、「軽量であり、剛性が高く、その上衝撃に対して充分な強度を有する、廉価な車両用部材」(【0004】)を提供するという課題を解決するべく、「メタセシス重合性環状オレフィンの架橋重合体中に比較的均一で微細な気泡を多数含有するものである。これにより、軽量化、肉厚化、高剛性化を達成したことを最大の特徴とするものである。該気泡の平均サイズは100μm直径より小さい必要がある。100μmより大きいと脆くなり車両用部材としての強度が低下する。1μmより小さい気泡は一般に作製が困難であり、また気泡を含有することによる効果が小さい。」(【0017】)旨、すなわち、樹脂とセルからなる成形物において、軽量化、肉厚化、高剛性化を達成するために、セルの径について最適化することが記載されている。また、引用文献1には、「本発明は、微細な気泡を架橋重合体(成形物中)に生成せしめる事により軽量化を達成すると同時に、該気泡が重合体中の不可避的に存在する欠陥と同じサイズかまたは小さい時には材料の持つ本来の機械的強度を大きくは低下させない、という現象を利用し、これを軽量化と大きい曲げ剛性が要求される車両用部材に適用したものである。故に、上述のように、本発明の気泡のサイズは100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である必要がある。」(【0017】)旨、すわなち、軽量化や所望の曲げ剛性を実現するためにセルの径について最適化することが記載されている。
してみれば、引用発明において、自動車用内装材等の車両用部材における、軽量化と所望の機械的強度を実現するために、引用文献1に記載された1μm~100μm、すなわち、0.01mm~0.10mm程度のセル平均径の近傍で、実験的に最適化し、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。
2 相違点2について
引用文献2の【0013】には、熱可塑性樹脂発泡成形体の断面における樹脂部の占める面積割合は、樹脂部の占める割合が少なすぎると気泡間に存在する樹脂壁が薄くなり衝撃強度の低下を来すことから、40%以上であることが望ましいこと、及び、樹脂部の占める割合の上限は特に限定されないものの、軽量性の面から60%程度であることが望ましいことが記載されている。
ここで、上記樹脂部の占める面積割合につき、引用文献2の【0014】には「面積(A)mm2を空隙部の面積とし、樹脂部の占める面積割合を(1-A)×100(%)の式より求める。」と記載され、当該記載から、空隙部と樹脂部を足し合わせると100%となること、すなわち熱可塑性樹脂発泡成形体の断面は、樹脂部と空隙部の2つで成り立っていることが読み取れるのであるから、引用文献2における、熱可塑性樹脂発泡成形体の断面における樹脂部の占める面積割合が40%以上であることが望ましく、上限は60%程度であることが望ましい旨の記載は、空隙部の占める面積割合に換言すると、下限は40%程度であることが望ましく、上限は60%以下であることが望ましい、ということになって、本願発明におけるセルの面積率の数値範囲と相違する。
しかしながら、引用発明においては、引用文献2の【0021】には、成形体の単位体積あたりの質量は軽ければ軽いほど好ましい一方、高い曲げ剛性を必要とする用途の場合はより重いものが必要とされることが記載されており、かかる記載から、上述の好適な空隙部の占める面積割合は、あくまで例示であって、単位体積あたりの質量は、成形体が適用される用途おいて求められる軽量化と機械的強度の程度に応じて最適化すべきものであることが読み取れる。なお、引用文献2の【0021】には「発泡成形体の単位面積当たりの質量は、軽ければ軽いほど好ましい」との記載があるが、面積には体積と異なり質量の概念がないため、「単位面積あたりの質量」を観念することはできないので、当記載は「発泡成形体の単位体積当たりの質量は、軽ければ軽いほど好ましい」の明らかな誤記であると認める。
加えて、引用文献2の【0013】には上記したとおり、「断面において・・・樹脂部(4)の占める割合が少なすぎると気泡間に存在する樹脂壁が薄くなり衝撃強度の低下を来す。」旨、すなわち、断面における樹脂部の占める割合を調整することで成形体の衝撃強度を調整することが記載されている。そうすると、断面におけるセルの占める割合を変えることは単位体積当たりの質量を変えることに他ならないから、当該記載からも、セルの断面における面積率は、当業者が成形体を適用する用途において求められる機械的強度に応じて適宜好適なものを選択できるものであるといえる。
そして、「自動車用部材」は、本願明細書の【0028】に「自動車の内外装部材」と記載されるように、引用文献2に具体的に記載された内装用途に限らず、外装用途等、さまざまな適用対象を包含し、また、内装用途に限ってみても、適用部材によって、求められる軽量化、機械的強度の程度もさまざまであることは、当業者の技術常識に照らし明らかである。
そして、自動車用部材として用いるための成形体の用途に応じて衝撃強度を高いものにしたり曲げ剛性等の機械的強度を高いものにしたりする場合、本願の【0021】に記載されているような「観察領域におけるすべてのセルの合計面積÷観察領域の面積×100%」で計算されるセルの面積率での12%~24%は、ごく普通に実現されている範囲であって、引用文献3【0007】、引用文献4【0044】【0045】【0068】【表1】等には、それぞれ、セルの面積率を40%を下回った範囲であっても、所望の剛性を確保し得ることが示されている。
そうすると、引用発明において、引用文献2の記載から、セルの面積率を最適化する際に、自動車用部材として用いるための成型体の適用用途に応じて、より衝撃強度を高いものにしたり曲げ剛性を高いものを得る、という機械的強度を達成するために、引用文献3~4に示されるような面積率を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
3 本願発明の効果について
本願発明の効果について、本願発明の構成に基づき当業者が予想できる範囲を超えるものではなく、格別なものとは認められない。すなわち、実施例を参酌するに、実施例1としてセル平均径が0.08mmのものと比較例1として0.15mmのものが挙げられているにとどまり、特に下限については何らの比較例も存在せず、下限を0.03mmとしたことによる格別の効果は見いだせない。また、セルの面積率については、実施例1、比較例1ともに12%~24%の範囲内にあり、当該範囲にしたことによる効果上の臨界的意義も認められない。
この点、審判請求人は、引用発明ではセルの面積率について面積率の算定方法が本願発明と異なる状況下で「下限は40%程度であることが望ましく、上限は60%以下である」とあり、本願発明の12%~24%から外れていることから、引用発明の下限をさらに下回るセル面積率とすることは、当業者といえども容易に想到し得たものではなく、本願発明は、引用例から予測し難い格別な効果を奏するものである旨主張するが、本願発明においては、そもそも、成型体の用途について、自動車用部材として用いるためとしか特定されておらず、自動車用部材にはさまざまな部材が想定され、求められる軽量化や機械的強度の程度もさまざまであることは上記2で述べたとおりである。本願発明におけるセルの粒径、個数及び面積率を所定の範囲とすることによって、自動車用部材として用いるためとしか用途の特定のない本願発明全体にわたって格別な効果を奏するものであるとすることはできないので、審判請求人の主張は採用できない。
4 小括
以上1~3より、本願発明は、引用発明および引用文献1~4に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 審判請求書および令和4年9月5日付け意見書における請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書で以下の主張1~3をし、令和4年9月5日付け意見書で以下の主張4、5の主張をしている。
1 引用文献1の実施例2に記載されている車両用部材が本願の請求項1に規定するセルの面積率を満たす蓋然性が高いとすることはできない。
2 引用文献2では発泡コア層の占める割合が60%未満であることが望ましく、軽量性の面からセルの占める割合が40%程度であることが望ましいことを教示するものであり、本願の請求項1に規定するセルの面積率の範囲が意図されていない。
3 引用文献2の【0014】に記載されている樹脂部の占める面積割合の計算式は、本願で規定するような実際のセルの面積の合計値から計算されるセルの面積率とは異なる。
4 相違点1に関し、引用文献2に記載された気泡の平均径を引用文献1に記載された範囲とすると、発泡層に占める樹脂部の面積割合が60%を超えることになり、樹脂部の占める割合の上限は「軽量性の面から60%程度であることが望ましい」という記載と矛盾し、阻害要因がある。
5 相違点2に関し、引用文献2では、熱可塑性樹脂発泡成形体の外観について何ら言及されておらず、引用文献2において軽量化の観点から望ましいとされているセルの面積率 (40%程度以上)を、軽量化の効果を損なってでも12%~24%の範囲内に敢えて変更する動機付けがない。
1については、当審決では、引用文献2に基づき引用発明を認定して進歩性欠如をいうものであり、引用文献1の実施例2に基づき新規性欠如をいうものではないので、請求人の主張は採用できない。
2、4については、上記第6 2で述べたとおり、セルの面積率は当業者が自動車用部材の成形体の適用用途に応じて適宜好適なものを選択できるものであって、自動車用部材の適用用途によっては軽量性よりも衝撃強度をより強いものにする等が十分に想定できる。そして、引用文献2に樹脂部の占める割合の上限はあくまで例示であって、「樹脂部の占める割合の上限は特に限定されないが、軽量性の面から60%程度であることが望ましい」(下線は当審が引いた。)と記載されているのであるから、かえって、適用用途に応じ、軽量性の面よりも、機械的強度等他の面を考慮するならば、60%程度との上限に限られるのものではないことを示すものである、したがって、引用発明において引用文献1の記載の技術的事項を採用した結果に矛盾が生じることにはならず、また、適用する際の阻害要因とはならない。なお、令和4年9月5日付け意見書で審判請求人が主張しているように、引用発明の平均径を引用文献1に記載された0.01mm~0.10mmとし気泡の数を20~50個/mm2 としたときの樹脂部の占める面積割合が60.8%~99.8%(セルの面積率にすると0.02%~39.2%)となることは、すなわち、引用発明に引用文献1を組み合わせることで、本願発明のセル面積率12%~24%が達成されることを示している点を付記しておく。
3については、上記第6 2で検討したとおりである。
5については、確かに、本願発明においては、軽量化と外観向上の両立を課題とするものであって、その実施例1においては、成形体の表面に凹み(アバタ)はほとんど観察されなかったことが示されている。しかしながら、本願の実施例1も、引用発明も、引用文献1に記載の技術も、いずれも、スキン層/発砲層/スキン層の3層により構成されるものであって、スキン層の厚み等によって、表面の凹みの生成のしやすさが異なることは当業者の技術常識に照らし明らかであることから、セルの平均径、個数、及び面積率を本願発明の所定の範囲としさえすれば、スキン層の厚み等によらずアバタが観察されなくなるとは直ちにはいえないし、引用文献2が成型体を自動車内装材として使用することを念頭に置いており、【0022】には搭乗者の目につくドアトリムやインパネが例示されていることから、当然に成型体の外観には配慮がされていると考えるのが自然である。そして、セルの面積率は当業者が自動車用部材の成形体の適用用途に応じて適宜好適なものを選択できるものであり、より強く求められる機能を重視するために、その他の機能を許容範囲内で必要に応じて妥協することは、当業者が当然に考慮している事項であることは、上記第6 2で述べたとおりである。
第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-005285