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特許拒絶査定不服審判

2021-000069

RNA誘導性ヒトゲノム改変

審判番号
2021-000069
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-230081
請求日
2021年01月04日
審決日
2023年02月14日
公報発行日
2023年07月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
  • 【請求人代理人】加藤 和詳
審判長/審判官
  • 審判長 長井 啓子
  • 審判官 飯室 里美
  • 審判官 福井 悟
分類
P18 .161-WZ (C12N) / P18 .537-WZ (C12N) / P18 .55 -WZ (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条の2
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条の2
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-230081「RNA誘導性ヒトゲノム改変」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月23日出願公開、特開2019- 76097〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)12月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年12月17日 米国、2013年3月13日 米国)を国際出願日とする特願2015-549528号の一部を平成30年12月7日に新たな特許出願としたものであって、令和2年8月21日付けで拒絶査定がなされ、令和3年1月4日に拒絶査定不服審判が請求され、令和4年5月19日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年11月18日に意見書および手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1~17に係る発明は、令和4年11月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~17に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 ガイドRNA又はガイドRNAをコードする核酸を真核細胞にトランスフェクトすること、および 前記ガイドRNAと相互作用するCas9タンパク質又は該Cas9タンパク質をコードする核酸を前記真核細胞にトランスフェクトすること を含み、 前記ガイドRNAが前記真核細胞のゲノム上の標的核酸に結合し、 前記ガイドRNAが、GN19スペーサーと前記スペーサーと連結された足場を含み、ここで、前記スペーサーは前記標的核酸に相補的であり、 前記足場が以下の核酸 GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGC(配列番号:45) を含む、真核細胞をインビトロ又はエクスビボで改変する方法。」 第3 当審における拒絶の理由 令和4年5月19付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由3の概要は、この出願の請求項1~17に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の特許出願(先願1)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない、というものである。 先願1:PCT/US2013/074819号(国際公開第2014/093712号、特表2016-504026号公報) 第4 当審の判断 1 先願1明細書等及び第1優先権明細書等の記載事項 当審の拒絶の理由に先願1として引用された、本願の優先日前の他の特許出願であって、本願の出願後に国際公開されたPCT/US2013/074819号(国際公開第2014/093712号、特表2016-504026号公報)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願1明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。 なお、先願1明細書等は、英文であるから、訳文として先願1の国内公表公報である特表2016-504026号公報の記載事項及び摘記箇所を示す(下線は当審で付した)。また、これらの事項と同様の事項は先願1の第1優先権明細書等にも記載されているから、その箇所を括弧内に記載した。 ア「【0010】 用語「調節エレメント」は、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、および他の発現制御エレメント(例えば、転写終結シグナル、例えば、ポリアデニル化シグナルおよびポリU配列)を含むものとする。・・・一部の実施形態において、ベクターは、1つ以上のpolIIIプロモーター(例えば、1、2、3、4、5つ、またはそれよりも多いpolIIIプロモーター)、1つ以上のpolIIプロモーター(例えば、1、2、3、4、5つ、またはそれよりも多いpolIIプロモーター)、1つ以上のpolIプロモーター(例えば、1、2、3、4、5つ、またはそれよりも多いpolIプロモーター)、またはそれらの組合せを含む。polIIIプロモーターの例としては、限定されるものではないが、U6およびH1プロモーターが挙げられる。・・・」([0048]) イ「【0016】 一態様において、本発明は、真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを改変する方法を提供する。一部の実施形態において、方法は、CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ、それにより標的ポリヌクレオチドを改変することを含み、CRISPR複合体は、前記標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している。一部の実施形態において、前記開裂は、前記CRISPR酵素により標的配列の局在における1つまたは2つの鎖を開裂することを含む。・・・一部の実施形態において、方法は、1つ以上のベクターを前記真核細胞に送達することをさらに含み、1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列の1つ以上の発現をドライブする。一部の実施形態において、前記ベクターを対象中の真核細胞中に送達する。一部の実施形態において、前記 改変を、細胞培養物中の前記真核細胞中で行う。一部の実施形態において、方法は、前記改変前に前記真核細胞を対象から単離することをさらに含む。一部の実施形態において、方法は、前記真核細胞および/またはそれに由来する細胞を前記対象に戻すことをさらに含む。」([0011]) ウ「【0074】 ガイド配列は、任意の標的配列をターゲティングするように選択することができる。一部の実施形態において、標的配列は、細胞のゲノム内の配列である。例示的な標的配列としては、標的ゲノム中でユニークなものが挙げられる。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9について、ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMNNNNNNNNNNNNXGGのCas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNNXGG(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれでもよい)は、ゲノム中の単一発生を有する。・・・これらの配列のそれぞれにおいて、「M」は、A、G、T、またはCであり得、配列をユニークと同定するにあたり考慮する必要はない。」([0065]) エ「【0076】 ・・・一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。ヘアピン構造において使用される好ましいループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは、配列GAAAを有する。・・・このようなヘアピン構造の例示的説明を、図13Bの下方位置に提供し、最後の「N」およびループの上流の5’側の配列の部分は、tracrメイト配列に対応し、ループの3’側の配列の部分は、tracr配列に対応する。ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチドのさらなる非限定的な例は、以下のとおりであり(5’から3’に列記)、「N」は、ガイド配列の塩基を表し、第1の小文字のブロックは、tracrメイト配列を表し、第2の小文字のブロックは、tracr配列を表し、最後のポリT配列は、転写ターミネーターを表す: 【化1】 [図:0001398607000001.jpg] ・・・一部の実施形態において、配列(1)から(3)は、S.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR1からのCas9との組合せで使用される。一部の実施形態において、配列(4)から(6)は、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からのCas9との組合せで使用される。・・・」([0067]) オ「【0146】 哺乳動物細胞中のCRISPR成分の発現を改善するため、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes(S.pyogenes))SF370遺伝子座1からの2つの遺伝子Cas9(SpCas9)およびRNアーゼIII(SpRNアーゼIII)をコドン最適化した。核局在化を促進するため、核局在化シグナル(NLS)をSpCas9およびSpRNアーゼIIIの両方のアミノ(N)またはカルボキシル(C)末端に含めた(図2B)。・・・」([0170]) カ「【0152】 3成分系をさらに簡略化するため、ステム-ループを介して成熟crRNA(ガイド配列を含む)を部分tracrRNAに融合させて天然crRNA:tracrRNA二本鎖を模倣するキメラcrRNA-tracrRNAハイブリッド設計を適応させた(図3A)。」([00176]1行~3行、先願1の第1優先権明細書等では、図3は図2として記載されている。) キ「【0153】 ・・・センスおよびアンチセンス鎖上のプロトスペーサーを、それぞれDNA配列の上方および下方に示す。ヒトPVALBおよびマウスTh遺伝子座についてそれぞれ6.3%および0.75%の改変比率が達成され、このことは複数の生物にわたる異なる遺伝子座の改変におけるCRISPR系の幅広い適用可能性を実証した。開裂はキメラ構築物を使用してそれぞれの遺伝子座について3つのスペーサーのうち1つについてのみ検出された一方、同時発現されるプレcrRNA配置を使用した場合、全ての標的配列が27%に達するインデル生成の効率で開裂された(図4(当審注:図3の誤記と解した。)および5(当審注:図5は、上記事実が示されている図とは認められず、対応する図が不明である。)。」([00177]7行~12行、先願1の第1優先権明細書等では、図3は図2として記載されている。) ク「【0154】 図5(当審注:図8の誤記と解した。)は、SpCas9をリプログラミングして哺乳動物細胞中の複数のゲノム遺伝子座をターゲティングすることができることのさらなる説明を提供する。図5A(当審注:図8Aの誤記と解した。)は、下線付き配列により示される5つのプロトスペーサーの局在を示すヒトEMX1遺伝子座の模式図を提供する。図5B(当審注:図8Bの誤記と解した。)は、プレcrRNAおよびtracrRNAのダイレクトリピート領域間のハイブリダイゼーションを示すプレcrRNA/trcrRNA複合体の模式図(上図)および20bpのガイド配列、ならびにヘアピン構造にハイブリダイズしている部分ダイレクトリピートおよびtracrRNA配列からなるtracrメイトおよびtracr配列を含むキメラRNA設計の模式図(下図)を提供する。ヒトEMX1遺伝子座中の5つのプロトスペーサーにおけるCas9媒介開裂の効力を比較するSurveyorアッセイの結果を、図5C(当審注:図8Cの誤記と解した。)に説明する。プロセシングされたプレcrRNA/tracrRNA複合体(crRNA)またはキメラRNA(chiRNA)のいずれかを使用してそれぞれのプロトスペーサーをターゲティングする。」([00178]、先願1の第1優先権明細書等では、図8は図12として記載されている。) ケ「【0155】 ・・・分析により、ほとんどの場合、キメラcrRNAコンテクスト中の有効なガイド配列は二次構造モチーフを実質的に含まない一方、無効なガイド配列は標的プロトスペーサーDNAとの塩基対形成を妨害し得る内部二次構造を形成する可能性がより高いことが明らかになった。したがって、スペーサー二次構造の変動性は、キメラcrRNAを使用する場合にCRISPR媒介干渉の効率に影響し得ることが考えられる。」([00179]) コ「【0156】 図3は、例示的発現ベクターを説明する。図3Aは、合成crRNA-tracrRNAキメラ(キメラRNA)およびSpCas9の発現をドライブするためのバイシストロニックベクターの模式図を提供する。キメラガイドRNAは、ゲノム標的部位中のプロトスペーサーに対応する20bpのガイド配列を含有する。図3Bは、ヒトEMX1、PVALB、およびマウスTh遺伝子座をターゲティングするガイド配列、ならびにそれらの予測二次構造を示す模式図を提供する。それぞれの標的部位における改変効率をRNA二次構造図の下方に示す(EMX1、n=216アンプリコンシーケンシングリード;PVALB、n=224リード;Th、n=265リード)。フォールディングアルゴリズムは、図3Bにグレースケールで再現されるレインボースケールにより示されるとおり、それぞれの塩基が予測二次構造を仮定するその確率に従って着色されたアウトプットを生じさせた。SpCas9のためのさらなるベクター設計が図3Aに示され、ガイドオリゴのための挿入部位に結合しているU6プロモーター、およびSpCas9コード配列に結合しているCbhプロモーターを取り込む単一発現ベクターが含まれる。」([00180]、先願1の第1優先権明細書等では、図3は図2として記載されている。) サ「【0158】 ・・・さらに、CRISPRは、同一EMX1プロトスペーサーをターゲティングするTALEヌクレアーゼ(TALEN)のペアと同程度に効率的にゲノム開裂を媒介し得る。図4Cは、EMX1をターゲティングするTALENの設計を示す模式図を提供し、図4Dは、TALENおよびCas9の効率を比較するSurveyorゲルを示す(n=3)。」([00182]、先願1の第1優先権明細書等では、図4C、図4Dは、それぞれ、図3C、図3Dとして記載されている。) シ「【0159】 ・・・さらに、SpCas9のRuvC I触媒ドメイン中のアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)をエンジニアリングしてヌクレアーゼをニッカーゼに変換し(SpCas9n;図5Aに説明)・・・。Surveyorアッセイにより、SpCas9nはEMX1プロトスペーサー標的におけるインデルを生成しないことを確認した。図5Bに説明されるとおり、EMX1ターゲティングキメラcrRNAとSpCas9との同時発現は標的部位中のインデルを生じさせた一方、SpCas9nとの同時発現は生じさせなかった(n=3)。」([00183]、先願の第1優先権明細書等では、図5Bは、図4Bとして記載されている。) ス「【0161】 ・・・他のCRISPR遺伝子座を、実施例1に記載のものと同様の方法により哺乳動物細胞環境中に移植することができる。それぞれの標的部位における改変効率をRNA二次構造の下方に示す。この構造を生成するアルゴリズムは、それぞれの塩基を予測二次構造を仮定するその確率に従って着色する。RNAガイドスペーサー1および2は、それぞれ14%および6.4%を誘導した。これらの2つのプロトスペーサー部位における生物学的複製物にわたる開裂活性の統計的分析も図7に提供する。」([00185]、先願の第1優先権明細書等では、図7は、図11として記載されている。) セ「【0162】 実施例3:試料標的配列選択アルゴリズム 規定のCRISPR酵素についての所望のガイド配列長およびCRISPRモチーフ配列(PAM)に基づきインプットDNA配列の両方の鎖上の候補CRISPR標的配列を同定するためのソフトウェアプログラムを設計する。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からのCas9についての標的部位は、PAM配列NGGを用いて、インプット配列およびインプットの逆相補鎖の両方の上の5’-Nx-NGG-3’を探索することにより同定することができる。・・・Nx中の値「x」は、プログラムにより固定し、または使用者により規定することができ、例えば、20である。」([00186]) ソ「【図3】 [図:0001398607000002.jpg] 」([図2]) タ「【図4C】 [図:0001398607000003.jpg] 【図4D】 [図:0001398607000004.jpg] 」([図3C]、[図3D]) チ「【図5B】 [図:0001398607000005.jpg] 」([図4B]) ツ「【図7B】 [図:0001398607000006.jpg] 【図7D】 [図:0001398607000007.jpg] 」([図11B]、[図11D]) テ「【図8】 [図:0001398607000008.jpg] 」([図12]) 2 引用発明1の認定 先願1明細書等の【課題を解決するための手段】の項には、「真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを改変する方法」が記載されており、当該方法が、「1つ以上のベクターを前記真核細胞に送達することをさらに含み、1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列の1つ以上の発現をドライブする」こと(上記イ)が記載されている。また、「前記改変を、細胞培養物中の前記真核細胞中で行う。・・・前記改変前に前記真核細胞を対象から単離することをさらに含む。」と記載されていることから(上記イ)、前記改変は、インビトロ又はエクスビボで行われるものであると認められる。そして、それに引き続き、【発明を実施するための形態】の項には、より具体的な構成として、ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチドとすることが記載され(上記エ)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からのCas9との組合せで使用される単一ポリヌクレオチドとして、配列(4)~(6)が具体的に例示され、 そのうちの1つである「(4)」には、「NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNgttttagagctaGAAAtagcaagttaaaataaggctagtccgttatcaacttgaaaaagtggcaccgagtcggtgcTTTTTT」が記載されている(上記エ)。 したがって、先願1明細書等とその第1優先権明細書等の双方に共通して、次のとおりの発明が記載されていると認められる。 「Cas9酵素、並びに、 ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチドNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNgttttagagctaGAAAtagcaagttaaaataaggctagtccgttatc aacttgaaaaagtggcaccgagtcggtgcTTTTTTの発現をドライブするベクターを前記真核細胞に送達することを含む、真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを、インビトロまたはエクビボで改変する方法。」(「以下、「引用発明1」という。) 3 対比及び判断 ここで、上記エの記載からみて、(4)の配列のうち、「NNNNNNNNNNNNNNNNNNNN」からなる「ガイド配列」は、本願発明の「スペーサー」に相当し、両者は20塩基長のスペーサーである限りで共通する。(4)のガイド配列以外のtracrメイト配列、およびtracr配列を含む部分は、本願発明の配列番号:45を含む「足場」に相当する。その具体的配列は、本願発明の配列番号:45が大文字であるのに対し、(4)の配列は大文字及び小文字を含むものであるが、これらは単に表記上の差異にすぎない。また、本願発明の配列番号:45では塩基Uが用いられているところ、(4)の対応する塩基はt(またはT)であるが、前者はRNAの配列、後者はそれをコードするDNAの配列として記載されていることによる差異にすぎないものである。 さらに、引用発明1の「ガイド配列」は、上記イ、ウの記載からみて、真核細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、標的配列である細胞のゲノム内の配列にハイブリダイズするものである。したがって、そのような「ガイド配列」を含む引用発明1の「ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチド」は、本願発明の「真核細胞のゲノム上の標的核酸に結合」する「ガイドRNA」に相当する。 そして、引用発明1の「Cas9酵素」および「ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチド」「の発現をドライブするベクターを前記真核細胞に送達すること」は、本願発明の「Cas9タンパク質をコードする核酸を前記真核細胞にトランスフェクトすること」、及び、「ガイドRNAをコードする核酸を真核細胞にトランスフェクトすること」に相当する。 してみると、本願発明と引用発明1とは、 「ガイドRNAをコードする核酸を真核細胞にトランスフェクトすること、および 前記ガイドRNAと相互作用するCas9タンパク質をコードする核酸を前記真核細胞にトランスフェクトすること を含み、 前記ガイドRNAが前記真核細胞のゲノム上の標的核酸に結合し、 前記ガイドRNAが、20塩基長スペーサーと前記スペーサーと連結された足場を含み、ここで、前記スペーサーは前記標的核酸に相補的であり、 前記足場が以下の核酸 GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGC(配列番号:45) を含む、真核細胞をインビトロ又はエクスビボで改変する方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違している。 <一応の相違点> 本願発明の20塩基長スペーサーが「GN19」に限定されているのに対して、引用発明1では「NNNNNNNNNNNNNNNNNNNN」、すなわちN20である点。 <一応の相違点>について 先願1明細書等において、上記イに記載されているとおり、「ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチド」は、その発現がベクターによってドライブされている。 ここで、ベクターとは、一般的に、プロモーターを用いて遺伝子の発現をドライブするものであり、上記アには、このようなプロモーターとして、U6プロモーターが記載されている。加えて、上記カ、キ、コ、ソの記載からみて、先願1明細書等では、「ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチド」であるキメラcrRNA-tracrRNAハイブリッドを実際に発現させるために、U6プロモーターが専ら使用されている。 以上を考慮すると、引用発明1では、(4)に記載された単一ポリヌクレオチドの発現をドライブするために「U6プロモーター」が一般的に用いられることが記載されている。 一方、引用文献2~4に記載されているようにU6プロモーターの転写開始点がGであることは、本願優先日当時に周知の技術であった(引用文献2;479頁左欄9行~12行、引用文献3;1942頁右欄下から8行~ 3行、引用文献4;11頁右欄10行~13行)。 また、図3Bなど、先願1明細書等とその第1優先権明細書等の双方に共通して開示された具体的スペーサー配列はそのほとんどがGから始まるものであることからすると、引用発明1の「NNNNNNNNNNNNNNNNNNNN」の先頭をGとすることは、単なる課題解決のための具体化手段における微差に相当するものであるといえる。 そして、本願明細書をみても、一応の相違点として挙げた本願発明の発明特定事項により新たな効果を奏するものとも認められない。そうすると、本願発明は、引用発明1と実質的に同一の発明である。 4 審判請求人の主張について (1)審判請求人の主張 審判請求人は、審判請求書及び令和4年11月18日付け意見書において、概ね次の点A及びBを主張している。 (主張A) 先願1明細書等には、引用発明1の「単一ポリヌクレオチド」が真核細胞中で機能することを具体的に示す実験結果が記載されておらず、次の(A-1)~(A-3)の事情を考慮すると、先願1明細書等は引用発明1の「単一ポリヌクレオチド」について実施可能に開示するものとはいえない。 (A-1)先願1明細書等及び第1優先権明細書等において、真核細胞中で機能することが具体的に示されたのは、引用発明1の「単一ポリヌクレオチド」よりも短く、構造が異なるキメラガイドRNA(単一ポリヌクレオチド)のみであって、それらは、効果が低いものであったことが示されている。しかし、その原因や、機能するガイドRNAが満たすべき条件は開示されていないから、引用発明1の「単一ポリヌクレオチド」が真核細胞において機能すると当業者が合理的期待をもって予測することは困難である。 (A-2)先願1発明者らにより、本願優先日より後に公表された文献(Zhang et al. Science 339: 819-823)には、哺乳動物細胞中で、crRNAとtracrRNAがハイブリダイズしてなるRNAと比べて、それらを融合してなる単一RNA(単一ポリヌクレオチド)は、効果が低いか全く機能しなかったことが記載されているから、当時、機能的な単一ポリヌクレオチドを設計する技術は確立されていなかったといえ、引用発明1のような長い「単一ポリヌクレオチド」が機能することは予測できなかった。 (A-3)本願優先日当時、真核細胞においてCRISPR/Cas9系が機能するかどうかは、実験を行わなくてはわからないという技術水準にあったから、先願1明細書等において具体的に機能が示された短いキメラガイドRNA(単一ポリヌクレオチド)よりも長い、引用発明1の「単一ポリヌクレオチド」が機能するとは予測できなかった。むしろ、当業者は、長くするとヌクレアーゼに対してより大きな基質となるため不活性になり得る、真核細胞の核への進入及び緊密に詰まった真核ゲノム中の標的核酸配列への局在における問題を生じ得る、増加した毒性という問題を生じ得るとも考えた。 (主張B) 先願1明細書等には、スペーサー配列の長さは様々であってよいことやスペーサーのうち最後の12塩基がCRISPRの活性に重要であることが記載されているが、ガイドRNA(単一ポリヌクレオチド)発現のためにU6プロモーターを用いることは記載されていないし、U6プロモーターを用いる転写開始位置をどこにするかについては記載がない。したがって、先願1明細書等には、本願発明のように「GN19スペーサー」を用いることの開示や示唆はない。 (2)審判請求人の主張についての判断 ア 主張Aについて (ア)特許法第29条の2の趣旨は、先願明細書等に記載されている発明は、特許請求の範囲以外の記載であっても、出願公開等により一般にその内容は公表されるので、たとえ先願が出願公開等をされる前に出願された後願であっても、その内容が先願と同一内容の発明である以上、さらに出願公開等をしても、新しい技術をなんら公開するものではなく、このような発明に特許権を与えることは、新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない、というものである。 そして、同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは、先願明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明をいい、記載されているに等しい事項とは、出願時における技術常識を参酌することにより、記載されている事項から導き出せるものをいうものと解され、先願明細書等で求められる技術内容の開示の程度は、当業者が、先願発明がそこに示されていること及びそれが実施可能であることを理解し得る程度に記載されていれば足りるというべきである。 この観点で、先願1明細書等(第1優先権明細書等)で開示されている技術内容を検討する。 (イ)先願1明細書等及び第1優先権明細書等には、引用発明1の「単一ポリヌクレオチド」をCas9酵素とともに真核細胞に適用することを実行するに足りる十分な技術的情報が記載されている。 すなわち、使用するCas9に対応したPAM配列の上流を標的配列とすることができ、該標的配列に相補的な配列をガイド配列として、単一オリゴヌクレオチドを設計できること(上記ウ、セ)、単一オリゴヌクレオチドをU6プロモーターの制御下で発現させること(上記ア、コ、ソ)、(4)の単一オリゴヌクレオチドは、化膿性連鎖球菌のCas9との組合せで使用されるものであること(上記エ)、化膿性連鎖球菌のCas9遺伝子を、真核細胞での翻訳を強化するためにコドン最適化し、核局在化シグナルを付加してプロモーターの制御下で発現させること(上記オ、ソ)により、真核細胞の標的核酸の改変を行うことができたことが実施例をもって具体的に開示されており、真核細胞内で単一オリゴヌクレオチドとCas9が適切に転写、翻訳、核移行され、標的配列の改変が行われるために必要な技術手段が、当業者が実施できる程度に十分に開示されていると認められる。 (ウ)先願1明細書等及び第1優先権明細書等には、単一ポリヌクレオチドを用いて真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを改変できたことを示す具体的データ(図3、図5B、図8)、及び、引用発明1の「単一ポリヌクレオチド」と同様に長いtracrメイト配列及びtracr配列を用いて真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを改変できたことを示す具体的データ(図7B、図7D、図8)があるのだから、当業者は、引用発明1の「単一ポリヌクレオチド」が標的配列を改変できることを十分に理解することができる。 (エ)それに対して、審判請求人の主張(A-1)~(A-3)は、いずれも、先願1明細書等及び第1優先権明細書等の記載から引用発明を当業者が実施できないことを示したり、実施の妨げとなることを示すものとは認められない。 (オ)以上のとおりであるから、審判請求人の主張は理由がない。 イ 主張Bについて 単一ポリヌクレオチドの発現のためにU6プロモーターを用いることについて、先願1明細書等に記載があることは上述のとおりである。また、引用発明1の単一ポリヌクレオチドは、そもそもスペーサーが20に特定されたものなので、スペーサーが20となるようにU6プロモーターのG転写の開始位置を設定すれば、先頭のN1がGとなり、GN19スペーサーとなることは、技術的に明らかである。 また、図3Bに開示された具体的スペーサー配列はそのほとんどがGから始まるものであることからも、先願1明細書等には、先頭をGとしたスペーサーを用いることが示されているといえる。 以上より、審判請求人の主張は、全て理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に国際公開がされた先願1の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が先願1に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が先願1の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-000069

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