特許拒絶査定不服審判
2020-013069
海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法
- 審判番号
- 2020-013069
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-018045
- 請求日
- 2020年09月17日
- 審決日
- 2020年12月22日
- 公報発行日
- 2021年02月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社片山化学工業研究所
- 【請求人代理人】野河 信太郎
- 【請求人代理人】甲斐 伸二
- 【請求人代理人】金子 裕輔
- 【請求人代理人】稲本 潔
- 【請求人代理人】澄川 広司
- 【請求人】ナルコジャパン合同会社
- 【請求人代理人】野河 信太郎
- 【請求人代理人】甲斐 伸二
- 【請求人代理人】金子 裕輔
- 【請求人代理人】稲本 潔
- 【請求人代理人】澄川 広司
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 金 公彦
- 審判官 村岡 一磨
- 分類
- P18 .121-WY (C02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2020- 18045「海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月 3日出願公開、特開2020-138197、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、令和 2年 2月 5日(優先権主張 平成31年 2月25日)の出願であって、令和 2年 4月 9日付けで拒絶理由が通知され、同年 4月 30日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年 6月16日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、同年 9月17日付けで本件拒絶査定不服審判の請求がされ、これと同時に手続補正書が提出され、同年10月19日付けで刊行物等提出書が提出されたものである。
第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、令和 2年 4月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開平6-153759号公報
引用文献3:特開2007-160142号公報
第3 本願発明
本願請求項1~2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明2」という。)は、令和 2年 9月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
二酸化塩素を一定濃度で連続的に添加したときに所望の海生生物の付着障害防止効果が得られる一過式海水冷却水系の海水中の二酸化塩素の最小濃度を基準濃度とし、
前記海水中の二酸化塩素濃度が、前記基準濃度未満の低濃度の期間と前記基準濃度以上の高濃度の期間とが交互になるように、二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加することからなり、
前記基準濃度未満の低濃度が、前記基準濃度の1/4~9/10の濃度であり、前記基準濃度以上の高濃度が、0.02~0.5mg/Lであることを特徴とする一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法。
【請求項2】
前記基準濃度未満の低濃度が、前記基準濃度の1/3~9/10の濃度である請求項1に記載の一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法。」
第4 原査定等についての当審の判断
1 原査定について
(1)各引用文献の記載事項等
(1-1)引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載される発明
ア 引用文献1には、以下(1a)~(1d)の記載がある。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 淡水または海水を使用する施設に設置された淡水または海水を通す水路に、比較的低濃度の二酸化塩素水溶液を連続的に注入することからなる、水路に付着する生物の付着防止、または除去方法。
【請求項2】 淡水または海水を使用する施設に設置された淡水または海水を通す水路に、比較的高濃度の二酸化塩素水溶液を間欠的に注入することからなる、水路に付着する生物の付着防止、または除去方法。」
(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水路に付着する生物の付着防止または除去方法に係り、特に、火力発電所等の冷却水水路内に付着する生物を効果的に抑制する方法に関する。」
(1c)「【0010】二酸化塩素を連続的に注入する本発明の第1の態様では、水中の二酸化塩素割合が、0.1~2.0ppmであることが望ましい。0.1ppm未満では、水路の生物が付着するのを防止することは困難であり、他方、2.0ppmを超える濃度では、過剰添加となり経済的ではない。
【0011】二酸化塩素を間欠的に注入する本発明の第2の態様では、水中の二酸化塩素割合が、10.0~30.0ppmであることが望ましい。10.0ppm未満では、間欠的に注入するため水路の生物が付着するのを防止する効果は少なく、他方、30.0ppmを超える濃度では、過剰添加となり経済的ではない。間欠的に注入する場合の注入時間は、15~30分間が適切であり、間隔は1日あたり3回(8時間毎)程度とすることが出来る。」
(1d)「【0021】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によると、水路に比較的低濃度の二酸化塩素水溶液を連続的に注入するか、または、比較的高濃度の二酸化塩素水溶液を間欠的に注入することにより、環境汚染を引き起こすことなく、冷却系水路の内壁に付着する生物を効果的に付着防止、または除去することが可能である。また、二酸化塩素は有害な有機塩素化合物を形成しないことから、海や河川を汚染することもない。」
イ 前記ア(1a)によれば、引用文献1には「水路に付着する生物の付着防止、または除去方法」が記載されており、当該「水路に付着する生物の付着防止、または除去方法」は、淡水または海水を使用する施設に設置された淡水または海水を通す水路に、比較的低濃度の二酸化塩素水溶液を連続的に注入することからなるものである。
また、前記「水路に付着する生物の付着防止、または除去方法」は、淡水または海水を使用する施設に設置された淡水または海水を通す水路に、比較的高濃度の二酸化塩素水溶液を間欠的に注入することからなるものである。
更に、同(1b)、(1c)によれば、前記「水路に付着する生物の付着防止、または除去方法」は、特に、火力発電所等の冷却水水路内に付着する生物を効果的に抑制する方法に関するものであり、二酸化塩素を連続的に注入する態様では、水中の二酸化塩素割合が、0.1~2.0ppmであることが望ましいものであり、二酸化塩素を間欠的に注入する態様では、水中の二酸化塩素割合が、10.0~30.0ppmであることが望ましいものであり、間欠的に注入する場合の注入時間は、15~30分間が適切であり、間隔は1日あたり3回(8時間毎)程度とすることができるものである。
ウ そうすると、引用文献1には以下の発明が記載されているといえる。
「淡水または海水を使用する施設に設置された淡水または海水を通す水路に、比較的低濃度の二酸化塩素水溶液を連続的に注入することからなる水路に付着する生物の付着防止、または除去方法であって、
特に、火力発電所等の冷却水水路内に付着する生物を効果的に抑制する方法に関するものであり、
二酸化塩素を連続的に注入する態様では、水中の二酸化塩素割合が、0.1~2.0ppmであることが望ましい、水路に付着する生物の付着防止、または除去方法。」(以下、「引用1発明」という。)
「淡水または海水を使用する施設に設置された淡水または海水を通す水路に、比較的高濃度の二酸化塩素水溶液を間欠的に注入することからなる水路に付着する生物の付着防止、または除去方法であって、
特に、火力発電所等の冷却水水路内に付着する生物を効果的に抑制する方法に関するものであり、
二酸化塩素を間欠的に注入する態様では、水中の二酸化塩素割合が、10.0~30.0ppmであることが望ましく、間欠的に注入する場合の注入時間は、15~30分間が適切であり、間隔は1日あたり3回(8時間毎)程度とすることができる、水路に付着する生物の付着防止、または除去方法。」(以下、「引用1’発明」という。)
(1-2)引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下(3a)~(3c)の記載がある。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼酎粕を固液分離した後、分離された固形分を乾燥する乾燥設備から排出される排ガスを脱臭する脱臭塔を備えた脱臭装置において、
前記脱臭塔は、内部に充填材を充填した充填部を有する脱臭塔本体と、該脱臭塔本体の下部に設けられる排ガス導入部と、該脱臭塔本体の上部に設けられる処理ガスの排出部とを有し、
前記充填部の上方には循環水を噴霧状に散布するためのスプレー部を有し、下方には該スプレー部から供給され臭気成分を吸収した循環水を受け入れる循環水貯留部を有し、循環水貯留部内の循環水を前記スプレー部に供給する循環ポンプを有し、
前記循環水に対して塩素系殺菌剤を間欠的に有効塩素濃度として30~400ppmの範囲で添加することを特徴とする脱臭装置。
【請求項2】
塩素系殺菌剤が、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、次亜塩素酸カルシウム、塩素化イソシアヌル酸、塩素ガスから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の脱臭装置。」
(3b)「【0026】
本発明では、前記循環水に対して塩素系殺菌剤を間欠的に有効塩素濃度として30~400ppmの範囲、好ましくは50~300ppmの範囲で添加することを特徴とする。
【0027】
これは充填材に微生物や菌体が付着し、目詰まりを起こし、スプレー水の循環運転が継続できなくなる問題に対して、高濃度の殺菌剤の作用及び短時間の殺菌剤濃度変化のストレスにより、微生物や菌体を死滅させて目詰まりを解消するものである。
【0028】
従来、次亜塩素酸ソーダを循環水貯留部102に添加して、次亜塩素酸ソーダによる有効塩素濃度が常時20ppm程度となるように(図2参照)循環水に含有させて脱臭と殺菌を同時に行うことを考案し、運転を行ったが、充填塔における微生物発生のために目詰まりを解消することはできなかった。そのため循環水貯留部102に更に次亜塩素酸ソーダの添加量を増量したところ、塩素臭気が装置周辺におよび周辺住民から苦情が殺到することになった。
【0029】
そこで、本発明では、前記循環水に対して塩素系殺菌剤を間欠的に有効塩素濃度として30~400ppmの範囲、好ましくは50~300ppmの範囲で添加するようにしたら、上記の問題は解消できた。即ち、充填材の目詰まりをなくし、臭気の問題も解消した。
【0030】
本発明において、「間欠的に」というのは、従来のような常時有効塩素濃度20ppm添加する添加方式を除外する意味であり、脱臭設備の1日の運転時間にもよるが、例えば8時間運転の場合には、1日1回だけ、数分から3時間、好ましくは10分~2時間の範囲で塩素系殺菌剤を有効塩素濃度として30~400ppmの範囲、好ましくは50~300ppmの範囲で添加することができる。(図2参照)
【0031】
運転時間が24時間の場合には、間欠的であればよいので、1日に複数回でもよい。回数を増加する際には塩素臭気が装置周辺におよび周辺住民から苦情がこないように配慮する必要がある。」
(3c)「【図2】
」
(2)対比・判断
(2-1)本願発明1について
ア 対比
(ア)本願発明1と引用1発明または引用1’発明とを対比すると、引用1発明または引用1’発明における、「特に、火力発電所等の冷却水水路内に付着する生物を効果的に抑制する方法に関するもの」である、「水路に付着する生物の付着防止、または除去方法」は、本願発明1における「一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法」に相当する。
(イ)すると、本願発明1と引用1発明または引用1’発明とは、
「一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本願発明1は、「一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法」が、「二酸化塩素を一定濃度で連続的に添加したときに所望の海生生物の付着障害防止効果が得られる一過式海水冷却水系の海水中の二酸化塩素の最小濃度を基準濃度とし、前記海水中の二酸化塩素濃度が、前記基準濃度未満の低濃度の期間と前記基準濃度以上の高濃度の期間とが交互になるように、二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加することからな」る、との発明特定事項を有するのに対して、引用1発明及び引用1’発明は前記発明特定事項を有しない点。
・相違点2:本願発明1は、「一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法」が、「前記基準濃度未満の低濃度が、前記基準濃度の1/4~9/10の濃度であり、前記基準濃度以上の高濃度が、0.02~0.5mg/Lである」、との発明特定事項を有するのに対して、引用1発明及び引用1’発明は前記発明特定事項を有しない点。
イ 相違点の検討
(ア)まず、前記ア(イ)の相違点1について検討すると、前記(1)(1-1)ア(1d)によれば、引用文献1に記載された発明は、水路に比較的低濃度の二酸化塩素水溶液を連続的に注入するか、または、比較的高濃度の二酸化塩素水溶液を間欠的に注入することにより、環境汚染を引き起こすことなく、冷却系水路の内壁に付着する生物を効果的に付着防止、または除去することが可能となるものであって、二酸化塩素濃度が低濃度の期間と高濃度の期間とが交互になるようにするものではない。
そうすると、引用文献1に記載された発明において、二酸化塩素濃度が低濃度の期間と高濃度の期間とが交互になるように、「二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加する」ことはそもそも想定されない。
(イ)また、前記(1)(1-2)(3a)によれば、引用文献3には、「脱臭装置」において、循環水に対して塩素系殺菌剤を間欠的に有効塩素濃度として30~400ppmの範囲で添加すること、塩素系殺菌剤が二酸化塩素であることが記載されている。
そして、同(3b)~(3c)によれば、前記「脱臭装置」においては、従来、次亜塩素酸ソーダを循環水貯留部に添加して、次亜塩素酸ソーダによる有効塩素濃度が常時20ppm程度となるように循環水に含有させて脱臭と殺菌を同時に行うことを考案し、運転を行ったが、充填塔における微生物発生のために目詰まりを解消することはできなかったところ、前記循環水に対して塩素系殺菌剤を間欠的に有効塩素濃度として30~400ppmの範囲、好ましくは50~300ppmの範囲で添加するようにすると、前記の問題が解消できたものであり、ここで、間欠的に、というのは、従来のような常時有効塩素濃度20ppm添加する添加方式を除外する意味であることが分かる。
(ウ)前記(イ)によれば、「脱臭装置」において、塩素系殺菌剤として次亜塩素酸ソーダを循環水貯留部に添加して、次亜塩素酸ソーダによる有効塩素濃度が常時20ppm程度となるように循環水に含有させた場合、充填塔における微生物発生のために目詰まりを解消することができなかったのであるから、前記20ppm程度の濃度は、塩素系殺菌剤を一定濃度で連続的に添加したときに所望の生物の付着障害防止効果が得られる、循環水中の塩素系殺菌剤の最小濃度である「基準濃度」未満の低濃度といえ、塩素系殺菌剤を間欠的に有効塩素濃度として30~400ppmの範囲としたときの30~400ppmの濃度は、前記「基準濃度」以上の高濃度といえる。
そして、特に前記(3c)によれば、「脱臭装置」における前記塩素系殺菌剤の添加は、塩素系殺菌剤を一定濃度で連続的に添加したときに所望の生物の付着障害防止効果が得られる循環水中の塩素系殺菌剤の最小濃度を「基準濃度」とし、前記循環水中の塩素系殺菌剤濃度が、前記「基準濃度未満の低濃度の期間」と前記「基準濃度以上の高濃度の期間」とが交互になるようにしているものといえ、塩素系殺菌剤を間欠的に有効塩素濃度として30~400ppmの範囲で添加することは、塩素系殺菌剤を高濃度で添加するものといえる。
そうすると、引用文献3には、「脱臭装置」において、塩素系殺菌剤を一定濃度で連続的に添加したときに所望の生物の付着障害防止効果が得られる循環水中の塩素系殺菌剤の最小濃度を「基準濃度」とし、前記循環水中の塩素系殺菌剤濃度が、前記「基準濃度未満の低濃度の期間」と前記「基準濃度以上の高濃度の期間」とが交互になるように、塩素系殺菌剤を高濃度で添加することが開示されているといえる。
(エ)ところが、前記「脱臭装置」においては、循環水に対して塩素系殺菌剤を間欠的に有効塩素濃度として30~400ppmの範囲で添加する以外に塩素系殺菌剤が添加されるものではなく、前記循環水中の塩素系殺菌剤の濃度は、塩素系殺菌剤を間欠的に有効塩素濃度として30~400ppmの範囲で添加した後、循環する間に低下することで前記「基準濃度未満の低濃度」となり、結果として、前記「基準濃度未満の低濃度の期間」と前記「基準濃度以上の高濃度の期間」とが交互になっているに過ぎないものと解するのが妥当であるから、引用文献3に、塩素系殺菌剤を低濃度で添加することが開示されているとはいえない。
そうすると、引用文献3には、塩素系殺菌剤を、前記「基準濃度未満の低濃度の期間」と前記「基準濃度以上の高濃度の期間」とが交互になるように、「低濃度及び高濃度で交互に添加する」ことが記載も示唆もされていないというほかない。
(オ)前記(ア)、(エ)によれば、引用文献1に記載された発明において、二酸化塩素濃度が低濃度の期間と高濃度の期間とが交互になるように「二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加する」ことはそもそも想定されないし、引用文献3には、塩素系殺菌剤を、前記「基準濃度未満の低濃度の期間」と前記「基準濃度以上の高濃度の期間」とが交互になるように「低濃度及び高濃度で交互に添加する」ことが記載も示唆もされていないのであるから、引用1発明または引用1’発明において、「一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法」を、「二酸化塩素を一定濃度で連続的に添加したときに所望の海生生物の付着障害防止効果が得られる一過式海水冷却水系の海水中の二酸化塩素の最小濃度を基準濃度とし、前記海水中の二酸化塩素濃度が、前記基準濃度未満の低濃度の期間と前記基準濃度以上の高濃度の期間とが交互になるように、二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加することからな」る、との前記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を有するものとすることを、引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るものとはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1を、引用文献1に記載された発明及び及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2-2)本願発明2について
本願発明2と引用1発明または引用1’発明とを対比すると、両者の間には少なくとも、前記(2-1)ア(イ)において認定したのと同様の相違点1が存するものといえる。
そして、当該相違点1に係る事項が容易想到の事項とはいえないことは、前記(2-1)イ(オ)のとおりである。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明2を、引用文献1に記載された発明及び及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)小括
以上の検討のとおり、本願発明1~2は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできないので、前記第2の原査定の拒絶の理由は理由がない。
2 刊行物等提出書について
刊行物等提出書において、一過性海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法として、二酸化塩素を添加することは本願出願の優先日の時点で周知であり、残留する二酸化塩素をできるだけ減らすために、その添加量及び添加方法についても種々の検討がされていることから、本願発明1、2は、刊行物1に記載された発明及び刊行物1~5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とされているので、念のため、ここで検討しておく。
刊行物1:G.Petrucci et al.,「Chlorine dioxide in seawater for fouling control and post-disinfection in potable waterworks」,Desalination,Vol.182,2005年,p.283-291
刊行物2:Hans-Curt Flemming et al.,「SPRINGER SERIES ON BIOFILMS Marine and Industrial Biofouling」,Springer-Verlag,2009年,p.270,275,277,279,280
刊行物3:原 猛也ら,「二酸化炭素が海生生物に与える影響の予備的検討」,海生研研報,第8号,2005年,p.11-17
刊行物4:特公平6-29163号公報
刊行物5:特許第5879596号公報
(1)刊行物1の記載事項及び刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1の287頁右欄9行~19行には、以下の記載がある。
「・In a private power station near Venice,using 48,000m3/h of seawater after 3 year treatment the programme is the following:
From April to October 0.2 ppm continuously +1 shot per day at concentration of 1 ppm as long as 1 hour.
From November to March,2 shot per day at concentration of 1 ppm as long as 2 hours.There is no residual of chlorine dioxide at the discharge point.」
(当審訳:48,000m3/時の海水を使用するヴェネツィア近郊の民間発電所では、3年間の処理後のプログラムは次のとおりです。
4月から10月まで、0.2ppmの連続注入+1時間、1ppmの濃度で1日あたり1ショット。
11月から3月までは2時間、1ppmの濃度で1日2ショット。放流箇所に二酸化塩素の残留はない。)
イ 前記アによれば、刊行物1には以下の発明が記載されているといえる。
「4月から10月まで、0.2ppmの連続注入+1時間、1ppmの濃度で1日あたり1ショットであり、
11月から3月までは2時間、1ppmの濃度で1日2ショットであり、放流箇所に二酸化塩素の残留はない、
48,000m3/時の海水を使用するヴェネツィア近郊の民間発電所における、3年間の処理後のプログラム。」(以下、「刊行1発明」という。)
(2)対比・判断
(2-1)本願発明1について
ア 対比
(ア)本願発明1と刊行1発明とを対比すると、刊行1発明における「4月から10月まで、0.2ppmの連続注入」は、本願発明1における、「海水中の二酸化塩素濃度が」「低濃度の期間」に相当し、刊行1発明における「+1時間、1ppmの濃度で1日あたり1ショット」であることは、本願発明1における、「海水中の二酸化塩素濃度が」「高濃度の期間」に相当し、刊行1発明における、「4月から10月まで、0.2ppmの連続注入+1時間、1ppmの濃度で1日あたり1ショットであ」る、「48,000m3/時の海水を使用するヴェネツィア近郊の民間発電所における、3年間の処理後のプログラム」は、本願発明1における、「海水中の二酸化塩素濃度が」「低濃度の期間と」「高濃度の期間とが交互になるように、二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加することからな」る、「一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法」に相当する。
(イ)すると、本願発明1と刊行1発明とは、
「海水中の二酸化塩素濃度が、低濃度の期間と高濃度の期間とが交互になるように、二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加することからなる、一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法。」
の点で一致し、少なくとも、以下の点で相違する。
・相違点a:本願発明1は、「一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法」が、「二酸化塩素を一定濃度で連続的に添加したときに所望の海生生物の付着障害防止効果が得られる一過式海水冷却水系の海水中の二酸化塩素の最小濃度を基準濃度」とし、「低濃度の期間」が「前記基準濃度未満の低濃度の期間」である、との発明特定事項を有するのに対して、刊行1発明は前記発明特定事項を有しない点。
イ 判断
(ア)そこで、前記ア(イ)の相違点aについて検討すると、刊行物2には、「低レベルの連続塩素処理(0.1-0.2mgL-1残留)」と「ショック投与(0.5-1.0mgL-1残留を週に1回30分間)」の併用が発電所で採用されていること(279頁4行~6行)、「残留0.1-0.2mgL-1の二酸化塩素」を連続的に適用すると表面がきれいになり、残留0.1-0.2mgL-1で地中海のヒドロ虫が除去されたこと(279頁37行~40行)が記載されている。
そして、前記「低レベルの連続塩素処理(0.1-0.2mgL-1残留)」は、「低濃度の期間」といえ、「ショック投与(0.5-1.0mgL-1残留を週に1回30分間)」は、「高濃度の期間」といえ、「低レベルの連続塩素処理(0.1-0.2mgL-1残留)」と「ショック投与(0.5-1.0mgL-1残留を週に1回30分間)」の併用は、「低濃度の期間と」「高濃度の期間とが交互になるように、二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加する」ものといえるが、前記「残留0.1-0.2mgL-1の二酸化塩素」は、表面がきれいになり、地中海のヒドロ虫が除去されるものであるから、海生生物の付着障害防止効果を充分に有するものと解され、「二酸化塩素を一定濃度で連続的に添加したときに所望の海生生物の付着障害防止効果が得られる一過式海水冷却水系の海水中の二酸化塩素の最小濃度」である「基準濃度」未満のものとはいえない。
すると、刊行物2に記載される「低レベルの連続塩素処理(0.1-0.2mgL-1残留)」は、前記「基準濃度」未満のものとはいえないから、刊行物2には、「海水中の二酸化塩素濃度が」、「低濃度の期間と」「高濃度の期間とが交互になるように、二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加する」際の「低濃度の期間」を、前記「基準濃度」未満とすることが記載も示唆もされるものではない。
また、刊行物2に記載される「低レベルの連続塩素処理(0.1-0.2mgL-1残留)」が前記「基準濃度」未満のものとはいえないことからみれば、刊行1発明における「4月から10月まで、0.2ppmの連続注入」も、前記「基準濃度」未満のものとはいえない。
(イ)前記(ア)によれば、刊行物1~2には、「海水中の二酸化塩素濃度が」、「低濃度の期間と」「高濃度の期間とが交互になるように、二酸化塩素または該海水中で二酸化塩素を発生し得る化合物を低濃度および高濃度で交互に添加する」際の「低濃度の期間」を、前記「基準濃度」未満のものとすることが記載も示唆もされるものではない。
更に、刊行物3~刊行物5にも、前記「低濃度の期間」を、前記「基準濃度」未満のものとすることが記載も示唆もされるものではない。
(ウ)前記(イ)によれば、仮に、一過性海水冷却系に二酸化塩素を添加する際に、残留する二酸化塩素濃度をできるだけ減らすために、その添加量及び添加方法について従来から種々の検討がなされているとしても、当業者は、刊行物1~5に記載された事項に基いて、刊行物1に記載された発明における「低濃度の期間」を、「二酸化塩素を一定濃度で連続的に添加したときに所望の海生生物の付着障害防止効果が得られる一過式海水冷却水系の海水中の二酸化塩素の最小濃度を基準濃度とし、前記海水中の二酸化塩素濃度が、前記基準濃度未満」のものとするには至らない。
(エ)してみれば、刊行1発明において、「一過式海水冷却水系の海生生物の付着障害防止方法」を、「二酸化塩素を一定濃度で連続的に添加したときに所望の海生生物の付着障害防止効果が得られる一過式海水冷却水系の海水中の二酸化塩素の最小濃度を基準濃度とし」、「低濃度の期間」が「前記基準濃度未満の低濃度の期間」である、との前記相違点aに係る本願発明1の発明特定事項を有するものとすることを、刊行物1~5に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るものではないので、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、刊行物1に記載された発明及び刊行物1~5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2-2)本願発明2について
本願発明2と刊行1発明とを対比すると、両者の間には少なくとも、前記(2-1)ア(イ)において認定したのと同様の相違点aが存するものといえる。
そして、当該相違点aに係る事項が容易想到の事項とはいえないことは、前記(2-1)イ(エ)のとおりである。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明2を、刊行物1に記載された発明及び及び刊行物1~5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)小括
以上の検討のとおり、本願発明1~2は、刊行物1に記載された発明及び刊行物1~5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできない。
第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-013069