2020-009642
硫化物固体電解質
- 審判番号
- 2020-009642
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-551032外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年07月09日
- 審決日
- 2021年12月22日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】出光興産株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人平和国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WY (H01M)
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
本願は,2017年(平成29年)年8月8日(優先権主張 平成28年11月16日)を国際出願日とする出願であって,令和2年2月25日付けで手続補正がされ,同年3月4日付けで拒絶理由通知がされ,同年4月8日付けで意見書が提出され,同年4月9日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年7月9日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 原査定の理由の概要
原査定(令和2年4月9日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。
本願の請求項1~16に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.国際公開第2015/011937号
第3 本願発明
本願請求項1~16に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」~「本願発明16」という。)は,令和2年2月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】リチウム,リン,硫黄及び塩素を含み,前記塩素の前記リンに対するモル比c(Cl/P)が1.0より大きく1.9以下であり,アルジロダイト型結晶構造を有し,前記アルジロダイト型結晶構造の格子定数が9.750Å以上,9.820Å以下である,硫化物固体電解質。」
なお,本願発明2~14は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明15は,本願発明1~14のいずれかの硫化物固体電解質を含む電極合材の発明であり,本願発明16は,本願発明1~14のいずれかの硫化物固体電解質及び本願発明15の電極合材のうち少なくとも1つを含むリチウムイオン電池の発明である。
第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(国際公開第2015/011937号)には,次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
「技術分野[0001] 本発明は,リチウムイオン電池の固体電解質として好適に用いることができるリチウムイオン電池用硫化物系固体電解質に関する。」
「実施例[0041] 以下,実施例に基づいて本発明を説明する。但し,本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。[0042](実施例1)表1に示した組成式となるよう,硫化リチウム(Li2S)粉末2.14gと,硫化リン(P2S5)粉末2.07gと,塩化リチウム(LiCl)粉末0.79gとをそれぞれ秤量し,ボールミルで15時間粉砕混合して混合粉末を調製した。この混合粉末をカーボン製の容器に充填し,これを管状電気炉にて硫化水素ガス(H2S,純度100%)を1.0L/min流通させながら,昇降温速度200℃/hにて400℃で4時間焼成した。その後,試料を乳鉢で解砕し,目開き53μmの節いで整粒して粉末状の試料を得た。続きを表示(全16行)この際,上記秤量,混合,電気炉へのセット,電気炉からの取り出し,解砕及び整粒作業は全て,十分に乾燥されたArガス(露点-60℃以上)で置換されたグローブボックス内で実施した。得られた粉末状の試料(化合物)をX線回折法(XRD)で分析した結果,空間群F-43mで立方晶系の結晶構造を有し,かつ組成式:Li6PS5Clで表される化合物であることを確認した。・・・[0044](実施例3-15)表1に示した組成式になるように各原料の配合量を変更すると共に,焼成雰囲気及び焼成温度を表1に示した温度とした以外の点は,実施例1と同様にして試料を作製した。得られた粉末状の試料(化合物)をXRDで分析した結果,空間群F-43mで立方晶系の結晶構造を有し,かつそれぞれ表1に示した組成式で表される化合物であることを確認した。・・・[0052][表1][図:0001386500000001.jpg][0053] 表1中の「X」は,Li7-xPS6-xHax(HaはCl若しくはBr)のxを示し,「輸率」は,リチウムイオン輸率(tLi+) を示す。・・・[0054] 表1に示されるように,実施例1~15までの試料は,主たる生成相が立方晶で空間群F-43mに属する結晶構造を有するLi7-xPS6-xHaxであり,未反応のLi2SやLiCl及びLiBrは残存していないか,あるいは僅かにしか残存していないことが分かった。・・・」
上記記載のうち,特に,実施例14に注目すると,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「主たる生成相が立方晶で空間群F-43mに属する結晶構造を有するLi7-xPS6-xClxからなり,xが1.2である,リチウムイオン電池用硫化物系固体電解質。」
第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「リチウムイオン電池用硫化物系固体電解質」は,「Li7-xPS6-xClxからなり,xが1.2である」から,本願発明1とは,「リチウム,リン,硫黄及び塩素を含」んでいる点で共通している。
イ 引用発明において,ClのPに対するモル比は,1.2/1=1.2であるから,引用発明と本願発明1とは,「前記塩素の前記リンに対するモル比c(Cl/P)」が1.2を含む「1.0より大きく1.9以下」である点で共通している。
ウ 本願明細書の【0004】,【0006】には,アルジロダイト型結晶構造が記載されている文献として,引用文献1(特許文献2)が挙げられているから,引用発明の「主たる生成相が立方晶で空間群F-43mに属する結晶構造」は,本願発明1の「アルジロダイト型結晶構造」に相当する。
エ 引用発明の「リチウムイオン電池用硫化物系固体電解質」は,本願発明1の「硫化物固体電解質」に相当する。
オ 以上から,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「リチウム,リン,硫黄及び塩素を含み,前記塩素の前記リンに対するモル比c(Cl/P)が1.0より大きく1.9以下であり,アルジロダイト型結晶構造を有する,硫化物固体電解質。」
<相違点>
(2)相違点についての判断
ア 本願明細書の【0053】,【0054】には,アルジロダイト型結晶構造に含まれる塩素量を多くするには,例えば,原料の塩素含有量を増やすことの他に,原料の粉砕混合を十分に実施すること,熱処理(焼成)雰囲気を調整すること,熱処理温度を調整することが有効であり,これら条件を調整することにより,硫化物固体電解質のアルジロダイト型結晶構造以外の部分に存在する塩素量の増加を抑制し,アルジロダイト型結晶構造に含まれる塩素量を効率よく増やすことができる旨記載されている。
そして,同【0013】には,アルジロダイト型結晶構造に含まれる塩素量を多くすることにより,アルジロダイト型結晶構造の格子定数が小さくなることが記載されている。
そうすると,アルジロダイト型結晶構造の格子定数は,原料の塩素含有量を増やすこと,原料の粉砕混合を十分に実施すること,熱処理(焼成)雰囲気を調整すること,熱処理温度を調整することなどの製造条件よって変化するものであり,塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)によって一義的に決まるものとはいえない。
このことは,本願の実施例(【表7】,【表8】)において,例えば,実施例5と実施例12とでは,塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)が,いずれも1.7であるのに対し, MM処理条件の時間が72Hの実施例5では格子定数が9.795Åであり,一方, MM処理条件の時間が15Hの実施例12では格子定数が9.819Åであることからも裏付けられている。
イ 前記(1)イで検討したとおり,引用発明と本願発明1とは,「前記塩素の前記リンに対するモル比c(Cl/P)」が1.2で共通しているところ,前記アで検討したとおり,アルジロダイト型結晶構造の格子定数は,原料の塩素含有量を増やすこと,原料の粉砕混合を十分に実施すること,熱処理(焼成)雰囲気を調整すること,熱処理温度を調整することなどの製造条件よって変化するものであり,塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)によって一義的に決まるものとはいえない。
そこで,本願発明1の実施例と引用発明(実施例14)の製造条件を比較することによって,引用発明のアルジロダイト型結晶構造の格子定数が,本願発明1の「9.750Å以上,9.820Å以下」の数値範囲に入っているか否かを検討する。
(ア)本願発明1の実施例1~12の製造条件
本願明細書の【0092】,【0093】,【0097】,【0098】の【表6】,【0099】,【0101】の【表7】によれば,実施例1~12の製造条件は,以下のとおりである。
熱処理
(イ)引用発明(実施例12)の製造条件
一方,引用文献1の[0042], [0044], [表1]によれば,実施例14の製造条件は,以下のとおりである。
熱処理
(ウ)以上によれば,本願発明1の実施例1~12と,引用発明(実施例14)とでは,粉砕混合条件及び熱処理の雰囲気が相違している。
(エ)そうすると,引用発明と本願発明1とは,「前記塩素の前記リンに対するモル比c(Cl/P)」が1.2で共通しているものの,粉砕混合条件及び熱処理の雰囲気が相違しているから,引用発明のアルジロダイト型結晶構造の格子定数は,本願発明1の「9.750Å以上,9.820Å以下」の数値範囲に入っているとはいえない。
ウ また,リチウムイオン電池用硫化物系固体電解質であるアルジロダイト型結晶構造の格子定数を「9.750Å以上,9.820Å以下」とすることは,本願の優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって,引用発明において,「リチウムイオン電池用硫化物系固体電解質」のアルジロダイト型結晶構造の格子定数を「9.750Å以上,9.820Å以下」とすること,すなわち,相違点1に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって,本願発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
2 本願発明2~16について
本願発明2~14は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明15は,本願発明1~14のいずれかの硫化物固体電解質を含む電極合材の発明であり,本願発明16は,本願発明1~14のいずれかの硫化物固体電解質及び本願発明15の電極合材のうち少なくとも1つを含むリチウムイオン電池の発明であり,いずれも相違点1に係る本願発明1の構成を有しているから,本願発明1と同様の理由により,本願発明2~16は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
第6 むすび
以上のとおり,本願発明1~16は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
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