特許拒絶査定不服審判
2020-005713
包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルム
- 審判番号
- 2020-005713
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-244280
- 請求日
- 2020年04月27日
- 審決日
- 2021年12月15日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】大日本印刷株式会社
- 【請求人代理人】中村 行孝
- 【請求人代理人】朝倉 悟
- 【請求人代理人】浅野 真理
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 健史
- 審判官 近野 光知
- 審判官 土橋 敬介
- 分類
- P18 .575-Z (C08L) / P18 .121-Z (C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-244280「包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月17日出願公開、特開2018- 76525〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成22年10月29日に出願した特願2010-244709号の一部を平成27年8月18日に新たな特許出願(特願2015-161281号)とし、その一部を平成29年1月12日に新たな特許出願(特願2017-3567号)とし、更にその一部を同年12月20日に新たな特許出願(特願2017-244280号)としたものである。そして、平成29年12月21日に上申書及び手続補正書が提出され、平成30年10月2日付けの拒絶理由通知に対し、平成31年1月30日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月5日付けの拒絶理由通知に対し、令和1年5月30日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月7日付けの拒絶理由通知に対し、同年12月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和1年12月5日提出の手続補正書に対して令和2年2月10日付けで補正の却下の決定がなされると同時に拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がされ、令和2年8月5日に上申書が提出された。
なお、平成30年9月27日、平成31年2月19日、令和1年6月24日及び令和1年12月25日に刊行物等提出書が提出された。
第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年4月27日の手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、補正前の
「ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含んでなる樹脂組成物からなる包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルムであって、
前記樹脂フィルムが、前記ジオール単位がさとうきび由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であるバイオマス由来のポリエステルと、多孔性シリカを含む化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートマスターバッチと、を含む樹脂組成物を用いて形成されたものであり、
前記樹脂フィルムが2軸延伸フィルムであり、
前記樹脂フィルムの破断強度が、MD方向で5~40kgf/mm2、TD方向で5~35kgf/mm2であることを特徴とする、包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルム。」
から、補正後の、
「ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含んでなる樹脂組成物からなる包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルムであって、
前記樹脂フィルムが、前記ジオール単位がさとうきび由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であるバイオマス由来のポリエステルと、多孔性シリカを含む化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートマスターバッチと、を含む樹脂組成物を用いて形成されたものであり、
前記樹脂フィルムが2軸延伸フィルムであり、
前記樹脂フィルムの破断強度が、MD方向で5~40kgf/mm2、TD方向で5~35kgf/mm2であり、JIS/C-2318に準拠した150℃で30分熱処理したときのMD方向の熱収縮率が2.23~5%であることを特徴とする、包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルム。」にする補正事項(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。
(以下、補正後の請求項1に係る発明を「本件補正発明」という。なお、下線部は補正された箇所を示し、当審が下線を付与した。)
2 補正の適否
(1)補正の目的について
補正事項1は、補正前の「包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルム」を、「JIS/C-2318に準拠した150℃で30分熱処理したときのMD方向の熱収縮率が2.23~5%である」ものに減縮するものである。そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。
(2)独立特許要件について
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1に記載したとおりのものである。
イ 本件補正発明の技術的意義
(ア)本願明細書には、「近年、循環型社会の構築を求める声の高まりとともに、材料分野においてもエネルギーと同様に化石燃料からの脱却が望まれており、バイオマスの利用が注目されている。・・・昨今、これらバイオマスを原料としたバイオマスプラスチックの実用化が急速に進んでおり、汎用高分子材料であるポリエステルをこれらバイオマス原料から製造する試みが行われている」(【0003】)、及び、「トウモロコシやサトウキビ等の植物から得られるデンプンや糖類を微生物で発酵させて得られたバイオマスエタノールが実用化されており、このバイオマスエタノールからエチレンを経由して工業的にエチレングリコールを製造することに成功している」(【0005】)と記載され、本件補正発明の技術的な背景と本件補正発明の「さとうきび由来のエチレングリコール」が本願出願時に公知であったことが示されている。
(イ)そして、本件補正発明の課題は、「バイオマスエチレングリコールを用いたカーボンニュートラルなポリエステルを含む樹脂組成物を提供することであって、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリエステルと機械的特性等の物性面で遜色ないポリエステルが得られるバイオマス由来の樹脂組成物を提供すること」(【0008】)であり、「本発明の樹脂組成物からなるフィルムは、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリエステルフィルムと機械的特性等の物性面で遜色なく、従来のポリエステルフィルムを代替することができる」(【0016】)との効果を奏するというものである。
(ウ)本願明細書には、具体的に、バイオマス由来のポリエステルを合成し、これを用いて樹脂フィルムを作製した実施例1が記載され(【0051】、【0052】及び【0060】の表1)、当該樹脂フィルムは、引張強度がMD方向で24.3kgf/mm2、TD方向で26.6kgf/mm2であり、JIS/C-2318に準拠した150℃で30分熱処理したときの熱収縮率が、MD方向で2.23%、TD方向で0.51%であり、その機械的特性等の物性が化石燃料由来のポリエステルフィルムと機械的特性等の物性面で遜色ないことが示されている。
(エ)さらに、本願明細書には、「バイオマス由来のエチレングリコールは、従来の化石燃料由来のエチレングリコールと化学構造が同じであるため、バイオマス由来のエチレングリコールを用いたポリエステルは、従来の化石燃料由来の原料から重合したポリエステルとなんら変わらず、従って、本発明の樹脂組成物から重合したフィルムは、従来のポリエステルフィルムと機械的特性等の物性面で遜色がない」(【0017】)、及び「本発明による樹脂組成物からなるフィルムは、従来の化石燃料由来の材料のみから製造されるポリエステルフィルムの物性と同等である」(【0047】)と記載され、バイオマス由来のエチレングリコールを用いたポリエステルと化石燃料由来のエチレングリコールを用いたポリエステルは化学構造と機械的特性等の物性面で同じものであることが示唆されている。
(オ)本件補正発明「熱収縮率」に関して、本願明細書には、「150℃の温度環境下に30分放置した時の収縮率は、2.23~5%(当審注:出願時は「0.1~5%」)である。このように、本発明による樹脂組成物からなるフィルムは、従来の化石燃料由来の材料のみから製造されるポリエステルフィルムの物性と同等である」(【0047】)と記載されている。また、本件補正発明の「包装製品用またはラベル材料用」に関しては、「本発明による樹脂フィルムは、包装製品、各種ラベル材料、蓋材、シート成型品、ラミネートチューブ等の用途に好適に使用することができる」【0049】)と記載されるにとどまるものである。
ウ 引用文献に記載された事項
(ア)引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用した特開2007-118476号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを主体とする二軸配向フィルムであって、
面配向係数が0.168~0.172、
複屈折の絶対値が5未満、
150℃におけるフィルム幅方向の熱収縮率が0.5~2%であり、
なおかつフィルム厚みが7~20μmである
ことを特徴とする包装用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
・・・
【請求項3】
フィルムの長手方向および幅方向の引張破断強度が260~400MPaであることを特徴とする請求項1または2に記載の包装用二軸配向ポリエステルフィルム」
b 「【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムの代表例であるポリエチレンテレフタレート二軸延伸フィルムは、良好な機械強度、熱的特性、湿度特性、その他多くの優れた特性から、工業材料、磁気記録材料、光学材料、情報通信材料、包装材料など幅広い分野において使用されている。しかし、耐屈曲ピンホール性や耐突刺ピンホール性が特に重要となる包装材料用途においては、ポリエチレンテレフタレートではその強靱さの裏返しである硬さ故に特性が不十分であり、柔軟性に優れる脂肪族ポリアミド二軸延伸フィルムが多く使用されている。」
c 「【0011】
本発明の課題は上記した従来技術の問題点を解消することにある。すなわち、包装材料として使用するのに重要視される特性である、耐屈曲ピンホール性に優れるだけでなく、フィルム長手方向と幅方向の物性バランスに優れていることで、耐突刺ピンホール性にも優れており、なおかつ金属化合物を蒸着した際のガスバリア性にも優れる二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。」
d 「【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル樹脂からなることが必要である。ここで、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル樹脂とは、ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の95モル%以上がテレフタル酸成分であること、およびグリコール成分の95モル%以上がエチレングリコール成分からなるポリエステル樹脂を意味している。ジカルボン酸成分およびグリコール成分として5モル%以下の範囲でテレフタル酸およびエチレングリコール以外の残基成分を含有してもよく、その含有の仕方としては共重合ポリエチレンテレフタレートでもよいし、ポリエチレンテレフタレートに他のポリエステル樹脂をブレンドして使用しても良い。耐熱性、寸法安定性の観点からは共重合やブレンドを行わないポリエチレンテレフタレート樹脂そのものを用いることが好ましい。」
e 「【0021】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは耐ピンホール性、蒸着後のガスバリア性の観点から、150℃におけるフィルム幅方向の熱収縮率が0.5~2%であることが必要である。150℃における熱収縮率が0.5%未満であると、蒸着時に高温である金属化合物、特に金属酸化物がフィルム表面で冷却固化する際に収縮する機構との兼ね合いで、蒸着膜とフィルムとの界面構造が粗になるために高ガスバリア性を達成できないと考えられる。一方、収縮率が2%を越えると包装資材としての印刷工程や他の素材との貼合せ工程において収縮が大きすぎるためにピッチズレや幅変動の原因となる。また、熱収縮することで構造変化し、耐ピンホール性が劣化する場合があるので、フィルム長手方向、幅方向共に150℃での熱収縮率は0.5~1.5%であればより好ましい。150℃におけるフィルム幅方向の熱収縮率を0.5~2%とする方法としては、フィルム幅方向に十分延伸した後、熱処理の際にリラックスしながら熱処理を行うことが好ましく、特にリラックス率として2~10%とすることが好ましく、3~7%だとより好ましい。また、リラックスを行う際に緊張下で熱処理を行い、ついで、緊張下熱処理温度から5~30℃低い温度にてリラックス熱処理を行う、所謂低温リラックス法を用いると特に好ましい。また、長手方向の熱収縮率を好ましい範囲とする方法としては、緊張下での熱処理温度を200~230℃とする方法が好ましい。」
f 「【0021】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは耐ピンホール性、蒸着後のガスバリア性の観点から、150℃におけるフィルム幅方向の熱収縮率が0.5~2%であることが必要である。150℃における熱収縮率が0.5%未満であると、蒸着時に高温である金属化合物、特に金属酸化物がフィルム表面で冷却固化する際に収縮する機構との兼ね合いで、蒸着膜とフィルムとの界面構造が粗になるために高ガスバリア性を達成できないと考えられる。一方、収縮率が2%を越えると包装資材としての印刷工程や他の素材との貼合せ工程において収縮が大きすぎるためにピッチズレや幅変動の原因となる。また、熱収縮することで構造変化し、耐ピンホール性が劣化する場合があるので、フィルム長手方向、幅方向共に150℃での熱収縮率は0.5~1.5%であればより好ましい。150℃におけるフィルム幅方向の熱収縮率を0.5~2%とする方法としては、フィルム幅方向に十分延伸した後、熱処理の際にリラックスしながら熱処理を行うことが好ましく、特にリラックス率として2~10%とすることが好ましく、3~7%だとより好ましい。また、リラックスを行う際に緊張下で熱処理を行い、ついで、緊張下熱処理温度から5~30℃低い温度にてリラックス熱処理を行う、所謂低温リラックス法を用いると特に好ましい。また、長手方向の熱収縮率を好ましい範囲とする方法としては、緊張下での熱処理温度を200~230℃とする方法が好ましい。」
g 「【0023】
本発明の包装用二軸配向ポリエステルフィルムは、耐ピンホール性とガスバリア性の双方に優れた特性を発現させる観点で、フィルム長手方向と幅方向の破断強度が260~400MPaであることが好ましい。ここで、破断強度とは25℃での引張試験における破断強度である。破断強度が260MPa未満であると、低強度である方向が存在することとなり、平面の面内方向を同時に変形させる突刺強度において、低強度方向の存在がピンホールを発生させやすくする場合がある。一方、破断強度が400MPaを越えると包装体とした場合に内容物を取り出すための、カット性が悪化してしまう場合がある。耐ピンホール性とカット性を両立させる点で、長手方向及び幅方向の破断強度は265~350MPaであればより好ましく、270~330MPaであれば特に好ましい。フィルムの引張破断強度を掛かる好ましい範囲とする方法としては、上記した本発明の要件である面配向係数、複屈折を満足すると共に、フィルムの固有粘度が0.60~0.70であることが好ましい。フィルム固有粘度が0.60未満であると、ポリエステル樹脂の分子量が小さいために脆くなり、逆に固有粘度が0.70を越えるとフィルム面内の配向バランスを調整することが困難となる。」
h 「【0041】
(4)熱収縮率
フィルムを長手方向および幅方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルに100mmの間隔で標線を描き、3gの錘を吊して150℃に加熱した熱風オーブン内に30分間設置し加熱処理を行った。熱処理後の標線間距離を測定し、加熱前後の標線間距離の変化から熱収縮率を算出し、寸法安定性の指標とした。測定は各フィルムとも長手方向および幅方向に5サンプル実施して平均値で評価を行った。
【0042】
(5)破断強度
フィルムを長手方向および幅方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、初期チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分としてフィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ引張試験を行った。サンプルが破断する直前のフィルムにかかっていた荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×10mm)で除した値を破断強度とした。なお、測定は各サンプル、各方向に5回ずつ行い、その平均値で評価を行った。」
i 「【0048】
(ポリエステル樹脂の準備)
実施例には以下に記載の方法で製造したポリエステル樹脂を使用した。
【0049】
ポリエステルA
テレフタル酸ジメチル100質量部、およびエチレングリコール70質量部の混合物に、0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加して、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行う。ついで、該エステル交換反応生成物に、0.020質量部のリン酸85%水溶液を添加した後、重縮合反応釜に移行する。さらに、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行い、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂を作製した。これを、以下、ポリエステルAとする。
・・・
【0052】
粒子マスター
上記した各ポリエステルの重合時において、エステル交換反応後に平均粒子径2μmの凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加してから重縮合反応を行い、ポリマー中の粒子濃度2質量%の粒子マスターA~Cを作製した。
【0053】
(実施例1)
ポリエステルAと粒子マスターAを質量比で97:3で混合して使用した。まず、回転式真空乾燥機にて180℃3時間の乾燥を行い、ついで単軸の溶融押出機に供給し280℃のシリンダー温度で押し出した。溶融ポリマーを20μmカットの焼結フィルターを使用して異物を除去し、ついでギアポンプを使用して流量を計量、均整化した後、Tダイより20℃に温度制御した冷却ロール上に吐出した。その際、静電印加により溶融ポリマーをロールに密着させ、冷却固化した。このようにして得た未延伸フィルムを加熱ロールにて95℃まで加熱し、100℃に加熱したロールと40℃に温度制御した冷却ロール間にてフィルム長手方向に3.8倍延伸した。延伸区間でロール温度を測定すると105℃となっていた。長手方向に一軸延伸したフィルムを一旦冷却後、テンター式横延伸機に導入した。予熱温度90℃、延伸ゾーン温度110℃で幅方向に3.7倍延伸後、そのまま220℃で1.5秒間熱処理し、ついで幅方向に5%のリラックスを掛けながら200℃で1.5秒間熱処理を行い、最終的に厚み8μmの二軸配向フィルムを得た。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同様にポリエステル樹脂を計量混合、乾燥したのち、同様に押出機に供給して冷却ドラム上にTダイよりシート状に押出を行い、未延伸フィルムを得た。該未延伸フィルムを加熱ロールにて95℃まで加熱し、100℃に加熱したロールと40℃に温度制御した冷却ロール間にてフィルム長手方向に3.8倍延伸した。延伸区間でロール温度を測定すると105℃となっていた。長手方向に一軸延伸したフィルムを一旦冷却後、テンター式横延伸機に導入した。予熱温度90℃、延伸ゾーン温度110℃で幅方向に3.8倍延伸後、そのまま215℃で2秒間熱処理し、ついで幅方向に3%のリラックスを掛けながら215℃で2秒間熱処理を行い、最終的に厚み12μmの二軸配向フィルムを得た。
【0055】
(実施例3)
ポリエステルAと粒子マスターAを質量比で96:4で混合して使用した。まず、回転式真空乾燥機にて180℃4時間の乾燥を行い、ついで単軸の溶融押出機に供給し280℃のシリンダー温度で押し出した。溶融ポリマーを20μmカットの焼結フィルターを使用して異物を除去し、ついでギアポンプを使用して流量を計量、均整化した後、Tダイより25℃に温度制御した冷却ロール上に吐出した。その際、静電印加により溶融ポリマーをロールに密着させ、冷却固化した。このようにして得た未延伸フィルムを加熱ロールにて97℃まで加熱し、103℃に加熱したロールと45℃に温度制御した冷却ロール間にてフィルム長手方向に3.7倍延伸した。延伸区間でロール温度を測定すると107℃となっていた。長手方向に一軸延伸したフィルムを一旦冷却後、テンター式横延伸機に導入した。予熱温度95℃、延伸ゾーン温度110℃で幅方向に3.7倍延伸後、そのまま210℃で3秒間熱処理し、ついで幅方向に3%のリラックスを掛けながら200℃で3秒間熱処理を行い、最終的に厚み16μmの二軸配向フィルムを得た。」
j 「【0065】
【表1】
[図:0001381912000001.jpg]
」
(イ)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用した国際公開第2009/072462号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
a 「[0003] また従来のポリエステルは主に石油由来の原料を重縮合することにより製造されているが近年、化石燃料の減少、大気中の二酸化炭素含有量の増加という環境問題が深刻になってきており、この問題に対する対策が必要となっている。そこで、ポリエステルの原料として、化石燃料由来ではなく植物から誘導された原料を用いた環境負荷の軽減されたポリエステルが求められている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1:特開2006-321995号公報」
b 「[0004] 本発明の目的は、耐熱性の向上したポリエステルを提供することにある。また本発明の別の目的は、そのようなポリエステルの製造方法を提供する事である。
課題を解決するための手段
[0005] 本発明者は上記従来技術が有していた問題点を解消する為、ポリエステルに関して鋭意検討を重ねた。その結果、ジオール成分としてバイオマス資源から製造されたエチレングリコールを用いてポリエステルを製造することによって、従来公知のポリエステルと比較し、溶融状態下の耐熱性が向上することを見出した。より詳細にはポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)樹脂の融点+30℃の温度における溶融状態下においた場合のポリエステルの固有粘度低下が小さく、ポリエステルの耐熱性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
[0006] 即ち、本発明の目的は、ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)樹脂中に含まれる全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の14C濃度を100%の基準とした14C濃度の比率(以下バイオ化率と称することがある。)が11%以上であるポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)樹脂を提供する事であり、これにより上記課題を解決する事ができる。また好ましくは、本発明は固有粘度が0.50~1.00dL/gであるポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)樹脂である。また好ましくは、本発明はそのポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)樹脂が1950年時点の循環炭素中の14C濃度を100%の基準とした14C濃度の比率が16%以上のポリエチレンテレフタレート又は1950年時点の循環炭素中の14C濃度を100%の基準とした14C濃度の比率が11%以上のポリエチレンナフタレートである。
[0007] 別の本発明の目的は、芳香族ジカルボン酸ジメチルエステルを主たる酸成分原料として用い、エチレングリコール中に含まれる全炭素原子中1950年時点の循環炭素中の14C濃度を100%の基準とした14C濃度の比率が80%以上であるエチレングリコールをジオール成分として用いる上述のいずれかのポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)樹脂の製造方法によって達成する事ができる。またその芳香族ジカルボン酸ジメチルエステルがテレフタル酸ジメチル又はナフタレンジカルボン酸ジメチルであることが好ましい。更に、テレフタル酸ジメチルがポリエチレンテレフタレートを原料としアルキレングリコール、好ましくはエチレングリコールによる解重合反応工程を含む工程により、ポリエチレンテレフタレートを解重合し、その後にメタノールを用いてエステル交換反応を行うことによって得られたテレフタル酸ジメチルであることが好ましい。」
c 「[0009] 本発明において、バイオ化率が11%以上とは後述するように、構成全炭素量に対する放射性炭素である14Cの濃度を測定し、その14Cの濃度が基準となる物質の濃度である107.44pMCの場合をバイオ化率100%として、その基準濃度(107.44pMC)に対する比率が11%で以上であることを表す。またバイオマスエチレングリコールとはバイオマス資源から製造したエチレングリコールであり、後述の手法にて測定して得られたバイオ化率の値が80%以上のエチレングリコールのことを指す。
[0010] ここでバイオマス資源とは太陽エネルギーを使い、水と二酸化炭素から生成される再生可能な生物由来のカーボンニュートラルな有機性資源を指し、石炭、石油、天然ガスなどに由来する化石資源を除く資源のことを指す。
[0011] 本発明にバイオマス資源はその発生形態から廃棄物系、未利用系、資源作物系の3種に分類される。バイオマス資源は具体的には、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣など)、リグニン、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油など)、グリセロール、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、キャッサバなど)、バガス、テルペン系化合物、パルプ黒液、生ごみ、排水汚泥などが挙げられる。また、バイオマス資源からグリコール化合物を製造する方法は、特に限定はされないが、菌類や細菌などの微生物などの働きを利用した生物学的処理方法、酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー若しくは光エネルギーなどを利用した化学的処理方法、又は微細化、圧縮、マイクロ波処理若しくは電磁波処理など物理的処理方法など既知の方法が挙げられる。
[0012] バイオマス資源からエチレングリコールに変換する方法としては、種々の方法をあげることができる。その製造方法は特に限定されないが、まずバイオマス資源から菌類や細菌などの微生物などの働きを利用した生物学的処理方法、酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー若しくは光エネルギーなどを利用した化学的処理方法、微細化、圧縮、マイクロ波処理若しくは電磁波処理など物理的処理方法など既知の方法を行う。これらの方法により得られた生成物に対して、さらに触媒を用いて水素加熱分解反応を行い精製する方法が挙げられる。
[0013] また別の方法の1つとして、サトウキビ、バガス、その他の炭水化物系作物などから生物学処理方法によりエタノールを製造し、更にこのエタノールからエチレンオキサイドを経て、精製する方法も挙げられる。このような手法により製造され、更に蒸留操作等により精製する方法も採用する事ができる。或いはバイオマス資源からエチレングリコールを得る別の方法として、以下の方法も挙げることができる。すなわちバイオマス資源からグリセロール、ソルビトール、キシリトール、グルコール、フルクトース又はセルロースなどに変換し、さらに触媒を用いて水素加熱分解反応により、それらの化合物からエチレングリコールと1,2-プロパンジオールの混合物を生成する方法である。又更なる別の方法として、サトウキビ、バガス、炭水化物系作物などから生物学処理方法によりエタノールを製造し、更に、エチレンオキサイドを経て、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの混合物を生成する方法などが挙げられる。
[0014] 本発明においてバイオ化率とはエチレングリコール、ポリエステル構成全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の放射性炭素である14C濃度を基準(この値を100%と設定する)とした場合の14C濃度の比率を表す。その放射性炭素である14Cの濃度は以下の測定方法(放射性炭素濃度測定)により測定する事ができる。すなわち14Cの濃度測定は、タンデム加速器と質量分析計を組み合わせた加速器質量分析法(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)によって、分析する試料に含まれる炭素の同位体(具体的には12C、13C、14Cが挙げられる。)を加速器により原子の重量差を利用して物理的に分離し、同位体の原子一つ一つの存在量を計測する方法である。
[0015] 炭素原子1モル(6.02×1023個)中には、通常の炭素原子の約一兆分の一である約6.02×1011個の14Cが存在する。14Cは放射性同位体と呼ばれ、その半減期は5730年で規則的に減少している。これらが全て崩壊するには22.6万年を要する。従って大気中の二酸化炭素等が植物等に取り込まれて固定化された後、22.6万年以上が経過したと考えられる石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料においては、固定化当初はこれらの中にも含まれていた14C元素は全てが崩壊している。故に21世紀である現在は石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料においては14C元素は全く含まれていない。故にこれらの化石燃料を原料として生産された化学物質にも14C元素は全く含まれていない。一方、14Cは宇宙線が大気中で原子核反応を行い、絶え間なく生成され、放射壊変による減少とがバランスし、地球の大気環境中では、14Cの量は一定量となっている。
[0016] 一方、大気中の二酸化炭素が植物やそれを食する動物などに取り込まれて固定化された場合には、その取り込まれた状態では14Cは新たに補充されることなく、14Cの半減期に従って時間の経過とともに14C濃度は一定の割合で低下する。このため、グリコール化合物中の14C濃度を分析することにより、化石燃料などの化石資源を原料としたものか、或いはバイオマス資源を原料にしたグリコール化合物か簡易に判別することが可能となる。またこの14C濃度は1950年時点の自然界における循環炭素中の14C濃度をmodern standard referenceとし、この14C濃度を100%とする基準を用いる事が通常行われる。現在のこのようにして測定される14C濃度は約110pMC(percent Modern Carbon)前後の値であり、仮に試料として用いられているプラスチック等が100%天然系(生物系)由来の物質で製造されたものであれば、110pMC程度の値を示すことが知られている。この値が上述で言うバイオ化率100%に相当する。一方石油等の化石燃料由来の化学物質を用いてこの14C濃度を測定した場合、ほぼ0pMCを示すことも知られている。この値が上述で言うバイオ化率0%に相当する。これらの値を利用して天然資源由来の化合物(バイオマス資源由来の化合物)-化石資源由来の化合物の混合比を算出する事が出来る様になる。
[0017] 更にこの14C濃度の基準となるmodern standard referenceとしてはNIST(National Institute of Standards and Technology:米国国立標準・技術研究所)が発行した蓚酸標準体を用いる事が好ましく採用する事が出来る。この蓚酸中の炭素の比放射能(炭素1g当たりの14Cの放射能強度)を炭素同位体毎に分別し、13Cについて一定値に補正して、西暦1950年から測定日までの減衰補正を施した値を標準の14C濃度濃度の値として用いている。
[0018] グリコール化合物中の14C濃度の詳細な分析方法は、まずグリコール化合物の前処理が必要となる。具体的にはグリコール化合物に含まれる炭素を酸化処理し、すべて二酸化炭素へと変換する。更に、得られた二酸化炭素を水や窒素と分離し、二酸化炭素を還元処理し、固形炭素であるグラファイトへと変換する。この得られたグラファイトにCs+などの陽イオンを照射して炭素の負イオンを生成させる。引き続いて、タンデム加速器を用いてその炭素イオンを加速し、負イオンから陽イオンへ荷電変換させ、質量分析電磁石により12C3+、13C3+、14C3+の進行する軌道を分離し、分離した14C3+を静電分析器により測定を行う。
[0019] 本発明において、重合して生成されるポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)樹脂は芳香族ジカルボン酸ジメチルエステルを主たる原料として用い、バイオ化率80%以上のエチレングリコールをジオール成分として用いた製造方法により得ることができる。その芳香族ジカルボン酸ジメチルエステルとしてテレフタル酸ジメチル又はナフタレンジカルボン酸ジメチルを用いる事は、好ましく採用する事が出来る。他の種類の芳香族ジカルボン酸ジメチルエステルより入手が比較的容易なので工業的に実施しやすいからである。ナフタレンジカルボン酸ジメチルは多数の構造異性体が存在するが、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル、又は2,7-ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルがより好ましい。」
(ウ)引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用した特開2009-91694号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「【0006】
また、バイオマス由来物質を原料としてなるポリエステルは、化学構造的には従来の石油材料起源のポリエステルとなんら変わらないため、ポリエステルとしての優れた物性はそのまま維持されている。」
b 「【0007】
本発明は、石油資源の枯渇を抑制し、地球温暖化の原因物質である大気中の二酸化炭素の増加を抑制する手段として、従来のような石油系由来の原料のみからなるPETに替えて、生物産生のバイオマス素材を原料としたPETを提供しようとするものである。」
c 「【0010】
また、本発明のPETは、放射性炭素の測定によるところのバイオマス由来の炭素を10%以上含有したものであるため、PET素材としての石油資源の消費を削減できるものであり、また、焼却廃棄にあたっても大気中への二酸化炭素の純増を、抑制することができる。
【0011】
本発明のPETは、ポリマー物性としては従来の化石資源由来のPETに比べて何ら遜色を有するものではないため、繊維、不織布、シート、フィルムや成型物などの用途に使用することができ、自動車内装材用途においても好適に使用することができる。」
d 「【0012】
以下、本願発明について詳細に説明する。本発明のPETとしては、エチレングリコールとテレフタル酸を主たる構成成分としてなるものであり、得られたポリエステルの物性が損なわれない範囲において、他のモノマー成分を共重合させることができるが、エチレンテレフタレートの繰り返し単位が80モル%以上であることが好ましい。共重合可能な酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸などがあり、具体的には、芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、5-スルホイソフタル酸など:脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸など:脂環族ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸:ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などが挙げられる。また、共重合可能なアルコール成分としては、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体などの二価アルコール:ペンタエリスリトールなどの多価アルコールが挙げられる。
【0013】
本発明のPETとしては、放射性炭素(炭素14)測定によるところのバイオマス由来炭素を、ポリマー中の全炭素に対して10.0%以上含有していることが必要である。また、上限としては、25.0%以下であることが好ましく、より好ましくは24.0%以下であり、さらに好ましくは23.4%以下である。
【0014】
本発明のPETとしては、既述のとおり、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするものであるが、例えば、エチレンテレフタレートのみからなる場合、ポリマーを構成する炭素は、テレフタル酸モノマーで8原子、エチレングリコールモノマーで2原子存在し、テレフタル酸とエチレングリコールが1:1のモル比で反応したものとなる。ここで、テレフタル酸をバイオマス原料から誘導することは、現状では技術的な確立はなされていない。したがって、バイオマス由来のPETとしては、石油由来のテレフタル酸とバイオマス由来のエチレングリコールの組み合わせとなり、バイオマス由来のエチレングリコールのみを使用したPETでは、計算上バイオマス由来の炭素の含有割合は20.0%となる。また、上記エチレングリコールのうち、50モル%をバイオマス由来、残り50モル%を石油由来のエチレングリコールとした場合、得られるPET中のバイオマス由来炭素の含有割合は10%となる。或は、100%バイオマス由来のエチレングリコールからなるPETと100%化石資源由来からなるPETとのブレンド又は共重合体についても、バイオマス由来炭素の含有割合は10.0%となる。
【0015】
また、他のモノマー成分を共重合した場合、例えば、ジオール成分のうちの20モル%をバイオマス由来の1,3-プロパンジオールとした場合では、炭素比率としてはテレフタル酸:エチレングリコール:1,3-プロパンジオール=8:1.6:0.6となり、バイオマス由来炭素の含有割合は21.5%となる。さらに、酸成分として炭素数が最も少ないシュウ酸を20モル%共重合させた場合では、炭素比率としてはテレフタル酸:シュウ酸:エチレングリコール:1,3-プロパンジオール=6.4:0.8:1.6:0.6となり、バイオマス由来炭素の含有割合は23.4%となる。
【0016】
したがって、本発明のPETとしては、該バイオマス由来炭素の含有割合が10%未満である場合、得られるポリエステルとしては、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の面では効果が乏しいものとなる。また、該含有割合が25.0%を超える場合については、共重合成分が過多となるため、本来のPETの物性が損なわれる虞があり、好ましくない。」
e 「【0020】
以下に、本発明のPETの製造方法について説明する。
本発明のPETとしては、常法により製造することができる。例えば、(a)バイオマス由来のEGなどのグリコール成分とTPAなどの酸成分とから、通常の手法で重縮合する方法、(b)石油由来のPETをバイオマス由来のモノマー成分で解重合した後、再度重縮合を行いバイオマス由来成分を導入する方法、(c)バイオマス由来PETと石油由来のPETとをブレンド又はエステル交換させる方法、などが挙げられる。」
f 「【0024】
次に、本発明のPETの加工法について説明する。
本発明のPETを用いて繊維を製造する場合、300℃近い高温で溶融したPETをノズル孔から押し出し、冷却した糸条を延伸し、必要に応じて切断し、あるいはそのまま巻き取って製品とする。シート、フィルムの場合も繊維製造に準じて、細長いノズル孔から溶融PETを押し出し、必要に応じて延伸して製品とする。
・・・
【0027】
本発明におけるバイオマス由来炭素を含むPETは、従来の石油由来のPETが使用されている、いずれの用途分野においても置き換えは可能であるが、近年、積極的にバイオマス由来の素材を採用しようとしている自動車内装材に適用することがより好ましい。」
エ 引用文献4に記載された発明
引用文献4には、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3に係る包装用二軸配向ポリエステルフィルムが記載されており、これを独立形式で表現すると次のようになる。
「ポリエチレンテレフタレートを主体とする二軸配向フィルムであって、
面配向係数が0.168~0.172、
複屈折の絶対値が5未満、
150℃におけるフィルム幅方向の熱収縮率が0.5~2%であり、
なおかつフィルム厚みが7~20μmであり、
フィルムの長手方向および幅方向の引張破断強度が260~400MPaであることを特徴とする包装用二軸配向ポリエステルフィルム」
一方、引用文献4には、実施例2及び3として二軸配向ポリエステルフィルムが記載されており、当該フィルムは、ポリエステルA(【0049】)と粒子マスターA(【0052】)を用いて、【0054】に記載された方法により製造したものであって、これは、上記請求項1を引用する請求項3に係る包装用二軸配向ポリエステルフィルムが有する特性を満たす具体例であるといえる。
そうすると、引用文献4には、実施例2に着目して、次の発明が記載されているといえる。
「テレフタル酸ジメチル100質量部、およびエチレングリコール70質量部の混合物に、0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加して、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行い、ついで、0.020質量部のリン酸85%水溶液を添加した後、重縮合反応釜に移行し、さらに、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行って作製した、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂であるポリエステルAと、
上記ポリエステルAの重合時において、エステル交換反応後に平均粒子径2μmの凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加してから重縮合反応を行って得た、ポリマー中の粒子濃度2質量%の粒子マスターAを、質量比で97:3で混合し、
回転式真空乾燥機にて180℃3時間の乾燥を行い、単軸の溶融押出機にて280℃のシリンダー温度で押し出し、溶融ポリマーを20μmカットの焼結フィルターにより異物を除去し、ついでギアポンプを使用して流量を計量、均整化した後、Tダイより20℃に温度制御した冷却ロール上に吐出し、静電印加により溶融ポリマーをロールに密着させて冷却固化して未延伸フィルムを得て、
該未延伸フィルムを加熱ロールにて95℃まで加熱し、100℃に加熱したロールと40℃に温度制御した冷却ロール間にてフィルム長手方向に3.8倍延伸し、これを一旦冷却後、テンター式横延伸機に導入して予熱温度90℃、延伸ゾーン温度110℃で幅方向に3.8倍延伸後、そのまま215℃で2秒間熱処理し、ついで幅方向に3%のリラックスを掛けながら215℃で2秒間熱処理を行って得られた、包装用二軸配向ポリエステルフィルムであって、
厚みが12μm、面配向係数が0.172、複屈折率が2、150℃における熱収縮率がフィルム長手方向(MD方向)で2.8、フィルム幅方向(TD方向)で1.2であり、破断強度がMD方向で290MPa、TD方向で275MPaである、上記包装用二軸配向ポリエステルフィルム。」(以下、「引用発明A」という。)
同じく、引用文献4には、実施例3に着目して、次の発明が記載されているといえる。
「テレフタル酸ジメチル100質量部、およびエチレングリコール70質量部の混合物に、0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加して、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行い、ついで、0.020質量部のリン酸85%水溶液を添加した後、重縮合反応釜に移行し、さらに、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行って作製した、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂であるポリエステルAと、
上記ポリエステルAの重合時において、エステル交換反応後に平均粒子径2μmの凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加してから重縮合反応を行って得た、ポリマー中の粒子濃度2質量%の粒子マスターAを、質量比で96:4で混合し、
回転式真空乾燥機にて180℃4時間の乾燥を行い、単軸の溶融押出機にて280℃のシリンダー温度で押し出し、溶融ポリマーを20μmカットの焼結フィルターを使用して異物を除去し、ついでギアポンプを使用して流量を計量、均整化した後、Tダイより25℃に温度制御した冷却ロール上に吐出し、静電印加により溶融ポリマーをロールに密着させ、冷却固化して未延伸フィルムを得て、該未延伸フィルムを加熱ロールにて97℃まで加熱し、103℃に加熱したロールと45℃に温度制御した冷却ロール間にてフィルム長手方向に3.7倍延伸し、これを一旦冷却後、テンター式横延伸機に導入して予熱温度95℃、延伸ゾーン温度110℃で幅方向に3.7倍延伸後、そのまま210℃で3秒間熱処理し、ついで幅方向に3%のリラックスを掛けながら200℃で3秒間熱処理を行って得られた、包装用二軸配向ポリエステルフィルムであって、
厚みが16μm、面配向係数が0.171、複屈折率が-1、150℃における熱収縮率がフィルム長手方向(MD方向)で2.5、フィルム幅方向(TD方向)で0.7であり、破断強度がMD方向で285MPa、TD方向で290MPaである、上記包装用二軸配向ポリエステルフィルム。」(以下、「引用発明B」という。)
オ 本件補正発明と引用発明A及びBとの対比及び検討
(ア)対比
本件補正発明と、引用発明A及びBとをまとめて対比する。
a 引用発明A及びBの「ポリエステルA」は、テレフタル酸ジメチルおよびエチレングリコールの混合物を用いてエステル交換反応を行った後、重縮合反応を行って作製したポリエチレンテレフタレート樹脂であって、テレフタル酸ジメチルは上記エステル交換反応によりジカルボン酸単位としてテレフタル酸を用いたのと同じ化学構造になることは本願出願時の技術常識であるから、本件補正発明の「前記ジオール単位がさとうきび由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であるバイオマス由来のポリエステル」と、ジオール単位がエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位がテレフタル酸であるポリエステルである限りにおいて、一致する。
また、引用発明A及びBの「粒子マスターA」は、ポリエステルAの重合工程におけるエステル交換反応後に、凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加して重縮合して得られた、凝集シリカ粒子濃度2%のポリエチレンテレフタレート樹脂であって、ポリエステルAと混合して、凝集シリカが微量添加されたポリエチレンテレフタレート樹脂を得るためのものである。そして、上記「粒子マスターA」のように、樹脂に微量成分を添加するために、予め樹脂とその成分を混合したものをマスターバッチと呼ぶことは本願出願前に周知の事項であるから、引用発明A及びBの「粒子マスターA」は、本件補正発明の「多孔性シリカを含む化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートマスターバッチ」と、シリカを含むポリエチレンテレフタレートマスターバッチである限りにおいて一致する。
そして、上述のように、「ポリエステルA」及び粒子マスターA中の「ポリマー」はポリエチレンテレフタレート樹脂であるから、本件補正発明の「ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステル」に相当する。
b 引用発明A及びBの「包装用二軸配向ポリエステルフィルム」は、包装の用途に用いられるものであり、上記未延伸フィルムをフィルム長手方向に延伸した後、幅方向に延伸して得られたものであるから、本件補正発明の「2軸延伸フィルム」である「包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルム」に相当する。
c 引用発明Aの「破断強度がMD方向で290MPa、TD方向で275MPaである」の単位をkgf/mm2に換算すると、MD方向で29.6kgf/mm2、28.1kgf/mm2であり、同じく引用発明Bの「破断強度がMD方向で285MPa、TD方向で290MPaである」は、MD方向で29.1kgf/mm2、29.6kgf/mm2であるから、引用発明A及びBの上記破断強度は、本件補正発明の「破断強度が、MD方向で5~40kgf/mm2、TD方向で5~35kgf/mm2であり」に相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明A及びBとは、
「ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含んでなる樹脂組成物からなる包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルムであって、
前記樹脂フィルムが、前記ジオール単位がエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位がテレフタル酸であるポリエステルと、シリカを含むポリエチレンテレフタレートマスターバッチと、を含む樹脂組成物を用いて形成されたものであり、
前記樹脂フィルムが2軸延伸フィルムであり、
前記樹脂フィルムの破断強度が、MD方向で5~40kgf/mm2、TD方向で5~35kgf/mm2である、包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルム。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件補正発明のポリエステルは、ジオール単位であるエチレングリコールがさとうきび由来であり、ジカルボン酸単位であるテレフタル酸が化石燃料由来である、バイオマス由来のポリエステルであるのに対して、引用発明A及びBの「ポリエステルA」は、上記「(ア)対比」の前段で述べたように、ジオール単位がエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位がテレフタル酸であるポリエステルであるが、エチレングリコールがさとうきび由来か不明であり、テレフタル酸単位が化石燃料由来か不明であって、ポリエステルがバイオマス由来か不明である点
相違点2:ポリエチレンテレフタレートマスターバッチの成分について、シリカ成分が、本件補正発明は「多孔性シリカ」であるのに対して、引用発明A及びBは「凝集シリカ粒子」であり、ポリエチレンテレフタレート成分が、本願補正発明は「化石燃料由来のポリエチレンテレフタレート」であるのに対して、引用発明A及びBは化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートであるのかが不明である点
相違点3:樹脂フィルムを「150℃で30分熱処理したときのMD方向の熱収縮率」について、本件補正発明では「JIS/C-2318に準拠した」「熱収縮率が2.23~5%」であるのに対して、引用発明A及びBではそれぞれ「2.8%」及び「2.5%」であり、その測定方法が明示されていない点
(イ)相違点の検討
a 相違点1について
まず、テレフタル酸について検討すると、引用発明A及びBの「ポリエステルA」に関して、引用文献4の出願当時は、テレフタル酸をバイオマス原料から誘導することは技術的に確立されていなかったことから(引用文献3の【0014】を参照)、「ポリエステルA」のジカルボン酸単位であるテレフタル酸は化石燃料由来であると解される。
次に、エチレングリコールについて検討すると、引用文献1には、技術的な背景として、近年、化石燃料の減少や大気中の二酸化炭素濃度の増加という環境問題が深刻になってきており、ポリエステルの原料として植物から誘導された原料を用いた環境負荷の低減されたポリエステルが求められており、ジオール成分としてサトウキビ等のバイオマス由来のエチレングリコールを用いたポリエチレンテレフタレートが記載されている([0003][0005]~[0007]、[0009]~[0019])。また、引用文献3には、石油資源の枯渇を抑制し、大気中の二酸化炭素の増加を抑制する手段として、生物産生のバイオマス素材を原料にするPETを提供することが記載されている(【0007】、【0013】~【0016】)。
また、引用文献3には、PETの原料成分の一部にバイオマス由来素材から製造されたモノマーを使用することが記載され(【0008】)、バイオマス由来のPETとしては、テレフタル酸をバイオマス原料から誘導することは技術的に確立されていないため、石油由来のテレフタル酸とバイオマス由来のエチレングリコールの組み合わせとなることが記載され(【0014】)、実施例では、バイオマス由来のエチレングリコールとして、インディアグライコール社(インド)製のエチレングリコールを用いたことが記載されている(【0030】)。そして、上記インディアグライコール社製のエチレングリコールは、本願明細書の実施例(【0051】)で用いられたバイオマスエチレングリコールと同じ製造者によるものであって、審判請求人は本願明細書の実施例で用いられたバイオマスエチレングリコールがさとうきび由来であると述べている(平成29年12月21に提出した上申書及びこれに添付した参考資料1と参考資料2、並びに、同じく平成31年1月30日に提出した意見書及びこれに添付した参考資料3)ことから、引用文献3の実施例で用いられたバイオマス由来のエチレングリコールもさとうきび由来であると推察される。
このように、化石燃料の減少という資源問題や大気中の二酸化炭素濃度の増加という環境問題に対応して、ポリエチレンテレフタレートの原料であるエチレングリコールをバイオマス由来のものとし、バイオマス原料にさとうきびを用いることは、本願出願前に周知の事項であり、上記資源及び環境問題への対応は、一般に、ポリエチレンテレフタレート樹脂、その樹脂組成物、当該樹脂組成物から製造されるフィルムの製造に共通する周知の課題であるといえるから、引用発明A及びBにおいて、エチレングリコールをバイオマスであるさとうきび由来とし、バイオマス由来のポリエステルとすることは、引用文献1及び3の記載、並びに本願出願前に周知の事項から動機付けられるといえる。
そうすると、引用発明A及びBにおける「ポリエステルA」を、ジオール単位であるエチレングリコールがさとうきび由来であり、ジカルボン酸単位であるテレフタル酸が化石燃料由来であるバイオマス由来のポリエステルにすることは当業者が容易に想到し得たことである。
b 相違点2について
引用発明A及びBは、凝集シリカ粒子を含むポリエチレンテレフタレート樹脂である「粒子マスターA」を含有するものである。ここで、引用文献4の出願当時に、ポリエチレンテレフタレート樹脂の原料として化石燃料由来のジオール及びジカルボン酸を用いることが一般的であったことから、引用発明Aの「粒子マスターA」中のポリエチレンテレフタレートは化石燃料由来であるといえる。そして、上記凝集シリカ粒子は、シリカ粒子が凝集し、粒子間が多孔性を示すものであると解される(必要があれば、特開2002-19064号公報の【0016】を参照)。
そうすると、引用発明A及びBにおいても、多孔性シリカを含む化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートマスターバッチを含むといえるから、相違点2は実質的な相違点ではない。
仮に、引用発明A及びBの「凝集シリカ粒子」が多孔性シリカであるか明らかでないとしても、包装用ポリエステルフィルムに、種々の目的のために多孔性シリカを添加することは、本願出願前に周知の事項であるから(例えば、特開2003-266535号公報の【0020】、【0021】、【0024】及び表1、特開2001-220435号公報の請求項2及び【0010】を参照。なお、特開2003-266535号公報の【0027】には粒子マスターにして添加することも記載されている。)、引用発明A及びBにおいて、凝集シリカ粒子に代えて、多孔性シリカを用いることは当業者が容易に想到し得たことである。
c 相違点3について
引用発明A及びBにおいては、サンプルに「3gの錘を吊して150℃に加熱した熱風オーブン内に30分間設置し加熱処理を行った」(甲4の【0041】)という測定方法によるものではあるが、「2.8%」及び「2.5%」という比較的低い熱収縮率といえる値であるところ、熱収縮率の測定方法までは本件補正発明と同じであるとはいえないまでも、低い熱収縮率を示すものであるといえる。一方、包装用に用いるポリエステルフィルムとして、JIS/C-2318に準拠して150℃で30分間熱処理したときのMD方向の熱収縮率を2.23~5%の範囲内としたものは、本願出願前に周知の事項である(例えば、特開2009-269302号公報の【0050】、【0069】及び【0105】)。また、ポリエステルフィルムの熱収縮率をどの程度小さくするかは、許容する熱収縮後の包装体の品質や熱収縮に伴う加工しにくさ等に応じて当業者が適宜設定することである。
そうすると、引用発明A及びBにおいて、「JIS/C-2318に準拠した150℃で30分熱処理したときのMD方向の熱収縮率が2.23~5%」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
カ 本件補正発明の効果について
本件補正発明は、「カーボンニュートラルなポリエステル樹脂を実現できる。」及び「本発明の樹脂組成物からなるフィルムは、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリエステルフィルムと機械的特性等の物性面で遜色がなく、従来のポリエステルフィルムを代替することができる。」(本願明細書の【0016】)という効果を奏するものである。
しかしながら、上記オ(イ)aで述べたように、化石燃料の減少という資源問題や大気中の二酸化炭素濃度の増加という環境問題に対応して、ポリエチレンテレフタレートの原料であるエチレングリコールをバイオマス由来とすること、及び、バイオマス原料としてさとうきびを用いることは、本願出願時の技術常識であり(引用文献1及び3の上記記載を参照)、本件補正発明における上記「カーボンニュートラルなポリエステル樹脂を実現できる」という効果は、本願出願時の技術常識から予測し得ることである。
また、引用文献3に「バイオマス由来物質を原料としてなるポリエステルは、化学構造的には従来の石油材料起源のポリエステルとなんら変わらないため、ポリエステルとしての優れた物性はそのまま維持されている」(上記ウ(ウ)aの【0006】)と記載されるように、バイオマス由来のポリエチレンテレフタレートは従来の化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートと同じ物性が維持されていることは本願出願時の技術常識であり、この技術常識に基づくと、本件補正発明の上記「本発明の樹脂組成物からなるフィルムは、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリエステルフィルムと機械的特性等の物性面で遜色がなく、従来のポリエステルフィルムを代替することができる」という効果は、当業者が予測し得ることである。
キ 請求人の主張について
(ア)主張の内容
審判請求人は、審判請求書において、次のa~dの主張をしている。
a 引用文献1には、「ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートは…繊維、フィルムなどの様々な用途に広く利用され…一般には溶融成形にて繊維、フィルムが製造されている」(【0002】)と記載されているが、バイオポリエステルを二軸配向ポリエステルフィルムの製造に用いることができることは何ら開示も示唆もされていないし、フィルムの製造とボトルの製造とでは原料として用いる樹脂に必要な性質が異なるから、引用文献1に記載のバイオポリエステルを引用文献4の二軸配向ポリエステルフィルムに用いることは到底考えられない。(審判請求書6頁9行~7頁20行)
b 引用文献3には、「シート、フィルムの場合も繊維製造に準じて…溶融PETを押し出し、必要に応じて延伸して製品とする」(【0024】)と記載されているが、実際に実施例において、バイオPETを加工して得られているものは短繊維とボトルのみであり、バイオPETを加工してフィルムが得られるかどうかは読み取れないから、引用文献3に記載のバイオPETを、引用文献4の二軸配向ポリエステルフィルムに用いることは到底考えられない。(審判請求書7頁21行~8頁10行)
c 引用文献4には、「収縮率が2%を超えると包装資材としての印刷工程や他の素材との貼合わせ工程において収縮が大きすぎる」(【0021】)と記載され、本願発明の熱収縮率を採用する際の阻害要因がある。(審判請求書9頁10~17行)
d バイオマス由来のポリエステルから構成された樹脂フィルムは、化石燃料由来のポリエステルから構成された樹脂フィルムよりも、瞬間的に引っ張った際に破断しやすいが、本願発明において、バイオマス由来のポリエステルに化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートマスターバッチを混合することで、従来の化石燃料由来の原料から製造されたものと比較して、機械的特性等の物性面で遜色ない樹脂フィルムとすることができるという効果は、当業者が予測できない。(審判請求書10頁13~24行)
また、審判請求人は、令和2年8月5日提出の上申書において、次のeの主張をしている。
e 本願発明は、従来の化石燃料由来のポリエステルフィルムと機械的特性等の物性面で遜色ない樹脂フィルムを得るために、バイオマス由来のポリエステルに多孔性シリカを含む化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートマスターバッチを混合しているが、この点は、引用文献4、引用文献1及び3等のいずれの文献にも何ら開示も示唆もされていないから、当業者が容易に想到し得ると考えられない。(上申書2頁下2行~3頁14行)
(イ)主張a及びbについて
まず、引用文献4には、ジオール成分としてバイオ化率80%以上のエチレングリコールが使用された耐熱性を有するポリエステルに関し、フィルム以外の成形体とするためのものであることは記載されていないから、引用文献4に記載のポリエステルがフィルム用に適しないと解することはできない。
また、樹脂組成物の成形は、ポリエステル以外の添加剤の配合や温度等の処理条件によっても影響を受けるから、フィルム等の形状に適した配合や処理条件を選択することは、当業者が適宜行うことであるといえる。
そして、ポリエステルにおいてもフィルム用は一般的な用途の1つであり、また、バイオポリエステルも従来の化石燃料由来のポリエステルもその化学構造は同じであって同等の特性を有するものであることは、本願出願時の技術常識であるから(必要があれば、引用文献3の【0006】を参照)、引用発明A及びBにおける「ポリエステルA」のエチレングリコールを、さとうきび由来のエチレングリコールに替えたバイオポリエステルを二軸配向フィルム用に使用することは動機付けられ、二軸配向フィルムに用いることは到底考えられないという上記主張は技術的な根拠に乏しいと解される。
(ウ)主張cについて
引用文献4には、「150℃におけるフィルム幅方向の熱収縮率が0.5~2%であることが必要である」(【0021】)と記載されており、上記「収縮率が2%を超えると」との記載は、フィルム幅方向、すなわち、TD方向の熱収縮率のことであって、MD方向の熱収縮率のことではないから、当該記載が阻害要因となるとの主張は、その前提において誤っている。
そして、上記オ(イ)cで述べたとおり、引用文献4に記載された引用発明A及びBにおいて、「JIS/C-2318に準拠した150℃で30分熱処理したときのMD方向の熱収縮率が2.23~5%である」ことを採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(エ)主張dについて
上記主張における「バイオマス由来のポリエステルから構成された樹脂フィルムは、化石燃料由来のポリエステルから構成された樹脂フィルムよりも、瞬間的に引っ張った際に破断しやすい」との説明は、具体的な証拠に基づくものではなく、また、本願出願時の技術常識であるといえるものでもない。
また、上記説明は、本願明細書における「バイオマス由来のエチレングリコールは、従来の化石燃料由来のエチレングリコールと化学構造が同じであるため、バイオマス由来のエチレングリコールを用いたポリエステルは、従来の化石燃料由来の原料から重合したポリエステルとなんら変わらず」(【0017】)との記載、及び「本発明による樹脂組成物からなるフィルムは、従来の化石燃料由来の材料のみから製造されるポリエステルフィルムの物性と同等である」(【0047】)との記載と整合しないものである。
そうすると、上記主張dを採用することはできない。
(オ)主張eについて
上記オ(イ)aで述べたように、化石燃料の減少という資源問題や大気中の二酸化炭素濃度の増加という環境問題に対応して、エチレングリコールをバイオマス由来としたバイオポリエチレンテレフタレートは本願出願時の技術常識であり、上記資源及び環境問題への対応は、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物及びこれを成形したフィルム等の製品に共通する周知の課題であるといえる。そして、化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートを、その一部分であってもバイオマス由来のポリエチレンテレフタレートに置き換えることにより、上記資源及び環境問題への対応策となり得ることは、当業者に明らかである。このことは、引用文献3にも、100%バイオマス由来のエチレングリコールからなるPETと100%化石資源由来からなるPETとのブレンドについても言及されている(【0014】及び【0020】)。そして、上記カで述べたとおり、引用文献3に「バイオマス由来物質を原料としてなるポリエステルは、化学構造的には従来の石油材料起源のポリエステルとなんら変わらないため、ポリエステルとしての優れた物性はそのまま維持されている」と記載されるように、バイオマス由来のポリエチレンテレフタレートは従来の化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートと同じ物性が維持されていることは、本願出願時の技術常識である。
これらのことから、引用発明A及びBにおいても、化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートとバイオマス由来のポリエチレンテレフタレートを混合して用いることに阻害要因があるとはいえず、上記主張を採用することはできない。
ク 小括
したがって、本件補正発明は、引用文献4に記載された発明、引用文献4記載された事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、審判請求時の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、令和1年5月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含んでなる樹脂組成物からなる包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルムであって、
前記樹脂フィルムが、前記ジオール単位がさとうきび由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であるバイオマス由来のポリエステルと、多孔性シリカを含む化石燃料由来のポリエチレンテレフタレートマスターバッチと、を含む樹脂組成物を用いて形成されたものであり、
前記樹脂フィルムが2軸延伸フィルムであり、
前記樹脂フィルムの破断強度が、MD方向で5~40kgf/mm2、TD方向で5~35kgf/mm2であることを特徴とする、包装製品用またはラベル材料用樹脂フィルム。」(以下「本願発明」という。)
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された引用文献4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用した引用文献4、引用文献1、及び引用文献3に記載された事項は、上記第2の2(2)ウに記載したとおりである。
そして、引用文献4には、第2の2(2)エに記載したとおり、引用発明A及びBが記載されている。
4 対比及び検討
本願発明は、上記第2の2(2)オ(ウ)cで検討した本件補正発明の「JIS/C-2318に準拠した150℃で30分熱処理したときのMD方向の熱収縮率が2.23~5%である」との発明特定事項がないものである。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2の2で述べたように、引用文献4に記載された発明、引用文献4に記載された事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献4に記載された発明、引用文献4に記載された事項、及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献4に記載された発明、引用文献4に記載された事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-005713