特許拒絶査定不服審判
2020-004293
有機発光デバイスおよびそれを製造する方法
- 審判番号
- 2020-004293
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-505817
- 請求日
- 2020年04月01日
- 審決日
- 2020年08月27日
- 公報発行日
- 2021年03月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド
- 【請求人代理人】小野 誠
- 【請求人代理人】金山 賢教
- 【請求人代理人】坪倉 道明
- 【請求人代理人】重森 一輝
- 【請求人代理人】安藤 健司
- 【請求人代理人】市川 英彦
- 【請求人代理人】櫻田 芳恵
- 【請求人代理人】岩瀬 吉和
- 【請求人代理人】城山 康文
- 【請求人代理人】川嵜 洋祐
- 【請求人】ノヴァレッド・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
- 【請求人代理人】小野 誠
- 【請求人代理人】金山 賢教
- 【請求人代理人】坪倉 道明
- 【請求人代理人】重森 一輝
- 【請求人代理人】安藤 健司
- 【請求人代理人】市川 英彦
- 【請求人代理人】櫻田 芳恵
- 【請求人代理人】岩瀬 吉和
- 【請求人代理人】城山 康文
- 【請求人代理人】川嵜 洋祐
- 審判長/審判官
- 審判長 樋口 信宏
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 神尾 寧
- 分類
- P18 .121-Z (H05B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2017-505817「有機発光デバイスおよびそれを製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月11日国際公開、WO2016/020646、平成29年 9月14日国内公表、特表2017-527109〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)7月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年(平成26年)8月4日 英国)を国際出願日とする出願であって、平成31年3月7日付けで拒絶理由が通知され、令和元年6月11日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされ、同年11月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し令和2年4月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。その後、令和2年5月13日に、審判請求書の請求の理由について手続補正がなされ、令和2年7月14日に面接が行われた。
2 本件発明
本願の請求項1~17に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりの発明である。
「 【請求項1】
発光ポリマーを含む発光層;ならびに
電子輸送材料およびn-ドナー材料を含み、前記発光層上に直接形成されている電子輸送層であって、前記n-ドナー材料が、分子レドックスドーパント材料である電子輸送材料
を含む有機発光デバイスであって、
前記電子輸送層が、少なくとも20重量%の前記n-ドナー材料を含む、デバイス。」
3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由は、概略、本願の請求項1に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、引用文献2に記載された発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という拒絶理由を含むものである。
なお、引用文献2は、次のとおりのものである。
引用文献2:特開2014-131999号公報
4 引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成26年7月17日に頒布された刊行物である特開2014-131999号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、新しい含窒素複素環誘導体およびそれを用いた有機電子素子に関する。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の問題点を考慮し、低電圧、発光効率、安定性および素子寿命を大きく向上させられる物質およびそれを用いた有機電子素子を提供することを目的とする。
(中略)
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、下記化学式1で示されるか、下記化学式1の構造を2以上含む新規な含窒素複素環誘導体を提供する:
【0011】
【化1】
【0012】
前記化学式1において、
X1はNまたはCR3であり、X2はNまたはCR4であり、X3はNまたはCR5であり、X4はNまたはCR6であり、Y1はNまたはCR7であり、Y2はNまたはCR8であり、Y3はNまたはCR9であり、Y4はNまたはCR10であり、X1~X4とY1~Y4は同時にNではなく、
R3~R10は各々独立に-(L)p-(Y)qであり、ここで、pは0~10の整数であり、qは1~10の整数であり、R3~R10のうちの隣接する2以上の基は単環式もしくは多環式の環を形成することができ、
Lは酸素;硫黄;置換もしくは非置換の窒素;置換もしくは非置換のリン;置換もしくは非置換のアリーレン基;置換もしくは非置換のアルケニレン基;置換もしくは非置換のフルオレニレン基;置換もしくは非置換のカルバゾリレン基;またはN、O、S原子のうちの1個以上を含む置換もしくは非置換のヘテロアリーレン基であり、
Yは水素;重水素;ハロゲン基;ニトリル基;ニトロ基;ヒドロキシ基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリールオキシ基;置換もしくは非置換のアルキルチオキシ基;置換もしくは非置換のアリールチオキシ基;置換もしくは非置換のアルキルスルホキシ基;置換もしくは非置換のアリールスルホキシ基;置換もしくは非置換のアルケニル基;置換もしくは非置換のシリル基;置換もしくは非置換のホウ素基;置換もしくは非置換のアルキルアミン基;置換もしくは非置換のアラルキルアミン基;置換もしくは非置換のアリールアミン基;置換もしくは非置換のヘテロアリールアミン基;置換もしくは非置換のアリール基;置換もしくは非置換のフルオレニル基;置換もしくは非置換のカルバゾール基;またはN、O、S原子のうちの1個以上を含む置換もしくは非置換の複素環基であり;
R1およびR2は互いに連結されて置換もしくは非置換の脂肪族、芳香族、またはヘテロ芳香族の単環式もしくは多環式の環を形成するか形成しなくてもよく、R1およびR2が環を形成しない場合、R1およびR2は互いに同じであるか異なり、各々独立に、置換もしくは非置換のC3~C40のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のC6~C60のアリール基;置換もしくは非置換のC2~C40のアルケニル基;置換もしくは非置換のC2~C60の複素環基であり、
R1、R2およびR1とR2が互いに連結されて形成された芳香族またはヘテロ芳香族の単環式および多環式の環は各々独立に-(L)p-(Y)qで置換されてもよく、化学式1にLとYが各々2以上存在する場合、これらは各々独立に互いに同じであるか異なり、
但し、X1~X4とY1~Y4が同時にCR3~CR10である場合、R3~R10のうちの少なくとも一つは水素ではない置換基を有するか、R1とR2が互いに結合して置換された単環式もしくは多環式の環を形成する。
【0013】
前記化学式1の化合物は、ガラス転移温度(Tg)が高いため、熱的安定性に優れる。このような熱的安定性の増加は素子に駆動安定性を提供する重要な要因となる。
(中略)
【0023】
本発明は、第1電極、第2電極、および前記第1電極と第2電極との間に配置された1層以上の有機物層を含む有機電子素子であって、前記有機物層のうちの1層以上は前記新規な含窒素複素環誘導体を含む有機電子素子を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る新しい含窒素複素環誘導体は、有機発光素子をはじめとする有機電子素子の有機物層の材料として用いることができ、これを用いた有機発光素子をはじめとする有機電子素子は、効率上昇、駆動電圧の下降、寿命延長、安定性の上昇などに優れた特性を示す。特に、本発明に係る新しい含窒素複素環誘導体は、熱的安定性に優れ、深いHOMO準位、広いバンドギャップ、高い三重項(triplet)状態および正孔安定性を有するので優れた特性を示す。有機発光素子をはじめとする有機電子素子において、純粋に用いるか、不純物を混ぜて用いることができ、光効率を向上させ、化合物の熱的安定性によって素子の寿命特性を向上させることができる。」
イ 「【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
本発明に係る含窒素複素環誘導体は、前記化学式1で示されるか、前記化学式1の構造を2以上含む。
(中略)
【0103】
また、本発明は、第1電極、第2電極、および前記第1電極と第2電極との間に配置された1層以上の有機物層を含む有機電子素子であって、前記有機物層のうちの1層以上は前記化学式1の化合物を含む有機電子素子を提供する。
【0104】
前記有機電子素子は、有機発光素子、有機太陽電池、有機感光体(OPC)ドラムおよび有機トランジスタからなる群から選択することができる。
【0105】
また、前記有機電子素子は有機発光素子であってもよい。
(中略)
【0110】
また、前記有機発光素子の有機物層は電子輸送および/または注入層を含み、この層が前記含窒素複素環誘導体を含むことができる。
(中略)
【0113】
本発明に係る含窒素複素環誘導体を含む有機物層は前記含窒素複素環誘導体をホストとして含み、他の有機化合物、金属または金属化合物をドーパントとして含むことができる。
(中略)
【0116】
以下、有機発光素子について例示する。
【0117】
本発明の一実施状態において、有機発光素子は、第1電極と第2電極およびこの間に配置された有機物層を含む構造からなる。本発明の有機発光素子のうちの有機物層は1層からなる単層構造であってもよいが、発光層を含む2層以上の多層構造であってもよい。本発明の有機発光素子の有機物層が多層構造である場合、これは、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層などが積層された構造であってもよい。しかし、有機発光素子の構造はこれに限定されず、より少ない数の有機物層を含むことができる。例えば、本発明の有機発光素子は図1に示すような構造を有することができる。図1において、図面符号1は基板、2は正極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は有機発光層、6は電子輸送層、7は負極を各々示す。通常、図1のような構造の有機発光素子を正方向構造の有機発光素子といい、本発明は、これに限定されず、逆方向構造の有機発光素子も含む。すなわち、本発明の有機発光素子は、基板、負極、電子輸送層、有機発光層、正孔輸送層、正孔注入層および正極が順次積層された構造を有することができる。
【0118】
本発明に係る有機発光素子が多層構造の有機物層を有する場合、前記化学式1の化合物は、発光層、正孔輸送層、正孔輸送と発光を同時にする層、発光と電子輸送を同時にする層、電子輸送層、電子輸送および/または注入層などに含まれる。本発明において、前記化学式1の化合物は、特に電子注入および/または輸送層または発光層に含まれることが好ましい。
【0119】
本発明に係る有機発光素子は、前述した化学式1の化合物を有機発光素子の有機物層のうちの1層以上に用いることを除いては、通常の有機発光素子の製造方法および材料を用いて製造することができる。例えば、本発明に係る有機発光素子は、スパッタリング(sputtering)や電子ビーム蒸発(e-beam evaporation)のようなPVD(physical vapor deposition)方法を利用して、基板上に金属または導電性を有する金属酸化物またはこれらの合金を蒸着して正極を形成し、その上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層および電子輸送層を含む有機物層を形成した後、その上に負極として用いることのできる物質を蒸着することによって製造することができる。このような方法の他にも、前述したように逆方向構造の有機発光素子を製作するために、基板上に負極物質から有機物層、正極物質を順次蒸着して有機発光素子を作ることもできる。
【0120】
前記有機物層は、様々な高分子素材を用いて、蒸着法ではない溶媒工程(solvent process)、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード、スクリーン印刷、インクジェット印刷または熱転写法などの方法により、より少ない数の層に製造することができる。
(中略)
【0125】
前記発光物質としては、正孔輸送層と電子輸送層から正孔と電子の輸送を各々受けて結合させることによって可視光線領域の光を出せる物質であって、蛍光や燐光に対する量子効率の良い物質が好ましい。具体的な例としては8-ヒドロキシ-キノリンアルミニウム錯体(Alq3);カルバゾール系化合物;二量体化スチリル(dimerized styryl)化合物;ビス-メチル-8-ヒドロキシキノリンパラフェニルフェノールアルミニウム錯体(Balq);10-ヒドロキシベンゾキノリン-金属化合物;ベンゾオキサゾール、ベンズチアゾールおよびベンズイミダゾール系の化合物;アントラセン系の化合物;ピレン系の化合物;ポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子;スピロ(spiro)化合物;ポリフルオレン、ルブレンなどが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0126】
前記電子輸送物質としては、負極から電子の注入を円滑に受けて発光層に移せる物質であって、電子に対する移動性の大きい物質が好適である。具体的な例としては8-ヒドロキシキノリンのAl錯体;Alq3を含む錯体;有機ラジカル化合物;ヒドロキシフラボン-金属錯体;アントラセン系の化合物;ピレン系の化合物;ベンゾオキサゾール、ベンズチアゾールおよびベンズイミダゾール系の化合物;ピリジル系の化合物;フェナントロリン系の化合物;キノリン系の化合物;キナゾリン系の化合物などが挙げられ、また、これらの化合物が金属または金属化合物とドーピングして電子輸送層を形成することができるが、これらだけに限定されるものではない。」
ウ 「【0229】
実施例
<実施例1>化学式1-a-8の化合物の製造
【化70】
化合物B-1(3.83g、10.0mmol)と化合物A-4(3.94g、10.0mmol)をテトラヒドロフラン(100mL)に溶かした後、2M炭酸カリウム水溶液(20mL)を添加し、テトラキストリフェニルホスフィノパラジウム(231mg、2mol%)を入れた後、5時間攪拌還流した。常温に温度を下げ、生成された固体を濾過した。濾過された固体をクロロホルムとエタノールで再結晶し、濾過した後に乾燥して、化合物1-a-8(3.88g、68%)を製造した。MS:[M+H]+=571
(中略)
【0367】
実験例
<実験例1-1-1>
ITO(indium tin oxide)が1000Å厚さで薄膜コーティングされたガラス基板を、洗剤を溶かした蒸留水に入れて超音波で洗浄した。この時、洗剤としてはFischer Co.社製を用い、蒸留水としてはMillipore Co.社製のフィルタ(Filter)で2次フィルターリングした蒸留水を用いた。ITOを30分間洗浄した後、蒸留水で2回繰り返して超音波洗浄を10分間進行した。蒸留水の洗浄が終わった後、イソプロピルアルコール、アセトン、メタノールの溶剤で超音波洗浄をして乾燥させた後、プラズマ洗浄機に輸送した。また、酸素プラズマを利用して前記基板を5分間洗浄した後、真空蒸着機に基板を輸送した。
【0368】
このように準備したITO透明電極上に下記化学式のヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(hexanitrile hexaazatriphenylene;HAT)を500Å厚さで熱真空蒸着して正孔注入層を形成した。
(中略)
【0413】
<実験例4-1-1~実験例4-1-20>
前記実験例1-1-1と同様に準備したITO透明電極上に、前記ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(hexanitrile hexaazatriphenylene;HAT)を500Å厚さで熱真空蒸着して正孔注入層を形成した。
【0414】
前記正孔注入層上に下記化合物HT-1、HT-2、またはHT-3を真空蒸着して正孔輸送層(400Å)を形成した。
(中略)
【0416】
次に、前記正孔輸送層上に膜厚さ300Åで下記のようなBH-1とBDを25:1の重量比で真空蒸着して発光層を形成した。
【0417】
【化182】
(中略)
【0422】
<実験例5-1-1>
前記実験例1-1-1のようにITO透明電極上に前記化学式のヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(hexanitrile hexaazatriphenylene;HAT)を500Å厚さで熱真空蒸着して正孔注入層を形成した。
【0423】
前記正孔注入層上に正孔を輸送する物質である前記化学式の4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)(400Å)を真空蒸着して正孔輸送層を形成した。
【0424】
前記正孔輸送層上に、膜厚さ300Åで、下記化学式BH-2をホストとして、前記化学式BDをドーパントとして用いて、25:1の重量比で発光層を形成した後、実施例1で製造した化学式1-a-8化合物と下記化学式LiQ(Lithium Quinolate)を1:1の重量比で真空蒸着して300Å厚さで電子注入および輸送層を形成した。前記電子注入および輸送層上に12Å厚さのフッ化リチウム(LiF)と2、000Å厚さのアルミニウムを順次蒸着して負極を形成して、有機発光素子を製造した。
【0425】
【化183】
(中略)
【0428】
実験例5-1-1~5-1-8および比較例5によって製作された有機発光素子に電流を印加した時、表4-8の結果が得られた。
【0429】
【表23】
【0430】
表4-8から見るように、本発明に係る化学式1の化合物はLiQのような金属化合物と混合して電子輸送層を形成することができ、本発明に係る素子は効率、駆動電圧、安定性の面に優れた特性を示す。」
(2)引用文献2に記載された発明
引用文献2の記載事項ウに基づけば、引用文献2には、実施例5-1-1に係る有機発光素子として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていたといえる。
「ITO透明電極上にヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)を500Å厚さで熱真空蒸着して正孔注入層を形成し、
前記正孔注入層上に正孔を輸送する物質である4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)(400Å)を真空蒸着して正孔輸送層を形成し、
前記正孔輸送層上に、膜厚さ300Åで、下記化学式BH-2をホストとして、下記化学式BDをドーパントとして用いて、25:1の重量比で発光層を形成した後、下記化学式1-a-8化合物と下記化学式LiQ(Lithium Quinolate)を1:1の重量比で真空蒸着して300Å厚さで電子注入および輸送層を形成し、前記電子注入および輸送層上に12Å厚さのフッ化リチウム(LiF)と2、000Å厚さのアルミニウムを順次蒸着して負極を形成して製造した、有機発光素子。
化学式BH-2
化学式BD
化学式1-a-8化合物
化学式LiQ
」
5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。
(1)発光層
引用発明の「有機発光素子」は、前記4(2)に記載した各工程により製造されたものである。
そうすると、引用発明の「有機発光素子」は、ITO透明電極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入及び輸送層/負極からなる層構成を具備すると理解される。
上記の層構成及び「発光層」という文言からみて、引用発明の「発光層」は、本件発明の「発光層」に相当する。
(2)電子輸送層
前記(1)と同様に、引用発明の「電子注入および輸送層」は、本件発明の「電子輸送層」に相当する。
また、引用発明の「電子注入および輸送層」は、その製造工程からみて、「1-a-8化合物」と「LiQ(Lithium Quinolate)」を「1:1の重量比」で含むものである(LiQの分量は50重量%である。)。
そうすると、引用発明の「1-a-8化合物」及び「LiQ(Lithium Quinolate)」は、技術的にみて、それぞれ、本件発明の「電子輸送材料」及び「n-ドナー材料」に相当する。
さらに、引用発明の「LiQ(Lithium Quinolate)」は、レドックスプロセスを介してホストである1-a-8化合物を電気的にドーピングする化合物であるから、「分子レドックスドーパント材料」であるともいえる。
そうすると、引用発明の「電子注入および輸送層」は、本件発明の「電子輸送材料およびn-ドナー材料を含み」とする要件、「前記n-ドナー材料が、分子レドックスドーパント材料である」とする要件及び「電子輸送層が、少なくとも20重量%の前記n-ドナー材料を含む」とする要件を満たしている。
さらに加えて、引用発明の「電子注入および輸送層」は、その製造工程からみて、上記「発光層」上に直接形成されているといえる。
そうすると、引用発明の「電子注入および輸送層」は、本件発明の「前記発光層上に直接形成されている」とする要件を満たしている。
(3)有機発光デバイス
以上(1)及び(2)の対比結果並びに引用発明の「有機発光素子」という文言からみて、引用発明の「有機発光素子」は、本件発明の「有機発光デバイス」に相当する。また、引用発明の「有機発光素子」は、本願発明の「有機発光デバイス」における、「発光層;ならびに」「電子輸送層」「を含む」という構成を具備する。
(4)一致点及び相違点
以上より、本件発明と引用発明とは、
「発光層;ならびに
電子輸送材料およびn-ドナー材料を含み、前記発光層上に直接形成されている電子輸送層であって、前記n-ドナー材料が、分子レドックスドーパント材料である電子輸送材料
を含む有機発光デバイスであって、
前記電子輸送層が、少なくとも20重量%の前記n-ドナー材料を含む、デバイス。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]発光層が、本件発明は、「発光ポリマー」を含むのに対し、引用発明は、「BH-2をホスト」として、「BDをドーパント」として含むものであって、発光ポリマーを含まない点。
6 判断
(1)[相違点]について
引用文献2の記載事項イには、「本発明の一実施状態において、有機発光素子は、第1電極と第2電極およびこの間に配置された有機物層を含む構造からなる。」(段落【0117】)、「本発明に係る有機発光素子は、前述した化学式1の化合物を有機発光素子の有機物層のうちの1層以上に用いることを除いては、通常の有機発光素子の製造方法および材料を用いて製造することができる。」(段落【0119】)、「前記有機物層は、様々な高分子素材を用いて、蒸着法ではない溶媒工程(solvent process)、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード、スクリーン印刷、インクジェット印刷または熱転写法などの方法により、より少ない数の層に製造することができる。」(段落【0120】)との記載があり、さらに、「前記発光物質としては、正孔輸送層と電子輸送層から正孔と電子の輸送を各々受けて結合させることによって可視光線領域の光を出せる物質であって、蛍光や燐光に対する量子効率の良い物質が好ましい。具体的な例としては・・・;ポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子;・・・;ポリフルオレン、・・・などが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。」(段落【0125】)と記載されている。これらの記載に基づけば、引用文献2には、電子注入および輸送層に化学式1の化合物を用いた有機発光素子において、発光層を発光ポリマーを含むものとすることが示唆されていたといえる。
そして、有機発光素子を構成する各層の材料を選択するにあたり、各層が所望の機能を奏するように、HOMO準位及びLUMO準位の値が適切であって、隣接層に影響を与えないものを選択することは、当業者が通常考慮することであるところ、引用文献2に発光物質として列記されたポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子やポリフルオレンは、様々な有機発光素子の発光物質として慣用されているものであり、ホスト及びn-ドーパントからなる電子輸送層を直接接するように設けることについて、阻害する要因があったということもできない。
そうすると、引用発明の発光層において、引用文献2の示唆に従い、ポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子やポリフルオレン等の発光ポリマーを含む発光層に変更することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(当合議体注:この場合、必須ではないが、発光層までの各層(正孔注入層/正孔輸送層/発光層)を、周知の材料からの適切な選択により、引用文献2の【0020】でいう「蒸着法ではない溶媒工程」により形成するのが、製造工程としては望ましいと考えられる。)
(2)効果について
本願の明細書段落【0012】には、「電子輸送層を20重量%以上のn-ドナー材料でドーピングすることによって、OLEDデバイスの所望の電子注入特性を維持しながら、電子輸送層の厚さを20nm未満に低下できることを見出した。電子輸送層の厚さを低下させることは、OLEDデバイスのための光共振器特性を最適化でき、ひいてはデバイスの色安定性を最適化できるので、有益である。」と記載されている。ただし、本件発明は、光共振器特性の最適化に関する構成や、「20nm未満」という数値範囲に関する構成は、具備しない。そうすると、本件発明の効果は、「OLEDデバイスの所望の電子注入特性を維持しながら、電子輸送層の厚さを低下できること」であるといえる。
一方、引用発明の「電子注入および輸送層」は、「1-a-8化合物」と「LiQ(Lithium Quinolate)」を「1:1の重量比」で含むものである。そうすると、引用発明の「電子注入および輸送層」は、20重量%以上のn-ドナー材料でドーピングしたものであるから、十分なn-ドナーによって電子注入能を奏するものであって、厚さを薄くしても「有機発光素子」の「電子注入および輸送層」として、所望の特性を維持可能なものと理解できる。
したがって、本件発明の効果は、引用文献2の記載に基づいて当業者が予測できる範囲のものであるから、格別なものということができない。
7 請求人の主張
(1)請求人は、審判請求書の請求の理由において、本願発明は、「電子輸送層の厚さを20nm未満に低下できることを見出したことに基づく発明」であり、電子輸送層の厚さを低下させることにより、「OLEDデバイスのための光共振器特性の最適化およびデバイスの色安定性の最適化が可能となるといった優れた効果をもたらすもの」であり、本願発明の上記優れた特性は、「発光ポリマーを含む発光層;ならびに電子輸送材料およびn-ドナー材料を含み、前記発光層上に直接形成されている電子輸送層であって、前記n-ドナー材料が、分子レドックスドーパント材料である電子輸送材料を含む有機発光デバイスであって、前記電子輸送層が、少なくとも20重量%の前記n-ドナー材料を含む、デバイス。」という複数の特徴を組み合わせることで得られたものと主張している。
しかしながら、本件発明は電子輸送層の厚さを特定していない。そうすると、電子輸送層の厚さを低下させることにより奏される、「OLEDデバイスのための光共振器特性の最適化およびデバイスの色安定性の最適化が可能となる」という効果を、本件発明の効果と理解することはできない。
仮に本件発明の効果であったとしても、電子輸送層の厚さを薄くできれば、OLEDデバイスの光共振器特性の設計の自由度が高まることは自明の効果である。
(2)また、請求人は、審判請求書の請求の理由において、「たとえ高分子発光材料の使用が引用文献2、4において例示され、あるいは高分子発光材料自体が本願優先日当時に周知であったとしても、引用文献1~4に記載の発明において、当業者が高分子発光材料を採用する際に、他の構成を上記本願発明の特定する組み合わせのように維持すること、または当該構成を新たに採用すべき必然性は何らなく、そして、本願発明が上記構成により奏する効果を予期することも不可能でした。」と主張している。
しかしながら、前記6(1)に記載したとおり、引用文献2には、電子注入および輸送層に化学式1の化合物を用いた有機発光素子において、発光層を発光ポリマーを含むものとすることが示唆されていたといえる。示唆に従い、発光層の材料を変更することは、当業者が適宜試みることに過ぎない。
(3)面接について
令和2年7月14日に行われた面接において、請求人は、本件発明は、発光ポリマーを含む発光層と、少なくとも20重量%のn-ドナー材料を含む電子輸送層を組み合わせたことにより、電子輸送層を薄くできるという効果を奏する旨、主張した。
しかしながら、本願の明細書の記載を参酌しても、本件発明の奏する効果が、本件発明の「電子輸送層」と「発光ポリマーを含む発光層」とを組み合わせたことにより初めて奏される効果であると理解することはできない。
以上より、請求人の上記主張を採用することはできない。
8 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-004293