特許拒絶査定不服審判
2019-017584
金属基材用表面処理剤
- 審判番号
- 2019-017584
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-568267外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年12月25日
- 審決日
- 2020年09月11日
- 公報発行日
- 2020年10月30日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】太陽インキ製造株式会社
- 【請求人代理人】本多 一郎
- 分類
- P18 .56 -WY (H05K) / P18 .113-WY (H05K) / P18 .121-WY (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-568267「金属基材用表面処理剤」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月14日国際公開、WO2016/111035、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)8月20日(優先権主張 平成27年1月7日、日本国、平成27年3月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成31年 3月25日付け:拒絶理由通知書
令和 1年 5月29日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年10月 1日付け:拒絶査定
令和 1年12月25日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和1年12月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであるところ、本件補正前の特許請求の範囲及び本件補正の特許請求の範囲の記載は、それぞれ以下のとおりである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲(令和1年5月29日の手続補正による特許請求の範囲)
「 【請求項1】
金属基材上に、インキをインクジェット方式により塗工してパターン塗膜を形成するに先立って用いられる金属基材用表面処理剤であって、
リン酸と、脂肪酸の金属塩を除く界面活性剤と、水と、を含む組成物からなり、
前記金属基材用表面処理剤を用いて表面処理した前記金属基材の濡れ指数(表面張力(単位:mN/m)と同値)から前記インキの表面張力(単位:mN/m)を引いた値が、-13以上+2以下であることを特徴とする金属基材用表面処理剤。
【請求項2】
請求項1記載の金属基材用表面処理剤により表面処理した金属基材上に、インキをインクジェット方式により塗工してパターン塗膜を形成することを特徴とするパターン塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記金属基材がプリント配線板上に配設されていることを特徴とする請求項2記載のパターン塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記インキが、プリント配線板用レジストインキであることを特徴とする請求項2記載のパターン塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記プリント配線板用レジストインキが、ソルダーレジストインキおよびエッチングレジストインキの少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項4記載のパターン塗膜の形成方法。」
(2)本件補正による特許請求の範囲(下線は補正箇所を示す。)
「 【請求項1】
金属基材上に、インキをインクジェット方式により塗工してパターン塗膜を形成するに先立って用いられる金属基材用表面処理剤であって、
リン酸と、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤のうちの少なくともいずれか一種と、水と、を含む組成物からなることを特徴とする金属基材用表面処理剤。
【請求項2】
請求項1記載の金属基材用表面処理剤により表面処理した金属基材上に、インキをインクジェット方式により塗工してパターン塗膜を形成することを特徴とするパターン塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記金属基材がプリント配線板上に配設されていることを特徴とする請求項2記載のパターン塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記インキが、プリント配線板用レジストインキであることを特徴とする請求項2記載のパターン塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記プリント配線板用レジストインキが、ソルダーレジストインキおよびエッチングレジストインキの少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項4記載のパターン塗膜の形成方法。」
2 本件補正の適否の判断
本件補正のうち、特許請求の範囲の請求項1についての補正の目的について検討する。
本件補正前の請求項1の「脂肪酸の金属塩を除く界面活性剤」という発明特定事項が、本件補正によって「アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤のうちの少なくともいずれか一種」とされ、本件補正前の請求項1の「前記金属基材用表面処理剤を用いて表面処理した前記金属基材の濡れ指数(表面張力(単位:mN/m)と同値)から前記インキの表面張力(単位:mN/m)を引いた値が、-13以上+2以下である」という発明特定事項が、本件補正によって削除された。
しかし、例えば脂肪酸の金属塩であるステアリン酸ナトリウムやミリスチン酸ナトリウムはアニオン系界面活性剤であり、上記界面活性剤は、本件補正前の請求項1の「脂肪酸の金属塩を除く界面活性剤」という発明特定事項には含まれないものの、本件補正の請求項1の「アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤のうちの少なくともいずれか一種」という発明特定事項には含まれる。
そうすると、「アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤のうちの少なくともいずれか一種」は、「脂肪酸の金属塩を除く界面活性剤」の下位概念に相当する事項ではないから、上記補正は特許請求の範囲を減縮するものに該当しない。
また、上記補正は、請求項の削除を目的とするものにも、誤記の訂正を目的とするものにも、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。
更に、本件補正前の請求項1の「前記金属基材用表面処理剤を用いて表面処理した前記金属基材の濡れ指数(表面張力(単位:mN/m)と同値)から前記インキの表面張力(単位:mN/m)を引いた値が、-13以上+2以下である」という発明特定事項を削除する補正についても、特許請求の範囲を減縮するものにも、請求項の削除を目的とするものにも、誤記の訂正を目的とするものにも、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれを目的とするものでもない。
3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明
本件補正は、上記「第2 補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和1年5月29日の手続補正による特許請求の範囲(前記「第2 補正の却下の決定」の[補正の却下の決定の理由]の「1 (1)」を参照。)の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものである(請求項1に係る発明を以下「本願発明」という。)。
第4 原査定の理由について
1 原査定の概要(特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項)
令和1年10月1日付け拒絶査定の概要は以下のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
更に、この出願の請求項2-5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2009-299096号公報
引用文献2:特表2009-532205号公報
2 引用文献
引用文献1には、図面とともに以下の各記載がある。なお、下線は当審で付与した。
ア.「【請求項1】
過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを含む水溶液からなるプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液。
(中略)
【請求項3】
前記水溶液中に、過酸化水素の安定剤と非イオン系界面活性剤の一方又は両方を含む請求項1又は2に記載のプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液。」
イ.「【0001】
本発明は、銅及び銅合金の表面処理に関し、プリント回路基板の回路などの銅及び銅合金の表面を簡便に処理でき、銅及び銅合金の表面を粗化することなく、ドライフィルムレジスト等を強固に密着させることができ、且つ耐食性に優れた表面に仕上げることのできるプリント回路基板用銅及び銅合金の表面処理液とそれを用いた表面処理方法に関する。」
ウ.「【0020】
本発明の表面処理液は、必須成分である過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを、水に溶解させることによって調製することができる。本発明の表面処理液は、必須成分である過酸化水素、燐酸、アミノ基含有アゾール及び水以外に、過酸化水素の安定剤、界面活性剤などの各種の添加物を必要に応じて添加することができる。
(中略)
【0022】
また、本発明の表面処理液に好適に配合し得る非イオン界面活性剤としては、ポリエチレングリコールフェニルエーテル、ポリエチレングリコールスチレン化フェニルエーテル、ポリエチレングリコールベンジルエーテルなどを使用することができる。これらの非イオン界面活性剤は、銅表面の洗浄効果などの界面活性剤本来の作用の他、過酸化水素の安定剤としても有効である。なお、前記化合物中のエチレングリコールの重合度は、4以上であることが望ましい。この重合度が4を下回る化合物は、経時的に不溶性の黒茶褐色の副生成物を生じ、槽壁あるいは処理基板表面に付着し汚損するので好ましくない。本発明に係る表面処理液中に非イオン界面活性剤を配合する場合、その配合量は、0.01g/L~20g/Lの範囲とすることが好ましく、0.1g/L~15g/Lの範囲がより好ましく、0.5g/L~10g/Lの範囲が更に好ましい。」
エ.「【0024】
銅張積層板を用いてプリント配線基板を製造するには、概ね、
(1)銅張積層板の銅に表面処理を施す工程、
(2)表面処理した銅にDFRを張り付ける工程、
(3)露光、現像し、銅表面にDFRによる回路のマスクを形成する工程、
(4)マスクを形成した基板にエッチングを施し、余分な銅を除去して回路を形成する工程、
(5)マスクを剥離して回路形成済みのプリント配線基板を得る工程、
を経て行っている。このようなプリント配線基板の製造において、本発明の表面処理方法は、(1)の表面処理工程で好適に使用される。」
上記ア、イ及びエによれば、表面処理液は、銅張積層板の銅にDFRを貼り付ける前に用いられるものである。
上記ア及びウによれば、表面処理液は、必須成分である過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを、水に溶解させ、過酸化水素の安定剤と非イオン界面活性剤の一方又は両方を必要に応じて添加するものである。
上記アないしエの記載事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「銅張積層板の銅にDFRを貼り付ける前に用いられる表面処理液であって、必須成分である過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを、水に溶解させ、過酸化水素の安定剤と非イオン界面活性剤の一方又は両方を必要に応じて添加する表面処理液。」
3 当審の判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明における「銅張積層板」は、本願発明の「金属基材」に相当し、「銅張積層板の銅にDFRを貼り付ける前に用いられる表面処理液」は、本願発明の「金属基材上に、」所定物を形成する「に先だって用いられる金属基材用表面処理剤」に相当する。
ただし、本願発明では、「インキをインクジェット方式により塗工してパターン塗膜を形成する」に先だって用いられる「金属基材用表面処理剤」であるのに対し、引用発明にはその旨について特定されていない。
イ.引用発明の「非イオン界面活性剤」は、本願発明の「脂肪酸の金属塩を除く界面活性剤」に含まれ、また、引用発明の「必須成分である過酸化水素と、燐酸と、アミノ基含有アゾールとを、水に溶解させ、過酸化水素の安定剤と非イオン界面活性剤の一方又は両方を必要に応じて添加する表面処理液」は、本願発明の「リン酸と、脂肪酸の金属塩を除く界面活性剤と、水と、を含む組成物からな」る「表面処理剤」を包含するものである。
ウ.本願発明では、「前記金属基材用表面処理剤を用いて表面処理した前記金属基材の濡れ指数(表面張力(単位:mN/m)と同値)から前記インキの表面張力(単位:mN/m)を引いた値が、-13以上+2以下である」のに対し、引用発明にはその旨について特定されていない。
よって、本願発明と引用発明とは、
「金属基材上に、所定物を形成するに先立って用いられる金属基材用表面処理剤であって、
リン酸と、脂肪酸の金属塩を除く界面活性剤と、水と、を含む組成物からなる金属基材用表面処理剤。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明では、「インキをインクジェット方式により塗工してパターン塗膜を形成する」に先だって用いられる「金属基材用表面処理剤」であるのに対し、引用発明にはその旨について特定されていない点。
[相違点2]
本願発明では、「前記金属基材用表面処理剤を用いて表面処理した前記金属基材の濡れ指数(表面張力(単位:mN/m)と同値)から前記インキの表面張力(単位:mN/m)を引いた値が、-13以上+2以下である」のに対し、引用発明にはその旨について特定されていない点。
(2)相違点についての判断
ア.[相違点2]について
事案に鑑み、相違点2について検討する。
引用発明には「インキ」について記載も示唆もされていないから、「前記金属基材用表面処理剤を用いて表面処理した前記金属基材の濡れ指数(表面張力(単位:mN/m)と同値)から前記インキの表面張力(単位:mN/m)を引いた値が、-13以上+2以下である」ことについても記載も示唆もされていない。そして、引用発明から上記技術事項を導き出す動機付けも存在しない。
以上のことから、相違点2に係る構成は、引用発明から導き出すことはできない。
イ.小括
よって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明は引用発明と同一ではなく、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。また、本願発明(請求項1)の従属請求項である請求項2-5についても、本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記判断と同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、拒絶査定の付記には、「前記金属基材用表面処理剤を用いて表面処理した前記金属基材の濡れ指数(表面張力(単位:mN/m)と同値)から前記インキの表面張力(単位:mN/m)を引いた値が、-13以上+2以下である」との記載は、「金属基材」や「インキ」は金属基材用表面処理剤の構成要素ではないため、表面処理した金属基材の漏れ指数やインキの表面張力は、金属基材用表面処理剤の構成を特定できないと考えられるところ、当該記載により、金属基材用表面処理剤という物の発明のどのような構成を特定するのかが著しく不明瞭であり、発明が明確でないと記載されている。
しかしながら、相違点2に係る上記記載は、金属基材用表面処理剤という物の特性を、表面処理した金属基材の漏れ指数とインキの表面張力との関係により規定しているものであるから、上記記載をもって発明が明確でないとすることはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし5に係る発明は、原査定の理由によって拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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