特許拒絶査定不服審判
2019-016607
セシウムの吸着装置及び吸着方法
- 審判番号
- 2019-016607
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-125993
- 請求日
- 2019年12月09日
- 審決日
- 2020年09月09日
- 公報発行日
- 2020年12月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東洋紡株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
- 【請求人】太陽工業株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬川 勝久
- 審判官 野村 伸雄
- 審判官 田中 秀直
- 分類
- P18 .121-Z (G21F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2018-125993「セシウムの吸着装置及び吸着方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018-180000〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成26年2月14日に出願した特願2014-26986号(以下「原出願」という。)の一部を平成30年7月2日に新たな特許出願としたもので、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成31年 3月26日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 5月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 8月30日付け:拒絶査定(原査定)
令和 元年12月 9日 :審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和元年5月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタを含む吸着ユニットと、 浮き部材とを備え、
複数の前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されており、
前記フィルタは、鉛直透水係数が1.0×10-1cm/sec以上であり、且つ面内透水係数が1.0×10-1cm/sec以上であることを特徴とするセシウムの吸着装置。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の下記の請求項に係る発明は、原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
記
●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項 :1,5-8
引用文献 :1-2
・請求項 :2-3、5-10
引用文献 :1-4
・請求項 :4-10
引用文献 :1-5
<引用文献等一覧>
引用文献1.特開2013-113659号公報
引用文献2.特開2012-180733号公報
引用文献3.特開2013-253949号公報
引用文献4.特開2013-186082号公報
引用文献5.大田康雄,高強度ポリエチレン繊維「ダイニーマ(登録商標)」[online],繊維学会誌,日本,繊維学会,2010年 4月10日,Vol.66 No.3,p.91-97,[平成29年9月27日検索], インターネット,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber/66/3/66_3_P_91/_pdf(周知技術を示す文献)
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)原査定の拒絶の理由で引用された原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。
ア 「【請求項1】
浮力材又は気体を封入可能な袋体からなる浮体部と、前記浮体に取り付けられたカーテン部とからなる拡散防止膜であって、前記カーテン部に、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブを含有することを特徴とする拡散防止膜。
【請求項2】
浮力材又は気体を封入可能な袋体からなる浮体部と、前記浮体に取り付けられたカーテン部とからなる拡散防止膜であって、前記カーテン部に、フェロシアン化金属化合物及び/又はフェリシアン化金属化合物を含有することを特徴とする拡散防止膜。」
イ 「【0003】
海、湖、河川等の水域に流出した放射性物質が広く拡散してしまうのを防ぐために、オイルフェンス、シルトフェンス等の拡散防止膜を用いることが有用である。しかしながら、水中に放出された多量の放射性物質を全て処理するには膨大な時間がかかり、その間、単に流出を防止する機能のみを有する膜で放射性物質が拡散するのを完全に防ぐことは現実的には不可能である。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、浮体部とカーテン部とからなる拡散防止膜のカーテン部に、放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の吸着剤として、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブ、フェロシアン化金属化合物及び/又はフェリシアン化金属化合物、チタン及びリン酸を含有する塩等の材料又は化合物を含有させることにより、海、湖、河川等の水域に流出した前記放射性金属又はそれらを含む放射性物質が広域に拡散してしまうのを効率よく防止できることを見出し、本発明に想到した。」
エ 「【0024】
カーテン部3は、従来の汚濁拡散防止膜で用いられている可撓性の材料からなるシート状又は布状の膜からなるものが好ましく、材質についても、特に限定されず、合成樹脂製のもの、化学繊維製のもの、ゴム製のもの等が使用できる。本発明においては、カーテン部に含有させた前記放射性金属及び/又は放射性物質の吸着除去効果を有する吸着剤に高い効果を発揮させるため、化学繊維等からなる布状のものを用いるのが好ましい。布状の膜としては、織物、編み物、不織布等が使用でき、特に織物が好ましい。」
オ 「【0096】
(2)不織布の作製
メルトブロー法(メルトフローレート(MFR)が15g/10分の条件)により、ポリプロピレンの溶融樹脂及び高温ジェット気流を水平方向に吹き出し、ドラムコンベアーの上方で繊維を捕集するようドラムコンベアーの高さを設定し、片面部の充填率が17%で、他の片面部の充填率が8%、目付120 g/m2、厚み1.1 mm、通気度65 cc/cm2/sec、平均繊維径15μmの不織布を得た。」
カ 「【0101】
得られたポリエステル繊維を用いて、1 m2あたり2 gのナノダイヤモンドを含有する織物からなる布を作製した。」
キ 図1の記載から、カーテン部3は、線で区切られ、縦4か所、横3か所の12か所の部分で構成されていることが、見て取れる。
(2)引用発明
したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「浮力材又は気体を封入可能な袋体からなる浮体部と、前記浮体に取り付けられたカーテン部とからなる拡散防止膜であって、前記カーテン部に、海、湖、河川等の水域に流出した放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の吸着剤として、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブ、フェロシアン化金属化合物及び/又はフェリシアン化金属化合物を含有する拡散防止膜。」
2 引用文献2の記載
(1)原査定の拒絶の理由で引用された原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2には、図面とともに、次の記載がある。
ア 「【0035】
図2に示すように、水浄化部材20は、複数の鳩目を含む孔22を配した略四角形の補強枠21に固定した網からなる外袋23の中に、より目の細かい網からなる単数又は複数の内袋24の中に吸着剤等を収容したものを、さらに収容した二重構造の袋体構造を有する。」
イ 「【0038】
図4に示すように、本発明の第二の態様においては、所定数の水浄化部材ユニット20と所定数の水流量調節部材ユニット10同士が、網からなる基材を用いずに、直接接続されていることを特徴とする。これらの接続は、前記した基材への浄化部材ユニット20と水流量調節部材ユニット10の接続と同様であることができる。
【0039】
図5に示すように、本発明の第三の態様においては、一定幅の各フロート51に該一定幅よりも広い幅の水浄化部材ユニット20又は水流量調節部材ユニット10が、該各フロート51に縦方向に1列で接続され、短冊状を呈している。そしてかかる短冊状のものが左右に隣接することにより水域浄化フェンスが構成されている。ここで、左右に隣り合うユニット同士は補強枠が互いに重なるが、該ユニット同士は接続されていない。このようなユニット同士の重なりのみによっても、水域浄化フェンスとしての機能に影響を及ぼさない場合には、第三の態様は有効である。」
(2)引用文献2に記載された技術的事項
したがって、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「一定幅の各フロート51に、吸着剤等を収容した所定数の水浄化部材ユニット20が、接続されている水域浄化フェンス。」
第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「『海、湖、河川等の水域に流出した放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の吸着剤として、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブ、フェロシアン化金属化合物及び/又はフェリシアン化金属化合物を含有する』『カーテン部』」は、本願発明の「水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタを含む吸着ユニット」に、
引用発明の「浮力材又は気体を封入可能な袋体からなる浮体部」は、本願発明の「浮き部材」に、
引用発明の「『カーテン部』は、『前記浮体に取り付けられた』」は、本願発明の「前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されており」に、
引用発明の「『放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の吸着剤』『を含有する拡散防止膜』」は、本願発明の「セシウムの吸着装置」に、
それぞれ相当する。
2 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「水に溶解しているセシウムを吸着するフィルタを含む吸着ユニットと、 浮き部材とを備え、
前記吸着ユニットが、前記浮き部材に連結されているセシウムの吸着装置。」
【相違点1】
吸着ユニットが、本願発明は「複数」であるのに対し、引用発明はそのようなものか明らかでない点。
【相違点2】
フィルタが、本願発明は「鉛直透水係数が1.0×10-1cm/sec以上であり、且つ面内透水係数が1.0×10-1cm/sec以上である」のに対し、引用発明はそのようなものか明らかでない点。
第6 判断
1 相違点1について
(1)引用文献2には、「一定幅の各フロート51に、吸着剤等を収容した所定数の水浄化部材ユニット20が、接続されている水域浄化フェンス。」
の技術的事項が記載されている。
(2)引用文献1、2は、共に、水域に設けるフェンスに関する技術であり、技術分野が共通する。また、引用文献1の図1の記載から、カーテン部3は、線で区切られ、縦4か所、横3か所の12か所の部分で構成されていることが、見て取れることから、引用文献1には、カーテン部が複数であることが示唆されている。
(3)そうすると、引用文献1、2は技術分野が共通すること、引用文献1の上記示唆を考慮すると、引用発明において、引用文献2に記載された技術的事項を採用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
2 相違点2について
(1)引用文献1の【0024】には、カーテン部の材質として織物、編み物、不織布等が使用できる旨記載され、引用文献1の実施例として【0096】には、片面部の充填率が17%で、他の片面部の充填率が8%、通気度65 cc/cm2/sec、平均繊維径15μmの不織布、【0101】には、ポリエステル繊維が記載されている。
そして、カーテン部は、所定の通気度を有する点、充填率が低い点、不織布や繊維を用いる点を考慮すると、引用発明のカーテン部は、所定の空隙があり水を通すものと考えるのが自然である。
そうすると、引用発明のカーテン部は、鉛直透水係数が1.0×10-1cm/sec以上であり、且つ面内透水係数が1.0×10-1cm/sec以上である蓋然性が高い。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
(2)仮にそうまでいえない場合について検討する。
ア 引用文献1の【0003】には、海、湖、河川等の水域に流出した放射性物質が広く拡散してしまうのを防ぐために、オイルフェンス、シルトフェンス等の拡散防止膜を用いることが有用である旨記載されている。
イ そして、海、淡水において用いるオイルフェンス、シルトフェンス等の拡散防止膜は、長期間にわたりその効果を持続するため、オイル、シルト等の捕かく効果が高く、かつ透水係数が高いことが必要であることは、一般的に知られており、透水係数が1.0×10-1cm/sec以上の拡散防止膜は、周知技術(必要ならば、実願昭59-137602号(実開昭61-55080号)のマイクロフィルム(特に、第2頁第12行-第3頁第2行、第8頁第2-5行を参照。)、特開平11-13046号公報(特に、【0024】、【0025】を参照。)を参照されたい。)である。
(ア)実願昭59-137602号(実開昭61-55080号)のマイクロフィルム
「特に、海洋等のヘドロ,シルトの拡散防止用等フィルター効果を要求されるものにおいては、ヘドロ,シルト等の捕かく効果が高く、かつ透水係数が高いことが必要である。」(第2頁第19行ー第3頁第2行)
「このシートの透水係数は、3.0×10-1cm/sec以上であり、海中でのヘドロ、シルトの拡散防止用膜として使用したところ長期間にわたりその効果を持続していた。」(第8頁第2-5行を参照。)、
(イ)特開平11-13046号公報
「【0024】・・・透水係数が1.0×10-4~1.0cm/秒の範囲となるような織物組織であればよい。具体的な織物組織として平織、斜文織、朱子織等を挙げることができる。
【0025】・・・また、本発明の布帛は長期間、海水あるいは淡水中に浸漬しても、その透水係数は浸漬前後で変動することはなく、長期にわたってシルトやヘドロ、オイルを捕捉し、海水あるいは淡水は透過させる役割を担うものである。本発明で規定する透水係数のコントロ-ルは繊維(被覆糸)の太さ、織物密度、編物組織によって適宜可能であるが、さらに織物を熱処理することによりコントロ-ルすることが可能である。・・・」
ウ また、引用発明は、海、湖、河川等の水域に用いる拡散防止膜であり、引用文献1には、カーテン部の材質として織物、編み物、不織布等が使用できる旨記載される。
そうすると、海、湖、河川等の水域において長期間にわたって拡散防止膜を使用することを考慮し、引用発明のカーテン部において、カーテン部の繊維(被覆糸)の太さ、織物密度、編物組織等を適宜調整し、透水係数を、1.0×10-1cm/sec以上とすること、すなわち、引用発明において、上記周知技術を考慮し、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が想到し得た事項にすぎない。
3 効果について
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
4 まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。
5 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において「上述の通り、引用文献1のカーテン部の透水性を向上させると物理的な遮蔽能力が低下して放射性物質が流出し易くなってしまい、引用文献1のカーテン部により放射性物質の拡散を完全に防ぐという目的に反する結果になってしまうため、そもそも引用文献1には透水性を向上させることについて阻害要因が存在すると言えます。」、「以上より、『カーテンの部材として本願請求項1で特定される程度の透水係数となる部材を利用することは当業者が適宜なし得たことである。』とのご認定は不当であり、本願発明は引用文献1との関係で進歩性を有しています。」旨主張している。
仮に、「透水性を向上させること」について阻害要因が存在すると言い得るとしても、引用文献1のカーテン部は、放射性物質の吸着剤を含有しているのであるから、ある程度の透水性を持たせていることは明らかであるし、上記第6の1ないし2で検討したとおり、フィルタは、「鉛直透水係数が1.0×10-1cm/sec以上であり、且つ面内透水係数が1.0×10-1cm/sec以上である」ことは、実質的な相違点ではない又は容易想到である。
したがって、審判請求人の主張は採用することはできない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-016607