特許拒絶査定不服審判
2023-009480
イオン交換樹脂の処理方法およびイオン交換樹脂の処理装置
- 審判番号
- 2023-009480
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-149834
- 請求日
- 2023年06月08日
- 審決日
- 2024年05月30日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社東芝
- 【請求人代理人】弁理士法人東京国際特許事務所
- 【請求人】東芝エネルギーシステムズ株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人東京国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 秋田 将行
- 審判官 後藤 孝平
- 審判官 山村 浩
- 分類
- P18 .121-Z (G21F) / P18 .575-Z (G21F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第159条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-149834「イオン交換樹脂の処理方法およびイオン交換樹脂の処理装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 3月 1日出願公開、特開2021- 32590〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)8月19日の特許出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和4年11月29日付け:拒絶理由通知書
令和5年 1月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 4月 6日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和5年 6月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年6月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年6月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「炉内循環水または放射性廃液の浄化に用いた陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とが混在している使用済のイオン交換樹脂を溶融塩中で熱分解し、前記イオン交換樹脂に含まれる有機物を無機化して硫黄成分を含む廃溶融塩を生成する溶融塩処理ステップと、
前記熱分解により生じた前記硫黄成分を含む前記廃溶融塩とカルシウム成分を含まないジオポリマー固型化材料とを混練する混練処理ステップと、
前記混練により生じた混練物を養生し、ジオポリマー固化体を生成する養生処理ステップと、
を含む、
イオン交換樹脂の処理方法。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和5年1月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「炉内循環水または放射性廃液の浄化に用いた陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とが混在している使用済のイオン交換樹脂を溶融塩中で熱分解し、前記イオン交換樹脂に含まれる有機物を無機化する溶融塩処理ステップと、
前記熱分解により生じた硫黄成分を含む廃溶融塩とジオポリマー固型化材料とを混練する混練処理ステップと、
前記混練により生じた混練物を養生し、ジオポリマー固化体を生成する養生処理ステップと、
を含む、
イオン交換樹脂の処理方法。」
2 補正の適否
本件補正のうち請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1における「ジオポリマー固型化材料」について、「カルシウム成分を含まないジオポリマー固型化材料」と限定を付加することを含むものである。
前記限定を付加する補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
(2)本件補正発明の技術的意義
本願の明細書及び図面の記載によれば、本件補正発明の技術的意義は次のとおりであると認められる。
本件補正発明は、イオン交換樹脂の処理方法に関するものであり(【0001】)、
原子力発電所の炉内から出る、比較的放射能レベルの高い使用済のイオン交換樹脂は、原子力発電所内で貯蔵するにあたり、ア:長期間の保管が求められるため、保管の際の管理負担を軽減する方策が必要であること、イ:樹脂などの有機物は、有機物分解によるガス発生の懸念があることから、有機物は無機化することが望ましいこと(【0002】、【0003】)、ウ:従来技術のプラズマにより焼却処理する場合には、焼却により発生する灰及び揮発核種を捕獲するための排気系設備及び焼却のために膨大なエネルギーが必要となって処理効率が悪いという課題があったこと、から、イオン交換樹脂を効率的に処理し、廃棄体となったときに長期に亘り安定的に保管することができる処理方法が望まれていた(【0006】)。
そこで、本件補正発明は、炉内循環水または放射性廃液の浄化に用いた使用済のイオン交換樹脂を長期に亘り安定的に保管することができるイオン交換樹脂の処理技術を提供することを課題とし(【0007】)、本件補正発明の構成を採用することにより前記課題を解決するものである。
そして、本件補正発明により、炉内循環水または放射性廃液の浄化に用いた使用済のイオン交換樹脂を長期に亘り安定的に保管可能な廃棄体とすることができるイオン交換樹脂の処理技術が提供されるとともに(【0009】)、固型化材料9は、アルミナシリカ粉末及びアルカリ刺激剤を含み、セメント固化体のように、カルシウム成分を含まず、エトリンガイトが生成されることによる膨張割れのトラブルを防ぐことができるという効果を奏するものである(【0023】)。
(3)引用文献
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開昭52-133500号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
(ア)引用文献1の記載事項
a 「請求項1
スロンチウム、セシウム、ヨウ素およびルテニウムを含む群から選ばれる少なくとも1つの元素を含有する有機質廃物を処理するに当り、アルカリ金属炭酸塩で構成される溶融塩浴中へその有機質廃物およびガス状酸素を導入し、その浴を400乃至1000℃の高温にかつ0.5乃至10気圧の圧力のもとに維持してその有機質廃物を少なくとも部分的に酸化および燃焼させ、かつ上記の選択された元素を溶融塩浴中に残留させることを特徴とする、有機質廃物の処理方法。」
b 「本発明は或る種の選択された元素類を含有する有機質廃物の処理に対する廃物制御方法に関する。本発明は特にストロンチウム、セシウム、ヨウ素およびルテニウムを含む群から選択された少なくとも1種の放射性元素で汚染された有機質廃物質の容量を減少させかつその選択された放射性元素をその溶融塩中に残留させるための溶融塩法に関する。」(第2頁左上欄第10行~17行)
c 「先行技術
原子炉用燃料の加工およびこのような炉の操作においては、放射性元素によって汚染された廃物質の相当な量が発生される。種々のエネルギー研究開発アドミニストレイション(ERDA)施設から年間約550,000立方フイートの固体のトランスウラン質廃物が発生されると報じられている。このような廃物を貯蔵する現行コストは高くかつ増大すると思われるので、このような廃物の容量を減少させることは緊急の経済的題目である。」(第2頁左上欄第18行~同右上欄第7行)
d 「しかしながら、主要な課題はストロンチウム、ヨウ素、ルテニウムおよびセシウム元素についてである。ストロンチウムはその長い半減期のため、およびそれが人体に吸収されて骨髄中にはいって行くという事実のために特に課題となる。ヨウ素もまたそれが甲状腺中へ吸収されるために特に危険である。さらに、セシウム、ルテニウムおよびヨウ素は揮発性でかつ保持しにくい化合物を形成する。元素態ヨウ素は室温で容易に揮発しそのためにいっそう保持しにくくさえある。明らかに、ストロンチウム、ヨウ素、セシウムおよびルテニウムといったような元素で汚染された有機廃物を処理し、それによってそれら廃物の容量を減少させかつそれらの元素を安定な固形化合物として残留させる方法が要求される。」(第3頁右下欄第7行~第4頁左上欄第1行)
e 「本発明にしたがえば、ストロンチウム、セシウム、ヨウ素およびルテニウムから選ばれる少なくとも1種の元素で汚染された有機廃物を溶融塩中で高められた温度で処理した場合、その有機廃物の容量を実質的に減少させかつさらにその選ばれた元素を溶融塩中に残留させることが可能であることが見いだされた。広義には、本方法は選択された元素を含有する有機廃物および空気といったようなガス状酸素源をアルカリ金属炭酸塩で構成される溶融塩中へ導入することから成っている。その浴は有機廃物を少なくとも部分的に酸化するために約400乃至1000℃の温度に、かつ約0.5乃至10気圧の範囲内の圧力に維持される。一般に完全燃焼が好ましい。このような条件下で有機廃物の容量は実質的に減少されかつガス状の燃焼生成物が形成される。そのガス状生成物は本質的に二酸化炭素と水蒸気から成りかつその固形生成物は廃物中の無機質灰成分から成り、選択されたその元素は溶融塩中に残留される。
溶融塩は単一のアルカリ金属炭酸塩または2種またはそれ以上のアルカリ金属炭酸塩の混合物であってもよく、かつアルカリ金属硫酸塩の少なくとも1種を約25重量%まで含有していてもよい。」(第4頁左上欄第3行~同右上欄第5行)
f 「好ましいアルカリ金属炭酸塩はリチウム、ナトリウムおよびカリウムの炭酸塩である。」(第4頁右上欄第9~10行)
g 「添付の図は本発明を実施するためのシステムの図解的説明を示すものである。
図を参照すればストロンチウム、セシウム、ヨウ素およびルテニウムを含む群から選ばれた少なくとも1種の元素を含有する有機廃物がコンベアー10によってシレツダー12へ運ばれるが、そのシュレッダーは例えばハンマーミルであってもよい。・・・。空気と細分された廃物との混合物はコンベアー30を通して送られかつ溶融塩燃焼炉32の、約400℃乃至1000℃の温度および約0.5乃至10気圧の範囲の圧力下に維持されている溶融塩浴34の表面下に導入されてガス状生成物および固体燃焼生成物を形成する。」(第5頁左下欄第10行~同右下欄第11行)
h 「実施例1
以下の実施例はルテニウム含有有機廃物の燃焼および溶融塩中へのルテニウムの残留を示している。
ルテニウム-汚染された廃物試料が炭酸ナトリウム85重童%、硫酸ナトリウム5重量%、NaCl5重量%および灰分5重量%から成る溶融塩床で燃焼された。使用された装置は9インチの深さの塩床を有する実験室規模の燃焼器であった。排出ガスは一酸化炭素、二酸化炭素、炭化水素類、酸素、一酸化窒素、二酸化窒素およびアンモニアについて連続的にモニターされた。それぞれの試験中排出ガスの平均粒状物負荷を測定するために粒状試料を採取した。粒状物フィルターの下流でルテニウムを捕捉するように二重の水スクラバーを使用した。粒子およびスクラバー溶液を分析してルテニウム含有量を求めた。
それぞれの試験の始めに、燃焼されるべき廃物の約1/2ポンドを供給システムに設けられている供給ホッパーへ入れた。燃焼空気供給速度約2.5立力フイート(約1.0フイ一ト/秒の面積速度)に調整された。次に供給を始め所望の排出ガス組成(約4乃至6%O2および12乃至16%CO2)になるまで調整した。安定状態が得られたのちに粒子採取器を始動した。紙、プラスチック、ゴム混合物およびルテニウム(混合物200g中約400mgのルテニウムを含む)を7.1g/分の速度で燃焼器中へ供給した。平均燃焼温度は約910℃であった。排出ガスフィルター中に捕集された粒子の分析から、ルテニウムの99.9%より上が溶融物中に残留されたことが認められた。ルテニウムを含有する陽イオン交換樹脂(スルホン酸系)を有機廃物として使用して上記の手順を繰返した。分析値は99.996よりも上のルテニウムが塩中に保持されたことを示した。」(第6頁右上欄第17行~同右下欄第10行)
i 「実施例2
実施例1におけると同じ装置を使用して、紙およびその他のセルローズ物質50重量%、ポリ塩化ビニル8重量%、ポリエチレン32重量%およびゴム10重量%から成る有機廃物を燃焼させた。この廃物は、その廃物上に硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸ヨーロッピウムおよびヨウ化ナトリウムの既知濃度の分割液を注加することによって、非放射性核分裂生成物で汚染された。混合ののちに、その廃物のいくらかを、それが燃焼器への供給システムへ添加されるに先立って、90℃に維持されたオーブン中で一夜乾燥した。8回の異った燃焼試験を行なった。4回の燃焼試験のそれぞれの系統を、燃焼器中の同じ溶融物で行なった。このようにして、溶融物中の核分裂生成物濃度が4回の試験の2つの系統のそれぞれで増加され続けた。排出ガスの一部分(約10%)を等運動的に(isokinetically)採取して、その中の粒子を採取するために0.2ミクロン細孔のフィルターを通し、かつ次に揮発性の擬似核分裂生成物のすべてを除去するように水スクラバーを通して送った。そのフィルター上およびスクラバーの浴液中の粒子のストロンチウム、セシウム、ヨーロッピウムおよびヨウ素を分析して、排出ガス中に見いだされる核分裂生成物の割合を測定した。ろ紙上の粒子はX―線けい光によって、かつ水溶液は原子吸光、火炎測光、および特定イオン電極技法によって測定された。これらの試験の結果を次の第2表乃至第6表にまとめた。」(第6頁右下欄第11行~第7頁左上欄第20行)
j 「図面
[図:0001412973000001.jpg]
」
(イ)引用発明1の認定
上記(ア)からみて、引用文献1には、有機廃物の処理方法について以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる(なお、参考までに引用発明1等の認定に用いた箇所を括弧内に記載してある。以下同じ。)。
「原子炉用燃料の加工およびこのような炉の操作において、放射性元素によって汚染された廃物質の相当な量が発生され、このような廃物を貯蔵する現行コストは高くかつ増大すると思われることから、このような廃物の容量を減少させ、かつそれらの元素を安定な固形化合物として残留させる方法であって、((ア)b、(ア)d)
スロンチウム、セシウム、ヨウ素およびルテニウムを含む群から選ばれる少なくとも1つの元素を含有する有機質廃物を処理するに当り、アルカリ金属炭酸塩で構成される溶融塩浴中へその有機質廃物およびガス状酸素を導入し、その浴を400乃至1000℃の高温にかつ0.5乃至10気圧の圧力のもとに維持してその有機質廃物を少なくとも部分的に酸化および燃焼させ、かつ上記の選択された元素を溶融塩浴中に残留させる、有機質廃物の処理方法であって、((ア)a)
当該方法により、ルテニウムを含有する陽イオン交換樹脂(スルホン酸系)や、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸ヨーロッピウムおよびヨウ化ナトリウムによって核分裂生成物で汚染された紙およびその他のセルローズ物質、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンおよびゴムから成る有機廃物、のような有機廃物を処理できる方法。((ア)h及びi)」
イ 引用文献2
(ア)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2017-67679号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、原子力発電所などの施設で発生する放射性廃棄物の固化処理方法に関する。
【0002】
原子力発電所や核燃料サイクル施設等から発生する放射性廃棄物は、前処理を経て、例えば、ドラム缶などの容器内でセメントなどの固化材と混練され、固化後、埋設処分場などへと送られる。
【0003】
放射性廃棄物をドラム缶等の容器の中に固める放射性廃棄物の固化材としては、セメント、アスファルト、プラスチック、及び、ガラスが用いられている。このうち、セメントと放射性廃棄物とを混合して容器の中に固める方法は、原子力施設内での製造が比較的容易なことから、多くの原子力施設で標準的な固化法として用いられている。
【0004】
しかしながら、セメント固化法では、セメントに水を添加して水和反応により水和物を生成して硬化する反応を利用するため、放射性廃棄物の放射能濃度が高くなると、水和物に不可分に含まれている水分及び添加した水分が放射線分解されて水素が発生する。そして、発生した水素が容器内に充満して、爆発を起こす虞がある。このため、セメント固化法では、セメントと混合する放射性廃棄物の濃度あるいは量を制限して、水素の発生量を抑制する必要がある。
【0005】
そこでセメントに代わる材料として、ジオポリマーが着目されている。ジオポリマーは、ケイ酸ナトリウム溶液をモノマー源とする無機ポリマーであり、アルミノケイ酸塩原料、およびアルカリ活性剤を含む溶液と放射性廃棄物を、混練・養生することによりジオポリマー骨格が形成され、放射性物質が固定化される。ジオポリマー骨格形成時には、シリカおよびアルミナ間で脱水重縮合を経てポリマー化が進行し、水分が除去される。そのため、セメントに比べ含水率が非常に低く、放射線分解による水素発生を抑制できる。」
「【0022】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
[放射性廃棄物の処理方法]
本発明の放射性廃棄物の処理方法ではジオポリマーを用いて放射性廃棄物を固化処理する。
【0023】
(放射性廃棄物)
放射性廃棄物としては、放射性物質を捕集した廃イオン交換樹脂、廃イオン交換樹脂を分解した残渣、瓦礫等を焼却して得られる焼却残渣、放射化した金属の切粉などの粉状あるいは粒状のもの、板・管などの塊状のもの、溶液状のものなどが挙げられる。
【0024】
(ジオポリマー)
ジオポリマーとは、アルミノケイ酸塩がアルカリ溶液と反応し、脱水重縮合により―Si-O-Al-や-Si-O-Si-結合を生じてポリマー化したものである。このポリマー化の過程で、セシウムイオンなどの放射性核種をジオポリマー内の構造に固定するバインダーとなる。
【0025】
上記アルミノケイ酸塩原料としては、ケイ酸塩中にあるケイ素原子の一部をアルミニウム原子に置換した、xM2O・yAl2O3・zSiO2・nH2O (Mは、アルカリ金属を示し、x、y、zは、それぞれ正の整数を示し、nは、0又は正の整数を示す。)で表されるアルミノケイ酸塩を生成することができるものであれば特に限定されない。」
「【0027】
上記アルカリ活性剤は、脱水重縮合を促進させる成分である。上記アルカリ活性剤としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムなどの水溶液が挙げられ、中でも、ケイ酸ナトリウム、及び水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。また、水酸化ナトリウムと、ケイ酸ナトリウムとを混合して用いてもよい。」
「【0036】
(固化処理)
本発明では、上記ジオポリマーから構成されるバインダーと放射性廃棄物と混練水とを、廃棄物容器内で混練・養生させて、混練物を固化させる。これによりジオポリマーの脱水重縮合反応が進行して、混練物が次第に固化していく。」
(イ)引用文献2に記載された技術的事項の認定
上記(ア)によれば、引用文献2には、放射性廃棄物の処分方法について、次の技術的事項(以下「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「セメントに代わる材料として、ジオポリマーを用いて放射性廃棄物を固化処理することであって、(【0005】、【0022】)
放射性廃棄物は、放射性物質を捕集した廃イオン交換樹脂であり、(【0023】)
ジオポリマーは、アルミノケイ酸塩がアルカリ溶液と反応し、脱水重縮合により―Si-O-Al-や-Si-O-Si-結合を生じてポリマー化したものであって、このポリマー化の過程で、セシウムイオンなどの放射性核種をジオポリマー内の構造に固定するバインダーとなるものであり、(【0024】)
固化処理は、ジオポリマーから構成されるバインダーと放射性廃棄物と混練水とを、廃棄物容器内で混練・養生させて、混練物を固化させる(【0036】)
という技術的事項。」
(4)本件補正発明と引用発明1との対比
本件補正発明と引用発明1とを対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明1の「スロンチウム、セシウム、ヨウ素およびルテニウムを含む群から選ばれる少なくとも1つの元素を含有する有機質廃物」は、放射性元素によって汚染された廃物であって、当該廃物として「ルテニウムを含有する陽イオン交換樹脂(スルホン酸系)」を処理対象に含むものである。そして、一般に、イオン交換樹脂は対象とする液体と接触することによって対象中のイオンを捕捉するものであるところ、引用発明1のイオン交換樹脂が原子炉の操作によって汚染されたものであることを考慮すると、引用発明1の「スロンチウム、セシウム、ヨウ素およびルテニウムを含む群から選ばれる少なくとも1つの元素を含有する有機質廃物」と、本件補正発明の「炉内循環水または放射性廃液の浄化に用いた陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とが混在している使用済のイオン交換樹脂」は、「炉内循環水または放射性廃液の浄化に用いた陽イオン交換樹脂などを含む、放射性元素によって汚染された有機廃物」である点で共通する。
イ 本件補正発明の「イオン交換樹脂を溶融塩中で熱分解」する事項について検討すると、本願明細書の発明の詳細な説明の【0015】に照らせば、当該事項は、イオン交換樹脂5が加熱により溶融状態とされた溶融塩材料7の中で酸化分解されることと解される。
そして、引用発明1の「アルカリ金属炭酸塩で構成される溶融塩浴中へその有機質廃物およびガス状酸素を導入し、その浴を400乃至1000℃の高温にかつ0.5乃至10気圧の圧力のもとに維持してその有機質廃物を少なくとも部分的に酸化および燃焼させ」、その際に生じる「選択された元素を溶融塩中に残留させ」たものは、有機廃物を無機化したものであると認められる。さらに、引用発明1の処理対象がスルホン酸系の陽イオン交換樹脂を含むものであることを考慮すると、引用発明1において「選択された元素を溶融塩中に残留させ」たものは、スルホン酸に由来する硫黄成分を含む廃溶融塩であると認められる。
よって、上記アの検討を踏まえると、引用発明1の「スロンチウム、セシウム、ヨウ素およびルテニウムを含む群から選ばれる少なくとも1つの元素を含有する有機質廃物を処理するに当り、アルカリ金属炭酸塩で構成される溶融塩浴中へその有機質廃物およびガス状酸素を導入し、その浴を400乃至1000℃の高温にかつ0.5乃至10気圧の圧力のもとに維持してその有機質廃物を少なくとも部分的に酸化および燃焼させ、かつ上記の選択された元素を溶融塩浴中に残留させる、有機質廃物の処理方法であって、当該方法により、ルテニウムを含有する陽イオン交換樹脂(スルホン酸系)や、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸ヨーロッピウムおよびヨウ化ナトリウムによって核分裂生成物で汚染された紙およびその他のセルローズ物質、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンおよびゴムから成る有機廃物、のような有機廃物を処理できる」ことと、
本件補正発明の「使用済のイオン交換樹脂を溶融塩中で熱分解し、前記イオン交換樹脂に含まれる有機物を無機化して硫黄成分を含む廃溶融塩を生成する溶融塩処理ステップ」とは、
「使用済の陽イオン交換樹脂を含む有機廃物を溶融塩中で熱分解し、前記イオン交換樹脂に含まれる有機物を無機化して硫黄成分を含む廃溶融塩を生成する溶融塩処理ステップ」である点で共通する。
(5)本件補正発明と引用発明1の一致点及び相違点
上記(4)によれば、本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
炉内循環水または放射性廃液の浄化に用いた陽イオン交換樹脂などの、放射性元素によって汚染された有機廃物を溶融塩中で熱分解し、前記有機廃物が前記陽イオン交換樹脂である場合に、当該陽イオン交換樹脂に含まれる有機物を無機化して硫黄成分を含む廃溶融塩を生成する溶融塩処理ステップ
を含む、
放射性元素によって汚染された有機廃物の処理方法。
<相違点1>
イオン交換樹脂について、本件補正発明は「陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とが混在している」のに対して、引用発明1はスルホン酸系の陽イオン交換樹脂を用いており、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とが混在していない点。
<相違点2>
本件補正発明は、「前記熱分解により生じた前記硫黄成分を含む前記廃溶融塩とカルシウム成分を含まないジオポリマー固型化材料とを混練する混練処理ステップと、前記混練により生じた混練物を養生し、ジオポリマー固化体を生成する養生処理ステップと、を含む」のに対して、引用発明1は、熱分解により生じた硫黄成分を含む廃溶融塩をどのように処理するかの特定がない点。
(6)判断(相違点についての検討)
ア 相違点1について
引用発明1は、原子炉用燃料の加工およびこのような炉の操作において、放射性元素によって汚染された廃物質の容量を減少させるために、ストロンチウム、セシウム、ヨウ素およびルテニウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する有機廃物を処理するものであるところ、このような処理の対象とされる放射性元素は、原子炉の操作によって液体中に移行して陽イオン(ストロンチウム、セシウム、ルテニウム)又は陰イオン(ヨウ素)の形態で存在し得るものであることから、その処理対象として陽イオン及び陰イオンを含むものも想定されている。
また、引用発明1は、処理対象として種々の放射性核種を含むものを想定しているところ、溶融塩処理する有機廃物は特に制限はないと解される。
加えて、放射性物質の処理に用いるイオン交換樹脂として、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を用いて、陰イオンの不純物と陽イオンの不純物の両方を除去する技術は周知技術である(必要ならば、特開平4-260420号公報の【0002】等、特開昭62-19798号公報の第3頁右上欄第10~12行、第6頁右下欄第9行~第7頁右下欄第7行等を参照されたい。)。
そうすると、引用発明1において、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とが混在している使用済のイオン交換樹脂を処理の対象とすることは当業者が適宜なし得る選択的事項にすぎない。
以上によれば、相違点1に係る本件補正発明の構成は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。
イ 相違点2について
引用発明1は、放射性元素によって汚染された廃物の容量を減少させるため、選択された元素を溶融塩浴中に残留させ、かつそれらの元素を安定な固形化合物として残留させるものであって、このような廃溶融塩は選択された元素によって汚染されているところ、当該廃溶融塩は何の処理もせずに長期にわたり貯蔵すると飛散や流出等のリスクが高まることは明らかであるから、長期にわたり保管・管理するための固化等の処分が必要であることは当業者が当然に認識する事項である。
そのため、引用発明1から出発した当業者は、生成された固体生成物の処分方法について適宜実施しようとする動機を持つといえる。
一方、引用文献2に記載された技術的事項は、セメントに代わる材料として、ジオポリマーを用いて放射性廃棄物を固化処理するものであって、放射性廃棄物は、放射性物質を捕集した廃イオン交換樹脂を含むものである。
このように、引用発明1と引用文献2に記載された技術的事項とは、放射性物質で汚染された有機廃物の処分方法に関連する技術分野に属するものであるとともに、取り扱う対象が放射性物質である点で共通することを鑑みると、両者は、放射性廃棄物の長期保管が可能なように処分するという課題が共通するものといえる。
ここで、引用文献2に記載された技術的事項の「ジオポリマーから構成されるバインダー」は、本件補正発明にいう「ジオポリマー固型化材料」に相当する。また、当該「ジオポリマーから構成されるバインダー」がカルシウム成分を含まないことはその組成から明らかである。
そうすると、引用発明1において生成された廃溶融塩を長期にわたり保管・管理するために、当該廃溶融塩を引用文献2に記載された技術的事項を適用して、相違点2に係る本件補正発明の構成のようにすることは当業者が容易に想到し得たものである。
(7)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果は、前記(2)によれば、固型化材料9が、アルミナシリカ粉末及びアルカリ刺激剤を含み、セメント固化体のように、カルシウム成分を含まないことで、エトリンガイトが生成されることによる膨張割れのトラブルを防ぐことができるというものであるところ、本件補正発明の構成が奏するものとして、引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が予測し得ない顕著なものとはいえない。すなわち、セメントを用いたことによる課題を解決するものとして、引用文献2に記載された技術的事項ではジオポリマーを用いることとしているところ、当該ジオポリマーを用いたことによって、セメントを用いたことによる公知の課題を含めて解決し得るものであることは当業者にとって明らかである。
さらに、セメント固化ではエトリンガイトの生成に起因する大きな膨張を引き起こすことが技術常識であることは、文献7(「4月10日~11日、第1回福島第一廃炉国際フォーラムにて、パートナーシップを締結したAmecFoster Wheeler社のSIAL(登録商標)ジオポリマーを、実績を持つライセンスされた封じ込め技術として紹介するとともに、福島第一から発生するスラッジ、スラリーの固化の研究を実施していると発表しました。」、掲載先URL:https://www.fujielectric.co.jp/products/energy/nuclear/news_list/index.html、2016年4月30日公開)に記載のとおりであり、エトリンガイトの生成を防ぐという効果については、セメントに代わる材料として、ジオポリマーを用いて放射性廃棄物を固化処理する引用文献2に記載された技術的事項において既に奏する効果に過ぎない。
そのため、出願時の技術常識からみて、本件補正発明が、引用発明1に引用文献2に記載された技術的事項を適用した構成に比較して格別顕著な効果を奏するものであるということはできない。
(8)請求人の主張について
ア 請求人は、本件補正発明と引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項とでは、目的と作用効果が異なり、また、引用文献2に記載された技術的事項においては、カルシウム成分を含まない固型化材料として、セメントではなくジオポリマーを用いて固化すること、処理対象に硫黄成分が含まれるかどうかについて、開示されていない旨主張するが、上記(6)で説示したとおり、引用発明1に引用文献2に記載された技術的事項を適用することは当業者にとって容易であって、引用発明1に引用文献2に記載された技術的事項を適用した構成は、硫黄成分を含む処理対象に対して、カルシウム成分を含まない固型化材料として、セメントではなくジオポリマーを用いる構成である。
イ さらに、請求人は、本件補正発明は、カルシウム成分を含まないジオポリマー固型化材料を用いることに着目したものであり、廃イオン交換樹脂中の硫黄成分とカルシウム成分でエトリンガイトが生成されることを防ぐという有利な効果を主張するが、上記(7)で説示したとおりであり当該主張には理由がない。
(9)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明の認定
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和5年1月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)において本件補正前の請求項1として記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本件補正前の請求項1に係る発明は、出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である上記の引用文献1に記載された引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項及び前記周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、引用文献2及びそれぞれの記載事項は、上記第2の[理由]2(3)で認定したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「カルシウム成分を含まないジオポリマー固型化材料」を「ジオポリマー固型化材料」として、ジオポリマー固型化材料についての限定事項を削除し、補正前の請求項1において「前記熱分解により生じた硫黄成分を含む廃溶融塩」と規定されていた事項との関係を明確化した「有機物を無機化して硫黄成分を含む廃溶融塩を生成する溶融塩処理ステップ」を「有機物を無機化する溶融塩処理ステップ」として、溶融塩処理ステップの記載を変更したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(6)に記載したとおり、引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、同様の理由により、本願発明は、引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-009480