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特許拒絶査定不服審判

2023-021996

トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法

審判番号
2023-021996
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-188640
請求日
2023年12月25日
審決日
2025年06月23日
公報発行日
2025年09月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社イメージワン
  • 【請求人代理人】山尾 憲人
  • 【請求人代理人】田村 啓
  • 【請求人代理人】奥西 祐之
審判長/審判官
  • 審判長 山村 浩
  • 審判官 波多江 進
  • 審判官 小澤 尚由
分類
P18 .537-WZ (G21F) / P18 .121-WZ (G21F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

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特願2021-188640「トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 5月31日出願公開、特開2023- 75624〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和3年11月19日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和4年11月30日付け:拒絶理由通知書 令和5年 4月 4日 :意見書、手続補正書の提出 同年 6月 5日付け:拒絶理由通知書 同年 8月14日 :意見書、手続補正書の提出 同年 9月 7日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同月26日 :原査定の謄本の送達) 同年12月25日 :審判請求書、手続補正書、上申書の提出 令和6年 2月29日 :面接審査 同年 3月 1日付け:前置報告書 同年 6月20日 :上申書の提出 令和7年 3月 6日付け:拒絶理由通知書(以下、この拒絶理由通知書で通知した拒絶理由を「当審拒絶理由」という。) 同年 5月 9日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。 「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な0.37MPa以下の圧力条件下において、 ゲスト分子ガスであるHFC-134aガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含むトリチウム濃度が1000×106Bq/L以下の被処理水に、軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて、 前記被処理水の温度を経時振動させて温度差を設け、 前記温度差が、反応系内における前記被処理水の第一温度とこれより低温の第二温度との温度差であり、 前記第二温度が10.3~14.3℃であり、前記第一温度が15.3~19.3℃である、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法。」 第3 当審拒絶理由の概要 本願発明は、本件補正前(令和5年12月25日に提出された手続補正書による補正後)の請求項1に係る発明を補正したものであるところ、本件補正前の請求項1に係る発明に対して通知した当審拒絶理由は、次に概要を示す理由2及び3を含むものである。 理由2(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 理由3(進歩性)本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 <引用文献等一覧> 1.特開2020-71171号公報 第4 理由2についての当合議体の判断 以下に示すとおり、本願発明は、当業者が発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 1 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付したものである。 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、トリチウム水及び軽水を含む被処理水から、被処理水中のトリチウム濃度が低濃度であっても、トリチウム水及び軽水を含む被処理水をより効率よく処理する技術を提供することを主な目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者は、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法又はトリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法について鋭意検討しているときに、軽水ガスハイドレート及び重水ガスハイドレート、さらにいえばトリチウム水ガスハイドレートを含めて、これらは任意の割合で混合する完全固溶体を形成することを見出した。本発明者は、これらがガスハイドレート化する温度は、組成比によって連続的に変化することを見出し、この結果、重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けることによって、トリチウム水で汚染された軽水(以下、「トリチウム水汚染水」又は「汚染水」ともいう)を含む被処理水をより効率よく処理すること、好適にはトリチウム水汚染水からトリチウム水をより簡便により効率よく分離でき、トリチウム水が低減された軽水を製造できることを見出した。すなわち、本発明は、以下のとおりである。 【0010】 本発明は、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、 ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること、を含む、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法、又はトリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法を提供することができる。 また、本発明は、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、 ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けることによって、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成する、トリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材の製造方法を提供することができる。 【0011】 また、前記温度差を設けるとは、前記被処理水の上部温度と下部温度とで温度差を設けることである、又は、前記被処理水の温度を経時振動させることであってもよい。 また、前記温度差が、反応系内における前記被処理水の第一温度とこれより低温の第二温度との温度差であり、当該温度差が2.0~8.0℃であってもよく、及び/又は、前記第二温度が、8.0~21.0℃であってもよい。 また、前記温度差を設けることにより、前記被処理水中のトリチウム水を、前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、当該重水ガスハイドレート基材よりトリチウム濃度の高いトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成することによって、トリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水を分離してもよい。 また、さらに、前記ゲスト分子ガスの存在下で、前記トリチウム水及び軽水を含む被処理水を循環させ、前記重水ガスハイドレート基材に接触させること、を含んでもよい。 さらに、前記被処理水中のトリチウム水を、形成されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材に取り込ませて、当該重水ガスハイドレート基材より高濃度のトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材を形成してもよい。 【発明の効果】 【0012】 本発明は、トリチウム水及び軽水を含む被処理水から、被処理水中のトリチウム濃度が低濃度であってもトリチウム水を、トリチウム水及び軽水を含む被処理水を効率よく処理する技術を提供することができる。なお、本発明は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。」 「【0015】 1.本実施形態に係るトリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法又はトリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法 本実施形態は、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること(以下、「前記被処理水に温度差を設けること」ともいう)、を含む、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理方法、又はトリチウム水及び軽水を含む被処理水からトリチウム水を分離する方法を提供することができる(例えば、図1及び2参照)。 【0016】 これによって、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませる反応系(以下、「反応系」ともいう)を行うことができ、当該トリチウム水を取り込み含む重水ガスハイドレート基材を被処理水から分離すること又は反応系から液相(液体)を分離することで、トリチウム水汚染が軽減された被処理水又は軽水を得ることができる。 さらに、前記被処理水の液相(液体)を、前記反応系(例えば、反応圧力容器等)から出力し、循環用ポンプを備える流路(配管等)を利用して循環させ、前記反応系に入力させる、という前記被処理水の液相の液体循環を行うことで、被処理水中のトリチウム水が、反応系内を通過するたびごとに反応系内に存在する前記重水ガスハイドレート基材(被処理水の固相(スラリー状等))に接触させることができる(以下、「循環接触」ともいう)。このような前記被処理水の固相に対して前記被処理水の液相を循環接触させることにより、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材により効率よく取り込ませることができ、また、循環させる被処理水の液相の温度を所定の温度に調節することで、前記反応系内の前記重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水の反応温度を所定の温度に制御することもできる。 さらに、前記被処理水から分離されたトリチウム水を含む重水ガスハイドレート基材から、トリチウム水を回収することもでき、また、トリチウム水回収後の重水ガスハイドレート基材を、トリチウム水及び軽水を含む被処理水の処理に再利用することもできる。」 「【0022】 また、本実施形態は、前記温度差を設けるとは、空間的な温度差及び/又は時間的変動による温度差を設けることが好適であり、より好適には、当該温度差は、第一温度と第二温度の温度差である。ここで「第一温度」とは、「第二温度」よりも高い温度であり、「第二温度」は、「第一温度」よりも低い温度をいう。 本実施形態のより好適な態様として、前記被処理水の上部温度(第一温度)と下部温度(第二温度)とで温度差を設けることである、又は、前記被処理水の温度を経時振動させること、このとき最高温度(第一温度)及び最低温度(第二温度)とで温度差を設けることが好適である。 また、本実施形態は、好適には、前記温度差が、2.0~8.0℃、及び/又は、前記第二温度が、ゲスト分子ガスのガス種によって異なるため、適宜設定することが好適であるが、当該第二温度が8.0~12.6℃であることが好適であるのはゲスト分子ガスは、HFC-134aであるときであり、当該第二温度が8.0~21.0℃であることが好適であるのはゲスト分子ガスが、HFC-32であるときであり、これらを考慮した場合、当該第二温度が8.0~21.0℃であることが好適である。 さらに、前記ゲスト分子ガスの存在下で、前記重水ガスハイドレート基材に対し、前記トリチウム水及び軽水を含む被処理水を循環接触させること、を含むことが好適である。」 「【0056】 <1-2-3.前記被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること> 本実施形態における「重水ガスハイドレート結晶化温度帯」とは、軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲のことである。 本実施形態において、当該結晶化温度帯の温度範囲の決定方法は、以下のようにして求めることができる。 重水ガスハイドレートの熱力学的に平衡な結晶化温度の決定は、予備試験で大まかに決定した結晶化温度より高い温度から、降温速度をパラメータとして一定速度で徐冷していき結晶化が生じた温度を求める。得られた降温速度と結晶化温度の関係式において、外挿して得た降温速度が0の場合の温度を熱力学的に平衡な結晶化温度とするのが一般的である。この試験においては圧力は一定に保たれる必要がある。また、より正しくは、結晶化したガスハイドレート結晶を一定圧力下で、結晶化温度より低い温度から昇温速度をパラメータとして一定速度で加熱していき結晶が溶融した温度を求める。得られた昇温速度と溶融温度の関係式において、外挿して得た昇温速度が0の場合の温度を熱力学的に平衡な溶融温度とする。そして、前述の結晶化温度が溶融温度が十分な精度一致することを確認して、初めて熱力学的に平衡な結晶化温度が得られたことになる。或いは、温度をステップ状に下げて、結晶化が生じた温度を、結晶化温度とする方法がある。 【0057】 このようにして重水ガスハイドレートが結晶化する熱力学的に平衡な温度を求めることは可能であるが、本実施形態における処理は、反応圧力装置内に対して物質が連続的に流出入し、結晶化及び溶融反応が連続的に生じている熱力学的に非平衡な条件で行っているため、熱力学的平衡温度を一つの目安としてはいるが、熱力学的平衡温度では、処理を行うことは不可能である。 実際には、重水ガスハイドレートの熱力学的平衡温度では結晶化は生じず、これよりわずかに低温とすることにより結晶成長の起点が基材上に発現し、結晶成長が開始される。どの程度低温にすれば、結晶化が生じるのかは不確実な要素が多く、組成の空間的な不均一性の影響もあり、-0.1~2℃の幅がある。一旦、結晶化が始まると温度を熱力学的平衡温度まで上昇させても結晶化は継続する。ガスハイドレートの結晶化反応はそれ自体発熱反応なので、結晶化によって温度上昇が生じこれを完全に抑制することは困難であるが、結晶化は継続して生じる。 従って、本実施形態において処理を行う結晶化温度は、単一の温度ではなく熱力学的な平衡温度に対して、-0.1~2℃の幅をもつ結晶化温度帯において行うことになる。 【0058】 「重水ガスハイドレート結晶化温度帯」は、「処理圧力における重水及び軽水及びトリチウム水のガスハイドレートの結晶化温度帯」或いは「処理圧力における重水をホスト成分として含む混合水ガスハイドレートの結晶化温度帯」或いは「処理圧力における重水をホスト成分として含むガスハイドレートの結晶化温度帯」ともいうことができる。この「処理圧力」の概念は、上記<1-2-1.>において説明した「圧力」に関する規定を参照することができる。 【0059】 そして、本発明者は、「軽水のみのガスハイドレートが結晶化する温度よりも高い温度」という条件では軽水と重水の混合したガスハイドレートが結晶化してしまうので、重水のみのガスハイドレートが結晶化する温度以上で処理しないといけないとい考えた。しかし、現実には重水ガスハイドレート基材の表面でも、わずかに軽水は存在するので、重水のみのガスハイドレートが結晶化する温度より少し低温でないと結晶化が生じない。一方で、トリチウム水もごくわずかに含まれることから、結晶化が開始される温度は、重水のみのガスハイドレートが結晶化する温度よりもわずかに高くなるはずと考えた。さらに、本発明者は、現実には軽水濃度の方がトリチウム水濃度よりはるかに高いので、重水のみのガスハイドレートが結晶化する温度よりわずかに低い温度で結晶化が起こることになる。これが、本発明における「重水ガスハイドレート結晶化温度帯の近傍」ということである。 【0060】 本実施形態における「重水ガスハイドレート結晶化温度帯の近傍」「第二温度」「第一温度」との関係について説明する。熱力学的に平衡な条件であれば、処理圧力における被処理水の組成を示す直線と液相面の交点が示す液相線温度で結晶化が開始されるが、非平衡な条件では実際にはこの温度より、-0.1~2℃高い温度において結晶化が観測される。このように平衡状態と非平衡状態における結晶化が観測される温度にはずれがあるので、実際の処理温度を「結晶化温度帯の近傍」としており、この温度を基準に「第二温度」を決定している。また、結晶化したガスハイドレートの組成は、被処理水の組成(図6のC)ではなく、前述の液相線温度平面と処理温度における固相面の交点が示す組成(図6ではトリチウム濃度はD、軽水濃度はEに対応する組成)となる。この組成と、被処理水の組成のずれが、1回の結晶化によるそれぞれトリチウム水の取り込み量及び軽水の離脱量に相当する。そこで、結晶化と溶融を繰り返して行う再結晶化を行えば、結晶組成中のトリチウム水濃度は、さらに高くなり、結晶組成中の軽水濃度は、さらに低くなる。この再結晶化を行うためには、結晶化した結晶を溶融することが必要であり、この溶融を行う温度が「第一温度」である。」 「【0069】 また、本実施形態にて用いる温度差、第一温度(空間的変動の上端温度、時間的変動の最高温度)、第二温度(空間的変動の下端温度、時間的変動の最低温度)等の温度は、使用するゲスト分子ガスによって被処理水中の温度が変化するため、これに対応して、随時、各種温度を適宜することが望ましい。 本実施形態における第一温度及び第一温度とこれより低温の第二温度の温度差は、好適には0.5~12.0℃、より好適には、1.0~10.0℃、さらに好適には、2.0~8.0℃である。さらに、当該第二温度は、8.0~21.0℃が好適である。 また、本実施形態における第二温度は、好適にはゲスト分子ガスを含むガスハイドレートの処理圧力における熱力学的平衡結晶化温度の±3℃、より好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±2℃、さらに好適にはゲスト分子ガスの溶融点の±1℃である。 例えば、ゲスト分子ガスとしてHFC-134aを用いる場合、第一温度及び第二温度の温度差が、2.0~8.0℃、及び/又は、当該第二温度が、8.0~12.6℃であることが好適である。」 「 【0129】 <実施例1> 試験用の汚染水として、超純水に、市販のトリチウム試薬を混合しトリチウム濃度がおおよそ5.00×105Bq/Lとなるように調製した。調製した汚染水の実際のトリチウム濃度を液体シンチレーション法により測定した。調製した汚染水はポリエチレン製広口ビンに入れ、さらに15℃の水浴中に入れ予冷し、これを試験用の汚染水とした。 【0130】 純度99.8%の市販の重水(酸化重水素)を真空ポンプで脱気した反応圧力容器1内に入力ポート4から導入し、反応圧力容器内の下部温度が15.0℃となるように温冷媒温調機構7,8にて調整した。反応圧力容器内に市販のHFC-134aガスを入力ポート4から導入し、絶対圧力が0.80MPaとなるように反応圧力容器1内の圧力を調整した。これにより、ゲスト分子ガスであるHFC-134aガスが過飽和状態となるまでゲスト分子ガスを重水に溶解させた。外部液体循環回路2により液相を強制循環させることにより反応圧力容器内を撹拌した。その後、反応圧力容器の下部温度が4.0℃になるまで温冷媒温調機構7,8にて降温し、温冷媒温調機構7にてそのまま反応溶液内の液体温度を保持することにより重水ガスハイドレートを晶出させた。反応圧力容器を開放して得られた重水ガスハイドレート基材は、反応圧力容器の内部全体に均等に晶出しており、実測した相対密度は約55%でシャーベット状のガスハイドレートが集合した多孔体であった。このとき、今回の試験に使用する、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化圧力条件及び結晶化温度を決定した。 【0131】 なお、ガスハイドレート形成温度は、ハイドレートは氷にガスが取り込まれたものなので、氷の形成温度と同様の傾向を示すと考えられる。氷の融点については、重水:3.82℃(276.97K)[参考文献1]、トリチウム水:4.48℃(277.63K)[参考文献2]、となっており、温度差は0.66Kである。これより、ハイドレートの場合には重水よりトリチウム水の方が約0.5K程度高いと考えられる。これを考慮して、今回の試験における、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件、結晶化可能な温度及びその近傍を設定した。[参考文献1] Long, E. A.; Kemp, J. D., J. Am. Chem. Soc. 1936, 58 (10), 1829-1834.[参考文献2] Jones, W. M., J. Am. Chem. Soc. 1952, 74 (23), 6065-6066. 【0132】 重水ガスハイドレートを晶出させた後、反応圧力容器内の液相の重水を下部出力ポートから排出除去した。その後、反応圧力容器の下部温度及び上部温度、並びに圧力を調整し、重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件よりわずかに高温かつ低圧なるように反応圧力容器内を調整した(一例として、温度0.5℃、絶対圧0.03MPa)。反応圧力容器内は、外部液体循環回路2により液相を強制循環させることにより撹拌させた。具体的な条件は、下部及び上部温度が14.0℃、絶対圧力が0.4MPaであるが、これは一例にすぎない。この温度及び圧力条件では、重水ガスハイドレートは熱力学的に準安定な状態にあり、溶融分解することはない。この温度、圧力条件を保持しながら、上記調製した試験用の汚染水140mLを、ゆっくりと入力ポート4から、重水ガスハイドレート基材が存在する反応圧力容器内に導入し、汚染水処理後の反応圧力容器外への排出量は63mLであった。このとき導入した試験用の汚染水の量は、重水ガスハイドレート晶出後に排出除去した重水(63mL;液相)の体積の90%とした。 【0133】 反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度(上端温度)及び圧力を制御部が調整し、結晶析出時の発熱反応により温度上昇が起こらないように温度を調節しながら徐々に重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件とした(平均昇温速度0.02℃/min程度)。初期段階では反応圧力容器の下部温度並びに上部温度は同一になるようにした。具体的な条件は、温度12.3℃、絶対圧力0.37MPaであるが、これは一例にすぎない。反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水は、外部液体循環回路により液相(主に汚染水)を強制循環させることにより撹拌させた。その後、ゲスト分子ガスであるHFC-134aガスを所定圧になるまで加え、さらに所定圧を維持するように調整した。 【0134】 反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下部温度はそのままとし、反応圧力容器の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度が、下部温度より5.0℃高くなるように制御条件を変更した。 この反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度及び下部温度、並びに、当該容器内の絶対圧力を、反応条件と呼ぶ。この反応条件下の状態で、外部液体循環回路を用いて常に循環させて反応圧力容器内の被処理水に強制対流を起こしつつ、上部層と下部層があることによる温度差が壊れないように維持しながら前記重水ガスハイドレート基材に循環接触させ、循環接触を一定時間処理(1時間)を行った。循環接触後、液相(トリチウム水除去処理後の汚染水)を下部出力ポート6から、トリチウム水が低減された被処理水(処理水)として回収した。回収はゆっくりと行い、減圧による急激な温度降下が生じないようにして行った。回収した液相のトリチウム濃度を液体シンチレーション法により測定した。 【0135】 次に、反応条件の一部を変更して同様の試験を行った。反応圧力容器内の圧力と、反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度と下部温度の温度差は変更せず、当該被処理水の下部温度の設定のみを9.8℃、10.3℃、14.3℃或いは14.8℃に変更した。 なお、上端温度、下端温度は、それぞれ反応圧力容器内の上部(上端)の被処理水の測定温度値、下部(下端)の被処理水の測定温度値である。実際の処理では、ガスハイドレートが生成する温度よりも高い温度から処理を開始した。基材表面の組成と液相線がぶつかる温度まで温度が低下するとそこで結晶化が起こることになる。このとき温度の温度を液相線温度と呼ぶ。結晶化する組成は、液相の組成とは異なり、液相線温度と固相線がぶつかる点が示す組成となり、この組成の差によって特定の成分即ち、トリチウム水がガスハイドレートとして選択的に結晶化する。 【0136】 【表1】 [図:0001426384000001.jpg] 【0137】 表1に示したように、前記被処理水の下端温度が重水ガスハイドレートの晶出する熱力学的平衡温度から2.5℃高いと、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水中のトリチウムは除去されない。当該熱力学的平衡値は、平衡状態で測定した熱力学的平衡温度という意味であり、12.3℃を想定することができる。仮に、重水ガスハイドレートとトリチウム水ハイドレートが固溶体を形成しないとすれば、熱力学的平衡温度から0.4℃高い温度条件ではトリチウム水ハイドレートは晶出するはずである。従って、この試験結果は、重水ガスハイドレートとトリチウム水ハイドレートが固溶体を形成していることを示している。 一般的に、固溶体とは、2種類以上の相(金属元素、非金属元素、化合物の場合もある)が互いに溶け合い、全体が均一の固相となっているものをいうが、本実施例では、ベースとした重水ガスハイドレート基材の表層部分にて、重水ガスハイドレートとトリチウム水ハイドレートとが固溶体を形成していると考える。 【0138】 また、表1に示したように、前記被処理水の下端温度が熱力学的平衡温度から2.5℃低いと、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水からのトリチウム水除去率が大幅に低下する。このトリチウム水除去率の低下は、重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水中の軽水がハイドレート化され、相対的にトリチウム水の除去率が低下したことに起因すると考えられる。仮に、重水ガスハイドレートと軽水ハイドレートとが固溶体を形成しないとすれば、この条件では軽水はガスハイドレート化しないはずであるから、このような現象は起こらない。 【0139】 以上より、トリチウム水で汚染された軽水を含む被処理水の処理条件は、軽水、重水及びトリチウム水のガスハイドレートが固溶体を形成することを前提として決定する必要がある。なお、固溶体を形成することにより、その固溶体組成に対応する結晶化温度が連続的に変化するので、端成分(この場合軽水ガスハイドレート)が結晶化しない条件で処理しても、固溶体として(軽水と重水の混合物として)結晶化が起こるので分離はできないと考える。」 「【図5】 [図:0001426384000002.jpg] 」 2 本願発明のサポート要件適合性の判断 (1) 本願発明が解決しようとする課題 発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「トリチウム水及び軽水を含む被処理水から、被処理水中のトリチウム濃度が低濃度であっても、トリチウム水及び軽水を含む被処理水をより効率よく処理する技術を提供すること」(【0008】)であると認められる。 (2) 当業者が発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて本件課題を解決できると認識できる範囲 発明の詳細な説明には、「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること」(【0015】)を含むトリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法によって、前記被処理水中のトリチウム水を前記重水ガスハイドレート基材に取り込ませる反応系を行うことができ、当該トリチウム水を取り込み含む重水ガスハイドレート基材を被処理水から分離すること又は反応系から液相(液体)を分離することで、トリチウム水汚染が軽減された被処理水又は軽水を得ることができる(【0016】)と記載されている。そして、当該「温度差」は、第一温度と第二温度の温度差であること(【0022】)が記載されている。 さらに、実施例1として、ゲスト分子ガスがHFC-134aガスであること(【0130】)、重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件として「温度12.3℃、絶対圧力0.37MPa」を選択したこと(【0133】)、第二温度及び第一温度として、NO.1-2の例(それぞれ10.3℃及び15.3℃)、NO.1-3の例(それぞれ12.3℃及び17.3℃)、並びにNO.1-4の例(それぞれ14.3℃及び19.3℃)が記載されており、これらの例では、汚染水のトリチウム濃度が、除去処理前と比べて相当程度減少していることが記載されている(【0136】の【表1】)。 そうすると、当業者は、「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、ゲスト分子ガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含む被処理水に、重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて温度差を設けること」を含むトリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法であって、「結晶化可能な圧力条件」が「0.37MPa」であり、「ゲスト分子ガス」が「HFC-134aガス」であり、「温度差」に係る「第二温度」及び「第一温度」が、それぞれ、10.3℃~14.3℃及び15.3℃~19.3℃であれば、本件課題を解決できることを認識できると認められる。 他方、発明の詳細な説明には、「ゲスト分子ガス」並びに「第二温度」及び「第一温度」が上記のように具体的に選択された場合において、「結晶化可能な圧力条件」が「0.37MPa以下」であることは記載されていない。 (3) 検討 ア 本願発明においては、「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な」「圧力条件」が「0.37MPa以下」であること、「ゲスト分子ガス」が「HFC-134aガス」であること、「温度差」に係る「第二温度」及び「第一温度」が、それぞれ、「10.3℃~14.3℃」及び「15.3℃~19.3℃」であることが特定されている。しかるに、前記(2)の認定に照らせば、本願発明がサポート要件を満たしているというためには、上記のとおりに、「ゲスト分子ガス」並びに「温度差」に係る第二温度及び第一温度が選択されている場合において、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件が、「0.37MPa」のみならず、「0.37MPa以下」であっても、当業者が本件課題を解決できると認識できるといえることが必要である。 しかしながら、以下のとおり、そのようにいうことはできない。 イ(ア) 本願発明における「温度差」は、「軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯」(以下「本件結晶化温度帯」という。)「及びその近傍に基づいて」設けられるものであるから、これを規定する「第一温度」及び「第二温度」もまた、本件結晶化温度帯及びその近傍に基づいて決定されるべきものである。このことは、発明の詳細な説明の【0060】の記載(前記1下線部参照。)からも首肯できる。 (イ) そして、本件結晶化温度帯が、圧力条件に依存することは、本願出願時の技術常識に照らして明らかである。このことは、本願の前記図5において、絶対圧力の値に基づいて、固相線(Solidus lines)及び液相線(Liquidus lines)が変動することからみても首肯できる。 (ウ) さらに、【0069】に記載されているとおり、第一温度及び第二温度は、使用するゲスト分子ガスによって変化する。 ウ 前記イのとおり、「第一温度」及び「第二温度」が圧力条件及び使用するゲスト分子ガスによって変化することが理解できるところ、本願発明においては、「第一温度」及び「第二温度」の範囲並びに使用するゲスト分子ガスが具体的に特定されていることから、当業者は、本件課題を解決できるのは、絶対圧力が「0.37MPa」(【0133】)である場合についてであると認識できる。一方、これとは異なる圧力の場合については、本件結晶化温度帯が異なるのであるから、当業者は、本件課題を解決できる具体的な温度差、すなわち、第一温度と第二温度の具体的な値は、「前記第二温度が10.3~14.3℃であり、前記第一温度が15.3~19.3℃である」とは異なる値であることを認識できる。具体的には、絶対圧力が「0.37MPa」よりも小さくなると、図5からも明らかなとおり、固相線及び液相線ともに低温側にシフトすると解されることから、本件課題を解決できる「第二温度」及び「第一温度」は、いずれも、低温側にシフトすると考えられる。 エ 以上によれば、「ゲスト分子ガス」が「HFC-134aガス」であって、「温度差」に係る第二温度及び第一温度が、それぞれ、「10.3℃~14.3℃」及び「15.3℃~19.3℃」であることが選択されている場合において、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件が、「0.37MPa」のみならず、「0.37MPa以下」であっても、当業者が本件課題を解決できるとは認識できるとはいえない。 3 小括 以上検討のとおり、本願発明は、当業者が発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて本件課題が解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 第5 理由3についての当合議体の判断 以下に示すとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 1 引用文献1に記載された事項及び引用発明等の認定 (1) 引用文献1に記載された事項 当審拒絶理由で引用され、本願の出願前に発行された引用文献1(特開2020-71171号公報)には、次の事項が記載されている。下線は当合議体が付したものである。 ア 技術分野、背景技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段、発明の効果(【0001】~【0030】) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、トリチウム水を含む被処理水からトリチウム水を分離する方法に関する。 【背景技術】 【0002】 東京電力福島第一原子力発電所内には大量の汚染水が貯留されており、この福島原発汚染水には放射性核種であるトリチウムがトリチウム水(HTO)として含まれており、そのトリチウム濃度は公共水域に放出する場合の制限値を超過している。この原発汚染水の貯留量は、2018年10月現在で約105万m3であり、現在も平均約220m3/日で増加し続けている。しかし、発電所内の汚染水タンク建設適地には限りがあり、現在の計画上では約137万m3が貯蔵の限界と考えられえている。この場合、単純計算では2023年中には貯蔵限界を迎えることになる。このため、効率のよい、トリチウムで汚染された軽水からのトリチウム水の分離方法が望まれている。 【0003】 上記福島原発汚染水に含まれているトリチウムの濃度は、0.5×106Bq/L~5×106Bq/Lであり、公共水域に放出する場合の制限値1500Bq/kgの約300~3000倍高い値である。トリチウムは自身の半減期12.3年の放射性壊変により、年率約5.5%の割合で減少する。従って、5年後の2023年には、トリチウム濃度は2018年の約75%になるが、依然として公共水域放出制限値よりはるかに高い。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 さらに、トリチウム水を含む混合液からトリチウム水を効率よく分離するための様々な技術開発が望まれている。 そこで、本発明は、トリチウム水を含む被処理水から、トリチウム水を効率よく分離する技術を提供することを主な目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0012】 ここで、福島原発汚染水に含まれているトリチウムの濃度0.5×106Bq/L~5×106Bq/Lは、トリチウムの比放射能が3.59×1011Bq/mgであることから、物質量濃度で表示すれば1.4×10-6~1.4×10-5ppmと極めて希薄であり、このトリチウム水の約99%以上を除去することが求められていることになる。 しかも、トリチウム水と軽水の分離の場合には、比重差がわずかであることから、固液分離や遠心分離等の重力や遠心力を利用した方法では十分な分離が行なえないのが実情である。 さらに、トリチウム水は水分子の一部として存在しているため、セシウムやストロンチウムといったイオンの形で水に溶けることが可能な他の放射性物質とは異なるためセシウム等の分離除去方法では、極めて希薄なトリチウム水を汚染水から分離することに非常に技術的困難性が伴う。 ・・・(中略)・・・ 【0017】 ここで、トリチウム水と重水と軽水はその構造にほとんど差異がないために、ガスハイドレートは完全固溶体を形成する。これは、軽水と重水とトリチウム水の任意の組成比をもつ混合ガスハイドレートが安定に存在することを意味する。 【0018】 トリチウム水と重水と軽水は互いに分子構造は良く似ている同位体置換体(アイソトポローグ)であるが、水素結合の結合力が異なることから、同一のガスに対してガスハイドレート化エンタルピーが3~5kJmol-1gas異なり(非特許文献3)、ガスハイドレート化する温度および圧力の条件も異なる。しかし、その分子構造にはほとんど差異がないために、トリチウム水と重水と軽水の任意の組成比をもつ混合ガスハイドレートが安定に存在できる。 このため、仮に、重水のみがガスハイドレート化し、軽水は液体状態であるような温度および圧力条件下でガスハイドレートを形成させ、固液分離によって軽水から重水のガスハイドレートを除去する場合には、温度および圧力条件を精密にコントロールする必要があると考える。また、軽水からトリチウム水のガスハイドレートを同様の方法で除去する場合においても温度及び圧力条件を精密にコントロールする必要があると考える。 【0019】 しかし、形成されたガスハイドレートには一定の割合で必ず軽水が含まれており、効率よく重水を除去することは困難である。仮に、このガスハイドレート中の軽水の濃度を低下させる目的で、一度形成させたガスハイドレートを加熱し、軽水のみを優先的に溶融させ液相とする再結晶法を連続的に行うことが考えられる。この再結晶操作を行うために分離操作全体として長時間を要する。また、ガスハイドレートは一度形成されると温度を上昇させても熱力学的に準安定であり、溶融しにくい。 【0020】 従って、再結晶法で溶融させる場合には、熱力学的な平衡溶融温度よりも高温で溶融することが必要となる。しかし、一旦溶融が始まると、熱力学的な平衡溶融温度との温度差が溶融の駆動力となり過剰に溶融しやすい。このため、再結晶法の溶融温度の決定が困難である。 【0021】 トリチウム水と重水と軽水では、ガスハイドレートが晶析する温度と圧力の条件が異なる。この条件の差異を利用して、軽水とトリチウム水の混合液から、トリチウム水を分離するのが、ガスハイドレート法の原理である。より具体的には、図1は、軽水100%と重水100%とトリチウム水100%の状態図、すなわち熱力学的に平衡な相を重ねて示したものである。この図上で、処理条件領域Zにおいてはトリチウム水と重水を含む又はいずれかを含むガスハイドレートが熱力学的に安定である。 【0022】 理論上、トリチウム水と重水と軽水の混合液とガスを含む系において処理条件領域Z内の温度と圧力条件で反応を行えば、トリチウム水と重水の含有量が高く且つ軽水の含有量が低いガスハイドレートが生成する。しかしながら、実際には、処理条件領域Z内の任意の条件pでガスハイドレートが生成するためには極めて長い時間を要する。 このため、さらにこの生成したガスハイドレートを固液分離法により分離すれば、軽水中からトリチウム水を除去することが可能である。しかし、処理条件領域Zの任意の条件pでガスハイドレートが生成するためには極めて長い時間を要するのでは、トリチウムで汚染された軽水からのトリチウム水を除去方法としては、時間的ロスが大きく非常に効率が悪いため、不具合である。 【0023】 理論上、短時間で晶析させるためには、pから矢印aの示す高圧方向又は矢印bの示す低温方向、及びその合成方向cのいずれかに変位した条件で反応を行う必要がある。これは、熱力学的にはガスハイドレートが安定な条件であっても、液体のトリチウム水と重水及び気体のガスが共存する熱力学的に準安定な状態が存在するためである。 そして、非特許文献4には、点pからの変位が大きいほど晶析の駆動力は大きくなり、迅速にガスハイドレートが晶析することが報告されている。しかしながら、点pは軽水ガスハイドレートの安定領域内にあるので、実際には、軽水もガスハイドレート化する可能性が高くなることから、トリチウム水と重水の含有量が高く且つ軽水の含有量が低いガスハイドレートを晶析させることが困難になる。 【0024】 さらに、トリチウム水と重水の含有量が高く且つ軽水の含有量が低いガスハイドレートを形成するためには、温度と圧力の制御を極めて精密に行い、軽水の含有量が低く且つガスハイドレート晶出速度が高い至適な処理温度・圧力を決定し、その条件で処理を行う必要がある。しかしながら、実際には、このような温度・圧力の極めて精密な制御は、試験プラントレベルの装置であっても難しく、当然に工業的に処理するための大型の装置で行うことは非常に困難である。 【0025】 さらに、晶出速度を高くして大量のガスハイドレートが晶析されると、気体状態のガスはガスハイドレートの結晶構造中に取り込まれ固体化することから、系の体積は急激に減少し圧力が低下する。ガスハイドレート晶析の処理能力を増大させるために処理装置を大型化する必要があるが、急激な圧力低下に対応するための圧力補償が大型の装置では非常に困難になる。 【0026】 さらに、発明者は、鋭意検討を行った結果、重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレートに対して、トリチウム水を含む軽水の被処理水を一定条件下で接触させることで、当該被処理水からトリチウム水を効率よく分離できることを見出した。前記被処理水を接触させることにより、前記ガスハイドレートの表面及び/又は内部に、当該被処理水に含まれる微量のトリチウム水を大量の軽水よりも優先的に固定化させることができたことは、通常予測し得ない結果である。また、この方法は、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート形成条件下かつ軽水の液体状態を維持する条件下における、前記ガスハイドレートに対する接触反応であるため、温度及び圧力の制御も行い易いという非常に優れた効果も有する。 【0027】 そして、本発明者は、この方法により、トリチウムが当該被処理水から高率で移行している一方で軽水を微量でしか含んでいないトリチウム水-重水を含むガスハイドレートを得ることができることを見出した。この得られたガスハイドレートから表面近傍に偏在しているトリチウム高濃度部分を除去することで当該ガスハイドレートからトリチウムを容易に回収でき、また除去後のガスハイドレートも一度溶融させることなく、再利用できるので、この方法は非常に効率のよい分離方法であり経済的でもある。 【0028】 また、本発明者は、この方法により、トリチウム水を低濃度で含む軽水の被処理水であっても、当該被処理水からトリチウムを効率よく分離でき、接触反応後の被処理水中のトリチウム濃度を低減させることができたので、従来技術的に極めて困難とされていた低濃度トリチウム水で汚染された軽水からトリチウム水を分離する方法や汚染水の処理方法もこの方法により克服することができた。 斯様にして本発明者は本発明を完成させ、本発明は以下のとおりである。 【0029】 本発明は、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下であってかつ軽水の液体状態を維持する条件下で、重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレートに対して、トリチウム水を含む被処理水を接触させて、当該被処理水からトリチウム水を分離する方法を提供することができる。 また、本発明は、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下であってかつ軽水の液体状態を維持する条件下で、重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレートに対して、トリチウム水を含む被処理水を接触反応させて、当該被処理水からトリチウム水を分離する、トリチウム水汚染水の処理方法を提供することができる。 前記被処理水を接触させて前記 ガスハイドレートの表面及び/又は内部に、トリチウム水を含むガスハイドレートを形成させてもよい。 前記接触させて形成されたトリチウム水-重水を含むガスハイドレートと、接触後の被処理水とを分離してもよい。 前記重水を含むガスハイドレートが、重水を含む混合液を、重水のガスハイドレート形成条件下において重水を含むガスハイドレートに形成させたものであってもよい。 前記前記形成されたトリチウム水-重水を含むガスハイドレートの一部を回収してトリチウム水を含む溶液を回収してもよい。 【発明の効果】 【0030】 本発明によれば、トリチウム水を含む被処理水から、トリチウム水を効率よく分離する技術を提供することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本発明中に記載されたいずれかの効果であってもよい。」 「【図1】 [図:0001426384000003.jpg] 」 イ 発明を実施するための形態(【0032】~【0133】) 「【発明を実施するための形態】 【0032】 以下、本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。 【0033】 <1.本発明に係るトリチウム水を含む被処理水からのトリチウム水の分離方法> 本発明は、トリチウム水を含む被処理水からのトリチウム水の分離方法である。本発明は、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下であってかつ軽水の液体状態を維持する条件下で、重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレートに対して、トリチウム水を含む被処理水を接触させて、当該被処理水からトリチウム水を分離することが好適である。 【0034】 本発明によれば、重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレート(表面及び/又は内部)に、トリチウム水を含むガスハイドレートを形成させることができる。重水を含むガスハイドレートをベースにすることで、軽水よりもトリチウム水が優先的に取り込まれトリチウム水-重水を含むガスハイドレートを効率よく形成でき、当該ガスハイドレート中のトリチウム水濃度が高まる。また、当該ガスハイドレート中に含まれる軽水は微量である 【0035】 また、本発明では、重水及び/又はトリチウム水、並びに汚染された軽水から、各ガスハイドレートを同時に晶析させなくともよい。このため、本発明では、トリチウム水を含むガスハイドレート中の軽水の含有量を低減させるために、再結晶法のような精密な温度・圧力制御が要求され且つ煩雑な操作を行わなくともよい点に大きな利点である。 【0036】 本発明により、トリチウム水を含む混合液(被処理水)からトリチウム水を効率よく分離することができる。また、被処理水から分離されたトリチウムは重水との核融合反応に利用することも可能である。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本発明中に記載されたいずれかの効果であってもよい。 ・・・(中略)・・・ 【0038】 〔1-1.被処理水〕 本発明に用いられる被処理水は、トリチウム水を少なくとも含む混合液である。当該トリチウム水を含む混合液とは、トリチウムによって汚染された軽水(以下、「汚染水」ともいう)であってもよい。また、当該汚染水は、被処理水には塩化ナトリウム等塩類を含んでいてもよく、トリチウムに汚染された海水、汽水又はこれらを含む軽水であってもよい。また、本発明に用いられる被処理水は、原子炉(核分裂)関連で発生するトリチウム含有の汚染水であってもよい。 本発明に用いられる被処理水は、トリチウムを少なくとも含むものであればよく、トリチウム水(例えばTHO、TDO、T2O)の由来は特に限定されない。通常、低濃度のトリチウム水で汚染された軽水の場合、平衡反応(H2O+T2O⇔2THO)がTHO側にシフトし、ほとんどすべてがTHOとなっている。 ・・・(中略)・・・ 【0040】 本発明に用いる被処理水中のトリチウム濃度は、特に限定されない。本発明であれば、被処理水中のトリチウム濃度が高濃度であっても低濃度であっても、トリチウム水のガスハイドレートが形成されて、これが優先的に重水のガスハイドレート及び/又はこれをベースとするトリチウム水-重水のガスハイドレートに固定化される利点を有する。 【0041】 被処理水中のトリチウム濃度が低濃度でも、本発明であれば分離することができ、このときの被処理水中のトリチウム濃度は、その上限値として好適には1000×106Bq/L以下、より好適には50×106Bq/L以下、より好適には10×106Bq/L以下、さらに好適には5×106Bq/L以下であり、その下限値として、500Bq/L以上であることが好ましく、より好適には0.001×106Bq/L以上、さらに好適には0.01×106Bq/L以上、よりさらに好適には0.05×106Bq/L以上、より好適には0.1×106Bq/L以上である。本発明によれば、被処理水中のトリチウム濃度が0.5×106Bq/L~5×106Bq/L程度の低濃度であっても容易に分離可能であるという当該技術分野において極めて有利な利点を有する。また、このトリチウム濃度の1/10~10倍程度の被処理水からも本発明であればトリチウム水を容易に分離可能である。なお、現時点の福島第一原子力発電所において公共水域に放出する場合の制限値は1500Bq/L以下となっているが、各施設ごとや各国によって規制値は異なっているが、本発明の場合、後記〔実施例〕の表1に示すように処理水を500程度Bq/L以下にすることも可能である。また、トリチウム濃度は、液体シンチレーション法で測定することができる。 ・・・(中略)・・・ 【0055】 〔1-3.被処理水接触反応工程〕 本発明は、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下であってかつ軽水の液体状態を維持する条件下で、重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレートに対して、トリチウム水を含む被処理水を接触させて、当該被処理水からトリチウム水を分離する。 前記被処理水を接触させて、前記ガスハイドレート(表面及び/又は内部)に、トリチウム水を含むガスハイドレートを形成させることが好適である。これにより、トリチウム水をさらに含んだトリチウム水-重水を含むガスハイドレートを形成できる。 ・・・(中略)・・・ 【0059】 ここで、本発明における「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件」とは、重水とトリチウム水の両方又はいずれかのガスハイドレート形成条件であり、当該条件は、ゲスト分子の種類により異なるばかりか、形成するガスハイドレートの結晶構造によっても異なる。例えば、重水のガスハイドレートの構造がI型とII型の場合、重水のガスハイドレート相と氷相と水相とゲスト分子の気相との4重点(Q1)と、ハイドレート相と水相とゲスト分子のガス相と液相との4重点(Q2)の間における温度と圧力の間に条件を設定する。 【0060】 また、本発明における「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下であってかつ軽水の液体状態を維持する条件下」には、本発明の効果を奏する範囲内で、重水のハイドレート生成平衡条件よりわずかに高圧側の定常条件及び/又は重水のハイドレート生成平衡条件よりわずかに低温側の定常条件であり、大部分の軽水が液体状態を維持可能な条件も含んでもよい。 なお、「大部分の軽水の液体状態を維持可能な条件」とは、トリチウム濃度が低い環境下では少量の軽水がガスハイドレートに含まれることもあるので、少なくとも9割程度以上の軽水が液体状態維持する条件下という意味である。例えば0.5×106Bq/L~5×106Bq/L程度の場合では最大で2質量%程度の軽水がガスハイドレートに含まれることもあるので、この場合の「大部分の軽水の液体状態を維持する条件下」では、98%以上の軽水が液体状態で維持されている。 【0061】 なお、一例であるが、大気圧下で、例えば軽水(H2O)のQ1は0℃となり、例えば重水(D2O)のQ1は3.82℃となり、例えばトリチウム水(T2O)のQ1は4.49℃となる。これらのQ1や融点等の関係を考慮しつつ、重水のガスハイドレート形成条件下において、ベースとなる重水のガスハイドレートの表面及び/又は内部に、汚染された軽水から分離されたトリチウム水のガスハイドレートが形成でき、また、トリチウム水のガスハイドレート形成条件下でも汚染された軽水から分離されたトリチウム水のガスハイドレートが形成でき、ベースとなる重水のガスハイドレートの表面及び/又は内部に固化され得る。このように、トリチウム水のガスハイドレート形成条件から軽水の液体状態を維持する条件までの範囲内にて適宜制御することによって、分離するためのトリチウム水-重水を含むガスハイドレートを形成させることができ、本発明ではこの制御が容易である。 また、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の温度は、特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する温度の低温側の-10℃が好適である。重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の圧力は、特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する圧力以上にすることが好適である。「わずかに高圧側」として、例えば、0.05~0.3Mpa程度高い圧力が挙げられ、「わずかに低温側」として、例えば、-1.5℃程度低い温度が挙げられるが、これに特に限定されない。 【0062】 ここで、本発明のガスハイドレートにおけるゲスト分子は、特に限定されず、一般的に用いられるものでよい。例えば、CH2F2(HFC-32)、CH2FCF3(HFC-134a)、CF3CFCH2(HFO-1234yf)等のフッ化炭化水素;CH4、C2H4、C2H6、C3H6、C3H8、C4H10等の炭化水素;Ar、Kr、Xe等の希ガス;N2、O2、H2S、CO2等及びこれらの混合ガス等が挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることが可能である。 このガスのなかでも、CH2F2(HFC-32)、CH2FCF3(HFC-134a)、CF3CFCH2(HFO-1234yf)、C3H8(プロパン)及びCO2(二酸化炭素)が好ましい。さらに、取り扱い容易の観点から、CH2F2(Difruoromethan:HFC-32)及び/又はプロパンが好ましい。 【0063】 ガスハイドレート化を始める前に目的ゲスト分子以外のガス分子の数を減少させるために、始める前の容器及び液体の中に含まれるガス(例えば、空気、酸素、炭酸ガス等)を除くことが好適である。ガス除去する液体として、例えば、被処理水、重水を含む混合液等が挙げられるが、ガスハイドレート化させる液体であれば特に限定されず、ガス除去を前処理として行うことが望ましい。 【0064】 当該ガス除去手段として、特に限定されないが、減圧ポンプ等が通常用いられる。その後、ゲスト分子と、ガスハイドレート化目的の液体(例えば、重水、被処理水等)とを混合する。当該混合手段として特に限定されないが、通常はガスバブリング法が用いられる。これらの処理をした上でガスハイドレート化を行う。なお、この際、ゲスト分子としてHFC-32は、水に対する溶解性が高いので、ガスハイドレート形成速度を速めることができる。 【0065】 本発明において、本発明のガスハイドレートに対してトリチウム水を含む被処理水を接触させることにより、当該ガスハイドレートの表面及び/又は内部に、被処理水中のトリチウム水由来のトリチウム水を含むガスハイドレートを形成させることができる。この接触反応の際に、結晶成長が起こり易く、ベースとなる重水を含むガスハイドレート又はトリチウム水-重水を含むガスハイドレートの表面及び/又は内部に、トリチウム水を含むガスハイドレートが成長しやすい。また、この接触反応の際に、トリチウム水分子(THO)のトリチウムが、重水(D2O又はDOH)中のH又はDと入れ替わる場合もあるので、ベースとなる本発明のガスハイドレートの内部にもトリチウム水を含むガスハイドレートが形成されることもある。この工程により、重水のガスハイドレートをベースとする「トリチウム水-重水を含むガスハイドレート」を形成したり、トリチウム水-重水のガスハイドレートの表面及び/又は内部にトリチウム水のガスハイドレートがさらに積層された「トリチウム水-重水のガスハイドレート」を形成することができる。このようにガスハイドレートの表面/又は内部に、被処理水中のトリチウム水がガスハイドレート化して移行するため、被処理水中のトリチウム水濃度が低減できる。 ・・・(中略)・・・ 【0071】 本発明の非常に優れた利点として、被処理水中のトリチウム濃度が低濃度、すなわち軽水が多量に存在していても、優先的に継続的にトリチウムが本発明のガスハイドレートに固定化できる。さらにこれにより得られたトリチウム水-重水のガスハイドレート中に含まれる軽水は微量であり、トリチウムがより高濃度に凝集されることになる。 本発明であれば、接触後にトリチウム水がより低濃度化した被処理水であっても、さらに本発明のガスハイドレートに接触させることで、さらにこの被処理水中のトリチウム濃度を低減できる利点を有する。 ・・・(後略)」 ウ 実施例1(【0135】~【0140】) 「【0135】 <実施例1> 試験用の汚染水として、超純水に市販のトリチウム試薬を混合し、トリチウム濃度が5.00×104、5.00×105及び5.00×106Bq/Lとなるように3つ調製した。調製した3つの汚染水はポリエチレン製広口ビンに入れ、さらに19.0℃の水浴中にいれた。 【0136】 純度99.8%の重水(酸化重水素)を真空ポンプで脱気した圧力容器内に導入し、温度が19.0℃となるように調整した。圧力容器内にHFC-32ガスを徐々に導入し、圧力が0.17MPaあるいは0.25MPaとなるように調整し、重水ガスハイドレートを晶析させた。0.17MPaで晶析させた場合はシャーベット状を呈する粒径が小さいガスハイドレートが得られたのに対し、0.25MPaで晶析させた場合は塊状の粒径が大きいガスハイドレートが得られた。以降の試験では比表面積が大きい0.17MPaで晶析させたガスハイドレートを使用した。 【0137】 上記で得られた0.17MPaで晶析させた重水ガスハイドレートの充填率を、以下の3通り(充填率50%、25%、1%)に設定した。重水ガスハイドレートを反応装置(圧力容器)に充填率50%および25%で充填した。また、反応装置の器壁に重水ガスハイドレート層をコーティングする目的で、真空ポンプで脱気した反応装置に純度99.8%の重水(重水濃度99.8質量%の混合液)を導入した後にHFC-32ガスを徐々に導入し、温度が19.0℃、圧力が0.25MPaとなるように調整後、ガスを排気した。その結果、反応装置の器壁に重水ガスハイドレート層が晶析した。排出させた重水の体積から算出した重水ガスハイドレート層の体積は、反応装置の容積の1%であった。以降、器壁に重水ハイドレート層をコーティングした場合を、「充填率1%」と呼ぶ。 【0138】 重水ガスハイドレートを充填した反応装置の温度及び圧力を精密調整し、重水ガスハイドレート及びトリチウム水ガスハイドレートが安定化され、軽水はガスハイドレートせず液体状態となる条件となるようにした。この温度圧力条件を保ったまま、汚染水を反応装置に徐々にポンプで圧入した。汚染水導入開始から、反応装置の空隙容積(反応装置容積からガスハイドレート体積を減じた容積)の2倍量の汚染水を導入する間は、反応装置からオーバーフローした液相は反応装置上端の出口に接続した受けタンクで回収することにより、反応装置内に残留している重水と汚染水とを置換した。置換後は、反応装置出口からオーバーフローした液相は外部配管を通じてポンプで反応装置下端の入口に戻し、循環させた。この操作によって、汚染水中のトリチウム水は重水ガスハイドレート表面にガスハイドレートとして晶析し除去される。 【0139】 一定時間経過後、外部循環ポンプを停止した後、ガスを反応装置内に導入し圧力、温度を設定条件に保ったまま、液相(除去処理後の汚染水)を軽水受けタンクで回収した。回収した液相中のトリチウム濃度を測定した。トリチウム濃度の測定は液体シンチレーション法によった。 【0140】 これにより、トリチウム水-重水を含むガスハイドレートを得ることができ、このガスハイドレートを用いて、トリチウム水をより良好に回収することができた。よって、トリチウム水を含む汚染水から、トリチウム水を効率よく分離することができた。 ・・・(後略)」 (2) 引用発明の認定 前記(1)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、トリチウム水を含む被処理水からのトリチウム水の分離方法に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている(引用発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。 <引用発明> 「トリチウム水を含む被処理水からのトリチウム水の分離方法であって、(【0033】) トリチウム水と重水と軽水はその構造にほとんど差異がないために、ガスハイドレートは完全固溶体を形成し、これは、軽水と重水とトリチウム水の任意の組成比をもつ混合ガスハイドレートが安定に存在することを意味し、(【0017】) 重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下であってかつ軽水の液体状態を維持する条件下で、重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレートに対して、トリチウム水を含む被処理水を接触させて、当該被処理水からトリチウム水を分離するものであり、(【0033】) 重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレート(表面及び/又は内部)に、トリチウム水を含むガスハイドレートを形成させることができ、重水を含むガスハイドレートをベースにすることで、軽水よりもトリチウム水が優先的に取り込まれトリチウム水-重水を含むガスハイドレートを効率よく形成でき、当該ガスハイドレート中のトリチウム水濃度が高まり、また、当該ガスハイドレート中に含まれる軽水は微量であり、(【0034】) 被処理水は、トリチウム水を少なくとも含む混合液であり、当該トリチウム水を含む混合液とは、トリチウムによって汚染された軽水であってもよく、(【0038】) 被処理水中のトリチウム濃度が低濃度でも、分離することができ、このときの被処理水中のトリチウム濃度は、その上限値として好適には1000×106Bq/L以下であり、(【0041】) 「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件」とは、重水とトリチウム水の両方又はいずれかのガスハイドレート形成条件であり、当該条件は、ゲスト分子の種類により異なるばかりか、形成するガスハイドレートの結晶構造によっても異なり、(【0059】) 重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の温度は、特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する温度の低温側の-10℃が好適であり、重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の圧力は、特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する圧力以上にすることが好適であり、(【0061】) ガスハイドレートにおけるゲスト分子は、特に限定されず、一般的に用いられるものでよく、例えば、CH2FCF3(HFC-134a)が挙げられ、(【0062】) ガスハイドレート化を始める前に目的ゲスト分子以外のガス分子の数を減少させるために、始める前の容器及び液体の中に含まれるガス(例えば、空気、酸素、炭酸ガス等)を除き、(【0063】) その後、ゲスト分子と、ガスハイドレート化目的の液体(例えば、重水、被処理水等)とを混合する、(【0064】) 分離方法」 (3) 引用文献1技術事項の認定 前記(1)に摘記した引用文献1には、ガスハイドレート中の軽水の濃度を低下させることに関して、次の技術事項(以下「引用文献1技術事項」という。)が記載されている <引用文献1技術事項> 「ガスハイドレート中の軽水の濃度を低下させる目的で、一度形成させたガスハイドレートを加熱し、軽水のみを優先的に溶融させ液相とする再結晶法を連続的に行うことであり、(【0019】) ガスハイドレートは一度形成されると温度を上昇させても熱力学的に準安定であり、溶融しにくく、(【0019】) 従って、再結晶法で溶融させる場合には、熱力学的な平衡溶融温度よりも高温で溶融することが必要となること(【0020】)」 2 対比 (1) 対比分析 本願発明と引用発明を対比する。 ア 本願発明の「トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法」との発明特定事項について (ア) 引用発明の「トリチウム水を含む被処理水からのトリチウム水の分離方法」は、本願発明の「被処理水の処理方法」に相当する。 (イ) 引用発明の「被処理水」は、「トリチウム水を少なくとも含む混合液であり、当該トリチウム水を含む混合液とは、トリチウムによって汚染された軽水であってもよ[い]」ものであるから、引用発明の「トリチウムによって汚染された軽水」である「被処理水」は、本願発明の「トリチウム水と軽水を含む被処理水」に相当する。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)から、本願発明と引用発明は、「トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法」の発明である点で一致する。 イ 本願発明の「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な0.37MPa以下の圧力条件下において、ゲスト分子ガスであるHFC-134aガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含むトリチウム濃度が1000×106Bq/L以下の被処理水に、軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて、前記被処理水の温度を経時振動させて温度差を設け、」との特定事項について (ア) 引用発明は、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下であってかつ軽水の液体状態を維持する条件下で、重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレートに対して、トリチウム水を含む被処理水を接触させて、当該被処理水からトリチウム水を分離する」ものであるところ、当該「重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレート」及び「被処理水」は、それぞれ本願発明の「トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材」及び「被処理水」に相当する。 そして、引用発明の「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件」には、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の温度」と「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の圧力」が含まれていることが理解できることから、引用発明は、「重水を含むガスハイドレート及び/又は当該ガスハイドレートをベースとするトリチウム水-重水を含むガスハイドレート」及び「被処理水」に、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の温度」を設定しているといえる。 したがって、本願発明と引用発明は、「トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、」「被処理水に、」「温度」を設定(以下「本件温度設定」という。)する点で共通する(以下、この「トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、」「被処理水」を「被処理水等」という。)。 (イ) 前記(ア)のとおり、引用発明の「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件」には、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の圧力」が含まれていることが理解できるところ、前記(ア)も考慮すると、引用発明は、本件温度設定を、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の圧力」である「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下」において行っているといえる。 したがって、本件温度設定について、本願発明と引用発明は、「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な」「圧力条件下において、」行う点で共通する。 (ウ) 引用発明の「CH2FCF3(HFC-134a)」である「ガスハイドレートにおけるゲスト分子」は、本願発明の「ゲスト分子ガスであるHFC-134aガス」に相当する。そして、引用発明は、「ガスハイドレート化を始める前に目的ゲスト分子以外のガス分子の数を減少させるために、始める前の容器及び液体の中に含まれるガス(例えば、空気、酸素、炭酸ガス等)を除き、その後、ゲスト分子と、ガスハイドレート化目的の液体(例えば、重水、被処理水等)とを混合する」のであるから、本件温度設定は、ゲスト分子存在下の被処理水等に行うことが理解できる。 したがって、本件温度設定について、本願発明と引用発明は、「ゲスト分子ガスであるHFC-134aガス存在下における、」被処理水等に行う点で一致する。 (エ) 引用発明の「被処理水」は、「トリチウムによって汚染された軽水であってもよ[い]」こと、及び「被処理水中のトリチウム濃度は、その上限値として好適には1000×106Bq/L以下であ[る]」ことを踏まえると、本願発明でいう「トリチウム水及び軽水を含むトリチウム濃度が1000×106Bq/L以下」のものである。 したがって、本件温度設定について、本願発明と引用発明は、「トリチウム水及び軽水を含むトリチウム濃度が1000×106Bq/L以下の」被処理水に行う点で一致する。 (オ) 前記(ア)のとおり、引用発明は、被処理水等に「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の温度」を設定、すなわち本件温度設定するものといえるところ、引用発明における「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の温度は、特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する温度の低温側の-10℃が好適であ[る]」ことを踏まえると、本件温度設定は、「重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する温度」に基づいて行うものといえる。そして、当該「重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する温度」は、本願発明でいう「結晶化が生じる温度」「である重水ガスハイドレート結晶化温度」であるといえる。 したがって、本件温度設定について、本願発明と引用発明は、「結晶化が生じる温度」「である重水ガスハイドレート結晶化温度」「に基づいて、」行う点で共通する。 (カ) 前記(ア)~(オ)を踏まえると、本願発明と引用発明は、「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な」「圧力条件下において、ゲスト分子ガスであるHFC-134aガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含むトリチウム濃度が1000×106Bq/L以下の被処理水に、」「結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度」「に基づいて、」「温度」を設定する点で共通する。 (キ) 一方で、圧力条件について、本願発明は、「0.37MPa以下」であるのに対して、引用発明は、「特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する圧力以上にすることが好適であ[る]」ものの、「0.37MPa以下」であるかどうか不明である点で相違する。 (ク) また、本件温度設定について、本願発明は、「軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて、前記被処理水の温度を経時振動させて温度差を設け[る]」のに対して、引用発明は、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の温度は特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する温度の低温側の-10℃が好適であ[る]」ものの、軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいているのか明らかではなく、また、被処理水の温度を経時振動させて温度差を設けてはいない点で相違する。 ウ 本願発明の「前記温度差が、反応系内における前記被処理水の第一温度とこれより低温の第二温度との温度差であり、前記第二温度が10.3~14.3℃であり、前記第一温度が15.3~19.3℃である、」との特定事項について 前記イで検討したとおり、引用発明は被処理水の温度を経時振動させて温度差を設けてはいないから、本願発明は、「前記温度差が、反応系内における前記被処理水の第一温度とこれより低温の第二温度との温度差であり、前記第二温度が10.3~14.3℃であり、前記第一温度が15.3~19.3℃である」のに対して、引用発明は、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の温度は特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する温度の低温側の-10℃が好適であ[る]」ものの、被処理水に温度差を設けてはいない点で相違する。 (2) 一致点及び相違点の認定 前記(1)から、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートの結晶化可能な圧力条件下において、 ゲスト分子ガスであるHFC-134aガス存在下における、トリチウム水を含んでもよい重水ガスハイドレート基材、トリチウム水及び軽水を含むトリチウム濃度が1000×106Bq/L以下の被処理水に、結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度に基づいて、 温度を設定する、トリチウム水と軽水を含む被処理水の処理方法」である点。 <相違点1> 圧力条件について、本願発明は、「0.37MPa以下」であるのに対して、引用発明は、「特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する圧力以上にすることが好適であ[る]」ものの、「0.37MPa以下」であるかどうか不明である点。 <相違点2> 本件温度設定について、本願発明は、「軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて、前記被処理水の温度を経時振動させて温度差を設け、前記温度差が、反応系内における前記被処理水の第一温度とこれより低温の第二温度との温度差であり、前記第二温度が10.3~14.3℃であり、前記第一温度が15.3~19.3℃である」のに対して、引用発明は、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の温度は特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する温度の低温側の-10℃が好適であ[る]」ものの、軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいているのか明らかではなく、また、被処理水の温度を経時振動させて温度差を設けてはいない点。 3 判断 (1) 相違点についての検討 前記相違点について検討する。 ア 相違点1について まず、相違点1に係る本願発明の圧力条件が「0.37MPa以下」であることの技術上の意義を確認すると、本願の明細書には次の記載がある。下線は当合議体が付したものである。 「<1-2-1.重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力条件下> 本実施形態における「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力条件下」は、特に限定されないが、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力にすることが好適である。 より好適な前記結晶化可能な圧力とは、結晶化の熱力学的平衡圧力よりも好適には0.01~0.5MPa高い圧力、より好適には0.01~0.3MPa高い圧力、さらに好適には0.01~0.3MPa高い圧力である。」(【0047】) 「<実施例1> ・・・(中略)・・・ 反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度(上端温度)及び圧力を制御部が調整し、結晶析出時の発熱反応により温度上昇が起こらないように温度を調節しながら徐々に重水ガスハイドレートが晶出する熱力学的平衡条件とした(平均昇温速度0.02℃/min程度)。初期段階では反応圧力容器の下部温度並びに上部温度は同一になるようにした。具体的な条件は、温度12.3℃、絶対圧力0.37MPaであるが、これは一例にすぎない。反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水は、外部液体循環回路により液相(主に汚染水)を強制循環させることにより撹拌させた。その後、ゲスト分子ガスであるHFC-134aガスを所定圧になるまで加え、さらに所定圧を維持するように調整した。」(【0129】・【0133】) 「<実施例2> 実施例1に示した試験の条件のうち、反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下端温度及び当該容器内の圧力は、熱力学的平衡条件のまま変更せず、反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下部温度と上部温度の温度差を変えて試験を行い、このとき実施例1と同様に循環接触を用いた。具体的には、反応圧力容器内における重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下端温度12.3℃、当該容器内の絶対圧力0.37MPaとし、反応圧力容器内における重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の上部温度が、当該被処理水の下部温度より、0、3.0、5.0、7.0或いは9.0℃高く設定して実施例1と同様の試験を行った。」(【0140】) 「<実施例3> 実施例1に示した試験の条件のうち、実施例3の反応圧力容器内の圧力は、絶対圧力0.37MPaで同様とした。反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水の下部温度と上部温度との温度差は0℃(0K)とし、経時的に被処理水の温度を最高17.3℃(上端温度)、最低12.3℃(下端温度)の間で、正弦波状に振動させた。」(【0144】) これらの記載によれば、0.37MPaとの値は、実施例1~3における圧力の値であるが、この値は単なる例示であることから、「重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力条件」であるということを超えて、格別の技術上の意義を認めることはできない。また、0.37MPa以下とすることについては、明細書に直接的な記載はなく、その技術上の意義は不明というほかない。したがって、相違点1に係る本願発明の圧力条件が「0.37MPa以下」であることには格別の技術上の意義は認められず、重水ガスハイドレート或いはトリチウム水ガスハイドレートが結晶化可能な圧力の例を単に特定したにすぎないと解するのが相当である。 そして、引用発明は、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレート化の圧力は、特に限定されないが、重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する圧力以上にすることが好適であ[る]」ものであるから、その具体的な値を重水及び/又はトリチウム水がガスハイドレート化する範囲で適宜設定することは当業者の通常能力の発揮の域を出るものではないし、0.37MPa以下という値自体について検討しても、引用発明を開示する引用文献1の反応装置の器壁に重水ガスハイドレート層をコーティングする目的で圧力が0.25MPaとなるように調整後、圧力を精密調整し、重水ガスハイドレート及びトリチウム水ガスハイドレートが安定化され、軽水はガスハイドレートせず液体状態となる条件となるようにした旨の記載(【0137】~【0138】)からみて、ごく通常の値にすぎない。 したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。 イ 相違点2について (ア) 処理水の温度を経時振動させて温度差を設けることについて 引用発明は、「トリチウム水を含む被処理水からのトリチウム水の分離方法」であって、「重水を含むガスハイドレートをベースにすることで、軽水よりもトリチウム水が優先的に取り込まれトリチウム水-重水を含むガスハイドレートを効率よく形成でき、当該ガスハイドレート中のトリチウム水濃度が高まり、また、当該ガスハイドレート中に含まれる軽水は微量であ[る]」ものであるところ、当業者は、トリチウム水のさらなる効率的な分離のために、ガスハイドレート中に含まれる微量の軽水をさらに少なくする動機を有する。 そして、引用発明を開示する引用文献1には、「ガスハイドレート中の軽水の濃度を低下させる目的で、一度形成させたガスハイドレートを加熱し、軽水のみを優先的に溶融させ液相とする再結晶法を連続的に行[う]」との引用文献1技術事項が記載されているから、引用発明において、トリチウム水のさらに効率的な分離のために、ガスハイドレート中に含まれる微量の軽水をさらに少なくすべく、引用文献1技術事項を採用して、トリチウム水-重水を含むガスハイドレートを加熱し、軽水のみを優先的に溶融させ液相とする再結晶法を連続的に行うことは、当業者が容易に想到し得たことである。このとき、トリチウム水-重水を含むガスハイドレートとともに被処理水も同時に加熱されることになることは明らかであるし、再結晶法を連続的に行うためには被処理水の温度を経時振動させて温度差を設ける必要があることも当業者には明らかなことである。 このように引用発明において引用文献1技術事項を採用すれば、被処理水の温度を、ガスハイドレートを軽水のみを優先的に溶融させる温度と、再結晶させる温度の間で経時振動させ温度差を設けるとの構成に至るところ、当該「ガスハイドレートを軽水のみを優先的に溶融させる温度」及び「再結晶させる温度」はそれぞれ、相違点2に係る本願発明の「第一温度」及び「第二温度」に相当することとなる。 したがって、当業者は、相違点2に係る本願発明の「前記被処理水の温度を経時振動させて温度差を設け、前記温度差が、反応系内における前記被処理水の第一温度とこれより低温の第二温度との温度差であ[る]」との構成に至ることとなる。 (イ) 温度差が軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づくことについて 前記(ア)のように引用発明において引用文献1技術事項を採用するに際して、当業者は、前記「ガスハイドレートを軽水のみを優先的に溶融させる温度」及び前記「再結晶させる温度」を具体的に決定する必要があるところ、これらの値は、それぞれ、軽水のみを優先的に溶融させ液相とする温度、及び、「重水及び/又はトリチウム水のガスハイドレートの形成条件下であってかつ軽水の液体状態を維持する」温度とする必要があることを理解する。 そして、引用発明は、「トリチウム水と重水と軽水はその構造にほとんど差異がないために、ガスハイドレートは完全固溶体を形成し、これは、軽水と重水とトリチウム水の任意の組成比をもつ混合ガスハイドレートが安定に存在する」ことを前提としたものであるから、当業者は、これらの温度を、軽水と重水とトリチウム水との混合相の場合のガスハイドレートの形成条件に基づいて決定する必要があることを理解できる(なお、混合相における液相、固相の挙動が単相の場合とは異なることは技術常識である。必要であれば、福味幸平、相平衡状態図の読み方、NEW GLASS、2014年、Vol.29、No.113、pp.34-48の特に図1参照。)。さらに、「ガスハイドレートは一度形成されると温度を上昇させても熱力学的に準安定であり、溶融しにくく、従って、再結晶法で溶融させる場合には、熱力学的な平衡溶融温度よりも高温で溶融することが必要となる」との引用文献1技術事項に照らせば、当業者は、これらの温度を、非平衡状態におけるガスハイドレートの形成条件に基づいて決定する必要があることも理解できる。 このように、前記「ガスハイドレートを軽水のみを優先的に溶融させる温度」及び前記「再結晶させる温度」を具体的に決定しようとする当業者は、これらの温度を、非平衡状態における軽水と重水とトリチウム水との混合相の場合のガスハイドレートの形成条件に基づいて決定する必要があることを理解できるところ、現実には一定の変動要因が不可避であることから、上記の形成条件は、所定の温度範囲である温度帯及びその近傍に基づいたものとなるといえる。 したがって、当業者は、相違点2に係る本願発明の「軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて、」との構成に至ることとなる。 (ウ) 第二温度が10.3~14.3℃であり、第一温度が15.3~19.3℃であることについて 前記(イ)で説示したとおり、当業者は、前記「ガスハイドレートを軽水のみを優先的に溶融させる温度」及び前記「再結晶させる温度」を具体的に決定する必要があるところ、前記(イ)で説示したように、本願発明でいう「軽水、トリチウム水、重水との混合相の場合の非平衡状態における結晶化が生じる温度範囲である重水ガスハイドレート結晶化温度帯及びその近傍に基づいて」決定するに際して、その具体的な温度を理論的又は実験的に決定することは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。 そして、前記(ア)で説示したとおり、引用発明において引用文献1技術事項を採用して得られた構成では、トリチウム水-重水を含むガスハイドレートを加熱し、軽水のみを優先的に溶融させ液相とする再結晶法を連続的に行うことになるところ、本願発明の「第二温度」は再結晶化を行うための温度であり、「第一温度」は結晶化した結晶を溶融するための温度である(本願の明細書の【0060】)ことに照らせば、上記構成と本願発明との間に課題解決原理において差異がないといえる。そうすると、前記アで検討したように「0.37MPa以下」という圧力条件の下、上記のとおり、具体的な温度を理論的又は実験的に決定した結果として、本願発明で特定された「第二温度」及び「第一温度」の値に至ることは、自然なことにすぎない。また、これを措くとしても、前記第4でも述べたとおり、本願発明では圧力が「0.37MPa以下」と特定されるにとどまり、第二温度が10.3~14.3℃及び第一温度が15.3~19.3℃との値により、圧力条件が0.37MPa以外の場合を広く包含する、本願発明の「0.37MPa以下」の任意の圧力において、課題を解決できると認識することはできないことを勘案すれば、これらの値に格別の技術上の意義を認めることもできない。 したがって、当業者は、相違点2に係る本願発明の「前記第二温度が10.3~14.3℃であり、前記第一温度が15.3~19.3℃である」との構成に至ることとなる。 (エ) 小括 以上のとおり、引用発明に引用文献1技術事項を採用することにより、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (2) 総合検討 相違点1~2を総合的に勘案しても、本願発明の奏する効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び引用文献1技術事項に基づいて、当業者が予測できないものとはいえず、格別顕著な効果であるともいえない。 (3) 請求人の主張について 請求人は、引用発明は、軽水のみ、重水のみ、トリチウム水のみの場合でガスハイドレート生成条件結果をもとに、トリチウムの分離方法を検討したにすぎないものであるのに対して、本願発明は、軽水、重水及びトリチウム水が共存する混合相のガスハイドレート生成条件結果をもとにトリチウムの分離方法を明らかにしたものであるから、引用発明とは全く異なっている。旨を主張しているが、引用発明は、「トリチウム水と重水と軽水はその構造にほとんど差異がないために、ガスハイドレートは完全固溶体を形成し、これは、軽水と重水とトリチウム水の任意の組成比をもつ混合ガスハイドレートが安定に存在する」のであるから、当業者は、これらの温度を、軽水と重水とトリチウム水との混合相の場合のガスハイドレートの形成条件に基づいて決定する必要があることを理解できることは前記(1)イ(イ)で説示したとおりである。 請求人はまた、本願発明は、処理条件をガスハイドレートの再結晶化と発汗現象が高頻度に発現する温度条件とすることにより、汚染水から効率よくトリチウム水を除去する技術であり、この発汗現象が析出させたガスハイドレート中の不純物の除去に有効であることは引用文献1には開示されていない旨を主張している。 しかしながら、本願発明においては発汗現象については特定されておらず、また、本願発明の「前記第二温度が10.3~14.3℃であり、前記第一温度が15.3~19.3℃である」との温度が、発汗現象が高頻度に発現する温度条件であることは本願の明細書には記載されていない。すなわち、第一温度については結晶化した結晶を溶融するための温度であり、第二温度については結晶化温度帯の近傍を基準に決定することが記載されているにとどまり(【0060】)、請求人の主張するように、発汗現象が高頻度に発現する温度条件であることは記載されていない(なお、圧力との関係でそもそもこれらの温度の値に格別の技術上の意義を認めることもできないことは、前記(1)イ(ウ)でも説示したとおりである。)。そして、本願の明細書の「反応圧力容器内の重水ガスハイドレート基材及び汚染水を含む被処理水に空間的に温度勾配を設けることにより、ガスハイドレートの再結晶化と発汗現象が高頻度で発現」及び「なお、発汗現象は、ファンデルワールス力あるいは水素結合で分子が結合している分子性結晶において一般的に見られる現象で、温度の上昇によって不純物が結晶の外に結晶の粒界や欠陥に沿ってにじみ出てくる現象をいう。ガスハイドレートは水素結合によって結合されている分子性結合である。([参考文献3]久保田徳昭、晶析工学、東京電機大学出版局、(2016)、pp.179-180.)」(いずれも【0143】)との記載に照らせば、引用発明に引用文献1技術事項を適用した再結晶法を連続的に行う構成においても同様に発汗現象が生じることは、当業者が予測し得る程度の効果にすぎないものである。 したがって、請求人の主張は採用できない。 4 小括 以上検討のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、同法29条2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-021996

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