特許拒絶査定不服審判
2019-010181
温度補償部を備えたBAW共振器
- 審判番号
- 2019-010181
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-555481
- 請求日
- 2019年08月02日
- 審決日
- 2020年11月19日
- 公報発行日
- 2021年06月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】スナップトラック・インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】蔵田 昌俊
- 【請求人代理人】井関 守三
- 【請求人代理人】岡田 貴志
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 智康
- 審判官 中野 浩昌
- 審判官 丸山 高政
- 分類
- P18 .121-WZ (H03H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-555481「温度補償部を備えたBAW共振器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月17日国際公開、WO2015/135717、平成29年 3月30日国内公表、特表2017-509246〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成27年(2015年)2月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年3月11日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成29年10月11日付け:拒絶理由通知
平成30年 1月17日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 6月25日付け:拒絶理由通知(最後)
平成30年10月 3日 :意見書,手続補正書の提出
平成31年 3月27日付け:平成30年10月3日の手続補正についての補正の却下の決定,拒絶査定
令和 元年 8月 2日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和 2年 6月 5日付け:拒絶理由通知
令和 2年 9月 9日 :意見書,手続補正書の提出
第2 本願発明
令和2年9月9日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明1」という。)及び請求項4(以下「本願発明4」という。)は,それぞれ以下のとおりである。
「【請求項1】
基板(SU)と,
この上に載置された積層体(ST)と
を有するBAW共振器であって,前記積層体が,
・2つの電極層(E1,E2)と,
・前記電極層間に配置された圧電層(PS)と,
・下方の電極層(E1)と前記基板との間に配置されていて,かつ少なくとも2つのミラー層を具備する音響ミラー(AS)であって,高インピーダンス層(HI)と低インピーダンス層(LI)とが交互に配置されている,音響ミラー(AS)と,
・粘弾性特性の正の温度係数を有する材料を有し,前記音響ミラーと前記下方の電極層(E1)との間に配置されている補償層(KS)と
を具備し,
・前記音響ミラーの前記高インピーダンス層と前記低インピーダンス層とが,共になってブラッグミラーを形成し,
・前記補償層に接している最も上方の低インピーダンス層と前記補償層との層厚の合計が,λ/4の奇数の倍数に相当し,かつ,少なくとも3λ/4であり,
・λは,反射されるべき音波の波長であり,
・前記音響ミラー(AS)の前記最も上方の低インピーダンス層(LI)と,前記補償層(KS)とは,異なる材料から形成されて,前記2つの電極層および前記圧電層の層厚の合計が前記波長の半分であり,前記高インピーダンス層の材料は,ルビジウム,スカンジウム,金,プラチナから選択されている,
BAW共振器。」
「【請求項4】
少なくとも1つまたは全ての高インピーダンス層(HI)の材料は,W,Mo,Ta,Pt,Au,Ta2O5およびScから選択されている請求項1~3のいずれか1項に記載のBAW共振器。」
第3 当審拒絶理由
令和2年6月5日付けで当審が通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は,概略,次のとおりである。
1 (明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
●理由1(明確性)について(略)
●理由2(進歩性)について
請求項1-8に対して引用文献1-4
請求項9-10に対して引用文献1-7
引用文献1:米国特許出願公開第2011/0080233号明細書
引用文献2:特開2004-235886号公報
引用文献3:特表2005-512442号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2008-160630号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2002-344279号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2009-10926号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2013-46111号公報(周知技術を示す文献)
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載と引用発明
当審拒絶理由で引用した米国特許出願公開第2011/0080233号明細書(以下「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同じ。)
(1)「[0009] FIG. 1 is a cross-section view schematically showing a BAW resonator 1 with a Bragg mirror formed on a semiconductor substrate 3. Although FIG. 1 shows a single resonator, in practice, many resonators are formed simultaneously on a same semiconductor wafer.
[0010] Resonator 1 comprises a piezoelectric resonator 5 formed of the stacking of a lower electrode 5a, of a layer 5b of a piezoelectric material, and of an upper electrode 5c. As an example, the piezoelectric material may be aluminum nitride (AlN), lead zirconate titanate (PZT), or zinc oxide (ZnO). Electrodes 5a and 5c may be made of molybdenum (Mo), tungsten (W), or aluminum (Al).
[0011] An isolation structure 7, for example, a Bragg mirror, forms an interface between piezoelectric resonator 5 and substrate 3. Reflector 7 is an alternated stack of layers 7a of a material with a high acoustic impedance, for example, tungsten (W), and of layers 7b of a material with a low acoustic impedance, for example, silicon oxide (SiO2). The thickness of each layer 7a, 7b is selected to be substantially equal to one quarter of the resonance acoustic wavelength in the material forming it. At the operating frequency, for example, the resonance frequency, the reflector behaves as an acoustic mirror and the waves are confined within the resonator. To obtain a good acoustic isolation, the difference in acoustic impedance between the materials forming layers 7a and 7b must be high. Further, the quality of the acoustic isolation increases along with the number of layers 7a, 7b of the alternated stack.
(仮訳:
[0009] 図1は,半導体基板3上に形成されたブラッグミラーを有するBAW共振器1を模式的に示す断面図である。図1は,単一の共振器を示しているが,実際には,多数の共振器が同一の半導体ウエハ上に同時に形成される。
[0010] 共振器1は,下部電極5aと,圧電材料層5bと,上部電極5cとの積層により形成された圧電共振子5を含む。一例として,圧電材料は窒化アルミニウム(AlN),チタン酸ジルコン酸鉛(PZT),酸化亜鉛(ZnO)でありうる。電極5a及び5cは,モリブデン(Mo),タングステン(W),またはアルミニウム(Al)で作成されうる。
[0011] 分離構造7,例えばブラッグミラーは,圧電共振子5と支持基板3との間の接合部分を成している。リフレクタ7は,高い音響インピーダンスを有する材料,例えばタングステン(W)の層7aと,低い音響インピーダンスを有する材料,例えば,酸化ケイ素(SiO2)の層7bとの交互積層である。各層7a,7bの厚さは,それを形成する材料中での共振音響波長の4分の1に実質的に等しくなるように選択される。動作周波数,例えば共振周波数において,前記リフレクタは,音響ミラーとして挙動し,前記音響波は,共振器内に閉じ込められる。良好な音響分離を得るために,層7a及び7bを形成する材料間の音響インピーダンスの差は大きくなければならない。さらに,音響分離の品質は,前記交互積層の層7a,7bの数に連動して,増加する。)」
(2)「[0014] A disadvantage of BAW resonators with a Bragg mirror of the type described in relation with FIG. 1 is the strong dependence of their resonance frequency on temperature. This results from the influence of temperature on the velocity of acoustic waves in the different layers of the resonator 1 and especially in the piezoelectric layer 5b. The temperature coefficient of frequency, or TCF, expresses, in parts per million per degree Celsius (ppm/℃), the temperature drift of the resonator frequency. In each of the materials forming the resonator 1, the acoustic waves have a certain propagation velocity, and for each material, this propagation velocity has a certain temperature coefficient of velocity, or TCV. All the TCVs of the various materials determine the TCF of the BAW resonator. Generally, the materials of the piezoelectric layers and of the electrodes have a negative temperature coefficient of velocity (TCV). Conversely, materials such as silicon oxide have a positive temperature coefficient of velocity (TCV).
[0015] It has been suggested to provide, in the stack of layers forming the BAW resonator, at least one temperature compensation layer having a temperature coefficient of velocity (TCV) of a sign opposite to the TCV of all or of the majority of the other layers, for example, silicon oxide. It is thus attempted to decrease the temperature drift of the BAW resonator, that is, to decrease the absolute value of the TCF.
(仮訳:
[0014] 図1に関連して説明したタイプのブラッグミラーを備えたBAW共振器の欠点は,温度に対する共振周波数の強い依存性である。この欠点は,共振器1の種々の層内,特に圧電層5b内の音響波の速度が温度の影響を受けることにより生じる。周波数温度係数TCFは,共振器周波数の温度ドリフトを,摂氏1℃につき100万分の1の単位で表す。共振器1を形成するそれぞれの材料内で,音響波は特定の伝播速度を有しており,それぞれの材料に関して,この伝播速度はいくらかの速度温度係数TCVを有している。種々の材料のTCVの全てが,BAW共振子のTCFを決定する。一般的に,圧電層及び電極の材料は,負の速度温度係数(TCV)を有する。逆に,酸化ケイ素のような材料は,正の速度温度係数(TCV)を有している。
[0015] BAW共振器を形成する複数の層の積み重ねの中に,少なくとも1つの温度補償層であって,それ以外の全て又は大部分の層のTCVと反対の符号の速度温度係数(TCV)を有する温度補償層,例えば酸化ケイ素,を設けることが提案されている。このようにして,BAW共振器の温度ドリフトを低減すること,すなわちTCFの絶対値を小さくすることが試みられた。)」
(3)「[0040] For clarity, the same elements have been designated with the same reference numerals in the different drawings and, further, as usual in the representation of microcomponents, the various drawings are not to scale.
[0041] FIG. 2 is a cross-section view a BAW resonator 11 having a temperature-compensated frequency response according to an embodiment of the present disclosure.
[0042] BAW resonator 11 of FIG. 2 is identical to resonator 1 of FIG. 1, but for the fact that a temperature compensation layer 13, for example, made of silicon oxide, is provided between upper layer 7b of reflector 7 and lower electrode 5a.
(仮訳:
[0040] 明確化のため,同じ要素は,異なる図面において同じ参照番号で示されており,さらに,微細部品の描写の例により,個々の図面の比率は原寸どおりではない。
[0041] 図2は,本発明の実施形態に係る温度補償された周波数応答を有するBAW共振器11の断面図である。
[0042] 図2のBAW共振器11は,リフレクタ7の上層7bと下部電極5aとの間に,例えば酸化ケイ素でできている,温度補償層13が設けられているという事実を別にすると,図1の共振器1と同一である。)」
(4)「[0061] Specific embodiments of the present disclosure have been described. Various alterations and modifications will occur to those skilled in the art. In particular, the present disclosure is not limited to the materials mentioned in the above description. In particular, it is within the abilities of those skilled in the art to implement the desired operation by using other piezoelectric materials, for example, potassium niobate or zinc oxide, and other conductive materials, for example, copper, tungsten, or aluminum to form the resonant core. It will further be within the abilities of those skilled in the art to use other materials having high and low acoustic impedances, for example, silicon nitride or aluminum nitride, capable of forming an isolation reflector between the resonant core and the substrate. Finally, other materials than silicon oxide may be used to form the frequency adjustment and temperature compensation layers, for example, SiON.
(仮訳:
[0061] 本発明の詳細な実施形態を説明した。様々な代替案や変更案が当業者に想起されるであろう。特に,本発明は,上述の材料に限定されるものではない。特に,他の圧電材料,例えばニオブ酸カリウム又は酸化亜鉛,及び,他の導電性材料,例えば銅,タングステン又はアルミニウム,を使用して共振コアを形成することによって,所望の動作を実現することは,当業者の能力の範囲内である。さらに,共振コアと基板との間に分離反射器を形成することが可能な,高い及び低い音響インピーダンスを有する他の材料,例えば窒化ケイ素又は窒化アルミニウム,を使用することは,当業者の能力の範囲内であろう。最後に,酸化ケイ素以外の材料,例えばSiONが,周波数調整及び温度補償の層を形成するために使用されうる。)」
(5)図1及び図2
「
」
ここで,「図2のBAW共振器11は,リフレクタ7の上層7bと下部電極5aとの間に,例えば酸化ケイ素でできている,温度補償層13が設けられているという事実を別にすると,図1の共振器1と同一であ」([0042])り,「同じ要素は,異なる図面において同じ参照番号で示されて」([0040])いるから,図1のBAW共振器1の上記(1)の事項は,図2のBAW共振器11の事項として,記載されているに等しい事項である。
そして,図2よりBAW共振器11は,半導体基板3([0009])上に,分離構造7([0011]),「温度補償層13」([0042])及び「圧電共振子5」([0010])が積層されていることが看取できる。
また,[0061]には,当業者に想起される代替案や変更案として「共振コアと基板との間に分離反射器を形成することが可能な,高い及び低い音響インピーダンスを有する他の材料,例えば窒化ケイ素又は窒化アルミニウム,を使用すること」が記載されている。
以上より,上記(1)ないし(5)の記載からみて,引用文献1には,[0061]の変更案により変更した図2のBAW共振器11について,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお,参照番号が「3」及び「7」の構成は,それぞれ「半導体基板3」及び「分離構造7」に記載を統一する。
(引用発明)
「半導体基板3と([0009]),
前記半導体基板3上に積層された,分離構造7([0011]),温度補償層13([0042])及び圧電共振子5([0010])を有するBAW共振器11(図2)であって,
前記圧電共振子5は,下部電極5aと,圧電材料層5bと,上部電極5cとの積層により形成され([0010]),
前記分離構造7,例えばブラッグミラーは,圧電共振子5と支持基板3との間の接合部分を成し,高い音響インピーダンスを有する材料,例えばタングステン(W)の層7aと,低い音響インピーダンスを有する材料,例えば,酸化ケイ素(SiO2)の層7bとの交互積層であり,各層7a,7bの厚さは,それを形成する材料中での共振音響波長の4分の1に実質的に等しくなるように選択され,動作周波数,例えば共振周波数において,前記分離構造7は,音響ミラーとして挙動し([0011]),
前記温度補償層13は,分離構造7の上層7bと下部電極5aとの間に設けられ,例えば酸化ケイ素でできており([0042],図2),酸化ケイ素は正の速度温度係数を有し([0014]),
高い及び低い音響インピーダンスを有する他の材料,例えば窒化ケイ素または窒化アルミニウム,を使用して,分離構造7を形成した([0061]),
BAW共振器。」
2 引用文献2の記載事項
当審拒絶理由で引用した特開2004-235886号公報(以下「引用文献2」という。)には,以下の事項が記載されている。
(1)「【0010】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は,本発明の実施の形態における圧電薄膜素子(SMR型の圧電薄膜振動子)の構成例を概略的に示す模式的な断面図である。この圧電薄膜素子は,まず,単結晶シリコンなどから構成された基板101の上に,ZnO層(高音響インピーダンス層)102とSiO2層(低音響インピーダンス層)103とが交互に積層されて最上層がSiO2層104とされた音響多層膜105を備えている。音響多層膜105は,例えば,8層以上積層されている。
【0011】
音響多層膜105の上には,電極膜106,108に挟まれた例えばZnOからなる圧電薄膜107が形成されている。また,電極膜106,108は,例えば,膜厚5nm程度のCr膜と膜厚30nm程度のAu膜とから構成されたものである。ここで,単独の状態とした圧電薄膜107の共振周波数をF0とすると,圧電薄膜107の膜厚は,周波数F0の音波が単独の圧電薄膜107を伝搬するときの波長λの半分としたものである。
【0012】
ところで,上記の膜厚は,一般に,「圧電薄膜107の膜厚は,1/2λの厚さを有する」と表現される。以降では,各層の膜厚について,「λ」を用いた記載とする。例えば,「SiO2層103の膜厚は,1/4λである」とは,SiO2層103の膜厚は,周波数F0の音波が単独のSiO2層103を伝搬するときの波長λの1/4であることを示している。従って,「λ」の値は,各層において異なるものとなる。
【0013】
ここで,圧電薄膜107の膜厚を,例えば700nm程度に形成すれば,図1の圧電薄膜素子の共振周波数は3GHz程度となる。ただし,図1に示す圧電薄膜素子の場合,共振周波数は,圧電薄膜107の厚さだけではなく,電極膜106,108にも影響され,圧電薄膜107の厚さより算出される理論値からずれるものである。電極膜106,108による影響が大きい場合は,例えば圧電薄膜107の厚さを,適宜変更すればよい。
【0014】
音響多層膜105において,ZnO層102は高音響インピーダンス層として機能し,SiO2層103は,低音響インピーダンス層として機能する。これらは,相対的なものである。音響多層膜105を構成するZnO層102,SiO2層103の膜厚は,各々λ/4の厚さとすれば良く,例えば,ZnO層102は0.41μm,SiO2層103は0.46μm程度とすればよい。
音響多層膜105により,圧電薄膜107と基板101とが音響的にアイソレートされることになり,Q値の高い共振を得ることができるようになる。また,圧電薄膜107が,音響多層膜105により,全面で保持されるため,安定した動作が可能となる。
【0015】
音響多層膜105の層数の増加に伴い,圧電薄膜107から基板101の方向を見た負荷インピーダンスが小さくなる。従って,音響多層膜105を,例えば8層以上の多層とすることで,圧電薄膜107を両面自由な状態に近づけることが可能となり,Q値の高い共振を実現することが可能となる。
加えて,本実施の形態では,低音響インピーダンス層の1つであるSiO2層104の膜厚d1を,他のSiO2層103の膜厚d2より厚く形成することで,図1に示す圧電薄膜素子の共振周波数温度係数(TCF)を,より「0」に近づけるようにした。TCFが「0」に近いということは,周波数温度特性が良いこととなる。
【0016】
発明者らの調査により,圧電薄膜107に最も近い最上層のSiO2層であるSiO2層104の膜厚をλ/4より厚くすることで,図1に示す圧電薄膜素子のTCFを「0」に近づけることが可能となることが判明した(図2)。図2より明らかなように,SiO2層104の膜厚d1を0.47λ程度とすることで,TCFをほぼ0とできる。なお,図2は,電極膜106,108の厚さは0として解析を行った結果である。
【0017】
SiO2の薄膜(非晶質)は,酸化亜鉛からなる圧電薄膜107とは,遅延時間温度係数(TCD)が互いに逆符号であり,このような材料を,音響多層膜105の低音響インピーダンス層として用いることで,上述したように,図1に示す圧電薄膜素子のTCFを「0」に近づけることが可能となる。また,本実施の形態によれば,新たな層を付加することなく,図1に示す圧電薄膜素子のTCFを「0」に近づけることが可能となる。
【0018】
なお,ZnOからなる圧電薄膜107を用いた図1の圧電薄膜素子の場合,最上層にあるSiO2層104の膜厚をλ/4とすると,図1に示す圧電薄膜素子のTCFの絶対値が「0」より大きいものとなっている。この場合の,圧電薄膜素子のTCFの符号は,圧電薄膜107のTCDと同じであるため,この実施の形態では,SiO2層104の膜厚をλ/4より厚くすることで,図1に示す圧電薄膜素子のTCFをより「0」に近づけた。
【0019】(略)
【0020】
ここで,発明者らの調査により,音響多層膜105の最上層であるSiO2層104の膜厚をλ/4より厚くすると,以下に示すように,圧電薄膜素子の他の特性に影響を与えることが判明した。図3は,音響多層膜105の最上層であるSiO2層104の膜厚をλ/4より厚くすることで,圧電薄膜素子の実効的電気機械結合係数(K2)が,低下することを示している。これは,SiO2層104に含まれる振動エネルギーが大きくなるためと考えられる。なお,図3は,電極膜106,108の厚さは0として解析を行った結果である。
【0021】
つぎに,SiO2層104の膜厚をパラメータとして圧電薄膜素子の各部における振動エネルギーを振動変位|u|として図4及び図5に示す。図4と図5において,変化のピークを比較すると,SiO2層104を膜厚λ/4とした場合(図4)のSiO2層104に含まれる振動エネルギーよりも,SiO2層104の膜厚(d1)を0.47λとした場合(図5)の方が大きくなっている。なお,図4,5は,ZnO層102,SiO2層103の積層数を8層とした音響多層膜105の場合を例にしたものである。
【0022】
また,図4と図5との比較から明らかなように,基板101に洩れるエネルギーが,d1を0.47λとした場合の方が大きく,このことが,Q値を下げる要因となっている。なお,Q値は,固有振動を起こした際の共振特性の鋭さの度合いを表すものである。
【0023】
以上のことをふまえ,発明者らは,SiO2層104の膜厚(d1)に加え,SiO2層103の膜厚(d2)及びZnO層102の膜厚を各々変化させ,TCFが「0」になる組み合わせについて調査した。この調査結果を図6に示す。図6に示すように,d2が変化することによっても,K2やQ値が変化している。また,d1については,TCF=0を満足する2つの領域が存在していることが判る。
【0024】
このなかで,d1=0.47λの付近では,K2が大きくなるとQ値が小さくなる傾向があり,圧電薄膜素子に要求される特性に応じてd1を設定した方がよいことが判る。
また,d1=0.75λ付近では,K2とQ値のどちらも同じ位置でピークになっている。これは,SiO2層104の膜厚(d1)が3/4λとなるところに相当し,SiO2層104にλ/2の厚さを有するSiO2層が付加されている状態と考えられる。この結果,d1=0.75λ付近では,K2とQ値のピークが一致するものと考えられる。ただし,図7に示すように,SiO2層104の膜厚がλ/2増えたため,SiO2層104に含まれる振動エネルギーが大きくなり,K2は,d1=0.46λ~0.48λ付近より低くなっている。」
(2)「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態における圧電薄膜素子(SMR型の圧電薄膜振動子)の構成例を概略的に示す模式的な断面図である。
【図2】音響多層膜の最上層であるSiO2層104の厚さによるTCFの変化を示す特性図である。
【図3】-【図5】(略)
【図6】TCF=0を満足する場合のSiO2層104の厚さd1とK2,Q値との関係を示す相関図である。
【図7】SiO2層104の厚さd1=0.75λ,SiO2層103の厚さd2=0.25λとしたときの振動変位分布を示す分布図である。」
(3)図1「
」
(4)図2「
」
(5)図6「
」
(6)図7「
」
上記(1)ないし(6)の記載より,引用文献2には,圧電薄膜素子について,
A 基板101の上に,ZnO層(高音響インピーダンス層)102とSiO2層(低音響インピーダンス層)103とが交互に積層されて最上層がSiO2層104とされた音響多層膜105を備え(【0010】),
音響多層膜105の上には,電極膜106,108に挟まれた例えばZnOからなる圧電薄膜107が形成された圧電薄膜素子(【0010】,【0011】)において,
B SiO2の薄膜(非晶質)は,酸化亜鉛からなる圧電薄膜107とは,遅延時間温度係数(TCD)が互いに逆符号であり,このような材料を,音響多層膜105の低音響インピーダンス層として用いることで,圧電薄膜素子のTCFを「0」に近づけることが可能となる(【0017】)こと,
C 音響多層膜105を構成するZnO層102,SiO2層103の膜厚は,各々λ/4(【0014】)とし,前記SiO2層104の膜厚d1を0.47λ程度とすることで,TCF(共振周波数温度係数)をほぼ0とできること(【0016】),
D d1については,TCF=0を満足する2つの領域が存在していること(【0023】,図6),及び,
E d1=0.75λ付近では,K2とQ値のどちらも同じ位置でピークになり,これは,前記SiO2層104の膜厚(d1)が3/4λとなるところに相当し,SiO2層104にλ/2の厚さを有するSiO2層が付加されている状態と考えられること(【0024】)。
が記載されており,当該記載からみて,引用文献2には,図2でd1=0.75λとした図7で示す圧電薄膜素子について,「高音響インピーダンス層と低音響インピーダンス層とが交互に積層された音響多層膜と,電極膜に挟まれた圧電薄膜が形成された圧電薄膜素子において,最上層の低音響インピーダンス層として機能する膜厚が1/4λのSiO2層に,λ/2の厚さを有するSiO2層が付加されている状態とすることで,TCFをほぼ0とすることができる圧電薄膜素子。」(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
3 周知事項1
当審拒絶理由で引用した特表2005-512442号公報(以下「引用文献3」という。)及び特開2008-160630号公報(以下「引用文献4」という。)には,それぞれ以下の事項が記載されている。
(引用文献3)
「【0038】
BAW共振器の共振周波数は近似的に式f=v/2L0にしたがって定まる。ここでL0はBAW共振器の層厚さであり,つまり圧電層Pの厚さと2つの電極層E1,E2の厚さとを加えた値である。BAW共振器の主振動モードに対してはλ/2の厚さが調整される。」
(引用文献4)
「【0040】
第1電極13,第2電極15は,電極としての機能と同時に,共振部20を構成する機能も有するため,その厚みは,材料や共振部を構成する様々な条件によっても異なり精密に設計する必要があるが,共振周波数が2GHzの場合,0.01~0.5μm程度である。
【0041】
圧電体膜14の厚みは,第1電極13,第2電極15と同様に精密に設計する必要があるが,共振周波数が2GHzの場合,0.3~1.5μm程度である。
【0042】
また,通常,共振部20の全体の厚みが,おおむねλ/2(λは使用周波数での音響波の波長)となるように設計される。」
上記引用文献3及び4に記載されているように,「BAW共振器は,共振部を構成する圧電層の厚さと2つの電極層の厚さとを加えた厚さがλ/2(λは共振波長)となるように構成されること。」(以下「周知事項1」という。)は,BAW共振器が通常有する周知事項である。
4 周知事項2
当審で新たに引用する特表2004-537236号公報(以下「引用文献A」という。),国際公開第2007/119643号(以下「引用文献B」という。)及び特開2008-172711号公報(以下「引用文献C」という。)には,それぞれ,BAW共振器に設けられる音響ミラー(ブラッグミラー)に用いられる高い音響インピーダンスの層の材料に関し,以下の記載がある。
(引用文献A)
「【0007】
典型的な高音響インピーダンス物質としては,例えば,タングステン(W),プラチナ(Pt),モリブデン(Mo),または,金(Au)などの金属を挙げられる。また,音響インピーダンスの低い物質としては,例えば,酸化シリコン(SiO2)またはアルミニウム(Al)を挙げられる。」
(引用文献B)
「[0006] 空気/結晶境界面を設ける代わりに,適切な音響ミラーを設ける方法もある。この方法では,例えば特許文献3に記載のように,下部電極,圧電体薄膜及び上部電極より構成される挟み込み構造の下に音響的ブラッグ反射鏡からなる大きな音響インピーダンスが作り出される。ブラッグ反射鏡は,音響インピーダンスの高い材料の層と音響インピーダンスの低い材料の層とを交互に積層することにより作られる。各層の厚さは共振周波数の波長の1/4に固定される。十分な層数の積層膜を形成することにより,圧電体/電極境界面における有効インピーダンスを,素子の音響インピーダンスよりはるかに高くすることができ,したがって,圧電体内の音波を有効に閉じ込めることができる。低音響インピーダンス層は酸化シリコンまたはアルミニウムから構成することができ,高音響インピーダンス層はタングステン,プラチナ,モリブデンまたは金から構成することができる。この方法により得られる音響共振器は,挟み込み構造の下に空隙が存在しないので,固体音響ミラー取付け共振器 (SMR)と呼ばれる。」
(引用文献C)
「【0066】
なお,図9ではブラッグ反射層は5層で構成されているが,必要な反射率,各層の材料定数,等によって,最適な層数は異なる。また,1つのブラッグ反射層を構成する材料は2種類に限らず,3種類以上の材料を含むこともある。音響インピーダンスが高い材料として,前述のW以外にも,Mo,金(Au),イリジウム(Ir),白金(Pt),ルテニウム(Ru),タンタル(Ta),コバルト(Co),等が利用可能である。また,音響インピーダンスが低い材料として,前述のAl以外にも,インジウム(In),マグネシウム(Mg),Ti,等が利用可能である。」
上記引用文献A-Cに記載されているように,「BAW共振器に設けられる音響ミラー(ブラッグミラー)に用いられる高音響インピーダンス層の材料をタングステン,金又はプラチナとすること。」(以下「周知事項2」という。)は,周知である。
第5 本願発明1と引用発明との対比・判断
1 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「半導体基板3」は,本願発明1の「基板(SU)」に相当し,引用発明の「分離構造7,温度補償層13及び圧電共振子5」を併せて,本願発明1の「積層体(ST)」に相当する。
そうすると,本願発明1の「BAW共振器」と引用発明の「BAW共振器」とは,「基板(SU)と,この上に載置された積層体(ST)とを有する」点で共通する。
b 引用発明の「前記圧電共振子5は,下部電極5aの積層と,圧電材料層5bの積層と,上部電極5cとの積層とにより形成され」ているから,積層により形成される「下部電極5a」,「上部電極5c」は,本願発明1の「2つの電極層(E1,E2)」に相当し,引用発明の「圧電材料層5b」は,本願発明1の前記電極層間に配置された「圧電層(PS)」に相当する。
c 引用発明の「分離構造7」は,「例えばブラッグミラー」であり「音響ミラーとして挙動する」から,本願発明1の「音響ミラー(AS)」及び「ブラッグミラー」に相当する。
そして,引用発明の「分離構造7」が「圧電共振子5と支持基板3との間の接合部分を形成」することは,本願発明1の「音響ミラー」が「下方の電極層(E1)と前記基板との間に配置され」ることに相当する。
また,引用発明の「高い音響インピーダンスを有する材料の層7a」及び「低い音響インピーダンスを有する材料の層7b」は,それぞれ「高インピーダンス層(HI)」及び「低インピーダンス層(LI)」に相当し,引用発明の「交互積層構造」は,引用発明1の「交互に配置されている」ことに相当するとともに「少なくとも2つのミラー層を具備する」といえる。
これらのことから,本願発明1と引用発明とは,「前記音響ミラーの前記高インピーダンス層と前記低インピーダンス層とが,共になってブラッグミラーを形成し」ている点で一致する。
d 本願発明1の「補償層」と引用発明の「温度補償層13」とを対比する。
本願発明1の「補償層」が有する「粘弾性特性の正の温度係数を有する材料」は,本願明細書を参照すると,「加熱すると」「共振周波数が上昇する」材料(【0005】)であって,その好適な材料は「SiO2」(【0015】)である。そうすると,引用発明の「温度補償層13」は,本願発明1の実施形態と共通の「酸化ケイ素」でできているから,本願発明1の「粘弾性特性の正の温度係数を有する材料を有する」といえる。
また,引用発明の「温度補償層13」が「分離構造7の上層7bと下部電極5aとの間に設けられ」る点は,本願発明1の「補償層」が「前記音響ミラーと前記下方の電極層(E1)との間に配置され」ている点に相当する。
e ここで,本願発明1で「λは,反射されるべき音波の波長」であることについて,引用発明の「分離構造7」は,「各層7a,7bの厚さは,それを形成する材料中での共振音響波長の4分の1に実質的に等しくなるように選択され,動作周波数,例えば共振周波数において,前記分離構造7は,音響ミラーとして挙動」するから,前記「共振音響波長」が,本願発明1の「反射されるべき音波の波長」,すなわち「λ」に相当する。
f 引用発明の「温度補償層13」が「酸化ケイ素」でできており,「高い及び低い音響インピーダンスを備える他の材料,例えば窒化シリコンまたは窒化アルミニウム,を使用して,分離構造7を形成」する。そうすると,引用発明は,「温度補償層13」及び「低い音響インピーダンスを備える材料の層7b」をそれぞれ異なる材料で形成することから,本願発明1の「前記音響ミラー(AS)の前記最も上方の低インピーダンス層(LI)と,前記補償層(KS)とは,異なる材料から形成されて」いるという構成を備えている。
上記aないしfを総合すると,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,また相違する。
<一致点>
「基板(SU)と,
この上に載置された積層体(ST)と
を有するBAW共振器であって,前記積層体が,
・2つの電極層(E1,E2)と,
・前記電極層間に配置された圧電層(PS)と,
・下方の電極層(E1)と前記基板との間に配置されていて,かつ少なくとも2つのミラー層を具備する音響ミラー(AS)であって,高インピーダンス層(HI)と低インピーダンス層(LI)とが交互に配置されている,音響ミラー(AS)と,
・粘弾性特性の正の温度係数を有する材料を有し,前記音響ミラーと前記下方の電極層(E1)との間に配置されている補償層(KS)と
を具備し,
・前記音響ミラーの前記高インピーダンス層と前記低インピーダンス層とが,共になって
ブラッグミラーを形成し,
・λは,反射されるべき音波の波長であり,
・前記音響ミラー(AS)の前記最も上方の低インピーダンス層(LI)と,前記補償層(KS)とは,異なる材料から形成されている,
BAW共振器。」
(相違点1)
本願発明1では,「前記補償層に接している最も上方の低インピーダンス層と前記補償層との層厚の合計が,λ/4の奇数の倍数に相当し,かつ,少なくとも3λ/4であ」るのに対し,引用発明では,温度補償層13に接している最も上方の低い音響インピーダンスを有する材料の層7bの層厚は共振音響波長の4分の1,すなわちλ/4であるが,該温度補償層13の層厚との合計が特定されていない点。
(相違点2)
本願発明1では,「前記2つの電極層および前記圧電層の層厚の合計が前記波長の半分」であるのに対し,引用発明では「下部電極5a」,「圧電材料層5b」及び「上部電極5c」の層厚の合計が特定されていない点。
(相違点3)
高インピーダンス層の材料について,本願発明1では,「ルビジウム,スカンジウム,金,プラチナから選択されている」のに対し,引用発明では「タングステン(W)」である点。
2 判断
(1)相違点1について
上記第4の2に記載したとおり,引用文献2には,「高音響インピーダンス層と低音響インピーダンス層とが交互に積層された音響多層膜と,電極膜に挟まれた圧電薄膜が形成された圧電薄膜素子において,最上層の低音響インピーダンス層として機能する膜厚が1/4λのSiO2層に,λ/2の厚さを有するSiO2層が付加されている状態とすることで,TCFをほぼ0とすることができる圧電薄膜素子。」(引用文献2記載事項)が記載されており,前記「音響多層膜」はその機能から「音響ミラー」といえ,「音響多層膜と,電極膜に挟まれた圧電薄膜が形成された圧電薄膜素子」は「BAW共振器」といえる。
そうすると,引用発明と引用文献2記載事項とは,音響ミラーを有するBAW共振器である点で共通し,共振周波数の温度による依存性を小さくするという技術課題も共通する(引用発明については[0014],[0015]及び[0041]を参照。)から,引用発明において,TCFをほぼ0とするために引用文献2記載事項を採用し,SiO2の「温度補償層13」の層厚をλ/2とすることで,低い音響インピーダンスを有する材料の層7b(層7bはSiO2でできており,層厚はλ/4である。)のうち最も上方の層(この層は「温度補償層13」と接している。)の層厚と「温度補償層13」の層厚との合計を3λ/4とすることは,当業者が容易に想到し得るものである。この場合,3λ/4という層厚が,請求項1の「λ/4の奇数の倍数に相当し,かつ,少なくとも3λ/4」に該当することは,明らかである。
(2)相違点2について
上記第4の3に記載したとおり,「BAW共振器は,共振部を構成する圧電層の厚さと2つの電極層の厚さとを加えた厚さがλ/2(λは共振波長)となるように構成されること。」(周知事項1)は,BAW共振器が通常有する周知事項であるから,相違点2に係る事項は,引用発明が有しているか,又は,有していないとしても当業者が適宜になし得る事項である。
(3)相違点3について
上記第4の4に記載したとおり,「BAW共振器に設けられる音響ミラー(ブラッグミラー)に用いられる高音響インピーダンス層の材料をタングステン,金又はプラチナとすること。」(周知事項2)は周知であるから,引用発明において,高い音響インピーダンスの材料を有する層7aの材料を,タングステン(W)に代えて,金,又は,プラチナから選択することは,当業者が適宜になし得ることである。
3 小括
したがって,本願発明1は,引用発明,引用文献2記載事項,周知事項1及び周知事項2に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第6 本願発明4と引用発明との対比・判断
本願発明4は,請求項4に記載した「少なくとも1つまたは全ての高インピーダンス層(HI)の材料は,W,Mo,Ta,Pt,Au,Ta2O5およびScから選択されている」という事項,により,本願発明1の高インピーダンス層(HI)の材料を限定し直したものであると認められる。
よって,本願発明4と引用発明とを対比すると,両者は上記5の1で挙げた相違点1及び相違点2で相違する。
他方,上記5の1で挙げた相違点3は,高インピーダンス層(HI)の材料についての相違点であるところ,本願発明4は,「全ての高インピーダンス層(HI)の材料としてW,すなわちタングステンを選択したもの」を含む。ここで,引用発明の「高い音響インピーダンスを有する材料,例えばタングステン(W)の層7a」について,分離構造7を構成する全ての「層7a」の材料がタングステン(W)であるといえ,この点は,本願発明4に含まれる「全ての高インピーダンス層(HI)の材料としてWを選択したもの」と共通するから,前記相違点3は,本願発明4と引用発明との相違点にはならない。
そして,相違点1及び相違点2は,上記第5の2で検討済みの相違点である。
したがって,本願発明4は,引用発明,引用文献2記載事項及び周知事項1に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第7 むすび
以上のとおり,本願発明1及び本願発明4は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-010181