特許拒絶査定不服審判
2019-009053
侵入を最小にするファイバ識別のための方法、装置、およびシステム
- 審判番号
- 2019-009053
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-107276
- 請求日
- 2019年07月05日
- 審決日
- 2020年02月26日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エイ・ティ・アンド・ティ・コーポレーション
- 【請求人代理人】岡部 讓
- 【請求人代理人】吉澤 弘司
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬川 勝久
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 星野 浩一
- 分類
- P18 .121-Z (G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2017-107276号「侵入を最小にするファイバ識別のための方法、装置、およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 2日出願公開、特開2017-199001号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、2004年(平成16年)6月24日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2003年8月20日 米国、及び、2003年12月31日 米国)を国際出願日とする特願2006-523835号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年3月13日に新たな特許出願とした特願2013-50436号の一部をさらに平成29年5月31日に新たな特許出願としたものであって、平成30年4月13日付けで拒絶理由が通知され、同年10月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年3月4日付けで拒絶査定がなされ(送達 同年同月7日)、それに対して、令和元年7月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和元年7月5日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。A~Gは、本願発明を分説するために当審で付した。)。
「【請求項1】
A 光ファイバを識別する方法であって、
B 複数の光ファイバから識別のために光ファイバを選択する工程と、
C 経時的に変化する磁界を前記光ファイバに付加し、前記光ファイバを伝播する現行の光信号の偏光が、時間に応じて変化するように、時間に応じて前記光ファイバの一部の複屈折を変化させ、前記現行の光信号が、顧客へ、または、顧客からの一またはそれ以上の信号を含み、及び
D 経時的に変化する磁界を前記光ファイバに付加する工程が、記光ファイバに沿った前記現行の光信号の伝播を中断せず、
E 時間に応じた前記現行の光信号の偏光の変化の存在が、前記光ファイバを識別するために検出され、
F 前記検出が、前記光ファイバに沿った前記現行の光信号の伝播を中断しない
G ことを特徴とする方法。」
3 刊行物の記載
(1)引用文献1及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の最先の優先日前に頒布された特開平2-230105号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。)。
ア「(産業上の利用分野)
本発明は管路内、ビルのダクト内等に敷設されている多数本のケーブルの中から、必要とするケーブルを捜し出すケーブル識別方法とその識別装置に関するものである。」(1頁右欄3~7行)
イ 「(発明の目的)
本発明の目的は、光ファイバケーブルに傷がつかず、運用中の回線に悪影響が及ぼすことがなく必要なケーブルを捜し出すことができるケーブル識別方法とその識別装置を実現することにある。」(2頁右上欄2~6行)
ウ 「本発明の請求項第1のケーブル識別方法は第1図のように、多数本の光ファイバケーブルの中の任意のケーブル1の長手方向途中(例えば分岐点)において、同ケーブル1に磁界を印加し、そのときのファラデー効果により同ケーブル1内を伝送される光の偏光面を回転させ、この回転により生じる同ケーブル1の出力光レベルの変動から、同ケーブル1を他の多数本の光ファイバケーブルと識別するようにしたことを特徴とするものである。
本発明の請求項第2のケーブル識別装置は第1図のように、光源2と光ファイバケーブル1により伝送される光を受光する偏波変動受光部3とを備えた送受信局4と、前記光ファイバケーブル1の長手方向途中の識別部5において同ケーブル1の外側より同ケーブル1に磁界を印加する磁気印加装置6とを備えたことを特徴とするものである。」(2頁右下欄3行~最下行)
エ 「(作用)
本発明の光ファイバケーブルの識別方法及び識別装置では、多数本の光ファイバケーブルの中の任意のケーブル1の長手方向途中(例えば分岐点)において、その外側から同ケーブル1に磁界を印加するので、このときのファラデー効果によりケーブル1内を伝送される光の偏光面が回転し、同ケーブル1から出射される検光子を通した出力光レベルが変動する。この場合、捜し出したい光ファイバケーブルに磁界が印加されれば、そのケーブルの検光子を通した出射光レベルが変動するので、同ケーブルを多数本の光ファイバケーブルの中から識別することができる。」(2頁左上欄1~13行)
オ 「(実施例)
第1図は本発明の光ファイバケーブルの識別装置の説明図である。
同図において2はコヒーレンス光等を発生する光源、3は光ファイバケーブル1により伝送される光を受光する偏波変動受光部であり、これらは送受信局4に設けられている。
前記光ファイバケーブル1には光ファイバがシングルモードファイバのものが使用される。
6は磁気印加装置であり、光ファイバケーブル1の長手方向途中の識別部5において、同ケーブル1の外側より同ケーブル1に磁界を印加するためのものである。この磁気印加装置6は印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調できるようにしてある。
この場合、現在の光通信システムは、強度変調/直接検波方式であるため、使用中の回線で偏波変動が起こっても何ら影響が及ばない。つまり、他の使用中の光ケーブルに磁界をかけても、その回線には何の悪影響も及ばない。
第1図の10は折返し局であり、この局において入力用光ケーブル11と出力用光ケーブル12とがループ線13により接続されている。
発明者らの行なった実験によると、第3図の外径0.4mmの光ファイバ素線14を用いた実験系では、ファラデー効果によるコイル印加電流と、同光ファイバ素線14を通るコヒーレント光の偏波面の主軸の回転角との関係は第4図のようになった。」(2頁左上欄14行~3頁左下欄2行)
カ 第1図、第3図及び第4図は次のものである。
キ 上記アないしオの記載を踏まえて、上記カの第4図をみると、コイル印加電流を変化させると、ファラデー効果により、光ファイバケーブルを通るコヒーレント光の偏波面の主軸の回転角が変化するとともに、コイル印加電流に比例して偏波面の主軸の回転角が変化するものであることがみてとれる。
ク 引用発明
上記アないしキによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「a 多数本の光ファイバケーブル(上記イ)の中から、必要とする光ファイバケーブルを捜し出す光ファイバケーブル識別方法(上記ア)であって、
b 多数本の光ファイバケーブルの中の任意の光ファイバケーブルの長手方向途中において(上記ウ)、
c 光ファイバケーブルの長手方向途中の識別部に、同光ファイバケーブルの外側より同光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置は印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調できるようにしてあり、使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけても、その回線には何の悪影響も及ばず(上記オ)、
d コイル印加電流を変化させると、ファラデー効果により、光ファイバケーブルを通るコヒーレント光の偏波面の主軸の回転角が変化するとともに、コイル印加電流に比例して偏波面の主軸の回転角が変化するものであって(上記キ)、
e 使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけて(上記オ)、
f ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が回転し、同光ファイバケーブルから出射される検光子を通した出力光レベルが変動するので、同光ファイバケーブルを多数本の光ファイバケーブルの中から識別することができ(上記エ)、
g 光ファイバケーブルに傷がつかず、運用中の回線に悪影響が及ぼすことがなく(上記イ)、使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけて(上記オ)、光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面を回転させ、この回転により生じる同光ファイバケーブルの出力光レベルの変動から、同光ファイバケーブルを他の多数本の光ファイバケーブルと識別する(上記ウ)、
h 光ファイバケーブル識別方法(上記ア、イ)。」
(2)引用文献2及び引用文献2に記載された事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の最先の優先日前に頒布された特開昭63-250604号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある
(ア)「〔産業上の利用分野〕
この発明は、複数本の光ファイバ心線を活線状態において心線対照する方法に関する。」(1頁左欄下から5行~下から3行)
(イ)「次に、この心線対照装置3を用いた対照方法を説明する。
光ケーブル1の一端側の複数の光ファイバ心線2・・・のうちの活線状態にある1本を駆動部4の変形付与部材5にセットし、アクチュエータ6を作動させ、10~30Hzの周期で心線2に曲げ変形を加え、0.3~0.4dB程度の損失を伝送光に付加する。この時のアクチュエータ6からの周期信号は介在通信線10を経て判別部15に送られる。
この時、光ケーブル1の他端側では、全部の光ファイバ心線2・・・もしくは1本ないし数本の心線2・・・を検出部11の上側支持体12aと下側支持体11bとの間に挿んで、それぞれの心線2からの漏れ光をそれぞれの受光器14で検出する。それぞれの受光器14からの電気信号は判別部15に送られ、ここでそれぞれの電気信号の時間的変化が観測され、信号レベルに周期的変化がある信号が選択される。ついで、この選択された信号の周期が検出され、この周期がアクチュエータ6からの周期信号の周期と比較して周期が一致すると、その信号を発している受光器14に対応する心線2と駆動部4にセットされている心線2とが同一であることが判別され、心線対照が行われる。検出部11に挟む心線2が1本ないし数本の場合は上記作業を繰り返し行えばよい。
このような心線対照方法によれば、光ファイバ心線2に伝送されている伝送光に加えられる損失が0.5dB以下とすることができるので、伝送光にエラー等の悪影響を与えることなく心線対照を行うことができる。また、駆動部4での曲げ変形の周期と検出部11からの検出光のレベル変動の周期とを比較するようにしているので、検出感度が高く、駆動部4での付与損失量が少なくて済む。さらに、活線状態の心線2を切断するなどの面倒な作業が不要であり、効率よく対照作業を実施できる。」(2頁右下欄17行~3頁右上欄12行)
イ 引用文献2に記載された事項
上記アによれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。
「光ケーブルの一端側の複数の光ファイバ心線のうちの活線状態にある1本の伝送光に、アクチュエータからの周期信号を付加し、光ケーブルの他端側で、心線からの漏れ光を受光器で検出して、信号レベルに周期的変化がある信号を選択することで、心線対照が行われる、複数本の光ファイバ心線を活線状態において心線対照する方法。」
4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「多数本の光ファイバケーブルの中から、必要とする光ファイバケーブルを捜し出す光ファイバケーブル識別方法」(構成a)は、本願発明の「光ファイバを識別する方法」(構成A)に相当する。
イ 引用発明は「多数本の光ファイバケーブルの中から、必要とする光ファイバケーブルを捜し出す」(構成a)ために、「多数本の光ファイバケーブルの中の任意の光ファイバケーブルの長手方向途中において」(構成b)、「同光ファイバケーブルの外側より同光ファイバケーブルに磁界を印加する」(構成c)ものであるから、「多数本の光ファイバケーブルの中から、必要とする光ファイバケーブルを捜し出す」ために、「多数本の光ファイバケーブルの中の任意の光ファイバケーブル」を選択するものであるといえる。
したがって、引用発明の「多数本の光ファイバケーブルの中から、必要とする光ファイバケーブルを捜し出す」(構成a)ために、「多数本の光ファイバケーブルの中の任意の光ファイバケーブルの長手方向途中において」(構成b)、「同光ファイバケーブルの外側より同光ファイバケーブルに磁界を印加する」(構成c)ことは、本願発明の「複数の光ファイバから識別のために光ファイバを選択する工程」(構成B)に相当する。
ウ 引用発明は、「光ファイバケーブルの長手方向途中の識別部において、同光ファイバケーブルの外側より同光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置は印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調できるようにしてあり、使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけても、その回線には何の悪影響も及ば」(構成c)ないものであって、「ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が回転」(構成f)するものであるから、磁界を光ファイバケーブルに印加し、同光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が回転させるものであるといえる。
したがって、引用発明の「光ファイバケーブルの長手方向途中の識別部において、同光ファイバケーブルの外側より同光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置は印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調できるようにしてあり、使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけても、その回線には何の悪影響も及ば」(構成c)ないものであって、「ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が回転」(構成f)することは、本願発明の「経時的に変化する磁界を前記光ファイバに付加し、前記光ファイバを伝播する現行の光信号の偏光が、時間に応じて変化するように、時間に応じて前記光ファイバの一部の複屈折を変化させ、前記現行の光信号が、顧客へ、または、顧客からの一またはそれ以上の信号を含」(構成C)むことと、「磁界を前記光ファイバに付加し、前記光ファイバを伝播する光信号の偏光が、変化」(構成C´)することの点で一致する。
エ 引用発明は、「使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけ」(構成e)るものであるから、本願発明の「経時的に変化する磁界を前記光ファイバに付加する工程が、記光ファイバに沿った前記現行の光信号の伝播を中断」(構成D)しないことと、「磁界を前記光ファイバに付加する工程が、記光ファイバに沿った光信号の伝播を中断」(構成D´)しないことの点で一致する。
オ 引用発明は、「ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が回転し、同光ファイバケーブルから出射される検光子を通した出力光レベルが変動するので、同光ファイバケーブルを多数本の光ファイバケーブルの中から識別する」(構成f)ものであるから、本願発明の「時間に応じた前記現行の光信号の偏光の変化の存在が、前記光ファイバを識別するために検出され」(構成E)ることと、「前記光信号の偏光の変化の存在が、前記光ファイバを識別するために検出され」(構成E´)ることの点で一致する。
カ 引用発明は、「光ファイバケーブルに傷がつかず、運用中の回線に悪影響が及ぼすことがなく、使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけて、光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面を回転させ、この回転により生じる同光ファイバケーブルの出力光レベルの変動から、同光ファイバケーブルを他の多数本の光ファイバケーブルと識別する」(構成g)ものであるから、「光ファイバケーブルを他の多数本の光ファイバケーブルと識別する」ことが、「使用中の光ファイバケーブル」「内を伝送される光」の伝送を中断しないといえる。
したがって、引用発明の「光ファイバケーブルに傷がつかず、運用中の回線に悪影響が及ぼすことがなく、使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけて、光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面を回転させ、この回転により生じる同光ファイバケーブルの出力光レベルの変動から、同光ファイバケーブルを他の多数本の光ファイバケーブルと識別する」(構成g)ことは、本願発明の「前記検出が、前記光ファイバに沿った前記現行の光信号の伝播を中断しない」(構成F)ことと、「前記検出が、前記光ファイバに沿った前記光信号の伝播を中断しない」(構成F)´ことの点で一致する。
キ 引用発明の「光ファイバケーブル識別方法」(構成h)は、本願発明の「方法」(構成G)に相当する。
ク 上記アないしキによれば、本願発明と引用発明は、
「A 光ファイバを識別する方法であって、
B 複数の光ファイバから識別のために光ファイバを選択する工程と、
C´ 磁界を前記光ファイバに付加し、前記光ファイバを伝播する光信号の偏光が、変化し、及び
D´ 磁界を前記光ファイバに付加する工程が、記光ファイバに沿った前記光信号の伝播を中断せず、
E´ 前記光信号の偏光の変化の存在が、前記光ファイバを識別するために検出され、
F´ 前記検出が、前記光ファイバに沿った前記光信号の伝播を中断しない
G 方法。」
である点で一致し、下記の点で相違する。
(ア)相違点1
光ファイバに付加する磁界が、本願発明は、「経時的に変化する」磁界であって、光ファイバを伝播する光信号の偏光が、「時間に応じて変化するように、時間に応じて前記光ファイバの一部の複屈折を変化させ」るものであるのに対して、引用発明は、光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置は印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調できるようにしてあり(構成c)、ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が回転(構成f)すると特定されるにとどまる点。
(イ)相違点2
光ファイバを識別するために、本願発明は、「時間に応じた」光信号の偏光の変化の存在を検出するのに対して、引用発明は、「ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が回転し、同光ファイバケーブルから出射される検光子を通した出力光レベルが変動する」(構成f)ことを検出する点。
(ウ)相違点3
本願発明は、「顧客へ、または、顧客からの一又はそれ以上の信号」を含む「現行の光信号」を利用して光ファイバを識別するものであるのに対して、引用発明は、このようなものであるのか明らかでない点。
(2)判断
ア 相違点1について検討する。
(ア)引用発明の、「光ファイバケーブルの外側より同光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置は印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調できるようにしてあ」(構成c)る「磁気印加装置」は、「コイル印加電流を変化させると、ファラデー効果により、光ファイバケーブルを通るコヒーレント光の偏波面の主軸の回転角が変化するとともに、コイル印加電流に比例して偏波面の主軸の回転角が変化するものであ」(構成d)るから、当該「光ファイバケーブルの外側より同光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置」は、「コイル印加電流を変化させ」て、「ファラデー効果により」「印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調」するものであるといえる。
そうすると、「磁気印加装置」において、「コイル印加電流を変化させ」て「印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調」すれば、「光ファイバケーブルを通るコヒーレント光の偏波面の主軸の回転角」も「周期を変化させ」ることとなると解される。
ここで、「光ファイバケーブルを通るコヒーレント光の偏波面の主軸の回転角」の「周期を変化させ」ることは、「光ファイバケーブルを通るコヒーレント光の偏波面の主軸の回転角」を「経時的に変化する」あるいは「時間に応じて変化する」ことと同義であると解される。
また、「コイル印加電流を変化させると、ファラデー効果により、光ファイバケーブルを通るコヒーレント光の偏波面の主軸の回転角が変化する」(構成d)ことが、光ファイバケーブルの複屈折を変化させることに伴うものであることは周知の技術的事項である(後記(イ)参照)。
したがって、引用発明において、「磁気印加装置」によって、「光ファイバケーブルの外側より同光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置は印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調できるようにしてあ」(構成c)ることは、光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置は印加する磁界の強度、周期を「経時的に変化」あるいは「時間に応じて変化」させて、ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が「経時的に変化」あるいは「時間に応じて変化」するように、時間に応じて前記光ファイバの一部の複屈折を変化させることであるといえるから、相違点1は実質的な相違点ではない。
(イ)周知技術について
a 特開昭58-90616号公報
「円複屈折は磁場にファイバを露出することによりファイバ内に作り得る。このようにして作られた複屈折の量は、ファイバに平行な方向のB場の関数である。このように、ファラデー効果は円複屈折効果に必須である。」(5頁左下欄下から4行~右下欄1行)
b 特開平2-293680号公報
「ファラデー効果(つまり、磁気循環複屈折)を示す光学材料は磁場の検出に使用できることが知られている。つまり、線形的に偏光された光線が伝播の方向に対して横方向に伸びる磁気光学材料の薄い膜を通過するとき、光線の少なくとも一部は一つ或は複数の磁気領域を通過し、夫々の領域はそれが遮る光線の該部分の偏光を回転する能力を持っている。」(2頁右上欄9~15行)
イ 相違点2について検討する。
引用発明は、「ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が回転し、同光ファイバケーブルから出射される検光子を通した出力光レベルが変動する」(構成f)ところ、当該検光子は特定の偏光方向の光のみを透過させる光学素子であり、検光子を透過した光の強度を測定することにより偏光(角)を検出することができることが本願優先日当時の技術常識であることを踏まえると、引用発明は、「ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が回転し、同光ファイバケーブルから出射される検光子を通した出力光レベルが変動する」ことで偏光角を検出するものであると認められる。
したがって、上記アにおける、引用発明において、「磁気印加装置」によって、「光ファイバケーブルの外側より同光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置は印加する磁界の強度、周期を変化させて、強度変調、位相変調できるようにしてあ」(構成c)ることは、光ファイバケーブルに磁界を印加するための磁気印加装置は印加する磁界の強度、周期を「経時的に変化」あるいは「時間に応じて変化」させて、ファラデー効果により光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面が「経時的に変化」あるいは「時間に応じて変化」するように、時間に応じて前記光ファイバの一部の複屈折を変化させることであるとの検討を踏まえると、引用発明の検光子は、「経時的に変化」あるいは「時間に応じて変化」する光ファイバケーブル内を伝送される光の偏光面の変化の存在を検出するものであるといえるから、相違点2は実質的な相違点ではない。
ウ 相違点3について検討する。
引用発明は、「使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけても、その回線には何の悪影響も及ばず」(構成c)、「使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけて」(構成e)、「光ファイバケーブルに傷がつかず、運用中の回線に悪影響が及ぼすことがなく、使用中の光ファイバケーブルに磁界をかけて・・・同光ファイバケーブルを他の多数本の光ファイバケーブルと識別する」(構成g)発明であるから、使用中の状態として、特に、顧客への信号を含む現行の光信号が使用中である活線の状態の光ファイバの識別を行う必要性があることは、当業者が当然に認識し得たものである。
これに対して、引用文献2には、「光ケーブルの一端側の複数の光ファイバ心線のうちの活線状態にある1本の伝送光に、アクチュエータからの周期信号を付加し、光ケーブルの他端側で、心線からの漏れ光を受光器で検出して、信号レベルに周期的変化がある信号を選択することで、心線対照が行われる、複数本の光ファイバ心線を活線状態において心線対照する方法」(引用文献2に記載された事項)が記載されていて、引用発明と光ファイバの識別方法という技術分野において共通している。
そうすると、引用発明において、使用中の状態として、特に、顧客への信号を含む現行の光信号が使用中である活線の状態の光ファイバの識別を行う必要性があること、及び、運用中の回線に悪影響が及ぼすことがないことを踏まえて、(偏光面を回転させる)光ファイバーケーブル内を伝送される光として、「顧客への信号を含む現行の光信号」を用いることは当業者が容易に想到し得たことである。
よって、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して、引用発明において、使用中の状態として、特に、顧客への信号を含む現行の光信号が使用中である活線の状態の光ファイバの識別を行う構成となして、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。
エ 以上アないしウでの検討によれば、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
(3)請求人の審判請求書での主張について(下線は当審が付した。)
ア 請求人は、令和元年8月16日付け手続補正書(方式)で請求の理由が補充された審判請求書の【請求の理由】「3.本願発明が特許されるべき理由」「(2) 意見の内容
」において概略下記(ア)ないし(エ)のとおり主張する。
(ア)しかしながら、引用文献1は、補正後の請求項1に記載の「経時的に変化する磁界」も「時間に応じた現行の光信号の偏光の変化の存在は、光ファイバを識別するために検出される」との発明特定事項も開示してもいなければ示唆してもいません。引用文献1が教示しているのは、「磁界をケーブルに付加し、出力光レベルを検出する」だけです。引用文献1は、「磁場を経時的に変化させる」記載も、「光ファイバを識別するために、時間に応じた現行の光信号の偏光の変化の存在」記載もありません。引用文献1が検出しているのは出力光レベルに過ぎません。
(イ)しかしながら、引用文献1における「磁界の強度、周期を変化させ」とは、磁界の強度を変化させることができることを単に示しているに過ぎません。「周期」は、印加する電圧の電源のAC周波数に過ぎません。その他に関連する記載が引用文献1には見当たりませんので、経時的に変化する磁界及び時間の関数として変化する偏光をする検出することを開示しているとの主張を裏付ける記載箇所は引用文献1にはありません。このように、引用文献1の磁気印加装置6を使用して磁界がONとOFFに切り替えられ、磁界の強度が選択され、光波の偏光の回転の角度が大きく又は小さく変化したとしても、経時的に変化する磁界の印加とも、時間に応じた現行の光信号の偏光の変化の検出とも言えません。
例えば、引用文献1によると、レーザ・ビームがシングル・モード・ファイバに入力され、磁界がケーブルに印加され、「光の偏光面を回転させ」、その回転によって生じたケーブル1の出力光レベルの変化によりケーブル1が特徴づけられます。引用文献1によると、磁界を印加したことによって変化しているのは光レベルだけです。磁界を印加した後、ファラデー効果により光の偏光面が回転することに起因して、検出される光レベルが低くなります。なお、引用文献1には、時間的に変化する磁界も時間の関数として変化する偏光の検出に関する記載もありません。
仮に、引用文献1が時間的に変化する磁界の印加と解釈し得る記載を含むとしても、それについての具体的記載がありませんので、磁気印加装置6の一部にAC電圧源を備えるものと解釈し得るに過ぎません。検出されるのは、磁界を印加した後、ファラデー効果により光の偏光面の回転に起因した、光レベルの低下に過ぎません。換言すれば、検出されるのが出力の光レベルの単純低下ですので、AC電圧源の周波数には無関係です。
(ウ)しかしながら、引用文献2が記載しているのは、光ファイバに周期的な曲げ変形を与えて伝送損失を検出することに過ぎません。従って、引用文献2を引用文献1と組み合わせても、「動作を中断する必要なく、通信を確認する」との本発明の技術的効果を達成することは出来ません。
(エ)しかしながら、このことは回路が損傷しないということを示しているに過ぎません。例えば、磁界を印加することによって得られる偏光面の回転は、レーザ光源の光波強度を増加させませんので、装置を損傷しません。引用文献1のこの記載箇所は、「動作を中断する必要なく、通信を確認する」ことを示しているのではありません。
イ しかしながら、上記「ア」「(ア)」及び「(イ)」の点は、上記「(2)」「ア」「(ア)」及び同「(イ)」で検討したとおりである。
また、上記「ア」「(ウ)」及び「(エ)」の点は、上記「(2)」「ア」及び「(ウ)」で検討したとおりである。
したがって、上記請求人の主張は採用することはできない。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-009053