特許拒絶査定不服審判
2019-008301
生物学的に活性な物質及び不規則性無機酸化物を含有する組成物
- 審判番号
- 2019-008301
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-542752
- 請求日
- 2019年06月21日
- 審決日
- 2021年04月13日
- 公報発行日
- 2021年10月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダブリュー・アール・グレース・アンド・カンパニー-コーン
- 【請求人代理人】小野 新次郎
- 【請求人代理人】山本 修
- 【請求人代理人】宮前 徹
- 【請求人代理人】中西 基晴
- 【請求人代理人】野矢 宏彰
- 【請求人】フォーマック ファーマシューティカルズ ナムローゼ フェンノートシャップ
- 【請求人代理人】小野 新次郎
- 【請求人代理人】山本 修
- 【請求人代理人】宮前 徹
- 【請求人代理人】中西 基晴
- 【請求人代理人】野矢 宏彰
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 石井 裕美子
- 審判官 穴吹 智子
- 分類
- P18 .536-WZ (A61K) / P18 .537-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-542752「生物学的に活性な物質及び不規則性無機酸化物を含有する組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月22日国際公開、WO2014/078435、平成27年12月24日国内公表、特表2015-537029〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2013年11月13日(パリ条約による優先権主張 2012年11月14日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、出願後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年 8月 3日付け:拒絶理由通知
平成30年 2月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 7月10日付け:拒絶理由通知
平成31年 1月17日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月18日付け:拒絶査定
令和 1年 6月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年 8月 1日 :審判請求の理由についての手続補正書
(方式)の提出
令和 2年 7月 9日付け:拒絶理由通知
令和 3年 1月12日 :意見書、手続補正書、手続補足書の提出
第2 本願発明
本願請求項1~54に係る発明は、令和3年1月12日提出の手続補正書により補正(以下、「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1~54に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。なお、下線は補正箇所である。
「【請求項1】
生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む組成物であって、前記無機酸化物が、
約10.0nm以下の平均細孔径を有する細孔と、
窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、
少なくとも約0.4の細孔径分布相対スパンと、
窒素吸着により測定したときに、約600m2/g以上のBET表面積と、を有する不規則性多孔質シリカを含み、そして
前記生物学的に活性な物質が、生物薬剤分類システムの第II群及び第IV群から選択される少なくとも1つの物質であり、
前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物中に組み込まれている、
組成物。」
第3 当審が通知した拒絶理由の概要
令和2年7月9日付け拒絶理由通知書において、当審が通知した拒絶の理由は、次の「理由1」及び「理由2」を含むものである。
[理由1](実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由2](サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
そして、上記拒絶理由通知書では、上記「理由1」及び「理由2」について、概略、次の指摘をしている。なお、ここに記載した「本願発明」とは、平成1年6月21日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~54に係る発明をまとめていうものであり、「請求項1」、「請求項43」は、平成1年6月21日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、請求項43をいうものである。
「理由1」について
本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、出願時の技術常識に照らしても、本願発明の「組成物」の構成成分に含まれる、特定の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積を有する「不規則性多孔質シリカ」を、過度の試行錯誤を伴うことなく製造することができる程度に記載されているとはいえない。
「理由2」について
本願発明は、「生物学的に活性な物質の溶解性を好適なものとすること」を課題とするものであると認められるところ、本願請求項1に記載される、特定の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積を有する不規則性多孔質シリカを用いることで、上記課題を解決できるとはいえない。
仮に、本願明細書に開示される実施例において、生物学的に活性な物質の高い溶解性が実現されているとしても、斯かる効果は、本願請求項1に記載された条件を充足する無機酸化物に、生物学的に活性な物質を溶媒含浸法にて内包させ、結晶形態を欠くものとすることでもたらされるものと解することもできるところ、本願請求項1では、生物学的に活性な物質が如何なる形態にて組成物中に含まれるものであるのかについての規定は特段なされていない。本願請求項1を引用する本願請求項43には、「生物学的に活性な物質を前記無機酸化物に組み込む」との規定がなされているものの、ここでいう「組み込む」とは如何なる処理を指しており、「組み込」まれた生物学的に活性な物質が、如何なる形態であるのかについても明記はないため、斯かる規定を加えたとしても、本願発明が生物学的に活性な物質の溶解性を好適なものとするという課題を解決できるとはいえない。
上記「理由1」及び「理由2」の対象とされた本願に係る発明は、1年6月21日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものを含んでいる。
「【請求項1】
生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む組成物であって、前記無機酸化物が、
約10.0nm以下の平均細孔径を有する細孔と、
窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、
少なくとも約0.4の細孔径分布相対スパンと、
窒素吸着により測定したときに、約600m2/g以上のBET表面積と、を有する不規則性多孔質シリカを含み、そして
前記生物学的に活性な物質が、生物薬剤分類システムの第II群及び第IV群から選択される少なくとも1つの物質である、
組成物。」
そして、当該発明は、本願発明と比較すると、「前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物中に組み込まれている」であるとの特定がされていないが、「不規則性多孔質シリカ」の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積についての規定は、令和3年1月12日提出の手続補正書による補正の前後で変更はない。
第4 当審の判断
1 本願明細書の記載事項
本願明細書には、次のとおりの記載がある。下線は、当審合議体によるものである。
(摘記ア)
「【0024】
本明細書で使用するとき、用語「不規則性多孔質材料」は、細孔径分布が、本明細書において定義される通りの0.4超の相対スパンを有するよう、均一ではない細孔径分布(すなわち、細孔径分布が非常に広範にわたり、事実上多峰性である)を有する多孔質粒子を指す。加えて、不規則性多孔質材料は、図6~図8に示す通り、低角X線回折パターンを有しないような内部構造を有し得る。このような材料は、限定するものではないが、コロイド状粒子を形成するためのものなどの溶液重合法、ヒュームド粒子を形成するためのものなどの連続式火炎加水分解法、ゲル化粒子を形成するためのものなどのゲル法、及び沈殿粒子を形成するためのものなどの沈殿法、などを含む任意の公知のプロセスにより形成され得る。粒子は、オートクレーブ、気流乾燥、超臨界流体抽出、エッチング、又は同様の加工法により、連続的に改質することもできる。粒子は、有機及び/又は無機材料、並びにこれらの組み合わせから構成され得る。一実施形態例では、粒子は、無機酸化物、硫化物、水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩などの無機物質から構成されるものの、好ましくは無機酸化物である。粒子は鎖状、棒状又は長薄片状などの、様々な異なる対称的、非対称的又は不規則的形状であり得る。粒子は、非晶質又は結晶質などの異なる構造を有し得る。粒子は、異なる組成、大きさ、形状又は物理構造を含む粒子の混合物を包含し得るものであり、あるいは表面処理が異なることを除いて同一のものであり得る。粒子の多孔性は、小型の粒子が凝集して大型の粒子を形成する場合、粒子内又は粒子間のものであり得る。一実施形態例では、粒子は、無機酸化物、硫化物、水酸化物、炭酸塩、珪酸塩、リン酸塩などの無機物質から構成されるものの、好ましくは無機酸化物である。多孔質材料としては、有機若しくは無機材料、又はそれらの混成物が挙げられ、粒子、モノリス、膜、コーティング及び同様物などの形態であり得る。」
(摘記イ)
「【0046】
不規則性多孔質材料は沈殿、ゲル、ヒュームド、コロイド状など、及びこれらの組み合わせなどの多様な形態であってよく、未改質であるか、又はオートクレーブ、超臨界流体抽出、気流乾燥、及び同様の後続プロセスにより改質されてよい。一実施形態では、本発明における使用に好適である不規則性多孔質無機酸化物は、沈殿無機酸化物粒子及び無機酸化物ゲル粒子を包含する。これらの無機酸化物は、本明細書において、「親無機酸化物」、「親粒子」又は「親分散体」と呼ばれる。不規則性のものである場合に限り、任意の無機酸化物組成物が、本発明における使用に好適であるものの(例えば、SiO2、Al2O3、AlPO4、MgO、TiO2、ZrO2など)、本発明の一実施形態は、非晶質沈殿シリカ及びシリカゲルを包含し得る。無機酸化物はまた、SiO2.Al2O3、MgO.SiO2.Al2O3及び同様物などを含む混合無機酸化物も含有し得る。従来の配合法又は同時ゲル化法により、混合無機酸化物が調製される。ゲルを含む実施形態では、分散体は、限定するものではないが、SiO2、Al2O 3、AlPO4、MgO、TiO2、及びZrO2を含むゲルなどの多孔質無機酸化物ゲルに由来する。ゲルはヒドロゲル、エアロゲル又はキセロゲルであり得る。ヒドロゲルはまた、水中で形成され、結果として細孔が水により充填されるアクアゲルとしても公知である。キセロゲルは、水が除去されたヒドロゲルである。エアロゲルは、水が除去されるにつれてゲルの構造において生じる何らかの崩壊又は変化を最小限に抑えるような方法で液体が除去された、キセロゲルの1つのタイプである。
【0047】
本発明の一実施形態では、無機酸化物ゲルは、不規則性多孔質シリカゲルを包含する。このようなシリカゲルは、アルカリ金属珪酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウム)水溶液を、硝酸又は硫酸などの強酸と混合することにより調製することができ、混合は、撹拌により透明なシリカゾルを形成するのに好適な条件下で実施され、このシリカゾルは、およそ30分未満でヒドロゲル、すなわち、マクロゲルへと変化する。次に、得られるゲルを洗浄する。ヒドロゲル中に形成される無機酸化物、すなわち、SiO3の濃度は、約1~約9、又は1~約4のゲルpHについては、通常、約10重量%~約5重量%、又は約20重量%~約35重量%、又は約30重量%~約35重量%の範囲である。広範な混合温度を使用でき、この範囲は、典型的には約20~約50℃となる。新しく形成されたヒドロゲルを、連続水流に単に浸漬することにより洗浄して望ましくない塩類を除去し、約99.5重量%以上の純粋な無機酸化物を得る。pH、温度、及び洗浄水の持続時間は、表面積(SA)及び細孔容積(PV)などのシリカの物理的特性に影響を与える。65~90℃、pH 8~9で15~36時間にわたって洗浄されたシリカゲルは、通常、250~400のSAを有し、かつ1.4~1.7cc/gmのPVを備えるエアロゲルを形成する。pH 3~5、50~65℃で15~25時間にわたって洗浄したシリカゲルは、700~850のSAを有し、及び0.6~1.3のPVを備えるエアロゲルを形成する。本発明では、細孔容積の測定はN2多孔性解析(ASTM D 4222083)によりなされ、かつ、表面積の測定はBET法によりなされる(ASTM D 3663-84又はDIN 66131)。」
(摘記ウ)
「【0061】
これらの実施例では、シリカが不規則性無機酸化物として利用される。しかしながら、本明細書に記載の物理特性を有している場合に限り、任意の無機酸化物を使用することができる。実施例において使用するために選択される本発明のシリカ試料(試料1、2及び3)は、次の手順を用い作製される:オーバーヘッドスターラーを取り付けた反応器に19%硫酸溶液190gを入れ、5℃に冷却した。別個に、263gのケイ酸ナトリウム溶液(22.9% SiO2)もまた5℃に冷却した。続いて、ポンプにより、ケイ酸の全量が15分間で添加されるような速度でケイ酸ナトリウム溶液を硫酸溶液に加えた。添加中、温度は5℃に 維持した。添加の完了後、反応器は室温に加温して、撹拌せずに内容物をゲル化させた。ゲル化後、ゲル塊を小片に切り出し、反応時に形成された硫酸ナトリウムを除去する目的で水中に浸漬させた。洗浄水を抜き、ゲルに新しい水を加える度に、物質中に残存する硫酸ナトリウム濃度を定期的に確認した。濃度が1%未満に低下したときにゲルを水に懸濁し、液体のpHをpH=9.7に調整し、溶液を67℃に加熱した。温度は20時間20分維持した。加熱時間の終了時に、ゲルを濾過により回収し、ゲルの湿分含量が約5重量%未満になるまで160℃の炉で乾燥させた。このようにして得られたシリカゲルは325m2/gの窒素BET表面積及び1.24cc/gの窒素細孔容積を有した。推定される円筒細孔及び使用する等式:細孔径(オングストローム)=40000XPV/SA(この物質は153オングストロームの細孔径を示す)。続いて、ACMを利用して所望の粒径(75ミクロン)になるようゲルを粉砕し、次に所望の細孔径に達するまで、300℃のオートクレーブで熱水処理した。
【0062】
以下表1に示すシリカ粒子を本発明の実施例に使用した。
【0063】
【表1】
」
(摘記エ)
「【0002】
有効な薬剤生物学的利用能のために好適な組成物を開発する試行が継続されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、1種以上の不規則性無機酸化物と、それに組み込まれた生物学的に活性な少なくとも1種の物質とを含む薬剤放出組成物の開発により、有効な薬剤生物学的利用能のために好適な組成物を開発する試行を継続する。一実施形態例では、本発明の組成物は生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含み、無機酸化物は、約2.5nm~約15.0nm以上の平均細孔径を有する細孔と、窒素ポ ロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g~約3.0cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、窒素吸着により測定したときに、約300m2/g~1500m2/g以上のBET表面積と、を含む不規則性多孔質材料を含む。いくつかの実施形態では、不規則性多孔質材料は約5.0~約10.0nmの平均細孔径を有する細孔と、窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.7~約2.5cc/gの細孔容積を有する細孔と、窒素吸着により測定したときに、約400~約1400m2/g以上のBET表面積と、を有する。
【0004】
他の実施形態では、無機酸化物は、少なくとも約0.4、少なくとも約0.5、少なくとも約0.6、少なくとも約0.7、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、少なくとも約1.0、又は少なくとも約1.1の細孔径分布相対スパンを有し得る。更なる実施形態では、無機酸化物は、少なくとも約0.4、少なくとも約0.5、少なくとも約0.6、少なくとも約0.7、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、少なくとも約1.0、又は少なくとも約1.1、最大で約2.0の細孔径分布相対スパンを有し得る。
【0005】
別の実施形態例では、本発明は、生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む組成物を対象とし、無機酸化物は不規則性多孔質材料を含み、細孔容積が約0.5cc/g超に増加するにつれて、表面積は、(1)細孔容積1.1cc/g超において、300m2/gに0.1cc/gの増加あたり約27m2/gを加えた合計として表される最低表面積量から、(2)細孔容積0.5cc/g超において、800m2/gに0.1cc/gの増加あたり約160m2/gを加えた合計として表される最大表面積量の範囲にわたる。
【0006】
更なる実施形態例では、本発明は、生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む組成物を含み、無機酸化物は異なっていて区別できる2以上のタイプの不規則性多孔質材料を含み、生物学的に活性な物質についての複合溶解速度プロファイル(composite dissolution rate profile)を形成するように、区別できるそれぞれのタイプの不規則性多孔質材料が生物学的に活性な物質についての1つの特有の溶解速度プロファイルを与える。
【0007】
別の実施形態例では、本発明は、医薬的投与量の少なくとも1種の製剤成分と、生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む薬剤放出組成物とを含む医薬組成物を目的とし、無機酸化物は、約2.5nm~約15.0nm以上の平均細孔径を有する細孔と、窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g~約3.0cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、窒素吸着により測定したときに、約300m2/g~約1400m2/g以上のBET表面積と、を含む不規則性多孔質材料を含む。他の実施形態では、無機酸化物は、少なくとも約0.4、少なくとも約0.5、少なくとも約0.6、少なくとも約0.7、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、少なくとも約1.0、又は少なくとも約1.1の細孔径分布相対スパンを有し得る。更なる実施形態では、無機酸化物は、少なくとも約0.4、少なくとも約0.5、少なくとも約0.6、少なくとも約0.7、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、少なくとも約1.0、又は少なくとも約1.1、最大で約2.0の細孔径分布相対スパンを有し得る。
【0008】
別の実施形態例では、本発明は、医薬的投与量の少なくとも1種の製剤成分と、生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む薬剤放出組成物とを含む医薬組成物を目的とし、無機酸化物は不規則性多孔質材料を含み、細孔容積が約0.5cc/g超に増加するにつれて、表面積は、(1)細孔容積1.1cc/g超において、300m2/gに0.1cc/gの増加あたり約27m2/gを加えた合計として表される最低表面積量から、(2)細孔容積0.5cc/g超において、800m2/gに0.1cc/gの増加あたり約160m2/gを加えた合計として表される最大表面積量の範囲にわたる。
【0009】
更なる実施形態例では、本発明は、医薬的投与量の少なくとも1種の製剤成分と、生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む薬剤放出組成物とを含む医薬組成物を含み、無機酸化物は、異なっていて区別できる2以上のタイプの不規則性多孔質材料を含み、生物学的に活性な物質についての複合溶解速度プロファイルを形成するように、区別できるそれぞれのタイプの不規則性多孔質材料が生物学的に活性な物質についての1つの特有の溶解速度プロファイルを与える。
【0010】
本発明は、更に、本開示の組成物の製造方法も目的とする。一実施形態例では、本発明の組成物の製造方法は、生物学的に活性な少なくとも1種の物質を無機酸化物に組み込むことを含み、無機酸化物は、約25オングストローム~約150オングストロームの平均細孔径を有する細孔と、窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、窒素吸着により測定したときに、約300m2/g以上のBET表面積と、を含む不規則性多孔質材料を含む。いくつかの実施形態では、方法は、生物学的に活性な少なくとも1種の物質と無機酸化物とを含む薬剤放出組成物を、医薬的投与量の少なくとも1種の製剤成分と組み合わせて医薬組成物を形成することを含む。
【0011】
別の実施形態例では、本発明は、生物学的に活性な少なくとも1種の物質を無機酸化物に組み込むことによる組成物の製造方法を目的とし、無機酸化物は不規則性多孔質材料を含み、細孔容積が約0.5cc/g超に増加するにつれて、表面積は、(1)細孔容積1.1cc/g超において、300m2/gに0.1cc/gの増加あたり約27m2/gを加えた合計として表される最低表面積量から、(2)細孔容積0.5cc/g超において、800m2/gに0.1cc/gの増加あたり約160m2/gを加えた合計として表される最大表面積量の範 囲にわたる。
【0012】
更なる実施形態例では、本発明は、生物学的に活性な少なくとも1種の物質を無機酸化物に組み込むことによる組成物の作製方法を包含し、無機酸化物は、異なっていて区別できる2以上のタイプの不規則性多孔質材料を含み、生物学的に活性な物質についての複合溶解速度プロファイルを形成するように、区別できるそれぞれのタイプの不規則性多孔質材料が生物学的に活性な物質についての1つの特有の溶解速度プロファイルを与える。
【0013】
本発明は、更に、本開示の組成物の使用方法も目的とする。一実施形態例では、本発明の組成物を使用する方法は、生物学的に活性な物質を患者に送達するよう組成物を患者に投与することを含み、組成物は、生物学的に活性な少なくとも1種の物質及び無機酸化物を含み、無機酸化物は、約2.5nm~約15.0nm以上の平均細孔径を有する細孔と、窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g~約3.0cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、窒素吸着により測定したときに、約300m2/g~約1400m2/g以上のBET表面積と、を含む不規則性多孔質材料を含む。別の実施形態例では、本発明の組成物は、結晶形態の同一の生物学的に活性な物質の溶解速度の少なくとも約2倍の、生物学的に活性な物質の試験管内溶解速度を有する。更なる実施形態では、生物学的に活性な物質の試験管内溶解速度は、結晶形態の生物学的に活性な物質の溶解速度の少なくとも約2~約10倍、又は約3~約10倍、又は約4~約10倍、又は約5~約10倍である。
【0014】
別の実施形態例では、本発明は、生物学的に活性な物質を患者に送達するよう患者に組成物を投与することによる組成物の使用方法を目的とし、組成物は、生物学的に活性な少なくとも1種の物質及び無機酸化物を含み、無機酸化物は不規則性多孔質材料を含み、細孔容積が約0.5cc/g超に増加するにつれて、表面積は、(1)細孔容積1.1cc/g超において、300m2/gに0.1cc/gの増加あたり約27m2/gを加えた合計として表される最低表面積量から、(2)細孔容積0.5cc/g超において、800m2/gに0.1cc/gの増加あたり約160m2/gを加えた合計として表される最大表面積量の範囲にわたる。」
(摘記オ)
「【0032】
本発明は、生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む組成物を目的とし、無機酸化物は不規則性多孔質材料を含む。薬剤生物学的利用能は、溶解性に乏しく生物学的に活性な多くの物質に関する関心事であり、本発明はこの問題の解決をもたらす多様な実施形態に関する。本発明の出願者らは、特定の組み合わせの物理的特性を有する不規則性多孔質材料が非常に優れた薬剤生物学的利用能特性をもたらすことを発見している。特に、不規則性多孔質材料であって、(i)約2.5nm~約15.0nmの平均細孔径を有する細孔と、(ii)窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g~約3.0cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、(iii)窒素吸着により測定したときに、約300m2/g以上のBET表面積とを含む、不規則性多孔質材料は、予想外にも非常に優れた薬剤生物学的利用能特性をもたらす。更に、不規則性多孔質材料であって、(i)約50~約100オングストロームの平均細孔径を有する細孔と、(ii)窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.7~約2.5cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、(iii)窒素吸着により測定したときに、約400~約1400m2/g以上のBET表面積とを含む、不規則性多孔質材料は、予想外にもより非常に優れた薬剤生物学的利用能特性をもたらす。実施形態例では、不規則性多孔質材料は、不規則性多孔質材料の重量に基づき、4重量%超、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、以上の強熱減量を有する。更なる実施形態例では、不規則性多孔質材料は、細孔容積を有する。
【0033】
他の実施形態では、無機酸化物は、少なくとも約0.4、少なくとも約0.5、少なくとも約0.6、少なくとも約0.7、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、少なくとも約1.0、又は少なくとも約1.1の細孔径分布相対スパンを有し得る。更なる実施形態では、無機酸化物は、少なくとも約0.4、少なくとも約0.5、少なくとも約0.6、少なくとも約0.7、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、少なくとも約1.0、又は少なくとも約1.1、最大で約2.0の細孔径分布相対スパンを有し得る。
【0034】
一実施形態例では、本発明は、生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む組成物を目的とし、無機酸化物は、(i)約2.5nm~約15.0nmの平均細孔径を有する細孔と、(ii)窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g~約2.5cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、(iii)窒素吸着により測定したときに、約300m2/g~約1400m2/g以上のBET表面積とを含む、不規則性多孔質材料を含む。更なる実施形態では、不規則性多孔質材料は、約3.0nm~約14.0nm、又は約3.0nm~約13.0nm、又は約4.0nm~約12.0nm、又は約4.0nm~約11.0nm、又は約5.0nm~約10.0nmの平均細孔径を有する。別の実施形態例では、不規則性多孔質材料は、少なくとも約0.5cc/g、又は少なくとも約0.6cc/g、又は少なくとも約0.7cc/g、又は少なくとも約0.8cc/g、又は少なくとも約0.9cc/g、又は少なくとも約1.0cc/g、又は少なくとも約0.5cc/g、最大で約3.0cc/gの細孔容積を有する。更なる実施形態では、不規則性多孔質材料は、約350m2/g~約1400m2/g以上、又は約400m2/g~約1300m2/g以上の表面積(すなわち、窒素吸着により測定したときのBET表面積)を有する。他の実施形態では、無機酸化物は、少なくとも約0.4、少なくとも約0.5、少なくとも約0.6、少なくとも約0.7、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、少なくとも約1.0、又は少なくとも約1.1の細孔径分布相対スパンを有し得る。更なる実施形態では、無機酸化物は、少なくとも約0.4、少なくとも約0.5、少なくとも約0.6、少なくとも約0.7、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、少なくとも約1.0、又は少なくとも約1.1、最大で約2.0の細孔径分布相対スパンを有し得る。
【0035】
いくつかの他の実施形態では、不規則性多孔質材料は、(i)約50オングストローム~約100オングストロームの平均細孔径と、(ii)約0.7cc/g~2.5cc/g以上の細孔容積と、(iii)約400m2/g~約1400m2/g以上の表面積とを有する。
【0036】
いくつかの他の実施形態では、本発明で使用される不規則性多孔質材料は、表面積に応じて変化する所望の細孔容積と、細孔容積に応じた所望の表面積とを有する。例えば、いくつかの望ましい実施形態では、不規則性多孔質材料の細孔容積が約0.5cc/g超に増加するにつれて、表面積は、(1)細孔容積1.1cc/g超において、300m2/gに0.1cc/gの増加あたり約27m2/gを加えた合計として表される最低表面積量から、(2)細孔容積0.5cc/g超において、800m2/gに0.1cc/gの増加あたり約160m2/gを加えた合計として表される最大表面積量の範囲にわたる。
【0037】
他の実施形態では、本発明で使用される不規則性多孔質材料はまた、約500m2/g~約1400m2/g以上、又は約600m2/g~約1200m2/g以上の比表面積も有する。
【0038】
本発明の組成物はまた、医薬組成物も目的とする。一実施形態例では、本発明は、医薬的投与量の少なくとも1種の製剤成分と、生物学的に活性な物質及び無機酸化物を含む薬剤放出組成物とを含む医薬組成物を目的とし、無機酸化物は、(i)約25オームストロング~約150オームストロングの平均細孔径を有する細孔と、(ii)窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、(iii)窒素吸着により測定したときに、約300m2/g以上のBET表面積とを含む、不規則性多孔質材料を含む。
【0039】
医薬組成物で使用するとき、無機酸化物は、望ましくは、(i)約40オングストローム~約100オングストロームであり、より望ましくは、約50オングストローム~約100オングストロームである平均細孔径と、(ii)約0.6cc/g~約2.5cc/g以上、より望ましくは、約0.7cc/g~約2.0cc/g以上の細孔容積と、(iii)約350m2/g~約1400m2/g以上、より望ましくは、約400m2/~約1200m2/g以上の表面積とを有する。
【0040】
更に、医薬組成物で使用するとき、無機酸化物は、望ましくは以下の基準により互いに対応する細孔容積及び表面積を有する:細孔容積が約0.5cc/g超に増加するにつれて、表面積は、(1)細孔容積1.1cc/g超において、300m2/gに0.1cc/gの増加あたり約27m2/gを加えた合計として表される最低表面積量から、(2)細孔容積0.5cc/g超において、800m2/gに0.1cc/gの増加あたり約160m2/gを加えた合計として表される最大表面積量の範囲にわたる。
【0041】
加えて、医薬組成物において使用するとき、無機酸化物は、望ましくは約500m2/g~約1400m2/g以上の比表面積を有し、より望ましくは、約600m2/g~約1200m2/g以上の比表面積を有する。」
(摘記カ)
「【0065】
以下の全ての実施例では、溶媒含浸によりシリカ材料にAPIが内包された。内包前、全てのシリカ材料は150℃で少なくとも1時間乾燥させて、物理的に吸着している水を除去した。続いて、シリカ材料を室温に冷却させた後、手作業により濃(20~150mg/mL)APIの塩化メチレン溶液を浸含させた。含浸後、サンプルを少なくとも4時間減圧(0.1kPa(10-3bar))下で乾燥させて溶媒を除去した。
【0066】
メタノールを用い、シリカ材料からAPIを抽出することにより、内包シリカ粉末中の総API含量を求めた。正確に秤量したAPI内包シリカを20mL容量のフラスコに量り入れ、メタノールにより用量に合わせた。1時間平衡化させた後、濾過によりシリカを除去し、高速液体クロマトグラフィーと紫外線検出(HPLC-UV)を用い、APIについて濾液をアッセイした。
【0067】
以下の実施例では、示差走査熱量測定(DSC)を用い確認された通り、全ての内包シリカ粉末は結晶APIを欠いていた。
【0068】
全ての例で、正確に秤量したAPI内包シリカを一定量の放出媒質に分散させた後、所定の時点で複数のサンプルを回収することにより、試験管内溶解試験を実施した。全てのサンプルを0.45μmフィルターで濾過し、シリカ粒子又は沈殿薬剤を分離した後、HPLCを利用して、API濃度について濾液をアッセイした。具体的な条件(投与量、培地体積、培地組成の観点における)は、それぞれ個別の実施例について特異的なものである。
【0069】
実施例1-過飽和条件下における、絶食時小腸内擬似腸液(FaSSIF)中への低水溶性モデルの化合物(ダナゾール)の放出
この実施例では、以下表2に掲載するダナゾールを内包させたシリカ粉末を、過飽和条件下(すなわち、内包させたダナゾールの完全な放出が、平衡溶解度が過剰である濃度の生成と関連づけられる条件下)でFaSSIFに分散させた。2mgダナゾール投与量に相当する量の内包シリカ粉末を40mLのFaSSIFに分散させた。
【0070】
【表2】
【0071】
図1は上掲の表2に示す通りのシリカ/ダナゾールの組み合わせ例からのダナゾールの経時的な試験管内放出プロファイルについてのグラフを示す。図1に示す通り、実施例1は、試験した3種のシリカ材料の全てが、FaSSIFにおける平衡溶解度よりも十分に過剰な濃度でダナゾールを放出する能力を有していたことを実証する(図1中点線により示す)。
【0072】
実施例2-過飽和条件下での擬似胃液(SGF)中への低水溶性モデル化合物(イトラコナゾール)の放出
この実施例では、以下表3に掲載するイトラコナゾールを内包させたシリカ粉末を、過飽和条件下(すなわち、内包させたイトラコナゾールの完全な放出が平衡溶解度が過剰である濃度の生成と関連づけられる条件下)でSGFに分散させた。2mgイトラコナゾール投与量に相当する量の内包シリカ粉末を20mLのSGFに分散させた。
【0073】
【表3】
【0074】
図2は上掲の表3に示す通りのシリカ/イトラコナゾールの組み合わせ例からのイトラコナゾールの経時的な試験管内放出プロファイルについてのグラフを示す。図2に示す通り、実施例2は、試験した3種のシリカ材料の全てが、SGFにおける平衡溶解度よりも十分に過剰な濃度でイトラコナゾールを放出する能力を有していたことを実証する(図2中点線により示す)。
【0075】
実施例3-平衡濃度未満の条件下における、絶食時小腸内擬似腸液(FaSSIF)中への低水溶性モデルの化合物(フェノフィブラート)の放出
この実施例では、以下表4に掲載するフェノフィブラートを内包させたシリカ粉末を、平衡濃度未満の条件下(すなわち、内包させたフェノフィブラートの完全な放出が平衡溶解度未満である濃度の生成と関連づけられる条件下)でFaSSIFに分散させた。0.8mgフェノフィブラート投与量に相当する量の内包シリカ粉末を20mlのFaSSIFに分散させた。
【0076】
【表4】
【0077】
図3は上掲表4に示す通りのシリカ/フェノフィブラートの組み合わせ例からのフェノフィブラートの経時的な試験管内放出プロファイルのグラフを示す。図3に示す通り、実施例3は、試験した3種のシリカ材料の全てが、結晶形態のフェノフィブラートをFaSSIFに溶解させるよりも十分に過剰な濃度でフェノフィブラートを放出する能力を有していたことを実証する(図3中下方の線により示す)。
【0078】
実施例4:複合放出プロファイルを得るための2種類のシリカの配合
この実施例では、以下表5に掲載するダナゾールを内包させたシリカ粉末の混合物を、0.5% Tween 80(pH 6.5)を添加したリン酸緩衝液を含む媒質に分散させた。1mgダナゾール投与量に相当する量の内包シリカ粉末を32mlの媒質に分散させた。
【0079】
最初にそれぞれのシリカ材料(シリカ2及びシリカ3)にダナゾールを内包させた後、両方の負荷シリカ粉末を1:1比で配合した。得られる配合物の放出プロファイルは、それぞれの成分の放出プロファイルを反映する(図4)。シリカ材料のこのような組み合わせにより、用途に関する必要事項に従って、放出プロファイルを微調整することができる。
【0080】
【表5】
【0081】
図4は上掲の表5に示す通りの異なる2種類のシリカ/ダナゾールの組み合わせ混合物例からのダナゾールの経時的な試験管内放出プロファイルのグラフを示す。図4に示す通り、実施例4は、2種類のシリカを組み合わせて使用することにより、新規の濃度-時間プロファイルを得ることができる方法を例示する。」
(摘記キ)
「【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
」
2 理由1(実施可能要件)について
(1)判断の前提
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載について、いわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を製造し、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤を行う必要なく、その物を製造し、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならない。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているか否かにつき、上記観点で検討を行う。
(2)判断
ア 本願発明について
本願発明は、「組成物」という物の発明であり、
「約10.0nm以下の平均細孔径を有する細孔と、
窒素ポロシメトリーにより測定したときに、約0.5cc/g以上の細孔容積を有する細孔と、
少なくとも約0.4の細孔径分布相対スパンと、
窒素吸着により測定したときに、約600m2/g以上のBET表面積と、を有する不規則性多孔質シリカ」
を含む「無機酸化物」を、その構成成分として含むものである。
よって、物の発明としての本願発明について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているというためには、本願明細書及び図面の記載、並びに、出願時の技術常識に基づいて、当業者が、過度の試行錯誤を伴うことなく、上記「組成物」を製造し、使用することができることが必要であり、そのためには、その構成成分に含まれる、上記の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積の各条件を満たす不規則性多孔質シリカを、当業者が過度の試行錯誤を伴うことなく製造する、又は、入手することができる程度の具体的な記載が、発明の詳細な説明になければならない。
イ 実施例で使用されるシリカ粒子の製造方法について
本願明細書の発明の詳細な説明の実施例には、上記摘記ウにあるように、5℃の冷却下で、19%硫酸溶液190gに、263gのケイ酸ナトリウム溶液(22.9% SiO2)を加え、添加の完了後、反応器を室温に加温して、撹拌せずに内容物をゲル化させたこと、反応時に形成された硫酸ナトリウムを除去するためにゲル塊を水中に浸漬させ、硫酸ナトリウム濃度が1%未満に低下したときにゲルを水に懸濁し、液体のpHはpH=9.7、溶液の温度は67℃としたこと、その際の温度は20時間20分維持したこと、回収したゲルを湿分含量が約5重量%未満になるまで160℃の炉で乾燥させ、得られたシリカゲルは325m2/gの窒素BET表面積及び1.24cc/gの窒素細孔容積を有していたこと、当該シリカゲルに対して、所望の細孔径に達するまで、300℃のオートクレーブで熱水処理を行うことで、表1に示される試料1、2、3のシリカ粒子を取得したことが記載されている。上記表1にはシリカ粒子の細孔分布相対スパンの値は示されていないが、本願明細書【0024】(上記摘記ア)には、「本明細書で使用するとき、用語「不規則性多孔質材料」は、細孔径分布が、本明細書において定義される通りの0.4超の相対スパンを有するよう、均一ではない細孔径分布(すなわち、細孔径分布が非常に広範にわたり、事実上多峰性である)を有する多孔質粒子を指す。」と記載されており、本願発明において規定される細孔分布相対スパンの範囲は、不規則性多孔質材料が必然的に備えている程度のものであると解し得るところ、上記摘記ウに記載の工程を経て得られたシリカ粒子は、【0061】にあるように、不規則性のものであることから、これらが本願発明において規定される細孔分布相対スパンの値を具備することは、当業者が理解可能な事項といえる。
そして、試料1はBET表面積の値が本願発明において規定される範囲から外れるものである一方、試料2及び3は本願発明において規定する条件を満たすシリカ粒子である。しかし、本願明細書の発明の詳細な説明には、表1に示されるシリカ粒子の取得の際の熱水処理の際の温度以外の条件は明示されておらず、試料1、2、3がどのように作り分けられたのかも、判然としない。そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の範囲内の不規則性多孔質シリカと、本願発明の範囲から外れる不規則性多孔質シリカとを作り分けることが可能となる程度の記載すらなされていないと言わざるを得ない。
また、オートクレーブによる熱水処理に際して調節すべき条件としては、温度以外にも、時間や圧力等が挙げられるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、これらの条件をどのように設定すべきかについての教示が一切なされていない。所定の物理的特性を有するシリカゲルから、本願発明において規定する条件を充足するシリカ粒子を得るための熱水処理条件が、当該分野における技術常識であるともいえない。
そうすると、本願明細書を参照の上、当業者が表1に示されるシリカ粒子を追試的に作成し、本願発明の実施を試みる場合には、表1の物理的特性を再現するに適した熱水処理条件を実験的に探索する必要があるといえる。斯かる実験的検討もまた、当業者に期待し得る程度を越える、過度の試行錯誤を要する事項に他ならない。
ウ 実施例で使用されるシリカ粒子以外の「不規則性多孔質シリカ」による本願発明の実施の可否
本願明細書の発明の詳細な説明には、上記摘記ア、イのとおり、不規則性多孔質材料は、溶液重合法、連続式火炎加水分解法、ゲル法、沈殿法などを含む任意の公知のプロセスによって形成することができ、その形態は、ゲル、ヒュームド、コロイド状などであってよく、オートクレーブ、超臨界流体抽出、気流乾燥、エッチング等の加工法よる改質も可能であること(上記摘記ア、イ)、不規則性多孔質シリカゲルはケイ酸ナトリウムのようなアルカリ金属珪酸塩水溶液を、硝酸又は硫酸などの強酸と混合することにより調製できること、純水な無機酸化物を得るために、新しく形成されたヒドロゲルを、連続水流に単に浸漬することにより洗浄して望ましくない塩類を除去することが記載され、ゲルを形成した後の塩類を除去する工程において、pH、温度、洗浄水の持続時間を調節することで、得られるシリカゲルの表面積(SA)及び細孔容積(PV)といった物理的特性が影響を受けるという、一般的なシリカゲルの製法に関する記載もなされている。
しかし、pH、温度、洗浄水の持続時間、それによって得られるエアロゲルの表面積(SA)及び細孔容積(PV)として例示される範囲については、「65~90℃、pH 8~9で15~36時間にわたって洗浄されたシリカゲルは、通常、250~400のSAを有し、かつ1.4~1.7cc/gmのPVを備えるエアロゲルを形成する」(上記摘記イ)、もしくは、「pH 3~5、50~65℃で15~25時間にわたって洗浄したシリカゲルは、700~850のSAを有し、及び0.6~1.3のPVを備えるエアロゲルを形成する」(上記摘記イ)と記載されており、ここに例示されるエアロゲルの物理的特性の範囲は、実施例に開示されるわずか1点の値に対して広範なものである。そして、中間体として得られるエアロゲルの物理的特性が異なれば、後続の熱水処理において採用すべき条件も種々変わり得るといえる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、325m2/gの窒素BET表面積及び1.24cc/gの窒素細孔容積を有するシリカゲルに対して、300℃のオートクレーブで熱水処理を行う以外に、具体的なシリカ粒子の製造条件が開示されていない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、塩類除去工程におけるpH、温度、洗浄水の持続時間をどのように変更すれば、エアロゲルの表面積(SA)及び細孔容積(PV)がどのような傾向をもって変動するのか、所定の物理的特性を有するエアロゲルに対して熱水処理を行う際に、いずれの条件をどのように調節すれば、最終的に得られるシリカの平均細孔径、細孔容積及びBET比表面積の値を、本願発明において規定される範囲内に収められるのかについてのよりどころとなるような何らの記載も示唆もされておらず、これらの点が、当該分野における技術常識であったともいえない。
そうすると、当業者が、本願明細書を参照の上、表1に示される以外のシリカ粒子を用いて本願発明の実施を試みる場合にも、所望の物理的特性を実現するに適したエアロゲルを得るための条件、その後の熱水処理条件を逐一検討する作業が必要になるといえる。斯かる実験的検討もまた、当業者に期待し得る程度を越える、過度の試行錯誤を要する事項に他ならない。
エ 小括
以上によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を伴うことなく、本願発明の「組成物」を製造し、使用することができる程度の具体的な記載があるとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(3)請求人の主張について
令和3年1月12日提出の意見書(3-1)理由1において請求人は、本願明細書の【0046】~【0049】では、多孔質シリカをどのようにして製造するかが具体的に説明され、特に、【0047】では、pH、温度、及び水洗浄の時間がどのように、シリカの物性、例えば表面積及び孔容積に影響するのかを説明し、一定の結果を達成するための温度、pH及び時間について、特定の範囲を与えていること、上記意見書に対する手続補足書に添付した参考資料1、2でも、多孔質シリカをどのように製造するかが説明されていることを挙げたうえで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすものである旨、主張している。
しかし、上記(2)ウでも説示したように、本願明細書【0047】(上記摘記イ)には、ゲルを形成した後の塩類を除去する工程において、pH、温度、洗浄水の持続時間を調節することで、得られるシリカゲルの表面積(SA)及び細孔容積(PV)といった物理的特性が影響を受けるという、一般的なシリカゲルの製法に関する記載がなされているものの、pH、温度、洗浄水の持続時間、それによって得られるエアロゲルの表面積(SA)及び細孔容積(PV)として例示される範囲は、実施例に開示されるわずか1点の値に対して広範なものである。そして、中間体として得られるエアロゲルの物理的特性が異なれば、後続の熱水処理において採用すべき条件も種々変わり得るところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、所定の物理的特性を有するエアロゲルに対して熱水処理を行う際に、いずれの条件をどのように調節すれば、最終的に得られるシリカの平均細孔径、細孔容積及びBET比表面積の値を、本願発明において規定される範囲内に収められるのかについてのよりどころとなるような何らの記載も示唆もされていない。
また、上記手続補足書に添付された参考資料1の第1557~1568頁、参考資料2の第472~475頁の記載は、一般的なシリカゲルの製法に関する記述に留まるものであるし、参考資料1の第1569~1570頁における熱水処理についての説明も、本願発明において規定される平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積の各条件を満たすための指針を与えるものではない。現に、参考資料1の第1570頁第23図に示されるBET表面積の値は、本願発明で規定される範囲から外れるものである。
してみれば、請求人の上記主張は、採用できない。
3 理由2(サポート要件)について
(1)判断の前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識 できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、本願の特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するものといえるか否かを、上記観点で検討する。
(2)判断
ア 本願発明の課題について
本願明細書には、上記摘記エのとおり、【0002】に、当該分野では有効な薬剤生物学的利用能のために好適な組成物を開発する試行が継続されていることが記載され、【課題を解決するための手段】【0003】には、本発明は、1種以上の不規則性無機酸化物と、それに組み込まれた生物学的に活性な少なくとも1種の物質とを含む薬剤放出組成物の開発により、有効な薬剤生物学的利用能のために好適な組成物を開発する試行を継続するものであることが記載されている。
そして、本願明細書の【0032】(上記摘記オ)には、薬剤生物学的利用能とは、溶解性に乏しく生物学的に活性な多くの物質に関する関心事であり、本発明はこの問題の解決をもたらす多様な実施形態に関するものであって、本発明の出願者らは、特定の組み合わせの物理的特性を有する不規則性多孔質材料が非常に優れた薬剤生物学的利用能特性をもたらすことを発見しているとの記載がなされている。
これらの記載に照らせば、本願発明は、「生物学的に活性な物質の溶解性を好適なものとすること」を課題とするものであると認められる。
そして、本願発明は、細孔の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積を数値範囲で規定した不規則性多孔質シリカを含む無機酸化物、生物薬剤分類システムの第II群及び第IV群から選択される少なくとも1つの物質である生物学的に活性な物質を含む組成物に係るものである。
そうすると、本願発明に係る請求項1の記載がサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明に、不規則性多孔質シリカの細孔の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積の数値範囲と、上記生物学的に活性な物質の溶解性との関係の技術的な意味が、特許出願時において具体例の開示がなくとも当業者が理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、不規則性多孔質シリカの細孔の各特性が上記範囲内にあれば、所望の溶解性が得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載することが要されるといえる。
イ 本願明細書の実施例の開示内容について
上記摘記カ、キの【0069】~【0074】、図1、図2に開示される実施例1、2では、ダナゾール、イトラコナゾールを内包したシリカ1~3が、平衡溶解度よりも過剰な濃度でこれらの薬物を放出する能力を有していたとの記載がなされているが、通常、試験管内での放出プロファイルは、所定時点における薬物の放出量を試験に供した薬物の全量にて除することで得られる放出割合に基づいて描かれるものであり、ここでいう放出割合と平衡溶解度とは、異なる算出法に基づいて得られる値であることから、両者を同列に比較衡量することはできない。そうすると、図1、2のように、放出プロファイルを示すグラフ中に平衡溶解度の値を示すことは妥当とはいえず、ここに開示される実験結果から、生物学的に活性な物質をシリカ1~3に内包することで、好適な溶解性がもたらされたと結論づけることはできない。
また、上記摘記カ、キの【0075】~【0077】、図3には、シリカ1~3に内包させたフェノフィブラートが、絶食時小腸内疑似腸液中において、結晶形態のフェノフィブラートを溶解させるよりも十分な濃度で放出するとの記載もなされているが、ここでいう結晶形態のフェノフィブラートのデータもまた、如何なる算出法に基づいて得られた値であるのかが判然とせず、これがシリカ1~3に内包させたフェノフィブラートの放出割合と同列に比較衡量可能な値であると直ちに解することはできない。よって、実施例3の開示内容をもってしても、生物学的に活性な物質をシリカ1~3に内包することで、好適な溶解性がもたらされると結論づけることはできない。上記摘記カの【0078】~【0079】に示される結果は、シリカ2に内包させたダナゾールと、シリカ3に内包させたダナゾールとを併せて用いることで、両者を単独で使用した場合とは異なる放出プロファイルが得られることを示すにすぎないものであり、ダナゾールをシリカ2、3に内包させることで、溶解性が好適なものとなることを裏付けるものとはいえない。
そうすると、本願明細書に開示される実施例をもって、本願請求項1に記載された不規則性多孔質シリカを用いることで、生物学的に活性な物質の溶解性を好適なものとするという課題が解決できるとはいえない。
ウ 無機酸化物の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積と、課題との関係について
本願明細書の発明の詳細な説明には、上記摘記エのとおり、上記課題を解決するための手段として、無機酸化物の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積を所定範囲内に収めることが記載されている。また、斯かる数値範囲を採用することの有効性を示すための具体例としては、上記摘記カ、キのとおり、シリカ1~3に内包させたダナゾール、イトラコナゾール、フェノフィブラートの試験管内放出プロファイルが記載されている。ここで、上記摘記カでいうシリカ1~3とは、上記摘記ウの表1に示されるものであるが、これらのうち、本願発明で規定する平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積についての要件を充足するものは、シリカ2及び3のみである。
しかしながら、上記2(2)イで説示したように、シリカ1~3に対応する試料1~3は、当業者が過度の試行錯誤を伴うことなく製造又は入手し得たものとはいえない。また、シリカ2、3を用いることで、生物学的に活性な物質の溶解性を好適なものとするという課題が解決できるとはいえない点は、上記イで説示したとおりである。
仮に、上記シリカ2及び3を当業者が製造又は入手することができ、これによって生物学的に活性な物質の溶解性を好適なものとするという課題が解決できたとしても、本願請求項1に記載される不規則性多孔質シリカは、平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積の数値範囲で画定されるものであり、シリカ2、3以外のものをも広範に包含していると捉えられる。そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、生物学的に活性な物質の溶解性が、本願請求項1に記載される無機酸化物の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン、BET表面積を基準として画されることについての十分な記載はなされていない。上記摘記オにも、無機酸化物において採用可能な平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン、BET表面積の範囲は記載されているが、これらの数値範囲を採用することで、何故生物学的に活性な物質の溶解性が好適なものとなるのかについての合理的な説明は見いだせない。
また、本願出願時において、無機酸化物における平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン、BET表面積と、生物学的に活性な物質の溶解性との関係性を、具体例の開示がなくとも当業者が理解するに足りる技術常識があったともいえない。そうすると、無機酸化物の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン、BET表面積の値が本願発明で規定される範囲内にありさえすれば、上記生物学的に活性な物質の好適な溶解性という課題の解決が可能となることを当業者が推認できるとはいえない。
よって、本願請求項1に記載された不規則性多孔質シリカのうち、シリカ2、3以外のものを用いた場合には、生物学的に活性な物質の溶解性を好適なものとするという課題が解決できるとはいえない。
エ 「前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物に組み込まれている」という発明特定事項について
本願請求項1では、「前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物に組み込まれている」との記載がなされているが、当該発明特定事項と生物学的に活性な物質の溶解性との関係性を示す記載を本願明細書の発明の詳細な説明に見いだすことはできない。また、「前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物に組み込まれている」という構成を採用することで、生物学的に活性な物質の溶解性が好適なものとなる点が、本願出願当時の技術常識であったともいえない。
そして、本願明細書の実施例を参照すると、上記摘記カの【0065】~【0067】のとおり、溶媒含浸法にて、結晶形態を欠くように生物学的に活性な物質を内包させたシリカを用いた実施例が示されるのみである。
ここで、結晶形態の薬物よりも非晶質形態の薬物の方が高い溶解性を示すことは、当該分野における技術常識である(要すれば、国際公開第2006/064906号の[0008]~[0010]、特開2009-185042号公報の【0066】を参照)。そうすると、仮に、本願明細書に開示される実施例において、生物学的に活性な物質の高い溶解性が実現されているとしても、斯かる効果は、本願請求項1に記載された条件を充足する無機酸化物と、特定の生物学的に活性な物質とを組成物に含有させることのみによってもたらされるものではなく、当該無機酸化物に、生物学的に活性な物質を溶媒含浸法にて内包させ、結晶形態を欠くものとすることでもたらされるものと解することもできる。
しかし、本願請求項1の「前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物に組み込まれている」という記載は、「組み込」まれた「生物学的に活性な物質」における形態、より具体的には結晶形態の有無までを特定するに足りるものではない。
してみると、本願請求項1において「前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物に組み込まれている」と特定したとしても、同請求項に記載された組成物のうち、生物学的に活性な物質を無機酸化物に溶媒含浸法にて内包させ、結晶形態を欠くものとする以外の態様としたものは、生物学的に活性な物質の溶解性を好適なものとするという課題が解決できるとはいえない。
オ 小括
以上によれば、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、当該発明の課題が解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(3)請求人の主張について
上記意見書(3-2)理由2において請求人は、次の点を挙げたうえで、本願の特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすものである旨、主張している。
ア 実施例1、2、図1、図2は、生物学的活性物質を内包させた本発明のシリカ材料が平衡溶解度よりも十分に過剰な濃度で当該生物学的活性物質を放出できたことを証明しており、実施例3、図3は、生物学的活性物質を内包させた本発明のシリカ材料が結晶形態の生物学的活性物質を溶解させるよりも十分に過剰な濃度で当該生物学的活性物質を放出できたことを証明している。
イ 上記(2)イにおける、薬物の放出割合と平衡溶解度に関して言えば、図1のY軸は放出された生物学的活性物質の百分率を示すものである。実施例1では、2mgダナゾール投与量に相当する内包シリカ粉末を40mlのFaSSIF中に分散させていることから、前記百分率は、2mgの投与量のうちの百分率であり、X軸は、時間経過で放出された百分率を示している。一方、点線は平衡状態において溶解している生物学的活性物質の量を示している。図1からわかるように、一定の平衡状態において、18%くらいの生物学的活性物質が溶解しており、時間経過で変化しない。
ウ 本願請求項1では「生物学的に活性な物質が如何なる形態にて組成物中に含まれるものであるのかについての規定は特段なされていない」との見解に対しては、「前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物中に組み込まれている」との記載を請求項1に追加した。
しかし、上記アの主張については、上記(2)ウで説示したとおり、本願請求項1に記載される不規則性多孔質シリカは、平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン及びBET表面積の数値範囲で画定されるものであり、請求人が主張する実施例1~3のシリカ以外のものをも広範に包含するものである。一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、生物学的に活性な物質の溶解性が、本願請求項1に記載される無機酸化物の平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン、BET表面積を基準として画されることについての十分な記載はなく、平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン、BET表面積の数値として特定の範囲内のものを採用することで、何故生物学的に活性な物質の溶解性が好適なものとなるのかについての合理的な説明も見いだせない。そして、本願出願時において、無機酸化物における平均細孔径、細孔容積、細孔径分布相対スパン、BET表面積と、生物学的に活性な物質の溶解性との関係性を、具体例の開示がなくとも当業者が理解するに足りる技術常識があったともいえない。
また、上記イの主張は、図1のY軸に表される放出された生物学的活性物質の割合と、平衡溶解度とが、互いに比較衡量可能な値であることを合理的に説明するに足りるものではない。放出された生物学的活性物質の百分率が時間経過とともに変化する値である一方、平衡溶解度は時間経過で変化しない値であることからみても、両者は異なる算出法に基づいて得られる値であるといえ、これらを比較衡量することが妥当であるとはいえない。
そして、上記ウの主張については、上記(2)エで説示したとおりであり、単に「前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物に組み込まれている」と記載するだけでは、「組み込」まれた「生物学的に活性な物質」が、結晶形態を欠くものである点を特定することにはならない。本願明細書に開示される実施例での効果が、無機酸化物に生物学的に活性な物質を溶媒含浸法にて内包させ、結晶形態を欠くものとすることでもたらされる可能性を否定できない以上、生物学的に活性な物質が結晶形態を欠くものであることを明示することなく、「前記生物学的に活性な物質が、前記無機酸化物に組み込まれている」と特定するだけでは、本願発明が、生物学的に活性な物質の溶解性を好適なものとするという課題を解決できるということにはならない。
してみれば、請求人の上記主張ア~ウは、いずれも採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-008301