特許拒絶査定不服審判
2019-002990
非常に低い抵抗材料で形成された、電気的デバイス、機械的デバイス、コンピュータデバイス、および/または、他のデバイス
- 審判番号
- 2019-002990
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-103000
- 請求日
- 2019年03月04日
- 審決日
- 2021年09月29日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アンバチュア インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】浜田 治雄
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 小川 将之
- 審判官 小田 浩
- 分類
- P18 .536-WZ (H01L) / P18 .537-WZ (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-103000「非常に低い抵抗材料で形成された、電気的デバイス、機械的デバイス、コンピュータデバイス、および/または、他のデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月28日出願公開、特開2017-175155〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は,2012年(平成24年)3月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年3月30日,米国)を国際出願日とする出願である特願2014-502854号の一部を平成29年5月24日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年12月21日付け :拒絶理由通知書
平成30年6月25日 :意見書の提出
平成30年10月29日付け :拒絶査定
平成31年3月4日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成31年4月12日 :手続補正書の提出
令和元年5月9日 :上申書の提出
令和2年3月4日付け :拒絶理由通知書
令和2年9月4日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年11月18日 :拒絶理由通知書(最後)
令和3年5月20日 :意見書,手続補正書の提出
第2 当審拒絶理由の概要
当審による令和2年11月18日付け拒絶理由通知書(最後)における拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という)のうち,拒絶の理由1~3の概要は,以下のとおりである。
1.本願の発明の詳細な説明は,本願発明の課題を解決する手段について明確かつ十分に説明されておらず,当業者が本願の請求項1~10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,本願は,特許法36条4項1号に規定する要件を充足しない。
2.本願の請求項1~10に係る発明は,本願発明の課題を解決しないものを含んでおり,発明の詳細な説明に記載したものではないから,本願は,特許法36条6項1号に規定する要件を充足しない。
3.本願の請求項1の「ab面」,本願の請求項5「前記バリア材料は,HTS材料を含む」,本願の請求項6の「ELR状態で動作する」との事項は,その意味が不明確であり,本願の請求項1~10に係る発明は明確でないから,本願は,特許法36条6項2号に規定する要件を充足しない。
第3 本件補正について
1.本件補正の内容
ア 令和3年5月20日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,本件補正前の請求項1~10を本件補正後の請求項1~10とする補正であって,本件補正前の請求項1~10及び本件補正後の請求項1~10は,以下のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
(ア)本件補正前の請求項1~10
「【請求項1】
変更されたHTS材料を含む第1導体と,
前記変更されたHTS材料を含む第2導体と,
前記第1導体と前記第2導体との間に配置されたバリア材料
とを含むジョセフソン接合であって,
前記変更されたHTS材料が,
面と結晶構造とを有するHTS材料であって,前記面は該結晶構造のab面に平行である,HTS材料の第1層と,
変更する材料は金属または前記金属の酸化物の実質的に純粋な結晶を含み,前記金属は,クロム,銅,ビスマス,コバルト,バナジウム,チタン,ロジウム,ベリリウム,ガリウム及びセレンを含む群から選択される前記第1層の前記HTS材料の前記面に結合された変更する材料の第2層
とを有することを特徴とするジョセフソン接合。
【請求項2】
前記バリア材料は,絶縁材料を含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項3】
前記バリア材料は,導電性材料を含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項4】
前記バリア材料は,半導電性材料を含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項5】
前記バリア材料は,HTS材料を含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項6】
前記変更されたHTS材料は,150Kよりも高い温度でELR状態で動作する請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項7】
前記バリアは,前記第1導体のHTS材料の前記第1層と,前記第2導体のHTS材料の前記第1層との間に配置されている請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項8】
前記バリアは,前記第1導体の変更する材料の前記第2層と,前記第2導体の変更する材料の前記第2層との間にさらに配置されている請求項7に記載のジョセフソン接合。
【請求項9】
前記変更されたHTS材料は,HTS材料の前記第1層に結合された基板をさらに含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項10】
複数のジョセフソン接合を含む回路であって,前記複数のジョセフソン接合のそれぞれが,
変更されたHTS材料を含む第1導体と,
前記変更されたHTS材料を含む第2導体と,
前記第1導体と前記第2導体との間に配置されたバリア材料
とを含み,
前記変更されたHTS材料は,
HTS材料の第1層を備え,前記HTS材料は面と結晶構造とを有し,前記面は前記結晶構造のab面に平行であり,
また,前記第1層の前記HTS材料の前記面に結合された変更する材料の第2層を備え,前記変更する材料は金属または前記金属の酸化物の実質的に純粋な結晶を含み,前記金属は,クロム,銅,ビスマス,コバルト,バナジウム,チタン,ロジウム,ベリリウム,ガリウム及びセレンを含む群から選択されることを特徴とする回路。」
(イ)本件補正後の請求項1~10
「【請求項1】
ELR材料の第1層と,
前記第1層上に結合された変更する材料の第2層とからなる第1導体と,
ELR材料の第1層と,
前記第1層上に結合された変更する材料の第2層とからなる第2導体と,
前記第1導体と前記第2導体との間に配置されたバリア材料
とを含むジョセフソン接合であって,
前記ELR材料は,
面と結晶構造とを有し,前記面は前記結晶構造のb面に平行であり,
前記変更する材料の第2層は,
前記第1層の前記ELR材料の前記面に結合され,ここで,前記変更する材料は金属または前記金属の酸化物の実質的に純粋な結晶を含み,前記金属は,クロム,銅,ビスマス,コバルト,バナジウム,チタン,ロジウム,ベリリウム,ガリウム及びセレンを含む群から選択される
ことを特徴とするジョセフソン接合。
【請求項2】
前記バリア材料は,絶縁材料を含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項3】
前記バリア材料は,導電性材料を含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項4】
前記バリア材料は,半導電性材料を含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項5】
前記バリア材料は,ELR材料を含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項6】
前記第1導体と,前記第2導体は150Kよりも高い臨界温度を有するELR材料を含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項7】
前記バリアは,前記第1導体のELR材料の前記第1層と,前記第2導体のELR材料の前記第1層との間に配置されている請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項8】
前記バリアは,前記第1導体の変更する材料の前記第2層と,前記第2導体の変更する材料の前記第2層との間にさらに配置されている請求項7に記載のジョセフソン接合。
【請求項9】
前記変更されたELR材料は,ELR材料の前記第1層に結合された基板をさらに含む請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項10】
複数のジョセフソン接合を含む回路であって,前記複数のジョセフソン接合のそれぞれが,
ELR材料の第1層と,
前記第1層上に結合された変更する材料の第2層とからなる第1導体と,
ELR材料の第1層と,
前記第1層上に結合された変更する材料の第2層とからなる第2導体と,
前記第1導体と前記第2導体との間に配置されたバリア材料
とを含み,
前記ELR材料は,
面と結晶構造とを有し,前記面は前記結晶構造のb面に平行であり,
前記変更する材料の第2層は,
前記第1層の前記ELR材料の前記面に結合され,ここで,前記変更する材料は金属または前記金属の酸化物の実質的に純粋な結晶を含み,前記金属は,クロム,銅,ビスマス,コバルト,バナジウム,チタン,ロジウム,ベリリウム,ガリウム及びセレンを含む群から選択されることを特徴とする回路。」
イ そして,請求項1に対する本件補正は,以下の補正事項をその内容とするものである。
(補正事項1-1)本件補正前の請求項1の「変更されたHTS材料を含む第1導体」を,本件補正後の請求項1の「ELR材料の第1層と,前記第1層上に結合された変更する材料の第2層とからなる第1導体」に補正すること。
(補正事項1-2)本件補正前の請求項1の「前記変更されたHTS材料を含む第1導体」を,本件補正後の請求項1の「ELR材料の第1層と,前記第1層上に結合された変更する材料の第2層とからなる第2導体」に補正すること。
(補正事項1-3)本件補正前の請求項1の「前記変更されたHTS材料が,面と結晶構造とを有するHTS材料であって・・・HTS材料の第1層と」を,本件補正後の請求項1の「前記ELR材料は,面と結晶構造とを有し」に補正すること。
(補正事項1-4)本件補正前の請求項1の「前記面は該結晶構造のab面に平行である」を,本件補正後の「前記面は前記結晶構造のb面に平行であり」に補正すること
(補正事項1-5)本件補正前の請求項1の「変更する材料は金属または前記金属の酸化物の実質的に純粋な結晶を含み,前記金属は,クロム,銅,ビスマス,コバルト,バナジウム,チタン,ロジウム,ベリリウム,ガリウム及びセレンを含む群から選択される前記第1層の前記HTS材料の前記面に結合された変更する材料の第2層とを有する」を,本件補正後の請求項1の「前記変更する材料の第2層は,前記第1層の前記ELR材料の前記面に結合され,ここで,前記変更する材料は金属または前記金属の酸化物の実質的に純粋な結晶を含み,前記金属は,クロム,銅,ビスマス,コバルト,バナジウム,チタン,ロジウム,ベリリウム,ガリウム及びセレンを含む群から選択される」に補正すること。
ウ また,本件補正のうち,補正前の請求項2~10を補正後の2~10とする補正は,以下の補正事項を含むものである。
(補正事項5-1)本件補正前の請求項5の「HTS材料」を,本件補正後の請求項5の「ELR材料」と補正すること。
(補正事項6-1)本件補正前の請求項6の「前記変更されたHTS材料は,150Kよりも高い温度でELR状態で動作する」を,本件補正後の請求項6の「前記第1導体と前記第2導体は150Kよりも高い臨界温度を有するELR材料を含む」と補正すること。
(補正事項7-1)本件補正前の請求項7の「HTS材料」を,本件補正後の請求項7の「ELR材料」と補正すること。
(補正事項9-1)本件補正前の請求項9の「HTS材料」を,本件補正後の請求項9の「ELR材料」と補正すること。
(補正事項10-1)本件補正前の請求項10の「変更されたHTS材料を含む第1導体」を,本件補正後の請求項1の「ELR材料の第1層と,前記第1層上に結合された変更する材料の第2層とからなる第1導体」に補正すること。
(補正事項10-2)本件補正前の請求項10の「前記変更されたHTS材料を含む第1導体」を,本件補正後の請求項1の「ELR材料の第1層と,前記第1層上に結合された変更する材料の第2層とからなる第2導体」に補正すること。
(補正事項10-3)本件補正前の請求項10の「前記変更されたHTS材料が,面と結晶構造とを有するHTS材料であって」を,本件補正後の請求項1の「前記ELR材料は,面と結晶構造とを有し」に補正すること。
(補正事項10-4)本件補正前の請求項10の「前記面は該結晶構造のab面に平行である,HTS材料の第1層と」を,本件補正後の「前記面は前記結晶構造のb面に平行であり」に補正すること
(補正事項10-5)本件補正前の請求項10の「変更する材料は金属または前記金属の酸化物の実質的に純粋な結晶を含み,前記金属は,クロム,銅,ビスマス,コバルト,バナジウム,チタン,ロジウム,ベリリウム,ガリウム及びセレンを含む群から選択される前記第1層の前記HTS材料の前記面に結合された変更する材料の第2層とを有する」を,本件補正後の請求項1の「前記変更する材料の第2層は,前記第1層の前記ELR材料の前記面に結合され,ここで,前記変更する材料は金属または前記金属の酸化物の実質的に純粋な結晶を含み,前記金属は,クロム,銅,ビスマス,コバルト,バナジウム,チタン,ロジウム,ベリリウム,ガリウム及びセレンを含む群から選択される」に補正すること。
2.補正の適否について
(1)請求項1に対する補正事項について
ア 令和3年5月20日に提出された意見書([補正の概要]を参照。)によれば,補正事項1-1,1-2は,当審の拒絶理由1,2に対し,本件補正前の「変更されたHTS材料」との事項を「ELR材料の第1層と,前記第1層上に結合された変更する材料の第2層」と補正することで,本願発明の課題との対応づけを明らかにすることを意図したものと理解できる。よって,補正事項1-1,1-2は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また,補正事項1-1,1-2は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の段落0226,0237に記載された事項であり,新規事項を追加するものではない。
イ 補正事項1-3,1-5は,補正事項1-1,1-2で「ELR材料」が特定されたことに伴い,本件補正前の「HTS材料」を本件補正後の「ELR材料」と補正するものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また,補正事項1-3,1-5は,当初明細書等の段落0226,0237に記載された事項であり,新規事項を追加するものではない。
ウ 補正事項1-4は,当審の拒絶理由3に対し,本件補正前の「ab面」を本件補正後の「b面」とすることで請求項1に係る発明を明確にすることを目的とするものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また,補正事項1-4は,当初明細書等の段落0069に記載された事項であり,新規事項を追加するものではない。
エ 以上のとおり,請求項1に対する本件補正は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,新規事項を追加するものではない。
(2)請求項5,6,7,9,10に対する補正事項について
ア 請求項5,7,9に対する補正事項(補正事項5-1,7-1,9-1)は,いずれも,請求項1に対する補正に伴い,本件補正前の「HTS材料」を本件補正後の「ELR材料」とする補正であるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また,補正事項5-1,7-1,9-1はいずれも当初明細書等の段落0226,0237に記載された事項であり,新規事項を追加するものではない。
イ 請求項6に対する補正事項(補正事項6-1)は,本件補正前の「前記変更されたHTS材料は,150Kよりも高い温度でELR状態で動作する」を,本件補正後の「前記第1導体と前記第2導体は150Kよりも高い臨界温度を有するELR材料を含む」と補正することにより,当審の拒絶理由3で「ELR状態」との事項が不明確であると指摘された点を釈明するものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また,補正事項6-1は,当初明細書等の段落0238に記載された事項であり,新規事項を追加するものではない。
ウ 請求項10に対する補正事項(補正事項10-1~10-5)は,請求項1に対する補正事項(補正事項1-1~1-5)と同様であり,上記(1)で検討したのと同様に,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,また,新規事項を追加するものではない。
3.小括
したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項から第5項までの規定に適合するものである。
第4 本願発明
上記第3の検討のとおり,本件補正は適法になされたものであるから,本願の請求項1~10に係る発明(以下,「本願発明1~10」という。)は,令和3年5月20日に提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるものであり,上記第3の1.アの(イ)に請求項1~10として摘記したとおりのものである。
第5 当審の判断
1.特許法36条4項1号(当審拒絶理由1)について
(1)発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には,次の記載がある。(下線は当審により付加。)
ア 本願発明の課題や解決手段に関連した記載として,次の記載がある。
「【0003】
従来の超伝導エレメントを使用して動作する,電気的デバイス,機械的デバイス,コンピュータデバイス,および/または他のデバイスは,超伝導状態における超伝導エレメントを維持するために高価な冷却システムに依存するなどの様々な欠点に苦しんでいる。例えば,従来の超電導コンデンサは,電流を最小抵抗またはゼロ抵抗で輸送する能力を有する,さまざまな成分の高温超伝導(HTS)材料を利用している。しかしながら,HTS材料は,非常に低い動作温度(例えば,120K未満の温度)を必要とし,通常は,液体窒素ベースの冷却システムなどの高価なシステムを使用して,そのような動作温度までコンポーネントを冷却することにより実現される。このような冷却システムは,実施コストを増大させ,広範な商用使用および民生用使用,および/または,これらの材料を用いるコンデンサへの適用を妨げる。現在のHTSベースのデバイスでは,これらの問題および他の問題が存在する。」
「【0005】
変更された,開口された,積層された,および/または,それ以外の,新しい非常に低い抵抗(ELR)材料で形成された1つまたは複数のコンポーネントを含む,電気的デバイス,機械的デバイス,コンピュータデバイス,および/または他のデバイス,コンポーネント,システム,および/または,装置が記載される。ELR材料は,通常は現在の高温超伝導体(HTS)に関連付けられる温度よりも高い温度での電流に対する非常に低い抵抗を提供し,とりわけ,高温度におけるデバイスの動作特性を向上させる。」
イ ELR材料及びELR状態の定義に関連した記載として,次の記載がある。
「【0011】
本説明のために,非常に低い抵抗("ELR")材料は,HTS材料,完全に導電する材料(例えば,完全導体),および非常に低い抵抗を有する他の導電性材料を含む超伝導材料を含み得るが,これだけに限定されるものではない。本明細書に記載されるように,これらのELR材料は,変更されたELR材料,開口されたELR材料および/または新しいELR材料,ELR膜及び/又は他のELR成分材料(例えば,ナノワイヤ,ワイヤ,テープなど)を形成するために使用することができるものとして記載される。これらのELR材料は,電子に対して非常に低い抵抗を示す,及び/又は,150K以上の温度などの高温で,環境圧力または標準圧力で,極めて高い電子のコンダクタンスを示す。本章では,とりわけ,本ELR材料の構造と動作特性を説明する。」
「【0013】
本説明のために,ELR材料の動作特性,および/または,本発明の様々な実施例は,ELR状態におけるELR材料の抵抗(例えば,超伝導体,超電導状態に関する),ELR状態に対するELR材料の転移温度,ELR状態におけるELR材料の電荷を伝播する容量,ELRの材料の1つまたはそれ以上の磁気特性,ELR材料の一つまたはそれ以上の機械的性質,および/または,ELR材の材料,他の動作特性を含むことができるが,これらに限定されるものではない。さらに,本説明のために,改良された動作特性は,高温でのELR状態(例えば,超電導状態を含む)における動作,その同じ温度(またはより高い温度)で増加した電荷伝播容量での動作を含むことができる。
【0014】
この説明のために,"非常に低い抵抗"は,超伝導材料タイプIIの超伝導状態での磁束流抵抗の大きさと同じような抵抗であり,一般に,0Ω-cmから293Kでの実質的に純粋な銅の抵抗率の50分の1(1/50)の範囲の抵抗率で表現することができる。例えば,本明細書で使用されるような,実質的に純粋な銅は99.999%の銅である。本発明の様々な実施例では,ELR材料の部分は0Ω・cmから3.36x10-8Ω-cmの範囲の抵抗率を有する。
【0015】
一般的に理解されるように,転移温度は,ELR材料が非常に低い抵抗で"動作する"又は,非常に低い抵抗を示す(又は示し始める)温度,および/または,ELR材料と関連する他の現象を示す温度である。非常に低い温度で動作するとき,このELR材料は,ELR状態にあると呼ばれる。転移温度より高い温度で,ELR材料は,非常に低い抵抗を示さなくなり,ELR材料は,非ELR状態又は通常の状態にあると呼ばれる。換言すれば,転移温度は,ELR材料が非ELR状態とELR状態との間で変化する温度である。理解されるように,いくつかのELR材料に対して転移温度は,非ELR状態とELR状態との間でELR材料が変化する温度範囲とすることができる。また,理解されるように,ELR材料は,転移温度のヒステリシスを持ち,ELR材料が温かいときの転移温度とELR材料が冷たいときの転移温度とを有する。」
ウ ELR材料の動作特定に関連した記載として,次の記載がある。
「【0022】
本発明の種々の態様によれば,開口210は,結晶構造100を通る電荷の伝播を促進し,開口210が結晶構造100を通る電荷の伝播を促進するとき,ELR材料はELR状態で動作する。この説明のために,(それぞれの形態に沿って)"伝播する"および/または"伝播を促進する"とは,一般に,"伝導する",および/または"伝導を促進する",およびその各形態,および,"輸送",および/または"輸送を促進する,",およびその各形態,および,"ガイドする",および/または"ガイドを促進する",およびその各形態,および/または,"運ぶ","容易に運ぶ"",およびその各形態を指す。この説明のために,電荷は,正電荷又は負電荷,および/または,そのような電荷のペアまたは他の組み合わせを含むことができ,さらに,そのような電荷は,1つまたは複数の粒子の形態で,または,1つまたは複数の波または波束の形態で結晶構造100を通って伝播する。」
「【0037】
本発明の様々な実施例によれば,種々の公知のELR材料の結晶構造は,公知のELR材料および/または変更されていないELR材料に対して,改善された動作特性で動作するように変更することができる。理解されるように,本発明のいくつかの実施例では,改善された動作特性は,例えば,結晶構造100の上に,材料の原子が第1の部分220と第2の部分230の間に一つまたは複数の結合を形成することによって,開口210を橋渡しするように材料を積層することによって実現することができる。結晶構造100の上に材料を積層する変更例は,種々の実験による試験結果と関連して以下でさらに詳細に記載される。
【0038】
図10は,第2視点から見たときの本発明の様々な実施例の変更されたELR材料1060の変更された結晶構造1010を示す図である。図11は,第1の視点から見たときの本発明の様々な実施例の変更されたELR材料1060の変更された結晶構造1010示す。ELR材料360(例えば,図3などに示される)は,変更されたELR材料1060を形成するために変更される。変更する材料1020は,図11に示すように,変更されたELR材料1060の変更された結晶構造1010を形成するように,ELR材料360の結晶構造300の原子(図3)と結合する。図示されるように,変更する材料1020は,第1の部分320と第2の部分330との間の隙間を橋渡し,それによって,とりわけ,特に,開口310の領域における変更された結晶構造1010の振動特性を変化させる。そうすることで,変更する材料1020は,高い温度で開口310を維持する。したがって,本発明のいくつかの実施例では,変更する材料1020は,結晶構造300中の適切な原子と適合して結合するように選択される。」
エ 変更されたELR材料の試験結果に関する記載として,次の記載がある。
「【0051】
図14A-14Gは,上記記載されたようにして得られた試験結果1400を示す。試験試験結果1400は温度の関数(K)として変更したELR素材1060の抵抗のプロットを含んでいる。より具体的には,試験試験結果1400は,変更されたELR素材1060であり,変更する材料1020はクロムであり,ELR材料360はYBCOである。図14Aは,変更されたELR材料1060の抵抗が測定された温度の全範囲,すなわち,84K~286Kである試験結果1400を含んでいる。より詳細に示すために,試験結果1400は,様々な温度範囲に分割されて図示されている。図14Bは,240K~280Kまでの温度範囲内の試験結果1400を示し,図14Cは,21K~250Kまでの温度範囲内の試験結果1400を示し,図14Dは,180K~220Kまでの温度範囲内の試験結果1400を示し,図14Eは,150K~190Kまでの温度範囲内の試験結果1400を示し,図14Fは,120K~160Kまでの温度範囲内の試験結果1400を示し,図14Gは,84.5K~124.5Kまでの温度範囲内の試験結果1400を示している。
【0052】
試験結果1400は,変更されたELR材料1060の様々な部分がELR材料360に比べて,より高い温度においてELR状態で動作することを示している。6つの試料の分析試験が行われた。各試料分析試験では,変更されたELR材料1060はゆっくりと約286Kから83Kまで冷却された。冷却しながら,DCオフセットおよび/または熱電対効果の影響を低減するために,電流源は,デルタモードの構成で+60nAと-60nAの電流を流した。一定の時間間隔で,変更されたELR材1060の電圧を電圧計で測定した。各試料分析試験では,電圧測定の時系列は,512点の高速フーリエ変換("FFT")を用いてフィルタ処理された。フィルタリ処理されたデータのうちFFTの最も低い44の周波数はデータから除外され,残りのデータは時間領域に戻された。各試料分析試験でフィルタ処理されたデータは,その後,試験結果1400を生成するために統合された。より具体的には,6つの試料の分析試験のすべての抵抗の測定は,"ビニング"と呼ばれる方法で温度範囲(例えば,80K~80.25K,80.25K~80.50K,80.5K~80.75K,等)の系列に整理された。次に,各温度範囲の平均抵抗測定を求めるために各温度範囲で測定された抵抗測定は,平均化された。これらの平均抵抗測定により試験結果1400が得られた。
【0053】
試験結果1400は,温度に対する抵抗のプロットである種々の離散ステップ1410を含んでおり,各離散ステップ1410は,比較的狭い温度範囲での抵抗の急激な変化を示している。各離散ステップ1410では,変更されたELR材料1060の離散部分は,各温度でそのような部分の電荷伝播容量に電荷を伝播し始める。非常に小さなスケールで,変更されているELR材360の表面は,完全に平滑ではないので,ELR材料360の表面に露出された開口310は,通常は,変更されたELR材1060試料の全幅または全長にわたって延びていない。したがって,本発明のいくつかの実施例では,変更する材料1020は,ELR材料360の表面全体を覆い,開口310の間で電荷を運ぶ導体として作用することができる。
【0054】
試験結果1400の詳細を説明する前に,ELR材料360と変更する材料1020の様々な特性を説明する。これらの材料の抵抗対温度("R-T")の個別のプロファイルは,一般によく知られている。これらの材料の個々のR-Tプロファイルは,試験結果1400に見られる離散ステップ1410と同様の特徴を含むとは考えられない。実際,ELR材料360の変更されていない試料と変更する材料1020は,同じであり,しばしば同一の試験方法と測定装置でそれぞれ試験された。各例では,ELR材料360の変更されていない試料のR-Tプロファイルと変更する材料のRTプロファイルは,単独では離散ステップ1410と同様の機能を含んでいなかった。従って,離散ステップ1410は,変更する材料1020と変更するELR材料360の結果であり,温度上昇時に開口310を維持し,それによって,変更する材料1060が,本発明の様々な実施例の高い温度において,ELR状態のままでいられることが可能となる。
【0055】
各離散ステップ1410では,変更されたELR材料1060内の開口310の様々な開口が,各開口310の電荷伝播容量に電荷の伝播を開始する。電圧計で測定した結果,各電荷伝播開口310は,変更されたELR材料1060の試料を通過する見かけの電圧が少しだけ低下する,短絡として現れる。見かけの電圧は,開口310の追加の開口が電荷の伝播を開始すると,変更されたELR材料1060の試料温度がELR材料360の転移温度(すなわち,変更していないELR材料がYBCOの場合の転移温度は,約90Kである)に達するまで低下し続ける。
【0056】
試験結果1400は,変更されたELR材料1060内の開口310が,約97K,100K,103K,113K,126K,140K,146K,179K,183.5K,200.5K,237.5K,および250Kで,電荷を伝播することを示している。理解されるように,変更されたELR材料1060内の開口310は,全温度範囲内の他の温度で電荷を伝播することができる。
【0057】
試験結果1400は,離散ステップ1410として識別されていない比較的狭い温度範囲での抵抗の比較的急激な変化を含んでいる。これらの他の変化のいくつかは,試験(例えば,FFT,フィルタリング,等)中に得られる測定値に使用されるデータ処理技術からのアーティファクトであるかもしれない。これらの他の変化のいくつかは,様々な温度で開口310に影響を与える変更された結晶構造1010中の共振周波数に起因する抵抗の変化であるかもしれない。これらの他の変化のいくつかは,追加の離散ステップ1410であるかもしれない。また,270~274Kの温度範囲における抵抗の変化は,変更されたELR材1060中に存在する水と関連付けられる可能性があり,この水の一部は変更されたELR材料1060の試料調製中に導入された可能性がある。
【0058】
変更する材料1020はELR材料360の転移温度以上の温度でよく伝導するの対して,ELR材料360は通常は伝導しないという点で,試験結果1400は,離散ステップ1410に加えて,ELR材料360のR-Tプロファイルと異なっている。
【0059】
図15は,ELR材料360と変更する材料1020の試料に対する追加の試験結果1500を示している。より具体的には,試験結果1500では,変更する材料1020は,クロムであり,ELR材料360はYBCOである。試験結果1500では,ELR材料360の試料は,a-平面又はb-平面に平行な結晶構造300の面を露出させるために,上述した様々な技術を用いて調製された。試験結果1500は,変更されたELR材料1060にロックインアンプとK6221電流源を用いて24.0Hzで10nAの電流を流して得られた。試験結果1500は,温度の関数(K)として,変更されたELR材料1060の抵抗のプロットを含んでいる。図15は,変更されたELR材料1060の抵抗が温度の全範囲,すなわち80K~275Kで測定された試験結果1500を含む。試験結果1500は,変更されたELR材料1060の様々な部分がELR材料360より高い温度でELR状態で動作することを示している。5つの試料の分析試験は,変更されたELR材料1060の試料でなされた。各試料分析試験では,変更されたELR材料1060の試料をゆっくりと80Kから275Kまで加熱した。加熱しながら,変更されたELR材料1060の試料の電圧が一定の時間間隔で測定され,抵抗は,電流源から算出された。各試料分析試験では,抵抗測定値の時系列は,1024ポイントのFFTを用いてフィルタ処理した。しかし,すべてのFFTから最も低い15の周波数がデータから除去され,フィルタ処理された抵抗測定値は,時間領域に戻された。各試料分析試験でフィルタ処理された抵抗測定値は,試験結果1500を生成するために上記説明したビニングプロセスを用いて統合された。次に,各温度範囲での抵抗測定値は,各温度範囲での平均抵抗測定値を得るために一緒に平均化された。これらの平均抵抗測定値は,試験結果1500を形成する。
【0060】
試験結果1500は,抵抗対温度プロットにおいて,種々の離散ステップ1510を含む。各離散ステップ1510は,図14A~図14Gで説明した離散ステップ1410と類似する,比較的狭い温度範囲で抵抗が比較的急激に変化することを示しいる。各離散ステップ1510では,変更されたELR材料1060の離散部分は,各温度での離散部分の電荷伝播容量に電荷を伝播する。
【0061】
試験結果1500は,変更されたELR材料1060内の開口310が約120K,145K,175K,225K,および250Kで電荷を伝播することを示している。変更されたELR材料1060内の開口310は,理解されるように,全温度範囲内の他の温度で,電荷を伝播するかもしれない。」
「【0063】
図16は,温度の関数(K)として,変更されたELR材料1060の抵抗のプロットを含む試験結果1600を示す。試験結果1600では,変更する材料1020はバナジウムであり,ELR材料360はYBCOである。試験結果1600は,20nA電流源を使用し,1024ポイントのFFTを行い,12個の最低周波数が除去された全ての情報を用いる11回の試験で得られた。試験結果1600は,変更されたELR材料1060の様々な部分がELR材料360よりもより高い温度においてELR状態で動作することを示している。試験結果1600は,図14A-14Gで説明したのと同様に,抵抗-温度プロットにおいて種々の離散ステップ1610を含む。試験結果1600は,変更されたELR材料1060内の開口310が約267K,257K,243K,232K,および219Kで電荷を伝播することを示している。変更されたELR材料1060内の開口310は,他の温度で電荷を伝播するかもしれない。
【0064】
図17は,温度の関数(K)として,変更されたELR材料1060の抵抗のプロットを含む試験結果1700を示す。試験結果1700では,変更する材料1020は,ビスマスでありELR材料360はYBCOである。試験結果1700は,400nAの電流源を使用し,1024ポイントのFFTを行い,12個の最低周波数が除去された全ての情報を用いる5回の試験で得られた。試験結果1700は,変更されたELR材料1060の様々な部分がELR材料360よりも高い温度においてELR状態で動作することを示している。試験結果1700は,図14A-14Gで説明したのと同様に,抵抗-温度プロットにおいて種々の離散ステップ1710を含む。試験結果1700は,変更されたELR材料1060内の開口310が約262K,235K,200K,172K,および141Kで電荷を伝播することを示している。変更されたELR材料1060内の開口310は,他の温度で電荷を伝播するかもしれない。
【0065】
図18は,温度の関数(K)として,変更されたELR材料1060の抵抗のプロットを含む試験結果1800を示す。試験結果1800では,変更する材料1020は銅であり,ELR材料360はYBCOである。試験結果1800は,200nAの電流源を使用し,1024ポイントFFTを行い,12個の最低周波数が除去された全ての情報を用いる5回の試験で得られた。試験結果1800は,変更されたELR材料1060の様々な部分がELR材料360よりもより高い温度においてELR状態で動作することを示している。試験結果1800は,図14A-14Gで説明したのと同様に,抵抗-温度プロットにおいて種々の離散ステップ1810を含む。試験結果1800は,変更されたELR材料1060内の開口310が約268K,256K,247K,235K,および223Kで電荷を伝播することを示している。変更されたELR材料1060内の開口310は,他の温度で電荷を伝播するかもしれない。
【0066】
図19は,温度の関数(K)として,変更されたELR材料1060の抵抗のプロットを含む試験結果1900を示す。試験結果1900では,変更する材料1020はコバルトであり,ELR材料360はYBCOである。試験結果1900は,420nA電流源を使用し,1024ポイントのFFTを行い,12個の最低周波数が除去された全ての情報を用いる11回の試験で得られた。試験結果1900は,変更されたELR材料1060の様々な部分がELR材料360よりもより高い温度においてELR状態で動作することを示している。試験結果1900は,図14A-14Gで説明したのと同様に,抵抗-温度プロットにおいて種々の離散ステップ1910を含む。試験結果1900は,変更されたELR材料1060内の開口310が約265K,236K,205K,174K,および143Kで電荷を伝播することを示している。変更されたELR材料1060内の開口310は,他の温度で電荷を伝播するかもしれない。
【0067】
図20は,温度の関数(K)として,変更されたELR材料1060の抵抗のプロットを含む試験結果2000を示す。試験結果2000では,変更する材料1020はチタンであり,ELR材料360はYBCOである。試験結果2000は,100nA電流源を使用し,512ポイントのFFTを行い,11個の最低周波数が除去された全ての情報を用いる11回の試験で得られた。試験結果2000は,変更されたELR材料1060の様々な部分がELR材料360よりもより高い温度においてELR状態で動作することを示している。試験結果2000は,図14A-14Gで説明したのと同様に,抵抗-温度プロットにおいて種々の離散ステップ2010を含む。試験結果2000は,変更されたELR材料1060内の開口310が約266K,242K,および217Kで電荷を伝播することを示している。変更されたELR材料1060内の開口310は,他の温度で電荷を伝播するかもしれない。
【0068】
図21A~21Bは,温度の関数(K)として,変更されたELR材料1060の抵抗のプロットを含む試験結果2100を示す。試験結果2100では,変更する材料1020はクロムであり,ELR材料360はYBCOである。図21Aは,変更されたELR材料1060の抵抗が測定された温度の全範囲,すなわち80K~270Kにわたる試験結果2100を含む。さらに詳しく説明するために,試験結果2100は,図21Bに示すように,150K~250Kの温度範囲で拡大された。試験結果2100は,図16~20で説明したのと同様の方法で得られた。具体的には,試験結果2100は300nAの電流源を使用して25回の試験で得られた。これらの試験データは,64サイドポイントと4次多項式を用いて,Savitzy-Golayで平滑化された。試験結果2100は,変更されたELR材料1060の様々な部分がELR材料360(ここでは,BSSCO)よりも高い温度でELR状態として動作することを示している。試験結果2100は,図14A-14Gで説明したのと同様に,抵抗-温度プロットにおいて種々の離散ステップ2110を含む。試験結果2100は,変更されたELR材料1060内の開口310が約184Kと214Kで電荷を伝播することを示している。変更されたELR材料1060内の開口310は,他の温度で電荷を伝播するかもしれない。」
「【0073】
上述した種々の試験結果は,とりわけ,開口310上の変更する材料1020の影響が互いに近接する関係で変化すること示している図14の試験結果1400は,本発明の種々の実施例を支持している。具体的には,試験結果1400中の各離散ステップ1410は,変更されたELR材料1060によって運ばれた電荷の変化に対応する。なぜなら,特定の層2310中の開口310(より適切には,図示のように隣接する層間で形成された開口310)は,そのような開口310の電荷伝播容量に電荷を伝播するからである。変更する材料1020により近い層2310中の開口310は,より高い温度の離散ステップに1410に対応するが,変更する材料1020からより遠い層2310中の開口310は,より低い温度の離散ステップ1410に対応する。離散ステップ1410は,変更する材料1020に所与の相対距離の開口310(すなわち,層2310Aと層2310B間の開口310A)が特定の温度で電荷を伝播し,すぐに最大電荷伝播容量に達する,という意味で"離散"である。別の離散ステップ1410は,変更する材料1020からより離れた距離の開口310(すなわち,層2310Bと層2310Cの間の開口310B)がより離れた距離の結果として,より低い温度で電荷を伝播し,開口310に対する変更する材料1020の影響を軽減するときに,達成される。各離散ステップ1410は,変更する材料1020からの距離に基づいて電荷を運び始める開口310の別の組に対応する。しかしながら変更する材料1020は,ある距離において,いくつかの開口310に高い温度で電荷を運ばせるような十分な影響を開口310に及ぼすことができないので,それ故に,そのような開口310は,ELR材料360の温度と一致する温度で電荷を伝播する。」
上記の試験結果を示す図14A,15~21Bとして,以下の図面が示されている。図14A,15,21A,21Bは,ELR材料がYBCO,変更する材料がクロムの場合の試験結果である。
[図:0001400858000001.jpg]
[図:0001400858000002.jpg]
[図:0001400858000003.jpg]
[図:0001400858000004.jpg]
図16は,ELR材料がYBCO,変更する材料がバナジウムの場合の試験結果である。
[図:0001400858000005.jpg]
図17は,ELR材料がYBCO,変更する材料がビスマスの場合の試験結果である。
[図:0001400858000006.jpg]
図18は,ELR材料がYBCO,変更する材料が銅の場合の試験結果である。
[図:0001400858000007.jpg]
図19は,ELR材料がYBCO,変更する材料がコバルトの場合の試験結果である。
[図:0001400858000008.jpg]
図20は,ELR材料がYBCO,変更する材料がチタンの場合の試験結果である。
[図:0001400858000009.jpg]
オ 「変更する材料」に関連する記載として,次の記載がある。
「【0119】
いくつかの実施例では,ELR材料に変更する成分を適用することは,ELR材料の結晶構造内の1つまたはそれ以上の酸素原子をELR材料内に移動させ,ELR材料の結晶構造を引っ張る酸素濃度勾配を形成するかもしれない。いくつかの実施例では,クロムなどの変更する成分は,ELR材内の酸素原子の"ゲッター"として作用し,それによって,酸素原子を変更する成分に向かって移動させ,次に,ELR材料の結晶構造内または,その一部の領域を引っ張るかもしれない。」
「【0121】
本発明のいくつかの実施例では,組成物の種々の領域または部分にある歪みは,ELR材料の動作特性(例えば,動作温度,電流容量など)を向上させるように,ELR材の結晶構造中の開口に影響を与える。
【0122】
結晶構造を有する材料の変更は,その材料が期待される温度よりも高い温度で材料に電流を流すように,非常に低い抵抗のような低い抵抗を示すさせることができる。いくつかの実施例では,変更は,上述したように,適切な表面上に変更する材料の層を付けるまたは形成する工程を含むことができる。変更する材料が付けられた,または形成された層は,歪みを発生させるか,あるいは材料の結晶構造を作る原子,および/または,結合の一部またはすべてに力をかけることができる。この力または歪みは,材料が低い抵抗又は非常に低い抵抗なのような異なる抵抗特性を示すように,この材料を変更するかもしれない。すなわち,材料内で力や歪みが発生すると,材料は,材料内の特定の場所,および/または,特定の領域で,酸素拡散勾配を発生させる,および/または,維持させる,および/または,材料の結晶構造を,ねじれさせる,歪ませる,開かせる,閉じさせる,硬くする,または,1つの場所から別の場所に電子の輸送を容易にする材料内の開口の幾何学的配置を維持するまたは変更するなど,配向および/または幾何学的配置を維持するか変更するかもしれない。」
「【0126】
いくつかの実施例では,種々の組成物は,ELR材料の適切な表面上に付けられた,または形成された,1つまたはそれ以上の変更する材料を含む。図1-Zは,ELR材料110(本明細書では変更されていないELR材料110と呼ぶ)とELR材料110の表面に付けられた変更する材料120を有する,変更されたELR材料の組成物100(本明細書では変更されたELR材料100と呼ぶ)を示している。」
「【0129】
いくつかの実施例では,変更する材料120は,例えば,クロム,銅,ビスマス,コバルト,バナジウム,チタン,ロジウム,またはベリリウムなどの金属,または金属などの金属酸化物であってもよい。いくつかの実施例では,変更する材料120は,ELR材料110内に歪みを与えることができる,高い酸素親和性のある材料,"ゲッター"材料,ELR材料110の格子定数と異なる1つまたはそれ以上の格子定数を有する材料(別のELR材料を含む)であるかもしれない。例えば,いくつかの実施例では,変更する材料120は,ELR材料110内に歪みを引き起こすために,容易に酸素と結合する,酸素を引きつける,または,酸素を捕まえる材料,または,酸素含有量および/またはELR材料内の酸素分布を変更する強い酸素親和性を有するかもしれない。いくつかの実施例では,変更する材料120は,ELR材110内に歪みを引き起こすために,ELR材料110の格子定数と一致しない1つまたはそれ以上の格子定数を有するかもしれない。」
「【0137】
説明したように,組成物400は,同じELR材料の(例えば,REBCO)の異なる形態または変異体の複数の層を含み,これらの同じELR材料の異なる形態はELR材料の1つまたはそれ以上に歪みを引き起こすかもしれない。例えば,層間の酸素含有量を変える(例えば,YBCO中のOsとO7との間の酸素化学量論/分率を変化させる)と,層内のELR材料の結晶構造の結合を歪ませる,層間の格子不整合を引き起こすかもしれない。また,例えば,層間のELR材料の結晶配向を変える(例えば,ELR材料の一つの層はa軸配向を有し,別の層は,b軸配向性を有する)と,層間の格子不整合を引き起こし,それにより同じような歪みを引き起こすかもしれない。」
「【0140】
別のELR材料またはELR材料の異なる形態の層で形成されている組成物300,400,500を生成すると,本発明の様々な実施例を,種々のREBCO材料の間の格子不整合(例えば,YBCOとNBCO),または,類似の格子定数(例えば,BSCCOなど)を有する他の材料に利用して,ELR材料の層の種々の層に応力をかける/歪ませることを可能にする。いくつかの実施例では,追加された歪みは,ELR材料の結晶構造中の開口の周りのフォノン周波数,および/または,分布及び/又は,振幅を変更し,ELR材料の抵抗の低下を可能にし,より高い温度においてELR状態で動作するなどの改良された動作特性およびその他の利点を可能にするが,これらに限定されるものではない。」
カ 本願発明のジョセフソン接合に関連する記載として,次の記載がある。
「【0220】
図46A-A~図46H-Aは,本発明の1つまたはそれ以上の実施例に係る様々なジョセフソン接合4600を示す(図46A-Aではジョセフソン接合4600Aとして,図46B-Aではジョセフソン接合4600Bとして,図46C-Aではジョセフソン接合4600Cとして,図46D-Aではジョセフソン接合4600Dとして,図46E-Aではジョセフソン接合4600Eとして,図46F-Aでジョセフソン接合4600Fとして,図46G-Aではジョセフソン接合4600Gとして,図46H-Aではジョセフソン接合4600Hとして記載される)。図46A-Aは,バリア4610によって分離された二つのELR導体4620を含むジョセフソン接合4600Aを示す。本発明のいくつかの実施例では,各ELR導体4620は,本発明の様々な実施例係る,改善された動作特性で動作するELR材料を含む。例えば,本発明のいくつかの実施例では,各ELR導体4620は,改善された動作特性を持つ変更されたELR材料1060を含み,本発明のいくつかの実施例では,各ELR導体4620は,改善された動作特性を持つ新しいELR材料を含む。本発明のいくつかの実施例では,各ELR導体4620は,本発明の様々な実施例に係るナノワイヤセグメント4110を備える。」
「【0222】
従来のジョセフソン接合の一般的な種類は,超伝導体-絶縁体-超伝導体("SIS"),超伝導体-通常導体-超伝導体("SNS"),超伝導体-鉄強磁性金属超伝導体("SFS"),超伝導体-絶縁体-通常導体-絶縁体-超伝導体("SINIS"),超伝導体-絶縁体-通常導体-超伝導体("SINS"),超電導体-コンストリクション-超伝導体("SCS")などを含む。図46I-Aは,トンネル接合(SIS),点接触,Daydemブリッジ(SCS),サンドイッチ接合,種々の厚さのブリッジ,およびイオン注入ブリッジ(左から右,上から下)を含むジョセフソン接合のさまざまな例を示すが,これらに限定されるものではない。図46J-Aは,ステップエッジSNS接合,ステップエッジ粒界接合,ランプエッジ接合部,両結晶粒界接合(左から右,上から下)を含むジョセフソン接合の他の例を示すが,これらに限定されるものではない。本発明の様々な実施例によれば,上記の種類のジョセフソン接合のいずれかは,従来のジョセフソン接合の超伝導材料の代わりに,上述のような改良されたELR材料を用いて構成することができる。
【0223】
一般的に言えば,ジョセフソン接合4600は,いわゆるジョセフソン効果を示す。ここでは,ELR状態でELR導体4620を通って流れる電流もまた,非常に低い抵抗状態でELR導体4620の間の接合部を横切って流れることができる。ジョセフソン接合は,例えば,バリア4610を備えてもよい。バリア4610に流れる電流は,ジョセフソン電流と呼ばれる。臨界電流に達するまで,ジョセフソン電流は,非常に低い抵抗でバリア4610を通って流れることができる。しかし,バリア4610の臨界電流を超えると,電圧がバリア4610を横切って現れ,次に,この電圧は,さらに臨界電流を低減し,それによって,バリア4610を横切る大きな電圧を生成する。ジョセフソン効果は,理解されるように,様々な回路におけるジョセフソン接合4600で利用されてもよい。」
「【0226】
図46C-Aおよび図46D-Aは,いわゆる"ワイヤ構成"のジョセフソン接合4600を示す。図46C-Aは,本発明の様々な実施例に係る改善された動作特性を示す変更されたELR材料を含むELR導体4620を含むジョセフソン接合4600Cを示す。図46C-Aに示すように,本発明のいくつかの実施例では,ジョセフソン接合4600Cの各ELR導体4620は,ELR材料3110上に積層された変更する材料2720を含む変更されたELR材料を含む。本発明のいくつかの実施例では,変更されたELR材は,基板2420上に積層されてもよい(すなわち,ELR材料は,基板2420上に積層される)。ELR導体4620は,理解されるように,変更されたELR材料の他の形態を含んでもよい。図示のように,バリア4610は,ELR導体4620の間に配置され電気的にELR導体4620と結合されている。」
(2)本願発明の課題について
ア 上記(1)アによれば,本願の発明の詳細な説明には,本願発明の課題に関連して,次の事項が記載されていると理解できる。
・高温超伝導(HTS)材料は,非常に低い動作温度(例えば,120K未満の温度)を必要とし,液体窒素ベースの冷却システムなどの高価なシステムを使用する必要があること。(段落0003)
・ELR材料は,通常は現在の高温超伝導体(HTS)に関連付けられる温度よりも高い温度での電流に対する非常に低い抵抗を提供し,とりわけ,高温度におけるデバイスの動作特性を向上させること。(段落0005)
以上によれば,本願発明においては,高温超伝導(HTS)材料よりも高い動作温度で非常に低い抵抗を提供し,高温度におけるデバイスの動作特性を向上させることが課題であると理解できる。
イ ここで,本願発明1~9はジョセフソン接合の発明であり,本願発明10はジョセフソン接合を含む回路の発明であるから,「バリア材料」の両側にある「第1導体」及び「第2導体」が動作時に超伝導状態でなければならないことは,下記周知例1に記載されたジョセフソン効果及びジョセフソン接合についての技術常識から明らかである。
周知例1:「岩波 理化学事典 第5版」,株式会社岩波書店,1998年2月20日,661-662頁
上記周知例1には次の記載がある。(下線は当審による。)
「ジョゼフソン効果 [Josephson effect] 2つの超伝導体が薄い絶縁膜でへだてられるなど弱く結合されているとき,電子対がトンネル効果*でその結合部を通過する現象.トンネル電流は2つの超伝導体の巨視的波動関数の位相差により決まる(直流ジョゼフソン効果,dc Josephson effect).超伝導体のエネルギーギャップ,障壁のトンネル抵抗などできまる一定値より小さい直流電流では,絶縁膜の両側の間には電圧は発生しない.電圧Vがかかるときには交流電流が生じ,その周波数は2eV/hである(交流ジョゼフソン効果,ac Josephson effect).」(661頁右欄下から1行~662頁左欄10行)
「ジョゼフソン接合 [Josephson junction] 2つの超伝導体を弱く結合し,ジョゼフソン効果*が生じるようにしたもの.ジョゼフソン効果を応用した回路素子として使われる.2枚の超伝導薄膜で2nm程度の厚さの絶縁膜を挟んだ接合型,超伝導膜の一部に幅1μm程度あるいはそれ以下のくびれを入れたマイクロブリッジ型,超伝導体の鋭い針先をもう1つの超伝導体に軽く接触させた点接触型がある.」(662頁左欄16行~23行)
ウ 上記イの技術常識をふまえ,上記アで述べた本願発明の課題をジョセフソン接合の発明及びジョセフソン接合を含む回路の発明である本願発明1~10に当てはめると,上記アで示した本願発明の課題における「デバイス」は「ジョセフソン接合」に,「非常に低い抵抗」は「超伝導状態」に,それぞれ対応するといえる。
したがって,本願発明1~10の課題は,高温超伝導(HTS)材料の超伝導転移温度よりも高い温度で動作するジョセフソン接合を得ることであると認められる。
(3)課題解決手段の説明について
ア 本願発明1~10では,「第1導体」及び「第2導体」は,いずれも「ELR材料の第1層と,前記第1層上に結合された変更する材料の第2層とからなる」構成(以下「本願層構造」という。)であることが特定されている。そうすると,本願層構造を用いてジョセフソン接合を構成することで,高温超伝導(HTS)材料を用いたジョセフソン接合よりも高い温度で動作することが示されれば,本願層構成により本願発明1~10の課題は解決されるものと理解できる。また,本願層構造が高温超伝導(HTS)材料の超伝導転移温度よりも高い温度で超伝導状態となることが示されれば,本願層構成を用いたジョセフソン接合により本願発明1~10の課題が解決可能であると理解できる。
しかしながら,以下に示すとおり,本願の発明の詳細な説明には,
(i)本願層構造を用いてジョセフソン接合を構成することで,高温超伝導(HTS)材料を用いたジョセフソン接合よりも高い温度で動作すること,
(ii)本願層構造が高温超伝導(HTS)材料の超伝導転移温度よりも高い温度で超伝導状態となること,
のいずれについても,明確かつ十分に説明されていない。
(3.1)上記(i)について
ア 上記(1)カに摘記したとおり,本願の発明の詳細な説明には,本願層構造を用いたジョセフソン接合(以下「本願接合」という。)の構成について記載されている。しかしながら,本願接合の実験結果については何ら記載されておらず,本願接合がいかなる温度でジョセフソン効果を発現するのか不明である。
イ さらに,本願発明の詳細な説明の段落0223には次の記載がある。
「一般的に言えば,ジョセフソン接合4600は,いわゆるジョセフソン効果を示す。ここでは,ELR状態でELR導体4620を通って流れる電流もまた,非常に低い抵抗状態でELR導体4620の間の接合部を横切って流れることができる。ジョセフソン接合は,例えば,バリア4610を備えてもよい。バリア4610に流れる電流は,ジョセフソン電流と呼ばれる。」
ここで,ELR状態が,ゼロではない「非常に低い抵抗」を含むこと(段落0014)に照らすと,上記の記載は,超伝導状態ではないELR状態,すなわち,超伝導転移温度よりも高い温度でジョセフソン効果を示すこと(上記(i))について述べたとも解釈できる。
しかしながら,上記周知例1に記載のとおり,ジョセフソン効果におけるトンネル電流(本願の「ジョセフソン電流」に相当。)は,電子対のトンネル電流であり,2つの超伝導体の巨視的波動関数の位相差によるものであるところ,超伝導状態ではないELR状態おいて,どのようにして電子対が生成されるのか,また,巨視的波動関数の位相がどのようにして一意に定まるのかについて,本願発明の詳細な説明には何ら記載がされていない。加えて,上記アのとおり,本願発明の詳細な説明には,本願層構成を用いたジョセフソン接合が実際にジョセフソン効果を発現することについて,具体的実験結果は何ら示されていない。
そうすると,本願発明の詳細な説明には,当業者の技術常識には無い現象である,超伝導状態ではないELR状態におけるジョセフソン効果について,明確かつ十分に説明されたものとはいえない。
ウ したがって,本願発明の詳細な説明は,上記(i)について明確かつ十分に説明されたものとはいえない。
(3.2)上記(ii)について
ア 上記(1)エの摘記によれば,本願の発明の詳細な説明及び図14A,15~21Bには,ELR材料がYBCO,変更する材料がクロム,バナジウム,ビスマス,銅,コバルト及びチタンである場合について,本願層構造の抵抗の温度依存性(「抵抗対温度(“R-T”)」)を測定した実験結果が示されている。
しかしながら,これらの実験結果は,抵抗値ゼロとなる温度を示しておらず,本願層構造が高温超伝導(HTS)材料の超伝導転移温度より高い温度で超伝導状態となるのか否か不明である。また,上記実験結果が「離散ステップ」を含んでおり,比較的狭い温度範囲での抵抗の急激な変化(段落0053)が示されているものの,「離散ステップ」における抵抗値はゼロではなく,また,「離散ステップ」において超伝導状態となることを裏付ける他の証拠も示されていない。
イ 本願発明の詳細な説明には,本願層構造を構成する「ELR材料」と「変更する材料」について次の事項が記載されていると理解できる。
・転移温度は,ELR材料が非ELR状態とELR状態との間で変化する温度であり,転移温度より高い温度で,ELR材料は非常に低い抵抗を示さなくなり,非ELR状態にあると呼ばれること。(段落0015)
・「非常に低い抵抗」とは,「0Ω-cmから293Kでの実質的に純粋な銅の抵抗率の50分の1(1/50)の範囲の抵抗率」を意味すること。(段落0014)
・「ELR状態」が「超伝導状態」を含むこと。(段落0013)
・開口210が結晶構造100を通る電荷の伝搬を促進するとき,ELR材料はELR状態で動作すること。(段落0022)
・変更する材料1020は,第1の部分320と第2の部分330との間の隙間を橋渡し,それによって,開口310の領域における変更された結晶構造1010の振動特性を変化させ,高い温度で開口310を維持すること。(段落0038)
・変更する材料1020と変更するELR材料360により,温度上昇時に開口310を維持し,それによって,変更する材料1060が,高い温度においてELR状態でいられること。(段落0054)
・変更する材料1020により近い層2310中の開口310は,より高い温度の離散ステップ1410に対応し,変更する材料1020からより遠い層2310中の開口310は,より低い温度の離散ステップ1410に対応すること。(段落0073)
以上によれば,本願発明の詳細な説明では,「ELR材料」に「変更する材料」を適用することでより高い温度でELR状態が維持できることの作用機序を,「変更する材料」によりELR材料の結晶構造中の振動特性を変化させ,開口を高い温度でも維持することができることにより説明している。また,本願層構造の抵抗温度依存性のグラフの離散ステップを,ELR状態においてELR材料の結晶構造の開口を電荷が伝搬することに基づいて説明している。
しかしながら,仮に上記の説明が有限の抵抗値を示す「ELR状態」について説明したものであるとしても,超伝導転移温度が上昇することの作用機序として明確かつ十分な説明とはいえない。
上記(1)エの摘記のとおり,本願の発明の詳細な説明に記載された実験におけるELR材料は主にYBCOであるところ,例えば下記周知例2に示すように,YBCOをはじめとする高温超伝導体では,CuO2面において超伝導となることが技術常識である。すなわち,本願発明の詳細な説明の段落0029~0030に示される「イットリウム開口」や「バリウム開口」において超伝導が生じることは当業者の技術常識には無いことであり,そのような超伝導が生じることを裏付ける具体的実験結果も示されていないから,たとえ高温で開口が維持される機構が説明されたとしても,それにより超伝導転移温度が上昇することが当業者にとって明らかであるとはいえない。
周知例2:内田慎一「高温超伝導体の電子状態と輸送現象」,まてりあ,日本金属学会,1995年,第34巻,第12号,1336~1339頁
上記周知例2には次の記載がある。
「高温超伝導は電荷ドーピングされたCuO22次元面の超伝導であると現在は確信を持って言い切ることができる。確かに現在までに発見された数十種類に及ぶ高温超伝導体は,その結晶構造にCuO2面を内包している.この意味で,多くの金属物質の低温での普遍的現象としての従来の超伝導とは違って,高温超伝導はドープされたCuO2面に限られた超伝導現象ということができる.」(1336頁左欄2行~8行)
ウ 本願発明の詳細な説明では,「変更する材料」が「ELR材料」に与える作用について,次の事項が記載されている。
・ELR材料に変更する成分を適用することは,ELR材料の結晶構造内の酸素原子をELR材料内に移動させ,ELR材料の結晶構造を引っ張る酸素濃度勾配を形成するかもしれないこと。(段落0119)
・変更する材料が形成された層は,歪みを発生させるか,あるいは材料の結晶構造を作る原子や結合に力をかけることができること。また,歪みは,ELR材料の動作温度,電流容量などを向上させるように,ELR材料の結晶構造中の開口に影響を与えること。(段落0121,0122)
・層間の酸素含有量を変えることで,層内のELR材料の結晶構造に歪みを引き起こすこと。(段落0137)
・追加された歪みは,ELR材料の結晶構造中の開口の周りのフォノン周波数,分布,振幅を変更し,ELR材料の抵抗の低下を可能にし,より高い温度においてELR状態での動作を可能とすること。(段落0140)
以上によれば,本願発明の詳細な説明では,変更する材料がELR材料に歪みを引き起こすことで,ELR材料の結晶構造中の開口の周りのフォノン周波数,分布,振幅を変更し,より高い温度においてELR状態を実現できる旨が説明されていると理解できる。
しかしながら,仮に上記の説明を有限の抵抗値を示す「ELR状態」の説明として理解したとしても,ELR材料の超伝導転移温度が上昇することの説明として明確かつ十分なものとはいえない。周知例2の下記の記載に示すとおり,YBCO等の高温超伝導体においては,電子とフォノンの相互作用の強さと超伝導転移温度との間に相関がないことが技術常識であるから,フォノンに基づく上記説明は,変更する材料によりYBCO等の高温超伝導体を含むELR材料の超伝導転移温度が上昇することを当業者が理解できる程度に明確かつ十分に説明したものとはいえない。
上記周知例2には次の記載がある。
「λは通常の超伝導体では電子-フォノン相互作用の強さを表し,したがってTcと強く相関している.高温超伝導体ではλとTcの相関が全く認められないだけでなく,Tcが90Kの物質でも相互作用が非常に弱い(λ≪1)ということが帰結される.」(1337頁左欄7行~11行)
エ したがって,本願発明の詳細な説明は,上記(ii)について明確かつ十分に説明したものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり,本願発明の詳細な説明は,本願発明1~10の構成により本願課題を解決できることを当業者が認識できる程度に明確かつ十分に説明したものではないから,本願発明1~10に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
したがって,本願の発明の詳細な説明は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
2.特許法36条6項1号(当審拒絶理由2)について
本願発明1~10は,任意の温度で動作するジョセフソン接合を含むものであるから,上記1.(3)ウに示した本願の課題を解決しない態様を含むものである。
したがって,本願の請求項1~10に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
3.特許法36条6項2号(当審拒絶理由3)について
本願発明1~10の「ELR材料」について,本願発明の詳細な説明の段落0011には,
「非常に低い抵抗("ELR")材料は,HTS材料,完全に導電する材料(例えば,完全導体),および非常に低い抵抗を有する他の導電性材料を含む超伝導材料を含み得るが,これだけに限定されるものではない。」
と記載され,上記「非常に低い抵抗」について,本願発明の詳細な説明の段落0014には,
「"非常に低い抵抗"は,超伝導材料タイプIIの超伝導状態での磁束流抵抗の大きさと同じような抵抗であり,一般に,0Ω-cmから293Kでの実質的に純粋な銅の抵抗率の50分の1(1/50)の範囲の抵抗率で表現することができる。例えば,本明細書で使用されるような,実質的に純粋な銅は99.999%の銅である。本発明の様々な実施例では,ELR材料の部分は0Ω・cmから3.36x10-8Ω-cmの範囲の抵抗率を有する。」
との記載がある。
しかしながら,上記段落0014において「非常に低い抵抗」を特定する抵抗率が,いかなる温度における抵抗率であるのかが不明であるため,本願発明1~10の「ELR材料」にどのような材料が含まれるのかを一義的に特定できない。
したがって,本願の請求項1~10に係る発明は明確でないから,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
第6 結言
以上のとおり,本願の発明の詳細な説明は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-002990