2019-001204
抗腫瘍活性を有する新規な二重特異的結合分子
- 審判番号
- 2019-001204
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-508054外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年01月30日
- 審決日
- 2020年03月31日
- 公報発行日
- 2020年05月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (C07K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月6日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 平成25年4月19日 欧州特許庁)とする出願であって、平成30年2月8日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年5月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年9月10日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し、平成31年1月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(平成30年9月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1-23に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記引用例1-4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(引用例)
1.国際公開第2011/147986号
2.Bispecific Fynomer-antibody fusion protein targeting two epitopes on HER2,ASCO, 2012, Chicago,Poster(周知技術を示す文献)
3.mAbs, 2012, vol.4, no.4, p.497-508(周知技術を示す文献)
4.特表2010-500875号公報(周知技術を示す文献)
第3 本願発明
本願の請求項1-23に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明23」という。)は、平成30年5月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-23に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】(i)CD3と、(ii)癌細胞上の表面標的抗原と、に特異的に結合する二重特異的結合分子であって、(a)CD3に特異的に結合する抗体と、(b)癌細胞上の表面標的抗原に結合するFyn-SH3由来ポリペプチドと、を含み、前記Fyn-SH3由来ポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列からなり、ただし、(i)配列番号1のアミノ酸位置10~19内の少なくとも1つのアミノ酸が、置換、欠失、または付加されていること、かつ(ii)配列番号1のアミノ酸位置29~36内の少なくとも1つのアミノ酸が、置換、欠失、または付加されていること、を条件とし、前記ポリペプチドが、配列番号1の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有し、同一性の決定では、配列番号1のアミノ酸位置12~17および31~34が無視されること、を条件とする、二重特異的結合分子。」
なお、本願発明2-15は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明16は本願発明1の結合分子をコードする核酸分子、本願発明17は該核酸分子を含むベクター、本願発明18は該ベクターで形質転換された宿主細胞または非ヒト宿主、本願発明19-23は、本願発明1-18の結合分子、核酸分子、ベクター、および/または宿主細胞もしくは非ヒト宿主を含む医薬組成物に係る発明である。
第4 引用例、引用発明
1.引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には、次の事項が記載されている。なお、引用例1は英文であるから、引用例1のパテントファミリーである特表2013-529904号公報の記載を翻訳文とする。また、下線は当審で付したものである。
「【特許請求の範囲】【請求項1】ヒト上皮細胞成長因子受容体2(HER2)に結合し、かつ以下:a)SEQ ID NO:133、例えば、SEQ ID NO:4の配列(169);続きを表示(全21行)b)SEQ ID NO:11(050、049、051、055);c)SEQ ID NO:130、例えば、SEQ ID NO:18の配列(084);d)SEQ ID NO:136、例えば、SEQ ID NO:25の配列(025);e)SEQ ID NO:139、例えば、SEQ ID NO:31の配列(091);f)SEQ ID NO:142、例えば、SEQ ID NO:38の配列(129);g)SEQ ID NO:148、例えば、SEQ ID NO:48の配列(127);h)SEQ ID NO:52(159);i)SEQ ID NO:145、例えば、SEQ ID NO:59の配列(098);j)SEQ ID NO:154、例えば、SEQ ID NO:66の配列(153);およびk)SEQ ID NO:151、例えば、SEQ ID NO:73の配列(132)からなる群より選択されるCDR3配列を含むVH領域を含む、モノクローナル抗体。・・・・【請求項22】(i)第1の抗体と(ii)第2の抗体とを含む二重特異性抗体であって、第1の抗体が、請求項1~21のいずれか一項記載の抗体、SEQ ID NO:168のCDR3配列を含むVH領域を含む抗体(005)からなる群より選択され、かつ第2の抗体が、第1の抗体とは異なるエピトープに結合する、二重特異性抗体。【請求項23】第2の抗体が、請求項1~20のいずれか一項記載の抗体、SEQ ID NO:168のCDR3配列を含むVH領域を含む抗体(005)、CD3抗体からなる群より選択される、請求項22記載の二重特異性抗体。」
2.引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2は、タイトルを「HER2の2つのエピトープに結合する、二重特異的なFynomer-抗体融合タンパク質」とするポスターであり、Introductionの項には抗体をFynomer修飾することで修飾していない抗体よりも活性を高めること、ファージディスプレイを用いるFynomer技術によって、trastuzumabと異なるエピトープを認識するFynomer C12を単離したことが示され、左下の図面には、HER2に特異的に結合するFyn-SH3由来ポリペプチド(Anti-HER2 Fynomer(C12))を、pertuzumab抗体のそれぞれのC末端、N末端の位置に結合させた4種類の抗体(COVA201,202,207,208)が記載され、Fynomer-pertuzumabは、高発現を示し、安定性に優れ、HER2陽性細胞に結合し、ADCC活性が維持されていることが記載されている。さらに、COVA208は半減期が延び、in vivoでの優れた効果を発揮することも記載されている(右側の図面)。そして、Conclusionsの項 には、Fynomer技術が最適な生物活性を有する二重特異性タンパク質の簡単な操作(straightforward engineering)を可能とすることが記載されている(Conclusionの欄)。
3.引用例3
原査定の拒絶の理由に引用された引用例3は、そのタイトルが「ヒトFynキナーゼ SH3ドメインに基づくキマーゼ結合タンパク質の生成、特徴付け、および構造データ」であり、Fynomer技術はタンパク質の高発現量を可能にし、Fynomerタンパク質は安定であることなどが記載されている(特に、498頁左欄27-34行)。
4.引用例4
原査定の拒絶の理由に引用された引用例4は、FYNキナーゼの改変SH3ドメインを含む特異的かつ高親和性の結合タンパク質に関し、該結合タンパク質を薬学的におよび/または診断的に活性な成分に融合することが記載されている。
そして、引用例4の6頁に記載されている配列番号1のアミノ酸配列は、本願の配列番号1と一致し、「配列番号1の位置12から17に位置するアミノ酸E A R T E Dから成る。RTループ内のまたはRTループに隣接する、置換、欠失および/または付加される」(【0020】)、「配列番号1の位置31から34に位置するアミノ酸N S S Eから成る。srcループ内のまたはsrcループに隣接する、置換、欠失および/または付加される」(【0021】)、「「FYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)の誘導体」は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を配列番号1のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を包含して意味する。」(【0031】)と記載されている。
5.引用発明
上記1.より、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「(i)第1の抗体とii)第2の抗体とを含む二重特異性抗体であって、第1の抗体がヒト上皮細胞成長因子受容体2(HER2)に結合するモノクローナル抗体(HER2抗体)であり、第2の抗体がCD3抗体である、二重特異性抗体。」
第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「HER2」は、本願発明1の「癌細胞上の表面標的抗原」に相当し、引用発明の「HER2抗体」は、本願発明1の「癌細胞上の表面標的抗原に結合するFyn-SH3由来ポリペプチド」と、「癌細胞上の表面標的抗原に結合するポリペプチド」である点で共通する。また、引用発明の「二重特異性抗体」は、本願発明1の「二重特異的結合分子」に該当すると認められる。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があると認められる。
(一致点)
「(i)CD3と、(ii)癌細胞上の表面標的抗原と、に特異的に結合する二重特異的結合分子であって、(a)CD3に特異的に結合する抗体と、(b)癌細胞上の表面標的抗原に結合するポリペプチドと、を含む、二重特異的結合分子。」
(相違点1)
「癌細胞上の表面標的抗原に結合するポリペプチド」が、本願発明1では「Fyn-SH3由来ポリペプチド」であるのに対して、引用発明では「抗体」である点。
(相違点2)
本願発明1では「Fyn-SH3由来ポリペプチド」について、「配列番号1のアミノ酸配列からなり、ただし、
(i)配列番号1のアミノ酸位置10~19内の少なくとも1つのアミノ酸が、置換、欠失、または付加されていること、かつ
(ii)配列番号1のアミノ酸位置29~36内の少なくとも1つのアミノ酸が、置換、欠失、または付加されていること、
を条件とし、
前記ポリペプチドが、配列番号1の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有し、同一性の決定では、配列番号1のアミノ酸位置12~17および31~34が無視されること、を条件とする」ことが特定されている点。
(2)判断
まず、相違点1について検討する。
上記「第4 引用例、引用発明」の2.3.及び4.のとおり、引用例2-4にはFynomer(Fyn-SH3由来ポリペプチド)技術について記載されているが、引用例2に記載されているのは、HER2に特異的に結合する抗体と該抗体が認識するエピトープとは異なるエピトープを認識するHER2に特異的に結合するFynomerとの二重特異的結合分子、すなわち、いずれもHER2抗原に結合する二重特異的結合分子であって、CD3と癌細胞上の表面標的抗原という異なる抗原に結合する二重特異的結合分子については記載されていない。また、引用例3にはFynomer技術を用いて特異的なタンパク質を生成することについては記載されているが、Fynomerと抗体とを結合させることは記載されていない。さらに、引用例4にもFYNキナーゼの改変SH3ドメインを含む特異的かつ高親和性の結合タンパク質(Fynomer)を生成する技術について記載され、該結合タンパク質を薬学的におよび/または診断的に活性な成分に融合することも記載されているが、融合する相手として具体的に記載されているのはサイトカイン、毒性化合物、ケモカイン(請求項12~14)等であって、融合する相手として抗体は記載されていない。
引用発明は、HER2抗体とCD3抗体という2つの抗体を組み合わせることで二重特異性抗体とした発明であり、引用発明における一方の抗体、例えばHRE2抗体をFynomerのような抗体とは全く異なる他のタンパク質と置換することは、引用例2~4のいずれの記載をみても動機付けられない。
したがって、相違点1は当業者が容易になし得ることではないから、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は引用例1-4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
そして、本願発明1は腫瘍細胞に対して選択的なリダイレクトT細胞媒介細胞障害活性を示すという顕著な効果を奏するものである。
2.本願発明2-23について
本願発明2-23は請求項1を直接的・間接的に引用するものであって、本願発明1に特定される構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用例1-4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-23は、引用例1-4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2019-001204