特許無効審判
2018-800099
油冷式スクリュ圧縮機
- 審判番号
- 2018-800099
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願1996-283677
- 登録番号
- 3766725
- 請求日
- 2018年08月06日
- 審決日
- 2022年08月19日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】株式会社 前川製作所
- 【請求人代理人】石橋 克之
- 【請求人代理人】大木 利恵
- 【請求人代理人】山▲崎▼ 順一
- 【請求人代理人】金子 明
- 【請求人代理人】木村 祐太
- 【請求人代理人】平井 佑希
- 【被請求人】株式会社 神戸製鋼所
- 【被請求人代理人】前堀 義之
- 【被請求人代理人】奥西 祐之
- 【被請求人代理人】言上 惠一
- 【被請求人代理人】松本 好史
- 【被請求人代理人】松井 保仁
- 【被請求人代理人】岩崎 浩平
- 審判長/審判官
- 審判長 窪田 治彦
- 審判官 田合 弘幸
- 審判官 長馬 望
- 分類
- P1123.121-Z (F04C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法123条1項2号特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第123条第1項第2号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3766725号「油冷式スクリュ圧縮機」の特許無効審判事件についてされた令和元年8月7日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和元年(行ケ)第10120号、令和3年5月19日判決言渡)がされ、当該判決は確定したので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第3766725号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1.一次審決までの経緯
特許第3766725号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成8年10月25日の出願であって、平成18年2月3日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件無効審判に係る令和元年8月7日付け審決(以下「一次審決」という。)までの主な手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年 8月 6日 審判請求書、甲第1~7号証提出
平成30年11月 9日 審判事件答弁書、乙第1号証提出
平成31年 1月18日付け 審理事項通知書
平成31年 2月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)、
甲第8~9号証提出
平成31年 3月 1日 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
平成31年 3月22日 口頭審理
平成31年 3月29日 上申書(請求人)、甲第10号証提出
平成31年 4月12日 上申書(被請求人)提出
令和 元年 8月 7日付け 審決
2.一次審決
一次審決の結論は、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」というものである。
3.審決取消訴訟
請求人は、令和元年9月13日、一次審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に訴訟を提起した。上記訴訟は、知的財産高等裁判所において、令和元年(行ケ)第10120号審決取消請求事件として審理され、令和3年5月19日に「主文 1 特許庁が無効2018-800099号事件について令和元年8月7日にした審決を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。」とする判決(以下「本件判決」という。)の言渡しがあり、その後確定した。
4.本件判決確定後の経緯
本件判決確定後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和3年11月19日 訂正請求申立書(被請求人)
令和4年 1月 5日付け 訂正請求のための期間指定通知
令和4年 1月20日 上申書(被請求人)提出
令和4年 3月25日付け 審決の予告
なお、被請求人により令和4年1月20日に提出された上申書の内容は、「特許第3766725号について、訂正請求を行わない。」というものである。
また、審決の予告に対し、特許権者からは指定期間内に応答はなかった。
第2 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、一旦下部の油溜まり部に溜め、油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方、スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし、吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに、上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け、かつ上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け、このバランスピストンの仕切り壁側の空間に、上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成したことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機。」
第3 当事者の主張の概要
1.請求人の主張の概要
請求人の主張する無効理由1及び無効理由2の概要は、審判請求書及び口頭審理陳述要領書の記載によれば、以下のとおりである。
(1)無効理由1
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に、例えば、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明において、甲第6号証及び甲第7号証に記載された教示にならって当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
証拠方法
甲第1号証:特公昭51-36884号公報
甲第2号証:特開昭57-159993号公報
甲第3号証:国際公開第95/10708号
甲第4号証:特開昭57-122188号公報
甲第5号証:実願昭62-128114号(実開昭64-34493号)のマイクロフィルム
甲第6号証:森山浩三、「冷凍空調設備の保守管理とサービス 4.4 スクリュー圧縮機(二軸形)」、冷凍、平成6年、第69巻、9月号、p.38~42
甲第7号証:常富実、外3名、「日立パッケージ形スクリュー圧縮機『OS-Pシリーズ』」、日立評論、昭和52年、第59巻、第10号、p.57~62
甲第8号証:「スクリュー圧縮機の技術とその応用」、西村喜之、ターボ機械第17巻第9号、1989年9月発行、p.25~30
甲第9号証:「日立油冷式スクリュー圧縮機『OSシリーズ』」、常富実、他2名、日立評論Vol.54 No.4、1972年発行、p.30~36
甲第10号証:「9.潤滑」(日本精工(株)のテクニカルレポート)<URL:http://www.nsk.com/jp/services/basicknowledge/technicalreport/>
(以下、各甲号証を証拠番号に従って、「甲1」などという。)
2.被請求人の主張の概要
被請求人の主張の概要は、審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書の記載によれば、以下のとおりである。
(1)無効理由1
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、無効理由1は成り立たない。
(2)無効理由2
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明において、甲第6号証ないし甲第7号証に記載された教示にならって当業者が容易に発明をすることができたものではなく、無効理由2は成り立たない。
証拠方法
乙第1号証:無効2017-800059の審決謄本
第4 甲各号証
1.甲1
(1)甲1の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1(特公昭51-36884号公報)には、「ヘリカルスクリユウコンプレツサ」に関し、図面とともに次のとおり記載されている。
ア 「この発明は、ハウジングに改良を施した液体噴射スクリユウコンプレツサに関するものである。」(第2欄第24~25行)
イ 「従来の液体噴射スクリユウコンプレツサに関連する問題点としては、通常必要とされる多数のパイプ接合からの、コンプレツサハウジング部材間のフランジ付ジヨイントからのガスおよび噴射液体の漏れがある。コンプレツサ外への圧力のかかつたガスの漏れは、特に密閉された装置においては、またガスが有害なあるいは可燃性のものであるときは好ましくない。もちろん、噴射液体の漏れも望ましくないものである。従つてコンプレツサハウジングのジヨイントの数を最少にし、ジヨイントを容易に密閉することが出来るようにすることが好ましい。」(第3欄第19~30行)
ウ 「この発明は、密閉を行なうのに必要なハウジングのジヨイントを最少にし、コンプレツサハウジング内にほぼ収容される液体分布装置を備えた液体噴射ヘリカルガスコンプレツサのハウジング構造の改良を目的とするものである。
この発明はまた、スライドバルブ容量制御装置を用いるタイプのヘリカルスクリユウガスコンプレツサのハウジング構造を提供するものであつて、その際注入ケース部分はスクリユウロータを収容するための組み立てられた金属部材として独立に構成されてコンプレツサ注入ガスと容量制御バルブにより送り込まれるガスのための室を構成するものである。組み立てられたケース部分はまた、フレーム上にコンプレツサユニツトを保持するためにも構成され、コンプレツサは、コンプレツサ駆動モータに関してこのケース部分との整合を妨げることなくこれからそつくり取り外すようにすることが出来る。
この発明はさらにまた、中間のハウジング部材が基本のコンプレツサの支持体を構成し、組み立てられたケース部分から容易に取り外しが出来るような液体噴射ヘリカルスクリユウコンプレツサ用のハウジング構造を提供するものである。中間ハウジング部材はまた、コンプレツサ外部に位置されねばならない液体パイプ接合の数を最少とするような液体分布孔あるいはマニホールドを有している。中間ハウジング部材内にはこれに取り付けられた密閉可能なケース部分と共に液体分布孔が配置されていて、コンプレツサのガス-液体混合体に通常は曝されている閉領域内に位置するほぼ全ての液体パイプがこれにより設けられることとなる。またこの発明によるコンプレツサハウジング構造は、外観が美しいと共に容易に外部から吸音かつ絶縁層あるいはコーテイングを施すことが可能である。」(第4欄第8~42行)
エ 「第3図から明らかなようにおすロータ12は、ロータの低圧端側のラジアルスリーブタイプのベアリング52とロータの高圧端側の同様のベアリング54とに回転自在に軸支されている。ベアリング52と54とはそれぞれベアリングハウジング34と中間ハウジング30とに位置せしめられている。ロータ12に働く軸方向の力は、一対のアンギユラコンタクトボールベアリング56により部分的に受けられる。ベアリング56は、ベアリングハウジング58内に適当に取り付けられ、このハウジング58は、面32から離れかつこれに平行の第2の横断面59上の中間ハウジング30に着脱自在にボルト止めされている。ベアリングハウジング58は、円筒状の室60を有し、その中にはおすロータ12の高圧端部分63に取り付けられたスラストピストン62が設けられている。コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて、ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。なおロータ12の反対側の端部は、一体の軸部分66を有し、これに対してモータが第1図に示す如きカツプリング68によつて接続される。めすロータ14は、同様にスリーブベアリングおよび回転部材であるスラストベアリング(図示せず)によつて支持されている。」(第6欄第6~31行)
オ 「前述の如くコンプレツサ10は、液体が、圧縮熱の幾分かを吸収し、協働するロータ12と14の隙間を密閉するために、圧縮されたガスと混合されるように穴18、20により形成された作動室内に噴射されるような良く知られたタイプのものである。この液体は通常適当なオイルが用いられ、これはまた互いに係合する二つのロータおよびロータベアリング用の潤滑剤としても働く。コンプレツサ作動室内に直接噴射されまた潤滑用に用いられるこの液体は、高圧ガスと共に放出され、ガスから分離され、冷却されまた従来周知の如くコンプレツサに再循環される。」(第9欄第17~28行)
カ 「この発明によればケース98と114内にほぼ収容されている改良された液体分布機構を備えたハウジング構造が提供され、コンプレツサの外部に対する液体の漏れが最少にされる。コンプレツサ10内の中間ハウジング30は、コンプレツサ中の種々の位置に液体を供給するための複数個の通路を有している。中間ハウジング30はまた、圧力のかかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有している。特に第3図~第7図において、液体は中間ハウジング30内のパイプ136と通路138を介してめすロータの図示せぬ延長部により駆動される適当なポンプ140に導びかれる。ポンプ140は、スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ、またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。ポンプ140の放出パイプ142は、中間ハウジング30に固定されたフイルタ146と接続しているこのハウジングの通路144に接続している。フイルタ146を通過した液体は、中間ハウジングの空所134内に流れる。
空所134は、コンプレツサベアリングおよびシール、スラストピストン、交叉する穴18と20により形成された作動室、および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働く。圧力のかかつた液体は、パイプ148、150通路152およびパイプ154を介して空所134から室70に供給される。適当なバルブ156がパイプ148内に挿入され、容量制御バルブ駆動体の室70に対する圧力のかかつた液体の流れを制御する。パイプ160内にはバルブ158が配置されて室70に圧力のかかつた液体を送り込む。パイプ160は、パイプ150と、ケース98の内部空間102に開口している中間ハウジングの通路162に接続している。空間102に放出される液体の大部分は、コンプレツサ作動室に流れる注入ガスと偶発的に混合される。空所134はまた、第5図に示され第7図に構成的に示されている圧力軽減バルブ164と接続している。圧力軽減バルブ164は、空所134中の液体圧を制限し、ケース114の空間116に液体を送り込むように働く。圧力軽減バルブ164は、空間116と空所134との間に存在する圧力差により作用するタイプのバルブである。
空所134は第5図に示す如く、通路168によりこれに相互に結合された部分166を有し、また中間ハウジング30に位置するベアリング54に至る通路170を有している。またパイプ172は空所部分166からスラストピストン室60に通じていてスラストピストン62に作用する圧力のかかつた液体を供給する。第3図に示される如くカバー部分175により形成される室174へのスラストピストンの周縁を通つて漏れる液体は、この室から、中間ハウジングの適当な通路を介して穴20に通じているパイプ178に接続しているパイプ176によつて排出される。空所部分166に接続されたパイプ180はまた、ベアリングハウジング34中のベアリング52および同様にベアリングハウジング34中に前述の如く位置するめすロータ14のスラストピストンに液体を供給する。液体はまたパイプ182を経由して軸シールアセンブリ108に供給され、接続パイプ184を介してシールからパイプ178に排出される。
コンプレツサベアリングから、およびスラストピストンとシール108とから排出される液体は、交叉する穴18と20とからなる作動室内に流れる。」(第9欄第29行~第11欄第9行)
キ 「上に述べた液体噴射および潤滑機構から明らかなように、中間ハウジング30内に分布空所あるいはマニホールドを設けまたケース98と114内にほぼ全部のパイプを位置せしめたことにより、コンプレツサ10の外への噴射液体の漏れの大部分が除去されることとなる。」(第12欄第13~18行)
(2)甲1の記載から理解できる事項
ア スクリュー圧縮機においては、潤滑等のためにロータに油を供給しつつ、ロータによりガスが圧縮され吐出されるから、スクリュー圧縮機の吐出流路において、液体が含まれる高圧ガスから液体を分離し、液体が分離された高圧ガスが送り出されることは技術常識である。そして、前記(1)ア及びオの記載並びに前記技術常識から、液体噴射スクリユウコンプレツサの吐出流路において、オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し、液体が分離された高圧ガスを送り出すことが理解できる。
イ 前記(1)エ及び第3図の記載から、おすロータ12の両側に延びる軸部分63、66をラジアルスリーブタイプのベアリング52、54により回転可能に支持して、モータに接続される入力軸を低圧側の軸部分66としていることが理解できる。
ウ 前記(1)エ及び第3図の記載から、おすロータ12の高圧端部分63をベアリング54よりもおすロータ12から離れた位置にてアンギユラコンタクトボールベアリング56により回転可能に支持することが理解できる。
エ 前記(1)エ及び第3図の記載から、アンギユラコンタクトボールベアリング56によりもおすロータ12から離れた位置にて高圧端部分63にスラストピストン62を取り付けていることが理解できる。
オ 前記(1)カ並びに第3図、第5図及び第7図の記載から、スラストピストン62のアンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に、高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を、ポンプ140を経由して導く経路(136、138、142、144、134、168、166、172)を設けて形成したことが理解できる。
(3)甲1に記載された発明
甲1の記載事項(前記(1))及び甲1の記載から理解できる事項(前記(2))によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「吐出流路において、オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し、液体が分離された高圧ガスを送り出すとともに、おすロータ12の両側に延びる軸部分63、66をラジアルスリーブタイプのベアリング52、54により回転可能に支持して、モータに接続される入力軸を低圧側の軸部分66とし、おすロータ12の高圧端部分63を上記ベアリング54よりもおすロータ12から離れた位置にてアンギユラコンタクトボールベアリング56により回転可能に支持するとともに、上記アンギユラコンタクトボールベアリング56よりもおすロータ12から離れた位置にて上記高圧端部分63にスラストピストン62を取り付け、このスラストピストン62の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に、高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を、ポンプ140を経由して導く経路(136、138、142、144、134、168、166、172)を設けて形成した液体噴射スクリユウコンプレツサ。」
2.甲2
(1)甲2の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2(特開昭57-159993号公報)には、「スクリユー圧縮機」に関し、図面とともに次のとおり記載されている。
ア 「本発明は、互に噛み合う一対のスクリユーロータをロータ室で回転せしめて気体を圧縮する噴射式スクリユー圧縮機の運転中に生じる軸方向推力を打消すバランスピストンに関するものである。」(第1ページ右下欄第11~15行)
イ 「従来、この種の圧縮機は雄ロータを含む縦断面図の第1図に示されるようにロータケーシング1の両側は吸込側端壁及び吐出側端壁をなしており、吸込ケーシング2、吐出ケーシング3により密閉され、雄ロータ4と図示されない雌ロータがかみ合つており、両ロータはケーシング1の吐出し側の双円弧形外周と接している。雄ロータ4は吸込ケーシング1中のジヤーナル軸受6、吐出ケーシング3中のジヤーナル軸受8、スラスト玉軸受12により支承され、軸封装置18にて軸封され駆動端が機外に突出している。軸受6側の軸部4bは延出され軸端にはバランスピストン32が固定され、吸込ケーシング2に直接又は固定されたシリンダ中を滑動して回転するようになつている。22は吸込通路、25は吐出通路である。雌ロータ側は同様に機外に突出しない軸により軸架されバランスピストンを有しない。31はスライドバルブである。スクリユー圧縮機が運転されると雄ロータ4と雌ロータはかみ合つてその間の作用空間が吐出側へ移行して冷媒は圧縮され吐出口より吐出通路25へ吐出される。一方、軸受及びロータ間及びロータとロータケーシング1間の潤滑、冷却、密封を行う油は吐出されたガスと共に吐出配管50をとおり油分離器52に入りそこで分離されて油配管53により油冷却器55に送られて冷却され、フイルタ56にて炉過されて、油ポンプ57により昇圧されて、軸受6、8、12等の各軸受、軸封装置18、スライドバルブ31ほかを介してロータ作用空間へ送られる。同じく送油された油ポンプ57からの圧油はバランスピストン室34に送られ、発生するロータの推力と均衡するようになつており、これらの給油は吐出通路25に再び出て合流する。」(第1ページ右下欄第16行~第2ページ右上欄第10行)
ウ 「このような従来のスクリユー圧縮機のバランスピストンは油ポンプで加圧された潤滑冷却シール用の圧油を作動油として供給しているため次の欠点があつた。
(1) ・・・
(2) 特に起動時圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることによりロータが吐出側に推されスラスト軸受およびスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかりしかも起動のたびに繰返えされるため疲労変形の恐れがある。また、ロータ吐出側端面と吐出ケーシング端面が接触し、両端面が損傷したり発熱し、その発熱によりラジアル軸受メタルが溶融して流出することも起り得る。
(3) ・・・」(第2ページ右上欄第11行~左下欄第15行)
エ 「本発明はスクリユー圧縮機における従来のバランスピストンの加圧方法の問題点に鑑みなされたもので吐出圧の変動によるロータ推力に均衡し、従つて起動時、運転中に限らずロータが移動せず、油ポンプの容量を増大させないようなバランスピストンの加圧方法を得ることを目的とするものである。」(第2ページ左下欄第16行~右下欄第2行)
オ 「本発明はスクリユー圧縮機において、吐出流体と共に潤滑、冷却、密封用の油が油分離機により回収され、油ポンプにより圧縮機各部に給油され、吸込ケーシングに設けたロータ軸端の突出する空間にロータ軸に固定したピストンと吸込ケーシングに固定したシリンダをすきま少く嵌入してピストンの反吐出側に圧縮機の吐出圧力を受けた油を供給したことを特徴とするものである。」(第2ページ右下欄第3~11行)
カ 「第5図は油圧回路図を示す図面である。吐出通路25に吐き出された油を多量に含む圧縮ガスは吐出配管50を通り油分離器52に導かれ、圧縮ガスと油とに分離されたのち圧縮ガスは配管51から吐出され、油は油配管53により油冷却器55に導かれる。」(第4ページ左下欄第14~19行)
キ 「油分離器52より分離された油の一部はフイルタ59を途中に備える配管58を通じてバランスピストン室34へ送られる。バランスピストン32には従つて吐出圧縮ガス圧力に追従して変化する油圧力が加わる。」(第4ページ右下欄第7~11行)
(2)甲2の記載から理解できる事項
甲2の第5図の記載から、配管58は、バランスピストン室34に、油分離器52の油を加圧することなく導くことが理解できる。
(3)甲2に記載された技術事項
甲2の記載事項(前記(1))及び甲2の記載から理解できる事項(前記(2))によれば、甲2には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては、特に起動時、圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより、ロータが吐出側に推され、スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題があつたところ、この課題を解決するために、油を多量に含む圧縮ガスから油を分離回収し、油分離された圧縮ガスを送り出す油分離器52を吐出配管50に設け、軸部4b端には、雄ロータ4と雌ロータ5の推力のバランスをとるためのバランスピストン32に面するバランスピストン室34に、上記油分離器52の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成したスクリユー圧縮機。」
3.甲3
(1)甲3の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲3(国際公開第95/10708号)には、図面とともに次のとおり記載されている。
({}内は当審による仮訳である。)
ア 「Through the known devices an in normal cases appropriate reduction of the thrust load is attained. A problem、 however、 arises when the outlet pressure varies and in particular when also the inlet pressure varies. Under such working conditions axial gas forces will vary with the result that the rotor might be under- or overbalanced、 depending on how the balancing piston is dimensioned and on the various working conditions. The result will be a decrease in the running life of the thrust bearings.」(明細書第1ページ第7~12行)
{公知の装置によれば、通常のケースにおいて、スラスト荷重を適切に低減することができる。しかしながら、出口圧が変化し、特に入口圧も変化するとき、問題が発生する。このような運転条件では、軸方向ガス力が変化し、結果として、バランスピストンの寸法や種々の運転条件によって、ロータがアンダーバランス又はオーバーバランスの状態になってしまうかもしれない。この結果は、スラスト軸受の寿命を減少させるであろう。}
イ 「The object of the present invention is to attain simple and reliable means for an automatic adaptation of the thrust balancing force to various working conditions in a compressor in question、 in particular for operating with high inlet and outlet pressures.」(明細書第1ページ第25~27行)
{本発明の目的は、問題になっている圧縮機における種々の運転条件(特に、高い入口圧及び出口圧で運転するための運転条件)へのスラストバランスの自動的な適応のための簡素且つ信頼性の高い手段を達成することである。}
ウ 「The compressor 1、 which is of the rotary screw type with a pair of intermeshing screw rotors、 has a low pressure inlet 2 and a high pressure outlet 3. One of the rotors is provided with a shaft extension 15 connected to driving means not shown、 the shaft extension having a balancing piston 11 in a cylinder 14. The compressor is oil injected and in the outlet pipe 8 there is an oil separator 10. From the oil separator the gas escapes through the delivery pipe 9、 and the separated oil flows back to the working space through a pipe 6 and the oil injection means 4. The pipe 6 is provided with a first throttle 5 adjacent to the oil separator、 and the oil injection means constitutes a second throttle 4. Between the first 5 and second 4 throttle a branch pipe is connected to the pipe 6、 which branch pipe ends in the cylinder 14.」(明細書第2ページ第18~26行)
{圧縮機1は、互いに噛み合う一対のスクリュロータを備えた回転スクリュータイプのものであり、低圧入口2と高圧出口3とを有する。一方のロータは不図示の駆動手段に連結されるシャフト延長部15を有し、シャフト延長部はシリンダ14内にバランスピストン11を有する。圧縮機には油が注入され、オイルセパレータ10が出口配管8に設けられている。オイルセパレータからのガスはデリバリパイプ9を介して排出され、分離された油は配管6及び油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっている。配管6には、オイルセパレータに隣接して第1スロットル5が設けられており、油注入手段が第2スロットル4を構成している。第1スロットル5及び第2スロットル4の間において、配管6には、シリンダ14まで分岐配管が到達している。}
エ 「At operation there will be an axial gas force F acting on each rotor in a direction from the high pressure end to the low pressure end of the compressor、 i.e. leftwards in the figure、 which gas force is a function of ps and pd. The balancing force Fb from the piston 11 depends on the effective pressure area 12 of the piston and is a function of pb and pa. The balancing force should be smaller than the gas force and thus leave a resultant force FR = F - FB to be taken up by the thrust bearings. It is desirable that the resultant force lies within a certain range Fmin < FR < Fmax、 where Fmin and Fmax are determined by the load requirements of the thrust bearings.」(明細書第3ページ第7~14行)
{運転時、圧縮機の高圧端から低圧端に向かう方向(即ち、図中左側)の軸方向のガス力Fが各ロータに作用し、このガス力はps及びpdの関数である。ピストン11からのバランス力Fbは、ピストンの有効加圧面積12に依存し、pb及びpaの関数である。バランス力はガス力未満であるべきであり、合力FR=F-FBはスラスト軸受によって負担されるべきである。合力は、所定範囲(Fmin<FR<Fmax)内に収まるべきである。但し、Fmin及びFmaxは、スラスト軸受の負荷要求によって定まる。}
(2)甲3の記載から理解できる事項
ア 前記(1)ウ及び図面の記載からみて、油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、油を一旦下部の油溜まり部に溜め、油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10を出口配管8に接続していることが理解できる。
イ 甲3の図面を参照すると、配管6及び分岐配管7には油圧ポンプが設けられておらず、オイルセパレータ10からの油を「加圧することなく」シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に導くようになっていることが理解できる。
さらに、油は油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっていると記載されているから、このスクリュー圧縮機は油冷式であるといえる。
(3)甲3に記載された技術事項
甲3の記載事項(前記(1))及び甲3の記載から理解できる事項(前記(2))によれば、甲3には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、油を一旦下部の油溜まり部に溜め、油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10を出口配管8に接続し、シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に、上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した、油冷式スクリュー圧縮機1。」
4.甲4
(1)甲4の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲4(特開昭57-122188号公報)には、図面とともに次のとおり記載されている。
ア 「(7)特許請求の範囲第1項から第6項のいずれか1項に記載の油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法に於いて、前記ねじロータの軸的平衡の為に、圧力油が前記低圧側のねじロータの軸端(20)に近接した圧力空間に供給されることを特徴とする油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法。」(特許請求の範囲第7項)
イ 「(11)特許請求の範囲第7項から第10項のいずれか1項に記載の油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法に於いて、前記ねじロータの圧力空間に供給される油の圧力が前記ねじ形圧縮機の出力圧力とほぼ同じであることを特徴とする油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法。」(特許請求の範囲第11項)
ウ 「圧縮機の低圧側には、好ましくはころ軸受型のラジアル軸受と好ましくはアンギユラ・コンタクト玉軸受型のアキシアル軸受18がねじロータ15を支承する為に組み入れられている。この軸受組み入れ部分の外側に於いて、ねじロータ15の高圧端に作用する軸力の主要部分を平衡さす為にロータ軸端20に平衡ピストン19が配備されている。前記平衡ピストン19は圧力空間21に位置させられ、そして該圧力空間21へ油入口孔22を介して外側から圧力油が供給され得る。」(第3ページ右下欄第1~10行)
エ 「ねじロータ15の平衡ピストン19の圧力空間21に油が供給されるが、該油の圧力は油冷却器と油フイルタ中の圧力低下によつて減圧されたねじ形圧縮機の出口圧力に対応する。」(第4ページ左下欄第12~15行)
オ 「軸方向の力が高いねじロータ上には、本発明に係る装置により平衡力が与えられ、該平衡力は圧縮機に於ける逆圧の増大と共に増大し、それによつて軸受力そして、従つて、軸受稼動寿命は、実質的に一定である。」(第5ページ右上欄第19行~左下欄第3行)
(2)甲4に記載された技術事項
前記(1)の記載事項によれば、甲4には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「油冷却器及び油フイルタでの圧力降下によって減少したねじ圧縮機(スクリュ圧縮機)の出口圧力に対応する圧力の油を、平衡ピストン19(バランスピストン)に面する圧力空間21に導くための油入口孔22を設けて形成した油注入式ねじ形圧縮機。」
5.甲5
(1)甲5の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲5(実願昭62-128114号(実開昭64-34493号)のマイクロフィルム)には、「スクリュ圧縮機のスラスト力釣合装置」に関し、図面とともに次のとおり記載されている。
ア 「本考案は、以上の問題点を解消するために、バランスピストンの給排油構造を簡素化し、しかも圧縮ガス圧力の変動に係わらず安定したスラスト力の釣合と、圧縮作用空間及び軸受空間との確実な軸封作用が行えると共に、ロータ端面とケーシング端壁間との吐出端面隙間の正確な調整を可能とし、安価でしかも性能のよいスラスト力釣合装置を提供することを目的とする。」(明細書第4ページ第17行~第5ページ第4行)
イ 「さらに、オスロータ3側のベアリング12と該ロータの端面21間には、外周面にラビリンス溝を有する大径部14と小径部15より成るスペーサ16が嵌着し、該ロータと吐出ケーシング9間の吐出端面スキマを保持している。さらに、前記大径部14と小径部15の双方は、吐出ケーシング9の端壁22に形成する大径穴と小径穴とから成る軸封穴17内に密封摺動自在に挿通すると共に、前記スペーサの大径部14と小径部15との境にある段部18と、前記軸封穴17間に形成される作用室19を、連通孔20を介してメスロータ4に嵌着する軸封カラー25の油溝26と連通している。
この油溝26は、前記軸封カラーの略中央部に全周にわたって形成されているもので、吐出ケーシング9に穿設した給油孔27と連通し、さらに配管28を介してセパレータタンク29内の油溜30と接続している。」(明細書第6ページ第12行~第7ページ第8行)
ウ 「圧縮機を運転すると、吸入口45から吸入されたガスはオス・メスロータ3・4の噛み合いによって圧縮され、吐出口46より吐出され、図示せざる吐出配管を介してセパレータタンク29内に圧送される。
これにより、油溜30内の潤滑油は前記圧縮ガス圧力により押し出され、配管28、給油孔27を介してメスロータ4の軸封カラー25外周部に形成された油溝26を経て、オスロータ3に設けられたスペーサ16の作用室19内に圧送される。
したがって、オスロータ3には常時圧縮ガス圧力に比例した図中A方向のスラスト荷重が作用する。
一方、前記したオス・メスロータの噛み合い回転に伴う圧縮作用により、両ロータには圧縮ガス反力としてラジアル荷重と、図中B方向へのスラスト荷重が作用するが、このオスロータ側のスラスト荷重を前記作用室19内の油圧によってスペーサ16に作用する図中A方向のスラスト力が相殺し、ベアリング12に加わるスラスト荷重を軽減する。
即ち、前記A及びB方向のスラスト荷重は常に圧縮ガス圧力に比例した力で作用するので、前記圧縮ガス圧力の変動に係わらず常に均衡のとれた釣合が成される。」(明細書第7ページ第12行~第8ページ第16行)
(2)甲5の記載から理解できる事項
前記(1)イ、ウ及び第1図の記載からみて、油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、油を一旦下部の油溜30に溜め、油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続すること、及び、スペーサ16に面する吸入側の作用室19に、油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続することが理解できる。
(3)甲5に記載された技術事項
甲5の記載事項(前記(1))及び甲5の記載から理解できる事項(前記(2))によれば、甲5には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、油を一旦下部の油溜30に溜め、油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続し、
バランスピストンとして機能するスペーサ16に面する吸入側の作用室19に、油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続した、スクリュ圧縮機。」
6.甲6
(1)甲6の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲6(森山浩三、「冷凍空調設備の保守管理とサービス 4.4 スクリュー圧縮機(二軸形)」、冷凍、平成6年、第69巻、9月号、p.38~42)には、次の事項が記載されている。
ア 「2.1 新歯形と高性能化
スクリュー圧縮機の圧縮機構については詳細は割愛するが、雄ロータ及び雌ロータと称される2本の特殊な歯車が噛み合わされ、回転が進むにつれてロータケーシングと歯溝で囲まれた容積が減少(圧縮)する、一種の容積形圧縮機である。・・・」(第38ページ)
イ 「2.3 軸受と給油機構
スクリュー圧縮機の軸受については、従来ラジアル荷重を受けるスリーブ軸受と、スラスト荷重を受けるアンギュラ形玉軸受とで構成されていた。比較的小形のものについては、高負荷タイプのころがり軸受が開発されていたこともあり、従来のスリーブ軸受に替ってころがり軸受でラジアル荷重を受ける事が可能になり、全ころがり軸受で構成される様になった。これは、従来のスリーブ軸受では潤滑に必要な油膜保持の為、油ポンプが必要であったものが、不要になった事を意味する。潤滑油は吐出圧力に近い給油圧力と、吸込圧力に近い排油圧力の差圧により自給される。」(第39ページ)
ウ 「2.5 コンデンシングユニット
スクリュー圧縮機は圧縮過程に油を噴射して、ガスの冷却とロータ―の隙間のシールを兼ている。従ってこの油を分離して再度利用する為に油分離器が必要であるが・・・。」(第39ページ)
エ 「(2)吐出圧力と温度
・・・吐出温度はスクリュー冷凍機はオイルインジェクションの為、高速多気筒より低く、通常90℃以下である。・・・」(第40ページ)
オ 「(3)給油圧力と温度
スクリュー圧縮機でポンプレスの場合は、給油圧力は吐出圧力より0.5~2kg/cm2程度配管抵抗により低くなる。又、ポンプ付の場合は、吐出圧力+2~2.5kg/cm2程度高いのが正常である。・・・」(第42ページ)
(2)甲6に記載された技術事項
前記(1)の記載事項によれば、甲6には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「オイルインジェクションを行う油冷式スクリュー圧縮機において、油分離器で分離された油を圧縮機における油供給先に供給する方式として、ポンプを用いる方式(強制給油方式)と、ポンプを用いない方式(差圧給油方式)と、を採用し得ること、及び、
ポンプを用いない方式では、ポンプを用いる方式よりも低い圧力で油が供給されること。」
7.甲7
(1)甲7の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲7(常富実、外3名、「日立パッケージ形スクリュー圧縮機『OS-Pシリーズ』」、日立評論、昭和52年、第59巻、第10号、p.57~62)には、次の事項が記載されている。
ア 「スクリュー圧縮機は4枚歯の凸面をもった雄ロータ、6枚歯の凹面をもった雌ロータから構成されて、互いに反対方向に大きくねじれ、ロータみぞとケーシングとの間にできる空間で、吸入、圧縮、吐出しが行なわれる(図1)。
パッケージ形スクリュー圧縮機は、いわゆる油冷式スクリュー圧縮機で、圧縮の過程で多量の油を噴射し、効率の向上、吐出し温度の低下を図っている。すなわち、空気を圧縮するときに発生する圧縮熱を冷却し、等温圧縮に近づけ吐出し温度を低下させるとともに、雄ロータと雌ロータ間に生ずるギャップ及びロータとケーシング間に生じるギャップを油によりシールし、内部の漏れ損失を少なくし効率の向上を図っている。更に雌ロータは雄ロータから直接駆動されるので、噴射される油はロータ相互の潤滑の役目も果たしている。」(第57ページ「2 スクリュー圧縮機の原理」)
イ 「日立パッケージ形スクリュー圧縮機は、圧縮機本体のほか吐出し空気中に含まれる油を分離するオイルセパレータ、高温になった油を冷却するオイルクーラ、オイルセパレータより吐き出された空気を冷却するアフタークーラにより構成され、これらの機器をベースに搭載し、全体をパッケージで囲み騒音の低減を図っている。」(第57ページ「3 日立パッケージ形スクリュー圧縮機の構造」)
ウ 「(1)空気の流れ
空気はパッケージに空けられた吸込口から吸い込まれ、サクションフィルタ、吸込絞り弁を通って圧縮機に入る。圧縮機では1段で7kg/cm2gまで圧縮される。圧縮途中に油を噴射し、主に圧縮空気の冷却を行なうため、吐出し空気中に多量の油が含まれる。圧縮空気はこの油とともにオイルセパレータに入り、油を分離した後、アフタークーラにより冷却され、使用に供される。
(2)油の流れ
オイルセパレータで分離された油はオイルクーラで冷却され、オイルセパレータ内の圧力と圧縮機本体内の圧力差によって圧縮機内に噴射され、圧縮空気の冷却、ロータの潤滑、シールラインのシール及びベアリングの潤滑を行なう。」(第57~58ページ)
エ 「3.4 主要機器の構造
(1)圧縮機
圧縮機は立て形で、2極オーバーハングモータにより直接雄ロータを駆動する。・・・吸込側に組合せアンギュラコンタクトベアリング、吐出し側にローラベアリングを配置し、圧力により生ずるスラスト荷重、ラジアル荷重を支えている。・・・
モータは雄ロータ軸にオーバハングして取り付けられ(図6)・・・。
(2)オイルセパレータ
オイルセパレータは立て形で、衝突、方向転換によって液状油を分離した後、繊維径の極めて細い特殊繊維を織り重ねたカートリッジ式のエレメントで微細な油を補集しているので、空気中の油の含有率は極めて低い。・・・
(3)オイルクーラ
オイルクーラは管巣式で、管外に油が流れ、管内を冷却水が流れ油を冷却する。・・・」(第60ページ)
(2)甲7に記載された技術事項
前記(1)の記載事項によれば、甲7には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「油を噴射する油冷式スクリュー圧縮機において、オイルセパレータの油溜まり部の油を加圧するためのポンプを具備せず、オイルセパレータ内の油を油供給先に差圧によって給油すること。」
8.甲8
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲8(「スクリュー圧縮機の技術とその応用」、西村喜之、ターボ機械第17巻第9号、1989年9月発行、p.25~30)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「雄雌ロータの一方の端に同期歯車を装備し、圧縮室であるロータ歯部では全く接触しないようにしたものが無給油式(オイルフリー)と呼ばれているもので、後述する油冷式に比べると2倍~3倍の高速で使用される(図3)。また、圧縮室と軸受部を隔離する軸封装置が重要な要素となっている。
一方、ロータ歯部に大量の潤滑油を注入し、これによって潤滑、圧縮熱の吸収、漏れの極小化を図ったものが油冷式と呼ばれるものである。油冷式には同期歯車はなく、一般的に雄ロータで雌ロータを駆動する方式がとられている。(図4)
油冷式ではガスと油が混じるので、これらは圧縮機から吐出されたあと油回収器で分離される。分離された油は循環使用される。」(第25ページ左欄第20行~第26ページ左欄第1行)
9.甲9
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲9(「日立油冷式スクリュー圧縮機『OSシリーズ』」、常富実、他2名、日立評論Vol.54 No.4、1972年発行、p.30~36)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「油冷式スクリュー圧縮機では、圧縮機本体以外に、本体に噴射した多量の油を吐出し空気から分離回収するオイルセパレータ、分離回収した油を冷却するオイルクーラが基本構成として付属する。」(第33ページ左欄第17~19行)
第5 当審の判断
1.無効理由1について
(1)対比
本件特許発明と甲1発明とを対比する。
本件特許発明と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明における「オイルである液体」あるいは「液体」は、本件特許発明における「油」に相当し、以下同様に、「放出」は「吐出」に、「高圧ガス」は「圧縮ガス」に、「分離冷却」は「分離回収」に、「おすロータ12」は「スクリュロータ」に、「軸部分63、66」は「ロータ軸」に、「おすロータ12の両側に延びる軸部分63、66」は「スクリュロータの両側に延びるロータ軸」に、「ラジアルスリーブタイプのベアリング52、54」あるいは「ベアリング54」は「ラジアル軸受」に、「モータに接続される入力軸」は「入力軸」に、「低圧側」は「吸込側」に、「おすロータ12の高圧端部分63」は「吐出側のロータ軸」に、「アンギユラコンタクトボールベアリング56」は「スラスト軸受」に、「スラストピストン62」は「バランスピストン」に、「高圧部分63にスラストピストン62を取付け」ることは「ロータ軸にバランスピストンを取付け」ることに、それぞれ相当する。
また、甲1発明における「吐出流路において、オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し、液体が分離された高圧ガスを送り出すとともに」と、本件特許発明における「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、一旦下部の油溜まり部に溜め、油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける」とは、「吐出流路において、油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、油が分離された圧縮ガスを送り出す」という限りにおいて一致する。
甲1発明における「スラストピストン62の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に、高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を、ポンプ140を経由して導く経路(136、138、142、144、134、168、166、172)を設けて形成した」ことと、本件特許発明における「バランスピストンの仕切り壁側の空間に、上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」こととは、「バランスピストンのスラスト軸受側の空間に、油を導く経路を設けて形成した」ことという限りにおいて一致する。
したがって、両者は、
「吐出流路において、油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、油が分離された圧縮ガスを送り出す一方、スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし、吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに、上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け、このバランスピストンのスラスト軸受側の空間に、油を導く経路を設けて形成した油冷式スクリュ圧縮機。」
の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
「吐出流路において、油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、油が分離された圧縮ガスを送り出す」に関して、
本件特許発明においては、油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、一旦下部の油溜まり部に溜め、油分離された圧縮ガスを送り出す「油分離回収器を吐出流路に設ける」であるのに対して、
甲1発明においては、吐出流路において、オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し、液体が分離された高圧ガスを送り出すとされているものの、何で高圧ガスから液体を分離冷却し、液体が分離された高圧ガスを送り出しているのかについては不明である点。
<相違点2>
本件特許発明においては、「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け」ており、また、「このバランスピストンの仕切り壁側の空間」に、油を導く経路を設けて形成したものであるのに対し、
甲1発明においては、アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン62との間に圧力遮断する仕切り壁を設けているか否か不明である点。
<相違点3>
バランスピストンのスラスト軸受側の空間に、油を導く経路を設けて形成したことに関して、
本件特許発明においては、バランスピストンの仕切り壁側の空間に、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く」均圧流路を設けて形成したのに対し、
甲1発明においては、スラストピストン62の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に、高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を、ポンプ140を経由して導く経路(136、138、142、144、134、168、166、172)を設けて形成した点。
(2)判断
各相違点について検討する。
ア 相違点1について
甲1においては、「油分離回収器」に関して明記がないが、油冷式スクリュ圧縮機において、油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、油が分離された圧縮ガスを送り出す手段として、油分離回収器を備えることは、例えば、甲6、甲8及び甲9に記載されるように技術常識であり、甲1発明が油分離回収器を備えることもかかる技術常識から明らかである。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 相違点2について
(ア)本件特許発明における「圧力遮断する仕切り壁」の技術的意義
a 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スクリュロータに作用するスラスト力を軽減するようにした油冷式スクリュ圧縮機に関するものである。」
(b)「【0013】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の一形態を図面にしたがって説明する。
図1~3は、第1発明の第1の実施形態に係るスクリュ圧縮機を示し、図6、7に示すスクリュ圧縮機と互いに共通する部分については、同一番号を付して説明を省略する。
この圧縮機の場合、油ポンプ6の一次側にて油供給流路7から分岐させた均圧流路8が設けてあり、油ポンプ6の二次側に続く油供給流路7の部分はラジアル軸受13、14の箇所に導き、均圧流路8はバランスピストン17の箇所に導くように形成してある。この圧縮機本体3内の構造について、さらに詳説すれば、図2、3に示すように、圧縮機本体3の吐出側のロータ軸に、スクリュロータ11、12側から順番に、ラジアル軸受14、スラスト軸受16、バランスピストン17を設けるとともに、スラスト軸受16とバランスピストン17との間に仕切り壁31を設けてある。この仕切り壁31は内周部に軸封手段32を備え、スラスト軸受16を収容している空間Aとバランスピストン17を収容している空間Bとを圧力遮断して、空間Bを、入力軸15、スラスト軸受16、ラジアル軸受13、14等の他の構成要素とは独立させてある。
【0014】
そして、空間Aには吸込圧力Psを導き、空間Bのバランスピストン17のスラスト軸受16側の面には均圧流路8により吐出圧力Pdを導いている。
上述したように、入力軸15を吸込側に配置してあるためスラスト軸受部の径はラジアル軸受14、入力軸15の径によって左右されず、スラスト軸受16の内径を小さくして、その負荷容量を大きくすることができる。また、空間Bを他の構成要素から独立させてあるので、バランスピストン17の軸径、外径を他の構成要素に左右されることなく定めることができる。
バランスピストン17に作用する力Fは、次式で表される。
F=(D2-d2)・(π/4)×Pd
ここで、Dはバランスピストン17の外径、dはバランスピストン17の軸径であり、したがって、十分にスラスト力を軽減するためには、力Fを大きくすればよく、そのためには(D2-d2)を大きくして、バランスピストン17の必要な受圧面積を確保すればよい。即ち、バランスピストン17の外径Dを大きく、軸径dを小さくすればよい。」
b 圧力遮断する仕切り壁の技術的意義
前記(a)の記載によれば、本件特許発明は、「スクリュロータに作用するスラスト力を軽減する」ことを前提としているところ、前記(b)の記載と本件特許図面の図3を参照すると、本件特許発明における「仕切り壁」とは、十分にスラスト力を軽減するように吐出圧力Pdをバランスピストン17に作用させるために、吐出圧力Pdが導かれる空間Bと吸込圧力が導かれる空間Aとの間に配置することにより、空間Aと空間Bとを圧力遮断するものである。
そうすると、「圧力遮断する仕切り壁」の密封性については、本件特許発明が前提とする「スクリュロータに作用するスラスト力を軽減する」ように吐出圧力Pdをバランスピストン17に作用させることができる程度に空間Bから空間Aへの油の流出を妨げることができることを要するものであって、全く流出させないほどの密封性を要するものではないと解される。
(イ)甲1発明における部品7、部品5及び部品4
a 部品の配置
甲1の図3を参照すると、スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56との間には、右から順に部品7、部品5及び部品4が配置されるとともに、それらの下方に部品6が配置されることが看取できる。(部品1ないし7については下記参考図参照。なお、参考図は、被請求人が平成31年2月8日に提出した口頭審理陳述要領書の17ページに記載されたものを参考に当審が作成した。)
[図:0001389986000001.jpg]
b 圧力差の存在
甲1発明において、スラストピストン室60には、コンプレツサ噴射液体のような圧力のかかった液体が導かれ、その圧力が、スラストピストン62に作用して、スラスト力を軽減している。
他方、アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間について検討すると、甲1には、コンプレツサベアリングに液体を分布させることが記載され、具体的には、ベアリング52、54に液体を供給することが記載されているが、アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給については具体的な記載はない。そして、ボールベアリングを油で潤滑することは一般にも行われているが、ボールベアリングが配置される空間が高圧の油で完全に満たされているとボールの円滑な転動が阻害されるから、通常そのようなことは考えにくい。そうすると、甲1発明において、アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間は、ポンプ140で加圧された液体で完全に満たされていることはなく、当該空間はせいぜい気液混合状態であって、スラストピストン室60よりも低圧であり、アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とスラストピストン室60との間には圧力差が存在しているものと認められる。
c 密閉性の程度
ところで、甲1の図3の記載から、部品5及び部品7には、両部材を貫通する穴が形成され、このような貫通穴は部品4の右端面に開口していることが看取できる。さらに、技術常識に鑑みれば、甲1の図3における部品3及び部品4は、アンギユラコンタクトボールベアリング56の外輪を回転不能に固定するための部品であり、部品5の押圧力を部品4を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56の外輪に作用させていることが理解できる。したがって、部品5と部品4との間は相当に密なものであると解されるものの、部品5の貫通穴と部品4の右端面とにシール部材は見受けられず、また、前述のとおりアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間は低圧であるから、スラストピストン室60に供給された液体が前記貫通穴を介して、部品5と部品4との間からアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間に漏れ出る可能性が全くないとまではいえない。
しかし、前記(ア)bで検討したように、本件特許発明の「圧力遮断する仕切り壁」の密封性は、発生する逆スラスト荷重にバランスする十分な圧力がバランスピストン17に作用させることができる程度に空間Bから空間Aへの油の流出を妨げることができるものであって、全く流出させないほどの密封性を要するものではない。そして、甲1に「コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて、ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。」(第6欄第22~25行)との記載があることから、甲1発明においても、部品7、部品5及び部品4は、全体として、スラストピストン62に作用するスラスト方向の力をスラストピストン室60内の圧力により相殺する程度に、スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮断していると解される。
d 圧力遮断する仕切り壁への該当性
そうすると、甲1発明において、部品7、部品5及び部品4は、圧力差のあるスラストピストン室60と、アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に配置することにより、これらの空間を遮断するものであるから、本件特許発明の「圧力遮断する仕切り壁」の機能を有していると認められる。
(ウ)したがって、甲1発明は、本件特許発明の「圧力遮断する仕切り壁」に相当する部品を備えているから、相違点2は実質的な相違点ではない。
ウ 相違点3について
(ア)逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題
甲2に記載された技術事項は前記「第4」の2.(3)のとおりであり、甲2には、「バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては、特に起動時、圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより、ロータが吐出側に推され、スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題があ(る)」こと、すなわち、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題が示されている。
そして、甲1発明は、高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を、ポンプ140を経由してスラストピストン室60に導く経路を設けて形成した液体噴射スクリユウコンプレツサであるが、逆スラスト力が発生しないことを裏付けるような事情はないから、甲1発明は、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しているものと認められる。
(イ)非加圧流路の設定に係る周知技術
甲2に記載された技術事項は前記「第4」の2.(3)のとおりであり、「バランスピストン32に面するバランスピストン室34に、上記油分離器52の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成」したものである。
甲3に記載された技術事項は前記「第4」の3.(3)のとおりであり、「シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に、上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した、油冷式スクリュー圧縮機1」である。
甲4に記載された技術事項は前記「第4」の4.(2)のとおりであり、「圧力降下によって減少したねじ圧縮機(スクリュ圧縮機)の出口圧力に対応する圧力の油を、平衡ピストン19(バランスピストン)に面する圧力空間21に導くための油入口孔22を設けて形成した油注入式ねじ形圧縮機」である。
甲5に記載された技術事項は前記「第4」の5.(3)のとおりであり、「バランスピストンとして機能するスペーサ16に面する吸入側の作用室19に、油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続した、スクリュ圧縮機」である。
そうすると、甲2~甲5には、スクリュ圧縮機において、バランスピストンに圧力を作用させるための空間に、圧縮機から回収された油を加圧することなく導く導管を設けることが記載されていたものであり、それは、本件特許の出願日前に周知の技術事項であったものと認められる。
(ウ)甲1発明は、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しており(前記(ア))、スクリュ圧縮機において、バランスピストンに圧力を作用させるための空間に、圧縮機から回収された油を加圧することなく導く導管を設けることは本件特許の出願日前に周知の技術事項であったから(前記(イ))、甲1発明の前記課題を解決するために、上記の周知の技術事項を適用して、スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
エ 被請求人の主張について
(ア)相違点2について
a 被請求人は、平成30年11月9日提出の審判事件答弁書、及び平成31年3月1日提出の口頭審理陳述要領書において、甲1発明において、アンギユラコンタクトボールベアリング56には、温度上昇による損傷を防止すべくスラストピストン室60から液体(低温の油)を供給し続ける必要があり、そのため、アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン室60との間に介在する部品7、部品5及び部品4は、部品7及び部品5に貫通穴が設けられ、それらの貫通穴が互いに連通されているという構成であり、また、部品4は、その内側の空間を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間と空間的に連通されているという構成であるから、部品7、部品5及び部品4をもって、圧力遮断する仕切り壁ということはできないと主張している。
しかし、前記イ(イ)cのとおり、本件特許発明の「圧力遮断する仕切り壁」は、油を全く流出させないほどの密封性を要するものではなく、甲1発明の部品7、部品5及び部品4は、全体として、スラストピストン62に作用するスラスト方向の力をスラストピストン室60内の圧力により相殺する程度に、スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮断していると解されるから、「圧力遮断する仕切壁」に該当するものと認められ、被請求人の上記主張を採用することはできない。
b また、被請求人は、甲1発明において、スラストピストン62が、ポンプ140で「充分」に「液体圧を増加せしめ」られた液体の供給を受け、「ロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する」という機能を実現するために要求されるのは、スラストピストン62のロータ側に作用する圧力、つまりスラストピストン室60の圧力が、スラストピストン62の反ロータ側に作用する圧力、つまり室174の圧力よりも高いことであるとし、部品7、部品5及び部品4が「圧力遮断する仕切り壁」に相当する部品でなくとも、スラストピストン室60は室174よりも高圧であるため、上記機能は実現されると主張する。
しかし、部品7、部品5及び部品4は、スラストピストン室60と、アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に存在するから、スラストピストン室60と、アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に圧力差があれば、室174の圧力如何にかかわらず、部品7、部品5及び部品4は圧力遮断する仕切り壁に該当すると認められる。また、被請求人の主張は、スラストピストン室60と室174との間に圧力差があれば、貫通穴を有する部品7、部品5及び部品4が「圧力遮断」できない構造であっても、当該圧力差によってスラストピストン62は室174側に押圧されることになる、という趣旨とも解されるが、スラストピストン62を室174側に押圧する力が働くためには、スラストピストン室60内の圧力が上がる必要があり、そのためには、部品7、部品5及び部品4が圧力を遮断するもの、すなわち、「圧力遮断する仕切り壁」でなければならないと解される。したがって、被請求人の上記主張は、採用することができない。
(イ)相違点3について
a 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段の採用と甲1発明の技術思想について
(a)空所134への液体の集約
被請求人は、甲1は、甲1発明が、「改良された液体分布機構」として、ポンプ140によって液体を加圧し、さらに、この加圧した液体をいったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており、甲1発明の「改良された液体分布機構」においては、ポンプ140により加圧された液体が、中間ハウジング30に形成された空所134を介することなく供給される個所は、コンプレツサ内に存在しないとし、したがって、スラストピストン室60についてのみ、ポンプ140によって加圧されない液体を空所134を介することなく供給するなどという構成は、甲1発明の技術思想に反するものであって、適用が排斥されていると主張する。
甲1には、空所134に関し、「中間ハウジング30はまた、圧力のかかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有している。」(第9欄第35~37行)、「空所134は、コンプレツサベアリングおよびシール、スラストピストン、交叉する穴18と20により形成された作動室、および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働く。圧力のかかつた液体は、パイプ148、150通路152およびパイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(第10欄第6~13行)と記載され、ポンプ140によって加圧した液体の供給について、いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると、ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を、あえて空所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは、甲1の技術思想に反するものとして、その適用が排斥されているという余地があるとしても、ポンプにより圧力が加えられない液体をスラストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に、これを、ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが排斥されていると解することはできない。したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
(b)外部への漏出防止
被請求人は、甲1発明は、コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れという課題の解決のために、中間ハウジング30内の空所134、ポンプ140等により構成される「改良された液体分布機構」を備え、ハウジングのジヨイントを最少とするケースを備えるものであると指摘した上、コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れを減少させるためには、そもそも、内部における液体分布機構も改良してガス及び液体の漏れを減少させることが必要又は有益であるとし、したがって、中間ハウジング30内の空所134、ポンプ140等により構成される「改良された液体分布機構」は、甲1発明の課題及びその解決方法と直接関連するものであると主張する。
しかし、スラストピストン室60へ圧力が加えられない液体を供給する非加圧の経路を設けるため、ケース内部において、例えば、パイプ138に分岐を設け、これをスラストピストン室60に接続するように構成したとしても、これによって、コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れが必然的に増大するとは認められない。そのため、甲1発明が、コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れという課題の解決のためのものであるとしても、 中間ハウジング30内の空所134、ポンプ140等により構成される「改良された液体分布機構」を備えることが、甲1発明の課題及びその解決方法と直接関連するものであるとは認められない。したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
b 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段を甲1発明に採用することについての阻害事由について
(a)スラストピストン62、アンギユラコンタクトボールベアリング56へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能不全
被請求人は、ポンプ140は、スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめるものであるところ、甲1発明において、スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとするならば、ポンプ140により「液体圧」を「充分」に「増加せしめ」ることができず、スラストピストン62に「適当な力」を与えることができないため、スラストピストン62のスラスト荷重への対抗が不全となり、コンプレツサ10が機能しなくなると主張し、また、スラストピストン室60、部品7及び部品5の貫通穴を経由してアンギユラコンタクトボールベアリング56に液体を供給し続けることができなくなって、アンギユラコンタクトボールベアリング56は、その温度が許容温度を超えて上昇して損傷し、コンプレツサ10が機能しなくなると主張する。
しかし、甲2~甲5には、スクリュ圧縮機において、バランスピストンに圧力を作用させるための空間に、圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されており、それは、本件特許の出願日前に周知の技術事項であったから(前記ウ(イ))、加圧していない油(液体)によって、バランスピストン(スラストピストン)に、スラスト力をバランスさせるために必要な力を与えているスクリュ圧縮機は、本件特許の出願日前に周知であったものと認められる。また、甲1発明において、アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給がどのように行われているかは不明であって、スラストピストン室60から、部品7及び部品5の貫通穴を経由して液体が供給されていると一義的に解することはできず、仮にそのように液体が供給されているとしても、スラストピストン室60に供給される液体を非加圧にすることで、直ちにアンギユラコンタクトボールベアリング56への供給不足が生じることを裏付ける証拠はない。これらのことに照らすと、スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとすることにより、コンプレツサ10が機能しなくなると認めることはできず、被請求人の上記主張は採用することができない。
(b)フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機能不全
被請求人は、ポンプ140や空所134を経由しない経路を設けると、スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂回することになるので、異物(ロータ同士の接触により生ずる金属くず・鉄粉、液体の化学反応により生ずる不純物等)がスラストピストン室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり、ひいてはコンプレツサ10が機能不全に陥るとし、甲1発明において、スラストピストン室60に液体を供給する構成を、ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラストピストン室60に至る構成に改変しようとすると、フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり、更にはそれに応じた液体パイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため、甲1発明がコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等に反し、そのような構成を採用することには、やはり阻害要因があると主張する。
しかし、スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂回したとしても、圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中で、大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されることになるし、必要であれば、ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し、ポンプにより圧力を加えられる液体も、圧力を加えられない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもできるから、コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また、このように構成を変更するとしても、それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
(c)非加圧の経路を設ける動機付け
被請求人は、甲1には、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題について記載も示唆もなく、甲1発明に、逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはない旨主張する。
甲1に、「圧力軽減バルブ164は、空所134中の液体圧を制限し」(第10欄第24~26行)と記載されていることから、圧力軽減バルブ164を設けた目的は、空所134の過剰な昇圧を防止することにあり、逆スラスト荷重状態を解消することではないと解される。しかし、前記ウ(ア)のとおり、甲2には、「バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては、特に起動時、圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより、ロータが吐出側に推され、スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題があ(る)」こと、すなわち、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題が示されている。そして、上記のような逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生の機序を踏まえると、当業者であれば、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題は、特殊な構造のスクリュ圧縮機に特有のものではなく、スクリュ圧縮機一般に生じることを認識することができるものと認められ、甲1発明のスクリユウコンプレツサ(スクリュ圧縮機)にも生じることを認識することができるものと認められる。このように、甲1発明についても、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を認識できることから、そのような課題を解決するために、逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるものと認められる。そうすると、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言及がないとしても、そのような課題を解決するために甲1発明に非加圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
オ 本件特許発明の効果について
相違点1~3を総合的に勘案しても、本件特許発明が奏する作用効果は、甲1発明及び甲2~甲5に記載された周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許発明は、甲1発明に甲2~甲5に記載された周知技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、本件特許発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効理由1により無効とすべきものである。
2.無効理由2について
(1)対比
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、前記1.(1)に記載したとおりの一致点で一致し、相違点1~相違点3で相違する。
(2)判断
各相違点について検討する。
ア 相違点1及び相違点2について
前記1.(2)ア及びイに示したとおり、相違点1及び相違点2は実質的な相違点ではない。
イ 相違点3について
(ア)前記1.(2)ウ(ア)に示したとおり、甲1発明は、特に起動時、コンプレツサの低圧側(吸入側)と高圧側(吐出側)の圧力差が大きくならないうちにポンプにより吐出された圧力の高い液体(油)がスラストピストンにかかることにより、ロータが高圧側に推され、アンギユラコンタクトボールベアリングなどに過大な応力がかかるという、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しているものと認められる。
(イ)甲6には、前記「第4」の6.(2)のとおり、「オイルインジェクションを行う油冷式スクリュー圧縮機において、油分離器で分離された油を圧縮機における油供給先に供給する方式として、ポンプを用いる方式(強制給油方式)と、ポンプを用いない方式(差圧給油方式)と、を採用し得ること」が記載されている。
甲7には、前記「第4」の7.(2)のとおり、「油を噴射する油冷式スクリュー圧縮機において、オイルセパレータの油溜まり部の油を加圧するためのポンプを具備せず、オイルセパレータ内の油を油供給先に差圧によって給油すること」が記載されている。
そして、甲6及び甲7のように、油冷式スクリュー圧縮機において、ポンプを用いない方式で、油分離器で分離された油を圧縮機における油供給先に供給する場合、当然、ポンプを用いる方式よりも低い圧力で油が供給されるものである(必要ならば、前記「第4」の6.(2)を参照)。
(ウ)甲1発明は、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しており(前記(ア))、甲6及び甲7には、油冷式スクリュー圧縮機において、油分離器で分離された油を圧縮機における油供給先に供給する方式として、ポンプを用いない方式を採用することが可能であることが教示され、ポンプを用いない方式では、ポンプを用いる方式よりも低い圧力で油が供給されるものであるから(前記(イ))、甲1発明の前記課題を解決するために、甲6及び甲7における教示を考慮して、スラストピストン室に、ポンプを用いない方式で非加圧の液体を導く経路を設けて形成することは、当業者が容易に想到することができたものである。
ウ 被請求人の主張について
(ア)相違点2について
被請求人が、相違点2について、平成30年11月9日提出の審判事件答弁書、及び平成31年3月1日提出の口頭審理陳述要領書でしている主張についての判断は、前記1.(2)エ(ア)に示したとおりである。
(イ)相違点3について
a 被請求人は、甲1発明においては、液体をポンプ140により加圧すること、さらに、この加圧した液体をいったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」に供給することは、必須の構成であるから、甲1発明に甲6及び甲7の教示を適用してポンプ140を削除してしまうことには阻害事由があると主張する。
しかし、甲1には、空所134に関し、「中間ハウジング30はまた、圧力のかかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有している。」(第9欄第35~37行)、「空所134は、コンプレツサベアリングおよびシール、スラストピストン、交叉する穴18と20により形成された作動室、および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働く。圧力のかかつた液体は、パイプ148、150通路152およびパイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(第10欄第6~13行)と記載され、ポンプ140によって加圧した液体の供給について、いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると、甲1発明において、ポンプ140を削除して、加圧しない液体をいったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」に供給するように変更することは、甲1の技術思想に反するものとして、その適用に阻害事由があるという余地があるとしても、ポンプにより圧力が加えられない液体をスラストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に、これを、ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが排斥されていると解することはできない。したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
b 被請求人は、甲1発明においては、液体がポンプ140により加圧されること、さらに、この加圧された液体がいったん空所134に集約された上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」に供給されることは必須であるから、甲1発明において、部品点数の削減との名目で、必須の構成要素であるポンプ14を削減することは考えられないから、甲1発明に甲6及び甲7の教示を適用する動機付けは存在しないと主張している。
また、被請求人は、甲6及び甲7のいずれにも、甲1発明のスラストピストン62に相当する要素は何ら開示も示唆もされておらず、甲6及び甲7からポンプを用いない方式(差圧給油方式)といった概念を抽出して甲1発明に適用することにより本件特許発明の構成を得ようとすることは、技術思想の相違を無視する後知恵にすぎないと主張している。
しかし、前記aのとおり、甲1発明において、ポンプにより圧力が加えられない液体をスラストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に、これを、ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが排斥されていると解することはできない。また、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生の機序を踏まえると、当業者であれば、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題は、特殊な構造のスクリュ圧縮機に特有のものではなく、スクリュ圧縮機一般に生じることを認識することができるものと認められ、甲1発明のスクリユウコンプレツサ(スクリュ圧縮機)にも生じることを認識することができるものと認められる(前記1.(2)ウ(ア))。そして、甲6及び甲7には、油冷式スクリュー圧縮機において、油分離器で分離された油を圧縮機における油供給先に供給する方式として、ポンプを用いない方式を採用することが可能であることが教示され、ポンプを用いない方式では、ポンプを用いる方式よりも低い圧力で油が供給されるものであるから、甲1発明の前記課題を解決するために、甲6及び甲7における教示を考慮して、スラストピストン室に、ポンプを用いない方式で非加圧の液体を導く経路を設けて形成することは、当業者が容易に想到することができたものである。したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
エ 本件特許発明の効果について
相違点1~3を総合的に勘案しても、本件特許発明が奏する作用効果は、甲1発明及び甲6~甲7に記載された技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許発明は、甲1発明に甲6~甲7に記載された教示にならって、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、本件特許発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効理由2により無効とすべきものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-800099