特許拒絶査定不服審判
2018-014055
車両制御システム
- 審判番号
- 2018-014055
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-554179外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年10月23日
- 審決日
- 2020年02月18日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヴィオニア スウェーデン エービー
- 【請求人代理人】飯塚 雄二
- 分類
- P18 .121-WZ (B60W) / P18 .537-WZ (B60W)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-554179「車両制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年9月24日国際公開、WO2015/140485、平成29年6月15日国内公表、特表2017-515715〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)3月20日を国際出願日とする出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成29年6月29日付け(発送日:同年7月4日) :拒絶理由通知書
平成29年10月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年10月30日付け(発送日:同年11月2日):拒絶理由通知書
平成30年4月3日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年6月28日付け(発送日:同年7月4日) :拒絶査定
平成30年10月23日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和元年7月26日(発送日:同年7月30日) :拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由」という。)
令和元年12月11日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和元年12月11日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出するとともに、ドライバーの眼が向いている方向を検出することで、ドライバーが意図する旋回半径を示すパラメータを求めるように構成された非慣性センサ装置と、
前記車両の走行速度を検出可能な速度検出装置と、
前記車両が走行している路面の状態がウエット、ドライ、凍結、積雪の各状況に関するデータと、前記タイヤの摩耗状態を示すデータと、気象に関するデータとの少なくとも1つに基づいて、前記車両と前記路面との間の最適な摩擦係数の推定値を算出する摩擦推定装置と、
前記非慣性センサ装置、前記速度検出装置、及び、前記摩擦推定装置から信号を受けるように接続されるプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、前記非慣性センサ装置から受信した信号からドライバーが意図した旋回半径の値を生成し、
また、前記旋回半径と摩擦係数の前記推定値とに基づいて、車両が前記旋回半径を有する曲がり角を安全に曲がることができる最大安全速度を算出し、
車両の走行速度が前記最大安全速度を超える場合に、車両の速度を低下させる減速信号を生成するように構成されたことを特徴とする車両制御システム。」
第3 当審における拒絶の理由
当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は、次のとおりのものである。
2 (進歩性)本願の請求項1ないし9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1 特開平10-278762号公報
2 特開2012-41020号公報
第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献1(特開平10-278762号公報)には、「車両の自動減速制御装置」に関して、図面(特に【図3】ないし【図6】を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
ア 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述した公知の出力制御装置にあっては、旋回時、摩擦係数の比較的高い路面では、車両の許容横加速度もまた当然に大きな値として算出されることとなる。この場合でも、重心の比較的低い乗用車にあってはその許容横加速度以下に実横加速度を抑えることで、理論上車両のドリフトアウトやスピンの発生を防止できるものの、しかしながら、重心位置の高い大型の車両に適用した場合には、その旋回時、車体のロールが不所望に過大となり、車両の旋回挙動が不安定になる虞がある。
【0004】この発明は上述した事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、車両の旋回時、路面の状況に応じて適切なタイヤのグリップを確保するだけでなく、車体の過大なロールを抑えて常に車両の旋回挙動を安定化させることができ、トラックやバスなどの大型車両にも好適な車両の自動減速制御装置を提供することにある。」
イ 「【0015】なお、このブレーキシステムには、運転者によるブレーキペダル26の踏み込みがなくても、自動的に各車輪のホイールブレーキに制動力を発生させて車両1を減速させる減速手段、つまり、自動ブレーキシステムが組み込まれている。以下、この自動ブレーキシステムの詳細について説明する。給気弁22及び圧力制御弁10はその作動を電子コントロールユニット、つまり、ECU28により制御される電磁方向切換弁からなっている。各給気弁22は非作動位置にあるとき、給気管路24からの空圧の流入を遮断する一方、各給気管路20内をそれぞれ大気に開放させている。これに対し、各給気弁22が作動位置に切換えられると、給気管路20と大気との接続を遮断して給気管路24,20間を連通する。これにより、空気タンク6から給気管路24,20及び空圧管路8を介してエアオーバハイドロリックブースタ4への空圧の供給が可能となる。
【0016】図2に示されているように、圧力制御弁10は、2種類の電磁弁を内蔵するバルブユニットからなっている。また、圧力制御弁10は入口ポート、出口ポート及び排気ポートの3つのポートを有しており、その内部には電磁開閉式の保持弁10aと、電磁方向切換式の排気弁10bが備えられている。圧力制御弁10は通常時、つまり、2つのソレノイドの非通電時、図2に示すように保持弁10aが開位置にあり、また、排気弁10bは非作動の位置にあって、この状態で、圧力制御弁10は、その入口ポートと出口ポートとの間を連通させ、空圧管路8を開いている。従って、この状態で給気弁22が作動されれば、空気タンク6からエアオーバハイドロリックブースタ4に向けて空圧を供給する、つまり、給気することができる。
【0017】一方この給気時、保持弁10aのみを作動させれば、圧力制御弁10の入口ポートが閉止されてエアオーバハイドロリックブースタ4へのそれ以上の給気は遮断される。しかしながら、既に供給された空圧はその圧力のままで保持される。そして、ECU28が保持弁10aに加えて排気弁10bのソレノイドにも通電すると、排気弁10bも作動位置に切り換わる。この状態では、圧力制御弁10の出口ポートと排気ポートとの間が連通される。これにより、エアオーバハイドロリックブースタ4に供給された圧縮空気は、圧力制御弁10の出口ポートから排気ポートを介して排気、つまり、大気に放出される。
【0018】従って、この自動ブレーキシステムでは、給気弁22を切換作動させてエアオーバハイドロリックブースタ4に空圧を供給しつつ、圧力制御弁10の切換作動を制御することで、各ホイールシリンダ2に供給される油圧を調整して所望する適度な制動力を得ることも可能である。このような自動ブレーキシステムを作動させるにあたり、ECU28には、車両1の旋回状態の検出、より詳しくは、車両1の運動状態及び運転者の運転操作を検出するため、各種センサからのセンサ信号が入力されるようになっている。これらのセンサのうち、運動状態を検出するためのセンサには、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの回転速度を検出する車輪速センサ30、車体に加わる前後加速度を検出する前後加速度センサ32、同じく横加速度を検出する横加速度センサ34、そして、車体に働くヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ36等がある。また、運転者の運転操作を検出するためのセンサには、ブレーキペダル26の踏み込み量、つまり、ペダルストロークを検出するペダルストロークセンサ38や、ステアリングホイール40の回転角度を検出するハンドル角センサ42等がある。」
ウ 「【0020】ここで、図3には、ECU28にて各種のセンサ信号が処理された後、上述した自動ブレーキシステムが作動されて車両1が減速されるまでの処理、つまり、自動減速制御装置の機能の一例が示されている。同図を参照すると、各種センサ(ブロック50)からのセンサ信号はフィルタ52にてフィルタ処理され、そして、演算回路54,56では演算処理により車両1の運動状態及び運転者の運転操作がそれぞれ計算又は判断される。具体的には、演算回路54では、ペダルストロークセンサ38及びハンドル角センサ42にて検出したペダルストロークB及びハンドル角Thに基づき、車両1が制動中であるか否か、そして、車両1が旋回中にあるか否かが検出され、そして、ハンドル角Thからハンドル角速度VThが、ハンドル角Thを既知のステアリングギヤ比で除算して前輪操舵角δがそれぞれ算出される。
【0021】演算回路56では、各車輪の車輪速VW、前後加速度GX、横加速度GY及びヨーレイトγ等から車体速V、各車輪のスリップ率S及び重心スリップ角速度dβ等の各種変数が算出される。なお、次の演算回路58には、フィルタ処理された各種センサ50からの検出信号が演算回路54,56をそれぞれ介して供給されるようになっており、そして、演算回路54,56にて算出された上述の運転操作情報及び運動状態情報もまた演算回路58に供給される。
【0022】演算回路58では、旋回時、車両1が走行している路面の摩擦係数が検出される。この摩擦係数検出手段、つまり、演算回路58には、旋回半径推定部58a、路面摩擦係数(μ)推定部58b及びヨーモーメント制御部58cが含まれている。これら各部について詳細には、旋回半径推定部58aでは、質点の円運動の方程式から車両1が走行中の旋回半径が演算により推定され、また、路面μ推定部58bでは、前後加速度GX及び横加速度GYから路面μが演算により推定される。
【0023】具体的には、旋回半径Rは次式から算出される。
R=V2/GY
また、路面μは次式から算出することができる。
μ=√(GX2+GY2)
次に、ヨーモーメント制御部58cについて説明する前に、ここでは公知のヨーモーメント制御について簡単に説明する。車両1のヨーモーメント制御は、旋回時、例えば前後の対角車輪間に制動力差を付与することで、車両に回頭ヨーモーメント又は復元ヨーモーメントを発生させて車両1の旋回挙動を安定させる姿勢制御技術である。
【0024】従って、ヨーモーメント制御部58cでは、制御の対象となる車輪間に付与すべき制動力差に基づき、これら各車輪に対する目標制動エア圧が設定されることとなる。より詳細には、ヨーモーメント制御部58cでは、車体速V及び前輪操舵角δから車両の目標ヨーレイトが算出され、そして、この目標ヨーレイトと検出したヨーレイトとの偏差から要求ヨーモーメント、つまり、車両のアンダステア又はオーバステアを有効に解消するヨーモーメントが算出される。そして、求めた要求ヨーモーメントに基づき各制御対象車輪に対する目標制動エア圧が設定される。なお、ヨーモーメント制御部58cでは、ヨーレイト偏差とヨーモーメント制御の開始条件を決定する基準値、つまり、閾値とを比較し、ヨーレイト偏差がこの閾値を超えたとき、ヨーモーメント制御を実行する必要があるものと判定され、逆に、ヨーレイト偏差が閾値以下のとき、ヨーモーメント制御を実行する必要はないものと判定される。
【0025】ところで、このようなヨーモーメント制御は、車両が摩擦係数の比較的高い路面(高μ路)を旋回走行する場合には実行されないものと考えられる。すなわち、旋回時、車両のアンダステア傾向又はオーバステア傾向は、路面の摩擦係数が比較的低い(中低μ路)場合にタイヤのグリップが限界に近くなるため発生する。これに対し、高μ路では、タイヤのグリップに余裕があるため、車両の重心スリップ角がほとんどなく、車両の旋回走行ラインは安定している。
【0026】従って、演算回路58における摩擦係数の検出にあたり、旋回時、車両1のヨーモーメント制御が開始されない場合、演算回路58では、路面摩擦係数が高領域にあると判断され、これに対し、ヨーモーメント制御が開始される場合、路面摩擦係数は中低領域にあると判断される。ただし、安全車速を設定する設定手段、つまり、次の演算回路60a,bでは、それぞれ同時に旋回時の車両1の安全車速が算出される。つまり、演算回路60aでは、路面摩擦係数が高領域(高μ)にある場合の安全車速Vs1が算出され、一方、演算回路60bでは、路面摩擦係数が中低領域(中低μ)にある場合の安全車速Vs2が算出される。
【0027】ここで、安全車速Vs1,Vs2は共に、旋回時、車両に発生する横加速度を制限する車速に設定される。より詳細には、高μ路における安全車速Vs1の設定にあたっては、旋回時、タイヤのグリップ限界よりも先に車両の横転限界に至るこを想定し、車両1が横転を起こすことのない限界横加速度が予め設定されている。そして、安全車速Vs1は、この限界横加速度と検出した横加速度GYとの比に基づき車速Vを制限することで得られる限界車速として設定されている。すなわち、安全車速Vs1は次式により定義される。
【0028】Vs1=√(Glim/GY)・(V)
ここで、Glim:限界横加速度である。従って、上式からも明らかなように、安全車速Vs1は、検出した横加速度GYを限界横加速度Glim以下に制限する車速として設定されるので、実際の路面摩擦係数が増加しても安全車速Vs1の上昇は制限される。なお、限界横加速度Glimは、車両1の重心高さやトレッド等から、車両1が横転を起こすことのない固有の定数として適切に設定される必要がある。
【0029】これに対し、中低μ路における安全車速Vs2の算出にあたっては、限界横加速度は路面摩擦係数に依存するものとして、推定した旋回半径R及び路面摩擦係数μに基づき質点の円運動の式から、推定旋回半径にて車両1が走行するとき、車両1に発生する横加速度の係数を推定路面摩擦係数μより小さく制限する車速として設定されている。すなわち、安全車速Vs2は、次式により定義される。
【0030】Vs2=√(K・μ・g・R)
ここで、K:安全係数,g:重力加速度である。従って、上式から明らかなように、安全車速Vs2は、横加速度の係数がK・μとなる車速として設定されるので、推定路面摩擦係数μの増加に応じて安全車速Vs2も高くなる。なお、安全係数Kの値は、実際の中低μ路にて車両1がスピンやドリフトアウトを起こすことのないような倍数にて適切に設定される必要がある。
【0031】図4及び図5には、演算回路60a,bにてそれぞれ設定される安全車速Vs1,Vs2と路面摩擦係数との関係、つまり、μ-Vs曲線が示されている。図4に示されるように、高μ路ではμ-Vs曲線は勾配をもたず、安全車速Vs1は路面摩擦係数の増加に対して一定の値v1となる。これに対し、図5に示されるように、低μ路ではμ-Vs曲線は勾配Kを有しており、安全車速Vs2は路面摩擦係数の増加に応じて上昇する。なお、図4のμ-Vs曲線の勾配を零とせずに、路面μに応じて安全車速が僅かに上昇するようにしてもよい。ただし、この場合でも安全車速Vs1が横加速度GYを限界横加速度Glim以下とする車速に設定されるように、その上昇は制限されなければならない。
【0032】以上のように演算回路60a,bにてそれぞれ設定された安全車速Vs1,Vs2は、スイッチ回路62を介して何れか一方が判定回路64に供給される。ここで、スイッチ回路62は通常図示の切換位置、つまり、演算回路60aと判定回路64を接続する位置にあるが、上述したヨーモーメント制御が開始されてヨーモーメント制御回路58cから制御実行信号が入力され、且つ、2つの入力であるVs1とVs2との間にVs1>Vs2の条件が成立したとき、スイッチ回路62は図示の位置から切り換えられる。この後、ヨーモーメント制御が終了され、ヨーモーメント制御回路58aからの制御実行信号の入力が途絶えれば、スイッチ回路62は図示の位置に戻される。
【0033】そして、判定回路64には演算回路56から車速Vもまた供給されており、判定回路64では、安全車速Vs1又はVs2と車速Vとの間の速度偏差と、自動減速制御の開始条件を決定する閾値とが比較され、速度偏差がこの閾値を超えたとき自動減速制御を開始するものと判定される。演算回路66では、上述の速度偏差から目標減速度が算出される。具体的には、目標減速度GXtは次式により算出される。
【0034】GXt=Kp・(Vs-V)
ここに、Kp:フィードバックゲインである。目標減速度GXtが算出されると、演算回路68では、この目標減速度GXtに基づき各車輪の目標制動エア圧が算出される。なお、ここで自動減速制御の対象車輪となるのは、旋回方向でみて外側後輪を除く3輪である。
【0035】具体的には、目標制動エア圧は、目標減速度GXtとコーナリングドラッグ分を差し引いた実減速度との差及びその差の積分値にフィードバックゲインをそれぞれ乗じ、そして、これら乗算値を加算して求められる。なお、各車輪の目標制動エア圧は3輪全て共通である。更に、この演算回路68では、ヨーモーメント制御が実行されている場合、ヨーモーメント制御の対象車輪については、上述したヨーモーメント制御部58cにて求められた目標制動エア圧と自動減速制御の目標制動エア圧をそれぞれ加算して合算目標制動エア圧が求められる。」
エ 「【0036】演算回路70では目標制動エア圧又は合算目標制動エア圧に基づき制御対象車輪の圧力制御弁10を駆動するためのバルブ制御量(バルブ制御信号)が求められる。いま、車両1が旋回走行中であって、ヨーモーメント制御が実行されない場合、スイッチ回路62は図示の切換位置にあって、判定回路64には安全車速Vs1が供給される。
【0037】この場合、判定回路64にて自動減速制御を開始すると判定されれば、制御対象車輪の給気弁22には、図示しない指令回路から作動信号が出力されてその位置が作動位置に切り換えられる。また、演算回路68では車速Vを安全車速Vs1以下にする目標減速度GX1が求められて、以下、目標減速度GX1が演算回路68,70にて順次、目標制動エア圧からバルブ制御量に変換され、このバルブ制御量が演算回路70から制御すべき対象車輪に対応する圧力制御弁10に供給される。圧力制御弁10がそのバルブ制御量に基づき切り換え駆動される結果、上述した自動ブレーキシステムが作動されて、車両1は安全車速Vs1以下に減速される。
【0038】これに対し、ヨーモーメント制御が実行されている場合であって、安全車速Vs2が、図5に示すv1を超えない領域にて設定されていれば、上述したVs1>Vs2の条件も成立し、スイッチ回路62は図3に示す位置から切り換えられる。この場合、車両1は安全車速Vs2以下に減速される。しかしながら、ヨーモーメント制御が実行されておらず、車両1が中低μ路を旋回走行中であると判定されていても、路面μに応じて安全車速Vs2がv1を超えて設定されれば、Vs1>Vs2の条件は成立せず、この場合、スイッチ回路62は図示の位置から切り換えられないか、又は、既に切り換えられていれば図示の位置に戻される。従って、ヨーモーメント制御が実行されていても、スイッチ回路62から出力される安全車速がVs1を超えることはない。
【0039】なお、自動減速制御中には、ECU28から電子ガバナコントローラ48に対して、別途制御信号が出力され、電子ガバナコントローラ48では、自動減速の目標制動エア圧に基づいて燃料噴射量が決定される。これにより、自動ブレーキシステムが作動すると同時にエンジンの出力も低減され、より効果的に車両1が減速されることとなる。
【0040】上述した自動減速制御を実行することにより、車両1は路面摩擦係数の増加に応じて安全な車速以下にて旋回走行することができる。つまり、旋回時、中低μ路ではタイヤのグリップを充分に発揮させて走行することができ、一方、高μ路では車両がロールオーバ限界に至ることなく安全に走行できる。しかも、上述したスイッチ回路により、中低μ路での旋回走行であっても、車両がロールオーバ限界に至ることがないよう考慮されているので、トラックやバスなどの大型車両にとって非常に好適である。
【0041】なお、スイッチ回路62の切り換え作動、つまり、安全車速Vs1,Vs2の選択は、ヨーモーメント制御の実行の有無にかかわらず、路面μ推定部58bにて推定した路面μの大きさと閾値との比較により行うこととしてもよい。次に、図6を参照すると、図3に示されている演算回路58から判定回路64までの構成を変更した場合の実施例が示されている。なお、その他の構成ついては図3に示す例と同様である。この場合、図6に示すように、演算回路72,74、スイッチ回路76、そして、判定回路78a,bの構成が変更されている。」
オ 「【0052】この発明は上述した実施例に制約されるものではない。例えば、自動減速制御の対象車輪は、上述した3輪に限られず、4輪全てであってもよい。また、車両1のブレーキシステムは、エアオーバハイドロリックブレーキに限られず、フルエアブレーキでも良い。なお、車両1を減速させる手段としては、実施例の自動ブレーキシステムだけでなく、上述したようにエンジンの出力制限もまた有効である。従って、旋回時、エンジンの出力トルクを制御することで、車両1を大きく減速させることもできる。」
カ 上記ウの記載内容(段落【0020】ないし【0022】及び【0026】を参照。)及び図3の図示内容からみて、「路面摩擦係数推定部58b」は「演算回路58」の一部であり、「演算回路60b」は「ECU28」の一部であるといえる。
以上から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハンドル角Thを検出するハンドル角センサ42と、
車速Vを算出する車輪速センサ30と、
路面摩擦係数μが演算により推定される路面摩擦係数推定部58bと、
前記ハンドル角センサ42、及び、前記車輪速センサ30から信号を受けるように接続されるECU28とを備え、
前記ECU28は、旋回半径Rを生成し、
また、前記旋回半径Rと路面摩擦係数μとに基づいて、安全な車速以下で旋回走行することができる安全車速Vs2を算出し、
車速Vと前記安全車速Vs2の速度偏差が閾値を超えたときに、自動減速制御を行うように構成された車両の自動減速制御装置。」
2 引用文献2
当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献2(特開2012-41020号公報)には、図面(特に、【図2】を参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0021】
周囲環境検出部10は、道路地図データベース12と、現在位置検出器(例えば、GPS受信機)14とを有し、車両の現在位置から前方に伸びる道路の形状など、車両の走行環境(周囲環境)を検出するためのものである。周囲環境検出部10によって検出される走行環境は、運転支援ECU26に出力される。
【0022】
車両運動検出部16は、車両の車幅方向である横方向の運動の大きさを検出する横方向加速度センサ18と、車両の上下方向の運動の大きさを検出する上下方向加速度センサ20とを備えている。さらに、車両運動検出部16は、車両の走行速度を検出する車速センサ22、及び車両の旋回方向への回転角の変化速度であるヨーレートを検出するヨーレートセンサ24を備えている。車両運動検出部16の各センサによって検出された検出値は、運転支援ECU26に入力される。
【0023】
顔画像撮影カメラ30は、車両の運転者の顔を連続的に撮影し、その撮影画像を運転支援ECU26に出力する。
【0024】
運転支援ECU26は、顔画像撮影カメラ30によって撮影された顔画像から運転者の黒目の位置を検出し、その黒目の位置に基づいて、運転者が視線を向けている注視点方向を決定する。さらに、運転支援ECU26は、周囲環境検出部10によって検出される走行環境において、決定した注視点方向から、運転者が注視している注視点を設定する。そして、上述した各センサからの検出値に基づき、車両の運転者に対する周囲の環境の運動を検出するとともに、その検出した周囲環境の運動を、車両の運転者が注視点を注視しているものとして、当該運転者の網膜球面を模擬した座標系に投影する。その投影した運動における、運転者の注視点への視線方向を軸として、その軸回りで回転する回転成分(curl)を算出する。すなわち、運転支援ECU26は、運転者の視覚により認識される周囲環境の流れの内、その注視点周りを回転する回転成分を求める。そして、車両の正面から伸びて、回転成分の大きさが等しい等ポテンシャルラインを車両の目標軌道として設定する。上述した回転成分の算出手法については後に詳細に説明する。
【0025】
一方、運転支援ECU26は、車両の走行速度及びヨーレートから、車両が旋回する際の現在の走行軌道を算出する。そして、この現在の走行軌道が目標軌道に一致するように、例えば、ステアリングホイールの補助操舵トルクを調節する操舵アクチュエータ28を制御する。」
イ 「【0029】
続くステップS130において、運転支援ECU26は、上述した回転成分(curl)を算出する。この回転成分の算出手法について、以下に詳細に説明する。
【0030】
まず、上述した仮想の走行環境において、前方道路を含む所定のエリア(例えば、フロントガラスから視認できるエリア)に、複数のポイントを設定する。この複数のポイントが配列される形状は、格子状、同心円状、同心楕円状など、いずれの形状であっても良い。
【0031】
また、複数のポイントは、車両を基準として、その車両との位置関係が常に一定となるように設定しても良いし、周囲環境において固定した位置を取り、車両の走行に伴い、車両との相対的な位置関係が変化するように設定しても良い。ただし、車両との相対的な位置関係が変化する場合には、車両の走行に伴って、車両近傍のポイントが所定エリアから消滅すると、遠方に新たなポイントが設定される。これにより、所定エリアには、常に一定数のポイントが含まれることになる。
【0032】
そして、車両運動検出部16の、横方向加速度センサ18、上下方向加速度センサ20、車速センサ22、及びヨーレートセンサ24から得たセンサ信号から、車両の運動を検出する。この検出された車両の運動を、仮想の走行環境に当てはめることにより、車両と上述した複数のポイントとの相対的な運動を検出することができる。車両の運転者が視覚により知覚する周囲環境(道路)の流れ(運動)は、車両と周囲環境との相対運動によって生ずるものだからである。
【0033】
さらに、運転支援ECU26は、車両の前方道路を含む所定エリアに設定した複数のポイントの運動を、車両の運転者が注視点を注視しているものとして、車両の運転者の網膜球面を模擬した座標系(以下、網膜球面座標系)に投影する。そして、その投影した運動における、運転者の注視点への視線方向を軸として、その軸回りで回転する回転成分(curl)を算出する。すなわち、運転者が視覚により認識する周囲環境の流れの内、注視点周りを回転する回転成分(curl)を算出する。
【0034】
車両の運転者は、車両が運動(走行)したとき、視覚に関しては、周囲環境の変化(視覚的には周囲環境の流れ(フロー))を捉えて、車両の運動を知覚する。視覚により認識される周囲環境の流れには、図3(a)に示すように、注視点から周囲に放射状に拡がる発散成分(divergence)と、図3(b)に示すように、注視点の周りを回転する回転成分(curl)とがある。
【0035】
このうち、回転成分は、以下のようにして求めることができる。まず、図4(a)に示すように、注視点を目標地点とし、車両の現在位置(車両の運転者の視点位置)から目標地点に向かう方向をX軸、そのX軸と直交し、車両の横方向に伸びるY軸、及びX軸と直交し、車両の上下方向に伸びるZ軸からなる直交座標系を定める。そして、図4(b)に示すように、この直交座標系において、上述した所定エリアに設定された複数のポイントの座標位置(x、y、z)を求める。
【0036】
さらに、図4(c)に示すように、座標位置(x、y、z)を有し、直交座標系の原点から距離RのポイントAの運動を網膜球面を模擬した座標系に投影した際の、網膜球面座標系での、そのポイントAの運動における回転運動成分は、以下の数式1によって算出することができる。
【0037】
【数1】
【0038】
つまり、車両の運転者の注視点への視線方向をX軸としているので、そのX軸の周りで回転する運動成分は、Y軸及びZ軸に関する座標位置と速度とから、YZ平面における速度の大きさとして求めることができる。なお、車両の横方向に伸びるY軸方向の速度成分、及び車両の上下方向に伸びるZ軸方向の速度成分は、横方向加速度センサ18及び上下方向加速度センサ20の検出値から求めることができる。
【0039】
所定エリアに設定された全てのポイントについて、回転運動成分の算出が完了すると、ステップS140に進んで、算出した各ポイントの回転運動成分に基づいて、車両が旋回する際の目標軌道を決定する。
【0040】
ここで、本発明者は、車両が直線路からカーブ路に進入する際に、その道路形状の変化と運転者の注視点の変化とに応じて、各ポイントの回転運動成分が動的に変化することに着目した。具体的には、図5に示すように、車両が走行している道路が右方向にカーブしており、運転者の注視点が、その右方向の前方のカーブ路上に設定されると、道路右側の注視点に近いポイントの回転運動成分の強度が最も高くなり、その道路右側から道路左側にかけて、各ポイントの回転運動成分の強度は、序々に低下していく。逆に、車両が走行している道路が左方向にカーブしており、運転者の注視点が、その左方向の前方のカーブ路上に設定されると、道路左側の注視点に近いポイントの回転運動成分の強度が最も高くなり、道路右側に向かうにつれて、回転運動成分の強度が序々に低下する。なお、図5においては、回転運動成分の強度が等しいポイントを結んだ5本の等ポテンシャルラインを例として示している。そして、各々の等ポテンシャルラインの線の太さは、回転運動成分の強度を表している。
【0041】
このように、各ポイントの回転運動成分は、道路形状の変化と、その道路形状の変化に応じた注視点の変化に応じて、動的に強度分布が変化する。そして、回転運動成分の強度分布は、上述したように、道路の左右方向の一端側から他端側へ序々に変化するものであり、同じ強度の回転運動成分を示すポイントを結んだ等ポテンシャルラインは、移動体の目標軌道に適したものとなる。
【0042】
そのため、ステップS140では、回転運動成分の大きさが等しい等ポテンシャルラインを車両の目標軌道として設定する。これにより、例えば車両が旋回しようとするカーブ路の旋回半径が途中で変化している場合であっても、その旋回半径の変化に応じて動的に回転運動成分の強度分布が変化するので、等ポテンシャルラインにより適切な目標軌道を設定することができる。
【0043】
なお、等ポテンシャルラインから目標軌道を設定する場合、図5に示すように、車両の正面から注視点へ向けて伸びる等ポテンシャルラインを移動体の目標軌道として設定することが好ましい。これにより、目標軌道に基づき運転支援を行う際に、車両の現状の走行軌道を乱すことなく運転支援を実行することが可能になる。
【0044】
ただし、等ポテンシャルラインから設定される目標軌道は、網膜球面座標系におけるものである。従って、車両の実際の走行軌道と対比できるようにするため、車両の進行方向を軸とする直交座標系に変換しておく。図6、図7は、直交座標系に変換した目標軌道を示す図である。
【0045】
続くステップS150では、車両の走行速度とヨーレートとに基づいて、車両が旋回する際の実際の走行軌道を算出する。ステップS160では、目標軌道と実際の走行軌道とを比較し、目標軌道と実際の走行軌道が乖離している場合、実際の走行軌道が目標軌道に近づくように車両の走行軌道制御を行う。そして、ステップS170において、制御スイッチがオフされたか否かを判定し、制御スイッチがオンのままであれば、ステップS100からの処理を繰り返し、制御スイッチがオフされていると、図2のフローチャートに示す処理を終了する。
【0046】
なお、上述した例では、車両の走行速度とヨーレートに基づいて車両が旋回する際の実際の走行軌道を算出したが、ヨーレートに代えて、ステアリング操舵角から実際の走行軌道を算出することも可能である。」
ウ 「【0047】
また、走行軌道制御は、操舵アシスト量を変化させることで行うことができる。また、旋回特性を変化させることによって、走行軌道制御を行っても良い。
【0048】
操舵アシスト量を変化させる場合、図6に示すように現在の走行軌道の曲率半径が目標軌道の曲率半径よりも大きいアンダーステアであるときには、アシスト量を増加させる。逆に、図7に示すように現在の走行軌道の曲率半径が目標軌道の曲率半径よりも小さいオーバーステアであるときには、アシスト量を減少させる。
【0049】
また、旋回特性は、前後輪荷重バランスを変化させることで変化させることができる。荷重バランスを前輪側に移動させると回頭性が向上する。従って、図6に示すように現在の走行軌道の曲率半径が目標軌道の曲率半径よりも大きい場合、荷重バランスを前輪側に移動させる。一方、荷重バランスを後輪側に移動させると、安定性が向上する。従って、図7に示すように現在の走行軌道の曲率半径が目標軌道の曲率半径よりも小さい場合、荷重バランスを後輪側に移動させる。なお、前後輪荷重バランスを変化させる方法としては、公知の種々の方法を用いることができ、たとえば、駆動力/制動力を制御する方法や、スタビリティファクタを管理する方法などを用いることができる。」
以上から、上記引用文献2には次の技術(以下「引用文献2の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「運転者が注視している注視点から設定したカーブ路の目標軌道と車両の走行速度とステアリング操舵角に基づいて算出した実際の走行軌道とを比較し、実際の走行軌道が目標軌道に近づくように車両の走行軌道制御を行うこと。」
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「ハンドル角Thを検出する」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出する」に相当し、以下同様に、「車速V」は、「車両の走行速度」に、「算出する」は「検出可能な」に、「ECU28」は「プロセッサ」に、「安全車速Vs2」は「最大安全速度」に、「自動減速制御を行う」は「車両の速度を低下させる減速信号を生成する」に、「車両制御システム」は「車両の自動減速制御装置」にそれぞれ相当する。
また、後者の「ハンドル角Thを検出するハンドル角センサ42」と前者の「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出するとともに、ドライバーの眼が向いている方向を検出することで、ドライバーが意図する旋回半径を示すパラメータを求めるように構成された非慣性センサ装置」とは、その機能、構成及び技術的意義からみて「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出する非慣性センサ装置」という限りで一致する。同様に、後者の「路面摩擦係数μが演算により推定される路面摩擦係数推定部58b」と前者の「前記車両が走行している路面の状態がウエット、ドライ、凍結、積雪の各状況に関するデータと、前記タイヤの摩耗状態を示すデータと、気象に関するデータとの少なくとも1つに基づいて、前記車両と前記路面との間の最適な摩擦係数の推定値を算出する摩擦推定装置」とは、「前記車両と前記路面との間の最適な摩擦係数の推定値を算出する摩擦推定装置」という限りで一致する。そして、後者の「前記ハンドル角センサ42、及び、前記車輪速センサ30から信号を受けるように接続される」と前者の「前記非慣性センサ装置、前記速度検出装置、及び、前記摩擦推定装置から信号を受けるように接続される」とは、「前記非慣性センサ装置、及び、前記速度検出装置から信号を受けるように接続される」という限りで一致する。さらに、後者の「ECU28は、旋回半径Rを生成」することと前者の「プロセッサは、前記非慣性センサ装置から受信した信号からドライバーが意図した旋回半径の値を生成」することとは、「プロセッサは、ドライバーが意図した旋回半径の値を生成」するという限りで一致する。
したがって、両者は、
「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出する非慣性センサ装置と、
車両の走行速度を検出可能な速度検出装置と、
前記車両と前記路面との間の最適な摩擦係数の推定値を算出する摩擦推定装置と、
前記非慣性センサ装置、及び、前記速度検出装置から信号を受けるように接続されるプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、前記ドライバーが意図した旋回半径の値を生成し、
また、前記旋回半径と摩擦係数の前記推定値とに基づいて、車両が前記旋回半径を有する曲がり角を安全に曲がることができる最大安全速度を算出し、
車両の走行速度が前記最大安全速度を超える場合に、車両の速度を低下させる減速信号を生成するように構成された車両制御システム。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出する非慣性センサ装置」に関し、前者は「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出するとともに、ドライバーの眼が向いている方向を検出することで、ドライバーが意図する旋回半径を示すパラメータを求めるように構成された非慣性センサ装置」であるのに対し、後者は「ハンドル角Thを検出するハンドル角センサ42」であり、また、「プロセッサ」に関し、前者は「非慣性センサ装置から受信した信号からドライバーが意図した旋回半径の値を生成」するものであるのに対し、後者の「ECU28」はハンドル角センサ42から受信した信号から「旋回半径R」を生成するものではない点。
[相違点2]
「車両と路面との間の最適な摩擦係数の推定値を算出する摩擦推定装置」に関し、前者は「前記車両が走行している路面の状態がウエット、ドライ、凍結、積雪の各状況に関するデータと、前記タイヤの摩耗状態を示すデータと、気象に関するデータとの少なくとも1つに基づいて、前記車両と前記路面との間の最適な摩擦係数の推定値を算出する摩擦推定装置」であるのに対し、後者は「路面摩擦係数μが演算により推定される路面摩擦係数推定部58b」である点。
[相違点3]
「プロセッサ」に関し、前者は「非慣性センサ装置から受信した信号からドライバーが意図した旋回半径の値を生成」するもので、「非慣性センサ装置、前記速度検出装置、及び、前記摩擦推定装置から信号を受けるように接続される」ものであるのに対し、後者の「ECU28」は、「ハンドル角センサ42、及び、車輪速センサ30」から信号を受けるように接続されるものであるが、「路面摩擦係数推定部58b」から信号を受けるように接続されるものではない点。
第6 判断
上記相違点について検討する。
相違点1について検討すると、引用文献2の記載事項は
「運転者が注視している注視点から設定したカーブ路の目標軌道と車両の走行速度とステアリング操舵角に基づいて算出した実際の走行軌道とを比較し、実際の走行軌道が目標軌道に近づくように車両の走行軌道制御を行うこと。」である。
ここで、引用文献2の記載事項の「運転者が注視している注視点から設定した」は、その機能、構成及び技術的意義からみて本願発明の「ドライバーの眼が向いている方向を検出する」に相当する事項を含むといえる。同様に、「ステアリング操舵角に基づいて算出した」は「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出する」に相当する事項を含むといえる。
してみると、引用文献2の記載事項は、「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出するとともに、ドライバーの眼が向いている方向を検出することで、ドライバーが意図する旋回半径を示すパラメータを求めるように構成された」に相当する事項を含むものである。そして、引用文献2の記載事項の「運転者が注視している注視点から設定したカーブ路の目標軌道と車両の走行速度とステアリング操舵角に基づいて算出した実際の走行軌道とを比較し、実際の走行軌道が目標軌道に近づくように車両の走行軌道制御を行うこと」は、「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置」に係る信号及び「ドライバーの眼が向いている方向」に係る信号から、「ドライバーが意図した旋回半径の値を生成」するものといえる。
してみると、引用文献2の記載事項は、「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出するとともに、ドライバーの眼が向いている方向を検出することで、ドライバーが意図する旋回半径を示すパラメータを求めるように構成された非慣性センサ装置」及び「非慣性センサ装置から受信した信号からドライバーが意図した旋回半径の値を生成」することを開示又は示唆するものといえる。
そして、引用文献2の記載事項は、車両制御システムである点で引用発明と技術分野が共通し、ドライバーが意図した旋回半径を求めるという点でも引用発明と共通する。さらに、引用発明に対し、引用文献2の記載事項を適用することに、格別な阻害要因を見出すこともできない。
そうすると、引用発明の「ハンドル角センサ42」に換えて、引用文献2の記載事項に開示又は示唆される「車両のステアリングホイールの角度及び/又は位置を検出するとともに、ドライバーの眼が向いている方向を検出することで、ドライバーが意図する旋回半径を示すパラメータを求めるように構成された非慣性センサ装置」に係る事項を適用し、同様に、引用発明の「ECU28」の「旋回半径R」の生成において、引用文献2の記載事項に開示又は示唆される「非慣性センサ装置から受信した信号からドライバーが意図した旋回半径の値」を生成することに係る事項を適用し、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
相違点2について検討すると、車両が走行している路面の状態がウエット、ドライ、凍結、積雪の各状況に関するデータに基いて車両と路面との間の摩擦係数を推定することは、例えば特開平11-248438号公報(段落【0031】ないし【0034】を参照。)に記載されているとおり、従来知られた技術である。同様に、前記タイヤの摩耗状態を示すデータに基いて車両と路面との間の摩擦係数を推定することは、例えば特開2007-99245号公報(段落【0028】ないし【0034】を参照。)に記載されているとおり従来知られた技術であり、外気温又は天候情報のような気象に関するデータに基いて車両と路面との間の摩擦係数を推定することは、例えば特開2013-32059号公報(段落【0048】を参照。)あるいは特開2007-99245号公報(段落【0033】ないし【0037】を参照。)に記載されたとおり従来知られた技術である。すなわち、一般に、車両の摩擦推定装置において、前記車両が走行している路面の状態がウエット、ドライ、凍結、積雪の各状況に関するデータと、前記タイヤの摩耗状態を示すデータと、気象に関するデータとの少なくとも1つに基づいて、前記車両と前記路面との間の最適な摩擦係数の推定値を算出することは、本願出願前の周知技術といえる。そして、引用発明の路面摩擦係数推定部58bの摩擦係数の推定において、該周知技術を採用し、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
相違点3について検討すると、第4 1 カのとおり、「路面摩擦係数推定部58b」は「ECU28」の「演算回路58」の一部といえ、推定された路面摩擦係数に基づいて「演算回路60b」で安全車速Vs2が算出されている。そして、「演算回路60b」も「ECU28」の一部であるから、結局のところ、「ECU28」は「路面摩擦係数推定部58b」からの信号を受けるように構成されていると理解できる。このように理解した場合、相違点3は実質的な相違であるとはいえず、引用発明もまた相違点3に係る本願発明の発明特定事項を備えているものである。
仮にこのように理解できないとしても、「路面摩擦係数推定部58b」を「ECU28」の一部とするか、別部材とするかは、車両におけるECUの配置、或いはECUの処理能力と路面摩擦係数を推定するための処理能力との関係を踏まえて、当業者の通常の創作能力の範囲で適宜なし得た事項にすぎず、引用発明において、当業者の通常の創作能力の範囲で相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは容易になし得たことである。
また、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 請求人の出張について
審判請求人は、令和元年12月11日の意見書において次の点を主張する。
ア 相違点1に関連して、引用文献2の実際の走行軌道が目標軌道に近づくように車両の走行軌道制御を行うことと、本発明のドライバーが意図した旋回半径の値を生成することとは対応しない。そして、引用文献2に記載の発明は、車両の走行軌道を制御するものと認められるが、ブレーキを制御するものではない点。
イ 相違点1に関連して、本発明は、ドライバーが意図した旋回半径を推定すると共に、車両と路面との摩擦係数を高精度に算出し、これら両方の情報に基づいて車両の速度(ブレーキ等)を制御するものであるから、車両の自動減速と(引用文献1)、車両の軌道制御(引用文献2)とでは、課題の共通性はない点。
上記ア及びイの主張は、引用文献2の記載事項の認定及び引用発明に対し引用文献2の記載事項を適用する際の動機付けに係る主張であるから、これら主張をまとめて検討するに、引用文献2の記載事項は第4 2に上述したとおりであり、第4 2のア及びイから導き出すことができる事項といえる。また、本願発明と引用発明との相違に係る本願発明の発明特定事項は第5の[相違点1]で示したとおり、「旋回半径を示すパラメータを求める」こと、及び「旋回半径の値を生成する」ことが本願発明と引用発明とで相違することであり、「旋回半径」と「摩擦係数」に基づいて車両の速度を低下させる制御を行うこと(「ブレーキを制御」すること)について、本願発明と引用発明との間に相違はないといえる。そして、引用発明と引用文献2の記載事項とは車両制御システムである点で技術分野が共通し、ドライバーが意図した旋回半径を求めるという点でも共通する技術であることは、第6において上述したとおりである。
また、第4 2のウの記載事項をみると、引用文献2の記載事項における走行軌道制御は「駆動力/制動力を制御する方法」も含まれるから、ブレーキ等を制御することで実際の走行軌道を目標軌道に近づけるよう制御するための技術であり、引用発明と引用文献2の記載事項とは、技術分野及び課題は共通するといえる。
よって、請求人の主張は当を得ない。
第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-014055