特許拒絶査定不服審判
2018-011386
単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ
- 審判番号
- 2018-011386
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-103354
- 請求日
- 2018年08月22日
- 審決日
- 2019年05月27日
- 公報発行日
- 2019年07月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】信越石英株式会社
- 【請求人代理人】好宮 幹夫
- 【請求人代理人】小林 俊弘
- 審判長/審判官
- 審判長 豊永 茂弘
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 櫛引 明佳
- 分類
- P18 .121-WY (C30B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-103354「単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 7日出願公開、特開2015-218087、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、平成26年5月19日の出願であって、平成29年10月13日付けで拒絶理由が通知され、平成29年12月15日付けで手続補正がされ、平成30年5月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対して、平成30年8月22日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
2 原査定の理由の概要
原査定(平成30年5月30日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。
本願請求項1~7に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献一覧)
引用文献1 国際公開第2011/071176号
引用文献2 国際公開第2011/158712号
3 本願発明について
本願請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明7」という。)は、平成29年12月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。
「 【請求項1】
底部、湾曲部、及び直胴部とからなり、内部に保持したシリコン融液から単結晶シリコンを引き上げるための石英ガラスるつぼであって、
気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、実質的に気泡を含有しない透明石英ガラスからなる内層とを有し、
前記直胴部の内表面の一部に、上下方向を長手方向とした溝が形成されており、かつ、該溝は、前記るつぼが前記シリコン融液を保持する際に、該溝が前記シリコン融液の初期状態における融液面と接するように形成されており、前記底部及び前記湾曲部には前記溝が形成されておらず、前記溝と溝の間の領域が粗面となっていることを特徴とする単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ。
【請求項2】
前記底部の外表面の中心点から、前記直胴部の上端までの高さをHとしたときに、0.5×H~0.9×Hの高さの範囲内に前記溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ。
【請求項3】
前記溝の深さが、前記るつぼの内表面から0.1mm~1.0mmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ。
【請求項4】
前記溝の横幅が、0.1mm~5.0mmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ。
【請求項5】
前記溝が、前記直胴部の内表面に4本以上形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ。
【請求項6】
前記溝及び/又は前記粗面が、石英粉を用いたブラスト処理により形成されたものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ。
【請求項7】
前記ブラスト処理が乾式又は湿式であることを特徴とする請求項6に記載の単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ。」
4 引用文献について
(1)引用文献1の記載事項(下線は当審が付した。以下、同様である。)
ア 「[0023] 図1に、シリカガラスルツボを断面図で示す。本実施形態に係るシリカガラスルツボ1は、CZ法等の単結晶シリコンの引上げの際に用いられるシリカガラスルツボ1の直胴部5の内壁面に湯面変動を防止する特殊領域2をそなえ、かつ、少なくともその特殊領域2の上端および下端に、CZ炉外部から検出可能な(例えば、目視判定可能な(視認できる))マーキング4を有しているところに特徴がある。なお、本実施形態のシリカガラスルツボ1は、シングル引き上げとマルチ引き上げのどちらに用いてもよい。
[0024] まず、シリカガラスルツボ1の構成の概要を説明する。シリカガラスルツボ1は、図1に示した断面図のように、曲率が比較的大きいコーナー部9と、上面に開口した縁部を有する円筒状の直胴部5と、直線または曲率が比較的小さい曲線からなるすり鉢状の底部8を有する。なお、本明細書において、コーナー部9とは、直胴部5と底部8を連接する部分で、コーナー部9の曲線の接線がシリカガラスルツボの直胴部5と重なる点から、底部と共通接線を有する点までの部分のことを意味する。シリカガラスルツボ1は、内面側から外面側に向かって気泡を実質的に有さない(気泡含有率が0.5%未満の)シリカガラス層(以下、透明層6)、気泡含有率が0.5%以上50%未満のシリカガラス層(以下、気泡含有層7)を有する。なお、本明細書において、気泡含有率とは、ルツボ1の一定体積(w1)に対する気泡占有体積(w2)の比(w2/w1)を意味する。」
イ 「[0040] また、本実施形態における特殊領域2は、気泡を内在するシリカガラスにより構成することもできる。さらに、通常のシリカガラスに特殊領域2を付与する場合には、表面凹凸を付与すれば良い。なお、この表面凹凸は複数のスリットからなる構造とすることもできる。」
ウ 「[0041] 特殊領域2の説明をさらに具体的にするが、本実施形態においては、以下に述べるそれぞれの特殊領域2の設け方に特段の限定は無く、従来公知のシリコン湯面振動防止用の特殊領域2の付与方法のいずれもが好適に使用できる。一つ目は、前述したような天然シリカガラスを主成分とすることからなる特殊領域である。・・・
[0042] 二つ目は、気泡を内在するシリカガラスからなる特殊領域2である。・・・
[0043] 三つ目は、表面凹凸を有することが特徴の特殊領域2である。この凹凸の特徴は、その平均粗さが、十点平均粗さRzで0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、特に好ましくは0.5mm程度である。また、その凹凸の平均粗さが1.0mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましい。・・・
[0044] 四つ目は、上記の表面凹凸が複数のスリットからなることが特徴の特殊領域2である。このスリットの特徴は、その平均長さが10mm以上であることが好ましく、30mm以上であることがより好ましく、特に好ましくは50mm程度である。また、そのスリットの平均長さが100mm以下であることが好ましく、70mm以下であればより好ましい。そのスリットの平均幅が0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、特に好ましくは0.5mm程度である。また、そのスリットの平均幅が1.0mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましい。また、そのスリットの平均深さが0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、特に好ましくは0.5mm程度である。また、そのスリットの平均深さが1.0mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましい。またそのスリットの存在密度としては、5本/cm2以上であることが好ましく、10本/cm2以上であることがより好ましく、特に好ましくは20本/cm2程度である。また、そのスリットの存在密度としては、50本/cm2以下であることが好ましく、30本/cm2以下であることがより好ましい。なお、その特殊領域2の高さ方向の幅は、100mm以内が好適であり、より好ましくは40mm程度が良い。また、その特殊領域2の高さ方向の幅は、1mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。」
エ 「[0062] 〔実施例4〕
実施例1と同じ仕様のシリカガラスルツボに、同じく実施例1の条件でレーザーマーキングを施し、比較例として、マーキングを施さない実施例1と同じ仕様のシリカガラスルツボを準備した。ついで、それぞれのルツボをCZ炉に設置した。さらに、これらのシリカガラスルツボに、シリコンが溶融したときに、湯面が特殊領域の場所にくるように、約100kgの多結晶シリコン塊を入れ、アルゴンガス雰囲気(6.67kPa)に保持した後、室温(20℃)から1500℃まで10時間で昇温し、この温度に所定時間保持して上記シリコン塊を溶融し、シリコン融液を形成した。・・・」
オ 「[図1]
」
(上記(ア)の記載を参酌すれば、特殊領域2は、シリカガラスルツボ1の直胴部5の内壁面の一部に形成され、底部8及びコーナー部9に形成されていないことが見て取れる。)
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)アによれば、引用文献1には、底部8、コーナー部9、及び直胴部5を有する、単結晶シリコンの引上げの際に用いられるシリカガラスルツボ1であって、内面側から外面側に向かって、気泡を実質的に有さないシリカガラス透明層6と、シリカガラス気泡含有層7を有し、
直胴部5の内壁面に湯面変動を防止する特殊領域2を備えることが記載されているといえる。
また、上記(1)イによれば、引用文献1には、特殊領域2が、複数のスリットからなる表面凹凸構造であることが記載されているといえる。
そして、上記(1)エ及びオによれば、引用文献1には、特殊領域2は、直胴部5の内壁面の一部であって、シリコン塊を溶融したときのシリコン融液の湯面と接する位置に形成され、底部8及びコーナー部9に形成されていないことが記載されているといえる。
これら記載を本願請求項1の記載に則して整理すると、引用文献1には、
「底部、コーナー部、及び直胴部を有するシリカガラスルツボであって、
内面側から外面側に向かって、気泡を実質的に有さないシリカガラス透明層と、シリカガラス気泡含有層を有し、
前記直胴部の内壁面の一部に、複数のスリットからなる表面凹凸構造の特殊領域が形成されており、かつ、該特殊領域は、シリコン塊を溶融したときのシリコン融液の湯面と接するように形成されており、底部及びコーナー部には前記特殊領域が形成されていない、単結晶シリコンの引上げの際に用いられるシリカガラスルツボ。」
の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。
(3)引用文献2の記載事項
ア 「[請求項1] 種結晶をシリコン融液に接触させて引上げることでシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼであり、
半透明石英ガラス層のるつぼ基体と、前記るつぼ基体の内壁面に形成された透明合成石英ガラス層とを含み、上端部が開口されてなる直胴部と該直胴部に円弧状に形成された底部とを有し、
前記透明合成石英ガラス層の直胴部表面の一部に帯状粗面領域を設け、前記帯状粗面領域よりも下方の前記透明合成石英ガラス層表面の下部領域は滑面とし、
前記帯状粗面領域の算術平均粗さ(Ra)が2~9μmであり、
前記シリコン融液の初期状態における液面が前記帯状粗面領域に接するように前記帯状粗面領域が設けられてなることを特徴とするシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼ。」
イ 「[0009] 本発明は、上記した事情に鑑みなされたもので、シリコン単結晶の引き上げ時の液面振動の発生を効率的に抑制することができるようにしたシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼ及びその製造方法を提供することを目的とする。」
5 原査定の理由に対する判断
(1)本願発明1について
ア 本願発明1と引用1発明を対比すると、
引用1発明の「単結晶シリコンの引上げの際に用いられるシリカガラスルツボ」、「コーナー部」、「内壁面」、「スリット」、「シリコン塊を溶融したときのシリコン融液の湯面」は、それぞれ、本願発明1の「内部に保持したシリコン融液から単結晶シリコンを引き上げるための石英ガラスるつぼ」、「湾曲部」、「内表面」、「溝」、「シリコン融液の初期状態における融液面」に相当する。
また、引用1発明の「気泡を実質的に有さないシリカガラス透明層」、「シリカガラス気泡含有層」は、シリカガラスルツボの内面側から外面側に向かってに存在することから、それぞれ、本願発明1の「実質的に気泡を含有しない透明石英ガラスからなる内層」、「気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層」に相当する。
したがって、本願発明1は、引用1発明と、
「底部、湾曲部、及び直胴部とからなり、内部に保持したシリコン融液から単結晶シリコンを引き上げるための石英ガラスるつぼであって、
気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、実質的に気泡を含有しない透明石英ガラスからなる内層とを有し、
前記直胴部の内表面の一部に、溝が形成されており、かつ、該溝は、前記るつぼが前記シリコン融液を保持する際に、該溝が前記シリコン融液の初期状態における融液面と接するように形成されており、前記底部及び前記湾曲部には前記溝が形成されていない、単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼ」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
溝に関して、本願発明1では、「上下方向を長手方向とした溝」であるのに対して、引用1発明では、スリット(溝)の長手方向の向きが明らかでない点。
(相違点2)
本願発明1では、「該溝と溝の間の領域が粗面」であるのに対して、引用1発明では、「複数のスリットからなる表面凹凸構造」のスリット間の領域が粗面であることが明らかでない点。
イ 上記相違点1について検討する。
原査定では、上記4(1)ウに摘示した引用文献1の段落[0044]の「このスリットの特徴は、その平均長さが10mm以上であることが好ましく、30mm以上であることがより好ましく、特に好ましくは50mm程度である。また、そのスリットの平均長さが100mm以下であることが好ましく、70mm以下であればより好ましい。」及び「その特殊領域2の高さ方向の幅は、100mm以内が好適であり、より好ましくは40mm程度が良い。また、その特殊領域2の高さ方向の幅は、1mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。」との記載に基づき、「上記スリットは、スリットの平均長さと特殊領域の高さ方向の幅が対応しており、また、溶融シリコンの波立ちを防止するために特殊領域に設けられることからみても、上記スリットは、上下方向を長手方向として設けられているものと考えるのが自然である。」と判断している。
しかしながら、引用文献1の上記記載は、スリットの平均長さ及び特殊領域の高さ方向の幅のそれぞれの好ましい範囲を示したにすぎず、その組合せにおいて、スリットの平均長さ(特に好ましい50mm程度)が特殊領域の高さ方向の幅(より好ましい40mm程度)より大きくなる場合を包含していることからして、スリットの長手方向が上下方向(高さ方向)であることを意味するものとはいえない。
また、引用文献1には、引用1発明の複数のスリットからなる表面凹凸構造の特殊領域によって、湯面振動を抑えることは記載されている(上記4(1)ア及びウ参照)ものの、スリットの長手方向の向きと湯面振動抑制との関係性は記載も示唆もされていない。
したがって、引用文献1の記載に基づき、引用1発明のスリットの長手方向が上下方向であるとまではいえない。
次に、引用1発明のスリットの長手方向の向きを上下方向とすることの容易想到性について検討すると、引用文献1には、上記で示したように、スリットの長手方向の向きと湯面振動抑制との関係性は記載も示唆もされていないし、また、引用文献2には、上記4(3)ア及びイによれば、シリコン単結晶の引き上げ時の液面振動の発生を効率的に抑制するための手段として、シリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼの内壁面に帯状粗面領域を設けることが記載されているにすぎず、溝を設けることは記載も示唆もされてないから、引用文献1及び2に記載された技術的事項を考慮しても、引用1発明のスリットの長手方向の向きを上下方向とすることは、当業者が容易に想到し得ることでない。
ウ 次に、相違点2について検討する。
引用文献1には、上記4(1)ウによれば、特殊領域の設け方として、従来公知のシリコン湯面振動防止用の特殊領域の付与方法が使用できることが記載され、天然シリカガラスを主成分とすることからなる特殊領域、気泡を内在するシリカガラスからなる特殊領域、十点平均粗さRzで0.1mm以上1.0mm以下の平均表面粗さを有する表面凹凸構造(粗面による表面凹凸構造)の特殊領域、複数のスリットからなる表面凹凸構造の特殊領域がそれぞれ記載されているが、異なる特殊領域の付与方法を組み合わせることは記載も示唆もされてない。
また、引用文献2には、上記4(3)ア及びイによれば、シリコン単結晶の引き上げ時の液面振動の発生を効率的に抑制するための手段として、シリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼの内壁面に帯状粗面領域を設けることが記載されているが、当該帯状粗面領域は、石英ガラスるつぼ内壁面の初期状態のシリコン融液面が接する領域を帯状に粗面化することにより、その作用効果を奏するものであるから、帯状領域を分断するような「上下方向を長手方向とした溝」と組合せることには阻害要因がある。
したがって、引用文献1及び2に記載された技術的事項を考慮しても、引用1発明の複数のスリットからなる表面凹凸構造に加えて、そのスリット間の領域をさらに粗面とすることは、当業者が容易に想到し得ることでない。
エ 以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明、並びに、引用文献1及び2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
(2)本願発明2~7について
本願発明2~7は、本願発明1を更に減縮したものであるから、上記(1)と同様の理由により、引用文献1に記載された発明、並びに、引用文献1及び2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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