特許拒絶査定不服審判
2018-011174
耐σ脆化特性および溶接性に優れた高耐食オーステナイト系ステンレス鋼
- 審判番号
- 2018-011174
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-051171外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年08月16日
- 審決日
- 2019年10月15日
- 公報発行日
- 2019年11月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】日鉄日新製鋼株式会社
- 【請求人代理人】アクシス国際特許業務法人
- 分類
- P18 .121-WY (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第164条第3項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014- 51171「耐σ脆化特性および溶接性に優れた高耐食オーステナイト系ステンレス鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 5日出願公開、特開2015-175017、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は平成26年3月14日の出願であって、その後の実体審査に関する経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月 9日(発送日) 拒絶理由通知書の送付
(起案日 平成29年12月22日)
同年 3月26日(受付日) 意見書及び手続補正書の提出
同年 7月10日(発送日) 拒絶査定の送付
(起案日 同年 7月 3日)
同年 8月16日(受付日) 審判請求書及び手続補正書の提出
同年 9月 5日(作成日) 特許法第164条第3項に基づく報告
(以下「前置報告書」という。)
第2 本願発明について
本願の請求項1~2に係る発明は、平成30年3月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~2に記載される事項により特定される以下のとおりのものである。
(各請求項に係る発明を請求項の順に「本願発明1」、「本願発明2」と記載し、それらを総称して「本願発明」と記載することがある。)
「 【請求項1】
C:0.005~0.030質量%、Ni:17.91~30.00質量%、Cr:17.00~25.00質量%、Mo:0.11~6.00質量%、N:0.01~0.30質量%、P:0.005~0.030質量%、S:0.0005~0.0015質量%、Si:0質量%超過0.56質量%以下、Mn:0質量%超過0.40質量%以下、REM:0質量%超過0.050質量%以下を含有し、かつ(1)式および(2)式を満たし、残部Feおよび不可避的不純物である組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼。
3×Cr質量%+5×Mo質量%-Ni質量%-3×N質量%≦60
・・・(1)
3×P質量%+S質量%-REM質量%≦0.050
・・・(2)
【請求項2】
σ相析出率が3%未満、臨界応力が400N/mm2超過である、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。」
第3 原査定及び前置報告書の特許査定できない理由について
原査定及び前置報告書の理由は、共に、本願発明1は、引用文献2に記載された発明と引用文献3又は4に記載の技術手段に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づき、特許を受けることができない、とするものである。
なお、引用文献1は原査定及び前置報告書において引用されていない。
引用文献2:特開2005-023355号公報
引用文献3:特開2003-268504号公報
引用文献4:特開平03-191039号公報
(引用文献1:特開2006-291325号公報)
第4 当審の判断
以下、はじめに「1.」において合金に関する一般的な考え方について確認し、次に、「2.」において本願発明1が引用文献2に記載の発明と引用文献3又は4に記載の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたかを検討する。
1.合金についての一般的な考え方について
一般に、合金については、所定の含有量を有する合金元素の組合せが一体のものとして技術的意義を有するのであって、所与の特性が得られる組合せについては、実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮して初めて理解できるという技術常識があると認められる。
この点について必要なら例えば次の裁判例を参照されたい。
○平成29年(行ケ)第10121号(判決書47~48頁)
○平成23年(行ケ)第10100号(判決書28~29頁)
○平成24年(行ケ)第10151号(判決書16頁)
すなわち、配合量も含めた個々の合金元素の具体的な組み合わせである合金組成あるいは製造方法が異なれば、製造された合金は、金属組織が異なり性質が異なるものとなり、単に合金組成のみが同じであったり、あるいは、製造方法のみが同じであっても製造される合金は、同一の合金にならない。
したがって、引用文献の特許請求の範囲の記載だけをもって、特許請求の範囲の配合量も含めた個々の合金元素を、当該配合量の範囲内で任意に組み合わせたものが全て同一の技術的意義を有する発明を構成していると理解することはできず、引用文献に記載された発明の認定に際して、引用文献の発明の詳細な説明における配合量も含めた個々の合金元素の具体的な組み合わせである合金組成を参酌して理解することが必要で、多くの場合、実際に作製された具体的な合金組成である実施例に照らして理解することが必要である。
以下、上記の考え方に則して検討する。
2.本願発明1についての引用文献2に記載の発明と引用文献4又は5に記載の技術手段からの容易想到性について
(1)引用文献2(特開2005-023355号公報)の記載事項
引用文献2には次のことが記載されている。ここで、下線部は当審で付与したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。
(2ア)「【請求項5】
質量%で、
C:0.08 %以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.04 %以下、 S:0.01 %以下、 Ni:5 ~20%、 Cr:15~25%を含む化学組成の鋼管を溶接して配管溶接継手を製造する方法であって、前記鋼管を溶接して配管溶接継手とし、次いで、該溶接配管継手の溶接部を1000~1150℃に加熱して固溶化熱処理をすることを特徴とする、配管溶接継手の製造方法。
【請求項6】
前記化学組成が、さらに、質量%で、Mo:1.5 ~3%を含有する、請求項5記載の配管溶接継手の製造方法。」
(2イ)「【0002】
【従来の技術の問題点】
従来は、化学工業プラント、原子力発電プラント等における各種配管には通常の JIS規格のSUS304、316 型ステンレス鋼管が使用されていた。しかし、溶接部のHAZ 部での鋭敏化 (Cr炭化物の粒界析出によるCr欠乏層の生成) により、応力腐食割れ(SCC) が発生してしまう。・・・」
(2ウ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ここに、本発明の課題は、溶接施工されるステンレス鋼管において溶接に伴う耐食性の劣化を防止した、いわゆる「非鋭敏化SCC 」に対する対策を施した配管溶接継手とその製造方法を提供することである。」
(2エ)「【0024】
Mn
Mnは、精錬工程において脱硫、脱酸剤として添加される元素である。不可避的に含有され、0.1 %以上は含まれる。2%を超えると熱間加工性を劣化させる。従って、Mn:2.0%以下とする。また、Mnは、溶接割れ防止に有効な元素であり、1%未満ではその効果は充分ではない。溶接使用される場合には1 %以上が望ましい。」
(2オ)「【0027】
Ni
Niはオーステナイト相を安定化させる効果を有する。オーステナイト系ステンレス鋼には通常5%以上を添加する。しかし、20%を超えて添加するとオーステナイト組織が安定になりすぎ、鋳造時の凝固割れを引き起こす。溶接使用され、かつ高温高圧水による腐食環境下である原子力発電プラントの配管に用いる場合、8 ~16%に制限するのが望ましい。」
(2カ)「【0029】
本発明は、上記の化学組成を有するものであればよく、残部の化学組成について特に制限されないが、残部は鉄および不純物であることが好ましい。また、上記化学組成成分のほか、下記の化学組成成分を含有させてもよい。」
(2キ)「【0032】
・・・N
Nはオーステナイト形成元素であると共に強度の向上に有効な元素であるが、不可避的に混入してくる元素であり本発明において特に制限しない。しかし低炭素ステンレス鋼は、炭素量の減少による強度低下を、Nの添加で補うことが行われる。したがって、Nは必要に応じて含有される。」
(2ク)「【0062】
鋼塊より鍛造法にて丸鋼にし、所定長さに切断し穴繰り加工と端面および外面切削加工を行い押出用素材を得る。これをユジーンセジュルネ式熱間押出製管法にて製管し、鋼管とする。この鋼管を固溶化熱処理として1060℃に加熱し3分保持後、水冷を実施し、曲がり取りを行う、所定長さに切断後、脱スケ-ル酸洗を実施する。次いで旋盤により開先加工を行い、溶接継手用鋼管とする。開先加工には極圧剤としてSを含有する切削油を使用し、加工終了後に溶剤で切削油を除去した。
【0064】
このようにして用意された溶接継手用鋼管は、開先部を突き合わせて、被覆アーク溶接にて上記鋼管同士を接続する。
被覆アーク溶接により溶接継手を形成してから、溶接部の固溶化処理を行うが、本例では、高周波加熱法により表1の条件で加熱を行い、冷却は内面水冷を実施する。」
(2ケ)以下の【表1】(【0068】)に、引用文献2に記載の発明の「鋼管」の「本発明例」「比較例」の成分組成を示す。
(2)引用文献2に記載された発明(引用発明)の認定
i)引用文献2の記載事項(2ア)から、請求項5を引用する請求項6に係る発明を独立形式で記載すると、引用文献2の請求項6には、
「質量%で、
C:0.08 %以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.04 %以下、 S:0.01 %以下、 Ni:5 ~20%、 Cr:15~25%、Mo:1.5 ~3%を含む化学組成の鋼管を溶接して配管溶接継手を製造する方法であって、前記鋼管を溶接して配管溶接継手とし、次いで、該溶接配管継手の溶接部を1000~1150℃に加熱して固溶化熱処理をすることを特徴とする、配管溶接継手の製造方法。」が記載されている。
ii)ここで、溶接が行われる「鋼管」を形成する「鋼」の「化学組成」は「鋼管」と同じであるから、引用文献2には、「質量%で、C:0.08 %以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.04 %以下、 S:0.01 %以下、 Ni:5 ~20%、 Cr:15~25%、Mo:1.5 ~3%を含む化学組成の鋼。」が記載されているといえる。
iii)ここで、引用文献2の上記(2ケ)【表1】の「本発明例」の成分組成は、上記「鋼」の化学組成に加えて「N」を有効成分として含むが、同(2キ)から「Nは必要に応じて含有される」ものであるし、また、上記「鋼」は「質量%で、・・・を含む」ものだから、実施例である「本発明例」における「N」も当然に含み得るものである。
また、同(2キ)に「Nはオーステナイト形成元素である」とあり、同(2オ)には「オーステナイト系ステンレス鋼には通常5%以上を添加する」とあって、上記(2ケ)【表1】の「本発明例」はいずれも「Ni」を5%を十分に超えて含むから、当該「鋼」は「オーステナイト系ステンレス鋼」ということができる。
さらに、同(2カ)から、「鋼」の化学組成において、有効成分を除く「残部は鉄および不純物である」ので、これらのことと、上記ii)から、引用文献2の実施例を除く部分には、
「質量%で、C:0.08 %以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.04 %以下、 S:0.01 %以下、 Ni:5 ~20%、 Cr:15~25%、Mo:1.5 ~3%、及びNと、残部は鉄および不純物である化学組成のオーステナイト系ステンレス鋼。」が記載されているといえる。
iv)しかしながら、前記「1.」のとおり、合金は、「所定の含有量を有する合金元素の組合せが一体のものとして技術的意義を有するのであって、所与の特性が得られる組合せについては、実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮して初めて理解できる」という技術常識があり、特許請求の範囲の配合量も含めた個々の合金元素を、当該配合量の範囲内で任意に組み合わせたものが全て同一の技術的意義を有する発明を構成していると理解することはできず、引用文献に記載された発明の認定に際しては、実際に作製された具体的な合金組成である実施例に照らして理解する必要がある。
そこで、上記(2ケ)【表1】に記載された実施例から、上記iii)の「鋼」の化学組成として、「本発明例」の成分組成のうち本願発明1の成分組成に最も近いものを採用するために、同表の「本発明例」を以下に検討する。
v)上記(2ケ)の【表1】から、Mn含有量とNi含有量は全ての本発明例において本願発明1と異なり、No.1~4はさらにSiの含有量が異なり(比較例15~17も同様)、No.10~14は有効成分として本願発明1に含まれない元素が含まれるので、それらは採用できない。
そこで、No.5~9をみると、成分組成としてはNo.5~8が同一で、No.9がそれらと略同等のものといえる。
また、本願発明1の(1)式の値は、次のようにNo.5~8とNo.9は共に(1)式を満たし、それらの差異は微小といえる。
(No.5~8):3×17.26+5×2.75-13.13-3×0.110=52.07<60
(No.9) :3×17.50+5×2.09-11.30-3×0.111=51.317<60
vi)すると、No.5~8とNo.9との間で有意な差違は認められないので、これらを代表して拒絶査定、前置報告書で採用されたNo.8の成分組成をここでも採用する。
なお、熱処理の面からは、本願発明1の全ての「発明鋼」は「1150℃で5分間仕上げ焼鈍」を施されている(本願明細書【0027】)のに対して、上記(2ケ)【表1】の全ての「鋼」は上記(2ク)から「固溶化加熱処理として1060℃に加熱して3分保持」しており、また、本願発明の全ての「発明鋼」は溶接部の固溶化熱処理を施されていない(本願明細書【0031】)のに対して、上記(2ケ)【表1】の各「鋼」は上記(2キ)及び(2ケ)【表1】から、それぞれ異なる溶接部の固溶化熱処理を施されているところ、溶接部の固溶化熱処理の点からは、各「鋼」はすべて本願発明1の「鋼管」と異なるので、熱処理の面からは、引用発明の成分組成として、各「鋼」の何れを採用するかについて合理的な選別はできない。
vii)以上から、上記iii)の「鋼」の成分組成として、上記(2ケ)【表1】の「No.8」の鋼の成分組成を採用すると、引用文献2には、
「質量%で、C:0.012%、Si:0.45%、Mn:1.59%、P:0.0210%、S:0.0015%、Ni:13.13%、Cr:17.26%、Mo:2.75%、N:0.110%と、残部は鉄および不純物である化学組成のオーステナイト系ステンレス鋼。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)本願発明1と引用発明との対比
i)引用発明の「オーステナイト系ステンレス鋼」が、「重量%」で、「C:0.012%」、「Cr:17.26%」、「Mo:2.75%」、「N:0.110%」、「P:0.0210%」、「S:0.0015%」、「Si:0.45%」を含むことは、本願発明1の「オーステナイト系ステンレス鋼」がそれぞれ「C:0.005~0.030質量%」、「Cr:17.00~25.00質量%」、「Mo:0.11~6.00質量%」、「N:0.01~0.30質量%」、「P:0.005~0.030質量%」、「S:0.0005~0.0015質量%」、「Si:0質量%超過0.56質量%以下」を含むことに相当する。
ii)本願発明1の「オーステナイト系ステンレス鋼」が「Ni:17.91~30.00質量%」含むことと、引用発明の「オーステナイト系ステンレス鋼」が、「重量%」で「Ni:13.13%」含むこととは、「Ni」を含む点で共通する。
iii)本願発明1の「オーステナイト系ステンレス鋼」が「Mn:0質量%超過0.40質量%以下」含むことと、引用発明の「オーステナイト系ステンレス鋼」が、「重量%」で「Mn:1.59%」含むこととは、「Mn」を含む点で共通する。
iv)引用発明の「残部は鉄および不純物である化学組成のオーステナイト系ステンレス鋼」は、本願発明1の「残部Feおよび不可避的不純物である組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼」に相当する。
v)以上から、本願発明1と引用発明とは、
「C:0.012質量%、Ni、Cr:17.26質量%、Mo:2.75質量%、N:0.110質量%、P:0.0210質量%、S:0.0015質量%、Si:0.45質量%、Mnを含有し、残部Feおよび不可避的不純物である組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>「Ni」「Mn」の含有量について、本願発明1では「Ni:17.91~30.00質量%」「Mn:0質量%超過0.40質量%以下」であるのに対して、引用発明では「Ni:13.13%」「Mn:1.59%」である点。
<相違点2>「REM」について、本願発明1では「0質量%超過0.050質量%以下」を含有するのに対して、引用発明では含有していない点。
<相違点3>本願発明1は「Cr」「Mo」「Ni」「N」の含有量について、(1)式を満たすことが特定されているのに対して、引用発明では上記の特定がされていない点。
<相違点4>本願発明1は「P」「S」「REM」の含有量について(2)式を満たすことが特定されているのに対して、引用発明では上記の特定がされていない点。
(4)相違点の検討
事案に鑑み相違点1について検討する。
まず、引用文献2の記載について検討する。
i)引用発明において本願発明1の相違点1に係る事項を容易に想到することができるためには、引用発明において、少なくとも、「Mn:1.59%」を「Mn:0質量%超過0.40質量%以下」へ減量し、「Ni:13.13%」を「Ni:17.91~30.00質量%」へ増量することを、同時に行わなければならない。
ii)このうち、引用発明の「Mn」に関して、引用文献2の記載事項(2エ)には、「Mnは、精錬工程において脱硫、脱酸剤として添加される元素である。不可避的に含有され、0.1%以上は含まれる。2%を超えると熱間加工性を劣化させる。従って、Mn:2.0%以下とする。また、Mnは、溶接割れ防止に有効な元素であり、1%未満ではその効果は充分ではない。溶接使用される場合には1%以上が望ましい」と記載されており、引用発明であっても溶接割れ防止は要求されるから、Mn含有量をあえて1%未満とすることは考えにくく、同(2ケ)の【表1】をみても、「本発明例」のMn含有量は「1.32%」を下回るものはないから、引用発明のMn量をあえて「0質量%超過0.40質量%以下」に減量する動機付けは見いだせない。
iii)また、引用発明の「Ni」に関して、同(2オ)には、「Niはオーステナイト相を安定化させる効果を有する。オーステナイト系ステンレス鋼には通常5%以上を添加する。しかし、20%を超えて添加するとオーステナイト組織が安定になりすぎ、鋳造時の凝固割れを引き起こす。溶接使用され、かつ高温高圧水による腐食環境下である原子力発電プラントの配管に用いる場合、8~16%に制限するのが望ましい。」と記載されており、引用発明においてNi含有量は5~20%の範囲で調整し得るものといえる。
しかし、同(2ケ)の【表1】をみると、「本発明例」のNi含有量は9.27~13.13%の範囲で調整されており、同(2オ)によれば、「原子力発電プラントの配管」への使用を想定しているものと推測され、また、17.91%~20%のNi含有量の場合に、他の含有元素の成分組成がどのようになるかは具体的には明らかでない。
さらに、「Ni」は決して安価な元素ではなく、同(2オ)によれば「5%以上」の添加であれば「オーステナイト組織」は安定に存在し得るから、「本発明例」のNi含有量である9.27~13.13%をむしろ減量することも可能であるのに、あえて17.91%~20%へ増量する動機付けも見いだせない。
iv)したがって、引用文献2の記載からは、引用発明において「Ni:13.13%」「Mn:1.59%」という含有量を「Ni:17.91~30.00質量%」「Mn:0質量%超過0.40質量%以下」とするための動機付けを見いだすことはできない。
v)そこで、以下で引用文献1、3、4の記載について検討する。
v-1)引用文献3について
引用文献3には「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、自動車排ガス経路部材のフレキシブルチューブなどに好適なオーステナイト系ステンレス鋼であって、特に融雪塩を道路に散布する地域で問題となる、NaCl、KCl、CaCl2などの塩化物塩による高温塩害腐食に対する腐食抵抗を高めたオーステナイト系ステンレス鋼に関するものである。」と記載され、「高温塩害腐食に対する腐食抵抗を高めたオーステナイト系ステンレス鋼」に関する技術手段が示されている。
そして当該「鋼」の「Ni」含有量に関して「【0024】Niは、オーステナイト系ステンレス鋼の基本的元素の1つである。本発明では特に溶接高温割れ防止の点からδフェライトが適量生成するよう組成バランスを調整する必要があるので、Ni含有量の範囲を7~15質量%とした。コスト低減の観点から、Ni含有量は12質量%未満、あるいは特に10質量%未満に規定することができる。」と記載されており、「Ni:17.91~30.00質量%」とできる記載も示唆も見いだせない。
v-2)引用文献4について
引用文献4には「〔産業上の利用分野〕本発明は高温の腐食性雰囲気で、特に高温塩腐食または溶融塩腐食等、塩を含む腐食が問題となる雰囲気で繰り返し加熱・冷却を受けるような用途に使用される耐高温塩腐食性、ならびに耐溶接高温割れ性および熱間加工性、溶接性、および溶接部の耐高温塩腐食性に優れた耐熱用オーステナイト系ステンレス鋼に関する。」(2頁左下欄2~9行)と記載され、「耐高温塩腐食性、ならびに耐溶接高温割れ性および熱間加工性、溶接性、および溶接部の耐高温塩腐食性に優れた耐熱用オーステナイト系ステンレス鋼」に関する技術手段が示されている。
そして当該「鋼」の「Ni」含有量に関して「Ni:オ-ステナイト系ステンレス鋼の基本的元素の1つであり、溶接高温割れ防止の点からδフェライトが生成する組成にする必要があるので、その組成バランスを考慮して下限を10%とした。上限は組成バランスおよび製品原価の点から17%以下とした。D値を考慮すると12~16%が好ましい。」(4頁左下欄1~7行)と記載されており、「Ni:17.91~30.00質量%」とできる記載も示唆も見いだせない。
v-3)引用文献1について
拒絶査定にも前置報告書にも引用文献1は引用されていないが一応検討しておく。
引用文献1には「【0001】本発明は、原子力発電プラントの炉内構造物及び高温水経路の配管等の厳しい腐食環境にさらされ耐応力腐食割れ性を有する被溶接材とそれを用いた溶接構造物及び原子力発電プラントと耐応力腐食割れ性の高い高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼に関する。」と記載され、「耐応力腐食割れ性の高い高耐食性オーステナイト系ステンレス鋼」に関する技術手段が示されている。
そして当該「鋼」の「Ni」含有量に関して「【0039】Niは、耐食性の向上及びオーステナイト相の形成に有効な元素であり、8%以上でこれらの効果が得られる。15%を超えるとオーステナイト相の安定度が増しマルテンサイト変態が起こりにくくなるほか、経済性を損ねる。Ni含有量は、8~15%とすべきである。好ましくは10~13.5%である。」と記載されており、「Ni:17.91~30.00質量%」とできる記載も示唆も見いだせない。
(5)結言
以上から、引用文献1、3、4には、少なくとも腐食環境で用いられる「オーステナイト系ステンレス鋼」において「Ni:17.91~30.00質量%」とできる記載も示唆も見いだせない。
したがって、引用発明において、少なくとも「Ni:17.91~30.00質量%」とすることは当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
よって、引用発明及び引用文献1、3、4に記載の技術手段に基いて相違点1に係る本願発明1の特定事項が容易に想到しえるものとはいえない。
ゆえに、その余の相違点に言及するまでもなく、本願発明1は引用発明及び引用文献1、3、4に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本願発明1を引用する本願発明2についても同様である。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由、前置報告書の拒絶理由を検討しても、それらの理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-011174