特許拒絶査定不服審判
2018-009830
光学補償フィルム用共重合体
- 審判番号
- 2018-009830
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-528146外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年07月18日
- 審決日
- 2019年07月16日
- 公報発行日
- 2019年09月27日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-528146「光学補償フィルム用共重合体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 6日国際公開、WO2014/021265、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、2013(平成25年)7月29日(優先権主張 平成24年7月30日)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月14日付けで拒絶理由が通知され、同年5月17日に意見書が提出され、同年9月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月24日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成30年4月19日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年7月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1~6に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は以下のとおりである。
引用文献1:特開2008-185659号公報
引用文献2:特開2007-24940号公報 (周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2002-40258号公報 (周知技術を示す文献)
引用文献4:特開昭60-137915号公報
引用文献5:特開2009-275069号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2006-334841号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7:特表2010-530987号公報(周知技術を示す文献)
3 本件発明
本願の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、平成29年11月24日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
芳香族ビニル単量体単位45~80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位5~20質量%からなり、数平均分子量(Mn)が5.5万~9万、かつ重量平均分子量(Mw)が14万~20万であり、ASTM D1003に基づき測定した2mm厚みの曇り度が1%以下である負の配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂フィルムを延伸して得られるフィルムAと正の配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂フィルムを延伸して得られるフィルムBとをフィルムAとフィルムBを遅相軸が直交するように積層させて、nx>nz>nyの屈折率分布を形成し、波長450nm、590nmおよび750nmにおける面内位相差Re(450)、Re(590)およびRe(750)がRe(450)<Re(590)<Re(750)の関係を満たし、Nz係数が0.4~0.6であることを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項2】
前記負の配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂の構成単位が芳香族ビニル単量体単位55~75質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位15~35質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位10~15質量%である請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項3】
芳香族ビニル単量体単位がスチレン単位である請求項1または2に記載の光学補償フィルム。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位がメチルメタクリレート単位である請求項1~3のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
【請求項5】
不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位がマレイン酸無水物単位である請求項1~4のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
【請求項6】
フィルムAが溶融押出により製造されたフィルムを延伸してなることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。」
4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2008-185659号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下の引用文献においても同様である。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂を50重量%以上含む光学異方性フィルムであって、
ASTM-D1504法に準じて測定した(ビカット軟化温度+30℃)における加熱収縮応力の流れ(MD)方向と巾(TD)方向との差が0.5~4.0MPa、
面内レターデーションが50~1000nmであり、
前記スチレン系樹脂が、スチレン系単量体と、不飽和カルボン酸単量体及び/又は不飽和ジカルボン酸無水物単量体を単量体成分として含む重合体である二軸方向に延伸された光学異方性フィルム。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂からなる光学異方性フィルムに関するものであり、更に詳しくは、液晶表示装置の着色防止やコントラスト向上等に優れる光学補償フィルムに用いるのに好適な、スチレン系樹脂からなる光学異方性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スチレン系樹脂が、高い透明性と負の固有屈折値、負の厚み方向レタデーション(Rth)を持つポリマーであることから、光学用フィルムとして注目されている。
(中略)
【0004】
また、スチレン系樹脂からなる異方性フィルムは非常に脆いが、光学用フィルムとして用いるためには、裁断加工等の二次加工時の加工適性を兼備えることが求められる。
(中略)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光学均一性(面内レタデーションや配向角の均一性)、加工適性に優れたスチレン系樹脂の二軸延伸光学異方性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明をなすに至った。 すなわち、本発明は、以下の通りである。
(中略)
【0008】
本発明者らがスチレン系樹脂の二軸延伸フィルムの光学均一性について鋭意検討したところ、スチレン系樹脂の二軸延伸フィルムの光学均一性にはフィルムのMD方向とTD方向の配向レベル(配向の度合い)のバランスが関係していることに想到した。もっとも、配向レベルそれ自体を測定することは困難である。そこで、本発明においては、配向レベルを示す指標として延伸フィルムの(ビカット軟化温度+30℃)における加熱収縮応力を採用し、MD方向とTD方向の(ビカット軟化温度+30℃)における加熱収縮応力の差と光学均一性との関係について調べたところ、二軸延伸フィルムの加熱収縮応力差が0.5MPa以上8.0MPa以下の間になるように制御すると、光学均一性が向上することが分かった。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光学均一性(面内レタデーションや配向角の均一性)、二次加工性に優れたスチレン系樹脂の二軸延伸光学異方性フィルムを提供することができる。
さらに、本発明のフィルムは、液晶表示材料として好適であり、本発明により、低光弾性係数、光学均一性、光学補償性、耐熱性、透明性、液晶表示装置へと二次加工する際の加工適性に優れたスチレン系樹脂からなる異方性フィルムを提供できる。」
ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について、好ましい態様を中心に、以下詳細に説明する。
本発明において、スチレン系樹脂とは、スチレン系単量体と、少なくとも不飽和カルボン酸、不飽和ジカルボン酸無水物より選ばれる一つの単量体を単量体成分として含む重合体をいう。
ここで、スチレン系単量体とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体をいう。
スチレン系単量体の具体例としては、スチレンの他に、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレンなどのビニル芳香族化合物単量体などが挙げられ、代表的なものはスチレンである。
不飽和カルボン酸の具体例としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、不飽和ジカルボン酸無水物の具体例としては無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸などの無水物などが挙げられる。
これらの中でも、耐熱性、光弾性係数の観点から、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体が特に好ましい。
【0011】
スチレン系樹脂における不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の量は、スチレン系単量体単位と不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の合計重量に対して、2重量%以上30重量%未満の範囲が好ましい。スチレン系単量体単位の重量%を98重量%以下、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の量を2重量%以上にすることで、光学用フィルムとしての十分な耐熱性、低光弾性係数が得られる。また、スチレン系単量体単位の量を70重量%以上、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の重量%を30重量%以下にすることで、熱溶融加工時のゲル生成の頻度を少なくすることができ、十分な延伸安定性とフィルムの二次加工適性が得られる。
さらに好ましい範囲は、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の量が、4重量%以上20重量%未満であり、とりわけ好ましい範囲は不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の量が8重量%以上15重量%以下である。
【0012】
スチレン系樹脂がスチレンとメタクリル酸の共重合体である場合、スチレンとメタクリル酸との共重合体におけるメタクリル酸単位の量は2重量%以上30重量%未満の範囲が好ましい。スチレン単位の重量%を98重量%以下、メタクリル酸単位の量を2重量%以上にすることで、光学用フィルムとしての十分な耐熱性、低光弾性係数が得られる。また、スチレン単位の量を70重量%以上、メタクリル酸単位の重量%を30重量%以下にすることで、熱溶融加工時のゲル生成の頻度を少なくすることができ、十分な延伸安定性とフィルムの二次加工適性が得られる。さらに好ましい範囲は、メタクリル酸単位の量が4重量%以上20重量%未満であり、とりわけ好ましい範囲はメタクリル酸単位の量が8重量%以上15重量%以下である。
スチレン系樹脂がスチレンと無水マレイン酸の共重合体である場合、スチレンと無水マレイン酸との共重合体における無水マレイン酸単位の量は2重量%以上30重量%未満の範囲が好ましい。スチレン単位の重量%を98重量%以下、無水マレイン酸単位の量を2重量%以上にすることで、光学用フィルムとしての十分な耐熱性、低光弾性係数が得られる。また、スチレン単位の量を70重量%以上、無水マレイン酸単位の重量%を30重量%以下にすることで、熱溶融加工時のゲル生成の頻度を少なくすることができ、十分な延伸安定性とフィルムの二次加工適性が得られる。さらに好ましい範囲は、無水マレイン酸単位の量が4重量%以上20重量%未満であり、とりわけ好ましい範囲は無水マレイン酸単位の量が8重量%以上15重量%以下である。
【0013】
本発明では、スチレン系樹脂の製法に関しては特に限定されないが、公知のアニオン、塊状、懸濁、乳化または溶液重合方法により得ることができる。また、スチレン系樹脂は、共役ジエンやスチレン系単量体のベンゼン環の不飽和二重結合が水素添加されていてもよい。水素添加率は核磁気共鳴装置(NMR)によって測定できる。
スチレン系樹脂の分子量は、GPCにより測定した重量平均分子量が、好ましくは10~40万、より好ましくは12~30万である。平均分子量が40万以下のスチレン系樹脂を用いることで、溶融押出、及び延伸加工する際に十分な流動性が得られ、平均分子量が10万以上のスチレン系樹脂を用いることで、延伸安定性とフィルムに十分な配向度を与えることができる。
【0014】
スチレン系樹脂は、スチレン系単量体と、不飽和カルボン酸単量体及び/又は不飽和ジカルボン酸無水物単量体に、他の単量体成分を共重合したものでもよい。共重合可能な他の単量体としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられ、これらの2種以上を共重合してもよい。
このような他の単量体成分の共重合割合は、スチレン系樹脂において0~50重量%であることが望ましく、0~30重量%であることがさらに望ましく、0~20重量%であることがとりわけ望ましい。
【0015】
本発明のフィルムは、スチレン系樹脂を50重量%以上含んでいればよく、それ以外の樹脂は限定されない。フィルムの耐衝撃性を向上する目的から、50重量%以下の割合で、必要に応じてスチレン-ブタジエン-スチレンブロックポリマー(SBS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレンブロックポリマー(MBS)、メチルメタクリレート-スチレン(MS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)等を含んでいてもよい。耐衝撃性が向上することは、液晶表示装置への加工の際の他フィルムとの貼合せ工程の安定性向上につながり、光学異方性フィルムとして好ましい。」
エ 「【0018】
本発明のフィルムの、ASTM-D1504法に準じて測定した、(ビカット軟化温度+30℃)における、加熱収縮応力のMD方向とTD方向との差は0.5MPa~4.0MPaであり、好ましくは1.0MPa~2.5MPaである。
ここで、加熱収縮応力は、延伸フィルムの配向レベルの指標となるが、スチレン系樹脂においては、加熱収縮応力の最大値の得られる(ビカット軟化温度+30℃)で測定することにより、配向レベルの指標としてより適したものとなる。
【0019】
加熱収縮応力差を上記範囲とすることにより、二軸延伸フィルムの光学均一性を高めることができる。
さらに、加熱収縮応力差を0.5MPa以上とすることで、フィルムの面内レターデーションを高めたつつ、フィルム厚みを低減することができ、これにより、例えば液晶表示装置に使用した場合に、液晶表示装置の軽量化、消費電力の低減が可能になるという効果もある。」
オ 「【0028】
本発明のフィルムの透明度は、ASTM-D1003法で測定したHAZEが3%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下である。HAZEを3%以下にすることにより、液晶表示装置に用いた場合、十分な液晶表示の明るさを得ることができる。」
カ 「【実施例】
【0042】
実施例及び比較例によって本発明を説明する。
(中略)
【0051】
[製造例]
実施例で用いたスチレン系樹脂P-1~P-3、P-5、P-6、及び比較例で用いたポリスチレンP-4の組成を表1に示す。
実施例及び比較例で用いた延伸前原反シートは、下記のキャスティング成形法により作製した。
<延伸前原反シートの作製>
L/D=32の65mmスクリューを有するTダイ付き押出機によりスチレン系樹脂を溶融・押出し、巾700mmのTダイから押出し、キャストロール上に落し、引取って延伸前の原反シートを得た。押出し条件、キャスティング条件と、得られたシートの物性を表2に示す。
(実施例1~17、比較例1~7)
表2に示した延伸前原反シートを、市金工業社製の同時二軸延伸機(製品名 FITZII)を用いて、同時二軸延伸を行い、巻取って実施例1~17、比較例1~5のフィルムを得た。同時二軸延伸機の各ゾーンの長さは、予熱ゾーン350mm、延伸ゾーン800mm、熱固定ゾーン1650mmであった。
表3に延伸条件とフィルム物性を示す。なお、実施例1~17、比較例1~7のフィルムの厚み方向のレタデーション(Rth)は何れも負の値であった。
(中略)
【0052】
本発明のフィルムである実施例1~実施例17のフィルムは、レターデーション変動率と配向角の変動幅が小さく、光学均一性に優れ、二次加工性にも優れていた。
また、ビカット軟化温度が115℃~138℃であり、熱処理後のレターデーション低下率が低く、耐熱性にも優れていた。
(中略)
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
」
(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項アに基づけば、引用文献1には、請求項1に係る発明として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「スチレン系樹脂を50重量%以上含む光学異方性フィルムであって、
ASTM-D1504法に準じて測定した(ビカット軟化温度+30℃)における加熱収縮応力の流れ(MD)方向と巾(TD)方向との差が0.5~4.0MPa、
面内レターデーションが50~1000nmであり、
前記スチレン系樹脂が、スチレン系単量体と、不飽和カルボン酸単量体及び/又は不飽和ジカルボン酸無水物単量体を単量体成分として含む重合体である二軸方向に延伸された光学異方性フィルム。」
(3)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用文献4(特開昭60-137915号公報)には、以下の事項が記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
1)スチレン系単量体20~94重量部、メチルメタアクリレート5~60重量部、無水マレイン酸1~30重量部及びその他の上記単量体と共重合可能な単量体0~30重量部からなる共重合体であって、該スチレン系共重合体の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが、
3.0> Mw/Mn >1.8
であることを特徴とするスチレン系共重合体。
2)前記スチレン系単量体が、スチレン、α-メチルスチレン及びパラメチルスチレンの一種以上である特許請求の範囲第1項記載のスチレン系共重合体。
3)前記スチレン系単量体が、スチレンである特許請求の範囲第1項記載のスチレン系共重合体。」(第1頁左下欄第4~18行)
イ 「 本発明は、耐熱性の改良された透明な新規なスチレン系共重合体に関する。
従来、ポリスチレンは、透明性に優れた成形加工材料として広く使用されているが、耐熱性が低いため高温での使用については改良の余地が残されていた。
かかる問題を解決する手段として、例えば特公昭58-40970号には、スチレン(St)、無水マレイン酸(Mahn)及びメチルメタアクリレート(MMA)を共重合した共重合体組成物が提案されている。しかしながら、かかる組成物は一応の透明性はあるものの、その透明度は低いレベルにあり、外観の重視される成形物、例えば、カセットテープのケースやディジタルオーディオディスク用のディスクケース、あるいは光学的用途等においては問題を残していた。
本発明者等は、かかる耐熱性のスチレン系共重合体の透明度を向上するという問題の重要性に鑑み鋭意検討した結果、極めて優れた透明性を有するスチレン系共重合体は、該共重合体を構成する単量体の量的関係が特定された範囲内にあり、かつ全く意外なことに、その重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが特定の範囲内にあることにより特定されることが見い出された。そして、このような共重合体は、例えば、特定の重合反応装置を用い、かつ反応に供する無水マレイン酸の量と、生成共重合体中の共重合された無水マレイン酸の量とを特定の範囲内となるよう調整して重合を実施する方法により得られることが判明し、本発明に到達した。」(第1頁左下欄第20行~第2頁左上欄第9行)
ウ 「 本発明の共重合体を構成する各単量体の量的関係としては、スチレン系単量体20~70重量部、メチルメタアクリレート10~40重量部、無水マレイン酸1~15重量部であることが好ましい。スチレン系単量体が20重量部未満でも94重量部を超えても、得られる共重合体の機械的強度が弱く、また、メチルメタアクリレートが10重量部未満では共重合体の製造時に重合液が不均一になりやすく、60重量部を越えた場合には得られる共重合体の耐熱温度が低下する。更に、無水マレイン酸の量が1重量部未満では得られる共重合体の耐熱性改善効果が低く、30重量部を超えると透明な共重合体は得られない。」(第2頁右上欄第13行~同頁左下欄第5行)
エ 「比Mw/Mnの値が3.0を越える場合には、スチレン系共重合体の組成が前記の規定を満たすものであっても、得られる共重合体の透明性は悪化し、また、Mw/Mnの値を1.8以下にすることは、これまでの本発明者らの検討では、通常の工業的製法に於いては達成が困難である。」(第3頁左上欄第4~9行)
オ 「実施例1
〔共重合体の製造〕
(a)1時間当りスチレン75重量部と、(b)無水マレイン酸 5重量部をメチルメタアクリレート20重量部とエチルベンゼン10重量部に溶解した混合液を1時間当り35重量部とを、別個の供給ポンプにより一基の完全混合槽型反応器に連続的に供給した。該完全混合槽は、ドラフト付スクリュー型攪拌翼を内装し、さらに、供給原料入口部にタービン型攪拌翼を設けたものであり、両攪拌翼の回転数は150rpmに保持した。原料入口部は槽の下部に設け、槽の上部より重合反応液を抜き出した。この液抜き出し速度は、単量体の供給速度と同じく1時間当り110重量部である。完全混合槽内の平均滞留時間を2時間とし、反応温度は145℃に保持した。槽出口より抜き出した重合反応液は、ジャケット温度100℃の二重管を通して、入口部に圧力コントロールバルブを備えた予熱器と真空槽より成る揮発分分離除去装置に連続的に導入した。予熱器の入口部の真空度は400~600Torrに保持し、真空槽の真空度は10Torrに保持した。真空槽下部より生成共重合体を連続的に抜き出しペレット状の共重合体を得た。また、真空槽の上部より、重合反応液中に残存する単量体及びエチルベンゼンを抜き出し、全量を温度-5℃に保持した貯槽に回収した。回収した液(回収液)の量は単位時間当り60重量部であった。
また、共重合体の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnの値については前述の方法に基づき測定した。
〔共重合体組成の解析〕
上記回収液をガスクロマトグラフィー法で分析し、回収したスチレン、無水マレイン酸、メチルメタアクリレート、エチルベンゼンの量比を求めた。無水マレイン酸の量は、JIS K 1359の指示薬滴定法に準じて測定した。また、ペレット状の共重合体中の共重合していない未反応の無水マレイン酸の量については、該ペレットをスチレン、メチルメタアクリレートの80対20の混合液に溶解し、JIS K 1359の指示薬滴定法に準じて測定した。測定の結果、ペレット状の共重合体中の未反応の無水マレイン酸は、実質的に零であった。原料の供給量、回収液の収量及び上記回収液組成の分析結果より、共重合体中の無水マレイン酸及びその他の単量体の組成を求めた。また、共重合体の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnの値については前述の方法に基づき測定した。
〔共重合体の物性の評価〕
得られた共重合体を、シリンダー温度230℃にて射出成形して、共重合体の物性を評価した。物性評価は、次の方法に従って行った。
(a)耐熱性:ASTM D-1525によるビカット軟化点。
(b)機械的強度:JIS K 6871に準じたアイゾット衝撃強度、
引っ張り強度。
(c)色調:JIS K 7105による黄色度。
(d)透明性:JIS K 7105による曇価及び全光線透過率。曇価
が低い程、また全光線透過率が高い程透明性が高いと評価される。
反応条件、共重合体組成の解析および物性評価結果を表1に示す。
実施例2,3,4
共重合体製造時の原料組成、反応温度を表1に示したように変化させ、また完全混合槽型反応器内の平均滞留時間を、実施例2では1.1時間とした他は実施例1と全く同様にして共重合体の製造を実施した。反応条件、共重合体組成の解析および物性評価結果を表1に示した。」(第4頁右下欄第6行~第5頁右下欄第14行)
なお、表1は以下のとおりのものである。
5 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「スチレン系単量体」は、技術的にみて、本件発明1の「芳香族ビニル単量体」に該当する。また、引用発明の「不飽和ジカルボン酸無水物単量体」は、技術的にみて、本件発明1の「不飽和ジカルボン酸無水物単量体」に相当する。
また、引用発明の「スチレン系樹脂」は、「スチレン系単量体と、不飽和カルボン酸単量体及び/又は不飽和ジカルボン酸無水物単量体を単量体成分として含む重合体」である。そうすると、引用発明の「スチレン系樹脂」と、本件発明1の「芳香族ビニル単量体単位45~80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位5~20質量%からなり、数平均分子量(Mn)が5.5万~9万、かつ重量平均分子量(Mw)が14万~20万であり、ASTM D1003に基づき測定した2mm厚みの曇り度が1%以下である負の配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂」とは、技術的にみて、「芳香族ビニル単量体単位、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位を含む熱可塑性樹脂」である点で共通する。
(イ)引用発明の「スチレン系樹脂を50重量%以上含む光学異方性フィルム」は、その製造方法からみて、延伸前の原反シートを「延伸」して得られるものである。そして、引用発明の「スチレン系樹脂を50重量%以上含む光学異方性フィルム」と本件発明1の「芳香族ビニル単量体単位45~80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位5~20質量%からなり、数平均分子量(Mn)が5.5万~9万、かつ重量平均分子量(Mw)が14万~20万であり、ASTM D1003に基づき測定した2mm厚みの曇り度が1%以下である負の配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂フィルムを延伸して得られるフィルムA」とは、「芳香族ビニル単量体単位、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位を含む配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂フィルムを延伸して得られるフィルムA」である点で共通する。
(ウ)以上より、本件発明1と引用発明とは、
「芳香族ビニル単量体単位、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位を含む配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂フィルムを延伸して得られるフィルムA。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]「フィルムA」に関して、本件発明1は、「芳香族ビニル単量体単位45~80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位5~20質量%からなり、数平均分子量(Mn)が5.5万~9万、かつ重量平均分子量(Mw)が14万~20万であり、ASTM D1003に基づき測定した2mm厚みの曇り度が1%以下である負の配向複屈折性を示す」ものであるのに対し、引用発明は、このように特定されたものではない点。
[相違点2]本件発明1は、「負の配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂フィルムを延伸して得られるフィルムAと正の配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂フィルムを延伸して得られるフィルムBとをフィルムAとフィルムBを遅相軸が直交するように積層」させた「光学補償フィルム」であって、「nx>nz>nyの屈折率分布を形成し、波長450nm、590nmおよび750nmにおける面内位相差Re(450)、Re(590)およびRe(750)がRe(450)<Re(590)<Re(750)の関係を満たし、Nz係数が0.4~0.6である」のに対し、引用発明は、「光学異方性フィルム」(フィルムA)にとどまる点。
イ 判断
事案に鑑みて、[相違点1]について検討する。
引用文献1の記載事項ウの段落【0014】には、「スチレン系樹脂は、スチレン系単量体と、不飽和カルボン酸単量体及び/又は不飽和ジカルボン酸無水物単量体に、他の単量体成分を共重合したものでもよい。共重合可能な他の単量体としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;・・・などが挙げられ、これらの2種以上を共重合してもよい。」、「このような他の単量体成分の共重合割合は、スチレン系樹脂において0~50重量%であることが望ましく、0~30重量%であることがさらに望ましく、0~20重量%であることがとりわけ望ましい。」と記載されている。また、記載事項ウの段落【0011】には、「スチレン系樹脂における不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の量は、スチレン系単量体単位と不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の合計重量に対して、2重量%以上30重量%未満の範囲が好ましい。スチレン系単量体単位の重量%を98重量%以下、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の量を2重量%以上にすることで、光学用フィルムとしての十分な耐熱性、低光弾性係数が得られる。また、スチレン系単量体単位の量を70重量%以上、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位の重量%を30重量%以下にすることで、熱溶融加工時のゲル生成の頻度を少なくすることができ、十分な延伸安定性とフィルムの二次加工適性が得られる。」と記載されている。上記記載に基づけば、引用文献1には、引用発明の重合体について、他の単量体成分として(メタ)アクリル酸エステル単量体を共重合させること、スチレン系単量体、不飽和ジカルボン酸無水物単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合割合を、光学用フィルムとしての十分な耐熱性、低光弾性係数が得られ、十分な延伸安定性とフィルムの二次加工適性が得られるように調製することが記載されているといえる。
しかしながら、引用文献1には、本件発明1の上記[相違点1]に係る構成の「芳香族ビニル単量体単位45~80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位5~20質量%」との数値範囲とすることについて記載されていない。
そして、本件発明1の効果は、段落[0010]の記載に基づけば、「負の配向複屈折性を示し、透明性、耐熱性、フィルム強度、および光学特性に優れ、かつ光学補償フィルムに適した美麗なフィルムを得ることを可能にする光学補償フィルム用共重合体を提供すること」であるといえる。そして、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含まない比較例6のフィルムは、2mm厚みプレートの曇り度が2.8%であって、透明性に劣ることが示されている。以上の記載事項に基づけば、本件発明1は、「芳香族ビニル単量体単位45~80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位5~20質量%」である熱可塑性樹脂フィルムを用いたことにより、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含まない熱可塑性樹脂フィルムを用いた場合に比べて、より、透明性に優れた光学補償フィルムを提供できるという効果を奏するといえる。一方、引用文献1には、記載事項イの段落【0009】に「透明性、・・・に優れたスチレン系樹脂からなる異方性フィルムを提供できる。」と記載されているが、段落【0002】に「近年、スチレン系樹脂が、高い透明性と負の固有屈折値、負の厚み方向レタデーション(Rth)を持つポリマーであることから、光学用フィルムとして注目されている。」と記載されており、引用文献1の記載事項カには、本願の比較例6、比較例7と同様に2成分の単量体からなる共重合体が開示されているものの、「芳香族ビニル単量体単位45~80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位5~20質量%」とする条件を満たす共重合体が開示されていない。そうすると、引用文献1は、スチレン系樹脂を用いた共重合体が透明性に優れることを示すにとどまり、引用文献1の記載からは、芳香族ビニル単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位からなり特定の重合割合の共重合体を用いることにより、より透明性に優れた異方性フィルムを提供できることを理解することはできない。そうすると、本件発明1の効果は、当業者であっても、引用文献1の記載から予測し得たものということはできない。
また、引用文献4の記載事項オに基づけば、引用文献4には、実施例1として、単量体の組成の分析結果が、スチレン系単量体が72重量部、メチルメタクリレートが19重量部、無水マレイン酸が9重量部である共重合体が記載されている。引用文献4に実施例1として記載された共重合体は、本件発明1のフィルムAに用いられる熱可塑性樹脂の「芳香族ビニル単量体単位45~80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位5~20質量%からなり」とする要件を満たす。
しかし、引用文献4に記載された上記技術事項は、記載事項イに記載されるとおり、「耐熱性のスチレン系共重合体の透明度を向上するという問題」に鑑み、単量体の量的関係が特定されたものであるが、「外観の重視される成形物、例えば、カセットテープのケースやディジタルオーディオディスク用のディスクケース、あるいは光学的用途等」の成形加工品を対象とするものである。また、引用文献4に記載された上記技術事項においては、引用発明のように(製膜されたフィルムを)二軸延伸することにより、光学異方性フィルムとすることや、スチレン系樹脂が具備する負の固有屈折率を利用することを想定しているとはいえない。そうすると、引用文献1の記載事項イの段落【0001】に記載されるとおり、「スチレン系樹脂からなる光学異方性フィルムに関する」発明である引用発明と、引用文献4の記載された上記技術事項の「成形加工品」とは、スチレン系樹脂の透明性を利用する点で共通するにとどまるから、その技術分野が共通するとまではいえない。
したがって、当業者であっても、引用発明の重合体の代わりに引用文献4に記載された共重合体を採用することを試みるとは考え難い。そして、引用文献4の記載を参酌しても、本件発明1の効果が予測し得たものということはできない。
また、引用文献4に記載された上記技術事項を主引用発明としても、同様である。
ウ むすび
以上のとおりであるから、[相違点2]について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献4に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
(2)本件発明2~6
本件発明2~6は、本件発明1の「芳香族ビニル単量体単位45~80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位5~20質量%からなり、数平均分子量(Mn)が5.5万~9万、かつ重量平均分子量(Mw)が14万~20万であり、ASTM D1003に基づき測定した2mm厚みの曇り度が1%以下である負の配向複屈折性を示す熱可塑性樹脂フィルムを延伸して得られるフィルムA」と同一の構成を備える発明である。したがって、本件発明2~6も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献4に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
6 むすび
以上のとおり、本件発明1~6は、当業者が引用発明及び引用文献4に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-009830