特許拒絶査定不服審判
2018-006054
半導体装置の作製方法
- 審判番号
- 2018-006054
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-232179外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年05月02日
- 審決日
- 2019年01月28日
- 公報発行日
- 2019年03月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社半導体エネルギー研究所
- 分類
- P18 .113-WY (H01L) / P18 .121-WY (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項第3号、特許法第17条の2第5項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-232179「半導体装置の作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日出願公開、特開2017- 50567,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は,特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成23年4月21日(優先権主張 平成22年4月23日。以下「本願優先日」という。)に出願した特願2011- 94895号の一部を,平成28年1月8日に新たに特許出願した特願2016- 2477号の一部を,さらに,平成28年11月30日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成29年10月16日:拒絶理由通知(起案日)
平成29年12月 1日:意見書
平成29年12月 1日:手続補正書
平成30年 2月 1日:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
平成30年 5月 2日:審判請求
平成30年 5月 2日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1.本願請求項1に係る発明は,本願優先日前に頒布された以下の引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
2.本願請求項1,2に係る発明は,本願優先日前に頒布された以下の引用文献1-3,又は,引用文献4,5に基づいて,本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2008-166716号公報
2.特開2010-56546号公報
3.特開2010-16348号公報
4.特開2009-253204号公報
5.米国特許出願公開第2008/0299702号明細書
第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
請求項1,2の「第2の絶縁膜」という構成を,「酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜である」と特定する本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定する補正であって,補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。また,本件補正により追加された構成は,本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。また,本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面をまとめて「当初明細書等」という。)の段落【0061】等に記載されており,本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。
さらに,請求項2の「前記ドレイン電極上に」という記載を,「前記ドレイン電極層上に」とする補正は,特許法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正に該当するから,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。
さらに,請求項3を削除する補正は,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当するから,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1,2に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。
第4 本願発明
本願請求項1,2に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」という。)は,平成30年5月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
ゲート電極層を形成する第1の工程と,
前記第1の工程の後,前記ゲート電極層上に,第1の絶縁膜を形成する第2の工程と,
前記第2の工程の後,前記第1の絶縁膜上に,前記ゲート電極層と重なる領域を有する酸化物半導体膜を形成する第3の工程と,
前記第3の工程の後,前記酸化物半導体膜上に,ソース電極層及びドレイン電極層を形成する第4の工程と,
前記第4の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第5の工程と,
前記第5の工程の後,前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第6の工程と,を有し,
前記第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項2】
ゲート電極層を形成する第1の工程と,
前記第1の工程の後,前記ゲート電極層上に,第1の絶縁膜を形成する第2の工程と,
前記第2の工程の後,前記第1の絶縁膜上に,金属酸化物膜を形成する第3の工程と,
前記第3の工程の後,前記金属酸化物膜上に,前記ゲート電極層と重なる領域を有する酸化物半導体膜を形成する第4の工程と,
前記第4の工程の後,前記酸化物半導体膜上に,ソース電極層及びドレイン電極層を形成する第5の工程と,
前記第5の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第6の工程と,
前記第6の工程の後,前記第2の絶縁膜中から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第7の工程と,を有し,
前記第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜であることを特徴とする半導体装置の作製方法。」
第5 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同じ。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,ボトムゲート型薄膜トランジスタ,ボトムゲート型薄膜トランジスタの製造方法及び表示装置に関し,特に,エッチングストッパとしての絶縁膜が設けられるボトムゲート型薄膜トランジスタ,ボトムゲート型薄膜トランジスタの製造方法及び表示装置に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
<途中省略>
【0015】
しかし,ZnOを主成分とした酸化物半導体は,酸素欠陥が入りやすくキャリア電子が多数発生し易いため,ソース電極及びドレイン電極のエッチング工程において酸化物半導体層にダメージを与えてしまうことがある。
【0016】
また,このエッチングによる半導体層へのダメージを低減するために保護層を設けエッチングストッパ層とすることが考えられるが,保護膜形成時においても酸化物半導体層にダメージを与えてしまいオフ電流が大きくなってしまう。
【0017】
このため,オン・オフ比の良好なTFT特性を安定して実現することが難しいという課題がある。
【0018】
そこで,本発明は,酸化物半導体を用いたボトムゲート型薄膜トランジスタにおいて,ソース電極及びドレイン電極をエッチング工程により形成可能とし量産性に優れたプロセスを可能にすることを目的とする。
【0019】
また,オフ電流を最小化した良好なトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタを提供することも目的とする。」
「【発明の効果】
【0022】
本発明によれば,ソース電極及びドレイン電極をエッチング工程により形成可能とし量産性に優れ,オフ電流を最小化したトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタの提供が可能となる。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下,添付図面を参照して本発明を実施するための最良の実施の形態を説明する。
【0024】
本実施形態の薄膜トランジスタ(TFT)においては,ゲート絶縁膜材料としてアモルファスSiOxを用いる。また,スパッタ法によりアモルファス酸化物絶縁体のAl2O3チャネルやa-SiOxNyを形成することも可能である。
【0025】
薄膜トランジスタのチャネル層としては,ZnOやInと,Znと,Oとを含む酸化物半導体を用いることが好ましい。
【0026】
そして,チャネル層は,Inと,Znと,Oと,それ以外にさらにGa,Al,Fe,Sn,Mg,Ca,Si,Geのうち少なくとも1種とを含む。そして,その伝導率が10-3S/cm以上10-7S/cm以下であるアモルファス酸化物を用いることが好ましい。
【0027】
図1は,薄膜トランジスタの一例として,保護膜がエッチングストッパとして機能するボトムゲート構造の構成を示す断面図である。
【0028】
基板1上にゲート電極2を設け,さらに第1の絶縁膜3,そして,その上にチャネル層としての酸化物半導体層4,第2の絶縁膜5,ソース電極6,ドレイン電極7を設けることにより構成される。
【0029】
酸化物半導体層4としてInと,Znと,Oとを含むアモルファス酸化物を用いる場合,室温で作製することができるため,絶縁膜もスパッタ法を用いればすべての成膜工程を室温で形成できる。また,基板としてプラスチック基板やプラスチックフィルムなどを用いることもできる。
【0030】
酸化物半導体層4をパターニングし,チャネル領域を形成した後,第2の絶縁膜5であるアモルファス酸化物絶縁層を酸化性ガスが含まれる雰囲気で形成する。
【0031】
保護層である第2の絶縁膜5を酸化物半導体が低抵抗にならないように形成することにより,ZnOを主成分とした酸化物半導体の酸素欠陥生成を抑制し,キャリア電子が多数発生しオフ電流が大きくなってしまうことを防げる。
【0032】
第2の絶縁膜5をCF4ガスによりドライエッチングを行いパターニングした後,ソース電極6及びドレイン電極7としてITO又はIZOなどの透明導電性酸化膜を形成する。
【0033】
エッチングストップ層として機能する第2の絶縁膜がチャネル領域を保護しているため,ソース電極及びドレイン電極をドライエッチングはもちろんウェットエッチングによるパターニングで形成することも可能となる。
【0034】
第2の絶縁膜は,理想的にはチャネル領域の全体を覆うことが,上記ソース電極及びドレイン電極のエッチング時にチャネル領域を保護する観点からは好ましい。
【0035】
しかし,エッチング条件やエッチング時間等によって,チャネル層へのダメージが実質的に特性を大きく低下させない場合には,第2の絶縁膜を必ずしもチャネル領域の全体を覆うように設けなくても良い。この場合には第2の絶縁膜をチャネル領域の一部を覆うように設けても良い。
【0036】
また,ソース電極及びドレイン電極としてNi,Cr,Rh,Mo,Nd,Ti,W,Ta,Pb,Alなどの金属や,これらを含む合金又はシリサイドも用いることができる。
<途中省略>
【0049】
これは酸化物半導体が,水素に対して非常に敏感であり,酸化物半導体の第2の絶縁膜に接する部分が非常に低抵抗化したものと考えられる。
【0050】
以下に本発明の主たる部分である酸化性ガスが含まれる雰囲気で形成する第2の絶縁膜について詳細に説明する。
【0051】
(第2の絶縁膜について)
具体的には,スパッタ法を用い,ターゲットとしてSiO2を用い,スパッタガスとしてのO2ガスとArガスとの混合ガス(以下O2/Ar混合ガスという)を用いアモルファス酸化物絶縁層を形成することで実現できる。
【0052】
O2/Ar混合比は[O2ガス流量(SCCM)]/([O2ガス流量(SCCM)]+[Arガス流量(SCCM)])単位:vol%で示される。その効果は,O2/Ar混合比10vol%以上で認められ,さらに好ましくは50vol%であった。
【0053】
O2/Ar混合比は50vol%では第2の絶縁膜5を形成しない場合に良好なオフ電流特性の得られるほぼすべての酸化物半導体条件において良好なオフ電流特性が得られた。
【0054】
第2の絶縁膜であるアモルファスSiOxの酸素含有量の測定法として,昇温脱離分析法(TDS)が挙げられる。
【0055】
試料にもよるが,基板表面に接触させた熱電対の温度で,数10℃から400℃程度にかけて,薄膜中に存在する酸素の脱離ピークが観測される。
【0056】
本発明において,昇温脱離分析により第2の絶縁膜であるアモルファスSiOxから脱離する酸素(脱離ガス)は,ほぼ400℃で脱離し終わっていた。
【0057】
定量に用いた測定温度範囲は,基板表面に接触させた熱電対の温度で50℃から800℃とした。
【0058】
脱離したガス種が酸素であることは,O2+に相当する質量数(m/z)32のイオン強度から同定した。
【0059】
図4は,昇温脱離法により測定された酸素脱離スペクトルの一例を示すグラフである。
【0060】
こうして得られた第2の絶縁膜であるアモルファスSiOxから脱離する酸素量は,形成雰囲気中の酸素濃度と比例関係にあった。
【0061】
図5は,昇温脱離法により測定されたアモルファスSiOxからの酸素脱離量と形成雰囲気であるArに含まれるO2ガス濃度の関係を示すグラフである。
【0062】
透明酸化物半導体を用いたTFTの第2の絶縁膜に関する研究開発を精力的に進めた結果,アモルファスSiOxのスパッタガス(スパッタ成膜ガスともいう)としてO2ガスとArガスとの混合ガス(以後O2/Ar混合ガスという)を用いることを見出した。
【0063】
さらには,その混合比(混合ガス比ともいう)が10vol%以上において酸化物半導体の酸素欠陥生成を抑制し,キャリア電子が多数発生しオフ電流が大きくなってしまうことを防げることを見出した。
【0064】
この酸素欠陥生成の抑制効果をもつアモルファスSiOxは,昇温脱離法により,3.8×1019個/cm3以上の酸素を膜中に含有していることが分かった。
【0065】
また,よりプロセスマージンが広く安定した特性の得られる形成条件は,スパッタガス中のArガスとO2ガスの合算に対するO2ガスの体積比(O2/Ar混合比)が50vol%のスパッタガスを用いた場合である。そして,例えばこの条件で酸化物半導体を形成すると,1.2×1020個/cm3程度の酸素を膜中に含有していた。この酸素を膜中に含有するアモルファスSiOxは,その成膜プロセスによる意図しない加熱又はその後のプロセスによる加熱により酸素を放出し,酸化物半導体の界面部分を酸化することにより低抵抗化を抑制すると考えられる。成膜プロセスによる意図しない加熱とは,具体的には,成膜時の投入電力による昇温などが考えられる。その結果,酸化物半導体の酸素欠陥生成を抑制され,キャリア電子が多数発生しオフ電流が増大することを防ぐことができると考えられる。」
「【0126】
次に本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【0127】
[実施例1]
本実施例では,図11に示す逆スタガー(ボトムゲート)型MISFET素子を作製した。
【0128】
先ずガラス基板にフォトリソグラフィー法とリフトオフ法を用いTi5nm/Au40nm/Ti5nmのゲート端子を形成した。
【0129】
さらにその上に,RFスパッタ法によりa-SiOxによる絶縁層を200nm形成した。その際,スパッタターゲットにはSiO2ターゲットを用い,スパッタガスにArガスを用いた。また,RF高周波電力は400W,成膜圧力は0.1Pa,成膜速度は7.4nm/分であった。基板温度は室温であり意図的な加熱は行なわなかった。
【0130】
そして,その上に,室温においてRFスパッタ法で半導体層として用いるアモルファス酸化物半導体膜を20nm形成した。
【0131】
チャネル領域の形成にはフォトリソグラフィー法と塩酸によるウェットエッチングを用いた。
【0132】
その後,Ti5nm/Au40nm/Ti5nmを電子ビーム蒸着法により成膜し,フォトリソグラフィー法とリフトオフ法によりソース,ドレイン端子を形成した。
【0133】
さらに第2の絶縁膜としてRFスパッタ法によりa-SiOxによる絶縁層を100nm形成した。
【0134】
その際,ターゲットとしてSiO2を用い,スパッタガスとしてO2ガス5SCCM,Arガス5SCCMのO2/Ar混合比50vol%の酸化性雰囲気を用いる。また,RF高周波電力は400W,成膜圧力は0.1Pa,成膜速度は2.9nm/分である。基板温度は室温であり意図的な加熱は行なわない。
【0135】
こうして,図11に示す逆スタガー(ボトムゲート)型MISFET素子9個を完成した。その際のアモルファス酸化物半導体膜の金属組成比はIn:Ga:Zn=1.00:0.94:0.65であった。
【0136】
このMISFET素子のI-V特性評価の結果,9個のTFTは平均電界効果移動度5.0cm2/Vs,平均オン・オフ比106超であった。図12にその伝達特性を示す。
【0137】
本発明の第2の絶縁膜を用いれば酸化物半導体ボトムゲート型薄膜トランジスタはオフ電流を最小化し,良好なトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタを安定して作製することができる。」
したがって,上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「ゲート電極として用いるゲート端子を形成し,
さらにその上に,第1の絶縁膜として用いるa-SiOxによる絶縁層を形成し,
そして,その上に,酸化物半導体層として用いるアモルファス酸化物半導体膜を形成し,
その後,ソース,ドレイン電極として用いるソース,ドレイン端子を形成し,
さらに第2の絶縁膜としてa-SiOxによる絶縁層を形成し,その際,ターゲットとしてSiO2を用い,スパッタガスとしてO2ガス5SCCM,Arガス5SCCMのO2/Ar混合比50vol%の酸化性雰囲気を用い,
ここで,スパッタガス中のArガスとO2ガスの合算に対するO2ガスの体積比(O2/Ar混合比)が50vol%のスパッタガスを用いた場合,この条件で酸化物半導体を形成すると,昇温脱離分析法による測定値として1.2×1020個/cm3程度の酸素を膜中に含有し,この酸素を膜中に含有するアモルファスSiOxは,その成膜プロセスによる意図しない加熱又はその後のプロセスによる加熱により酸素を放出し,酸化物半導体の界面部分を酸化することにより低抵抗化を抑制する,
酸化物半導体ボトムゲート型薄膜トランジスタの製造方法。」
2.引用文献2について
また,原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の段落【0046】,【0047】,【0065】及び図1の記載からみて,当該引用文献2には,ゲート絶縁膜を第1の絶縁膜とその上の第2の絶縁膜とで構成し,第2の絶縁膜として酸化イットリウム膜などを用いることができるという技術的事項が記載されていると認められる。
3.引用文献3について
また,原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3の段落【0022】,【0023】の記載からみて,当該引用文献3には,ゲート電極の上にゲート絶縁層,界面安定化層,酸化物半導体からなる活性層を順次形成し,ここで界面安定化層としてGaOx等の酸化物を選択できるという技術的事項が記載されていると認められる。
4.引用文献4について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,酸化物半導体膜をチャンネル層に用いた電界効果型トランジスタ,その製造方法及びそれを使用した液晶ディスプレイ又は有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)等の電界効果型トランジスタは,半導体メモリ集積回路の単位電子素子,高周波信号増幅素子,液晶駆動用素子等として広く用いられており,現在,最も多く実用されている電子デバイスである。
なかでも,近年における表示装置のめざましい発展に伴い,液晶表示装置(LCD),エレクトロルミネッセンス表示装置(EL),フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の各種の表示装置において,表示素子に駆動電圧を印加して表示装置を駆動させるスイッチング素子として,TFTが多用されている。
【0003】
電界効果型トランジスタの主要部材である半導体層(チャネル層)の材料としては,シリコン半導体化合物が最も広く用いられている。一般に,高速動作が必要な高周波増幅素子や集積回路用素子等には,シリコン単結晶が用いられている。一方,液晶駆動用素子等には,大面積化の要求から非晶性シリコン半導体(アモルファスシリコン)が用いられている。
<途中省略>
【0008】
このような状況下,近年にあっては,シリコン系半導体薄膜よりも安定性が優れるものとして,酸化物を用いた酸化物半導体薄膜が注目されている。
例えば,特許文献1には半導体層として酸化亜鉛を使用したTFTが記載されている。
しかしながら,この半導体層では電界効果移動度が1cm2/V・sec程度と低く,on-off比も小さかった。その上,漏れ電流が発生しやすいため,工業的には実用化が困難であった。また,酸化亜鉛を用いた結晶質を含む酸化物半導体については,多数の検討がなされているが,工業的に一般に行われているスパッタリング法で成膜した場合には,次のような問題があった。
【0009】
即ち,移動度が低い,on-off比が低い,漏れ電流が大きい,ピンチオフが不明瞭,ノーマリーオンになりやすい等,TFTの性能が低くなるおそれがあった。また,耐薬品性が劣るため,ウェットエッチングが難しい等製造プロセスや使用環境の制限があった。さらに,性能を上げるためには高い圧力で成膜する必要があり成膜速度が遅かったり,700℃以上の高温処理が必要である等工業化に問題もあった。また,ボトムゲート構成での電解移動度等のTFT性能が低く,性能を上げるにはトップゲート構成で膜厚を50nm以上にする必要がある等TFT素子構成上の制限もあった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は,上記の事情に鑑みなされたものであり,移動度が高い電界効果型トランジスタの提供を目的とする。」
「【発明の効果】
【0014】
本発明によれば,移動度の非常に高い電界効果型トランジスタを,再現よく得ることができる。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の電界効果型トランジスタは,基板上に,少なくとも半導体層と,半導体層の保護層と,ソース電極と,ドレイン電極と,ゲート絶縁膜と,ゲート電極とを有する。
図1は,本発明の一実施形態の電界効果型トランジスタの概略断面図である。
電界効果型トランジスタ1では,熱酸化膜11を有するシリコン基板10上に,ゲート電極12がストライプ状に形成されている。このゲート電極12を覆うようにゲート絶縁膜13を有し,このゲート絶縁膜13上であって,かつ,ゲート電極12上に半導体層14(活性層)が形成されている。
半導体層14の一端14aに,ゲート電極12と直交する方向にソース電極15が接続されている。また,半導体層14の一端14aに対向する他端14bにドレイン電極16が接続されている。
半導体層14,ソース電極15及びドレイン電極16を覆うように保護層17が形成されている。
【0016】
図2は,ゲート電極12,半導体層14,ソース電極15及びドレイン電極16の位置関係を示す概略上面図である。位置関係の可視化のため一部の部材を省略してある。
【0017】
本発明の電界効果型トランジスタでは,半導体層の厚さは1nm以上15nm以下である。半導体層の厚さが1nm未満の場合,膜厚の制御が困難となり,大面積にわたって移動度が均一な半導体層を得ることが困難になる。半導体層の厚さが15nmを越えると,半導体層の3次元散乱の影響を受けやすくなり,移動度低下等の性能劣化を招く。半導体層の好ましい厚さは2nm以上13nm以下,さらに好ましくは5nm以上12nm以下である。
尚,半導体層の厚さはSloan社のDEKTAK等で測定できる。尚,厚さが10nm以下の場合は,測定可能な厚さ(例えば,100nm)に成膜するのに要した時間を測定し,この時間を基準として,成膜時間から厚さを換算することで求めた値である。
【0018】
また,ソース電極とドレイン電極の間(チャネル長:図2のL)は0.5μm以上50μm以下である。チャネル長が0.5μm未満の場合,トンネル効果によって常に電流が流れ続ける状態となり,オフ電流が大きくなる。チャネル長が50μmを超えると,粒界散乱による移動度の低下を招きやすくなる。チャネル長は1μm以上30μm以下が好ましく,2μm以上20μm以下が最も好ましい。
【0019】
さらに,本発明においては半導体層が,少なくともIn元素及びZn元素,又はIn元素,Zn元素及び元素Xを含有し,In元素及びZn元素の含有率(原子比)が下記の(1)及び(2)を満たす。
In/(In+Zn+X)=0.200~0.600 (1)
Zn/(In+Zn+X)=0.200~0.800 (2)
【0020】
上記(1)において,Inの含有率が0.200より小さいと,薬液耐性に乏しい酸化亜鉛の比率が増加するため,エッチングが困難となり,トランジスタの性能が低下する。一方,0.600より大きいと,電子密度が多すぎるため,OFF電流の上昇,On/Off比の低下を招く。Inの含有率は,より好ましくは0.250~0.550であり,特に好ましくは0.300~0.450である。
【0021】
元素Xとしては,Al,Ga,Cu,B,Ca,Mg,Si,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Sr,Zr,Nb,Mo,Sn,Sb,Ba,Hf,Ta及び希土類元素等が挙げられる。好ましくは,Al,Ga,Cuである。
半導体層における元素Xの含有率[X/(In+Zn+X):原子比]は,0.010~0.600が好ましい。
<途中省略>
【0026】
以下,本発明の電界効果型トランジスタを構成部材について説明する。
1.基板
特に制限はなく,本技術分野で公知のものを使用できる。例えば,ケイ酸アルカリ系ガラス,無アルカリガラス,石英ガラス等のガラス基板,シリコン基板,アクリル,ポリカーボネート,ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂基板,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリアミド等の高分子フィルム基材等が使用できる。
<途中省略>
【0027】
2.半導体層
上述したとおり,本発明においては半導体層が,少なくともIn元素及びZn元素,又はIn元素,Zn元素及び元素Xを含有し,In元素及びZn元素の含有率が上記(1)及び(2)を満たす。
<途中省略>
【0031】
3.半導体層の保護層
半導体の保護層を形成する材料には特に制限はないが,非晶質酸化物又は非晶質窒化物からなることが好ましい。
例えば,SiO2,SiNx(x=0.1~10),Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも,SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく,より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3であり,特に好ましくはSiO2,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は,必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば,SiO2でもSiOx(x=0.1~10)でもよい)。また,SiNxは水素元素を含んでいても良い。
【0032】
このような保護層は,異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また,保護層は,結晶質,多結晶質,非晶質のいずれであってもよいが,工業的に製造しやすい多結晶質か,非晶質であるのが好ましい。特に,保護層が非晶質であることが好ましい。非晶質膜でないと界面の平滑性が悪く移動度が低下したり,閾値電圧やS値が大きくなりすぎるおそれがある。
また,保護層が酸化物でないと半導体中の酸素が保護層側に移動し,オフ電流が高くなったり,閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれがある。
また,半導体層の保護層は,ポリ(4-ビニルフェノール)(PVP)やパリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに,半導体層の保護層は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0033】
4.ゲート絶縁膜
ゲート絶縁膜を形成する材料には特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば,SiO2,SiNx(x=0.1~10),Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも,SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく,より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3であり,特に好ましくはSiO2,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は,必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば,SiO2でもSiOx(x=0.1~10)でもよい)。また,SiNxは水素元素を含んでいても良い。
このようなゲート絶縁膜は,異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。積層した場合は,半導体層と接する側をSiO2等の酸化膜とすることが好ましい。また,ゲート絶縁膜は,結晶質,多結晶質,非晶質のいずれであってもよいが,工業的に製造しやすい多結晶質か,非晶質であるのが好ましい。界面が平坦な非晶質膜が特に好ましい。
【0034】
5.電極
ゲート電極,ソ-ス電極及びドレイン電極の各電極を形成する材料に特に制限はなく,本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択することができる。例えば,インジウム錫酸化物(ITO),インジウム亜鉛酸化物,ZnO,SnO2等の透明電極や,Al,Ag,Cr,Ni,Mo,Au,Ti,Ta,Cu等の金属電極,又はこれらを含む合金の金属電極を用いることができる。また,それらを2層以上積層して接触抵抗を低減したり,界面強度を向上させることが好ましい。」
「【実施例】
【0049】
実施例1
A.ターゲットの作製
原料として,酸化インジウムと酸化亜鉛の粉末を,In/(In+Zn)が0.20(原子比),Zn/(In+Zn)が0.80となるように混合した。これを湿式ボールミルに供給し,72時間混合粉砕して原料微粉末を得た。
得られた原料微粉末を造粒した後,直径10cm,厚さ5mmの寸法にプレス成形して,これを焼成炉に入れ,1,500℃,12時間の条件で焼成して,焼結体(ターゲット)を得た。
ターゲットを粉砕し発光分光分析(ICP)で分析したところ,Sn(錫),Ge(ゲルマニウム),Si(シリコン),Ti(チタン),Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム)等の不純物は含まれていなかった。また,ターゲットのバルク抵抗は30mΩ,理論相対密度は0.96であった。
【0050】
B.半導体層の組成評価試料の作製
上記Aで得たスパッタリングターゲットを,DCスパッタ法の一つであるDCマグネトロンスパッタリング法の成膜装置に装着し,ガラス基板(コーニング1737)上に透明導電膜(半導体層)を成膜した。
ここでのスパッタ条件としては,基板温度;25℃,到達圧力;1×10-6Pa,雰囲気ガス;Ar99%及び酸素1.0%,スパッタ圧力(全圧);2×10-1Pa,投入電力100W,成膜時間8分間,S-T距離100mmとした。
成膜前に,チャンバーを十分にベーキングし,到達圧力を十分に下げ,ロードロックを用い基板を投入することで,成膜時の水分圧を低減した。四重極質量分析器(Q-mass)でスパッタチャンバー中のH2O(水)を分析し,成膜時の水分圧を測定したところ1×10-6Pa以下であった。
【0051】
この結果,ガラス基板上に,膜厚が10nmの酸化物薄膜が形成された。
尚,得られた膜組成をICP法で分析したところ,原子比〔In/(In+Zn)〕が0.20,原子比〔Zn/(In+Zn)〕が0.80であった。
尚,電子線回折の回折パターンから,半導体層は非晶質であった。
【0052】
C.電界効果型トランジスタの作製
図1に示す電界効果型トランジスタと同様のトランジスタを作製した。
熱酸化膜付きシリコン基板上に,室温のRFスパッタリングでモリブデン金属を200nm積層した後,ウェットエッチングでパターニングし,ゲート電極を作製した。
次に,ゲート電極を作製した基板にプラズマ化学気相成長装置(PECVD)にて,SiNxを300℃で成膜(厚さ200nm)し,ゲート絶縁膜とした。
次に,上記Aで製造したターゲットを用い,上記Bの条件と同様にして,厚さ10nmの薄膜を成膜し,その後パターニングして半導体層を形成した。
次に,リフトオフプロセス,RFマグネトロンスパッタリング(室温,Ar100%),及びエッチングにより,In2O3-ZnOからなるソース/ドレイン電極を形成した。
エッチング後に,トランジスタを空気中300℃で1時間熱処理を加えた。
その上に,SiO2保護層(パッシベーション膜)を形成し,電界効果型トランジスタを製造した(図2のWが20μm,Lが5μmのボトムゲート型の電界効果型トランジスタ)。」
したがって,上記引用文献4には次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「熱酸化膜付きシリコン基板上に,ゲート電極を作製し,
次に,ゲート電極を作製した基板に,SiNxを成膜し,ゲート絶縁膜とし,
次に,薄膜を成膜し,その後パターニングして半導体層を形成し,ここで,半導体層が,少なくともIn元素及びZn元素,又はIn元素,Zn元素及び元素Xを含有し,In元素及びZn元素の含有率(原子比)が下記の(1)及び(2)を満たすこと,
In/(In+Zn+X)=0.200~0.600 (1)
Zn/(In+Zn+X)=0.200~0.800 (2)
次に,In2O3-ZnOからなるソース/ドレイン電極を形成し,
その後に,トランジスタを空気中300℃で1時間熱処理を加え,
その上に,半導体の保護層であるSiO2保護層(パッシベーション膜)を形成し,ここで,半導体の保護層を形成する材料には特に制限はないが,非晶質酸化物又は非晶質窒化物からなることが好ましく,特に好ましくはSiO2,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3等の酸化物であり,これらの酸化物の酸素数は,必ずしも化学量論比と一致していなくともよく,例えば,SiO2でもSiOx(x=0.1~10)でもよい,
電界効果型トランジスタを製造する製造方法。」
5.引用文献5について
また,原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5の段落[0009],[0010]の記載からみて,当該引用文献5には,薄膜トランジスタのZnOを含むチャネル層上に酸化物層又は酸素パッシベーション層を形成し,チャネル層及び,酸化物層又は酸素パッシベーション層をアニーリングすることで,酸化物層又は酸素パッシベーション層中の酸素をチャネル層に導入するという技術的事項が記載されていると認められる。
6.その他の文献について
また,前置報告書において新たに引用された特表2008-535205号(以下「引用文献6」という。)の段落【0054】には「酸化物半導体薄膜層15のパターニング後,図6Dに示す如く,該酸化物半導体薄膜層の露出した部分全面を被覆するオーバーコート絶縁膜16を形成する。オーバーコート絶縁膜16は,酸化珪素(SiOx)膜,酸窒化珪素(SiON)膜,窒化珪素(SiNx)膜あるいは窒化珪素(SiNx)に酸素もしくは酸素を構成元素に含む化合物を用いて酸素をドーピングした膜により形成される。このオーバーコート絶縁膜16としては,酸化珪素化合物(SiOx)や酸窒化珪素(SiON)に比較して誘電率の大きい,SiNxに酸素あるいは酸素を構成元素として含む化合物,例えばN2O,を用いて酸素をドーピングした膜が好ましく用いられる。オーバーコート絶縁膜16の形成に際しては,プラズマ化学気相成長(PCVD)法を用いることが好ましい。」と記載されている。
第6 対比・判断
1.本願発明1について(引用文献1を主引例として)
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明1における「ゲート電極」,「第1の絶縁膜」,「酸化物半導体層」,「ソース,ドレイン電極」,「酸化物半導体ボトムゲート型薄膜トランジスタの製造方法」はそれぞれ,本願発明1における「ゲート電極層」,「第1の絶縁膜」,「酸化物半導体膜」,「ソース電極層及びドレン電極層」,「半導体装置の作製方法」に相当するので,引用発明1における「ゲート電極として用いるゲート端子を形成し,さらにその上に,第1の絶縁膜として用いるa-SiOxによる絶縁層を形成し,そして,その上に,酸化物半導体層として用いるアモルファス酸化物半導体膜を形成し,その後,ソース,ドレイン電極として用いるソース,ドレイン端子を形成」「する,酸化物半導体ボトムゲート型薄膜トランジスタの製造方法。」は,本願発明1における「ゲート電極層を形成する第1の工程と,前記第1の工程の後,前記ゲート電極層上に,第1の絶縁膜を形成する第2の工程と,前記第2の工程の後,前記第1の絶縁膜上に,前記ゲート電極層と重なる領域を有する酸化物半導体膜を形成する第3の工程と,前記第3の工程の後,前記酸化物半導体膜上に,ソース電極層及びドレイン電極層を形成する第4の工程」「と,を有」す「ることを特徴とする半導体装置の作製方法。」に相当する。
イ 引用発明1における「第2の絶縁膜」は「昇温脱離分析法による測定値として1.2×1020個/cm3程度の酸素を膜中に含有」しているので,本願発明1における「第2の絶縁膜」と「酸素を含む」という点で共通し,引用発明1における「第2の絶縁膜」は「ソース,ドレイン電極として用いるソース,ドレイン端子を形成し」た後に形成され,「酸化物半導体」と「界面」を有するので,引用発明1と本願発明1とは「前記第4の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ」「酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第5の工程」を有する点で共通する。
したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
(一致点)
「ゲート電極層を形成する第1の工程と,
前記第1の工程の後,前記ゲート電極層上に,第1の絶縁膜を形成する第2の工程と,
前記第2の工程の後,前記第1の絶縁膜上に,前記ゲート電極層と重なる領域を有する酸化物半導体膜を形成する第3の工程と,
前記第3の工程の後,前記酸化物半導体膜上に,ソース電極層及びドレイン電極層を形成する第4の工程と,
前記第4の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第5の工程と,
を有することを特徴とする半導体装置の作製方法。」
(相違点)
(相違点1)本願発明1においては「第2の絶縁膜」が「化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む」と特定されているのに対して,引用発明1の「第2の絶縁膜」においてはそのような特定がない点。
(相違点2)本願発明1においては「第5の工程の後,前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第6の工程」を有しているのに対して,引用発明1においては,「成膜プロセスによる意図しない加熱又はその後のプロセスによる加熱により酸素を放出し,酸化物半導体の界面部分を酸化」しているものの,「前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理」を行ってはいない点。
(相違点3)本願発明1においては「第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜である」と特定されているのに対して,引用発明1においてはそのような特定がない点。
(2)相違点についての判断
ア 相違点1についての判断
引用発明1は「第2の絶縁膜としてa-SiOxによる絶縁層を形成し,その際,ターゲットとしてSiO2を用い,スパッタガスとしてO2ガス5SCCM,Arガス5SCCMのO2/Ar混合比50vol%の酸化性雰囲気を用い,ここで,スパッタガス中のArガスとO2ガスの合算に対するO2ガスの体積比(O2/Ar混合比)が50vol%のスパッタガスを用いた場合,この条件で酸化物半導体を形成すると,昇温脱離分析法による測定値として1.2×1020個/cm3程度の酸素を膜中に含有」するものである。
そして,引用文献1の段落【0056】,【0057】には,前記昇温脱離分析法には測定温度範囲が,50℃から800℃であることが記載されている。
しかしながら,引用文献1には,当該昇温脱離分析法が,アモルファスSiOxに含まれる化学量論比を超える酸素の量を定量的に測定する方法であるとは記載されていない。また,技術常識に照らして,前記分析法における50℃から800℃の測定温度範囲の昇温によって,アモルファスSiOxに含まれる化学量論比を超える酸素の全てがアモルファスSiOxから脱離し,測定後のアモルファスSiOxが化学量論比を示すものとなるとも認められない。
したがって,膜中に「昇温脱離分析法による測定値として1.2×1020個/cm3程度の酸素を」含有することが,直ちに,「第2の絶縁膜」が「化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む」ことを表すとは認められない。
さらに,引用文献1の他の記載,及び,引用文献2ないし6の記載を参酌しても,引用発明1の「第2の絶縁膜」が,「化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む」ものであることが明らかであるとは認められないし,また,このような量の酸素を含むものとする動機も記載されていない。
したがって,相違点1について本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得ることとは認められない。
イ 相違点2についての判断
引用発明1においては,「成膜プロセスによる意図しない加熱又はその後のプロセスによる加熱により」第2の絶縁膜から「酸素を放出し,酸化物半導体の界面部分を酸化する」が,当該工程が,「前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした」ものであるとは認められない。
この点,本願の発明の詳細な説明の段落【0114】においては「なお,上述の酸素ドープ処理の後には,熱処理を行うことが好ましい。熱処理の温度は,例えば150℃以上470℃以下とする。酸素ドープ処理後の熱処理によって,十分な量の酸素を酸化物半導体膜に供給することが可能である。」と記載され,上記「前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的」とした適切な温度やタイミング等が必要であることが示唆されている。
そして,上記目的に即した加熱のために,適切な加熱温度やタイミング等が存在することを前提とすれば,引用発明1における「成膜プロセスによる意図しない加熱又はその後のプロセスによる加熱」が,本願発明1の「前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第6の工程」に相当すると認めることはできない。
さらに,引用発明1においては「その成膜プロセスによる意図しない加熱又はその後のプロセスによる加熱により酸素を放出し,酸化物半導体の界面部分を酸化することにより低抵抗化を抑制する」という技術的な効果を既に達成していることから,上記に加えて,さらなる加熱処理を行う動機付けも認めることはできない。
また,この点について引用文献2ないし6にも記載されておらず,また,その他の技術常識を参酌しても自明なものとも認めることはできない。
ウ 相違点3についての判断
上記「第5」6.の引用文献6には,酸化物半導体薄膜を被覆するオーバーコート絶縁膜として,窒化珪素(SiNx)に酸素もしくは酸素を構成元素に含む化合物を用いて酸素をドーピングした膜により形成される膜が好ましく用いられることが記載されているものの,「オーバーコート絶縁膜16は,酸化珪素(SiOx)膜,」「あるいは窒化珪素(SiNx)に酸素もしくは酸素を構成元素に含む化合物を用いて酸素をドーピングした膜により形成される。」とあるように,これら膜は選択的に引用されるものであり,引用発明1における「第2の絶縁膜」である「a-SiOxによる絶縁層」が既に膜中に酸素を含有することから,引用文献6に記載されるような,膜中にさらに「酸素をドーピング」する動機付けは認められない。
また,この点について引用文献1ないし5にも記載されておらず,また,その他の技術常識を参酌しても自明なものとも認めることはできない。
エ したがって,本願発明1は,引用発明1ではなく,また,当業者であっても,引用発明1,引用文献1ないし6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2.本願発明2について(引用文献1を主引例として)
本願発明2も,本願発明1の「前記第4の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第5の工程と,前記第5の工程の後,前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第6の工程と,を有し,前記第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜であること」に対応する「前記第5の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第6の工程と,前記第6の工程の後,前記第2の絶縁膜中から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第7の工程と,を有し,前記第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜であること」という構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1,引用文献1ないし6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
3.本願発明1について(引用文献4を主引例として)
(1)対比
本願発明1と引用発明4とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明4の「ゲート電極」,「ゲート絶縁膜」,「半導体層」,「ソース/ドレイン電極」,「電界効果型トランジスタを製造する製造方法」はそれぞれ,本願発明1の「ゲート電極層」,「第1の絶縁膜」,「酸化物半導体膜」,「ソース電極及びドレイン電極」,「半導体装置の作製方法」に相当するので,引用発明4の「熱酸化膜付きシリコン基板上に,ゲート電極を作製し,次に,ゲート電極を作製した基板に,SiNxを成膜し,ゲート絶縁膜とし,次に,薄膜を成膜し,その後パターニングして半導体層を形成し,ここで,半導体層が,少なくともIn元素及びZn元素,又はIn元素,Zn元素及び元素Xを含有し,」「次に,In2O3-ZnOからなるソース/ドレイン電極を形成」する「電界効果型トランジスタを製造する製造方法。」は,本願発明1の「ゲート電極層を形成する第1の工程と,前記第1の工程の後,前記ゲート電極層上に,第1の絶縁膜を形成する第2の工程と,前記第2の工程の後,前記第1の絶縁膜上に,前記ゲート電極層と重なる領域を有する酸化物半導体膜を形成する第3の工程と,前記第3の工程の後,前記酸化物半導体膜上に,ソース電極層及びドレイン電極層を形成する第4の工程と,」「を有」す「ることを特徴とする半導体装置の作製方法。」に相当する。
イ 引用発明4における「半導体の保護層であるSiO2保護層(パッシベーション膜)」は,本願発明1における「第2の絶縁膜」と「酸素を含む」という点で共通し,引用発明4における「半導体の保護層」は「ソース/ドレイン電極を形成し」「その上に」形成するものであり,「半導体層」を「保護」するものであるので,引用発明4と本願発明1とは「前記第4の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第5の工程」を有する点で共通する。
したがって,本願発明1と引用発明4との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
(一致点)
「ゲート電極層を形成する第1の工程と,
前記第1の工程の後,前記ゲート電極層上に,第1の絶縁膜を形成する第2の工程と,
前記第2の工程の後,前記第1の絶縁膜上に,前記ゲート電極層と重なる領域を有する酸化物半導体膜を形成する第3の工程と,
前記第3の工程の後,前記酸化物半導体膜上に,ソース電極層及びドレイン電極層を形成する第4の工程と,
前記第4の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ」「酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第5の工程と,
を有することを特徴とする半導体装置の作製方法。」
(相違点)
(相違点4)本願発明1においては「第2の絶縁膜」が「化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む」と特定されているのに対して,引用発明4の「半導体の保護層」においては,「SiOx(x=0.1~10)」を選択できるものの,「化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む」と特定されていない点。
(相違点5)本願発明1においては「第5の工程の後,前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第6の工程」を有しているのに対して,引用発明4においては,そのような熱処理を行ってはいない点。
(相違点6)本願発明1においては「第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜である」と特定されているのに対して,引用発明4においてはそのような特定がない点。
(2)相違点についての判断
上記相違点4について検討すると,引用発明4の「SiOx(x=0.1~10)」を,本願発明1の「化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む」,すなわち,「SiOx(2<x<4)」とする動機が,引用文献4及び,引用文献1ないし3,5,6のいずれにも記載されていない。
そして,本願発明の詳細な説明の段落【0052】に記載された「したがって,酸素ドープ処理によって絶縁膜に過剰に供給された酸素は,その後の熱処理によって系全体を平衡状態とすることで,拡散し,酸化物半導体膜へ酸素が供給される。」という作用機序,段落【0115】に記載された「ここで,酸化物半導体膜403中の酸素の含有量は,酸化物半導体膜403の化学量論比を超える程度,好ましくは,化学量論比の1倍を超えて2倍まで(1倍より大きく2倍未満),とするのが好ましい。酸素の含有量を多くしすぎると,水素吸蔵合金(水素貯蔵合金)のように,かえって水素を取り込んでしまうためである。」という前提をふまえれば,「第2の絶縁膜」が「化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む」点を,単なる設計的事項とすることもできない。
したがって,上記相違点5,6について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明4,引用文献1-6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
4.本願発明2について(引用文献4を主引例として)
本願発明2も,本願発明1の「前記第4の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第5の工程と,前記第5の工程の後,前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第6の工程と,を有し,前記第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜であること」に対応する「前記第5の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第6の工程と,前記第6の工程の後,前記第2の絶縁膜中から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第7の工程と,を有し,前記第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜であること」という構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明4,引用文献1-6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
第7 原査定について
1.理由1(特許法第29条第1項第3号)について
審判請求時の補正により,本願発明1は「前記第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜であること」という事項を有するものとなっており,拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明とはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。
2.理由2(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により,本願発明1は「前記第4の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第5の工程と,前記第5の工程の後,前記第2の絶縁膜から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第6の工程と,を有し,前記第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜であること」という事項を有するものとなり,また,本願発明2は「前記第5の工程の後,前記ソース電極層上及び前記ドレイン電極層上に,前記酸化物半導体膜と接する領域を有し,且つ化学量論比の1倍より大きく2倍未満の酸素を含む第2の絶縁膜を形成する第6の工程と,前記第6の工程の後,前記第2の絶縁膜中から前記酸化物半導体膜へ酸素を供給することを目的とした熱処理を行う第7の工程と,を有し,前記第2の絶縁膜は,酸素ドープ処理によって酸素を添加された膜であること」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1-3,又は,引用文献4,5に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由2を維持することはできない。
第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2018-006054