特許異議申立
2017-700800
気象再現方法及び気象再現装置
- 審判番号
- 2017-700800
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-527938
- 登録番号
- 特許第6084224号(P6084224)
- 請求日
- 2017年08月21日
- 審決日
- 2017年10月27日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日揮株式会社
- 【異議申立人】▲高▼橋 利行
- 審判長/審判官
- 審判長 伊藤 昌哉
- 審判官 松岡 智也
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 分類
- P1651.121-Y (G01W)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6084224号発明「気象再現方法及び気象再現装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6084224号の請求項に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6084224号の請求項1-10に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)10月11日(優先権主張 2012年7月31日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第6084224号の請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」-「本件特許発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件特許発明1、2は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
屋外に配置されて、周囲の気象条件により影響を受けるとともに、空気を熱源、動力源、及び反応物の何れかとして利用する空気利用装置を設計するために、気象シミュレーションにより気象を再現する気象再現方法であって、
時刻及び領域に関係付けられ、少なくとも風向データを含む複数の気象情報から、前記空気利用装置が配置される配置場所を含む領域、及び、ある期間を通した複数の時刻に関係づけられる気象情報のセットを選択し、
前記気象情報のセットの各々を入力データとして、気象シミュレーションのための気象解析モデルに従う前記気象情報の微分方程式を解いて、前記気象情報の領域より狭い領域に関係づけられる第1狭域気象情報のセットを生成し、
前記第1狭域気象情報のセットのうち、前記配置場所を含む領域を対象とする第2狭域気象情報のセットを選択し、
前記空気利用装置の配置方向を決定するために、前記第2狭域気象情報のセットに含まれる風向データを用いて、最も累積頻度が高くなる風向を算定し、
前記算定した風向に基づいて、風上にある前記空気利用装置の排出部により排出したガスを、風下にある前記空気利用装置の吸込み部が吸い込まないように、前記領域に前記空気利用装置を配置する配置図を生成することを特徴とする気象再現方法。
【請求項2】
屋外に配置されて、周囲の気象条件により影響を受けるとともに、空気を熱源、動力源、及び反応物の何れかとして利用する空気利用装置を設計するために、気象シミュレーションにより気象を再現する気象再現方法であって、
時刻及び領域に関係付けられ、少なくとも風向データを含む複数の気象情報から、前記空気利用装置が配置される配置場所を含む領域、及び、ある期間を通した複数の時刻に関係づけられる気象情報のセットを選択し、
前記気象情報のセットの各々を入力データとして、気象シミュレーションのための気象解析モデルに従う前記気象情報の微分方程式を解いて、前記気象情報の領域より狭い領域に関係づけられる第1狭域気象情報のセットを生成し、
前記第1狭域気象情報のセットのうち、前記配置場所を含む領域を対象とする第2狭域気象情報のセットを選択し、
前記空気利用装置の配置方向を決定するために、前記第2狭域気象情報のセットに含まれる風向データを用いて、最も累積頻度が高くなる風向を算定し、
前記第2狭域気象情報を、3次元の流体力学式で演算して、前記第2狭域気象情報より狭い領域の気象場情報を算定し、
前記気象場情報を用いて、前記空気利用装置が吐き出して温められた空気が、前記空気利用装置の吸込み部に再循環する流れを算定することを含むことを特徴とする気象再現方法。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として以下の甲第1~第4号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)を提出し、本件特許発明1、6は、甲1に記載された発明に基づいて、本件特許発明2、7は、甲1に記載された発明及び甲2の記載事項に基づいて、本件特許発明3、8は、甲1に記載された発明及び甲2-3の記載事項に基づいて、本件特許発明4、9は、甲1に記載された発明及び甲2-4の記載事項に基づいて、本件特許発明5、10は、甲1に記載された発明及び甲1-4の記載事項に基づいて、それぞれ、当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:嶋田健司、藤永崇志、石原孟、「風力発電のための地域気象モデルと非線形風況予測モデルを用いた風況予測」、日本風工学会、第19回風工学シンポジウム論文集、2007年3月13日
甲第2号証:Tania Simonetti、Dominique Gadelle、Rajeev Nanda、”USING CFD AND DYNAMIC SIMULATION TOOLS FOR THE DESIGN AND OPTIMIZATION OF LNG PLANTS”、24th World Gas Conference 2009、5-9 October 2009
甲第3号証:大塚清敏、斎藤隆雄、片岡浩人、川口彰久、「風況予測モデルWind Mapperの開発-モデルの概要と検証計算-」、大林組技術研究所報、No.68、2004年12月
甲第4号証:Brian Viner、”Numerical modeling of meteorological and topographical effects on pollen shed,dispersion,and viability”、Iowa State University、2010
第4 甲各号証の記載
(1)甲1について
甲1には、以下の記載がある(下線は当審にて付与した。以下同様。)。
ア 「1.はじめに
我が国におけるウィンドファームは欧米のように比較的なだらかな場所に建設されるのとは異なり、山岳地や半島のような急峻な地形であることが少なくない。このような場合、風車はその尾根に沿って線状に配置されることが多いため、数十基規模の大規模なウィンドファームになると、正確な風況予測のために複数の観測ポイントで統計データ取得のための観測が行われることがある。一方、近年ではメソスケールの気象モデルが進歩し、これらを風力発電の風況解析に取り込む手法が可能になってきている。本論文では半島状の尾根上にあるウィンドファームを対象とし、複数の地上観測データから予測される風速値の整合性に関する問題点とそれを解決する方法として、石原らによって開発された力学統計的局所化手法 (DSD : Dynamical Statistical Down scaling)1)を適用し、予測の改善を行った例について報告する。」(第127頁1-9行目)
イ 「2.対象としたウィンドファームと風の特性
検討の対象としたウィンドファームは愛媛県伊方町に建設中の三崎ウィンドパークである。図1に同ウィンドファームの地形図と風車の配置を示す。同ウィンドファームは佐田岬のほぼ突端に位置し周囲を海(伊予灘、宇和海、速水瀬戸)で囲まれている。同ウィンドファームには半島の尾根上に沿って1000kw級の風車が20基建設予定となっている。」(第127頁10行目-第128頁3行目)
ウ 「3.解析方法
風況解析は通常の地上観測データを用いた手法(解析法I)および、力学統計的局所化手法を用いた手法(解析法II)により行った。以下に解析法IIの概要について述べる。
(1)地域気象モデルRAMSの概要
地域気象モデルRAMS(Regional Atmospheric Modeling System)は、風速、仮温位、エクスナー関数、混合比を従属変数とする質量保存則、運動量保存則、熱力学方程式、水分の保存則を数値的に解き、初期条件、境界条件の下で従属変数の時間変化を求める。RAMSでは熱力学方程式の変数として、Tripoli and Cotton2)によって提案された水の相変化に関わらず保存される物理量である液相・固相の相当温位(ice-liquid potential temperature)を用いる。…また、計算領域として解像度と範囲の異なる2つ以上の格子をネスティングさせ、双方向ネスティング4)により、互いに計算結果を反映させながら、解析を行った。
本研究では、メソスケールの現象を忠実に再現するため、図3に示す4段ネスティングを採用した。表-1に本研究で用いた各グリッドの解析領域を示す。グリッド1は西日本全域を含む800km×800kmの領域で、格子間隔8kmである。その内側のグリッド2は周防灘から豊後水道を含む格子間隔4kmの200km×200kmの領域、グリッド3は佐田岬周辺の40km×40kmの領域であり、格子間隔2kmとなっている。最も細かい格子間隔1kmのグリッドは三崎ウィンドパーク近傍の12km×12kmの領域である。…また初期条件としては、水平解像度0.5度、鉛直15層(1000、925、850、700、500、300、250、200、150、100、70、50、30、10hPaの各気圧面)、時間間隔6時間の分解能を持つヨーロッパ中期気象予報センター(ECMWF)の全球モデルの2001年5月~2002年3月の客観解析データ(Operational Archive Pressure Level Analysis Data)を用いた。さらに側面および上面の境界条件としては、解析期間における6時間毎の客観解析データから境界条件データを作成し、境界における同化データとして連続的に計算に取り込んだ。RAMSによる解析の結果は、10分平均値として保存し、以下の解析に用いた。
(2)非線形モデルMASCOTの概要
微細な地形の効果を考慮するために、本研究では非線形局所風況予測モデルMASCOT5)を用いた。MASCOTはレイノルズ平均非圧縮ナビエストークス方程式に基づく非線形モデルで、風速、圧力、乱流統計量を従属変数とする質量保存則、運動量保存則、乱流統計量の保存則を数値的に解くことにより、風向別の風速の増減、風向変化を求める。単純地形上の流れ解析においては様々な乱流モデルが検討されてきたが、実地形上の流れは単純地形上とは異なり複雑であるため、乱流モデルの違いによる予測精度の違いは顕著ではない。このため本研究では最も実績のある標準k-εモデルを用いた。方程式の離散化に際しては任意傾斜角を持つ地形に対応可能な一般座標系を採用し、質量及び運動量の保存則を満足する有限体積法が用いられている。また数値解法には安定性の高い半陰解法SIMPLE法を、大規模連立方程式の解法には残差切除法を用いた。また、連綿と連なる実際の地形の一部を取り出して数値解析を行うために上流に付加領域を、周囲に体積を保存する緩衝領域を設けることにより、これらの影響を最小限にしている。地表面の境界条件としては粗度長により対数則を用いて求めた剪断力を地表面第1セルに与えた。本手法では熱的影響を無視できると仮定し風速比・風向が地形・地表面粗度のみに依存するとしている。
(3)解析法IIの流れ
図4に解析法IIの流れを示す。まず、全球モデルの客観解析値を初期・境界条件とし、メソスケール気象モデルRAMSを用い、320日間にわたり時系列解析を行うことにより、水平1km程度の解像度を持つ320日分の時系列風速データを得る。この風速データには海陸風、山谷風などの局地循環、大気成層による局地風、水平スケール1km以上の地形や地表面粗度変化による影響が含まれている。また320日分の10分ごとのデータが求められているため、風況の月変化も再現されている。このように得られた風には1km以下のスケールの詳細地形の影響は含まれていない。次にメソスケール気象モデルにより求めた320日間の風速・風向の時系列データを統計処理することにより、風速・風向別の出現頻度、すなわち風況を求める。本研究ではメソスケール気象モデルによって求めた風況を地域風況と呼ぶ。最後に水平解像度1km以下のスケールの微細地形の影響を取り入れるため、マイクロスケールモデルとして非線形風況予測モデルMASCOTを用い、地域風況を微細地形の効果を考慮に入れた局所風況に変換する。この際、微細地形の効果は風向のみに依存すると仮定し、MASCOTを用いた定常解析により微細地形の影響を風向別に評価する。本手法における解析ケースは16風向に対応する16ケースのみとなり、マイクロスケールモデルを条件付ネスティングするHayashi et al.6)の手法に比べ、解析時間は大幅に短縮される。
地域風況にはメソスケール気象モデルによって解像可能な1km程度の水平解像度を有する粗い地形の効果が含まれている。この粗い地形の効果を取り除き、さらに実際の微細地形の効果を反映させるために本研究では標準実風況変換手法1)を用いる。
図5はその概念図である。まず、メソスケール気象モデルで用いた1km程度の水平解像度を持つ粗い地形と地表面粗度を用いて非線形風況予測モデルMASCOTによる気流解析を行うことにより、地域風況から1km程度のスケールの地形や地表面粗度の影響を取り除くことにより粗度一様・地形平坦な上流領域での風況を求める。このようにして求めた仮想的な上流領域での風況を標準風況と呼ぶ。標準風況には海陸風、山谷風などの局所循環の効果は含まれているが、微細地形の効果は含まれていない。次に10m~50m程度の水平解像度を持つ地形と地表面粗度を用いてMASCOTによる解析を行い、標準風況を微細地形の効果を含む局所風況へと変換する。このようにして求められた局所風況には海陸風、山谷風などの局地循環の影響が含まれると同時に、流れの剥離、地形による風向の変化なども考慮されたものとなっている。また、計算時間は従来のネスティングに比べて大幅に短縮されると同時に時間的に間欠的なサンプリングを行わないことで、月別の局所風況に対しても精度の高い予測が可能である。以上、紙面の都合により解析方法の概要のみ述べたが、詳細については文献1)を参照されたい。」(第128頁16行目-第130頁14行目)
エ 上記ア-ウの下線部の記載を総合すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「風車が建設予定となっているウィンドファームに関する風力発電の風況解析方法であって、
地域気象モデルRAMSを用い、320日間にわたり時系列解析を行うことにより、水平1km程度の解像度を持つ320日分の時系列風速データを得て、
次にメソスケール気象モデルにより求めた320日間の風速・風向の時系列データを統計処理することにより、風速・風向別の出現頻度、すなわち風況を求め、
ここで、メソスケール気象モデルによって求めた風況を地域風況と呼び、
最後に水平解像度1km以下のスケールの微細地形の影響を取り入れるため、マイクロスケールモデルとして非線形風況予測モデルMASCOTを用い、地域風況を微細地形の効果を考慮に入れた局所風況に変換する方法であり、
ここで、地域気象モデルRAMSは、風速、仮温位、エクスナー関数、混合比を従属変数とする質量保存則、運動量保存則、熱力学方程式、水分の保存則を数値的に解き、初期条件、境界条件の下で従属変数の時間変化を求めるものであり、
計算領域として解像度と範囲の異なる2つ以上の格子をネスティングさせ、双方向ネスティングにより、互いに計算結果を反映させながら、解析を行い、メソスケールの現象を忠実に再現するため、4段ネスティングを採用し、
初期条件としては、水平解像度0.5度、鉛直15層時間間隔6時間の分解能を持つヨーロッパ中期気象予報センター(ECMWF)の全球モデルの2001年5月~2002年3月の客観解析データを用い、
客観解析データから境界条件データを作成して行なわれるものであり、
また、非線形局所風況予測モデルMASCOTは、レイノルズ平均非圧縮ナビエストークス方程式に基づく非線形モデルで、風向別の風速の増減、風向変化を求めるものである、
風力発電の風況解析方法。」
(2)甲2には、第6頁第3行-第7頁第9行の記載からみて、「CFDとダイナミックシミュレーションを用いてガスタービンとエアクーラーとを備えるLNG生産プラントの設計を最適化する方法であって、LNG生産プラントでは、LNG生産能力は冷却能力と直結しており、この冷却能力は周囲空気温度に依存するとの知見から、エアクーラープルーム及び排気スタックのようなソースからの熱風のガスタービンやエアクーラーの入口への再循環が、ガスタービンとエアクーラーに与える影響を評価する」という技術的事項が記載されている。
(3)甲3には、「2.1.1 Wind MapperとLAWEPSとの相違」(第2頁左欄第18行-同欄41行)の記載からみて、「風車建設候補地点や候補地域内での風況観測データを用いて、気象モデル及び工学的計算流体力学モデルによる計算結果を風向毎に補正する」という技術的事項が記載されている。
(4)甲4には、図4.2及び図4.11及びその説明の記載からみて、「花粉の拡散シミュレーションにおいて、地形の影響を考慮してシミュレーションを行う」という技術的事項が記載されている。
第5 対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「風車」は、本件特許発明1の「屋外に配置されて、周囲の気象条件により影響を受けるとともに、空気を動力源として利用する空気利用装置」に相当し、甲1発明の「風況解析方法」は、本件特許発明1の「気象シミュレーションにより気象を再現する気象再現方法」に相当する。
(イ) 甲1発明の「初期条件」が風向データを含むことは明らかであるから、甲1発明の「初期条件としては、水平解像度0.5度、鉛直15層時間間隔6時間の分解能を持つヨーロッパ中期気象予報センター(ECMWF)の全球モデルの2001年5月~2002年3月の客観解析データを用い」ることは、本件特許発明1の「時刻及び領域に関係付けられ、少なくとも風向データを含む複数の気象情報から、前記空気利用装置が配置される配置場所を含む領域、及び、ある期間を通した複数の時刻に関係づけられる気象情報のセットを選択」することに相当する。
(ウ) 甲1発明の「地域気象モデルRAMS」は、「質量保存則、運動量保存則」「水分の保存則」といった保存則すなわち微分方程式を「数値的に解き、初期条件、境界条件の下で従属変数の時間変化を求める」ものであるから、本件特許発明1の「地域気象モデルRAMSを用い、320日間にわたり時系列解析を行うことにより、水平1km程度の解像度を持つ320日分の時系列風速データを得」ることは、本件特許発明1の「前記気象情報のセットの各々を入力データとして、気象シミュレーションのための気象解析モデルに従う前記気象情報の微分方程式を解いて、前記気象情報の領域より狭い領域に関係づけられる第1狭域気象情報のセットを生成」することに相当する。
(エ) したがって、上記(ア)-(ウ)から、甲1発明と本件特許発明1とは、次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。
<一致点>
「屋外に配置されて、周囲の気象条件により影響を受けるとともに、空気を動力源として利用する空気利用装置に関する気象シミュレーションにより気象を再現する気象再現方法であって、
時刻及び領域に関係付けられ、少なくとも風向データを含む複数の気象情報から、前記空気利用装置が配置される配置場所を含む領域、及び、ある期間を通した複数の時刻に関係づけられる気象情報のセットを選択し、
前記気象情報のセットの各々を入力データとして、気象シミュレーションのための気象解析モデルに従う前記気象情報の微分方程式を解いて、前記気象情報の領域より狭い領域に関係づけられる第1狭域気象情報のセットを生成する、
気象再現方法」
<相違点>
<相違点1>
本件特許発明1が、「前記第1狭域気象情報のセットのうち、前記配置場所を含む領域を対象とする第2狭域気象情報のセットを選択し、前記空気利用装置の配置方向を決定するために、前記第2狭域気象情報のセットに含まれる風向データを用いて、最も累積頻度が高くなる風向を算定」するのに対して、甲1発明には、そのような「選択」及び「算定」を行っているかどうかが特定されていない点。
<相違点2>
本件特許発明1が、「前記算定した風向に基づいて、風上にある前記空気利用装置の排出部により排出したガスを、風下にある前記空気利用装置の吸込み部が吸い込まないように、前記領域に前記空気利用装置を配置する配置図を生成する」のに対し、甲1発明には、配置図を生成することすら特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
相違点2に係る本件特許発明1の構成は、甲3及び4には記載も示唆もされていない。
また、甲2には、ガスタービンとエアクーラーの排気からの熱風がこれらの入口へ再循環することが、ガスタービンとエアクーラーに影響を与えることが記載されているが、風力発電の分野において、風上にある空気利用装置(風車)の排出部(風下側)により排出したガス(風車を通り抜けた空気)を、風下にある空気利用装置(風車)の吸込み部(風上側)が吸い込まないとの条件を課すことが、本願優先日前において、周知の技術的事項であったとも認められないから、甲1発明において、甲2記載の技術的事項を参照する動機付けはない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、上記甲1発明及び甲2-4に記載された技術的事項から当業者が容易に想到しうるものではない。
特許異議申立人は、当該相違点2について、「風力発電所全体の発電量を増加させるためには、複数の風力発電用装置が風向に対して直線的に並ばないこと、すなわち、複数の風力発電用装置のそれぞれが直接風を受けるように風力発電用装置を設置することが重要である。実際に世界各地で設置されている複数の風力発電用装置は、この考え方に従って複数の風力発電装置を設置している」と主張している。
しかしながら、特許異議申立人は、当該主張を裏付ける証拠を提出しておらず、また、仮に上記特許異議申立人が主張するような事項が当業者間に周知の技術的事項であると認められるとしても、そのことから、ただちに「風上にある前記空気利用装置の排出部により排出したガスを風下にある前記空気利用装置の吸込み部が吸い込まない」との条件を課すことが当業者に周知の技術的事項であったとはいえない。
したがって、かかる主張は理由がない。
(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「非線形局所風況予測モデルMASCOT」が本件特許発明2の「3次元の流体力学式で演算」することに相当するといえるから、両者は、上記(1)イにおける<一致点>で一致し、上記(1)イにおける<相違点1>及び、次の<相違点2’>で相違する。
<相違点2’>
本件特許発明2が「前記第2狭域気象情報を、3次元の流体力学式で演算して、前記第2狭域気象情報より狭い領域の気象場情報を算定し、前記気象場情報を用いて、前記空気利用装置が吐き出して温められた空気が、前記空気利用装置の吸込み部に再循環する流れを算定する」のに対し、甲1発明には、「前記第2狭域気象情報より狭い領域の気象場情報を算定し、前記気象場情報を用いて、前記空気利用装置が吐き出して温められた空気が、前記空気利用装置の吸込み部に再循環する流れを算定する」ことが特定されていない点。
イ 判断
事案を鑑みて、上記相違点2’について検討する。
甲1発明は、風力発電の風車に関するものであって、風力発電の風車が「温められた空気」を「吐き出」すものではないことは技術常識であるから、甲1発明において、相違点2’に係る本件特許発明2の構成を採用しようとすることは、全く想定できない。
したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明2は、上記甲1発明及び甲2-4に記載された技術的事項から当業者が容易に想到しうるものではない。
特許異議申立人は、当該相違点2’について、「本件特許の明細書の段落【0030】~【0034】において『空気利用装置』として、エアフィンクーラー、ガスタービン、風力発電機が挙げられていることから、風力発電所に関する発明である甲1発明と、LNGプラントに関する甲2記載事項は技術分野に共通性があることは、本件特許発明の発明者も認識していることである。したがって、甲1発明の風力発電用装置を広く空気利用装置として考えた場合において、甲2記載事項を甲1発明に適用して…処理部を設けることは当業者であれば容易に想到しうることである」と主張している。
しかしながら、甲1発明の「風車」と甲2に記載された「LNGプラント」とは、温められた空気を吐き出すか否かで大きく相違するものであるから、甲1発明に甲2の記載事項を適用することは、当業者であれば容易に想到しうることであるとはいえない。
したがって、かかる主張は理由がない。
(3)本件特許発明3-5について
本件特許発明3-5は、本件特許発明1又は2を更に減縮したものであるから、上記(1)又は(2)と同様の理由により、甲1発明及び甲1-4に記載された技術的事項から当業者が容易に想到しうるものではない。
(4)本件特許発明6-10について
本件特許発明6は、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成である「前記算定した風向に基づいて、風上にある前記空気利用装置の排出部により排出したガスを、風下にある前記空気利用装置の吸込み部が吸い込まないように、前記領域に前記空気利用装置を配置する配置図を生成する」処理部を備える装置の発明であるから、上記(1)と同様の理由により、甲1発明及び甲1-4に記載された技術的事項から当業者が容易に想到しうるものではない。
本件特許発明7は、上記相違点2’に係る本件特許発明2の構成である「第2狭域気象情報を、3次元の流体力学式で演算して、前記第2狭域気象情報より狭い領域の気象場情報を算定し、前記気象場情報を用いて、前記空気利用装置が吐き出して温められた空気が、前記空気利用装置の吸込み部に再循環する流れを算定する」処理部を備える装置の発明であるから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明及び甲1-4に記載された技術的事項から当業者が容易に想到しうるものではない。
本件特許発明8-10は、本件特許発明6又は7を更に減縮したものであるから、上記(1)又は(2)と同様の理由により、甲1発明及び甲1-4に記載された技術的事項から当業者が容易に想到しうるものではない。
(5)小括
以上のとおり、本件特許発明1-10は、甲1発明及び甲1-4に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1-10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1-10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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