特許異議申立
2017-700464
多角形断面線材用ダイス
- 審判番号
- 2017-700464
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-175256
- 登録番号
- 特許第6031654号(P6031654)
- 請求日
- 2017年05月12日
- 審決日
- 2019年01月30日
- 公報発行日
- 2019年06月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社ノブハラ
- 【権利者代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】中国金網工業 株式会社
- 【異議申立人代理人】井上 浩
- 審判長/審判官
- 審判長 西村 泰英
- 審判官 栗田 雅弘
- 審判官 中川 隆司
- 分類
- P1651.121-ZDA(B21C) / P1651.113-ZDA(B21C) / P1651.112-ZDA(B21C) / P1651.537-ZDA(B21C) / P1651.841-ZDA(B21C) / P1651.851-ZDA(B21C) / P1651.852-ZDA(B21C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法113条2号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6031654号発明「多角形断面線材用ダイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6031654号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-12〕、〔13-16〕について訂正することを認める。
特許第6031654号の請求項14ないし16に係る特許を取り消す。
特許第6031654号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。
特許第6031654号の請求項13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第6031654号の請求項1-16に係る特許についての出願は、平成27年9月6日(優先権主張 平成26年9月7日)の出願であって、平成28年11月4日にその特許権の設定登録がされ、平成28年11月24日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成29年 5月12日 : 特許異議申立人中国金網工業株式会社(以下「特許異議申立人」という)による請求項1-16に対する特許異議の申立て
平成29年 9月 8日付け: 取消理由通知書
平成29年11月13日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成29年12月20日 : 特許異議申立人による意見書の提出
平成30年 2月27日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
平成30年 5月 1日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年 6月 8日 : 特許権者による手続補正書(方式)の提出
平成30年 7月27日 : 特許異議申立人による意見書の提出
平成30年10月11日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
平成30年12月17日 : 特許権者による意見書の提出
なお、上記平成29年11月13日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
2.訂正の適否
(1)訂正の内容
平成30年5月1日の訂正請求(平成30年6月8日の手続補正書(方式)により補正されたもの)による訂正事項は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す)。
ア 訂正事項1
請求項1に「前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有することを特徴とする引抜加工機。」と記載されているのを、「前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有し、前記開口部の断面形状が前記材料線材の引抜方向に沿って同じであることを特徴とする引抜加工機。」と訂正する。
イ 訂正事項2
請求項7に「を含む引抜加工機であって、前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、」と記載されているのを、「を含む引抜加工機であって、前記ベアリング部開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであり、前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、」と訂正する。
ウ 訂正事項3
請求項8に「を含む引抜加工機であって、前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、」と記載されているのを、「を含む引抜加工機であって、前記ベアリング部開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであり、前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、」と訂正する。
エ 訂正事項4
請求項13を削除する。
オ 訂正事項5
請求項14に「該ツイストバーの前記略多角形の全ての角が引抜方向の最初から最後まで丸められていること」と記載されているのを、「該ツイストバーの前記略多角形断面は、全ての角が引抜方向の最初から最後まで基礎となる多角形断面の角に当たる部分が曲線に置き換えられることで丸められており、角がないこと」と訂正する。
カ 訂正事項6
請求項15に「請求項13または請求項14に記載の」と記載されているのを、「請求項14に記載の」と訂正する。
キ 訂正事項7
請求項16に「請求項13乃至15のいずれか1記載の」と記載されているのを、「請求項14又は15に記載の」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に係る発明のベアリング部の開口部の断面形状について、「前記材料線材の引抜方向に沿って同じである」という限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。また、訂正事項1は、図9に示されたダイスの貫通孔の最も狭いベアリング部の開口部が、引抜方向に沿って次第に拡大又は縮小する断面形状を有する前後のアプローチ部及びバックブリーフ部とは異なり、線材の引抜方向に沿って真っ直ぐ延びていて、断面形状が一様であると認められるから、明細書に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項1は、発明特定事項を下位概念化するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項7に係る発明のベアリング部開口部断面形状について、「前記線材の引抜方向に沿って同じ」であるという限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。また、訂正事項2は、図9に示されたダイスの貫通孔の最も狭いベアリング部の開口部が、引抜方向に沿って次第に拡大又は縮小する断面形状を有する前後のアプローチ部及びバックブリーフ部とは異なり、線材の引抜方向に沿って真っ直ぐ延びていて、断面形状が一様であると認められるから、明細書に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項2は、発明特定事項を下位概念化するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項8に係る発明のベアリング部開口部断面形状について、「前記線材の引抜方向に沿って同じ」であるという限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。また、訂正事項3は、図9に示されたダイスの貫通孔の最も狭いベアリング部の開口部が、引抜方向に沿って次第に拡大又は縮小する断面形状を有する前後のアプローチ部及びバックブリーフ部とは異なり、線材の引抜方向に沿って真っ直ぐ延びていて、断面形状が一様であると認められるから、明細書に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項3は、発明特定事項を下位概念化するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項13を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項5について
訂正事項5は、請求項14に係る発明のツイストバーについて、「前記略多角形」を「前記略多角形断面」と誤記を改めた上で、当該多角形断面の角が丸められているのを、「基礎となる多角形断面の角に当たる部分が曲線に置き換えられることで」丸められて、「角がない」形状となっていることに限定しているから、誤記の訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また、明細書段落【0055】に、ベアリング部101bの断面形状である「基礎となる多角形断面」の角にあたる部分を円弧である曲線に置き換えた引抜加工用ダイス101を用いて、四角形断面の棒材を作成することが記載され、当該引抜加工用ダイス101が示されている図7及び図10を見ると、ベアリング部の断面形状は四角形であると解され、また、当該引抜加工用ダイス101を用いて作成された棒材及びツイストバーを示す図11及び図12では、該棒材及びツイストバーが四角形断面を有していることも読み取れ、明細書段落【0065】及び【0074】には該棒材及びツイストバーの四角形断面の角が丸められていることも記載されている。さらに、図10に示されたダイスの角の部分の拡大図では、多角形断面の角の部分の円弧が辺の部分の直線と滑らかに結ばれていて、尖った角の部分のない多角形断面となっている一方、明細書段落【0066】には、「ダイスの『角』を丸めることで、完成した多角形断面を有する鋼製棒材の角も丸くなる。」と記載されているから、完成したツイストバーの略多角形断面についても角がないことは、明細書の記載から自明な事項である。そうすると、訂正事項5は、明細書に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項5は、誤記を正しい記載へ改めるとともに発明特定事項を下位概念化するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 訂正事項6について
訂正事項6は、請求項13が削除されるのに伴い、請求項15が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ 訂正事項7について
訂正事項7は、請求項13が削除されるのに伴い、請求項16が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ク 一群の請求項について
訂正前の請求項1-6は、請求項2-6が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
また、訂正前の請求項7-12は、請求項9-12が、訂正の請求の対象である請求項7又は8の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
さらに、訂正前の請求項13-16は、請求項15及び16が、訂正の請求の対象である請求項13又は14の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
(3)訂正についてのまとめ
したがって、上記訂正請求による訂正事項1-7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-12〕、〔13-16〕について訂正を認める。
3.取消理由の概要
訂正前の請求項1-16に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した平成29年9月8日付け取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項13-16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、請求項13-16に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)請求項1-12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に、甲第5号証に記載された事項を組み合わせるか、又は、甲第5号証に記載された発明に、甲第1-4号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1-12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 訂正後の請求項1-16に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1-16に係る発明(以下「本件発明1」等という)は、その特許請求の範囲の請求項1-16に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダーと、
内部に収納された潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線材が引き込まれるボックスと、を含む引抜加工機であって、
前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有し、前記開口部の断面形状が前記材料線材の引抜方向に沿って同じであることを特徴とする引抜加工機。
【請求項2】
請求項1記載の引抜加工機において、
加工開始時間からの経過時間に応じて、前記ダイスホルダーが前記ダイスを回転させることを特徴とする引抜加工機。
【請求項3】
請求項2記載の引抜加工機において、
更にドローイングマシンと、
前記ドローイングマシンの進行方向を規定するガイドレールと、を含み、
前記ドローイングマシンが前記ガイドレール上のいずれの位置に存在するかに応じて前記ダイスホルダーが前記ダイスを回転させることを特徴とする引抜加工機。
【請求項4】
請求項2記載の引抜加工機において、
更にドローイングマシンと、
前記ドローイングマシンの進行方向を規定するガイドレールと、を含み、
加工開始後に前記ドローイングマシンがガイドレール上のどれだけ進んだかに応じて前記ダイスホルダーが前記ダイスを回転させることを特徴とする引抜加工機。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の引抜加工機において、
前記略多角形は基礎となる多角形の少なくとも1の角を円弧でつないだものに置き換えたものであることを特徴とする引抜加工機。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の引抜加工機において、
前記略多角形は、基礎となる多角形のすべての角を曲線でつないだものに置き換えたものであることを特徴とする引抜加工機。
【請求項7】
略多角形のベアリング部開口部断面形状を持ち略円筒形形状をした引抜加工用ダイスと、
前記引抜加工用ダイスを保持するダイスホルダーと、
前記引抜加工用ダイスに引き込まれる線材に潤滑剤を塗布するボックスと、を含む引抜加工機であって、
前記ベアリング部開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであり、
前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、
前記引抜加工用ダイスの回転によって溜まった潤滑剤の塊が前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間から脱落することを特徴とする引抜加工機。
【請求項8】
略多角形のベアリング部開口部断面形状を持ち略円筒形形状をした引抜加工用ダイスと、
前記引抜加工用ダイスを保持するダイスホルダーと、
前記引抜加工用ダイスに引き込まれる材料線材に潤滑剤を塗布するボックスと、を含む引抜加工機であって、
前記ベアリング部開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであり、
前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、
前記引抜加工用ダイスの回転によって前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間に溜まる潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止することを特徴とする引抜加工機。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の引抜加工機において、
前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間は、前記引抜加工用ダイスのアプローチ部にできるものであることを特徴とする引抜加工機。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の引抜加工機において、
前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間は、前記引抜加工用ダイスのバックリリーフ部にできるものであることを特徴とする引抜加工機。
【請求項11】
請求項7又は8に記載の引抜加工機において、
更にドローイングマシンを含み、
前記ドローイングマシンが前記引抜加工用ダイスに引き込まれた線材を引き抜くことを特徴とする引抜加工機。
【請求項12】
請求項7又は8に記載の引抜加工機において、
更にドラムと、前記ドラムを回転させる電動機を含む線引き器を含み、
前記線引き器が前記引抜加工用ダイスに引き込まれた線材を引き抜くことを特徴とする引抜加工機。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
略多角形断面を有するツイストバーであって、
該ツイストバーの前記略多角形断面は、全ての角が引抜方向の最初から最後まで基礎となる多角形断面の角に当たる部分が曲線に置き換えられることで丸められており、角がないことを特徴とするツイストバー。
【請求項15】
請求項14に記載のツイストバーにおいて
前記丸められた角がダイスによって形成されることを特徴とするツイストバー。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のツイストバーを含む金属金網。」
イ 刊行物の記載
取消理由通知において引用した甲第2号証(特公昭32-3856号公報)及び甲第5号証(特開2005-254311号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)甲第2号証
a 記載事項
(a)「本発明は冷延せる(以下単に「延」と称する)線、円棒、角棒その他類似の長い延金属製品殊に鋼製品の新規有用なる改良に関する、「線」と称するは以下文意から明かな場合は延金属製品全体を綜合的に指称する。本発明は又この線殊に鋼線から製造した物品例えば釘、スパイクその他類似品、コンクリート補強材、鉄条網、滑止格子等に関する。」(1ページ左欄下から8-最終行)
(b)「本発明に於ては単一操作によつて線を一挙に延し且之に非円形にして線の長手に沿いその各点に於て向きの異なつた断面形状を附与せんとするものである。」(2ページ右欄10-13行)
(c)「第1図は本発明を実施する装置の一例にして装置の基底1は後部に近く横壁2を有しこの壁は中心に套管3を形成しこの套管の後端4は内向きのフランチを有する。型支持材5は套管3内に後部6を有しこれはフランヂと嵌合し、且套管3及部分6の間に支持した球軸承7によつて基底上に自由に廻転する。基底前部には規定の石鹸箱8があり線はこの中を通じて潤滑を受けた後型内に入る。型9は支持材5の前部10内に固定されている。支持材は箱8の後壁の開口を通じて該箱内に延長する。ここ(当審注:原文では「ここ」は「玄」を2個横に並べた一文字として表記されている。)に型はその支持材と良く中心を合はせて之に固定し延線の均一を期するを肝要とする。環12は石鹸箱内に於て型支持材の前部10の前端に固定され支持材自体は壁2及11間に於て放射方向のフランヂ13を有する。之等のフランヂの目的は軸承7に石鹸箱の石鹸が来るのを防止するにある。」(3ページ左欄下から2行-右欄15行)
(d)「第2-第5図は本発明による型を示す。その通路は断面一般に方形を呈する。図示の場合この通路は加工の全長を通じて施され且この全長に亙つて漸減する。断面積を有する。この型に供給した線は第3図及第4図の場合20で示してある。第3図の場合加工の長さは最初に通じた線と通路との接触点20及通路の断面積が最小なる点22間の距離である。この際点22に於ける断面積が延線の断面を決定するのでこれを通路の有効断面と称する。前面23及点22間に於て通路の断面積は第3図の点線24の如く漸減する。通路は点22の後方では外方に拡大して凹み25を形成する。」(3ページ右欄下から4行-4ページ左欄8行)
(e)「上記した二つの型は通路の断面が一般に多角形である場合の例を示す。この形状は勿論方形或は矩形と限らない。余り有利でないが三角形又は四辺形となすことも出来る。多角形の場合隅部は図示の如く鋭角となすことを要しない。寧ろ多くは円味を附するを可とする。」(4ページ右欄11-16行)
(f)「本発明に於て単純形状の線を生ぜしむる場合は引くべき線の断面形状は一般に円形とする。若し引くべき線の半径が型通路の有効断面の最大放射寸法よりも大なる場合は、延線の断面形状は一般に該通路の有効断面と同一となる。第13図はかくの如き鋼の延線を示す。この場合の型通路の断面は方形とした。図示の如く線の断面形状は全長を通じて方形であるが、その向きは線の長手に沿つて螺状に変化している。線の表面の薄い点線は粒子の流線を略示する。これは規定線に於けると同様縦軸と同一方向に走るが線の山に於ては昇り谷に於ては降るのでその流線は蛇形である。然し中断されることなく全体及線の縦軸を含む面内に存在する。
時には断面形状多角にしてその隅部に円味を持つたものを希望する場合がある。この目的には型通路の最大放射寸法よりも小さい半径を有する円線を本発明による型に通ずればよい。第14図は方形断面を有する型に通ずることによつて得られた、その様な製品である。第15図はこの線の拡大断面図であり、この図の如く方形は隅に円味を有する。
本発明の場合にも与えられた断面形状を得る迄には時に延を2回又は以上行う必要がある。若し線が単純形状であれば、第2及次の型の通路の螺状のリードは少く共実質上之に供給すべき螺状線のリードと同一となさねばならない。」(5ページ右欄5-31行)
(g) 第1-3図から、型9は略円筒形形状をしていることが読み取れる。
b 引用発明
甲第2号証の摘記事項(a)ないし(f)、認定事項(g)に、技術常識を勘案すると、甲第2号証には以下の発明が記載されていると認められる。
「略円筒形形状をもつ型9を保持し前記型9の前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記型9を回転させる支持材5と、
内部に収納された石鹸が線に塗布された後前記型9に前記線が引き込まれる石鹸箱8と、を含む冷間引抜方法を実施する装置であって、
前記型9の通路の断面が隅に円味を附する多角形であり、前記通路の断面形状が線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっている冷間引抜方法を実施する装置。」(以下「甲2発明A」という。)
「隅に円味を附する多角形の通路断面形状を持ち略円筒形形状をした型9と、
前記型9を保持する支持材5と、
前記型9に引き込まれる線に石鹸を塗布する石鹸箱8と、を含む冷間引抜方法を実施する装置であって、
前記型9の通路の断面形状が線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっており、
前記支持材5は前記型9の前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記型9を回転させ、
前記型9の通路は型9の外方に向けて拡径されている冷間引抜方法を実施する装置。」(以下「甲2発明B」という。)
「断面形状が全長を通じて方形の螺状線であり、当該断面形状は引き抜く型通路の有効断面と同一である螺状線。」(以下「甲2発明C」という。)
「甲2発明Cにおいて、線の断面形状が型に通ずることで得られる螺状線。」(以下「甲2発明D」という。)
「甲2発明C又はDの螺状線で製造した鉄条網。」(以下「甲2発明E」という。)
(イ)甲第5号証
a 記載事項
(a)「【請求項1】
ダイヤモンドをダイス本体とし、前記ダイヤモンドに形成された穴のうちベアリング部の正面形状が四角形である異形線伸線用ダイヤモンドダイスであって、
前記四角形の相対する面の距離Dが0.1mm未満であり、前記穴のベルからベアリングにかけての面は、前記ダイヤモンドの厚み方向において滑らかな曲面で形成されることを特徴とする異形線伸線用ダイヤモンドダイス。」
(b)「【背景技術】
【0002】
従来家電製品や自動車などに使われている電動モータには巻線が使用されている。さらには、マイクロマシンなどに使うモータや、スピーカー用ボイスコイルなどの形状を小型化しようとする要望が高くなってきている。断面が正方形の線は巻線にした時にスペース効率が高く、丸線に比べると同一パワーを27%少ない容積で出すことができる。このため、正方形の巻線を使うことにより携帯電話や車載用のスピーカーユニット、電子機器やモータのコイルなどで大幅な小型化、軽量化、コスト低減を計ることができる。
【0003】
このような巻線を製造するにはダイスが用いられるが、断面が四角形の線材であるがためにねじれが大きな問題になり、ねじれの少ない巻線を製造できるダイスとして、本出願人が提案した異形線伸線用ダイヤモンドダイスがある。このダイヤモンドダイスは、ダイス本体にダイヤモンドを用い、ベアリング部の正面形状を四角形とし、相対する面の距離が0.1mm以上0.6mm以下、ベアリング長さは0.05mm以上0.3mm以下、コーナー部のRを0.02mm以上0.6mm以下としたものである。(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2003-245711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、最近ではより細い巻線が要求され、巻線の断面において四角形の相対する面の距離が0.1mm未満のものが要求されるようになった。このような超極細の巻線を加工するためのダイヤモンドダイスを上記特許文献1のダイヤモンドダイスと同様に製造したとしても、研磨中にダイヤモンドが欠けたりする可能性がある。また、ダイヤモンドも研磨不十分となり、線切れや線キズが発生し短寿命になる可能性がある。また、ダイスの穴がより細くなるため、穴形状の高精度な加工も容易ではなくなる上、伸線加工時には潤滑不良を起こしやすくなり、ダイヤモンドの摩耗量が多くなって寿命が短くなる。また、伸線後の線材の精度も悪化しやすい。特に、本発明のように穴形状が異形のものでは、一般の丸穴のダイスに比べて潤滑不良を起こしやすいという問題が生じやすい。
【0005】
以上のようなことから、本発明は線材の断面において四角形の相対する面の距離が0.1mm未満の異形線を伸線するためのダイヤモンドダイスで、ダイヤモンドが欠けにくくて寿命が長いことに加え、線材が断線しにくくて潤滑不良も起こしにくく、高精度な伸線加工ができる異形線伸線用ダイヤモンドダイスを提案するものである。」
(c)「【0014】
本発明の異形線伸線用ダイヤモンドダイスについて図面を用いてその概要を説明する。図1は、ダイスケースに収めて使用できる状態の断面図である。ダイス本体1が本発明に関する部分であり、ダイス本体1を収納するケース2及びダイス本体1を取り付けるための焼結合金3とで構成されている。図2は、ダイス本体1の正面図である。ダイス本体1は、超硬合金製サポートリング4と焼結ダイヤモンド5からなる。そして中心部は、伸線されるべき線材が接触しながら通る穴内面6と貫通穴7から構成される。穴内面6はさらに細分化されていて、図3にその詳細を示す。図3は、図2のA-A断面図である。6a、6b、6c、6d、6e、6fと順にベル、アプローチ、リダクション、ベアリング、バックリリーフ、エクジットに分かれており、正面から見た形状が四角形となっている。
【0015】
本願発明のダイスでは、貫通穴7により形成された穴内面6のうち少なくともベル6aからベアリング6dにかけての面は、ダイヤモンドの厚み方向において滑らかな曲面で形成されている。すなわち、従来の形状のようにベル6a、アプローチ6b、リダクション6c、ベアリング6dの各々が直線的に形成され、各々の境界部分に丸みを設けたものとは異なり、各部位全体が滑らかな曲面で形成される。この曲面は、単一Rの曲面または複合Rの曲面で形成されており、お互いの境界部は明確には分からない形状になっている。」
(d)「【0019】
本発明のダイヤモンドダイスは、モータの巻線などに使用する。このような用途では、高密度に巻く必要があるため、線材のコーナRは小さいほど好ましい。そのため、ベアリング部の四角形のコーナー部のRは、0.3D以下としている。」
(e)「【0028】
以上の方法により、ベアリング部6dの穴のサイズが、一辺は0.05mm、コーナー部のRの大きさは10μmのダイスを得た。このダイヤモンドダイスにより、一辺が0.06mmの銅線の伸線加工をした結果、コーナー部のRは10μmであり、線材表面の光沢も優れたものであった。」
(f)「【0031】
以上の方法により、ベアリング部6dの穴のサイズが、一辺は0.07mm、コーナー部のRの大きさは17μmのダイスを得た。このダイヤモンドダイスにより、一辺が0.08mmの銅線の伸線加工をした結果、コーナー部のRは17μmであり、線材表面の光沢も優れたものであった。なお、本発明のダイヤモンドダイスでは穴6は滑らかな曲面で形成されるため、図2~5において穴6の各部位の境界部は明確には現れないが、説明のために境界部を点線で表している。」
b 引用発明
甲第5号証の摘記事項(a)ないし(f)に、技術常識を勘案すると、甲第5号証には以下の発明が記載されていると認められる。
「異形線伸線用ダイヤモンドダイスであって、前記異形線伸線用ダイヤモンドダイスのベアリングの穴は、正面形状が四角形でコーナー部にRを有し、前記穴の断面形状は滑らかな曲面で形成される異形線伸線用ダイヤモンドダイス。」(以下「甲5発明A」という。)
「コーナー部にRを有する四角形のベアリングの穴の正面形状を持つ異形線伸線用ダイヤモンドダイスであって、前記ベアリングの穴の断面形状が滑らかな曲線で形成され、アプローチ及びバックリリーフの穴内面の形状が、それぞれ穴の外方に向けて拡径されているダイヤモンドダイス。」(以下「甲5発明B」という。)
ウ 特許法第29条第2項について
(ア)甲第2号証を主引用例とした場合
平成29年9月8日付けの取消理由通知では、甲第2号証と訂正前の請求項13-16に対しては、特許法第29条第1項第3号についてのみ検討したが、平成30年5月1日の訂正請求により訂正された本件発明14-16に対しては、特許法第29条第2項についても検討することとする。
a 本件発明1について
(a)対比
甲2発明Aと本件発明1とを対比する。
甲2発明Aの「型9」、「支持材5」、「石鹸」、「線」、「石鹸箱8」及び「冷間引抜方法を実施する装置」は、本件発明1の「引抜加工用ダイス」、「ダイスホルダー」、「潤滑剤」、「材料線材」、「ボックス」及び「引抜加工機」に相当する。
また、甲2発明Aの型9が、「通路の断面が隅に円味を附する多角形である」ことは、本件発明1の引抜加工用ダイスが、「ベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有する」ことと対比すると、「開口部は略多角形の断面形状を有する」点では一致している。
そうすると、本件発明1と甲2発明Aとは、以下の点で一致し、かつ相違する。
<一致点>
「略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダーと、
内部に収納された潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線材が引き込まれるボックスと、を含む引抜加工機であって、
前記引抜加工用ダイスの開口部は略多角形の断面形状を有する引抜加工機。」
<相違点1>
略多角形の断面形状を有しているのが、本件発明1の引抜加工用ダイスでは、「開口部の断面形状は材料線材の引抜方向に沿って同じである」「ベアリング部」であるのに対し、甲2発明Aの型9では、断面形状が線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっている通路であり、つまり、通路の断面積が最小になる点22には幅がないため、本件発明1の「開口部の断面形状は材料線材の引抜方向に沿って同じである」「ベアリング部」に相当する部分を有していない点。
(b)判断
相違点1について検討すると、「ベアリング部の開口部」に略多角形の断面形状を設けた引抜加工用ダイスは、甲第5号証にベアリング部の四角形のコーナー部にRを設けたダイヤモンドダイスとして示されている。しかし、甲第5号証に記載されたダイスは、ベアリング6dの穴内面は全体が滑らかな曲線で形成されていることから、開口部の断面形状が線材の引抜方向に沿って同じものではない。また、モータ等電子機器の巻線用線材の製造に用いられるものであり、極細でねじれの少ない巻線を製造することを前提とするものである(甲第5号証の段落【0002】-【0005】の記載を参照)から、引抜加工時にダイスが回転しない構造をとるべきと考えられ、これをダイスが回転しない方向へと構成を変更するには無理があると認められる。したがって、甲第5号証に記載されたダイスを、甲2発明Aの回転する型9に適用することを妨げる事情があるものというべきである。
また、甲第5号証には、ダイスを極細の巻線の製造に用いる技術は開示されているが、金属金網に用いられるツイストバーのような、ある程度の強度を有する太めの線材の製造に用いることは記載されていない。そして、甲第5号証に記載されたダイスを、甲2発明Aのように回転させ、ツイストバーの製造を行うことを示唆する事項は、甲第1-4号証には見当たらない。
さらに、甲第1、3、4号証にも、引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部に略多角形の断面形状を設けた構造が示されているとは認められない。
よって、相違点1に係る本件発明1の構成については、甲2発明A及び甲第1-5号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明A及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
b 本件発明2-6について
本件発明2-6は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明A及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
c 本件発明7について
(a)対比
甲2発明Bと本件発明7とを対比する。
甲2発明Bの「型9」、「支持材5」、「線」、「石鹸」、「石鹸箱8」及び「冷間引抜方法を実施する装置」は、本件発明1の「引抜加工用ダイス」、「ダイスホルダー」、「材料線材」、「潤滑剤」、「ボックス」及び「引抜加工機」に相当する。
また、甲2発明Bの型9が、「隅に円味を附する多角形の通路断面形状」を持つことは、本件発明7の引抜加工用ダイスが、「略多角形のベアリング部開口部断面形状」を持つことと対比すると、「略多角形の開口部断面形状」を持つ点では一致している。
さらに、甲2発明Bの「前記型9の通路は型9の外方に向けて拡径されている」ことから、甲2発明Bが型9と線の間の空間を有するものとなることは、当業者が当然理解できる事項である。
そうすると、本件発明7と甲2発明Bとは、以下の点で一致し、かつ相違する。
<一致点>
「略多角形の開口部断面形状を持ち略円筒形形状をした引抜加工用ダイスと、
前記引抜加工用ダイスを保持するダイスホルダーと、
前記引抜加工用ダイスに引き込まれる線材に潤滑剤を塗布するボックスと、を含む引抜加工機であって、
前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、
前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間を有する引抜加工機。」
<相違点2>
略多角形の断面形状を有しているのが、本件発明7の引抜加工用ダイスでは、「開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであ」る「ベアリング部」であるのに対し、甲2発明Bの型9では、断面形状が線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっている通路であり、つまり、通路の断面積が最小になる点22には幅がないため、本件発明7の「開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであ」る「ベアリング部」に相当する部分を有していない点。
<相違点3>
本件発明7が、「前記引抜加工用ダイスの回転によって溜まった潤滑剤の塊が前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間から脱落する」ものであるのに対し、甲2発明Bは空間を有していることは認められるが、潤滑剤の塊が脱落することについては不明である点。
(b)判断
相違点2について検討すると、「ベアリング部の開口部」に略多角形の断面形状を設けた引抜加工用ダイスは、甲第5号証にベアリング部の四角形のコーナー部にRを設けたダイヤモンドダイスとして示されている。しかし、上記a(b)で説示したように、甲第5号証に記載されたダイスは、ベアリング6dの穴内面は全体が滑らかな曲線で形成されていることから、開口部の断面形状が線材の引抜方向に沿って同じものではない上、ねじれの少ない線材を製造するものであって、引抜加工時にダイスが回転しない構造をとるべきと考えられ、これをダイスが回転しない方向へと構成を変更するには無理があると認められるから、甲第5号証に記載されたダイスを、甲2発明Bの回転する型9に適用することを妨げる事情があるものというべきである。
また、甲第5号証には、ダイスを極細の巻線の製造に用いる技術は開示されているが、金属金網に用いられるツイストバーのような、ある程度の強度を有する太めの線材の製造に用いることは記載されていない。そして、甲第5号証に記載されたダイスを、甲2発明Bのように回転させ、ツイストバーの製造を行うことを示唆する事項は、甲第1-4号証には見当たらない。
さらに、甲第1、3、4号証にも、引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部に略多角形の断面形状を設けた構造が示されているとは認められない。
よって、相違点2に係る本件発明7の構成については、甲2発明B及び甲第1-5号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、他の相違点3について検討するまでもなく、本件発明7は、甲2発明B及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
d 本件発明8について
(a)対比
甲2発明Bと本件発明8とを対比すると、両者は、上記c(a)に記載した本件発明7との<一致点>と同じ点で一致し、上記c(a)の<相違点2>の点で相違するとともに、以下の点でも相違する。
<相違点4>
本件発明8が、「前記引抜加工用ダイスの回転によって前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間に溜まる潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止する」ものであるのに対し、甲2発明Bは空間を有していることは認められるが、潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止することについては不明である点。
(b)判断
相違点2については、上記c(b)で検討したのと同様、甲2発明B及び甲第1-5号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、他の相違点4について検討するまでもなく、本件発明8は、甲2発明B及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
e 本件発明9-12について
本件発明9-12は、本件発明7又は8を直接又は間接的に引用しており、本件発明7又は8の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明7又は8と同様に、甲2発明B及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
f 本件発明14について
(a)対比
甲2発明Cと本件発明14とを対比すると、甲2発明Cの「断面形状が全長を通じて方形の螺状線」は、本件発明14の「多角形断面を有するツイストバー」に含まれる「方形断面を有するツイストバー」に相当する。また、甲2発明Cの「当該断面形状は引き抜く型通路の有効断面と同一である」ことは、本件発明14の「該ツイストバーの前記略多角形断面は、全ての角が引抜方向の最初から最後まで基礎となる多角形断面の角に当たる部分が曲線に置き換えられることで丸められており、角がない」ことと対比すると、「該ツイストバーの前記多角形断面は、全ての角が引抜方向の最初から最後まで基礎となる多角形断面の角に当たる部分に置き換えられる」ことという点では一致する。
そうすると、本件発明14と甲2発明Cとは、以下の点で一致し、かつ相違する。
<一致点>
「多角形断面を有するツイストバーであって、
該ツイストバーの前記多角形断面は、全ての角が引抜方向の最初から最後まで基礎となる多角形断面の角に当たる部分に置き換えられるツイストバー。」
<相違点5>
ツイストバーの断面について、本件発明14では、「多角形断面の角に当たる部分が曲線に置き換えられることで丸められており、角がない」「略多角形断面」であるのに対し、甲2発明Cでは、方形断面形状である点。
(b)判断
甲第2号証には、「本発明に於て単純形状の線を生ぜしむる場合は引くべき線の断面形状は一般に円形とする。若し引くべき線の半径が型の通路の有効断面の最大放射寸法よりも大なる場合は、延線の断面形状は一般に該通路の有効断面と同一となる。第13図はかくの如き鋼の延線を示す。」(5ページ右欄5-10行)という記載があるとともに、「・・・型は通路の断面が一般に多角形である場合の例を示す。・・・多角形の場合隅部は図示の如く鋭角となすことを要しない。寧ろ多くは円味を附するを可とする。」(4ページ右欄11-16行)とも記載されている。
上記記載からは、引くべき線材の断面形状が円形であるときに、該円形断面の半径が型の通路の有効断面の最大放射寸法よりも大なる場合、つまり、ダイス孔よりも大きな円形断面の線材を引き抜くと、引き抜かれた線材の断面形状は、ダイス孔の断面積が最小の部分の形状と同一になることが理解される。そして、このダイス孔の断面積が最小の部分の形状が、略多角形の隅部に円味を附したものである場合、引き抜かれた線材の断面形状が、略多角形断面の角に当たる部分が丸められた形状となることも、当然認識する事項であると認められる。
そうすると、上記甲第2号証の記載を見た当業者が、甲2発明Cにおいて、通路の断面形状が方形の隅部に円味を附した形状の型を用いて線を引くようにして、螺状線の断面を、方形断面の角に当たる部分が曲線(円味)に置き換えられることで丸められている略方形断面とすることに困難性はなく、その際、角部を無くすという観点から、円味の端部と方形辺の端部との境に角がない形状とすることは、容易に想到する事項と認められる。
よって、相違点5に係る本件発明14の構成については、甲2発明C及び甲第2号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものである。
したがって、本件発明14は、甲2発明C及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
g 本件発明15について
甲2発明Dと本件発明15とを対比すると、甲2発明Dの「前記円味を有する隅部が型に通ずることで得られる」ことは、本件発明15の「前記丸められた角がダイスによって形成される」ことに相当する。
そうすると、両者は、上記f(a)に記載した<相違点5>の点のみで相違することになるが、当該<相違点5>については、上記f(b)で説示したとおり、甲第2号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものである。
よって、本件発明15は、甲2発明D及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
h 本件発明16について
甲2発明Eと本件発明16とを対比すると、甲2発明Eの「鉄条網」は、本件発明16の「金属金網」に相当する。また、甲2発明Eの「鉄条網」が「螺状線で製造した」のであれば、「鉄条網」には「螺状線」が含まれているのは当然である。
そうすると、両者は、上記f(a)に記載した<相違点5>の点のみで相違することになるが、当該<相違点5>については、上記f(b)で説示したとおり、甲第2号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものである。
よって、本件発明16は、甲2発明E及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
(イ)甲第5号証を主引用例とした場合
a 本件発明1について
(a)対比
甲5発明Aと本件発明1とを対比する。
甲5発明Aの「異形線伸線用」及び「ダイヤモンドダイス」は、本件発明1の「引抜加工用」及び「ダイス」に相当する。
また、甲5発明Aの「ベアリングの穴」が、「正面形状が四角形でコーナー部にRを有する」ことは、本件発明1の「ベアリング部の開口部」が、「略多角形の断面形状を有する」ことと対比すると、「ベアリング部の開口部」が「略四角形の断面形状を有する」点では一致している。
そうすると、本件発明1と甲5発明Aとは、以下の点で一致し、かつ相違する。
<一致点>
「引抜加工用ダイスであって、前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略四角形の断面形状を有する引抜加工用ダイス。」
<相違点1>
本件発明1が、「略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダー、を含む引抜加工機」であるのに対して、甲5発明Aは、引抜加工用ダイスそのものであるが、略円筒形形状のダイスであるか否か不明であり、当該ダイスを保持して回転させるダイスホルダーを含む引抜加工機についても不明である点。
<相違点2>
本件発明1が、「内部に収納された潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線材が引き込まれるボックス、を含む引抜加工機」であるのに対して、甲5発明Aは、引抜加工用ダイスそのものであり、当該ダイスに材料線材が引き込まれる前に、内部に収納された潤滑剤が材料線材に塗布されるボックスを含む引抜加工機については不明である点。
<相違点3>
本件発明1の引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部の断面形状が、「前記材料線材の引抜方向に沿って同じである」のに対し、甲5発明Aのベアリングの穴の断面形状は、「滑らかな曲面で形成される」点。
(b)判断
まず、相違点1について検討する。
「略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダーを含む引抜加工機」については、甲第1号証(特開平5-185134号公報)の円筒状ダイスセットを保持して回転させるダイスホルダー10及び13を含む伸線ダイス(【0014】-【0015】を参照)や、甲第2号証の円筒状型9を保持して回転させる型支持材5を含む冷間引抜を行う装置(3ページ左欄下から2行-右欄8行の記載及び第1図を参照)や、甲第3号証(特開昭49-83666号公報)の円筒状の引き抜きダイス28を保持して回転させるダイスボックス27を含む稔線素材製造機(4ページ左上欄下から3行-右上欄2行の記載及び第3図を参照)として示されているように、ツイストバーのような捻線の引抜加工を行う装置の分野で従来周知の装置構成とはいえる。
しかし、甲5発明Aの異形線伸線用ダイヤモンドダイスは、モータ等電子機器の巻線用線材の製造に用いられるものであり、極細でねじれの少ない巻線を製造することを前提とするものである(甲第5号証の段落【0002】-【0005】の記載を参照)。そうすると、甲5発明Aのダイスは、ねじれの少ない線材を製造するものであって、当然引抜加工時に回転することを避けようとすると認められるから、上記甲第1-3号証に記載されたダイスを回転させるダイスホルダーの技術事項を適用しようとする動機がないことになる。
また、甲第5号証には、甲5発明Aのダイスを、極細の巻線の製造に用いる技術は開示されているが、金属金網に用いられるツイストバーのような、ある程度の強度を有する太めの線材の製造に用いることの示唆もなく、甲5発明Aのダイスを回転させてツイストバーの製造に用いることの積極的な動機も記載されていない。さらに、甲第4号証(特開昭53-28068号公報)に記載された「マンドレル引き抜き制御システム」では、円筒部材3を引き抜くため所定の位置に貫通孔が設けられるダイスタンド5に装着されるダイス5aは回転させられるものではなく、結局、甲第1-4号証には当該動機の根拠となる事項は見当たらない。
よって、相違点1に係る本件発明1の構成については、甲5発明A及び甲第1-5号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
また、相違点3についても検討すると、甲第1-4号証には、ダイスのベアリング部の開口部の断面形状が線材の引抜方向に沿って同じである構成は記載されていないことから、相違点3に係る本件発明1の構成については、甲5発明A及び甲第1-5号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、他の相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明A及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
b 本件発明2-6について
本件発明2-6は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲5発明A及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
c 本件発明7について
(a)対比
甲5発明Bと本件発明7とを対比する。
甲5発明Bの「ベアリング部の穴の正面形状」、「異形線伸線用」及び「ダイヤモンドダイス」は、本件発明1の「ベアリング部開口部断面形状」、「引抜加工用」及び「ダイス」に相当する。
また、甲5発明Bの「コーナー部にRを有する四角形」は、本件発明7の「略多角形」と対比すると、「略四角形」という点では一致している。
さらに、甲5発明Bの「アプローチ部及びバックリリーフ部の穴内面の形状が、それぞれ穴の外方に向けて拡径されている」ことは、甲5発明Bのダイヤモンドダイスのアプローチ部及びバックリリーフ部において、ダイヤモンドダイスと線材の間の空間を有するものとなることは、当業者が当然理解できる事項である。
そうすると、本件発明7と甲5発明Bとは、以下の点で一致し、かつ相違する。
<一致点>
「略四角形のベアリング部開口部断面形状を持つ引抜加工用ダイスであって、前記引抜加工用ダイスと線材の間の空間を有している引抜加工用ダイス。」
<相違点4>
本件発明7が、「略円筒形形状をした引抜加工用ダイスと、」「前記引抜加工用ダイスを保持するダイスホルダーと、を含む引抜加工機であって、前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ」るのに対して、甲5発明Bは、ダイヤモンドダイスが略円筒形形状であるか否か不明であり、当該ダイスを保持して回転させるダイスホルダーを含む引抜加工機についても不明である点。
<相違点5>
本件発明7が、「前記引抜加工用ダイスに引き込まれる線材に潤滑剤を塗布するボックスを含む引抜加工機」であるのに対して、甲5発明Bは、ダイスに引き込まれる線材に潤滑剤を塗布するボックスを含む引抜加工機については不明である点。
<相違点6>
本件発明7が、「前記ベアリング部開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであ」るのに対し、甲5発明Bは、ベアリングの穴の断面形状は滑らかな曲面で形成される点。
<相違点7>
本件発明7が、「前記引抜加工用ダイスの回転によって溜まった潤滑剤の塊が前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間から脱落する」ものであるのに対し、甲5発明Bは空間を有していることは認められるが、潤滑剤の塊が脱落することについては不明である点。
(b)判断
まず、相違点4について検討する。
「略円筒形形状をした引抜加工用ダイスと、」「前記引抜加工用ダイスを保持するダイスホルダーと、を含む引抜加工機であって、前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ」る点については、甲第1-3号証にも示されているように、ツイストバーのような捻線の引抜加工を行う装置の分野で従来周知の装置構造とはいえる。
しかし、甲5発明Aと同様に、甲5発明Bの異形線伸線用ダイヤモンドダイスも、モータ等電子機器の巻線用線材の製造に用いられるものであり、極細でねじれの少ない巻線を製造することを前提とするものであるから、甲5発明Bのダイスは、ねじれの少ない線材を製造するものであって、当然引抜加工時に回転することを避けようとすると認められるから、上記甲第1-3号証に記載されたダイスを回転させるダイスホルダーの技術事項を適用しようとする動機がないことになる。
また、甲第5号証には、甲5発明Bのダイスを、極細の巻線の製造に用いる技術は開示されているが、金属金網に用いられるツイストバーのような、ある程度の強度を有する太めの線材の製造に用いることの示唆もなく、甲5発明Bのダイスを回転させてツイストバーの製造に用いることの積極的な動機も記載されていない。さらに、甲第1-4号証にも当該動機の根拠となる事項は見当たらない。
よって、相違点4に係る本件発明7の構成については、甲5発明B及び甲第1-5号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
また、相違点6についても検討すると、甲第1-4号証には、ダイスのベアリング部開口部断面形状が線材の引抜方向に沿って同じである構成は記載されていないことから、相違点6に係る本件発明7の構成については、甲5発明B及び甲第1-5号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、他の相違点5及び7について検討するまでもなく、本件発明7は、甲5発明B及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
d 本件発明8について
(a)対比
甲5発明Bと本件発明8とを対比すると、両者は、上記c(a)に記載した本件発明7との<一致点>と同じ点で一致し、上記c(a)の<相違点4>ないし<相違点6>の点で相違するとともに、以下の点でも相違する。
<相違点8>
本件発明8が、「前記引抜加工用ダイスの回転によって前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間に溜まる潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止する」ものであるのに対し、甲5発明Bは空間を有していることは認められるが、潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止することについては不明である点。
(b)判断
相違点4及び6については、上記c(b)で検討したのと同様、甲5発明B及び甲第1-5号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、他の相違点5及び8について検討するまでもなく、本件発明8は、甲5発明B及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
e 本件発明9-12について
本件発明9-12は、本件発明7又は8を直接又は間接的に引用しており、本件発明7又は8の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明7又は8と同様に、甲5発明B及び甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
エ 特許法第29条第1項第3号について
(ア)本件発明14について
甲2発明Cと本件発明14とを対比すると、上記ウ(ア)f(a)で示したとおり、<相違点5>を有すると認められる。
よって、本件発明14は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
なお、甲第2号証の第14図及び第15図で示された「断面形状多角にしてその隅部に円味を持つた」螺状線については、甲第2号証に「型通路の最大放射寸法よりも小さい半径を有する円線を本発明による型に通ずれば良い。・・・第15図はこの線の拡大断面図であり、この図の如く方形は隅に円味を有する。」(5ページ右欄20-26行)と説明されているとおり、線の円形断面の上下左右の部分を方形断面の型を用いて削除して形成したものであるから、上下左右の辺と、隅の円弧とは、滑らかに結ばれるのではなく境界に角を有する形状となり、「角がない」本件発明14とは相違しているものである。
(イ)本件発明15及び16について
本件発明15及び16は、本件発明14を直接又は間接的に引用しており、本件発明14の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明14と同様に、甲2発明Cと対比すると<相違点5>を有すると認められる。
よって、本件発明15及び16は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 特許法第29条第1項第2号について
甲第7号証(株式会社ダイクレの床板グレーチングに関するカタログ)には、床板グレーチングが記載されており、甲第8号証(特開2010-281051号公報)には、グレーチングに用いるツイストバー4が記載されているが、ツイストバーの略多角形断面の角が、引抜方向の最初から最後まで基礎となる多角形断面の角に当たる部分が曲線に置き換えられることで丸められている構造については、記載されておらず不明である。
また、甲第9号証(弁護士法第23条の2第1項に基づく照会に対する回答書)には、「グレーチング材料のツイストバーについて」という標題に続いて、「ご依頼(広弁照第3464号)頂きました件について回答いたします。
・平成26年1月1日よりも前から,社内規格内の製造作業標準の数値として,ツイストバー角部の曲率半径を規定していた。」との記載はある。しかし、依頼内容については不明であると共に、「ツイストバーの角部の曲率半径を規定していた。」という事項と上記甲第7号証及び甲第8号証に記載されたツイストバーの形状との関係も不明で、甲第7号証及び甲第8号証に記載されたツイストバーの略多角形断面の角が丸められていたという根拠にもならないため、略多角形断面の角が、引抜方向の最初から最後まで基礎となる多角形断面の角に当たる部分が曲線に置き換えられることで丸められているツイストバーや、このようなツイストバーを用いたグレーチングが、株式会社ダイクレによって製造販売されていたことを立証する証拠となるとは認められない。
よって、甲第7号証ないし甲第9号証により、「角部が丸められた略矩形状の断面を有するツイストバー」、「角部が丸められた略矩形状の断面を有し、ダイスによって形成されるツイストバー」、「角部が丸められた略矩形状の断面を有するツイストバーを用いたグレーチング」が、本件発明13-16の出願前に日本国内において既に製造及び販売されていたため、本件発明13-16は、特許法第29条第1項第2号に規定する「出願前に日本国内において公然実施をされた発明」に該当するため、新規性を有しないという特許異議申立人の主張を採用することはできない。
イ 特許法第29条第2項について
甲第3号証(特開昭49-83666号公報)には、ヘリカルワイヤー、ロッド、バーおよびその類似物の製造装置について、冷間加工により横断面丸形の線素材を横断面異形に引き抜くとともに一方向に捻って稔線素材を得る製造機械が記載されている。そして、甲第3号証に記載された当該製造機械は、中心に横断面角形のダイス孔31が貫通された引き抜きダイス28をダイスボックス27に回転可能に軸支しているが、本件発明1-12が有する、ダイスに引き込まれる材料線材に内部に収納された潤滑剤を塗布するボックスは備えていない。
一方、甲第2号証に記載された石鹸箱8及び甲第4号証に記載されたマンドレル引き抜き装置に設けられた第2の潤滑剤供給装置16は、ダイスに引き込まれる材料線材に内部に収納された潤滑剤を塗布するボックスに相当する。しかし、甲第2号証及び甲第4号証に記載された潤滑剤を塗布するボックスは、材料線材を水平方向に直線的に走行させて引き抜きを行う形式の装置に対し、その材料線材の走行経路のダイスの上流側に配置して潤滑剤を塗布するものであって、甲第3号証の回転盤24に備えられたダイスボックス27に収納された引き抜きダイス28の直前に配置することは、両者のダイスの配置に関する装置構造が相違するとともにその動機付けも不明であるから、当業者にとって容易であるとは認められない。また、甲第1号証に記載された伸線機や甲第5号証に記載されたダイヤモンドダイスについては、潤滑剤を塗布するボックスに相当するものを併設することの示唆がされているものではない。
また、甲第3号証に記載された引き抜きダイス28の横断面角形のダイス孔31は、本件発明1-12の引抜加工用ダイスが有する、開口部の断面形状が線材の引抜方向に沿って同じである構成については不明であり、当該構成は甲第1、2、4、5号証にも記載されていない。
そうすると、本件発明1-12は、甲第3号証に記載された発明に甲第1、2、4、5号証に記載された事項を適用することで当業者が容易に想到し得るという特許異議申立人の主張は成立しない。
ウ 特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人は、本件発明5又は6のベアリングの断面形状について、「基礎となる多角形の少なくとも1の角を円弧でつないだものに置き換えたもの」又は「基礎となる多角形のすべての角を円弧でつないだものに置き換えたもの」と記載されているのみで、両者ともに円弧の曲率が具体的に規定されていないから、その断面の角部がわずかな曲率半径の円弧によって形成されている場合も含まれることになるとし、一方、本件の特許明細書には、当該円弧について1つの曲率半径が示されているにすぎないから、出願時の技術常識に照らしても、本件発明5又は6の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。
しかし、特許異議申立人も挙げているように、本件の特許明細書の段落【0055】には、「図7及び図10は、本発明に関わる引抜加工用ダイス101のベアリング部101bを表す。本発明に関わるこのベアリング部101bの断面形状は、図6で表した『基礎となる多角形断面』の『角』にあたる部分を円弧、すなわち曲線、で結ぶように置き換えた点に特徴がある。」と記載されており、本件発明5又は6のように基礎となる多角形断面の角を円弧でつないだものに置き換えたものとすることは、発明の詳細な説明で開示されているというべきである。そして、発明の詳細な説明で当該円弧の曲率半径の具体例が1つしか示されていないからといって、当該開示を否定する根拠とはならない。
また、特許異議申立人は、本件発明13又は14についても、略多角形断面の角が引抜方向の最初から最後まで丸められている点について、本件発明5又は6の場合と同様に、円弧の曲率半径が具体的に規定されておらず、本件の特許明細書には当該曲率半径の具体例が1つしか示されていないから、出願時の技術常識に照らしても、本件発明13又は14の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。
しかし、本件発明13又は14のツイストバーの略多角形断面の角を形成する円弧については、当該円弧を決定する引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部の角を形成する円弧が、上記のとおり本件の特許明細書の段落【0055】に記載されていることからみて、同様に発明の詳細な説明で開示されているというべきである。そして、発明の詳細な説明で引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部の角を形成する円弧の曲率半径の具体例が1つしか示されていないからといって、ツイストバーの略多角形断面の角を形成する円弧についての上記開示を否定する根拠とはならない。
よって、本件発明5、6、13、14は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものとは認められない。
エ 特許法第36条第6項第2号について
特許異議申立人は、請求項9及び請求項10には、「(潤滑剤が溜まって塊となる)引抜加工用ダイスと材料線材の間の空間」が、それぞれ「引抜加工用ダイスのアプローチ部にできる」、「引抜加工用ダイスのバックリリーフ部にできる」という異なる2種類の作用が記載されているが、本件発明9及び10の構成には相違点がなく、それぞれの作用を発揮させるための構成がいずれも明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反していると主張している。
しかし、本件発明9及び10において、「前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間」が、それぞれ「前記引抜加工用ダイスのアプローチ部にできる」及び「前記引抜加工用ダイスのバックリリーフ部にできる」という記載が示す内容は、当該「空間」が「アプローチ部にできる」及び「バックリリーフ部にできる」、すなわち、アプローチ部及びバックリリーフ部に設けられているという意味である。
そうすると、当該記載は構成を表現したものであって、これを「作用」と捉えること自体が誤っているから、特許異議申立人の上記申立理由は、その前提において誤っており失当である。
5.むすび
以上のとおり、本件発明14-16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明1-12については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1-12に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1-12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件発明13は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による本件発明13に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないことになったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700464