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特許無効審判

2020-800043

多角形断面線材用ダイス

審判番号
2020-800043
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2015-175256
登録番号
6031654
請求日
2020年04月21日
審決日
2026年03月25日
公報発行日
2026年07月31日
結論
請求成立(無効)
当事者
  • 【請求人】中国金網工業 株式会社
  • 【請求人代理人】小栗 久典
  • 【請求人代理人】永島 太郎
  • 【請求人代理人】井上 浩
  • 【被請求人】株式会社 ノブハラ
  • 【被請求人代理人】北野 修平
  • 【被請求人代理人】新田 研太
  • 【被請求人代理人】木村 豊
審判長/審判官
  • 審判長 柿崎 拓
  • 審判官 刈間 宏信
  • 審判官 本庄 亮太郎
分類
P1113.55 -ZB (B21C) / P1113.537-ZB (B21C) / P1113.111-ZB (B21C) / P1113.112-ZB (B21C) / P1113.121-ZB (B21C)
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

両当事者間の特許第6031654号発明「多角形断面線材用ダイス」の特許無効審判事件についてされた令和6年1月9日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和6年(行ケ)第10013号、令和7年2月27日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。

結論

結 論 特許第6031654号の請求項1~12に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨 1 請求の趣旨 「特許第6031654号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至12に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」 2 答弁の趣旨 「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」 第2 手続の経緯 1 本件特許の出願から設定登録まで 特許第6031654号(以下「本件特許」という。)は、平成27年9月6日(優先権主張 平成26年9月7日)に特願2015-175256号として出願したもの(以下、平成27年9月6日を「本件出願日」、平成26年9月7日を「本件優先日」という。)であって、平成28年11月4日にその請求項1~16に係る発明について特許権の設定登録がされた。 2 特許異議の決定まで 平成29年5月12日に、本件特許の請求項1~16に係る特許に対して、中国金網工業株式会社から特許異議の申立て(異議2017-700464号、以下「本件特許異議申立て」ということがある。)がされ、平成31年1月30日に、 「特許第6031654号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~12〕、〔13~16〕について訂正することを認める。 特許第6031654号の請求項14~16に係る特許を取り消す。 特許第6031654号の請求項1~12に係る特許を維持する。 特許第6031654号の請求項13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。」との異議決定がされ、平成31年3月11日に確定した。 なお、特許法(以下「法」という。)120条の5第9項で準用する法128条の規定により、訂正後の特許請求の範囲により特許権の設定の登録がなされたものとみなされる。 3 本件無効審判の請求から一次審決まで 令和2年4月21日に、本件特許の請求項1~12に係る特許を無効とすることを請求する審判請求書(以下「請求書」という。また、この請求書に係る審判事件を「本件無効審判」という。)が、中国金網工業株式会社(以下「請求人」という。)から提出された。 これに対して、令和2年8月11日に、審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)が、株式会社ノブハラ(以下「被請求人」という。)から提出された。 その後、令和4年1月20日付けで、請求人が主張する無効理由1(訂正要件(本件特許異議申立てに係る訂正の訂正要件))、無効理由2-1(サポート要件)、無効理由2-2及び無効理由2-3(明確性要件)、無効理由3(新規性)、無効理由4-1及び無効理由4-2(進歩性)のいずれによっても本件特許を無効にすることはできず、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決(以下「一次審決」という。)がされた。 4 一次判決 一次審決に対し、請求人はその取消しを求めて、令和4年2月28日に知的財産高等裁判所に訴えを提起した。知的財産高等裁判所は、前記訴えを、令和4年(行ケ)第10019号事件として審理し、令和4年11月16日に、「特許庁が無効2020-800043号事件について令和4年1月20日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決(以下「一次判決」という。)を言渡し、その後確定した。 一次判決は、取消事由1(明確性要件についての判断の誤り:無効理由2-3関係)について、本件各発明の「略多角形」は第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であると評価せざるを得ないから、理由があるというものである。 5 一次判決後から二次審決まで 一次判決を受けて、令和5年1月11日付けで審理再開の通知がされた。 令和5年1月30日に被請求人から訂正請求書が提出され、被請求人は本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求めた。 その後、令和5年3月27日に審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)が提出され、同年4月18日付け審尋に対し、同年6月20日に請求人から回答書が提出された後、令和6年1月9日付けで、 「特許第6031654号の特許請求の範囲を、令和5年1月30日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~12〕について訂正することを認める。 特許第6031654号の請求項1~4、6~12に係る特許についての本件審判の請求は、成り立たない。 特許第6031654号の請求項5に係る特許についての本件審判の請求は、却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。」との審決(以下「二次審決」という。)がされた。 6 二次判決 二次審決に対し、請求人はその審決の取消しを求めて、令和6年2月19日に知的財産高等裁判所に訴えを提起した。知的財産高等裁判所は、上記訴えを、令和6年(行ケ)第10013号事件として審理し、令和7年2月27日に「特許庁が無効2020-800043号事件について令和6年1月9日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決(以下「二次判決」という。)を言渡し、その後確定した。 二次判決は、取消事由1(訂正要件違反についての判断(当審注:令和5年1月30日付け訂正請求書でした訂正についての訂正要件))について、訂正前の請求項1、7及び8の「略多角形」につき「前記略多角形は、基礎となる多角形の少なくとも1の角を少なくとも半径0.8mmの曲率の円弧でつないだものに置き換えたもの」(以下「C-2事項」ということがある。)を追加することは、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面であってこの訂正直前のもの(以下「本件明細書等」という。)を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものといわざるを得ない(二次判決16ページ、23ページ)から、理由があるというものである。 7 二次判決後の審理 二次判決後の審理についての主な経緯は以下のとおりである。 令和7年 5月28日付け 審理再開通知書、令和5年1月30日付け訂正請求書でした訂正に対する訂正拒絶理由通知書 同年 7月 3日提出 被請求人からの手続補正書(方式)、意見書 同年 9月24日付け 審決の予告 同年11月26日提出 訂正請求書(以下「訂正請求書」といい、この訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求の内容を「本件訂正」という。)、被請求人からの上申書 令和8年 1月 7日付け 訂正拒絶理由通知書(以下「訂正拒絶理由通知書」という。)、職権審理結果通知書 同年 2月10日提出 被請求人からの意見書 同年 2月12日提出 請求人からの意見書 第3 本件訂正 本件訂正の適否について検討する。 1 訂正請求の趣旨 「特許第6031654号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1から12について訂正することを求める。」 2 一群の請求項についての説明 (1) 本件訂正前の請求項2~6は、それぞれ、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、本件訂正前の請求項1~6に対応する本件訂正後の請求項1~6は、法134条の2第3項に規定する一群の請求項であり、以下の訂正事項1~3は、この一群の請求項についてのものである。 (2) 本件訂正前の請求項9~12は、それぞれ、請求項7又は8を引用するものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項7又は8に連動して訂正されるものである。 したがって、本件訂正前の請求項7~12に対応する本件訂正後の請求項7~12は、法134条の2第3項に規定する一群の請求項であり、以下の訂正事項4~5は、この一群の請求項についてのものである。 3 一群の請求項〔1~6〕についての訂正事項(下線は訂正箇所) (1) 訂正事項1 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有」するとの事項における「略多角形」について、「前記略多角形は、基礎となる1辺が4mmでありかつ各辺が直角に交わる四角形のすべての角を少なくとも半径0.8mmの曲率の円弧でつないだものに置き換えたものであり、 前記円弧は、前記基礎となる四角形の角を形成する二辺に内接する円の円弧であり、」との事項(以下「本件訂正事項」という。)を付加して、本件訂正後の請求項1とする訂正である。 また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~4についても同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 訂正事項2は、請求項5を削除する訂正である。 (3) 訂正事項3 訂正事項3は、請求項6を削除する訂正である。 4 一群の請求項〔7~12〕についての訂正事項 (1) 訂正事項4 訂正事項4は、本件訂正前の請求項7の「略多角形のベアリング部開口部断面形状を持ち略円筒形形状をした引抜加工用ダイス」との事項における「略多角形」について、「前記略多角形は、基礎となる1辺が4mmでありかつ各辺が直角に交わる四角形のすべての角を少なくとも半径0.8mmの曲率の円弧でつないだものに置き換えたものであり、 前記円弧は、前記基礎となる四角形の角を形成する二辺に内接する円の円弧であり、」との事項(本件訂正事項と同内容であるので、これも「本件訂正事項」といえる。)を付加して、本件訂正後の請求項7とする訂正である。 また、請求項7を引用する請求項9~12についても同様に訂正する。 (2) 訂正事項5 訂正事項5は、本件訂正前の請求項8の「略多角形のベアリング部開口部断面形状を持ち略円筒形形状をした引抜加工用ダイス」との事項における「略多角形」について、「前記略多角形は、基礎となる1辺が4mmでありかつ各辺が直角に交わる四角形のすべての角を少なくとも半径0.8mmの曲率の円弧でつないだものに置き換えたものであり、 前記円弧は、前記基礎となる四角形の角を形成する二辺に内接する円の円弧であり、」との事項(本件訂正事項と同内容であるので、これも「本件訂正事項」といえる。)を付加して、本件訂正後の請求項8とする訂正である。 また、請求項8を引用する請求項9~12についても同様に訂正する。 5 本件訂正の適否 本件訂正について、訂正の目的の適否、新規事項、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否の有無を検討する。 なお、全ての請求項に対して特許無効審判が請求されているので、訂正事項1~5に関し、法134条の2第9項において読み替えて準用する法126条7項に規定される要件(独立特許要件)は課されない。 (1) 一群の請求項〔1~6〕の訂正について 事案に鑑み、まず訂正事項1について検討した後、訂正事項1~3についてまとめて判断する。 ア 訂正の目的 訂正事項1は、引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部が有する略多角形の断面形状を本件訂正事項によって具体的に特定し、限定するものであるから、訂正事項1は、法134条の2第1項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の有無 本件訂正事項のうち「少なくとも半径0.8mmの曲率」については以下のとおり新規事項である。 (ア) 本件訂正請求書及び令和8年2月10日提出の意見書において被請求人が「少なくとも半径0.8mmの曲率」の根拠として説明する本件明細書等の【0055】及び【0059】を以下に摘記する。 「【0055】 一方、図7及び図10は、本発明に関わる引抜加工用ダイス101のベアリング部101bを表す。本発明に関わるこのベアリング部101bの断面形状は、図6で表した「基礎となる多角形断面」の「角」にあたる部分を円弧、すなわち曲線、で結ぶように置き換えた点に特徴がある。具体的には、1辺が4mmの四角形断面の棒材を作成する場合、引抜加工用ダイス101のベアリング部101bの開口部の一つの「角」を半径0.8mm程度の曲率の円弧(曲線)で結ぶ。 これにより、当該「角」に溜まっていた潤滑剤の塊が一カ所に固まりづらくなる。」 「【0059】 これにより、潤滑剤がたまる「角」がなくなる。結果として、このダイス101では円断面のダイスと同じような潤滑剤の挙動になり、潤滑剤の塊ができにくくなる。」 (イ) (ア)によると、【0055】に「半径0.8mm程度の曲率」という記載はあるものの、「少なくとも半径0.8mmの曲率」とする記載はないし、本件明細書等を通じても該当する記載がない。 【0059】の記載内容をみても、半径0.8mm程度の曲率である実施例について、「円断面のダイスと同じような潤滑剤の挙動になり、潤滑剤の塊ができにくくなる。」と記載するにとどまり、1辺が4mmの四角形断面の棒材を作成する場合、半径0.8mm程度の曲率のダイスが、円断面のダイスと同程度に潤滑剤の塊ができにくいという効果を発揮できたことが説明されるだけであって、半径0.8mm程度よりも大きい曲率にする技術的思想は開示されていない。 むしろ、上記曲率を、半径0.8mm程度よりも大きくしていくと、製造される棒材やツイストバーの形状としては、角のある略多角形(四角形)から離れていくことを踏まえれば、本件明細書等には、上記効果を発揮し、かつその前提である角のある棒材やツイストバーの製造(本件明細書等の【0065】~【0074】、図11~12参照)に用いられる「略多角形(四角形)」といえるものは、上記曲率が半径0.8mm程度であることが開示されているのみである。 つまり、「少なくとも半径0.8mmの曲率」という記載は、半径0.8mm「程度」の範囲を超えて曲率が大きいものまで含むことになるが、本件明細書等に、そのような開示はない。 (ウ) また、二次判決の判示は明細書に開示された事項についての認定判断についてのものであるところ、本件明細書の記載については、本件訂正の前後で変更がないのであるから、訴訟上の信義則に照らし、二次判決の認定判断は尊重されるべきである。したがって、新規事項についての当審の審理は、二次判決の認定判断を尊重して進める。 この二次判決では、22ページに「そうすると、・・・、効果の発生機序・原理についての説明はなく、実施例としては、(1)(当審注:二次判決中の丸数字を下線付き括弧数字として表す。以下同様。)引抜加工による完成線材が棒材であり、(2)棒材は四角形断面であり、(3)作成される棒材は1辺が4mmである場合において、(4)ダイスの開口部の角を曲率半径0.8mm程度の円弧で結ぶことにより「丸めた」形状としたときは、潤滑剤の塊ができにくくなることが開示されているにとどまる。」と記載され、23ページに「また、・・・、本件明細書には、本件実施例以外の実施例は掲げられておらず、本件実施例の各数値の組合せの技術的意義又は本件発明における効果の発生機序・原理についての一般的な説明もないのであるから、本件明細書には、本件技術思想は開示されていても、具体的な技術的事項として、本件実施例に開示された事項の範囲を超える事項は記載されていないというべきである。」と記載されている。 つまり、二次判決では、実施例として22ページのものを挙げ、23ページには実施例に開示された事項の範囲を超える事項は本件明細書に記載されていないという事実認定及び法律判断をしているものと解される。 そして、「少なくとも半径0.8mmの曲率」については、当審としても上記(イ)のとおり本件明細書等に開示を欠くと判断するところであり、また、二次判決においても同旨の判断が示されていることに照らせば、本件明細書等に記載されたものではないというべきである。 (エ) したがって、訂正事項1は、法134条の2第9項において準用する法126条5項の規定に適合するものであるとはいえない。 ウ 小括 イによると、訂正事項1について特許請求の範囲の拡張・変更の存否を検討するまでもなく、訂正事項1に係る訂正は、訂正要件を満たしていない。 そして、一群の請求項については一群の請求項ごとに訂正を請求する必要があり、その訂正の認否の判断も一群の請求項という請求単位ごとにされるところ、訂正事項1に係る訂正が訂正要件を満たしていないから、訂正事項2~3について検討するまでもなく、一群の請求項〔1~6〕についての訂正は認められない。 (2) 一群の請求項〔7~12〕の訂正について 訂正事項4~5は、請求項7~8に本件訂正事項を付加することで、引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部が有する略多角形の断面形状を具体的に特定し、限定するものであるから、(1)と同様のことがいえる。 そうすると、訂正事項4~5は法134条の2第9項において準用する法126条5項の規定に適合するものであるとはいえないから、訂正事項4~5に係る訂正は、訂正要件を満たしていない。 したがって、一群の請求項〔7~12〕についての訂正を認めることができない。 6 本件訂正についてのむすび 以上のとおり、請求項〔1~6〕、〔7~12〕についての訂正は、法134条の2第9項で準用する法126条5項の規定に適合するものではない訂正事項1、4~5を含むから、当該訂正を認めることができない。 第4 本件発明 第3のとおり、本件訂正は認められないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などといい、これらを総称して「本件発明」という。)は、本件訂正直前の、異議決定がされた特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 なお、第2の2のとおり、本件特許の請求項13は出願時から削除されたものとみなされ、請求項14~16に係る特許は、初めから存在しなかったものとみなされる。 本件発明1については、請求人が請求書で分説した記号A~Dに従って記載し、記号の付された発明特定事項を、それぞれ、「発明特定事項A」~「発明特定事項D」という。 「【請求項1】 A 略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダーと、 B 内部に収納された潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線材が引き込まれるボックスと、を含む引抜加工機であって、 C 前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有し、 D 前記開口部の断面形状は前記材料線材の引抜方向に沿って同じであること を特徴とする引抜加工機。 【請求項2】 請求項1記載の引抜加工機において、 加工開始時間からの経過時間に応じて、前記ダイスホルダーが前記ダイスを回転させることを特徴とする引抜加工機。 【請求項3】 請求項2記載の引抜加工機において、 更にドローイングマシンと、 前記ドローイングマシンの進行方向を規定するガイドレールと、を含み、 前記ドローイングマシンが前記ガイドレール上のいずれの位置に存在するかに応じて前記ダイスホルダーが前記ダイスを回転させることを特徴とする引抜加工機。 【請求項4】 請求項2記載の引抜加工機において、 更にドローイングマシンと、 前記ドローイングマシンの進行方向を規定するガイドレールと、を含み、 加工開始後に前記ドローイングマシンがガイドレール上のどれだけ進んだかに応じて前記ダイスホルダーが前記ダイスを回転させることを特徴とする引抜加工機。 【請求項5】 請求項1乃至4のいずれか1項記載の引抜加工機において、 前記略多角形は基礎となる多角形の少なくとも1の角を円弧でつないだものに置き換えたものであることを特徴とする引抜加工機。 【請求項6】 請求項1乃至4のいずれか1項記載の引抜加工機において、 前記略多角形は、基礎となる多角形のすべての角を曲線でつないだものに置き換えたものであることを特徴とする引抜加工機。 【請求項7】 略多角形のベアリング部開口部断面形状を持ち略円筒形形状をした引抜加工用ダイスと、 前記引抜加工用ダイスを保持するダイスホルダーと、 前記引抜加工用ダイスに引き込まれる線材に潤滑剤を塗布するボックスと、を含む引抜加工機であって、 前記ベアリング部開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであり、 前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、 前記引抜加工用ダイスの回転によって溜まった潤滑剤の塊が前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間から脱落することを特徴とする引抜加工機。 【請求項8】 略多角形のベアリング部開口部断面形状を持ち略円筒形形状をした引抜加工用ダイスと、 前記引抜加工用ダイスを保持するダイスホルダーと、 前記引抜加工用ダイスに引き込まれる材料線材に潤滑剤を塗布するボックスと、を含む引抜加工機であって、 前記ベアリング部開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであり、 前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、 前記引抜加工用ダイスの回転によって前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間に溜まる潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止することを特徴とする引抜加工機。 【請求項9】 請求項7又は8に記載の引抜加工機において、 前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間は、前記引抜加工用ダイスのアプローチ部にできるものであることを特徴とする引抜加工機。 【請求項10】 請求項7又は8に記載の引抜加工機において、 前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間は、前記引抜加工用ダイスのバックリリーフ部にできるものであることを特徴とする引抜加工機。 【請求項11】 請求項7又は8に記載の引抜加工機において、 更にドローイングマシンを含み、 前記ドローイングマシンが前記引抜加工用ダイスに引き込まれた線材を引き抜くことを特徴とする引抜加工機。 【請求項12】 請求項7又は8に記載の引抜加工機において、 更にドラムと、前記ドラムを回転させる電動機を含む線引き器を含み、 前記線引き器が前記引抜加工用ダイスに引き込まれた線材を引き抜くことを特徴とする引抜加工機。」 第5 請求人の主張及び証拠方法 1 請求人の主張の概要 請求人は、審判請求書において無効理由を主張し、令和3年5月7日及び同月31日並びに同年7月7日に提出した各上申書において無効理由を釈明し、令和5年1月30日に訂正が請求されたことにより、弁駁書及び令和5年6月20日に提出した回答書において改めて無効理由を主張しているところ、令和5年1月30日の訂正請求は取り下げられたものとみなされるから、無効理由については、審判請求書及び上記の各上申書において主張された、以下のとおりのものとして整理する(ただし、これまでに提出された証拠と、各証拠に基づく弁駁書及び回答書の主張については、審判請求書及び上記の各上申書において主張された無効理由を補充するものとして扱うこととする。)。 (1) 無効理由1(訂正要件) 無効理由1は、法126条5項の訂正要件違反であり(請求書7(3)(i)「訂正要件違反」(44ページ))、その要旨は、以下のとおりである。 本件特許の請求項1、請求項7及び請求項8に関し、特許異議の申立てに係る取消理由通知に対する指定期間内に行われた発明特定事項Dを追加する訂正は、新規事項の追加に該当するため、法120条の5第9項で準用する法126条5項に規定する訂正要件に違反するものである。 そのため、本件発明1、7~8並びにこれらに従属する本件発明2~6及び本件発明9~12は、それらに係る特許が法123条1項8号に規定する無効理由を有している。 すなわち、本件発明1~12は、それらに係る特許の訂正が、法120条の5第9項で準用する法126条5項の規定に違反してされたものであるから、それらに係る特許は法123条1項8号に該当し、無効とすべきである。(なお、請求人は、上記の「訂正」について「平成29年11月13日付の訂正請求書・・・により訂正がなされた」(請求書50ページ下から14~12行)としているが、平成29年11月13日の訂正請求は取り下げられたものとみなされるので、本件の特許異議申立てに係る訂正(平成30年6月8日に補正がされた同年5月1日の訂正)をいうものと善解する。) (2) 無効理由2(記載要件) 無効理由2は、法36条の記載要件違反である。 ア 無効理由2-1(サポート要件) 無効理由2-1は、法36条6項1号のサポート要件違反であり(請求書7(3)(ii)ア「サポート要件違反」(44~45ページ))、その要旨は、以下のとおりである。 本件特許の請求項1、請求項7及び請求項8に関し、ベアリング部の略多角形の開口部の断面形状が材料線材の引抜方向に沿って同じである旨の発明特定事項Dは、発明の詳細な説明に記載されたものではないし、示唆もされていない。 したがって、本件発明1、7~8並びにこれらに従属する本件発明2~6及び本件発明9~12は、法36条6項1号の規定により、特許を受けることができないものであり、それらに係る特許は法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。 イ 無効理由2-2~2-3(明確性要件) (ア) 無効理由2-2は、法36条6項2号の明確性要件違反であり(請求書7(3)(ii)イ「明確性要件違反」(45ページ5~10行))、その要旨は、以下のとおりである。 本件特許の請求項1、請求項7及び請求項8に関し、「略多角形のベアリング部開口部断面形状」を有する旨の発明特定事項Cと、ベアリング部の略多角形の開口部の断面形状が材料線材の引抜方向に沿って同じである旨の発明特定事項Dとの関係が整合していない発明となっており、発明が不明確となっている。 (イ) 無効理由2-3は、法36条6項2号の明確性要件違反であり(請求書7(3)(ii)イ「明確性要件違反」(45ページ11~12行))、その要旨は、以下のとおりである。 本件特許の請求項1、請求項7及び請求項8の発明特定事項Cにおける「略多角形」の意義が明細書の記載を参酌しても不明確である。 (ウ) (ア)~(イ)より、本件発明1、7~8並びにこれらに従属する本件発明2~6及び本件発明9~12は、法36条6項2号の規定により、特許を受けることができないものであり、それらに係る特許は法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。 (3) 無効理由3(新規性) 無効理由3は、法29条1項の新規性の欠如であり(請求書7(3)(iii)「新規性の欠如」(45~46ページ))、その要旨は、以下のとおりである。 本件発明1は、甲第1号証に記載されるとおり、本件特許に係る出願の優先日前に公然と知られた引抜加工機と同一であることから、法29条1項1号に規定する「公然知られた発明」に該当し、かつ、甲第1号証に記載されるとおり、本件優先日前に公然と使用された引抜加工機と同一であることから、同項2号に規定する「公然実施発明」に該当する。 また、本件発明2の「加工開始時間からの経過時間に応じて、ダイスホルダーがダイスを回転させること」のうち「加工開始時間からの経過時間に応じて」の部分は、どのような経過時間に応じるのかに関する具体的な説明は何らなく、ダイスを回転させるタイミングを適宜に設定することであり、ダイスを回転させるダイスホルダーを特定するのに役立っておらず、「ダイスを回転させるダイスホルダー」そのものを意味しているものと解される。 したがって、本件発明2の「加工開始時間からの経過時間に応じて、ダイスホルダーがダイスを回転させる」構造は、ダイスを保持して回転させるダイスホルダーそのものを意味しているものと解され、甲第1号証に記載されるとおり、本件優先日前に公然と知られた引抜加工機と同一であることから、法29条1項1号に規定する「公然知られた発明」に該当し、かつ、甲第1号証に記載されるとおり、本件特許に係る出願の優先日前に公然と使用された引抜加工機と同一であることから、同項2号に規定する「公然実施発明」に該当する。 すなわち、本件発明1及び2は、法29条1項1号及び2号の規定により特許を受けることができないものであり、これらに係る特許は法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。 (4) 無効理由4(進歩性) 無効理由4は、法29条2項の進歩性の欠如である(請求書7(3)(iv)「進歩性の欠如」(46~47ページ))。 ア 無効理由4-1の要旨は、本件発明1~12は、甲第1号証に記載される「公然知られた発明」かつ「公然実施発明」に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらに係る特許は法123条1項2号に該当し、無効とすべきである、というものである。 イ 無効理由4-2の要旨は、本件発明1~12は、甲第2号証に係る発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらに係る特許は法123条1項2号に該当し、無効とすべきである、というものである。 2 証拠方法 請求人は、以下の提出書類と共に、甲第1号証~甲第42号証を提出した(以下、それぞれ「甲1」~「甲42」という。また、各甲号証に係る発明を「甲1発明」などという。) (1) 請求書と共に提出された証拠 甲1:株式会社テイビョウの代表取締役社長網野芳生氏が2019年4月23日に作成した「ツイストバーについて」と題された書面 甲2:特公昭32-3856号公報 甲3:特開2013-4399号公報 甲4:特開2002-163946号公報 甲5:特開2005-254311号公報 甲6:登録実用新案第3079456号公報 甲7:特開2012-187594号公報 甲8:特開平6-218425号公報 甲9:特開平7-195115号公報 甲10:特開2009-142888号公報 甲11:特開2009-220146号公報 甲12:株式会社三和ダイヤモンド工業所の代表取締役社長中澤良雄氏が2019年6月24日に作成した「引抜加工用ダイスについて」と題された書面 甲13:株式会社三和ダイヤモンド工業所が作成した図面 甲14:甲13の図面に記載されたダイスの発注について発注元と株式会社三和ダイヤモンド工業所との間でやりとりされたfax書面 甲15:株式会社三和ダイヤモンド工業所が作成した図面 甲16:株式会社三和ダイヤモンド工業所が作成した図面 甲17:株式会社三和ダイヤモンド工業所が作成した図面 甲18:株式会社三和ダイヤモンド工業所が作成した図面 甲19:株式会社三和ダイヤモンド工業所が作成した図面 甲20:株式会社三和ダイヤモンド工業所が作成した図面 甲21:株式会社三和ダイヤモンド工業所が作成した図面 甲22:実願昭52-21817号(実開昭53-115139号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム 甲23:特開昭49-83666号公報 甲24:本件特許に係る平成29年11月13日付けの訂正請求書 甲25:本件特許に係る平成30年6月8日付けの手続補正書(方式) 甲26:本件特許に係る平成29年9月8日付けの取消理由通知書 甲27:本件特許に係る平成29年11月13日付けの意見書 甲28:特許第6031654号公報 甲29:特開平1-317616号公報 甲30:本件特許異議申立てに対する特許決定公報 甲31:特開昭63-7229号公報 甲32:協栄プリント技研株式会社ウェブサイトページ微細加工.net 甲33:株式会社アライドマテリアルのウェブサイトページ (2) 令和3年5月31日付け上申書と共に提出された証拠 甲34:株式会社テイビョウが甲1を作成するに先立って、黒塗りがされて社名が不明のダイスメーカから平成31年4月12日付けでfax受信したダイスの仕様書の出力に株式会社テイビョウがfax送信票を付して令和3年5月31日付けでfax送信し、請求人代理人がfax受信して出力した書面の写し 甲35:黒塗りがされて社名が不明のダイスメーカが平成20年5月1日から令和3年5月31日までを期間として売掛台帳を出力したものを株式会社テイビョウの代表取締役社長網野芳生氏がfax受信して出力し、その出力にfax送信票を付して令和3年5月18日付けでfax送信し、請求人代理人がfax受信して出力した書面の写し (3) 令和5年3月27日付け弁駁書と共に提出された証拠 甲36:相楽工業株式会社の代表取締役社長山本尚克氏が令和4年4月19日に作成した陳述書 甲37:株式会社三和ダイヤモンド工業所の常務取締役上森隆氏が令和4年4月20日に作成した陳述書 甲38:株式会社テイビョウの代表取締役社長網野芳生氏が令和4年4月19日に作成した陳述書 甲39:請求人代理人が令和4年4月7日に撮影した動画 甲40の1:閉鎖登記簿謄本 甲40の2:閉鎖登記簿謄本 甲40の3:履歴事項全部証明書 甲41:令和4年(行ケ)第10019号判決の写し 甲42:広辞苑(第七版)の写し 第6 被請求人の主張及び証拠方法 1 被請求人の主張の概要 (1) 答弁書における主張の概要 ア 無効理由1(訂正要件) 本件発明の発明特定事項Dは、本件明細書等の記載から自明な事項であり、特許登録後の訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 よって、請求人の主張は失当であり、本件発明は訂正要件に違反するものではない。 イ 無効理由2(記載要件) (ア) 無効理由2-1(サポート要件) 無効理由1で答弁したとおり、本件発明の発明特定事項Dは、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであることが明らかである。 よって、請求人の主張は失当であり、本件発明はサポート要件に違反するものではない。 (イ) 無効理由2-2(明確性要件) 本件発明は、発明特定事項Cと発明特定事項Dの関係が整合しておらず、発明が不明確であるというものではない。 よって、請求人の主張は失当であり、本件発明は明確性要件に違反するものではない。 (ウ) 無効理由2-3(明確性要件) 本件発明は、発明特定事項Cにおける「略多角形」が不明確であることを理由に発明が不明確であるというものではない。 よって、請求人の主張は失当であり、本件発明は明確性要件に違反するものではない。 ウ 無効理由3(新規性) 株式会社テイビョウの従業員が甲1発明を会社内又は工場内で使用していたという事実だけでは公知又は公然実施にあたらないうえ、甲1は証拠としての信憑性に欠けるものである。 よって、甲1に基づき本件発明1~2が公然知られた発明及び公然実施発明に該当するとの請求人の主張は失当であり、本件発明1~2は十分に新規性を有している。 エ 無効理由4(進歩性) (ア) 無効理由4-1 上記ウの答弁のとおり、甲1発明は公然知られた発明、又は公然実施された発明には該当しない。 よって、甲1発明との対比で本件発明1~12の進歩性を否定する請求人の主張は失当であり、本件発明1~12は十分に進歩性を有している。 (イ) 無効理由4-2 a 本件発明1 本件発明1は、甲2発明と構成が明確に相違しているところ、甲1及び甲3~甲21に記載の事項に基づいても本件発明1を容易に発明することはできない。 よって、本件発明1の特許は、法29条2項の規定に違反してされたものではない。 b 本件発明2~6 本件発明2~6は、本件発明1をより限定したものであるから、甲2発明、並びに、甲1及び甲3~甲21に記載の事項に基づいたところで、本件発明2~6を容易に発明できないことは明らかである。 よって、本件発明2~6の特許は、法29条2項の規定に違反してされたものではない。 c 本件発明7 本件発明7は、甲2発明と構成が明確に相違しているところ、甲1及び甲3~甲21に記載の事項に基づいても本件発明7を容易に発明することはできない。 よって、本件発明7の特許は、法29条2項の規定に違反してされたものではない。 d 本件発明8 本件発明8は、甲2発明と構成が明確に相違しているところ、甲1及び甲3~甲21に記載の事項に基づいても本件発明8を容易に発明することはできない。 よって、本件発明8の特許は、法29条2項の規定に違反してされたものではない。 e 本件発明9~12 本件発明9~12は、本件発明7又は8をより限定したものであるから、甲2発明、並びに、甲1及び甲3~甲21に記載の事項に基づいたところで、本件発明9~12を容易に発明できないことは明らかである。 よって、本件発明9~12の特許は、法29条2項の規定に違反してされたものではない。 2 証拠方法 被請求人は、以下の提出書類とともに、乙第1号証~乙第9号証を提出した。(以下、それぞれ「乙1」~「乙9」という。) (1) 答弁書と共に提出された証拠 乙1:無効2018-800081号の平成31年3月5日付けの審決 (2) 令和3年6月21日付け上申書と共に提出された証拠 乙2:沖電線株式会社のワイヤカット放電加工機用電極のウェブサイトページ 乙3:菱光商事株式会社の放電加工機お役立ちナビのウェブサイトページ 乙4:株式会社チバ・テクノのワイヤー電極のウェブサイトページ 乙5:株式会社磯谷の事業内容のウェブサイトページ 乙6:株式会社ソディックのワイヤ放電加工用ワイヤ電極線カタログ(ウェブサイトページ) 乙7:株式会社ナムテクノのワイヤーカット放電加工のウェブサイトページ 乙8:株式会社キンコーの超硬加工.COMのウェブサイトページ 乙9:特開2003-245711号公報 第7 無効理由1(訂正要件)に対する当審の判断 1 本件明細書等の記載事項 請求人が訂正要件違反(新規事項の追加)であるとする発明特定事項D(「前記開口部の断面形状は前記材料線材の引抜方向に沿って同じであること」)に関し、本件明細書等には、以下の記載がある。 (1) 引抜加工用ダイスに関する記載 【0051】~【0052】、図4及び8には、従来の引抜加工用ダイス901、及び本件発明に係る引抜加工用ダイス101に関する内容が、記載されている。 (2) ベアリング部に関する記載 従来の引抜加工用ダイス901については、【0005】~【0010】に記載があり、図2及び図5には、背景技術又は従来技術のベアリング部が図示されているところ、ベアリング部は最も狭く、成形後の完成線材の形状寸法を決めるものであって、アプローチ部とバックリリーフ部に挟まれた位置にあることが記載されている。 また、図9には、本件発明に係るベアリング部が図示されている。 さらに、【0060】~【0061】には、本件発明に係るベアリング部の前後のアプローチ部とバックリリーフ部の形状について記載されている。 (3) 本件特許の引抜加工装置で製造する棒材 【0065】~【0071】には、ダイスを回転させなければ図11のツイストされていない棒材が製造され、ダイスを回転させれば図12のツイストバーが製造されることが、記載されている。 2 訂正要件の検討 発明特定事項Dに関し、図9には、材料線材を引き入れ、外径を絞るための入り口となる部分であるアプローチ部が引抜方向に沿って徐々に縮径しており、完成線材の表面を傷つけないために完成線材から離れるようにテーパをつけたバックリリーフ部は、引抜方向に沿って拡径していることが看取される一方、その間に位置するベアリング部は、アプローチ部及びバックリリーフ部とは異なり、線材の引抜方向に沿って内縁が平行に延びていることが看取され、ベアリング部の断面の内径が一様となっていることが理解できる。 また、【0065】の記載によると、このダイスによって図11に図示された棒材が形成されることから、このダイスを用いて引き抜いた棒材にはねじれ等が付与されず、全体に一様の形状となっていることを併せてみれば、ベアリング部の断面は、引抜方向に沿ってねじれがなく、その内面の形状も一様となっていると考えるのが自然である。 したがって、発明特定事項Dの「前記開口部の断面形状は前記材料線材の引抜方向に沿って同じであること」は、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載から自明な事項であると認められ、発明特定事項Dは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であるから、本件特許異議申立てに係る訂正は、法120条の5第9項で準用する法126条5項の規定に適合する。 3 請求人の主張 (1) 請求書における主張 ア 請求人は、発明特定事項Dが、本件特許の明細書や図面に明示的に記載されていないことを前提として、請求書61~62ページで、概ね以下のように主張している。 ベアリング部は、確かにその前段のアプローチ部や後段のバックリリーフ部に比較して最も狭い部分であり、成形後の完成線材の形状寸法を決める箇所であるものの、甲6に示すように、ベアリング部の断面形状は長さ線材の引抜方向に沿って必ずしも同じとは限らないものである。 また、甲29に示すように、ベアリング部の長さは、断線等の不具合を予防するためには重要な技術的要素であり、本件発明において、ベアリング部が長過ぎては不具合を生じる可能性があるから、少なくともベアリング部の長さが規定されるべきである。 イ 請求人の上記主張を検討すると、発明特定事項Dは、上記2のとおり、本件特許異議申立てに係る訂正前の明細書及び図面の記載に基づいて導かれるものであるから、甲6の記載を根拠として発明特定事項Dが自明でない旨の請求人の主張は採用できない。 また、本件発明においては、ベアリング部の長さは規定されていないが、本件特許異議申立てに係る訂正前から当該長さは規定されなかったものであるし、そのような特定がないこと自体が新規事項の追加に該当しないことは明らかであるから、ベアリング部の長さを規定すべきである旨の請求人の主張は採用できない。 (2) 令和3年5月7日付け上申書における主張 ア 請求人は、被請求人が、ベアリング部の開口部の断面形状が線材の引抜方向に沿って同じであるとした根拠について、以下の(ア)、(イ)のみであると指摘している(上申書23~24ページ)。 (ア) ベアリング部が完成線材を最終的な寸法とする部分であることから、断面形状が線材の引抜方向に沿う長さにわたって大きさの変わらない一様な形状であることが自明ということ。 (イ) 図9の記載 イ そして、甲6を根拠として、「ベアリング部の断面形状は線材の引抜方向に沿って同じであることは自明ではない。また、成形後の完成線材A-2を最終的な寸法とするにはベアリング部に長さがなくとも可能である」ことから、根拠(ア)は成立しないこと、及び図面だけで断面形状が同じであるか内径が徐々に小径になっているのかを判断するのは極めて困難であることから、本件特許の図9を根拠として、ベアリング部101bの開口部の断面形状が線材の引抜方向に沿って同じであるといえないから根拠(イ)も成立しない旨、主張している。 ウ 請求人の上記主張を検討すると、発明特定事項Dは、上記2のとおり、本件特許の明細書及び図面の記載に基づいて導かれるものであり、とりわけ、図9には、ベアリング部の内縁である上下の間隔が平行で直線状に図示されており、ベアリング部の断面の内径が一様となっているといえるから、請求人の上記イの主張は採用できない。 4 小括 以上のとおり、本件特許異議申立てに係る訂正は、法120条の5第9項で準用する法126条5項の規定に適合するから、無効理由1により本件発明1~12に係る特許を無効とすることはできない。 第8 無効理由2-1(サポート要件)に対する当審の判断 1 サポート要件の検討 請求人は、本件発明の発明特定事項について、ベアリング部の略多角形の開口部の断面形状が材料線材の引抜方向に沿って同じである旨の発明特定事項Dは、発明の詳細な説明に記載されたものではないし、その示唆もされていないと主張している。 しかしながら、上記第7における無効理由1で検討したとおり、発明特定事項Dは、本件特許の明細書及び図面から理解できる事項であり、発明の詳細な説明に記載されているに等しい事項である。 そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、法36条6項1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 2 小括 したがって、本件発明1~12に係る特許を、無効理由2-1により無効とすることはできない。 第9 無効理由2-2(明確性要件)に対する当審の判断 「前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有し」(発明特定事項C)と、「前記開口部の断面形状が前記材料線材の引抜方向に沿って同じである」(発明特定事項D)との関係の不整合による本件発明の明確性要件違反の無効理由について検討する。 1 請求人の請求書における主張 (1) 主張の内容 請求人は、請求書64~66ページにおいて、発明特定事項Cと発明特定事項Dとの関係の不整合による本件発明の明確性要件違反に関し、本件発明の課題として本件特許の明細書【0015】を挙げ、ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有するという発明特定事項Cが当該課題を解決するために必要な構成要素であることが理解できるとする一方で、開口部の断面形状は引抜方向に沿って同じであるという発明特定事項Dはベアリング部にある程度の長さがあることが前提となっているところ、ベアリング部の長さが長いほど大きな摩擦力が発生することが考えられるから、「潤滑剤による油膜に粉状の潤滑剤が付着することで生じる潤滑剤の塊の肥大化によって、材料線材の表面への潤滑剤の供給が阻害され、完成線材の表面に傷が発生することを防止しようとする」という本件発明においては、発明特定事項Dによる作用・効果は、発明特定事項Cによる作用・効果とは相反するものであり、両発明特定事項は整合しないから、発明が不明確である旨主張している。 (2) 上記主張に対する検討 発明特定事項Cは、ベアリング部の開口部の断面形状を特定するものであり、発明特定事項Dは、その断面形状が材料線材の引抜方向に沿って同じであることを特定するものであるから、具体的な断面形状は置くとして(なお、発明特定事項Cの「略多角形」については、以下の第10において後述する。)、特段、発明特定事項CとDが矛盾することにはならない。 請求人は、発明特定事項Cによる作用・効果と、発明特定事項Dによる作用・効果が相反することを根拠に、発明が不明確であるなどと主張しているが、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであって、個別の発明特定事項の作用・効果が矛盾することと、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かは関係がないから、請求人の主張は採用できない。 2 令和3年5月7日付け上申書における請求人の主張 (1) 主張の内容 請求人は、令和3年5月7日付け上申書の27~29ページにおいて、本件発明が、最終的に完成線材の表面への傷の発生を防止するものであるなら、摩擦力や摩擦熱の発生に影響するベアリング部の長さについては当然に「ある程度の長さ」ではなく、定量的に表現されなければその技術的意義が不明確となること、及び「ある程度の長さ」ではなく「どの程度の長さ」であれば発明特定事項Cによる作用効果が発明特定事項Dによる負の作用効果を上回って有利な作用効果となるのかを明示しなければ、発明特定事項Dの技術的意義が不明確となることを主張するとともに、被請求人の発明特定事項Dに関する「ベアリング部の長さは、本件発明の課題を解決するために必要な構成ではない」との主張を否定している。 (2) 上記主張に対する検討 発明特定事項Cの「略多角形」については第10にて検討するのでさておくとして、1(2)で述べたとおり、個別の発明特定事項の作用・効果が矛盾することと、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かは関係がないから、請求人の主張は採用できない。 3 小括 1~2から、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明特定事項CとDとの不整合によって明確でないとはいえず、法36条6項2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 したがって、本件発明1~12に係る特許を、無効理由2-2によって無効とすることはできない。 第10 無効理由2-3(明確性要件)に対する当審の判断 1 「前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有し」(発明特定事項C)における「略多角形」が不明確であることによる本件発明の明確性要件違反の無効理由について検討する。 「略多角形」の明確性要件についての当審の審理は、第2の4の一次判決に拘束され、その拘束の範囲は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に及ぶと解される。 そして、一次判決では、本件発明の「略多角形」とは、本件発明の効果(開口部の角部に潤滑剤がたまりにくくなること)を得るため、その角部を丸める積極的な処理をしていない開口部につき、その角部の全部又は一部を丸める積極的な処理をした図形をいうものと一応解することができるものの、客観的な形状からは、本件発明の「略多角形」と「基礎となる多角形断面」とを区別することができず、また、「基礎となる多角形断面」の角部にどの程度の大きさの丸みを帯びさせたものが本件発明の「略多角形」に該当するのかも明らかでなく、本件発明の技術的範囲は明らかでないというほかないから、本件発明の「略多角形」は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であると評価せざるを得ず、その他、本件発明の「略多角形」が明確であると評価すべき事情を認めるに足りる証拠はないと判断している(一次判決59ページ)。 したがって、本件発明1、7~8並びにこれらに従属する本件発明2~6及び本件発明9~12は、法36条6項2号の規定によって特許を受けることができないものであり、それらに係る特許は法123条1項4号に該当し、無効にすべきものである。 2 小括 以上のとおりであるから、本件発明1~12に係る特許は、無効理由2-3によって無効にすべきものである。 第11 無効理由3(新規性)に対する当審の判断 1 公知・公然実施発明に関連する各証拠 (1) 甲1 甲1は、2019年4月23日付けで株式会社テイビョウの代表取締役社長網野芳生氏の名義で作成された「ツイストバーについて」と題された書面であり、概ね以下の事項が記載されている。 株式会社テイビョウでは、本件優先日よりも前から、開口部の断面形状が線材の引抜方向に沿って同じであり、かつ、開口部の正面形状が円弧状の角部を有する略四角形をなすように形成されたベアリング部を有する円筒状のダイスと、このダイスを保持して回転させるダイスボックスと、ダイスに引き込まれる前の線材に対して潤滑剤を塗布できるように設置された潤滑剤収納用ボックス(内部に潤滑剤が収納されたボックス)を備えた引抜加工機を、従業員は守秘義務なく使用して、略四角形断面の角部が引抜方向の最初から最後まで丸められたツイストバーを製造していること。 上記ダイスとして、例えば、ベアリング部の開口部の正面形状が、6mm×6mmの正方形の角部にR0.2(曲率半径が0.2mm)又はR0.827(曲率半径が0.827mm)の円弧が形成されて略正方形をなすもの、あるいは、8mm×8mmの正方形の角部にR0.2(曲率半径が0.2mm)又はR0.4(曲率半径が0.4mm)の円弧が形成されて略正方形をなすものを本件優先日よりも前から使用していること。 (2) 甲34 甲34は、株式会社テイビョウが、黒塗りがされて社名が不明のダイスメーカから本件優先日よりも後である平成31年4月12日16:00頃にFAXで受信した「ダイス仕様書」の写しであり、甲34には、隅部を丸めた四角形の図形とその横幅及びRの寸法、「対角指定品」の文字、及び「計4―○1~○4」(丸囲みの1~4)の通番が記載されている。 (3) 甲35 甲35は、平成20年5月1日から令和3年5月31日までを出力期間とする、黒塗りがされて社名が不明のダイスメーカの売掛台帳の写しである。 売掛台帳には、上部中央に「0161:(株)テイビョウ」と記載され、その下の一覧表において何らかの情報が記載されている欄としては、左から、「伝票日付 伝票番号」、「伝票種 種」、「商品コード 品名・種類」、「サイズ 数量」、「単位」、「金額」、「備考」がある。そのうち、「伝票日付 伝票番号」が「H22/4/21 00013654」の行には、「売上」、「041107 四角新品コート」、「8.0 1」、「ケ」、「40,200」、「KD1316」と記載され、その下の行には、「売上」、「041107 四角新品コート」、「8.0 R0.4 1」、「ケ」、「40,200」、「KD1317」と記載されている。 これらの記載から、社名が不明のダイスメーカは、株式会社テイビョウに対して、平成22年4月21日に、サイズが8.0の四角新品コート(KD1316)1個を40200円で販売し、同日に、サイズが8.0 R0.4の四角新品コート(KD1317)1個を40200円で販売したことを理解できる。 (4) 甲36 甲36は、相楽工業株式会社の代表取締役社長山本尚克氏が作成した陳述書であり、 ア 注文は、取引先から形状等の要望を聞き、相楽工業株式会社が過去の事例等を参考にして詳細を決めて仕様書を作成すること(甲36 1ページ)、 イ 甲35は、相楽工業株式会社の経理ソフトのデータから出力したものであること(同2ページ)、 ウ 甲35には、相楽工業株式会社が株式会社テイビョウに対して平成22年4月21日に販売したダイス(KD1317)は、ベアリング部の開口の形状が、1辺8mmで、四隅の角が曲率半径0.4mmの円弧のものであることが記載されていること(同2~3ページ)、 エ 平成22年4月21日に販売したダイス(KD1317)の仕様書は、別紙1のとおりであり、ダイスが回転ダイスであり、ベアリング部の開口の形状の仕様が、1辺8mmで、四隅の角が曲率半径0.4mmの円弧と定められていること(同3ページ)、 オ 別紙1の下側左欄の「ST=3P」という表記は、ストレートに3回加工を行うことを意味し、2010年(平成22年)4月9日にその加工が行われ、ダイスのベアリング部の断面形状が平行(ストレート)となったこと(同4ページ)、 カ 別紙1の下側左欄の「1st-TP:A=18°」という表記が、ダイスの入り口側の最初のアプローチ角を18°として加工することを意味し、「2nd-TP:A=9°」という表記が、ダイスの入り口側の2番目のアプローチ角を9°として加工することを意味し、下側左から2つめの欄の「BR=1.0(60°)」という表記が、ダイスの出口側のバックリリーフ角を60°に加工することを意味し、それぞれ、平成22年4月9日~12日の間に加工されたこと(同4ページ)、などが陳述されている。 (5) 甲38 甲38は、株式会社テイビョウの代表取締役社長網野芳生氏が作成した陳述書であり、 ア 株式会社テイビョウにおいて、昭和58年にはすでに同社で引抜加工機が使用されていたこと(甲38 1ページ)、 イ 回転ドラムやモーターなどは交換できること(同1ページ)、 ウ 当該引抜加工機は、「ダイス」「ボックス」「ダイスホルダー」「ダイスを回転させるチェーン」を備えるものであり、材料線材は、上流側から、ボックス内のダイスホルダーに固定されたダイスに引き込まれ、ダイスの開口部を通過時に加工されることで完成線材として引き抜かれて回転ドラムに巻き取られること(同2~3ページ)、 エ 当該引抜加工機で使用するダイスの形状は略円筒形状であること(同3ページ)、 オ チェーンが動くことでダイスがその中心軸を中心として回転すること(同4ページ)、 カ 引抜加工機のボックスに引き込まれる材料線材は潤滑剤の役割を果たす石灰が塗布されること(同5ページ)、 キ ダイスの手前には潤滑剤おとしがあり、材料線材は、余分な石灰を落とした上で、ダイスの中に引き抜かれること(同5~6ページ)、 ク 完成線材の表面には石灰が存在しないこと(同6ページ)、などが陳述されている。 (6) 公知・公然実施発明 請求書、弁駁書及び回答書における請求人の主張に鑑みれば、請求人が提出した証拠に基づいて、本件優先日前に、下記の発明(以下「公知・公然実施発明」という。)が公知であった又は公然実施されていたと推認できる。 (便宜上、請求人の主張(弁駁書37~38ページ)に従って、本件発明1の発明特定事項A~Dに対応する、A’~D’の記号を付した。) 「A’ 略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダーを含み、 B’ 潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線材が引き込まれる引抜加工機であって、 C’ 前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は1辺が8mmの四角形の四隅の角が曲率半径0.4mmの円弧となっている断面形状を有し、 D’ 前記開口部の断面形状は前記材料線材の引抜方向に沿って同じである 引抜加工機。」 なお、甲1には、ダイスとして、例えば、ベアリング部の開口部の正面形状が、6mm×6mmの正方形の角部にR0.827(曲率半径が0.827mm)の円弧が形成されて略正方形をなすものを本件優先日よりも前から使用していた旨、及び潤滑剤収納用ボックスを同様に使用していた旨が記載されているが、そのことを証明する客観的な証拠が提出されていない。 ダイスについては、例えば、甲34は、本件優先日よりも後に送受信されたものであり、図面の作成者や作成日付が不明である上に、請求人も、公知・公然実施発明の発明特定事項C’について、上記公知・公然実施発明と同様に1辺が8mmの四角形の四隅の角の曲率半径が0.4mmのもの(すなわち、相楽工業株式会社が販売したダイス(KD1317))のみを認定していること(弁駁書35ページ、甲36の別紙1)から、ベアリング部の開口部の正面形状が、6mm×6mmの正方形の角部にR0.827(曲率半径が0.827mm)の円弧が形成されて略正方形をなすダイスを、株式会社テイビョウが本件優先日よりも前から使用していたとは、認定できない。 2 対比 本件発明1と公知・公然実施発明とを対比する。 公知・公然実施発明のA’と本件発明1の発明特定事項Aは、A’の「を含み」とAの「と」で一応異なるものの、実質的に一致する。 同B’と発明特定事項Bとは、「潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線材が引き込まれる引抜加工機であって、」という概念で共通する。 同C’と発明特定事項Cとは、C’の「1辺が8mmの四角形の四隅の角が曲率半径0.4mmの円弧となっている断面形状」が発明特定事項Cの「略多角形の断面形状」に相当するから、C’と発明特定事項Cとは一致する。 同D’と発明特定事項Dとは一致する。 そうすると、公知・公然実施発明と本件発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。 ア 一致点 「略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダーを含み、 潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線材が引き込まれる引抜加工機であって、 前記引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部は略多角形の断面形状を有し、 前記開口部の断面形状は前記材料線材の引抜方向に沿って同じである 引抜加工機。」 イ 相違点1-1 潤滑剤が、本件発明1では「ボックス」の「内部に収納された」ものであるのに対し、公知・公然実施発明ではそのように構成されているか不明である点。 3 新規性の判断 相違点1が形式的なものではなく実質的な相違であることから、本件発明1は公知・公然実施発明であるとはいえない。 また、本件発明2は、本件発明1をさらに限定するものに過ぎず、相違点1-1を含むものである。 そうすると、本件発明1~2は、公知・公然実施発明ではないから、法29条1項1号及び2号のいずれの規定にも該当するものではない。 4 小括 したがって、本件発明1~2に係る特許を、無効理由3によって無効とすることはできない。 第12 無効理由4-1(進歩性)に対する当審の判断 1 公知・公然実施発明 第11の1(6)のとおり。 2 甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。) (1) 甲2の記載事項(下線は当審で付与) ア 「本発明は冷延せる(以下単に「延」と称する)線、円棒、角棒その他類似の長い延金属製品殊に鋼製品の新規有用なる改良に関する、「線」と称するは以下文意から明かな場合は延金属製品全体を綜合的に指称する。本発明は又この線殊に鋼線から製造した物品例えば釘、スパイクその他類似品、コンクリート補強材、鉄条網、滑止格子等に関する。」(1ページ左欄下から8行~最終行) イ 「又円形以外の断面形状を有する直線通路を具備した型内に線を通じてこの型を積極的に廻転せしめて型及延ブロック間に於て線を捩(当審注:原文では「捩」の「戻」を「丑」に置き換えた文字として表記されている。以下、同じ。)ると云う方法がある。又丁度出口に於て少しばかり非円形となした円形通路を有する積極廻転型内に線を通じて線を捩ることなく線に螺状を印すると云う方法もある。併し之等の提案亦何れも実用にはならなかつた様である。従つて現状の技術状態は50年又は以上の旧態と異ならない。 本発明に於ては一般に断面形状非円形なる通路を少く共加工部分のほぼ全長に亙つて、而もこの部分の全体を通じ、その長手軸に沿つて螺状に捩つて設けて成る廻転型を用い、この型を通じて線を延し、以て単一操作を以て線を極めて容易、且満足に延、成形且螺状に形成せんとするものである。」(2ページ左欄26~42行) ウ 「本発明の延は線の断面を実質上減少し、且変化せんとするものである。本発明に於ては単一操作によつて線を一挙に延し且之に非円形にして線の長手に沿いその各点に於て向きの異なつた断面形状を附与せんとするものである。茲に断面形状の向きとは線の長手軸に直角な面内にある。以下の説明で断面形状の向きと云うのはかかる面内にある向きを称する。加之線の長手に沿う各点に於ける断面形状又は面積又は両者を異ならしめてもよいことは明かである。」(2ページ右欄9~18行) エ 「本発明による装置は規定線の延に用いるものと類似である。異なる所は延型及その取付けである。本発明による型は非円形断面の規定線の延に用いる型と同様通路を有しこの通路の断面積はその加工のほぼ全長(延の場合線と接触すベき通路の長さ)に亙つて漸次に減少するのであるが本発明による型に於てはこの通路の全長が非円形断面にしてその縦軸の周囲に螺状に捩れているのである。又普通非円形断面の規定線の延に用いる型は延装置内に固定されているが、本発明による型はその縦軸の周囲に廻転し得るも、この縦軸に沿つては運動することができない様になつている。」(3ページ左欄6~18行) オ 「第1図は本発明を実施する装置の一例にして装置の基底1は後部に近く横壁2を有しこの壁は中心に套管3を形成しこの套管の後端4は内向きのフランチ(当審注;「フランヂ」の誤記と認める。)を有する。型支持材5は套管3内に後部6を有しこれはフランヂと嵌合し、且套管3及部分6の間に支持した球軸承7によつて基底上に自由に廻転する。基底前部には規定の石鹸箱8があり線はこの中を通じて潤滑を受けた後型内に入る。型9は支持材5の前部10内に固定されている。支持材は箱8の後壁の開口を通じて該箱内に延長する。茲に型はその支持材と良く中心を合はせて之に固定し延線の均一を期するを肝要とする。環12は石鹸箱内に於て型支持材の前部10の前端に固定され支持材自体は壁2及11間に於て放射方向のフランヂ13を有する。之等のフランヂの目的は軸承7に石鹸箱の石鹸が来るのを防止するにある。」(3ページ左欄下から2行~右欄15行) カ 「第2-第5図は本発明による型を示す。その通路は断面一般に方形を呈する。図示の場合この通路は加工の全長を通じて施され且この全長に亙つて漸減する。(当審注:句点は誤記と認める。)断面積を有する。この型に供給した線は第3図及第4図の場合20で示してある。第3図の場合加工の長さは最初に通じた線と通路との接触点20及通路の断面積が最小なる点22間の距離である。この際点22に於ける断面積が延線の断面を決定するのでこれを通路の有効断面と称する。前面23及点22間に於て通路の断面積は第3図の点線24の如く漸減する。通路は点22の後方では外方に拡大して凹み25を形成する。 第2-第5図に示した型と方形断面を有する規定線の延型との相違は図示の通路が直線である代りにその縦軸の周囲に捩れていることである。この状態は第2図から最も明かに知ることができる。即ち多数の方形は前面23から点22に到る迄の通路の種々な断面に於ける面積及その向きを指示する。即ち前面の断面は方形26に相当し点22に於けるそれは方形33に相当する。型内を覗いた場合眼に見えるのは之等二つの方形のみであり残余の細線で示した方形27-32はその面積及方向の漸進的変化を示す。方形27の向きは方形26とは15度の差異(時計針方向に)を有しその他の各方形の向きもその前のものとは同様な差異を有し結局方形33は方形26とは105度角の差異を有する。方形28及33は夫々通路の加工部の始め及終りを代表するものであるが両者の向きの差は75度角である。かくて通路は75度角に亙つて螺状に捩れていることが分る。勿論これは例示に過ぎない。通路の始め及中途よりも稍遠い部分の断面形状は型の前面から見た場合第4及第5図の如き位置を採る。第2-第5図に示した通路は方形基底を有する截頭捩れ段状ピラミドの形状を呈する。このピラミドの隅部を辿る線は第2図の如き螺状通路を為す。これは例えば方形26の隅部35と方形33の隅部36並に之等両者の中間にある方形の隅部を線34によつて連結することから知り得る。この線34の一部は第3図にも現はれている。」(3ページ右欄下から4行~4ページ左欄35行) キ 「上記した二つの型は通路の断面が一般に多角形である場合の例を示す。この形状は勿論方形或は矩形と限らない。余り有利でないが三角形又は四辺形となすことも出来る。多角形の場合隅部は図示の如く鋭角となすことを要しない。寧ろ多くは円味を附するを可とする。」(4ページ右欄11~16行) ク 「本発明の実施に当つて、型は普通延線すべき線の運動のみを利用して自由に廻転せしめる。然し通路の最大螺状角(即ち例えば方形通路の隅部の螺状曲線に対する切線がこの通路の縦軸となす最大鋭角度)が大なる程この通路を通過する線に加わる引張内力は大となること明かであるが、本発明に依る鋼線は、最大螺状角が30度を少し越える場合でも満足に引くことができた。かくて型の廻転を助けることなくして用い得べき最大螺状角は、主として延線の程度、線の硬度及延線速度の如何によつて定まる。若し条件の如何を問わず線に加わる内力が過大となる場合は適当な駆動装置によつて、型の廻転を助けるを有利とする。通路の螺状角は型の通路の最も広い部分に於て最大となる。而してリードは勿論、通路の全長を通じて同一であるから、この螺状角は通路が狭くなるに従つてその有効断面に向つて漸減する。(5ページ左欄10~26行) ケ 「本発明に於て単純形状の線を生ぜしむる場合は引くべき線の断面形状は一般に円形とする。若し引くべき線の半径が型通路の有効断面の最大放射寸法よりも大なる場合は、延線の断面形状は一般に該通路の有効断面と同一となる。第13図はかくの如き鋼の延線を示す。この場合の型通路の断面は方形とした。図示の如く線の断面形状は全長を通じて方形であるが、その向きは線の長手に沿つて螺状に変化している。線の表面の薄い点線は粒子の流線を略示する。これは規定線に於けると同様縦軸と同一方向に走るが線の山に於ては昇り谷に於ては降るのでその流線は蛇形である。然し中断されることなく全体及線の縦軸を含む面内に存在する。 時には断面形状多角にしてその隅部に円味を持つたものを希望する場合がある。この目的には型通路の最大放射寸法よりも小さい半径を有する円線を本発明による型に通ずればよい。第14図は方形断面を有する型に通ずることによつて得られた、その様な製品である。第15図はこの線の拡大断面図であり、この図の如く方形は隅に円味を有する。 本発明の場合にも与えられた断面形状を得る迄には時に延を2回又は以上行う必要がある。若し線が単純形状であれば、第2及次の型の通路の螺状のリードは少く共実質上之に供給すべき螺状線のリードと同一となさねばならない。」(5ページ右欄5~31行) コ 図面 「 [図:0001436416000001.jpg] [図:0001436416000002.jpg] [図:0001436416000003.jpg] [図:0001436416000004.jpg] [図:0001436416000005.jpg] 」 サ オ~カ及び第1~3図から、型9は略円筒形形状をしていること、及び、通路の断面積が最小になる点22を備えることが読み取れる。 シ エ~オ及び第1図から、型9は、玉軸承7によって自由に回転する支持材5に固定され、その中心軸となる縦軸の周囲に回転することについて記載されていることが認められる。 ス オから、線は、基底前部1にある石鹸箱8の中を通じて潤滑を受けた後、型内に入るものであるから、石鹸箱8の内部に収容された石鹸が線に塗布された後、型9に線が引き込まれることについて記載されていることが認められる。 セ キから、型9の通路の断面が隅に円味を附する多角形であることについて記載されていることが認められる。 ソ カの「図示の場合この通路は加工の全長を通じて施され且この全長に亙つて漸減する。」及び「型内を覗いた場合眼に見えるのは之等二つの方形のみであり残余の細線で示した方形27-32はその面積及方向の漸進的変化を示す。」の記載から、型9の通路の断面形状が線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっていることについて記載されていることが認められる。 タ カ及び第3図の記載から、型9の通路は型9の前方及び後方において、外方に向けて拡径されていることについて記載されていることが認められる。 (2) 甲2発明1~2 (1)を踏まえ技術常識を勘案すると、甲2には、以下の甲2発明1~2が記載されていると認められる。 ア 甲2発明1 「略円筒形形状をもつ型9を保持し前記型9の前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記型9を廻転し得る支持材5と、 内部に収納された石鹸が線に塗布された後前記型9に前記線が引き込まれる石鹸箱8と、を含む冷間引抜方法を実施する装置であって、 前記型9の通路の断面が隅に円味を附する多角形であり、前記通路の断面形状は線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっており、前記型9の通路が型9の外方に向けて拡径されている冷間引抜方法を実施する装置。」 イ 甲2発明2 「隅に円味を附する多角形の通路断面形状を持ち略円筒形形状をした型9と、 前記型9を保持する支持材5と、 前記型9に引き込まれる線に石鹸を塗布する石鹸箱8と、を含む冷間引抜方法を実施する装置であって、 前記型9の通路の断面形状が線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっており、 前記支持材5は前記型9の前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記型9を廻転させ得るものであり、 前記型9の通路が型9の外方に向けて拡径されている冷間引抜方法を実施する装置。」 3 甲5に記載された技術的事項(以下「甲5事項」という。) (1) 明細書(下線は当審で付与) 「【0008】 本発明のダイヤモンドダイスは、超極細の四角線の伸線加工用であり、四角形の相対する面の距離、すなわち四角形の一辺の距離が0.1mm未満のものを対象としている。このような四角形の穴を有するダイスでは、丸穴のダイスに比べて線材との接触面積が大きくなる上、潤滑不良になりやすい。そのためダイヤモンドが摩耗して穴の形状が変形しやすくなるばかりでなく、摩擦力の増加により線材が断線する問題が発生する。特に本発明のように超極細線を伸線加工する場合、僅かな摩擦力の増加によっても断線する問題が発生するが、穴のベルからベアリングにかけての面をダイヤモンドの厚み方向において滑らかな曲面で形成することで、線材接触面積が小さくなり、潤滑不良を起こしにくくなる。よって、ダイヤモンドの摩耗と線材の断線を防止できる。 ・・・ 【0014】 ・・・。図2は、ダイス本体1の正面図である。ダイス本体1は、超硬合金製サポートリング4と焼結ダイヤモンド5からなる。そして中心部は、伸線されるべき線材が接触しながら通る穴内面6と貫通穴7から構成される。穴内面6はさらに細分化されていて、図3にその詳細を示す。図3は、図2のA-A断面図である。6a、6b、6c、6d、6e、6fと順にベル、アプローチ、リダクション、ベアリング、バックリリーフ、エクジットに分かれており、正面から見た形状が四角形となっている。 ・・・ 【0017】 ベアリングの長さは、ベアリングの正面形状が四角形でその四角形の相対する面の距離をDとした場合に、0.05D~0.3Dとすることが重要である。・・・。」 (2) 図面 【図2】 [図:0001436416000006.jpg] 【図3】 [図:0001436416000007.jpg] (3) 甲5事項 (1)~(2)によれば、線材接触面積を減らすべくアプローチ6bがダイスの入口側に向かって拡径し、また、バックリリーフ6eがダイスの出口側に向かって拡径していることから、これらの区間においてダイスの穴内面6と線材の間に空間ができているものと認められる。 したがって、甲5には、以下の甲5事項が記載されている。 「ダイスと線材の間の空間が、ダイスのアプローチ6b又はバックリリーフ6eにできること。」 4 甲7に記載された技術的事項(以下「甲7事項」という。) (1) 明細書(下線は当審で付与) 「【0001】 本発明は伸線ダイスに関する。さらに詳しくは、本発明は、鋼線等の金属製素線をその孔部を通過させることにより、この金属製素線を縮径して伸線するための伸線ダイスに関する。 ・・・ 【0022】 図2に示されるように、上記ダイス孔2には、金属素線Mの入り口側から出口側に向けて順に、エントランス部3、アプローチ部4、リダクション部5、ベアリング部6、バックリリーフ部7及びイグジット部8が形成されている。エントランス部3、アプローチ部4及びリダクション部5は、それぞれ出口側に向かって縮径されている。ベアリング部6は均一内径にされている。バックリリーフ部7及びイグジット部8は、それぞれ出口側に向かって拡径されている。」 (2) 図面 【図2】 [図:0001436416000008.jpg] (3) 甲7事項 (1)~(2)によれば、アプローチ部4がダイスの出口側に向かって縮径(つまり、入り口側に向かって拡径)し、また、バックリリーフ部7がダイスの出口側に向かって拡径していることから、これらの区間においてダイス孔2の内面と金属素線Mの間に空間ができているものと認められる。 したがって、甲7には、以下の甲7事項が記載されている。 「ダイスと金属素線Mの間の空間が、ダイスのアプローチ部4又はバックリリーフ部7にできること。」 5 甲8に記載された技術的事項(以下「甲8事項」という。) (1) 明細書(下線は当審で付与) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、円形断面をもたない異形棒あるいは異形管を引抜加工するための引抜加工方法および引抜加工用金型に関するものである。 ・・・ 【0008】 【実施例】以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて詳細に説明する。図1はダイスの縦断面図、図2は同ダイスの横断面図である。本実施例は断面形状が四角形の異形棒の引抜加工に適用した場合を示す。1は引抜加工用金型としてのダイス、2は押出素材、3はダイス1によって引き抜かれた製品である。 【0009】前記ダイス1は、円筒状に形成されたダイスケース1Aと、ダイスケース1A内に焼きばめた超鋼合金、セラミックス等からなるダイス本体1Bとで構成されているが、ダイス本体1Bとしては焼きばめに限らず、ダイスケース1Aと一体化させてダイス鋼、超鋼合金等で製作されるものであってもよい。ダイス1の中央にはダイス孔5が形成されており、またこのダイス孔5の内周面はアプローチ部6、ベアリング部7およびレリーフ部8を形成している。前記アプローチ部6は、押出素材2の挿入側に傾斜する(広がる)テーパ面とされ、その傾斜角、すなわちダイス半角α(αA,αB)は最大5°以下に設定されている。この場合、アプローチ部6の上下面のダイス半角αAと、側面のダイス半角αBとは異なり、例えばαA=4°、αB=2.67°にそれぞれ設定されている。前記ベアリング部7は、製品3の外形寸法および形状を規定するもので、例えば高さH=27mm、幅W=18mm、長さ(ベアリング長さ)L=2~10mmの範囲に設定されている。前記レリーフ部8は、製品3の引抜方向(矢印A方向)に適宜角度(β=10°程度)で傾斜する(広がる)テーパ面とされる。レリーフ角βは、レリーフ部8の上下面、側面共に同一角度とされる。・・・。」 (2) 図面 [図:0001436416000009.jpg] (3) 甲8事項 (1)~(2)によれば、アプローチ部6が、ダイス1の、押出素材2の挿入側に広がるテーパ面であり、また、レリーフ部8が、ダイス1の、製品3の引抜方向に適宜角度で広がるテーパ面であることから、これらの区間においてダイス1の内面と押出素材2又は製品3との間に空間ができているものと認められる。 したがって、甲8には、以下の甲8事項が記載されている。 「ダイス1と押出素材2又は製品3の間との空間が、ダイス1のアプローチ部6又はレリーフ部8にできること。」 6 甲22に記載された技術的事項(以下「甲22事項」という。) (1) 明細書(下線は当審で付与) ア 「軸長手方向に稜線がツイストされた金属棒又は線材は公知であり、建築用材料、土木材料等の各種産業分野の基礎材料として多用されている。 このツイストバーを製造する技術として横断面が円形の金属線材を冷間引抜きによる伸線機で製造することが周知であり、」(明細書1ページ下から3行目~2ページ3行) イ 「第1図は伸線機による製造技術の概要であり、(1)はサプライスタンド、(2)は伸線機であり、この伸線機(2)は巻取り駆動ドラム(3)と、引抜きダイス(4)とから主構成される。サプライスタンド(1)にコイル線材(5)を装填し、この線材(5)の一端をダイス(4)に通してドラム(3)に取付け、ドラム(3)を巻取り方向に駆動せしめることによってダイス(4)にて伸線加工されるものである。この際、ダイス(4)のダイス孔を円形以外の例えば四角形ダイス孔にすると共に、ダイス(4)を線材(5)の軸回りに回転させると、線材(5)はダイス(4)で加工されると同時にツイストされて順次ドラム(3)に巻取られることになる。」(明細書2ページ6~17行) ウ 「捻り付与機構(10)は材料(12)が円形断面であるときはダイス孔が角形とされた引抜きダイスからなる捻り付与部材(13)が用いられ」(明細書4ページ7~9行) エ 「第3図.(当審注:「.」は「、」の誤記)第4図で示すように捻り付与部材(13)は機枠(14)に軸受(15)にて回転自在として装設されたホルダ(16)に周方向に対して係合して着脱自在に装填されている。ホルダ(16)に原動機(17)の機動力をギヤ又は巻掛け伝達手段による伝動手段(18)にて伝動することにより、捻り付与部材(13)は材料(12)の軸長手方向の周りに回転される。」(明細書4ページ11~17行) オ 「材料送り機構(11)は台車(19)と、台車ガイドレール(20)とを備え、台車(19)には材料(12)の一部をつかむ手段(21)が具備されている。つかみ手段(21)として図では上下一対のチヤツク部材を示し、一方、図では上部のチヤツクが他方のチヤツクに対して遠近自在とされている。この材料送り機構(11)は捻り付与機構(10)と独立しており、図外の牽引手段(例えば正逆回転自在の繰出し装置)で牽引される。」(明細書4ページ下から3行目~5ページ5行) カ 「而して、材料送り機構(11)を第2図においては左方に移動させると共に原動機(17)を起動させると捻り付与部材(13)が帯材として示す材料(12)の軸回りに一定方向に回動しここに材料(12)がツイストされる。材料送り機構(11)の速度と付与部材(13)の速度を設定にしたまま運転を続行すれば材料(12)は第5図に示すように定ピッチでツイストされた製品(A)となるのである。」(明細書5ページ11~18行) キ 「この第1実施例の場合、材料(12)として極太の円形棒材を対象とするときは、捻り付与部材(13)のつかみ部(13a)を異形ダイスとすればよく、」(明細書6ページ2~5行) (2) 図面 [図:0001436416000010.jpg] [図:0001436416000011.jpg] [図:0001436416000012.jpg] [図:0001436416000013.jpg] (3) 甲22事項 (1)~(2)によると、甲22には、以下の甲22事項(特に(1)オ~キ及び第2図参照)が記載されているといえる。 「伸線機の材料送り機構(11)として台車(19)を用い、台車(19)が台車ガイドレール(20)に沿って移動することで、捩り付与部材(13)に引き込まれた材料(12)を引き抜くこと。」 7 本件発明1について (1) 対比 本件発明1と公知・公然実施発明との対比については第11の2のとおりであり、同アの一致点、同イの相違点1-1を有する。 (2) 判断 潤滑剤については何らかの手段で保持しておく必要があることが明らかであり、甲2発明1の「内部に収納された石鹸が線に塗布された後前記型9に前記線が引き込まれる石鹸箱8」を参考にすると、公知・公然実施発明において、潤滑剤を「ボックス」の「内部に収納された」ものとするように構成することは当業者が容易に想到できたものである。 したがって、本件発明1は公知・公然実施発明及び甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 8 本件発明2について (1) 対比 本件発明2と公知・公然実施発明とを対比すると、第11の2アの一致点、同イの相違点1-1のほか、次の点(以下「相違点1-2」という。)で相違する。 ダイスホルダーによるダイスの回転に関し、本件発明2では「加工開始時間からの経過時間に応じて」ダイスホルダーがダイスを回転させるものであるとの特定がされるのに対し、公知・公然実施発明ではかかる回転が不明な点。 (2) 判断 これまでに提出された甲号証及び乙号証を参照しても、ダイスホルダーによるダイスの回転を「加工開始時間からの経過時間に応じて」のものとすることが技術常識から自明の事項である、又は周知技術であるといえるに足る証拠がない。 また、公知・公然実施発明には、加工開始時間やその経過時間について着眼する技術的思想が見当たらない。 この相違点1-2について、請求人は「加工開始時間からの経過時間に応じて、ダイスホルダーがダイスを回転させる構造は、ダイスを保持して回転させるダイスホルダーそのものを意味しているものと解される」(請求書3ページ)、「ダイスを回転させるタイミングを適宜に設置することは、通常行う加工条件の設定に過ぎず、当業者による通常の創作能力の発揮に過ぎない」(請求書37ページ) として、実質的に見解を述べている。 しかし、これらの見解をみても、公知・公然実施発明において、どうして加工開始時間や経過時間に着眼できるのかについては判断の飛躍があるし、そもそも、公知・公然実施発明の引抜加工機において、どのような加工条件を設定できるのか、全く明らかとなっていない。 そうすると、本件発明2は、公知・公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 9 本件発明3~4について 本件発明3~4は、本件発明2を引用したうえでさらに構成を特定するものであって、8(2)と同様に判断できる。 そうすると、本件発明3~4は、公知・公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 10 本件発明5について 公知・公然実施発明のC’のうちの「1辺が8mmの四角形の四隅の角が曲率半径0.4mmの円弧となっている断面形状を有し」という事項は、本件発明5の「前記略多角形は基礎となる多角形の少なくとも1の角を円弧でつないだものに置き換えたものである」ことに相当するといえる。 そうすると、本件発明5(ただし、本件発明2を直接的又は間接的に引用するものを除く。)と公知・公然実施発明とは、相違点1-1で異なるのみであるから、7(2)と同様に判断できる。 したがって、本件発明5は公知・公然実施発明及び甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 11 本件発明6について 公知・公然実施発明のC’のうちの「1辺が8mmの四角形の四隅の角が曲率半径0.4mmの円弧となっている断面形状を有し」という事項は、「円弧」が「曲線」の一形態であることを踏まえると、本件発明6の「前記略多角形は、基礎となる多角形のすべての角を曲線でつないだものに置き換えたものである」ことに相当するといえる。 そうすると、本件発明6(ただし、本件発明2を直接的又は間接的に引用するものを除く。)と公知・公然実施発明とは、相違点1-1で異なるのみであるから、7(2)と同様に判断できる。 したがって、本件発明6は公知・公然実施発明及び甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 12 本件発明7について 本件発明7と公知・公然実施発明とを対比すると、相違点1-1のほかは、実質的にみて、本件発明7の「前記引抜加工用ダイスの回転によって溜まった潤滑剤の塊が前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間から脱落すること」が公知・公然実施発明においては不明である点(以下「相違点1-3」という。)で、一応相違する。 しかしながら、ダイスと線材の間には空間があり、溜まった潤滑剤の塊は回転に伴う遠心力又は重力によって当該空間から脱落するであろうし、空間に潤滑剤の塊が溜まることができるにしてもその量には限りがあり、許容量を超えた潤滑剤の塊は脱落するほかない。そして、公知・公然実施発明のダイスは回転するから、その回転によって、当然に、溜まった潤滑剤の塊が引抜加工用ダイスと線材の間の空間から脱落するというほかない。 そうすると、相違点1-3は機能・作用における表現上の相違に過ぎず、その機能・作用は、公知・公然実施発明においても奏されるから、実質的な相違点ではない。 また、相違点1-1については、7(2)と同様に判断できる。 したがって、本件発明7は公知・公然実施発明及び甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 13 本件発明8について 本件発明8と公知・公然実施発明とを対比すると、相違点1-1のほかは、実質的にみて、本件発明8の「前記引抜加工用ダイスの回転によって前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間に溜まる潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止すること」が公知・公然実施発明においては不明である点(以下「相違点1-4」という。)で、一応相違する。 しかしながら、ダイスと線材の間の空間に潤滑剤の塊が溜まることができるにしてもその量には限りがあり、当該空間に溜まる潤滑剤の塊が際限なく大きくなることはなく、公知・公然実施発明においても、潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止するといえる。 そうすると、相違点1-4は機能・作用における表現上の相違に過ぎず、その機能・作用は、公知・公然実施発明においても奏されるから、実質的な相違点ではない。 また、相違点1-1については、7(2)と同様に判断できる。 したがって、本件発明8は公知・公然実施発明及び甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 14 本件発明9~10について 公知・公然実施発明においても引抜加工用ダイスであればアプローチ部及びバックリリーフ部に相当するものがあることは技術的に明らかであり、引抜加工用ダイスと線材との空間がそれぞれにできているものと認められる。 また、甲36では、第11の1(4)のとおり、甲36の別紙1(ダイス(KD1317)の仕様書)の下側左欄の「1st-TP:A=18°」という表記が、ダイスの入り口側の最初のアプローチ角を18°として加工することを意味し、「2nd-TP:A=9°」という表記が、ダイスの入り口側の2番目のアプローチ角を9°として加工することを意味し、下側左から2つめの欄の「BR=1.0(60°)」という表記が、ダイスの出口側のバックリリーフ角を60°に加工することを意味し、それぞれ、平成22年4月9日~12日の間に加工された旨が陳述されている。 仮に、公知・公然実施発明において、そのようなアプローチ部及びバックリリーフ部が存在しなかったとしても、甲5事項、甲7事項及び甲8事項に示されるとおり、ダイスと線材の間の空間がアプローチ部又はバックリリーフ部にできることは本件優先日前に周知技術(以下「周知技術1-1」という。)である。 したがって、本件発明9~10は公知・公然実施発明及び甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、公知・公然実施発明及び甲2発明1並びに周知技術1-1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 15 本件発明11について 本件発明11と公知・公然実施発明とを対比すると、相違点1-1のほか、本件発明11の「更にドローイングマシンを含み、前記ドローイングマシンが前記引抜加工用ダイスに引き込まれた線材を引き抜くこと」が公知・公然実施発明においては不明である点(以下「相違点1-5」という。)で、相違する。 しかしながら、引抜加工機においては、線材を引抜加工用ダイスから引き抜く手段が必要なことは明らかであるところ、その際、例えば甲22事項に示されるようなドローイングマシン(甲22における台車(19))を用いるという周知技術(以下「周知技術1-2」という。)を採用して、相違点1-5に係る本件発明11の構成とすることは当業者が容易に想到できたものである。 また、相違点1-1については、7(2)と同様に判断できる。 したがって、本件発明11は公知・公然実施発明及び甲2発明1並びに周知技術1-2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 16 本件発明12について 請求書、弁駁書及び回答書における請求人の主張に鑑みれば、請求人が提出した証拠に基づいて、公知・公然実施発明に加え「更に回転ドラムを含む線引き器を含み、前記線引き器が前記引抜加工用ダイスに引き込まれた線材を引き抜く」発明(以下「公知・公然実施発明12」という。)が本件優先日前に公知であった又は公然実施されていたと推認できる。 本件発明12と公知・公然実施発明12とを対比すると、第11の2アの一致点のほか、公知・公然実施発明12の「回転ドラム」が本件発明12の「ドラム」に相当するので「更にドラムを含む線引き器を含み、前記線引き器が前記引抜加工用ダイスに引き込まれた線材を引き抜く」点で一致し、相違としては、相違点1-1のほか、線引き器が本件発明12では「前記ドラムを回転させる電動機」を含むことが特定されているのに対し、公知・公然実施発明12ではかかる電動機の有無が不明な点(以下「相違点1-6」という。)で相違する。 しかしながら、回転ドラムを回転させるために駆動源が必要なことは明らかであり、かつ、その駆動源を電動機とすることは、駆動源として通常のものを採用したに過ぎず、当業者にとって格別の困難性を伴うことなく実施できたものである。 また、相違点1-1については、7(2)と同様に判断できる。 そうすると、相違点1-6に係る本件発明12の構成とすることは当業者が容易に想到できたものである。 したがって、本件発明12は公知・公然実施発明12及び甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 17 小括 以上のとおりであるから、本件発明1、5~12に係る特許は法123条1項2号に該当し、無効理由4-1によって無効にすべきものである。 第13 無効理由4-2(進歩性)に対する当審の判断 1 本件発明1について (1) 対比 本件発明1と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1の「型9」、「支持材5」、「石鹸」、「線」、「石鹸箱8」及び「冷間引抜方法を実施する装置」は、本件発明1の「引抜加工用ダイス」、「ダイスホルダー」、「潤滑剤」、「材料線材」、「ボックス」及び「引抜加工機」にそれぞれ相当する。 また、甲2発明1の型9が「通路の断面が隅に円味を附する多角形」であることを、本件発明1の引抜加工用ダイスが「ベアリング部の開口部は略多角形の断面形状」を有することと対比すると、両者は「開口部は略多角形の断面形状」を有する限りで一致している。 そうすると、本件発明1と甲2発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。 ア 一致点 「略円筒形形状をもつ引抜加工用ダイスを保持し前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させるダイスホルダーと、 内部に収納された潤滑剤が材料線材に塗布された後前記引抜加工用ダイスに前記材料線材が引き込まれるボックスと、を含む引抜加工機であって、 前記引抜加工用ダイスの開口部は略多角形の断面形状を有する 引抜加工機。」 イ 相違点2-1 略多角形の断面形状を有しているものが、本件発明1の引抜加工用ダイスでは、「前記開口部の断面形状は前記材料線材の引抜方向に沿って同じである」「ベアリング部」であるのに対し、甲2発明1の型9では、断面形状が線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっている通路であり、つまり、通路の断面積が最小になる点22(甲2の第3図)には線の長手方向に幅がないため、本件発明1の「開口部の断面形状は材料線材の引抜方向に沿って同じである」「ベアリング部」に相当する部分を有していない点。 なお、これらの一致点、及び相違点2-1は、本件特許異議決定における「甲2発明A」と本件発明1の<一致点>及び<相違点1>(甲30の10ページ)と実質的に同じ内容である。 (2) 判断 ア 相違点2-1について検討すると、従来から、積極的に型を回転させて線を捩る方法が提案されていたが実用にはならなかったことに対し、甲2発明1の引抜加工機は、非円形断面の螺状線を、単一動作で極めて容易に形成することを課題として(第12の2(1)イ)、型内の線を引くことに機械的に連動して型が回転するよう、型内の線の通路をその断面形状が線の長手方向に沿って向きが異なっている螺状にしたもの(第12の2(1)ウ~エ、カ、ク)であると認められる。 イ ここで、引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部の断面形状が「材料線材の引抜方向に沿って同じであること」という周知技術(以下「周知技術2-1」という。)が存在するとしても、仮に、甲2発明1の「略多角形の断面形状を有している」「開口部の断面形状」に対して、当該周知技術2-1を適用し、「ベアリング部」の「開口部の断面形状」を「材料線材の引抜方向に沿って同じ」にしたとすると、型内に線を引いても、型内の線の通路を螺状にしたのとは異なって、型がこれに連動して回転しないから、単一動作で螺状線を得るというアで述べた課題を解決することができない。 そうすると、甲2発明1に対する周知技術2-1の適用には阻害要因があるというべきであり、甲2発明1に周知技術2-1を適用し、相違点2-1に係る本件発明1の構成とする動機が存在するとはいえない。 ウ したがって、相違点2-1に係る本件発明1の構成については、甲2発明1及び周知技術2-1から、当業者が容易に想到することができたものとはいえず、また、他の各甲号証をみても、相違点2-1による本件発明1の進歩性を否定する根拠を見出すことができないから、本件発明1は、当業者が容易に発明することができたものではない。 エ ア~ウのとおりであるから、本件発明1は、甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本件発明2~6について 本件発明2~6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用しており、本件発明1の特定事項を全て含んだうえで、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本件発明7について (1) 対比 本件発明7と甲2発明2とを対比すると、甲2発明2の「型9」、「支持材5」、「線」、「石鹸」、「石鹸箱8」及び「冷間引抜方法を実施する装置」は、本件発明7の「引抜加工用ダイス」、「ダイスホルダー」、「線材」、「潤滑剤」、「ボックス」及び「引抜加工機」にそれぞれ相当する。 また、甲2発明2の型9が「隅に円味を附する多角形の通路断面形状」を持つことは、本件発明7の引抜加工用ダイスが「略多角形のベアリング部開口部断面形状」を持つことと比較すると、「略多角形の開口部断面形状」を持つ限りで一致している。 さらに、甲2発明2において「前記支持材5は前記型9の前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記型9を廻転させ得るもの」であることは、本件発明7において「前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ」ることに相当する。 加えて、甲2発明2の「前記型9の通路は型9の外方に向けて拡径されている」ことから、甲2発明2が型9と線の間の空間を有するものとなることは、当業者にとって明らかである。 そうすると、本件発明7と甲2発明2との一致点、相違点は以下のとおりである。 ア 一致点 「略多角形の開口部断面形状を持ち略円筒形形状をした引抜加工用ダイスと、 前記引抜加工用ダイスを保持するダイスホルダーと、 前記引抜加工用ダイスに引き込まれる線材に潤滑剤を塗布するボックスと、を含む引抜加工機であって、 前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、 前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間を有する引抜加工機。」 イ 相違点2-2 略多角形の断面形状を有しているものが、本件発明7の引抜加工用ダイスでは、「開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであ」る「ベアリング部」であるのに対し、甲2発明2の型9では、断面形状が線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっている通路であり、つまり、通路の断面積が最小になる点22(甲2の第3図)には線の長手方向に幅がないため、本件発明7の「開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであ」る「ベアリング部」に相当する部分を有していない点。 ウ 相違点2-3 本件発明7が「前記引抜加工用ダイスの回転によって溜まった潤滑剤の塊が前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間から脱落する」ものであるのに対し、甲2発明2は空間を有していることは認められるが、潤滑剤の塊が脱落することについては不明である点。 なお、これらの一致点、相違点2-2及び2-3は、本件特許異議決定における「甲2発明B」と本件発明7の<一致点>、<相違点2>及び<相違点3>(甲30の11ページ)と実質的に同じ内容である。 (2) 判断 ア 相違点2-2について検討すると、相違点2-2と相違点2-1とは、相違点2-2の「線材」が相違点2-1では「材料線材」となっているのみで、実質的な差異はないから、相違点2-2においても、相違点2-1と同様に、甲2発明2に周知技術2-1を適用することには阻害要因があり、甲2発明2に周知技術2-1を適用し、相違点2-2に係る本件発明7の構成とする動機が存在しない。 そうすると、相違点2-2に係る本件発明7の構成については、甲2発明2、及び周知技術2-1から、当業者が容易に想到することができたものとはいえず、また、他の各甲号証をみても、相違点2-2による本件発明7の進歩性を否定する根拠を見出すことができない。 したがって、相違点2-3について検討するまでもなく、本件発明7は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ アのとおりであるから、本件発明7は、甲2発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 本件発明8について (1) 対比 本件発明8と甲2発明2とを対比すると、3(1)と同様の相当関係を認めることができるから、本件発明8と甲2発明2との一致点、相違点は以下のとおりである。 ア 一致点 「略多角形の開口部断面形状を持ち略円筒形形状をした引抜加工用ダイスと、 前記引抜加工用ダイスを保持するダイスホルダーと、 前記引抜加工用ダイスに引き込まれる材料線材に潤滑剤を塗布するボックスと、を含む引抜加工機であって、 前記ダイスホルダーは前記引抜加工用ダイスの前記略円筒形形状の中心軸を中心として前記引抜加工用ダイスを回転させ、 前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間を有する引抜加工機。」 イ 相違点2-2 略多角形の断面形状を有しているものが、本件発明8の引抜加工用ダイスでは、「開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであ」る「ベアリング部」であるのに対し、甲2発明2の型9では、断面形状が線の長手方向に沿って向き及び面積が異なっている通路であり、つまり、通路の断面積が最小になる点22(甲2の第3図)には線の長手方向に幅がないため、本件発明8の「開口部断面形状が前記線材の引抜方向に沿って同じであ」る「ベアリング部」に相当する部分を有していない点。 ウ 相違点2-4 本件発明8が「前記引抜加工用ダイスの回転によって前記引抜加工用ダイスと前記線材の間の空間に溜まる潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止する」ものであるのに対し、甲2発明2は空間を有していることは認められるが、潤滑剤の塊が一定以上の大きさになることを抑止することについては不明である点。 なお、これらの一致点、相違点2-2及び2-4は、本件特許異議決定における「甲2発明B」と本件発明8の<一致点>、<相違点2>及び<相違点4>(甲30の12ページ)と実質的に同じ内容である。 (2) 判断 相違点2-2については、本件発明7における相違点2-2と同じ内容であるから、3(2)で検討したとおり、甲2発明2及び周知技術2-1から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 したがって、相違点2-4について検討するまでもなく、本件発明8は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5 本件発明9~12について 本件発明9~12は、本件発明7又は8を直接的又は間接的に引用しており、本件発明7又は8の特定事項を全て含んだうえで、さらに構成を限定するものであるから、本件発明7又は8と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 請求書における請求人の主張について (1) 主張の概要 ア 請求人は、相違点2-1について、「開口部の断面形状が線材の引抜方向に沿って同じ(向きも面積も同じ)になるように形成されたベアリング部を有する引抜加工用ダイス」が周知技術であり、甲2発明1に当該周知技術を適用することで、相違点2-1が容易想到である旨を主張している(請求書107~108ページ)。 イ 請求人は、相違点2-2について、「開口部の断面形状が線材の引抜方向に沿って同じ(向きも面積も同じ)になるように形成されたベアリング部を有する引抜加工用ダイス」が周知技術であり、甲2発明2に当該周知技術を適用することで、相違点2-2が容易想到である旨を主張している(請求書115ページ)。 (2) 請求書の主張に対する検討 ア (1)アについては、1(2)イで説示したとおり、仮に、請求人のいう周知技術を甲2発明1に適用したとすると、引き抜きという単一動作ではダイスが回転しなくなり、甲2の課題を解決できないから、甲2の記載に接した当業者がそのような適用をするとはいえない。 したがって、請求人の当該主張は採用できない。 イ (1)イについても、1(2)イでの説示と同様であるから、請求人の当該主張は採用できない。 7 上申書における請求人の主張について (1) 主張の概要 請求人による令和3年5月7日提出の上申書において、相違点2-1及び2-2について、概略、以下のように主張している。 ベアリング部には、耐摩耗性からある程度の長さがあることが望ましいのは技術常識であり、甲2には、線に加わる内力が課題となる場合は適当な駆動装置によって型の回転を助ける旨の記載がある(第12の2(1)ク)から、甲2の型9のベアリング部(点22)の耐摩耗性を考慮してある程度の長さを形成して摩擦力が過大となっても、型の回転を助ける駆動装置を設けることを容易に想到できる。すなわち、甲2には、断面形状を線材の引抜方向に沿って同じにすることの動機付け、示唆があり、甲6~甲16及び甲19~甲21を甲2発明1に適用することの動機付けが十分にある(上申書14~17ページ)。 (2) 上申書の主張に対する検討 すでに1(2)で検討したとおり、相違点2-1に係る本件発明1の構成については、甲2発明1に対する周知技術2-1の適用には阻害要因があるというべきであり、甲2発明1及び周知技術2-1から当業者が容易に想到することができたものとはいえない。相違点2-2についても同様である。 したがって、請求人の当該主張は採用できない。 8 回答書における請求人の主張について (1) 請求人は、回答書において、相違点2-1について、概略、以下のように主張している。 甲2発明1の解決課題は、「非円形断面の螺状線を単一動作で得る」ことではなく、線材とダイスの「相対的な回転ずれ」を生じさせることで連続的に螺状線を形成させることであり、そのような「相対的な回転ずれ」を生じさせる手段として、駆動装置を用いて型を回転させるという技術常識が存在するから、当該技術常識を甲2発明1に適用することが容易想到である(回答書34~38ページ)。 (2) 回答書の主張に対する検討 甲2には「本発明に於ては・・・断面形状非円形なる通路を・・・その長手軸に沿つて螺状に捩つて設けて成る廻転型を用い、・・・以て単一操作を以て線を極めて容易、且満足に延、成形且螺状に形成せんとするものである」(第12の2(1)イ)と明確に記載されている以上、甲2に接した当業者は、甲2の解決課題が「非円形断面の螺状線を単一動作で得る」ことであり、その課題解決手段が、通路を螺状に捩って設けることであると理解するというほかない。 そして、甲2発明1において、通路を螺状に捩ることは、型を回転させるための手段であるが、甲2発明1の型9を回転させる別の手段として、駆動装置で回転させる手段を適用するとしても、それにより、甲2発明1の型9の断面形状が引抜方向に沿って同じになるわけではない。 したがって、請求人の当該主張は採用できない。 9 小括 以上のとおりであるから、本件発明1~12に係る特許を、無効理由4-2によって無効とすることはできない。 第14 むすび 以上、第10のとおり請求項1~12に係る特許は法123条1項4号に該当し、第12のとおり請求項1、5~12に係る特許は法123条1項2号に該当するから、請求項1~12に係る特許を無効にする。 審判に関する費用については、法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。

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2020-800043

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