特許異議申立
2017-700231
抵抗組成物
- 審判番号
- 2017-700231
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-525619
- 登録番号
- 特許第5988123号(P5988123)
- 請求日
- 2017年03月07日
- 審決日
- 2017年12月04日
- 公報発行日
- 2018年03月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】昭栄化学工業株式会社
- 【権利者代理人】酒井 正己
- 【権利者代理人】加々美 紀雄
- 【権利者代理人】須田 芳國
- 【異議申立人】高橋 昌嗣
- 審判長/審判官
- 審判長 國分 直樹
- 審判官 酒井 朋広
- 審判官 森川 幸俊
- 分類
- P1651.14 -YAA(H01C) / P1651.537-YAA(H01C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項、特許法第126条第4項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5988123号発明「抵抗組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5988123号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-16([1-9、13]、10、11、12、[14-16])について訂正することを認める。
特許第5988123号の請求項1ないし3、5ないし15に係る特許を維持する。
特許第5988123号の請求項4、16に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5988123号の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、平成27年8月20日(優先権主張 平成26年9月12日)に特許出願されたものであって、平成28年8月19日に特許権の設定登録がされ、その特許に対し、平成29年3月7日に特許異議申立人高橋昌嗣(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。その後、当審において同年5月8日付けで取消理由を通知し、特許権者の昭栄化学工業株式会社から同年7月11日付けで意見書および訂正請求書が提出され、異議申立人から同年9月25日付けで意見書が提出された。
第2 訂正請求による訂正の適否
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成29年7月11日付け訂正請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、
「特許第5988123号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16について訂正することを求める。」
ものである。
そして、本件訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「鉛成分を実質的に含まないガラス粒子」と記載されているのを、
「鉛成分を実質的に含まず、前記ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するガラス粒子」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「Tgが450~700℃であり、Tg’が500℃以上である請求項4に記載の抵抗組成物。」と記載されているのを、請求項4の発明特定事項を請求項5に書き下して「前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgに対して、Tg<Tg’を満たし、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgが450~700℃であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が500℃以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の抵抗組成物」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1乃至5」と記載されているのを「請求項1乃至3、5」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1乃至6」と記載されているのを「請求項1乃至3、5、6」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1乃至7」と記載されているのを「請求項1乃至3、5乃至7」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1乃至8」と記載されているのを「請求項1乃至3、5乃至8」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1乃至12」と記載されているのを「請求項1乃至3、5乃至12」に訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の【0095】に「<実施例2>本実施例は抵抗組成物が機能性フイラーを含有しない場合についての実施例である。(実施例2-1~実施例2-6)」と記載されているのを、「<参考例>本参考例は抵抗組成物が機能性フイラーを含有しない場合についての参考例である。(参考例1~参考例6)」に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の【0098】(表5)に「実施例 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6」とあるのを「参考例 1 2 3 4 5 6」と訂正する。(なお、訂正請求書に記載された表5は、ここでは省略する。)
(11)訂正事項11
明細書の【0100】に 「<実施例3>・・・実施例1及び実施例2と同様の実験を行ったところ、ほぼ同様の結果が得られた。」とあるのを、「<実施例2>・・・実施例1及び参考例と同様の実験を行ったところ、ほぼ同様の結果が得られた。」と訂正する。(なお、「・・・」は、訂正前も訂正後も同一記載内容である部分を省略したことを示すものである。)
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項14に「二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まず、ガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下である組成の第1のガラス成分と、ガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である組成の第2のガラス成分と、を含む抵抗組成物」と記載されているのを、「二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まず、酸化物換算でBaO 20~45モル%、B2O3 20~45モル%、SiO2 25~55モル%を含み、ガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下である組成の第1のガラス成分と、ガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である組成の第2のガラス成分と、有機ビヒクルと、を含む抵抗組成物。」と訂正する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項16を削除する。
2 訂正の適否の判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1ないし9、及び13について、請求項2ないし9、及び13は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、本件訂正前の請求項1ないし9、及び13に対応する訂正後の請求項1ないし9、及び13は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
同様に、訂正事項12に係る本件訂正前の請求項14ないし16について、請求項15及び16は請求項14を引用しているものであって、訂正事項12によって記載が訂正される請求項14に連動して訂正されるものである。よって、訂正前の請求項14ないし16に対応する訂正後の請求項14ないし16は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
また、訂正事項9ないし11は実施例ではないものを参考例とするものであり、訂正事項9ないし11による明細書の訂正に係る請求項は、請求項1ないし16である。よって、本件特許明細書に係る訂正である訂正事項9ないし11は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。
(2)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「機能性フィラー」の「ガラス粒子」について「前記ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する」ものに限定するから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
明細書の段落【0040】には機能性フィラーについて「前記ガラス粒子としては・・・特には前出ガラスフリットのガラス転移点Tgよりもガラス転移点Tg’が高い(すなわちTg<Tg’が成り立つ)ガラスであることが好ましい。」という記載があることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ.独立特許要件について
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立がなされているので、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ.独立特許要件について
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)訂正事項3
ア.訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項5は請求項4の記載を引用する記載であるところ、請求項4を削除したことに伴い、請求項4に記載されていた発明特定事項を請求項5に書き下したものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項3は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(5)訂正事項4ないし8
ア.訂正の目的について
訂正事項4ないし8は、訂正事項2(請求項4を削除)により、請求項4を引用していた訂正前の請求項6ないし9、及び13について請求項4の引用を削除したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項4ないし8は、引用する請求項を一部削除したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項4ないし8は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(6)訂正事項9ないし11
ア.訂正の目的について
訂正前の明細書に実施例2として記載されているものは、訂正後の特許請求の範囲に記載した発明の実施例ではないため、訂正事項9及び10は実施例2を参考例とし、訂正事項11は実施例3を実施例2に繰り上げるものである。
よって、訂正事項9ないし11は、特許請求の範囲の記載に合わせて明細書を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ.新規事項、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項9ないし11は、訂正後の特許請求の範囲に記載した発明の実施例ではないものを参考例にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(7)訂正事項12
ア.訂正の目的について
訂正事項12は、本件訂正前の請求項14に係る発明の発明特定事項である「第1のガラス成分」について「酸化物換算でBaO 20~45モル%、B2O3 20~45モル%、SiO2 25~55モル%を含み」と限定し、抵抗組成物の成分として「有機ビヒクル」を含むことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ.新規事項、特許請求の範囲の拡張又は変更について
明細書の段落【0031】にはガラスフリット(「第1のガラス成分」に相当。)について「このような、高抵抗域でTCRがプラスであるガラス組成としては、酸化物換算でBaO 20~45モル%、B2O3 20~45モル%、SiO2 25~55モル%を含むものが好ましい。」という記載があり、明細書の【0018】、【0054】ないし【0056】には有機ビヒクルについての記載があるから、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項12は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(8)訂正事項13
ア.訂正の目的について
訂正事項13は、請求項16を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項13は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ.独立特許要件について
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項13は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件特許発明
本件訂正は、上記「第2」のとおり認められたので、本件特許の請求項1ないし16に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、・・・「本件特許発明16」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項10ないし12、及び本件訂正による特許請求の範囲の請求項1ないし9、13、及び14ないし16に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を示す。
【請求項1】
二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まないガラスフリットと、有機ビヒクルと、機能性フィラーとを含む抵抗組成物であって、
前記ガラスフリットが、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/口~1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットであり、
前記機能性フィラーが、鉛成分を実質的に含まず、前記ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するガラス粒子と、当該ガラス粒子よりも粒径が小さく鉛成分を実質的に含まない導電粒子とからなる複合粒子である抵抗組成物。
【請求項2】
前記ガラスフリットが、酸化物換算でBaO 20~45モル%、B2O3 20~45モル%、SiO2 25~55モル%を含む請求項1に記載の抵抗組成物。
【請求項3】
前記ルテニウム系導電性粒子の平均粒径D50が0.01~0.2μinである請求項1又は2に記載の抵抗組成物。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgに対してTg<Tg’を満たし、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgが450~700℃であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が500℃以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の抵抗組成物。
【請求項6】
前記機能性フィラーが前記導電粒子を20~35質量%含む請求項1乃至3、5の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項7】
前記導電粒子が二酸化ルテニウムを含むルテニウム系の導電粒子である請求項1乃至3、5、6の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項8】
前記導電粒子の平均粒径D50が0.01~0.2μmである請求項1乃至3、5乃至7の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項9】
前記機能性フィラーの平均粒径D50が0.5~5μmである請求項1乃至3、5乃至8の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項10】
二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まないガラスフリットと、有機ビヒクルと、鉛成分を実質的に含まないガラス粒子とを含む抵抗組成物であって、
前記ガラスフリットが、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□~1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットであり、
前記ガラスフリットのガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である抵抗組成物。
【請求項11】
前記ガラスフリットが、酸化物換算でBaO 20~45モル%、B2O3 20~45モル%、SiO2 25~55モル%を含む請求項10に記載の抵抗組成物。
【請求項12】
前記ルテニウム系導電性粒子の平均粒径D50が0.01~0.2μmである請求項10又は11に記載の抵抗組成物。
【請求項13】
請求項1乃至3、5乃至12の何れかに記載の抵抗組成物であって、前記ルテニウム系導電性粒子と前記ガラスフリットとの含有率が異なる2以上の抵抗組成物を組み合わせてなる抵抗組成物セット。
【請求項14】
二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まず、酸化物換算でBaO 20~45モル%、B2O3 20~45モル%、SiO2 25~55モル%を含み、ガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下である組成の第1のガラス成分と、ガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である組成の第2のガラス成分と、有機ビヒクルと、を含む抵抗組成物。
【請求項15】
前記第1のガラス成分が、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□~lMΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットである請求項14に記載の抵抗組成物。
【請求項16】 (削除)
第4 申立理由の概要
異議申立人は、以下の申立理由1、2、3(以下、「理由1」「理由2」「理由3」という。)により、請求項1ないし16に係る特許は取り消されるべきである旨を主張している。
<理由1>請求項1~16は、本件特許明細書に開示された発明の範囲を超えており、特許法第36条第6項第1号により特許を受けることができない。
概要は以下(A)ないし(H)のとおりである。
(A)請求項1には、機能性フィラーのガラス粒子のガラス組成、二酸化ルテニウムの含有量の規定が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、請求項1、2~9、13はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-A」という。)
(B)請求項1には、ルテニウム系導電性粒子、ガラスフリット、機能性フィラーとの混合比の規定が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、請求項1、2~9、13はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-B」という。)
(C)請求項1には、機能性フィラーのガラス粒子について、焼成時の流動性の規定が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、請求項1、2~9、13はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-C」という。)
(D)請求項1、10、14には、ルテニウム系導電性粒子の粒径の規定が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、請求項1、2、4~9、10~11、13~16はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-D」という。)
(E)ガラスフリットについてあらゆるガラス組成を包含する請求項1、10、14、15の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できず、請求項1~16はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-E」という。)
(F)ガラス粒子のガラス転移点がガラスフリットのガラス転移点よりも高ければ、あらゆるガラス場合を包含する請求項4の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できず、請求項4~9はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-F」という。)
(G)請求項10の規定を充足する実施例は一切開示されていないから、請求項10~13はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-G」という。)
(H)ルテニウム系導電性粒子とガラス転移点が予定の範囲にある2種類のガラス成分を含有する抵抗組成物により課題を解決した例は本件特許明細書に開示されていないから、請求項14~16は発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(以下、「理由1-H」という。)
<理由2>請求項1~16は、不明確であり、特許法第36条第6項第2号により特許を受けることができない。
概要は以下(A)ないし(C)のとおりである。
(A)請求項1、10、15は、ガラスフリットと二酸化ルテニウムとの混合比を含まないためガラスフリットを特定できないから、請求項1~16は不明確である。(以下、「理由2-A」という。)
(B)ガラス転移点は昇温速度により変化するのが技術常識であるから、ガラス転移点を規定し昇温速度の規定を含まない請求項4~16は不明確である。(以下、「理由2-B」という。)
(C)請求項10、14に焼成温度が規定されているが、抵抗組成物についての物性ではなく、具体的にどのような温度になるか明らかではなく、請求項10~16は不明確である。(以下、「理由2-C」という。)
<理由3>請求項1~9、13は未完成発明であり、特許法第29条第1項柱書の発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書により特許を受けることができない。
第5 当審の判断
1 本件特許の出願時明細書(特願2016-525619号)の記載事項
本件特許の出願時明細書(以下、単に「明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。
ア.「【0015】 ところで従来のルテニウム複合酸化物と鉛を含まないガラスを組み合わせて用いた抵抗組成物においては、特に、導電性粒子の含有量が少ない高抵抗域において、安定的に上述したネットワーク構造(以下、導電ネットワークと記すこともある)を作ることが極めて難しかった。このため、鉛を含まず、且つ、TCR特性、電流雑音特性、ばらつき等の諸特性に優れた厚膜抵抗体は未だに産業上の実用化には到っていない。」
イ.「【発明が解決しようとする課題】
【0017】 本発明は、導電性成分及びガラスから有害な鉛成分を排除し、しかも広い抵抗域で抵抗値、TCR特性、電流雑音特性、耐電圧特性等の特性において、従来と同等若しくはそれ以上の優れた特性を備えた厚膜抵抗体を形成し得る抵抗組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】 上記目的を達成する本発明の抵抗組成物は、二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まないガラスフリットと、有機ビヒクルとを含む抵抗組成物であって、前記ガラスフリットとして、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□~1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットを用いることを特徴とする抵抗組成物である。
【発明の効果】
【0019】 本発明の抵抗組成物によれば、鉛を実質的に含有しないにも拘わらず、従来の抵抗体と同等或いはそれ以上の特性を有する抵抗体を、広い抵抗値範囲に亘って形成することができる。また焼成中に導電性成分の分解が生じないため、ガラスマトリックス中に均質で安定な導電ネットワークを作ることが可能である。これにより、高抵抗域でも特性劣化がなく、焼成条件等のプロセス依存性が小さく、ばらつきの少ない、電流雑音特性にも優れた厚膜抵抗体を得ることができる。」
ウ.「【0022】 〔ルテニウム系導電性粒子〕 本発明におけるルテニウム系導電性粒子としては、二酸化ルテニウム(RuO2)を50質量%以上含むことが好ましく、二酸化ルテニウム(RuO2)のみからなるものが更に好ましい。これにより本発明の抵抗組成物は、高温で焼成した後も、安定な導電ネットワークがより容易に形成され、ばらつきが小さく、高抵抗域においても良好な抵抗特性が得られ、その他の電気特性及びプロセス安定性の良好な厚膜抵抗体を得ることができる。
【0023】 ルテニウム系導電性粒子は、二酸化ルテニウムと、後述する他の導電性粒子とが混合或いは複合化されたものであっても良い。」
エ.「【0029】 〔ガラスフリット〕 本発明においてガラスフリットとしては、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□~1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数(TCR)がプラスの範囲を示すようなガラスフリットを用いる。本発明者等は、このような特性のガラスフリットを用いた場合に、ルテニウム系導電性粒子との配合比率を調整したり、後述する無機添加剤を適宜加える等によって、100kΩ/□以上の高抵抗域においてもTCRを小さくすることができることを見出した。例えば本発明の抵抗組成物によって得られる抵抗体は、100Ω/□~10MΩ/□の広い抵抗域において、TCRを±100ppm/℃以下にコントロールすることができる。」
オ.「【0039】 〔機能性フィラー〕 本発明の抵抗組成物は、上述した無機成分の他、機能性フィラー(以下、単にフィラーと記すこともある)を含むことが好ましい。
ここで本発明において機能性フィラーとしては、前出ガラスフリットとは別に、焼成時における流動性が低いガラス粒子を準備し、そのガラス粒子の表面やその内部近傍に、前出ルテニウム系導電性粒子とは別に準備する他の導電性粒子(以下、導電粒子という)を付着・固着させて複合化させた複合粒子が好ましい。なお、本発明においては「ガラスフリット」という用語と「ガラス粒子」という用語とを区別して用いる。
また、本発明においてガラスフリットに由来するガラス成分を「第1のガラス成分」といい、ガラス粒子に由来するガラス成分を「第2のガラス成分」ということもある。
【0040】 前記ガラス粒子としては、焼成時における流動性が低ければ組成を問わず用いることができる。一例としてはそのガラス転移点Tg’が500℃以上であり、特には前出ガラスフリットのガラス転移点Tgよりもガラス転移点Tg’が高い(すなわちTg<Tg’が成り立つ)ガラスであることが好ましい。ガラス転移点Tg’の高いガラス組成の例としては、硼珪酸亜鉛系ガラス、硼珪酸鉛系ガラス、硼珪酸バリウム系や硼珪酸カルシウム系といった硼珪酸アルカリ土類金属ガラスなどが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
抵抗組成物の焼成温度との関係では、Tg’は(焼成温度-150)℃以上であることが好ましく、その場合、下式(2)が成り立つ。
Tg’≧(焼成温度-150)〔℃〕・・・式(2)」
カ.「【0052】 後述する実施例1で図1に基づいて示すが、鉛成分を実質的に含まないガラス粒子を含み、ガラスフリットのガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である場合には、抵抗体におけるガラスは海島構造を形成するようになる。この海島構造は、ガラスフリットに由来するガラス(第1のガラス成分)が海(マトリックス)を形成し、ガラス粒子に由来するガラス(第2のガラス成分)が島を形成している構造である。このような構造は抵抗組成物の成分として機能性フィラーを添加した場合に限らず、機能性フィラーに代えてガラス粒子を使用した場合にも形成される。このような構造は従来の抵抗体には見られない構造である。」
キ.「【0094】 図1Bに示されるように実施例1で得られた抵抗体には、Baを含む連続体領域(以下、マトリクス記す)の中に、Baを含まない不連続体(以下、島と記す)が複数点在する、所謂、海島構造(sea-island structure)が見られる。
この実施例1で使用したガラスフリットにはBaが含まれており、一方、フィラーとして使用したガラス粒子にはBaが含まれていないことから、本発明の抵抗体は、ガラスフリットのマトリクス中に、焼成時の流動性が低いガラス粒子が島状に残り、このような海島構造が形成されたものと推測される。また、図1Cに示されるようにガラス粒子の表面にはRuが高濃度で存在していることが確認できることから、本発明の抵抗組成物から得られた抵抗体中においてRuO2粒子は均一に分散しておらず、少なくとも抵抗体中の一部に、石鹸の泡状の偏りのあるネットワーク構造を備えているものと推察される。」
上記アの「・・・ネットワーク構造(以下、導電ネットワークと記すこともある)を作ることが極めて難しかった。このため、鉛を含まず、・・・諸特性に優れた厚膜抵抗体は未だに産業上の実用化には到っていない。」によれば、鉛を含まず諸特性に優れた厚膜抵抗体を実用化するためには、導電ネットワークを作ることが必要である。
また、上記イによれば、段落【0017】の【発明が解決しようとする課題】には「従来と同等若しくはそれ以上の優れた特性を備えた厚膜抵抗体」と記載があるものの具体的な特性の数値は記載されていないところ、この段落【0017】の【発明が解決しようとする課題】に対して段落【0019】の【発明の効果】が記載されており、この【発明の効果】には「・・・安定な導電ネットワークを作ることが可能である。これにより、高抵抗域でも特性劣化がなく、・・・」との記載からして、導電ネットワークを作ることにより高抵抗域で特性に劣化のない厚膜抵抗体となるものである。
よって、明細書でいう課題を解決するために必要な構成は、鉛を含まない厚膜抵抗体において「導電ネットワーク構造」を備えることと認められる。
ここで、導電ネットワーク(ネットワーク構造)とは、上記キによれば、海島構造において島状に形成されたガラス粒子の表面にRuが存在することで構成されるものである。そして、海島構造は、上記カによれば、「(焼成温度-200)℃以下のガラス転移点Tgを備えるガラスフリット」と「(焼成温度-150)℃以上のガラス転移点Tg’を備えるガラス粒子」を使用することで形成されるものである。
そうすると、導電ネットワークの構成要素は、Ru、ガラスフリット、ガラス粒子であり、明細書の記載によれば以下のものと認められる。
「Ru」は、上記イ及びウによれば、二酸化ルテニウムを含んだルテニウム系導電性粒子である。
「ガラスフリット」は、上記エによれば、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□~1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数(TCR)がプラスの範囲を示すものである。また、ガラスフリットは、上記オ及びカによれば、海島構造における「海」に相当するもので、(焼成温度-200)℃以下のガラス転移点Tgを持つものである。なお、上記オによれば、ガラスフリットに由来するガラス成分を「第1のガラス成分」ということもある。
「ガラス粒子」は、上記オ及びカによれば、海島構造における「島」に相当するもので、(焼成温度-150)℃以下のガラス転移点Tg’を持つものであって、上記のガラスフリットのガラス転移点Tgよりも高いものである。なお、上記オによれば、ガラス粒子に由来するガラス成分を「第2のガラス成分」ということもある。また、「島」の構成要素は、上記カによれば、ガラス粒子でも機能性フィラーでも良い。
したがって、明細書の記載によれば、課題を解決するための必須構成要件は、「二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子」、「鉛成分を実質的に含まず、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□~1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数(TCR)がプラスの範囲を示すガラスフリット(第1のガラス成分)」、「鉛成分を実質的に含まないガラス粒子(機能性フィラー、第2のガラス成分)」、それに、導電ネットワークを形成するための「ガラスフリットのガラス転移点よりも、ガラス粒子のガラス転移点の方が高い」ことと認められる。
以下、理由1ないし3について、上記事項を踏まえて判断をする。
2 理由1について
(1)理由1-A
本件特許発明1は、異議申立人が主張するような「あらゆる機能性フィラーを包含した記載」にはなっておらず、「鉛成分を含まず、前記ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するガラス粒子と、当該ガラス粒子よりも粒径が小さく鉛成分を実質的に含まない導電粒子とからなる複合粒子」と特定されている。
この点について、異議申立人は、「本件特許明細書の段落【0077】~【0086】の開示内容からすると、本件特許発明の課題の1つである、耐電圧特性について従来と同様以上の特性を備えた厚膜抵抗体を形成し得る抵抗組成物を提供するためには、機能性フィラーは、本件特許明細書の【0078】に開示された組成のガラスと、二酸化ルテニウムから構成され、かつ導電粒子である二酸化ルテニウムの含有量が30質量%であることが必須の要件となる。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、上記「1」に記載したとおり、導電ネットワークを形成することで課題を解決するものであり、「機能性フィラー」の構成は、「鉛成分を実質的に含まないガラス粒子」を含んでおり、「ガラスフリットのガラス転移点よりも、ガラス粒子のガラス転移点の方が高い」点が記載されていれば足りるものである。
そして、異議申立人の指摘する明細書の段落【0077】ないし【0086】は、その前の段落【0076】に「後述する実施例では試料13のガラスフリットを含む抵抗組成物から抵抗体を作製した実施例を示す。」と記載されているように、ガラスフリットの組成比の一例(SiO2を43.6mol%、B2O3を27.9mol%、BaOを28.5mol%から構成)による実験結果を示したものであるから、所望の機能性フィラーが得られる一例を提示したに過ぎず、このガラスフリットのたった一つの例に基づく結果をもって、機能性フィラーのガラス組成や二酸化ルテニウムの含有量を規定させるのは必要以上に権利範囲を狭めるものであるから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Aにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、及び13を取り消すことはできない。
(2)理由1-B
異議申立人は、明細書の記載【0087】ないし【0094】を根拠とし、「本件特許発明1は、ルテニウム系導電性粒子と、ガラスフリットと、機能性フィラーとの混合比は規定しておらずあらゆる混合比、組成を包含する。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、上記「1」に記載したとおり、導電ネットワークを形成することで課題を解決するものであり、ルテニウム系導電性粒子として「二酸化ルテニウムを含む」ものであること、ガラスフリットとして「ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/口~1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示す」ものであること、機能性フィラーとして「鉛成分を実質的に含まないガラス粒子」を含んでおり、「ガラスフリットのガラス転移点よりも、ガラス粒子のガラス転移点の方が高い」ことが記載されていれば足りるものであり、あらゆる組成を包含するものにはなっていない。
そして、明細書の段落【0087】ないし【0094】は、その前の段落【0076】に「後述する実施例では試料13のガラスフリットを含む抵抗組成物から抵抗体を作製した実施例を示す。」と記載されているように、ガラスフリットの組成比の一例(SiO2を43.6mol%、B2O3を27.9mol%、BaOを28.5mol%から構成)による実施例を示したものであるから、所定の混合比によって所望の特性が得られる一例を提示したに過ぎず、ガラスフリットのたった一つの例に基づく結果をもって、ルテニウム系導電性粒子とガラスフリットと機能性フィラーとの混合比を規定させるのは必要以上に権利範囲を狭めるものであるから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Bにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、及び13を取り消すことはできない。
(3)理由1-C
異議申立人は、明細書の段落【0040】、【0078】及び【0087】を根拠とし、本件特許発明1が「機能性フィラーのガラス粒子について、焼成時における流動性を何ら規定しない」旨を主張している。
ここで、本件特許発明1には、機能性フィラーが「ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するガラス粒子」を含むことが特定されている。
この点について、異議申立人は、「ガラスフリットとガラス粒子の流動性に関連するものとして、ガラスフリットと、ガラス粒子とのガラス転移点の関係が示されているのみです。そして、ガラス転移点はガラスを焼成した際の流動性を一義的に決めるものではなく、抵抗組成物を焼成する際の焼成温度や、ガラスの該焼成温度における粘度等の規定が必要であるといえます。」と主張している。
しかしながら、ガラス転移点の異なるガラスフリットとガラス粒子とは流動性について違いがあることは事実であり、これにより課題を解決するための構成である「導電ネットワーク」は形成され得るものである。なお、焼成温度やガラスの該焼成温度における粘度等は、導電ネットワークを所望なものに作成するための条件であって、本件特許発明における必須の構成要素ではない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Cにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、及び13を取り消すことはできない。
(4)理由1-D
異議申立人は、明細書の段落【0012】、【0017】を根拠とし、本件特許発明1が「ルテニウム系導電性粒子の粒径について何ら規定しない」旨を主張している。
しかしながら、段落【0012】は、従来例であるルテニウム複合酸化物粉末に係るものであって、「二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子」に直ちに適用できる事項とは認められない。なお仮に、段落【0012】の記載事項が導電性粒子一般にいえるのであれば、わざわざ本件特許発明1で特定するまでもない。また、段落【0017】でいう「従来と同等若しくはそれ以上の優れた特性」は、具体的な数値が示されているわけではなく(段落【0019】に記載されているように「鉛を実質的に含有しないで、導電ネットワークを作る」ことで、段落【0017】の課題を解決することができると認められる。)、この記載をもって粒径を特定させることはできない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Dにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、10ないし11、13、及び14ないし15を取り消すことはできない。
(5)理由1-E
異議申立人は、「本件特許明細書の段落【0087】~【0094】に開示された実施例1は試料13のガラスフリットを用いた例が開示されているのみであり、1つの組成のガラスフリットから本件特許発明1、10、14、15の規定を充足するあらゆるガラスフリットまで拡張ないし一般化しうることが本件特許の優先日において技術常識とはいえない」旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明1、10、14、15に係る事項は、試料13のガラスフリットを基に特定されたわけではない。この試料13のガラスフリットは、「ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/口~1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリット」を実験により作れることを示した一例に過ぎず、ガラスフリットを構成する材料の組成を適宜調整することにより、上記に含まれるガラスフリットは当業者であれば作成し得ると認められる。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Eにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15を取り消すことはできない。
(6)理由1-F
当該理由は、本来請求項4に対するものであったが、訂正により請求項4が削除され、実質的に請求項5に加わったので、本件特許発明5に対応する事項として以下判断をする。
異議申立人は、明細書の段落【0087】ないし【0094】を根拠とし、「ガラスフリットのガラス転移点Tgが629.7℃、フィラーのガラス粒子のガラス転移点Tg’が713℃の特定の例から、ガラス転移点について具体的な温度を規定していない本件特許発明5の範囲まで拡張ないし一般化しうることが本件特許の優先日において技術常識とはいえない」旨を主張している。
しかしながら、上記(2)で指摘したように、明細書の段落【0087】ないし【0094】は、ガラスフリットの組成比の一例(SiO2を43.6mol%、B2O3を27.9mol%、BaOを28.5mol%から構成)による実施例を示したものであるから、そこに記載されているガラス転移点も当然に一例である。ガラスフリットを構成する材料の組成を適宜調整することにより、ガラス転移点は変わるから、当該段落の記載をもってガラス転移点の温度を特定させることはできず、異議申立人の主張を採用することはできない。
更に、異議申立人は「具体的にどのようなガラス転移点のガラスフリット、及びガラス粒子を選択すれば、海島構造を形成できるかは本件特許明細書を参照しても明らかではなく、海島構造を形成できるようなガラスフリット及びガラス粒子のガラス転移点の選択、設定方法が自明であることの具体的な根拠も示されていない」旨を主張している。しかしながら、明細書の段落【0094】、図1B及び図1Cに記載されているように、試料13を使用した一例で海島構造ができることを明らかにしているのだから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Fにより、本件特許発明5ないし9を取り消すことはできない。
(7)理由1-G
異議申立人は、「本件特許発明10の規定を充足する実施例は一切開示されていない」、「抵抗体が海島構造を有することで、本件特許発明の課題を解決できるかすら明らかではなく、仮に課題を解決できたとしても、機能性フィラーに代えてガラス粒子を使用した場合に海島構造を形成できるかも具体的な例がない以上明らかではない」旨を主張している。
しかしながら、上記「1」で記載したとおり、明細書(段落【0015】、【0017】ないし【0019】を参照。)でいう課題を解決するには、鉛を含まない厚膜抵抗体において導電ネットワーク構造を備えること、即ち「海島構造」を備えることと認められる。そして、機能性フィラーではなくガラス粒子を使用しても海島構造を形成できることは、明細書の段落【0052】に記載されている。逆に、ガラス転移点の異なるガラスフリットとガラス粒子を使用しても海島構造が絶対にできないという根拠はないから、海島構造が形成される具体的な例がないからといって明らかでないとまではいえない。なお、異議申立人は実施例に拘っているが、特許請求の範囲に記載する事項は必ず実施例に記載されていなければならないわけではない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Gにより、本件特許発明10ないし13を取り消すことはできない。
(8)理由1-H
異議申立人は、本件特許発明14に関して「本件特許明細書においては、ルテニウム系導電性粒子と第1のガラス成分と第2のガラス成分と有機ビヒクルを含む抵抗組成物から、本件特許明細書【0014】に記載された課題を解決した例は開示されていない」旨を主張している。
しかしながら、第1のガラス成分は「ガラスフリット」であり、第2のガラス成分とは「ガラス粒子」であるから、上記(7)のとおり、第1のガラス成分と第2のガラス成分とで海島構造を形成できるといえるから、異議申立人の主張は採用できない。
理由1-Hにより、本件特許発明14ないし15を取り消すことはできない。
3 理由2について
(1)理由2-A
異議申立人は、明細書の段落【0070】の表1の実験例11を根拠とし、「ガラスフリットの組成は同じであるのにも関わらず、ガラスフリットと二酸化ルテニウムの混合比により抵抗温度係数がプラスの範囲を示す場合と示さない場合があるから、該混合比を含まない本件特許発明1、本件特許発明10、本件特許発明15ではガラスフリットを特定できない」旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明1、10、及び15は、「ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□~lMΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリット」で発明を明確に特定できるものである。そして、実験例11は、焼成物の抵抗温度係数が「プラスの範囲を示すガラスフリットを得るための実験」であって(段落【0062】を参照。)、そこで抵抗温度係数がプラスになっているものは本件特許発明に含まれ、抵抗温度係数がプラスになっていないものは当然に本件特許発明に含まれないだけのことであって、この実験のたった一例をもって「混合比」を限定しなければいけないものではないから、異議申立人の主張は採用できない。
したがって、理由2-Aにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15を取り消すことはできない。
(2)理由2-B
異議申立人は、「ガラス転移点は、昇温速度により変化するのが技術常識であるが、本件特許発明5、10、及び14は、ガラス転移点の評価条件がなんら規定されていないため、どのような特性の値であるか明らかではなく不明確である」旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明5、10、及び14は、ガラスフリット(第1のガラス成分)のガラス転移点よりもガラス粒子(第2のガラス成分)のガラス転移点の方が高いことを特定し、且つ、互いのガラス転移点を所定範囲をもって特定しており、昇温速度等の要因によって変化するであろうガラス転移点を示していると認められるから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由2-Bにより、本件特許発明5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15を取り消すことはできない。
(3)理由2-C
異議申立人は、本件特許発明10、14に対して「焼成温度は抵抗組成物についての物性ではなく、抵抗組成物を使用する際の温度であり、具体的にどのような温度になるか明らかでない」旨を主張している。
しかしながら、抵抗組成物の焼成温度は所望の厚膜抵抗体を得るために当業者(製造者)が適宜決定し得る事項であるから特許請求の範囲に一に定める必要はないところ、本件特許発明10、14は、ガラスフリット(第1のガラス成分)の「ガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下」、ガラス粒子(第2のガラス成分)の「ガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上」と特定しているのだから、ガラスフリット(第1のガラス成分)とガラス粒子(第2のガラス成分)とのガラス転移点の差が50℃以上になる抵抗組成物であることは明確であるから、異議申立人の主張は採用できない。
したがって、理由2-Cにより、本件特許発明10ないし13、及び14ないし15を取り消すことはできない。
4 理由3について
課題を解決するために必要な構成要件(上記「1」を参照。)は、本件特許発明1、10、14に特定されているから(なお、本件特許発明14の「酸化物換算でBaO 20~45モル%、B2O3 20~45モル%、SiO2 25~55モル%を含み・・・第1のガラス成分」は、明細書の段落【0031】によれば、「ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□~1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数(TCR)がプラスの範囲を示すガラスフリット」を組成で具体的に示したものである。)、本件特許発明1、10、14は異議申立人が主張するような未完成発明ではない。
したがって、理由3により、本件特許発明1ないし3、5ないし9、及び13を取り消すことはできない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立書に記載した取消理由によっては、請求項1ないし3、5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1ないし3、5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
更に、請求項4及び16に係る特許は、本件訂正請求により削除されたため、本件特許の請求項4及び16に対して申立人がした特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700231