特許異議申立
2017-700067
焼付き防止ボルト
- 審判番号
- 2017-700067
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-125938
- 登録番号
- 特許第5957716号(P5957716)
- 請求日
- 2017年01月27日
- 審決日
- 2017年09月15日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社青山製作所
- 【権利者代理人】特許業務法人なじま特許事務所
- 【異議申立人】小坂 美智子
- 審判長/審判官
- 審判長 冨岡 和人
- 審判官 小関 峰夫
- 審判官 中川 隆司
- 分類
- P1651.121-YAA(F16B) / P1651.537-YAA(F16B) / P1651.851-YAA(F16B) / P1651.853-YAA(F16B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5957716号発明「焼付き防止ボルト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5957716号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第5957716号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
特許第5957716号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5957716号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成24年6月1日に特許出願され、平成28年7月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年1月27日に特許異議申立人小坂美智子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年4月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月8日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して同年7月24日に異議申立人から意見書が提出されたものである
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に、「前記縦溝の深さFが、異物の直径をS1としたとき、F≧(2S1+D-D1)/2であることを特徴とする請求項1記載の焼付き防止ボルト。」と記載されているのを、
「呼び径D、内径D1のめねじに螺合されるボルトであって、ボルト軸部に形成された正規ねじ部の先端に、外径寸法dがめねじの内径D1よりも大きく、かつ(D+D1)/2よりも小さい不完全ねじ部を1ピッチ以上にわたり形成するとともに、この不完全ねじ部にスパッタを切り欠くための縦溝を形成し、前記縦溝の深さFが、スパッタの直径をS1としたとき、F≧(2S1+D-D1)/2であることを特徴とする焼付き防止ボルト。」に訂正する。(下線は、特許権者が付与。以下、同様。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を、訂正された請求項2を引用したものとする。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を、訂正された請求項3を引用したものとする。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0008】の全体を削除する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0009】に「なお前記縦溝の深さFが、異物の直径をS1としたとき、F≧(2S1+D-D1)/2であることが好ましい。」と記載されているのを、「上記した従来の課題を解決するためになされた本発明の焼付き防止ボルトは、呼び径D、内径D1のめねじ20に螺合されるボルトであって、ボルト軸部に形成された正規ねじ部の先端に、外径寸法dがめねじの内径D1よりも大きく、かつ(D+D1)/2よりも小さい不完全ねじ部を1ピッチ以上にわたり形成するとともに、この不完全ねじ部にスパッタを切り欠くための縦溝を形成し、前記縦溝の深さFが、スパッタの直径をS1としたとき、F≧(2S1+D-D1)/2であることが好ましい。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に関連する記載として、特許第5957716号の明細書(以下、「明細書」という。)には、「この縦溝14の深さは、めねじ20の内面に付着したスパッタS等の異物を確実に切り欠くことができるように設定する必要がある。図7はその関係を示す説明図であり、スパッタS等の異物の直径をS1とし、縦溝14の深さをFとすると、スパッタ径、すなわちスパッタSの内側端までの直径は、D1-2S1である。一方、切欠き径、すなわち縦溝14の底面までの直径はD-2Fである。スパッタ径が切欠き径以上でないとスパッタSが噛み込んでしまい切り欠くことはできないから、両者の関係はD-2F≦D1-2S1である。よってF≧(2S1+D-D1)/2となる。」(段落【0021】)と記載されている。
この記載からみて、「異物の直径」を「スパッタの直径」とした発明は、明細書に記載されているものと認められる。
そうすると、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を引用しないものとするとともに、明細書に記載された事項の範囲内において、「異物の直径」を「スパッタの直径」に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項2の発明特定事項を請求項3に取り込み、明細書に記載された事項の範囲内において、「異物の直径」を「スパッタの直径」に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項2及び3の発明特定事項を請求項4に取り込み、明細書に記載された事項の範囲内において、「異物の直径」を「スパッタの直径」に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5及び6について
訂正事項5及び6は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、これらの訂正事項は、一群の請求項に対して請求されたものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正により訂正請求項2~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」~「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項2~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項2】
呼び径D、内径D1のめねじに螺合されるボルトであって、ボルト軸部に形成された正規ねじ部の先端に、外径寸法dがめねじの内径D1よりも大きく、かつ(D+D1)/2よりも小さい不完全ねじ部を1ピッチ以上にわたり形成するとともに、この不完全ねじ部にスパッタを切り欠くための縦溝を形成し、前記縦溝の深さFが、スパッタの直径をS1としたとき、F≧(2S1+D-D1)/2であることを特徴とする焼付き防止ボルト。
【請求項3】
不完全ねじ部の先端に、さらにガイド部を形成したことを特徴とする請求項2記載の焼付き防止ボルト。
【請求項4】
前記縦溝を、ガイド部の先端まで形成したことを特徴とする請求項3記載の焼付き防止ボルト。」
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1~4に係る特許に対して平成29年4月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1(特許法第29条第2項)について
請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証~甲第4号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特表2012-504731号公報
甲第2号証:特開平6-313418号公報
甲第3号証:実願昭60-172560号(実開昭62-80009号)
のマイクロフィルム
甲第4号証:特開2003-278729号公報
(2)理由2(特許法第36条第6項第2号)について
請求項2の「異物の直径S1」との記載が不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反してされたものである。
3 甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には、「焼付き防止ボルト」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
呼び径D、内径D1のめねじに螺合されるボルトであって、
ボルト軸部に形成された正規ねじ部の先端に、外径寸法dがめねじの内径D1よりも大きく、かつ(D+D1)/2よりも小さい小径ねじ部を、1ピッチ以上にわたり形成したことを特徴とする焼付き防止ボルト。
【請求項2】
小径ねじ部の外径寸法dを、ボルト有効径よりも大きくしたことを特徴とする請求項1記載の焼付き防止ボルト。
【請求項3】
小径ねじ部を、1~3ピッチにわたり形成したことを特徴とする請求項1記載の焼付き防止ボルト。
【請求項4】
小径ねじ部の先端に、めねじの内径D1よりも細径のパイロット部をさらに形成したことを特徴とする請求項1記載の焼付き防止ボルト。」
イ 「【0009】
本発明のボルトは、正規ねじ部の先端に小径ねじ部を1ピッチ以上にわたり形成したものであるが、この小径ねじ部の外径寸法dをめねじの内径D1よりも大きく(D+D1)/2よりも小さく設定した。このため本発明のボルトはめねじに対して多少斜め方向に挿入された場合にも、この小径ねじ部のねじ山がめねじのねじ山と無理にかみ合うことがなく、焼付くことがない。この点については後に詳しく説明する。また小径ねじ部は1ピッチ以上にわたって形成されているので、めねじの切り上がりに対してボルトがどの方向に傾いても焼付くことがない。なお本発明のボルトは本来パイロット部を必要としないものであるが、請求項4のように小径ねじ部の先端にパイロット部をさらに形成しても差し支えない。」
上記記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、本件発明2の記載ぶりに則って整理すると、実施例として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「呼び径D、内径D1のめねじ20に螺合されるボルト10であって、ボルト軸部に形成された正規ねじ部11の先端に、外径寸法dがめねじ20の内径D1よりも大きく、かつ(D+D1)/2よりも小さい小径ねじ部12を1ピッチ以上にわたり形成した焼付き防止ボルト10。」
(2)甲第2号証
甲第2号証には、「塗装取りボルト」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ボルト、特に、内面に塗料が付着したナットに螺合する塗装取りボルトに関するものである。」
イ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、ボルトの倒れを防止して、正規のねじの嵌め合いとなるようにして、ボルトが塗装を取る以前、または、塗装を取っている段階でのねじの噛み込みをなくし、ねじ込み時でのトルクを低くし、作業者への負担を軽減することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、請求項1に記載の発明においては、塗装取りボルトにおいて、ねじ山部の先端部にナット内径とほぼ等しい外径の案内部が形成され、かつ、前記ねじ山部の一部から前記案内部にかけて、軸方向に沿って断面が台形で谷径より深い少なくとも1本の溝部が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】また、請求項2に記載の発明においては、塗装取りボルトにおいて、ねじ山部の先端部に谷径より小さい外径の案内部が形成され、かつ、前記案内部に至る前記ねじ山部の一部に、軸方向に沿って断面が台形で谷径より深く前記案内部の外径より浅い少なくとも1本の溝部が形成されていることを特徴とするものである。」
ウ 「【0011】
【実施例】図1は、本発明のボルトの第1の実施例を説明するためのもので、図1(A)は先端部近傍の側面図、図1(B)は各部の説明図、図1(C)は溝部の断面図である。図中、1はボルト、1aはねじ山部、1bは案内部、1cは転造痕、6は溝部である。ボルト1は、ねじ山部1aに続いて案内部1bが形成されている。案内部1bには転造痕1cが形成されている。案内部1bの外径dは、ボルト1が螺合される固定ナットの内径にほぼ等しく、むしろやや小さめであり、ほぼ同じ外径で先端まで続いている。溝部6は、ねじ山部の数山、例えば、3山から案内部1bにかけて、断面が台形の溝として、周上に5本が設けられている。」
エ 「【0014】この実施例では、案内部1bが、ねじ込まれるナットの内径にほぼ等しい外径を有しているため、案内部1bがナット内に挿入されると、常にボルト1とナットのねじ面は垂直状態を保つことができ、どんな締め付け作業姿勢であってもボルトに倒れは生じない。また、ボルトとナット面が常に垂直であることが保証されるから、ボルトとナットのねじ山は常に正規の状態で噛み合い、噛み込みは生じない。そして、ねじ込みの際に、ナット内の塗膜を剥離できるので、抵抗力を増加させることもない。」
オ 「【0020】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明のボルトによれば、ボルトの倒れを防止して、正規のねじの嵌め合いを保証でき、噛み込みの発生を避けることができる。また、ねじ込みの際に、ナット内の塗膜を剥離できるので、抵抗力を増加させることもなく、例えば、自動車の組立ラインでの締め付け作業等に用いて、作業性を向上させることができるという効果がある。」
カ 図1(A)を参照すると、縦に設けられた溝部6(以下、「縦溝6」という。)が設けられた3山のねじ山部1aは、2山目から徐々に頂部が低くなって案内部1bにつながっており、1~2ピッチ分が不完全ねじ部となっていることが看取される。
上記記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第2号証には、次の事項が記載されている(以下、「甲第2号証に記載された事項」という。)。
「ねじ山部1aに続いて案内部1bが形成され、縦溝6は、ねじ山部の数山、例えば、3山から案内部1bにかけて、断面が台形の溝として、周上に5本が設けられ、縦溝6が設けられるねじ山部1aは、少なくとも1~2ピッチ分が不完全ねじ山部となっていること。
また、上記縦溝6は、ナット内の塗膜を剥離するためのものであること。」
(3)甲第3号証
甲第3号証には、「ねじ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
「第1図、第2図において(5)はねじ(1)のねじ軸(2)に沿って設けられた切欠長溝で、これにより切刃となる鋭利なねじ縁部(6)と異物排除溝(7)が同時に形成される。
ねじ(1)を本体(3)のねじ穴(4)に螺挿すると、ねじ縁部(6)の切刃作用によりねじ穴(4)のねじ面に付着した異物を削除し異物排除溝(7)に沿って上方へ排除しながら螺挿を行う。
なお、上記実施例では切欠長溝(5)はねじ軸(2)と平行に設けたものを示したが、ねじの螺線方向と同方向に3度~7度の傾斜角度で設けると更に排除効果が向上できる。」(明細書3ページ3行~14行)
上記記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第3号証には、次の事項が記載されている(以下、「甲第3号証に記載された事項」という。)。
「ねじ軸2に異物を削除し排除する切欠長溝5を形成すること。」
(4)甲第4号証
甲第4号証には、「切欠付きねじ部品及びその製造方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ねじ込み時にナットの内面に付着している塗装を除去しながらねじ込むことのできる切欠付きねじ部品及びその製造方法に関するものである。」
イ 「【0007】ねじ部品の軸部5とねじガイド部8との境界近傍に位置するねじ山4には、このねじ山4の転造加工と同時に形成された塗装除去用の切欠11が軸部5外周に120°間隔で3ヵ所設けられている。切欠11は4つや5つなど適宜の数とすることができる。この切欠11は、図4にも示すように軸部5の軸方向に平行に形成されていてねじ山4と交叉している。また、切欠11の谷は、図5にも示すようにねじ山4の谷径12に達しない深さに形成されていて、且つ、切欠11の谷径15が螺合する雌ねじ10の内径を超えて小さくならないように形成されている。即ち、切欠11の谷径15を雌ねじ10の内径より大きく形成することで、ねじ山剪断面積の減少を回避することができ、ねじ山4の剪断強度を確保して、切欠11の部分を締結完了時に雌ねじと螺合させた場合にねじ山4の剪断強度の低下を防止することができる。即ち、切欠11が形成されていても切欠11のない通常のねじ部品と同じねじ山4の剪断強度を持つねじ部品として扱うことができる。」
上記記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第4号証には、次の事項が記載されている(以下、「甲第4号証に記載された事項」という。)。
「軸部5のねじ山4に、塗装除去用の切欠11を設けること。」
4 判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 本件発明2について
本件発明2と引用発明とを対比する。
引用発明の「呼び径D、内径D1のめねじ20」は、本件発明2の「呼び径D、内径D1のめねじ」に相当する。
以下同様に、「ボルト10」は、「ボルト」に、
「正規ねじ部11」は、「正規ねじ部」に、
「小径ねじ部12」は、「不完全ねじ部」に、
「焼付き防止ボルト10」は、「焼付き防止ボルト」に、それぞれ相当する。
以上のことから、本件発明2と引用発明とは次の点で一致する。
[一致点]
「呼び径D、内径D1のめねじに螺合されるボルトであって、ボルト軸部に形成された正規ねじ部の先端に、外径寸法dがめねじの内径D1よりも大きく、かつ(D+D1)/2よりも小さい不完全ねじ部を1ピッチ以上にわたり形成した焼付き防止ボルト。」
一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本件発明2では、「不完全ねじ部にスパッタを切り欠くための縦溝を形成し、前記縦溝の深さFが、スパッタの直径をS1としたとき、F≧(2S1+D-D1)/2である」との構成を備えるのに対して、
引用発明では、かかる構成を備えていない点。
上記相違点について検討する。
本件発明2では、「スパッタS等の異物の直径をS1とし、縦溝14の深さをFとすると、スパッタ径、すなわちスパッタSの内側端までの直径は、D1-2S1である。一方、切欠き径、すなわち縦溝14の底面までの直径はD-2Fである。スパッタ径が切欠き径以上でないとスパッタSが噛み込んでしまい切り欠くことはできないから、両者の関係はD-2F≦D1-2S1である。よってF≧(2S1+D-D1)/2となる。」(明細書段落【0021】)との理由から、上記相違点に係る本件発明2の構成において、不完全ねじ部の縦溝の深さを、スパッタの直径S1との関係で定めており、これにより、「めねじ内に進入したスパッタは縦溝を通じて排出されるか、あるいはこの縦溝によって切り欠かれて破砕される。このため、斜め入りが原因となる焼付きのみならず、スパッタ進入による焼付きをも防止することができる。」(明細書段落【0011】)との効果を奏するものである。
これに対して、甲第2号証に記載された事項は、ナット内の塗膜を剥離するために、ねじ山部の数山から案内部1bにかけて、縦溝6(本件発明2の「縦溝」に相当。)を設け、縦溝6が設けられるねじ山部1aは、少なくとも1~2ピッチ分が不完全ねじ山部(本件発明2の「不完全ねじ部」に相当。)ではあるものの、不完全ねじ部の縦溝の深さを、スパッタの直径S1との関係で定めたものではなく、また示唆するものでもない。
また、周知技術の例として示された甲第3号証に記載された事項は、ねじ軸2に異物を削除し排除する切欠長溝5(本件発明2の「縦溝」に相当。)を形成するものであり、同じく周知技術の例として示された甲第4号証に記載された事項は、軸部5のねじ山4に、塗装除去用の切欠11(本件発明2の「縦溝」に相当。)を設けるものであるが、不完全ねじ部の縦溝の深さを、スパッタの直径S1との関係で定めるものではなく、また示唆するものでもない。
以上のことから、たとえ引用発明に、甲第2号証に記載された事項、及び周知技術(甲第3及び4号証に記載された事項。)を適用したとしても、上記相違点に係る本件発明2の構成に至るものではない。
したがって、上記相違点に係る本件発明2の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明2は、引用発明、甲第2号証に記載された事項、及び周知技術(甲第3及び4号証に記載された事項。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
イ 本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるので、本件発明2と同様に、引用発明、甲第2号証に記載された事項、及び周知技術(甲第3及び4号証に記載された事項。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)特許法第36条第6項第2号について
特許法第36条第6項第2号についての取消理由の概要は、異物の形状が特定されておらず、「異物の直径をS1」が不明であり、また、例示のスパッタは完全な球面ではなく、直径は一義的に決まらないから、「スパッタの直径をS1」に依存する縦溝14の深さFが特定されないというものである。
ところで、訂正前の請求項2の「異物の直径をS1」との記載は、本件訂正により「スパッタの直径をS1」と訂正された。
ここで、スパッタは、溶接熱により溶融した金属が空中で粒状に凝固したもので、この溶融金属は表面張力により、空中でほぼ完全な球状となって溶接部の周囲に飛散するものであるから、その直径は一義的に特定される。
そうすると、請求項2の「スパッタの直径をS1」との記載は明確であるから、スパッタの直径をS1に依存する縦溝14の深さFも明確である。
したがって、請求項2の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明2~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1に対して、異議申立人がした異議申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700067