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特許異議申立

2017-700009

動物モデルおよび治療用分子

審判番号
2017-700009
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2012-519063
登録番号
特許第5944312号(P5944312)
請求日
2017年01月05日
審決日
2017年04月06日
公報発行日
2017年05月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】カイマブ・リミテッド
  • 【権利者代理人】村山 靖彦
  • 【権利者代理人】実広 信哉
  • 【権利者代理人】阿部 達彦
  • 【異議申立人】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
  • 【異議申立人代理人】高島 一
  • 【異議申立人代理人】鎌田 光宜
  • 【異議申立人代理人】戸崎 富哉
審判長/審判官
  • 審判長 田村 明照
  • 審判官 長井 啓子
  • 審判官 山崎 利直
分類
P1651.113-Y (C12N) / P1651.121-Y (C12N) / P1651.537-Y (C12N) / P1651.55 -Y (C12N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5944312号発明「動物モデルおよび治療用分子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5944312号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 1.手続の経緯 特許第5944312号の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成22年7月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年7月8日 英国、2009年7月8日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッドにより平成29年1月5日に特許異議の申立てがされたものである。 2.本件発明 特許第5944312号の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1~14」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(本件発明1)は、以下の通りである。 【請求項1】 ゲノムが、 (a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域 を含み、 非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体またはキメラ重鎖および場合によりキメラ軽鎖のレパートリーを生成することができる非ヒト哺乳動物であって、 DNAが挿入される非ヒト哺乳動物ゲノムは、欠失していない内在性のV(D)J領域を含み、 げっ歯動物であり、 ヒト重鎖DNAの挿入を、非ヒト哺乳動物定常領域と、最後の3'非ヒト哺乳動物J領域との間で行う、非ヒト哺乳動物であるか、 あるいは ゲノムが、 (a)宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の1つまたは複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域 を含み、 非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体またはキメラ軽鎖および場合によりキメラ重鎖のレパートリーを生成することができ、 DNAが挿入される非ヒト哺乳動物ゲノムは欠失していない内在性のV(D)J領域を含み、 げっ歯動物であり、 ヒトカッパまたはラムダ鎖DNAの挿入を、非ヒト哺乳動物定常領域と、最後の3'非ヒト哺乳動物J領域との間で行う、非ヒト哺乳動物。 3.申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証~甲第23号証を提出し、請求項1~14に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、甲第1号証と甲第3~23号証とに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張し、請求項1~14に係る発明の記載は、不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨主張し、請求項6-14に係る発明は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものでなく、新規事項の追加に該当するので、特許法第17条の2第3項の要件に規定する要件を満たしていない旨主張している。 4.当審の判断 (1)新規性(特許法第29条第1項第3号) ア 甲第1号証に係る特表2004-524841号公報 甲第1号証に係る特表2004-524841号公報(特に、請求項21及び30、明細書段落【0043】及び【0119】、図4参照)には、 「トランスジェニックマウスであって、該マウスは内因性マウス定常領域座に作動可能に連結されたヒト重鎖可変領域座および/またはヒト軽鎖可変領域座を含むゲノムを有し、その結果、該マウスは、抗原性刺激に応答してヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を含有する血清を産生する、トランスジェニックマウス。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 イ 本件発明1と甲1発明の対比 甲1発明の「ヒト可変領域」には、「ヒト重鎖可変領域」と「ヒト軽鎖可変領域」が含まれ、甲1発明の「マウス定常領域」には、「マウス重鎖定常領域」と「マウス軽鎖定常領域」が含まれ、「重鎖可変領域」と「重鎖定常領域」、「軽鎖可変領域座」と「軽鎖定常領域」がそれぞれ組み合わされて「重鎖」と「軽鎖」を形成すること、「軽鎖」には「カッパ鎖」と「ラムダ鎖」の2種類が存在するという技術常識を考慮して、本件発明1と甲1発明を対比すると、以下の一致点および相違点がある。 (一致点) 「ゲノムが、 (a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域を含み、 非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体またはキメラ重鎖および場合によりキメラ軽鎖のレパートリーを生成することができる非ヒト哺乳動物であって、 げっ歯動物である、 非ヒト哺乳動物であるか、 あるいは ゲノムが、 (a)宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の1つまたは複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域 を含み、 非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体またはキメラ軽鎖および場合によりキメラ重鎖のレパートリーを生成することができ、 げっ歯動物である、 非ヒト哺乳動物。」 (相違点1) 前者が「DNAが挿入される非ヒト哺乳動物ゲノムは、欠失していない内在性のV(D)J領域を含み」と特定されているのに対して、後者にはこのような特定がないこと (相違点2) 前者が「ヒト重鎖DNAの挿入を、非ヒト哺乳動物定常領域と、最後の3'非ヒト哺乳動物J領域との間で行うこと」あるいは「ヒトカッパまたはラムダ鎖DNAの挿入を、非ヒト哺乳動物定常領域と、最後の3'非ヒト哺乳動物J領域との間で行う」ことが特定されているのに対して、後者にはこのような特定がないこと ウ 相違点1および相違点2に対する異議申立人の主張 これに対して、異議申立人は、特許異議申立書において、 「甲第1号証には、さらに、内在性重鎖可変領域遺伝子座のみが全部又は一部ヒト重鎖可変領域遺伝子座で置換された動物又は細胞、同じ改変がκ軽鎖もしくはλ軽鎖遺伝子座のみでなされた動物又は細胞が記載されている。これらの実施態様においては、イムノグロブリン遺伝子座の1つのみしか改変されていないので、甲第1号証は、欠失していない内在性のVDJ領域を含むゲノムを有する動物又は細胞を開示しているといえる。また、甲第1号証では、遺伝子座の一部を置換することにも言及しているので、ヒト可変領域が導入されるのと同一の遺伝子座の内在性V(D)J領域が維持される態様が記載されているといえる。」と主張している。 エ 相違点1および相違点2に対する判断 確かに、相違点1に係る「DNAが挿入される非ヒト哺乳動物ゲノムは、欠失していない内在性のV(D)J領域を含み」という記載は、当該記載単独では、異議申立人が主張するような解釈ができないとも言えない。 しかしながら、相違点2に係る「ヒト重鎖DNAの挿入を、非ヒト哺乳動物定常領域と、最後の3'非ヒト哺乳動物J領域との間で行うこと」あるいは「ヒトカッパまたはラムダ鎖DNAの挿入を、非ヒト哺乳動物定常領域と、最後の3'非ヒト哺乳動物J領域との間で行う」ことという記載を併せ読んだ場合には、ヒト由来のDNAを「非ヒト哺乳動物定常領域と、最後の3'非ヒト哺乳動物J領域との間」に挿入するに際して、当該ヒト由来の「DNAが挿入される非ヒト哺乳動物ゲノムは、欠失していない内在性のV(D)J領域を含」むこと、すなわち、ヒト由来の可変領域DNAが挿入された直ぐ上流の内在性のV(D)J可変領域が欠失していないことを本件発明1は明確に特定していると解釈される。 また、本件の明細書(下線は当審で付与)には、「背景技術」として、 「【背景技術】 【0002】 抗体をヒト化する際の問題を回避するために、いくつかの会社が、ヒト免疫系を有するマウスの生成に着手した。使用された戦略は、ES細胞中の重鎖および軽鎖の遺伝子座をノックアウトし、これらの遺伝子の損傷を、ヒトの重鎖および軽鎖の遺伝子を発現するように設計した導入遺伝子で補足することであった。これらのモデルは、完全にヒトの抗体を生成することができたが、以下に示す、いくつかの大きな欠点を有する。 (i)重鎖および軽鎖の遺伝子座のサイズ(それぞれ、数Mb)のために、遺伝子座全体をこれらのモデルに導入することが不可能であった。結果として、回収された遺伝子導入系は、V領域の非常に限定的なレパートリーしか有さず、定常領域のうちのほとんどが欠落し、重要な遠位エンハンサー領域は、導入遺伝子中に含まれなかった。 (ii)大きな挿入遺伝子導入系の生成の非常に低い効率、ならびにこれらのそれぞれを重鎖および軽鎖のノックアウト系統中に交雑させ、それらを再びホモ接合型とするのに必要な複雑性および時間のために、最適な発現について解析することができる遺伝子導入系の数が制限された。 (iii)個々の抗体の親和性が、未改変(非トランスジェニック)動物から得ることができる親和性にまれにしか達しなかった。」と記載され、さらに、本件発明の課題および課題解決手段として、 「【0041】 上記で説明したように、先行技術のモデルのために使用されたトランスジェニックな遺伝子座は、ヒト起源であり、したがって、マウスが、完全にヒトの抗体を生成するB細胞を生成するように、導入遺伝子がマウス遺伝子座を補足することができた場合であっても、個々の抗体の親和性は、未変化の(非トランスジェニックな)動物から得ることができる親和性にはまれにしか達しなかった。(上記のレパートリーおよび発現レベルに加えて)このことについての主要な理由は、遺伝子座の調節エレメントがヒトであるという事実である。したがって、シグナル伝達構成成分、例えば、高頻度突然変異および高い親和性の抗体の選択を活性化するための構成成分が損なわれる。 【0042】 対照的に、本発明では、宿主非ヒト哺乳動物定常領域を維持し、少なくとも1つの非ヒト哺乳動物のエンハンサーまたはその他の制御配列、例として、スイッチ領域を、非ヒト哺乳動物定常領域と機能性の配置に維持し、したがって、宿主哺乳動物において見られる、エンハンサーまたはその他の制御配列の効果の全部または一部が、トランスジェニック動物において発揮されることが好ましい。 【0043】 上記のこのアプローチは、十分に多様なヒト遺伝子座を収集することが可能になり、非ヒト哺乳動物の制御配列、例として、エンハンサーにより達成されるであろう同じ高い発現レベルが可能になるように設計され、したがって、B細胞におけるシグナル伝達、例えば、スイッチ組換え部位を使用するアイソタイプスイッチが、非ヒト哺乳動物の配列を依然として使用するであろう。」と記載されている。 このような本件の明細書の記載は、相違点1および相違点2を併せ読んだ場合における「ヒト由来の可変領域DNAが挿入された直ぐ上流の内在性のV(D)J可変領域が欠失していないこと」という上記解釈を強く肯定するものである。 一方、甲第1号証(下線は当審で付与)には、 「【請求項1】 非ヒト真核生物細胞において、内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座をホモログヒト遺伝子座またはオルソログヒト遺伝子座と、全部または一部置換する方法であって、該方法は、以下: a)改変改変該ホモログヒト遺伝子座または該オルソログヒト遺伝子座を全部または一部含む、大きなクローン化されたゲノムフラグメントを得る工程; b)細菌相同組換えを使用して、(a)の該クローン化されたゲノムフラグメントを遺伝子改変し、真核生物細胞における使用のための大きな標的化ベクター(LTVEC)を作製する工程; c)(b)の該LTVECを該真核生物細胞に導入して、該内因性免疫グロブリン可変遺伝子座を、全部または一部置換する工程;ならびに d)(c)の該真核生物細胞において対立遺伝子の改変(MOA)を検出するために定量アッセイを使用して、該内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座が、該ホモログヒト遺伝子座または該オルソログヒト遺伝子座と、全部または一部置換された真核生物細胞を同定する、工程、 を包含する、方法。」および 「【図4】図4A~4Dは、マウスVDJ領域をヒトVDJ領域で置き換えて構築した2つのLTVECの模式図である。」と記載されており、本件発明1の「ヒト由来の可変領域DNAが挿入された直ぐ上流の内在性のV(D)J可変領域が欠失していないこと」という技術思想は甲第1号証には記載されていない。 してみると、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するとの異議申立人の主張には理由がない。 そして、同様にして、相違点1および相違点2を発明特定事項として含む本件発明2~14についても、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するとの異議申立人の主張には理由がない。 オ 甲第2号証に係る国際公開WO2009/013620号公報 甲第2号証には、対応する非ヒト哺乳動物ホストの遺伝子セグメントをヒト起源のV、DおよびJ遺伝子セグメントで置換すること(特に、11頁14~17行および19頁30行)、そのために実施例1において「ネズミ科V、DおよびJ遺伝子セグメントの欠失」(22頁11行以下)が行われている。 そして、本件発明1~14の「ヒト由来の可変領域DNAが挿入された直ぐ上流の内在性のV(D)J可変領域が欠失していないこと」という技術思想は甲第2号証にも記載されておらず、本件発明1~14は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する旨の異議申立人の主張にも理由がない。 カ 小括 新規性(特許法第29条第1項第3号)に係る異議申立人の主張はいずれも理由がない。 (2)進歩性(特許法第29条第2項) ア 異議申立人の主張 異議申立人は、異議申立書において、本件発明1~14は、甲第1号証と甲第3~23号証とに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張し、より詳細には、以下の5つの組合せによる進歩性欠如を項分けして主張している。 (ア)甲第1号証のみに基づく進歩性欠如 (イ)甲第1号証と甲第3号証の組み合わせによる進歩性欠如 (ウ)甲第1号証と甲第23号証の組み合わせによる進歩性欠如 (エ)甲第1号証と、甲第4号証ないし甲第12号証のいずれか、又は甲第21号証/甲第22号証との組み合わせによる進歩性欠如 (オ)甲第1号証と甲第20号証の組み合わせによる進歩性欠如 イ 甲第1号証に係る特表2004-524841号公報 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)は、上記(1)アに記載したとおりである。 ウ 本件発明1と甲1発明の対比 本件発明1と甲1発明の一致点および相違点は、上記(1)イに記載したとおりである。 エ 相違点に対する判断 (ア)相違点に対する異議申立人の主張 異議申立書には、「甲第1号証には、内在性の染色体座で齧歯動物定常領域に作動可能にヒト可変領域を連結することの利点につき、詳細に記述している。したがって、甲第1号証には、齧歯動物定常領域の上流にヒト可変領域を連結する別のアプローチとして、本件特許発明の内在性のV(D)J領域を欠失させる代わりに、該V(D)J領域と定常領域との間にヒトV(D)J領域を挿入ことの動機づけがあることは明らかである。齧歯動物定常領域の上流にヒト可変領域を導入するための方法論として、内在性の可変領域のヒト可変領域での置換(その結果としての内在性可変領域の欠失)の代わりに、ヒト可変領域を内在性の可変領域と定常領域との間に挿入することは、常套的かつ自明な代替手段であったことは明らかである。」と記載されている。 (イ)相違点に対する当審の判断 しかしながら、上記(1)エに記載したように、「ヒト由来の可変領域DNAが挿入された直ぐ上流の内在性のV(D)J可変領域が欠失していないこと」という技術思想は甲第1号証には記載されていない。 一方、本件発明1においては、ヒト由来のDNAを「非ヒト哺乳動物定常領域と、最後の3'非ヒト哺乳動物J領域との間」に挿入するに際して、当該ヒト由来の「DNAが挿入される非ヒト哺乳動物ゲノムは、欠失していない内在性のV(D)J領域を含」むこと、すなわち、ヒト由来の可変領域DNAが挿入された直ぐ上流の内在性のV(D)J可変領域が欠失していないことを明確に特定している。 そして、本件の明細書においても、段落【0002】記載の【背景技術】の下、段落【0041】~【0043】記載の本件発明の課題および課題解決手段によって、「本発明では、・・・少なくとも1つの非ヒト哺乳動物のエンハンサーまたはその他の制御配列、例として、スイッチ領域を、非ヒト哺乳動物定常領域と機能性の配置に維持し、したがって、宿主哺乳動物において見られる、エンハンサーまたはその他の制御配列の効果の全部または一部が、トランスジェニック動物において発揮され」、「非ヒト哺乳動物の制御配列、例として、エンハンサーにより達成されるであろう同じ高い発現レベルが可能になるように設計され、したがって、B細胞におけるシグナル伝達、例えば、スイッチ組換え部位を使用するアイソタイプスイッチが、非ヒト哺乳動物の配列を依然として使用する」という有利な効果が記載されている。 ここで、異議申立人の主張を検討するに、「甲第1号証には、内在性の染色体座で齧歯動物定常領域に作動可能にヒト可変領域を連結することの利点につき、詳細に記述している」ことは認められるものの、「齧歯動物定常領域の上流にヒト可変領域を連結する別のアプローチとして、本件特許発明の内在性のV(D)J領域を欠失させる代わりに、該V(D)J領域と定常領域との間にヒトV(D)J領域を挿入ことの動機づけがあることは明らかである」との主張には根拠がなく、甲第1号証に異議申立人が主張するような「動機づけ」が存在するとは認められない。 してみれば、甲第1号証には、「内在性のV(D)J領域を欠失させる代わりに、該V(D)J領域と定常領域との間にヒトV(D)J領域を挿入ことの動機づけ」が存在しないので、上記ア(ア)に記載した異議申立人の主張には理由がない。 また、甲第3~23号証のいずれの証拠にも、「内在性のV(D)J領域を欠失させる代わりに、該V(D)J領域と定常領域との間にヒトV(D)J領域を挿入ことの動機づけ」が存在しないので、上記ア(イ)~ア(オ)のいずれの組合せにおいても本件発明1が進歩性欠如とすることはできない。 そして、同様にして、同じ相違点を発明特定事項として含む本件発明2~14についても、上記ア(ア)~ア(オ)のいずれの組合せを用いても進歩性欠如とすることはできない。 オ 小括 進歩性(特許法第29条第2項)に係る異議申立人の主張はいずれも理由がない。 (3)明確性(特許法第36条第6項第2号) ア 欠失していない内在性のV(D)J領域 異議申立人は、請求項1および2の「欠夫していない内在性のV(D)J領域」なる表現は、内在性のV(D)J領域が全く欠失していない(即ち、すべてがインタクトに保持されている)ことを意味するのか、あるいは、内在性のV(D)J領域が完全には欠失していない(一部は保持されている)ことを意味するのかが不明確である旨主張している。 しかしながら、本件の明細書には、ヒト可変領域を対応する内在性の可変領域と定常領域の間に挿入することが処々に記載されており、結果として、内在性の可変領域(V(D)J領域)が欠失していないことも確認的に記載されている(段落【0115】)。 そして、請求項1および2の「欠失していない内在性のV(D)J領域」の意義が段落【0041】~【0043】に記載された本件発明の効果が発揮される程度に「欠失していない」ことは本件の明細書の記載から明らかであるので、本件発明1および2が不明確であるとは言えない。 イ ラットのスイッチ配列 異議申立人は、請求項9の「ラットのスイッチ配列」なる文言は、細胞のゲノムが別の細胞又は生物体由来の定常領域DNAを含まず(請求項8)、かつ非ヒト動物がラットでない揚合、どのような配列が「ラット」のスイッチ配列であるのかが不明確である旨主張している。 しかしながら、「定常領域DNA」を狭義に解釈すれば、宿主に由来しない「ラットのスイッチ配列」が含まれていても不合理ではない。 したがって、本件発明8および9が不明確であるとは言えない。 (4)新規事項(特許法第17条の2第3項) 請求項6の「抗体産生細胞」、請求項11の「細胞の不死化」、請求項9の「ラットのスイッチ配列を含む」、請求項14の「場合により」および請求項14の「キメラ抗体鎖」という文言は、本件の出願当初の明細書又は特許請求の範囲に記載があるので、新規事項とは言えない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700009

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