特許拒絶査定不服審判
2017-015268
電動パワーステアリング駆動装置
- 審判番号
- 2017-015268
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-514939外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年10月13日
- 審決日
- 2018年11月05日
- 公報発行日
- 2018年12月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (B62D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2017-514939号「電動パワーステアリング駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月21日国際公開、WO2017/158966号、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
本願は、2016年12月13日(優先権主張 2016年3月18日、日本国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 3月16日 :手続補正書の提出
平成29年 6月 1日付け:拒絶理由通知書
平成29年 7月20日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 8月17日付け:拒絶査定
平成29年10月13日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2.原査定の概要
原査定(平成29年8月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1~4に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1~3(以下「引用文献1~3」という。)に記載された発明に基いて、本願の請求項5及び6に係る発明は、以下の引用文献1~3及び刊行物4(以下「引用文献4」という。)に基づいて、本願の請求項7~9に係る発明は、以下の引用文献1~4及び刊行物5(以下「引用文献5」という。)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
1.特開2012-152091号公報
2.特開2016-36246号公報
3.特開2010-267945号公報
4.特開2007-237790号公報
5.特開2007-137302号公報
第3.審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項、第4項及び第5項第2号の要件を満たしている。そして、「第5.当審の判断」に示すように、補正後の請求項1~9に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。
第4.本願発明
本願の請求項1~9に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」~「本願発明9」という。)は、平成29年10月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
運転者が車両の操舵系に加える操舵トルクに対応した補助トルクを発生する電動モータと、前記電動モータの駆動を制御する制御ユニットとを備え、前記運転者の操舵を前記補助トルクにより補助するようにした電動パワーステアリング駆動装置であって、
前記電動モータは、その軸方向の端部に固定された金属筐体を備え、
前記制御ユニットは、
複数のパワースイッチング素子を有し、前記パワースイッチング素子のスイッチング動作に基づいて、前記車両に搭載された直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給する電力変換回路と、
前記パワースイッチング素子のスイッチング動作を制御する制御部と、
前記電力変換回路と前記制御部とを構成する部材のうちの少なくとも一部が搭載され、複数の多層基板が組み合わされて構成された一体型多層基板と、を有し、
前記一体型多層基板は、
放熱板と、
前記放熱板の第1の面に固定され、少なくとも前記パワースイッチング素子が表面に載置されて接続された多層基板により構成された第1の領域と、
前記放熱板の前記第1の面に対して表裏の関係をなす第2の面に固定され、前記制御部を構成する部材のうちの少なくとも一部が表面に載置されて接続され、前記第1の領域を構成する多層基板とは厚さの異なる多層基板により構成された第2の領域と、
前記第1の領域に埋設され、一端が前記パワースイッチング素子に接触し、他端が前記放熱板の前記第1の面の近傍に位置し且つ前記放熱板に対して電気的に絶縁され、前記パワースイッチング素子が発生した熱を前記放熱板に伝達する伝熱部材と、
を有し、
前記放熱板は、
前記第1の領域と前記第2の領域とのうちの少なくとも一方から露出して前記放熱板の面の延びる方向に延出された延出部を有し、
前記延出部は、その少なくとも一部が前記金属筐体に直接当接するように前記金属筐体に固定される、
ことを特徴とする電動パワーステアリング駆動装置。
【請求項2】
前記一体型多層基板は、前記電動モータに近い方から、前記第1の領域を構成する多層基板、前記放熱板、前記第2の領域を構成する多層基板、の順で配置されるように前記金属筐体に固定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング駆動装置。
【請求項3】
前記電力変換回路は、平滑コンデンサをさらに備え、
前記一体型多層基板は、前記第1の領域を構成する多層基板、前記放熱板、および、前記第2の領域を構成する多層基板を貫通する貫通スルーホールが設けられており、
前記平滑コンデンサと前記パワースイッチング素子とを接続する配線は、前記一体型多層基板に設けられた貫通スルーホールを貫通している、
ことを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング駆動装置。
【請求項4】
前記第1の領域と前記第2の領域は、夫々配線パターンが設けられた複数の層を備え、
前記第1の領域に搭載された前記パワースイッチング素子は、前記第1の領域の層に設けられた前記配線パターンにより配線され、
前記第2の領域に搭載された前記制御部を構成する部材のうちの少なくとも一部は、前記第2の領域の層に設けられた前記配線パターンにより配線され、
前記第1の領域の少なくとも一つの層に設けられた前記配線パターンの厚さ寸法と、前記第2の領域の少なくとも一つの層に設けられた前記配線パターンの厚さ寸法と、は異なる値に形成され、
前記第1の領域に設けられた前記配線パターンの厚さ寸法は、前記第2の領域に設けられた前記配線パターンの厚さ寸法より大きく形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング駆動装置。
【請求項5】
前記パワースイッチング素子は、前記第1の領域の前記複数の層のうちの表層に載置され、
前記伝熱部材は、前記複数の層を貫通して配置されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の電動パワーステアリング駆動装置。
【請求項6】
前記パワースイッチング素子は、前記一体型多層基板に対向する面に対して反対側の面が前記金属筐体に当接するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から5のうちの何れか一項に記載の電動パワーステアリング駆動装置。
【請求項7】
前記一体型多層基板の前記第1の領域と前記第2の領域は、夫々、
配線パターンを有する複数の層と、
前記複数の層の間に配置されたプリプレグと、を有し、
前記第1の領域に於ける前記プリプレグは、前記第2の領域に於ける前記プリプレグの熱伝導率よりも高い熱伝導率を備えている、
ことを特徴とする請求項1から6のうちの何れか一項に記載の電動パワーステアリング駆動装置。
【請求項8】
前記金属筐体に固定され、少なくとも前記一体型多層基板を覆う絶縁物製のカバーを備え、
前記一体型多層基板は、前記電力変換回路の平滑コンデンサとノイズフィルタを搭載しており、
前記カバーは、前記平滑コンデンサと前記ノイズフィルタを覆うように構成され、且つ第1の緩衝部材を介して前記平滑コンデンサと当接し、第2の緩衝部材を介して前記ノイズフィルタと当接するように構成され、
前記一体型多層基板の前記延出部は、前記第1の領域と前記第2の領域との双方から露出して前記放熱板の面の延びる方向に延出され、
前記延出部は、前記金属筐体と前記カバーとの間に挿入され、
前記延出部の一方の面は、第3の緩衝部材を介して前記カバーに当接し、
前記延出部の前記一方の面に対して表裏の関係をなす他方の面は、前記金属筐体に直接接触するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から7のうちの何れか一項に記載の電動パワーステアリング駆動装置。
【請求項9】
前記第1の緩衝部材の圧縮に対する反力と前記第2の緩衝部材の圧縮に対する反力は、前記第3の緩衝部材の圧縮に対する反力よりも小さく構成されている、
ことを特徴とする請求項8に記載の電動パワーステアリング駆動装置。」
第5.当審の判断
1.引用文献の記載事項
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明
引用文献1には、「電動パワーステアリング装置」に適用される「駆動装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。
(1a)「【0001】
本発明は、モータと当該モータを制御するコントローラとを一体にした駆動装置に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように制御回路ユニットをモータのシャフトと平行に配置した場合、装置全体の径方向における体格が大型化してしまう。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、径方向における体格を小型化可能な駆動装置を提供することにある。」
(1b)「【0012】
以下、本発明による駆動装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による駆動装置を図1~図16に基づいて説明する。駆動装置1は、電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)に適用される。駆動装置1は、モータ2およびコントロールユニット3を備える。
【0013】
まず、EPSの電気的構成を図1に基づいて説明する。
図1に示すように、駆動装置1は、車両のステアリング5の回転軸たるコラム軸6に取り付けられたギア7を介しコラム軸6に回転トルクを発生させ、ステアリング5による操舵をアシストする。具体的には、ステアリング5が運転者によって操作されると、当該操作によってコラム軸6に生じる操舵トルクをトルクセンサ8によって検出し、また、車速情報を図示しないCAN(Controller Area Network)から取得して、運転者のステアリング5による操舵をアシストする。もちろん、このような機構を利用すれば、制御手法によっては、操舵のアシストのみでなく、高速道路における車線キープ、駐車場における駐車スペースへの誘導など、ステアリング5の操作を自動制御することも可能である。
【0014】
モータ2は、ギア7を正逆回転させる三相ブラシレスモータである。モータ2は、コントロールユニット3により電流の供給および駆動が制御される。コントロールユニット3は、モータ2を駆動する駆動電流が通電されるパワー部100、および、モータ2の駆動を制御する制御部90から構成される。
【0015】
パワー部100は、電源75から電源ラインに介在するチョークコイル76、コンデンサ77、および、二組のインバータ80、89を有している。インバータ80とインバータ89とは、同様の構成であるので、ここではインバータ80について説明する。
一方のインバータ80は、電界効果トランジスタの一種であるMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor、以下、「MOS」という。)81~86を有している。MOS81~86は、ゲート電位により、ソース-ドレイン間がON(導通)またはOFF(遮断)される。なお、MOS81~86が「スイッチング素子」に対応している。」
(1c)「【0024】
図2~図10に示すように、本実施形態の駆動装置1は、モータ2の軸方向の一方の端部にコントロールユニット3が設けられており、モータ2とコントロールユニット3とが積層構造になっている。
まず、図2および図4に基づいて、モータ2について説明する。モータ2は、モータケース10、巻線22が巻回されるステータ20、ロータ25、シャフト27等を備えている。
モータ2の外郭を形成するモータケース10は、周壁11およびコントロールユニット側壁部15を有し、鉄等により有底円筒状に形成される。周壁11のコントロールユニット側壁部15の反対側には、鍔部12が形成され、アルミ等により形成されるフレームエンド13がねじ14により固定される。コントロールユニット側壁部15には、モータ2とコントロールユニット3とを直接接続するためのカラム19が設けられる。」
(1d)「【0031】
次に、図2~図10に基づき、コントロールユニット3について説明する。コントロールユニット3は、制御基板40、保持部材としてのヒートシンク50、半導体モジュールとしてのパワーモジュール60、パワー基板70、および、カバー部材110等を有する。
コントロールユニット3は、外部の電子部品との接続に係るコネクタ45、79等の部品以外のほとんどの構成がモータケース10を軸方向に投影した領域であるモータケース領域に収まるように設けられている。図9および図10に示すように、コントロールユニット3は、軸方向において、モータ2側から、制御基板40、ヒートシンク50およびパワーモジュール60、パワー基板70がこの順で配列されている。すなわち、軸方向において、モータケース10、制御基板40、ヒートシンク50およびパワーモジュール60、パワー基板70が、この順で配列されている。
【0032】
制御基板40は、例えばガラスエポキシ基板により形成される4層基板であって、モータケース領域内に収まる板状に形成される。制御基板40には、ヒートシンク50をモータケース10に組み付けるための逃がしとして、後述するヒートシンク50の脚部51と対応する位置に切欠42が3箇所に形成されている。また、制御基板40は、モータ2側からねじ47によってヒートシンク50に螺着される。」
(1e)「【0036】
ヒートシンク50には、モータケース10から取り出された取出線23と対向する幅広面を有する受熱部55が形成される。受熱部55は、モータケース10のコントロールユニット側壁部15から立ち上がる方向であって、コントロールユニット側壁部15と略垂直に形成される。互いに平行に形成される2つの受熱部55に沿って、パワーモジュール60がそれぞれ配置される。」
(1f)「【0039】
パワーモジュール60は、巻線への通電を切り替えるスイッチング素子であるMOS81~86(図1参照)を有する。パワーモジュール60は、銅で形成された配線パターンに、スイッチング素子または電源リレーであるMOS81~88およびシャント抵抗99が載置され、ワイヤ等で電気的に接続され、モールド部61によりモールドされている。
【0040】
ここでパワーモジュール60と図1に示す回路構成との関係を言及すると、一方のパワーモジュール60がインバータ80に対応し、図1に示すMOS81~86、電源リレー87、88、およびシャント抵抗99を有している。すなわち本実施形態では、MOS81~86、電源リレー87、88、およびシャント抵抗99が1つのモジュールとして一体に樹脂モールドされている。また、他方のパワーモジュール60がインバータ89に対応し、インバータ89を構成するMOS、電源リレー、およびシャント抵抗を有している。すなわち本実施形態では、1つのパワーモジュール60が1系統のインバータ回路に対応している。また、1つの受熱部55に対して、1つの駆動系統を構成する1つのパワーモジュール60が配置されている、といえる。」
以上より、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)
<引用発明>
「車両のステアリング5の回転軸たるコラム軸6に取り付けられたギア7を介しコラム軸6に回転トルクを発生させ、ステアリング5による操舵をアシストするモータ2およびコントロールユニット3を備える電動パワーステアリング装置に適用される駆動装置であって、
前記モータ2は、前記ギア7を正逆回転させる三相ブラシレスモータであり、周壁11およびコントロールユニット側壁部15を有し、鉄等により有底円筒状に形成されるモータケース10を備え、
前記コントロールユニット3は、前記モータ2を駆動する駆動電流が通電されるパワー部100、および、前記モータ2の駆動を制御する制御部90から構成され、制御基板40、保持部材としてのヒートシンク50、及び半導体モジュールとしてのパワーモジュール60、を有し、
前記パワー部100は、MOSFET81~86を含む二組のインバータ80、89を有しており、該MOSFET81~86を含む二組のインバータ80、89は前記パワーモジュール60に対応し、
前記ヒートシンク50は、前記モータケース10の前記コントロールユニット側壁部15から立ち上がる方向であって、前記コントロールユニット側壁部15と略垂直に形成された受熱部55を有し、
前記受熱部55に沿って、前記パワーモジュール60が配置され、
前記制御基板40は、4層基板であって、前記モータ2側からねじ47によって前記ヒートシンク50に螺着される電動パワーステアリング装置に適用される駆動装置。」
2.対比・判断
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア.後者の「ステアリング5の回転軸たるコラム軸6」は前者の「車両の操舵系」に相当すること、後者の「モータ2」は「電動パワーステアリング装置に適用される駆動装置」を構成するものであるから、電動であることは明らかであること、後者の「ステアリング5による操舵をアシストする」ために「発生させ」る「回転トルク」は前者の「操舵トルクに対応した補助トルク」に相当することから、後者の「車両のステアリング5の回転軸たるコラム軸6に取り付けられたギア7を介しコラム軸6に回転トルクを発生させ、ステアリング5による操舵をアシストするモータ2」は前者の「運転者が車両の操舵系に加える操舵トルクに対応した補助トルクを発生する電動モータ」に相当する。
イ.後者の「コントロールユニット3」は前記モータ2の駆動を制御することは明らかであるから、前者の「前記電動モータの駆動を制御する制御ユニット」に相当し、後者の「電動パワーステアリング装置に適用される駆動装置」は上記ア.を踏まえると、前者の「前記運転者の操舵を前記補助トルクにより補助するようにした電動パワーステアリング駆動装置」に相当する。
ウ.後者の「前記モータ2を駆動する駆動電流が通電されるパワー部100」は、「MOSFET81~86を含む二組のインバータ80、89を有」するものであり、当該「MOSFET81~86」は前者の「複数のパワースイッチング素子」に相当する。後者の「モータ2」は、「前記ギア7を正逆回転させる三相ブラシレスモータ」であるから交流モータであること、引用文献1の【図1】の図示内容から「電源75」は直流電源であることを勘案すると、後者の「前記モータ2を駆動する駆動電流が通電されるパワー部100」は、「MOSFET81~86を含む二組のインバータ80、89」の動作に基づいて、前記車両に搭載された直流電源からの直流電力を交流電力に変換していることは明らかであるから、後者の「前記モータ2を駆動する駆動電流が通電されるパワー部100」は前者の「複数のパワースイッチング素子を有し、前記パワースイッチング素子のスイッチング動作に基づいて、前記車両に搭載された直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給する電力変換回路」に相当する。また、後者の「前記モータ2の駆動を制御する制御部90」は前者の「前記パワースイッチング素子のスイッチング動作を制御する制御部」に相当する。
そうすると、後者の「前記コントロールユニット3は、前記モータ2を駆動する駆動電流が通電されるパワー部100、および、前記モータ2の駆動を制御する制御部90から構成され、」「前記パワー部100は、MOSFET81~86を含む二組のインバータ80、89を有しており、該MOSFET81~86を含む二組のインバータ80、89は前記パワーモジュール60に対応し」との構成は、前者の「前記制御ユニットは、複数のパワースイッチング素子を有し、前記パワースイッチング素子のスイッチング動作に基づいて、前記車両に搭載された直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給する電力変換回路と、前記パワースイッチング素子のスイッチング動作を制御する制御部と」「を有し」との構成に相当する。
以上によれば、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「運転者が車両の操舵系に加える操舵トルクに対応した補助トルクを発生する電動モータと、前記電動モータの駆動を制御する制御ユニットとを備え、前記運転者の操舵を前記補助トルクにより補助するようにした電動パワーステアリング駆動装置であって、
前記制御ユニットは、
複数のパワースイッチング素子を有し、前記パワースイッチング素子のスイッチング動作に基づいて、前記車両に搭載された直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給する電力変換回路と、
前記パワースイッチング素子のスイッチング動作を制御する制御部と、
を有する電動パワーステアリング駆動装置。」
<相違点>
本願発明1は、「電動モータ」は、「その軸方向の端部に固定された金属筐体を備え」、
「制御ユニット」は、「前記電力変換回路と前記制御部とを構成する部材のうちの少なくとも一部が搭載され、複数の多層基板が組み合わされて構成された一体型多層基板と、を有し、前記一体型多層基板は、放熱板と、前記放熱板の第1の面に固定され、少なくとも前記パワースイッチング素子が表面に載置されて接続された多層基板により構成された第1の領域と、前記放熱板の前記第1の面に対して表裏の関係をなす第2の面に固定され、前記制御部を構成する部材のうちの少なくとも一部が表面に載置されて接続され、前記第1の領域を構成する多層基板とは厚さの異なる多層基板により構成された第2の領域と、前記第1の領域に埋設され、一端が前記パワースイッチング素子に接触し、他端が前記放熱板の前記第1の面の近傍に位置し且つ前記放熱板に対して電気的に絶縁され、前記パワースイッチング素子が発生した熱を前記放熱板に伝達する伝熱部材と、を有し、前記放熱板は、前記第1の領域と前記第2の領域とのうちの少なくとも一方から露出して前記放熱板の面の延びる方向に延出された延出部を有し、前記延出部は、その少なくとも一部が前記金属筐体に直接当接するように前記金属筐体に固定される」構成であるのに対し、
引用発明は、「モータ2」は、「周壁11およびコントロールユニット側壁部15を有し、鉄等により有底円筒状に形成されるモータケース10を備え」、
「コントロールユニット3」は、「制御基板40、保持部材としてのヒートシンク50、及び半導体モジュールとしてのパワーモジュール60を有し」、「前記ヒートシンク50は、前記モータケース10の前記コントロールユニット側壁部15から立ち上がる方向であって、前記コントロールユニット側壁部15と略垂直に形成された受熱部55を有し、前記受熱部55に沿って、前記パワーモジュール60が配置され、前記制御基板40は、4層基板であって、前記モータ2側からねじ47によって前記ヒートシンク50に螺着される」構成である点。
(2)判断
上記相違点について検討する。
引用文献2の請求項1、段落【0042】及び段落【0050】の記載内容並びに【図3】等を参照すると、引用文献2には、「電動パワーステアリング装置の駆動装置において、モータ10の軸方向の一方の側に設けられるフレーム部材20と、前記フレーム部材の前記モータ10と反対側に固定される基板41を有し、前記基板41の前記フレーム部材20側の面である発熱素子実装面42に前記フレーム部材20に対して放熱可能に設けられる発熱素子70であるSW素子51~56、61~66を実装し、前記基板41の前記フレーム部材と反対側の面である電子部品実装面43にマイコン81を実装する技術」が記載されているといえる(以下かかる技術を「引用文献2技術」ということがある。)。
引用文献3の、段落【0153】の記載内容及び【図10】等を参照すると、引用文献3には、「電子基板において、熱拡散部31を、回路基板41と回路基板42に挟まれるように装着し、該回路基板41と回路基板42から受熱した熱を熱拡散部31を介して拡散する技術」が記載されているといえる(以下かかる技術を「引用文献3技術」ということがある。)。
審判請求と同時に提出された手続補正書により請求項1の発明特定事項とされた補正前の請求項5に係る引用文献である引用文献4には、段落【0035】の記載内容及び【図9】等を参照すると、「電動パワーステアリング装置の駆動装置において、半導体スイッチング素子Q1~Q6周辺部の回路基板22に設けられたスルーホール28hに、放熱板35から立設されているプレスフィット端子35pを圧入し、該半導体スイッチング素子Q1~Q6で発生した熱をスルーホール28hを経由して放熱板35から放出する技術」が記載されているといえる(以下かかる技術を「引用文献4技術」ということがある。)。
引用発明の課題は、引用文献1の記載事項(1a)の段落【0004】に記載されているように、「径方向における体格を小型化可能な駆動装置を提供すること」であり、この課題を解決するために、引用発明は「制御基板40、保持部材としてのヒートシンク50、及び半導体モジュールとしてのパワーモジュール60」の配置及び構成を特定するものであるから、当該課題の開示がない上記引用文献2~4技術をそれぞれ適用して、かかる配置及び構成の変更をする動機付けは存在しない。
また、熱源である「パワースイッチング素子」の放熱構造に関し、本願発明1は、「前記放熱板の第1の面に固定され、少なくとも前記パワースイッチング素子が表面に載置されて接続された多層基板により構成された第1の領域と、」「前記第1の領域に埋設され、一端が前記パワースイッチング素子に接触し、他端が前記放熱板の前記第1の面の近傍に位置し且つ前記放熱板に対して電気的に絶縁され、前記パワースイッチング素子が発生した熱を前記放熱板に伝達する伝熱部材と」を有する構造である。他方、引用発明は、本願発明1の「パワースイッチング素子」に相当する「MOSFET81~86を含む二組のインバータ80、89」は「パワーモジュール60」が有するものであるところ、該パワーモジュール60は、「ヒートシンク50」の「前記モータケース10の前記コントロールユニット側壁部15から立ち上がる方向であって、前記コントロールユニット側壁部15と略垂直に形成された受熱部55」「に沿って、」「配置され」る構造(以下「構造A」という。)である。つまり、本願発明1は、パワースイッチング素子が多層基板の表面に載置され、伝熱部材を介して電気的に絶縁された放熱板に熱を伝達する構造であるのに対し、引用発明の構造Aは、パワーモジュール60がヒートシンク50の受熱部55に配置される構造であるから、熱の伝達構造が基本的に相違するものである。
加えて、上述したように引用発明に引用文献2~4技術を適用する動機付けはないといえるが、仮に適用できたとしても、引用文献4技術の「放熱板35から立設されているプレスフィット端子35p」は、放熱板35と電気的に絶縁されていないから、引用発明に、引用文献2~4技術を適用しても、本願発明1の上記相違点に係る構造には至らない。
よって、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献2~4技術に基づいて当業者が容易に想到しうるものとはいえない。
なお、引用文献5は、本願発明7~9に対する拒絶の理由に引用された刊行物であるところ、上記相違点に係る本願発明の構成は記載も示唆もされていない。
以上によれば、本願発明1は、引用発明、及び引用文献2~4技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2~9は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるので、引用発明、及び引用文献2~4技術に加え、引用文献5をも参照しても、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
第6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1~9に係る発明は、引用発明、引用文献2~4技術、並びに、引用文献5に記載されている事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-015268