特許拒絶査定不服審判
2017-014034
偏心揺動型の減速装置の製造方法
- 審判番号
- 2017-014034
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-222777外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年09月22日
- 審決日
- 2019年04月17日
- 公報発行日
- 2019年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】住友重機械工業株式会社
- 【請求人代理人】小島 誠
- 分類
- P18 .121-WZ (B24B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-222777「偏心揺動型の減速装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月30日出願公開,特開2015-83329〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成25年10月25日の出願であって,その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年12月 2日付け:拒絶理由通知
平成29年 2月 3日 :意見書及び手続補正書の提出
同 年 6月22日付け:拒絶査定
同 年 9月22日 :審判請求書の提出
平成30年12月 5日付け:拒絶理由通知
平成31年 2月 7日 :意見書の提出
第2 本願発明
平成29年2月3日に手続補正された特許請求の範囲の請求項2(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「歯車を装着するための歯車装着部と遊星歯車を揺動させるための偏心部とを備えたクランク軸を有する偏心揺動型の減速装置の製造方法であって,
前記クランク軸を軸心周りに回転可能に支持し,該クランク軸を軸心周りで回転させた状態で,
該クランク軸の前記歯車装着部と前記偏心部とを,軸心周りの支持状態を変えずに加工し,
前記クランク軸の端面に係合し該クランク軸の軸心周りに回転する回転支持工具により前記クランク軸を回転させ,かつ
前記クランク軸の端面に,前記歯車装着部と前記偏心部の位相を管理するためのマークを付ける
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置の製造方法。」
第3 拒絶の理由
平成30年12月5日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は,次のとおりである。
本願発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明,引用文献2に記載された事項並びに引用文献3及び4に記載された周知の技術的事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2013-96550号公報
引用文献2:特開平5-169301号公報
引用文献3:特開平8-52608号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特公昭46-28954号公報(周知技術を示す文献)
第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1の記載事項,技術的事項及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には,以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。
「【0001】
本発明は,歯車伝動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,クランク軸に設けられた偏心体の回転に連動させて外歯歯車を揺動回転させることにより,外筒とキャリアとを相対的に回転させる偏心揺動型の歯車伝動装置が知られている。このような歯車伝動装置では,クランク軸の嵌合部に伝達歯車(スパーギヤ)が取り付けられている。この伝達歯車は,入力軸の回転を受けてクランク軸を回転させる役割を担う。」
「【0022】
以下,本発明の一実施形態に係る歯車伝動装置1について図面を参照して詳細に説明する。歯車伝動装置1は,例えばロボットの旋回胴や腕関節等の旋回部,各種工作機械の旋回部等に減速機として適用されるものである。
【0023】
<歯車伝動装置の全体構造>
本実施形態に係る歯車伝動装置1は,クランク軸10の第1偏心部10aに連動して第1外歯歯車14を揺動回転させるとともにクランク軸10の第2偏心部10bに連動して第2外歯歯車16を揺動回転させることにより入力回転から減速した出力回転を得るように構成されている。
【0024】
図1に示すように,歯車伝動装置1は,第1筒部としての外筒2と,第2筒部としてのキャリア4と,入力軸8と,複数(例えば3つ)のクランク軸10と,歯車部材としての第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16と,複数(例えば3つ)の伝達歯車20とを備えている。」
「【0033】
各クランク軸10は,偏心部を有する。前記偏心部は,両クランク軸受12a,12bによって支持された部分の間に軸方向に並んで配置された第1偏心部10aと第2偏心部10bとを含む。第1偏心部10aと第2偏心部10bは,それぞれ円柱形状を有している。第1偏心部10aと第2偏心部10bは,それぞれクランク軸10の軸心から所定の偏心量で偏心しており,互いに所定角度の位相差を有するように配置されている。また,クランク軸10の一端部,すなわち,基部4aの取付孔4e内に取り付けられる部分の軸方向外側の部位には,伝達歯車20が取り付けられる嵌合部10cが設けられている。嵌合部10cの詳細については,後述する。」
「【0047】
図4に示すように,クランク軸10の嵌合部10cは,クランク軸10における第1クランク軸受12aによって支持された略円柱形状の円柱状部位10fから軸方向に延びる六角柱形状を有している。すなわち,嵌合部10cは,クランク軸10の軸方向に平行な6つの平面を有している。」
「【0061】
また,前述したように,クランク軸10の嵌合部10cについては,その断面形状が多角形であるので,熱処理後に例えばカム研削盤を用いて仕上げ加工することができる。しかも,嵌合部10cは,円柱状部位10f(ジャーナル部)と同じ工具で加工することができる。具体的に,嵌合部10cは,加工時の中心位置を円柱状部位10fと同心にすることができる。したがって,嵌合部10cと円柱状部位10fの同心度を良好にすることができる。これにより,クランク軸の軸ぶれを抑制できる。また,嵌合部10cと円柱状部位10fの加工を1つの工程で行うことができ,追加の設備が不要になる。」
(2)引用文献1に記載された技術的事項
上記(1)の記載事項からみて,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているということができる。
ア.偏心揺動型の歯車伝動装置が,クランク軸に設けられた偏心体の回転に連動させて外歯歯車を揺動回転させるものであり(【0002】),減速機として適用されるものであること(【0022】)。
イ.クランク軸10には,第1外歯歯車14を揺動回転させる第1偏心部10a及び第2外歯歯車16を揺動回転させる第2偏心部10bが設けられ,クランク軸10の一端部の軸方向外側の部位には,伝達歯車20が取り付けられる嵌合部10cが設けられていること(【0023】及び【0033】)。
ウ.クランク軸10の嵌合部10cは,略円柱形状の円柱状部位10fから軸方向に延びる六角柱形状を有していること(【0047】)。
エ.クランク軸10の嵌合部10cは,円柱状部位10fと同じ工具で加工することで,それらの同心度を良好にすることができ,また,嵌合部10cと円柱状部位10fの加工を1つの工程で行うことができること(【0061】)。
(3)引用発明
上記(1)の記載事項及び上記(2)の技術的事項から,引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。
「伝達歯車20を装着するための嵌合部10cと第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16を揺動させるための第1偏心部10a及び第2偏心部10bとを備えたクランク軸10を有する偏心揺動型の歯車伝動装置である減速機のクランク軸10の製造方法であって,
クランク軸10の嵌合部10cとクランク軸10の円柱状部位10fの加工を1つの工程で行う偏心揺動型の歯車伝動装置である減速機のクランク軸10の製造方法。」(以下「引用発明」という。)
2.引用文献2の記載事項及び技術的事項
(1)引用文献2の記載事項
引用文献2には,以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,2サドルの複合Y軸加工旋盤における下刃物台の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】上下刃物台である2サドルを有する複合Y軸加工旋盤において上刃物台は,X軸及びYs軸の直線2軸合成によるY軸制御によって,Y軸加工が可能な刃物台であり,下刃物台は一般的な,Z軸及びX軸方向の制御を行うことができる。従って,ワークのカム軸,ポリゴン軸などの加工方法として,一般に,ワークのキー溝,軸部分を複合Y軸加工旋盤で加工ができるが,カム,ポリゴン形状の加工は,ワークを非真円加工専用機に載置替えして加工を行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このように,従来カム軸,ポリゴン軸などの加工工程において,複合Y軸加工旋盤だけで行うことができず,ワークを載置替えしなければならず,キー溝とカム軸,ポリゴン軸との位相差が生じ,加工精度が低下するという問題点があった。また丸棒からカム軸,ポリゴン軸などを粗加工する方法では,取り代が大きいために,加工時間を要し加工能率が低下していた。そこで,この発明の課題は,カム軸,ポリゴン軸などの加工工程を,複合Y軸加工旋盤のみで処理させることにある。」
「【0005】
【作用】この発明の複合Y軸加工旋盤によれば,基台上に上刃物台及び下刃物台を往復動可能に支持し,下刃物台に,ワークの回転角度により下刃物台に取り付けられた工具の移動位置,移動速度及び移動加減速度を制御する非真円旋削手段を設け,工具の回転駆動機構及び移動機構並びに下刃物台の移動機構を制御するので,ワークのカム軸,ポリゴン軸などの加工する際,ワークのキー溝,軸部分を複合Y軸加工旋盤の上刃物台により加工を行い,カム軸,ポリゴン形状の加工は,非真円旋削手段を有する下刃物台により行うことができる。
【0006】
【実施例】以下,この発明を具体化した実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の概略構成図を示し,図2は本発明の第一実施例を示し,図3は第二実施例を示す。図1に示すように,本発明の概略の複合Y軸加工旋盤においては,基台1の図示しない主軸台には主軸2が回転割出し可能に軸承されており,主軸2先端のチャックにワークが把持される。上刃物台3と下刃物台4とが,基台1のX軸方向案内面上に工具5,6の移動位置,移動速度若しくは移動加減速度をNC制御可能に載置されている。更に,上刃物台3は,Ys軸方向にもNC制御され,直線2軸合成Y軸制御され,C軸及びX軸制御によるエンドミル5を取り付けてある。下刃物台4は,非真円旋削手段であるカム旋削機能を有し,カム軸制御が可能である。
【0007】カム旋削機能としては,ワークの加工後の非真円形状と同一形状に製作したカムの外周に,一端を固定し且つ前記カムの回転中心へ付勢するコイルバネにより工具6を押し当て,前記カムをワークと同一速度で回転させることにより工具6を前後送りして旋削加工をしていた。これにより,工具6の移動位置,移動速度若しくは移動加減速度を制御する非真円旋削手段として用いることができる。・・・」
「【0011】
【発明の効果】以上に詳述したように,この発明によれば,ワークのカム軸,ポリゴン軸などの加工する際,ワークのキー溝,軸部分を複合Y軸加工旋盤の上刃物台により加工を行い,カム軸,ポリゴン形状の加工は,非真円旋削手段を有する下刃物台により行うことができ,ワークの載置替えをすることがないので,キー溝とカム軸,ポリゴン軸の位相差などの加工精度が向上する上,特に丸棒からカム軸,ポリゴン軸などを粗加工する方法では,上刃物台のC軸及びX軸制御によるエンドミルを使用し旋削加工をし,次に下刃物台により仕上げ加工ができるために,加工能率も向上がする。」
(2)引用文献2に記載された技術的事項
ア.上記(1)の記載事項からみて,引用文献2には,次の技術的事項が記載されているということができる。
従来カム軸,ポリゴン軸などの加工工程において,ワークのキー溝,軸部分を複合Y軸加工旋盤で加工し,カム,ポリゴン形状の加工は,ワークを非真円加工専用機に載置替えして加工を行っていた(【0002】)ため,ワークを載置替えしなければならず,キー溝とカム軸,ポリゴン軸との位相差が生じ,加工精度が低下するという問題点があった(【0003】)が,ワークを回転可能に軸承し(【0006】),ワークのキー溝,軸部分を複合Y軸加工旋盤の上刃物台により加工を行い,カム軸,ポリゴン形状の加工は,非真円旋削手段を有する下刃物台により行うこと(【0005】)により,ワークの載置替えをすることがないので,キー溝とカム軸,ポリゴン軸の位相差などの加工精度が向上する(【0011】)こと(以下「引用文献2記載の技術的事項1」という。)
イ.引用文献2には,ワークについて,カム軸及びポリゴン軸,すなわちキー溝とカム形状を有するカム軸及びキー溝とポリゴン形状を有するポリゴン軸については明記されているが,カム形状とポリゴン形状を有する軸について明記されていない。
しかし,引用文献2には,「ワークのカム軸,ポリゴン軸など」(【0002】)と記載されているように,カム軸及びポリゴン軸だけに限定するように記載されてはいないし,カム形状とポリゴン形状を有する軸が存在することは,例えば引用文献1に示すように本願の出願前から公知である。
そして,カム形状の加工とポリゴン形状の加工は,いずれも下刃物台により行うことができる(【0005】)から,両加工を行う際に,ワークの載置替えをする必要がないことは明らかである。
したがって,上記(1)の記載事項に接した当業者であれば,次の技術的事項についても記載されていると認識するといえる。
ワークを回転可能に軸承し,軸のポリゴン形状とカム形状とを,ワークの載置替えをせずに加工することで,ポリゴン形状とカム形状の位相差の加工精度が向上すること(以下「引用文献2記載の技術的事項2」という。)。
3.引用文献3の記載事項及び周知技術
(1)引用文献3の記載事項
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は工作物の回転工具に関する。より詳しくは,本発明は,工作物(軸物)の両端をセンタで支持し,主軸の回転を工作物に伝える形式の工作機械に用いられる工作物回転工具に関する。本発明の工作物回転工具は,例えば円筒研削盤,旋盤に使用されるものである。
【0002】
【従来の技術】工作物の加工方法としてセンタ作業があり,センタ作業においては,主に軸物といわれる径に比べて細長い工作物を加工する場合に用いられる方法として工作物の両端をセンタで支持し,駆動装置を介して主軸の回転を工作物に伝えることが行われている。駆動装置として古くから用いられているものに,主軸に回し板を取付け,工作物に回し金(ケレ)を取付けることが行われている。すなわち,円筒研削盤,旋盤などにおいて工作物の一端にねじで回し金を取付け主軸端に取付けた回し板と丸棒などで連結させて工作物を回転させることが行われている。
【0003】また,最近では,固定センタに対してその軸線方向に移動可能に内部に強力な1個の皿ばねを内蔵するとともに,その表面に工作物の端面に食い込むための爪部が形成されているフェイスドライバーが用いられている。」
(2)引用文献3記載の周知技術
上記(1)の記載事項からみて,引用文献3には,次の周知技術が記載されているということができる。
径に比べて細長い工作物を加工する場合に用いられる工作物回転工具に関して,固定センタに対してその軸線方向に移動可能に内部に強力な1個の皿ばねを内蔵するとともに,その表面に工作物の端面に食い込むための爪部が形成されているフェイスドライバーが用いられていること(以下「引用文献3記載の周知技術」という。)。
4.引用文献4の記載事項及び周知技術
(1)引用文献4の記載事項
「本発明は斯様にして位相割出しすべく回転する割出し面板の割出し部材とクランクシヤフトの端面に穿孔された基準穴とを対応させて連結しクランクシヤフトを位相割出しする方式の自動クランクピン研削盤の割出し装置であり,その要旨とするところは・・・」(第2欄第28ないし33行)
「・・・この割出しピン26はクランクシヤフトのフランジ端面に穿孔された基準穴に対応してクランクピン位相割出しのためのクランクシヤフトの回転駆動を行う。」(第4欄第14ないし17行)
「又,前述した如くクランクシヤフト50の端面には割出しピン26と一致する基準穴50eが穿孔されている。前記基準穴50eの位置は予め決定されるものである。」(第5欄第23ないし27行)
(2)引用文献4記載の周知技術
位相割出しすべく回転する割出し面板の割出しピン26と,クランクシャフトのフランジ端面に穿孔された基準穴50eを一致させ,クランクピン位相割出しのためのクランクシャフトの回転駆動を行うこと(以下「引用文献4記載の周知技術」という。)。
第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると,引用発明の「伝達歯車20」が本願発明の「歯車」に相当することは明らかであり,以下同様に,「嵌合部10c」が「歯車装着部」に,「第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16」が「遊星歯車」に,「第1偏心部10a及び第2偏心部10b」が「偏心部」に,「クランク軸10」が「クランク軸」に,「偏心揺動型の歯車伝動装置である減速機」が「偏心揺動型の減速装置」に,「クランク軸10の製造方法」が「製造方法」に,それぞれ相当する。
そうすると,本願発明と引用発明は,以下の点で一致及び相違する。
<一致点>
両発明は「歯車を装着するための歯車装着部と遊星歯車を揺動させるための偏心部とを備えたクランク軸を有する偏心揺動型の減速装置の製造方法」である点。
<相違点1>
本願発明は「前記クランク軸を軸心周りに回転可能に支持し,該クランク軸を軸心周りで回転させた状態で,該クランク軸の前記歯車装着部と前記偏心部とを,軸心周りの支持状態を変えずに加工」するものであるのに対して,引用発明は,クランク軸の歯車装着部とクランク軸の円柱状部位10fの加工を1つの工程で行うものである点。
<相違点2>
本願発明は「前記クランク軸の端面に係合し該クランク軸の軸心周りに回転する回転支持工具により前記クランク軸を回転」させるものであるのに対して,引用発明はどのようにクランク軸を支持し,回転させるのか不明な点。
<相違点3>
本願発明は「前記クランク軸の端面に,前記歯車装着部と前記偏心部の位相を管理するためのマークを付ける」ものであるのに対して,引用発明はクランク軸の端面にマークを付けるかどうか不明な点。
第6 判断
(1)相違点1について
ア.引用発明は,歯車装着部と偏心部を有するクランク軸の製造方法に関するものであるが,歯車装着部(嵌合部10c)は,具体的には六角柱形状である(上記第4の1.(2)ウ.)から,引用文献2における「ポリゴン形状」に該当する。また,引用発明の偏心部は,引用文献2における「カム」に該当するから,引用発明と引用文献2は,いずれも軸のポリゴン形状やカム形状を製造する技術分野に属するといえる。
イ.引用文献1には,引用発明の歯車装着部と偏心部をどのように加工するのか明記はないが,それらを異なる工具で加工すれば,クランク軸の支持状態を変える必要があることから,引用文献2記載の技術的事項1に接した当業者であれば,歯車装着部と偏心部の位相精度が低下するという問題点を認識できるといえる。
ウ.そして,引用文献2記載の技術的事項2に接した当業者であれば,ワークを回転可能に軸承し,軸のポリゴン形状とカム形状とを,ワークの載置替えをせずに加工することで,ポリゴン形状とカム形状の位相差の加工精度が向上することを理解できるところ,引用発明において歯車装着部と偏心部の位相精度を向上させることが望ましいことは明らかであるから,引用発明の歯車装着部と偏心部を加工するにあたり,引用文献2記載の技術的事項2を適用する動機があるといえる。
エ.したがって,引用発明の歯車装着部と偏心部を加工するにあたり,引用文献2記載の技術的事項2を適用し,クランク軸を軸心周りに回転可能に支持し,該クランク軸を軸心周りで回転させた状態で,該クランク軸の歯車装着部と偏心部とを,軸心周りの支持状態を変えずに加工するように構成することは,当業者が容易に想到できた事項である。
(2)相違点2について
引用発明は,クランク軸の製造方法に関するものであり,その製造の際にクランク軸を支持及び回転させる必要があることは当然である。
そして,クランク軸のように,径に比べて細長い工作物を加工する場合に用いられる工作物回転工具に関して,固定センタに対してその軸線方向に移動可能に内部に強力な1個の皿ばねを内蔵するとともに,その表面に工作物の端面に食い込むための爪部が形成されているフェイスドライバーが用いられていることは,引用文献3記載の周知技術に示すように,工作物回転工具の技術分野において広く知られている。
したがって,引用発明のクランク軸を支持する手段として,引用文献3記載の周知技術を適用し,クランク軸の端面に係合し該クランク軸の軸心周りに回転する回転支持工具によりクランク軸を回転させることは,当業者が容易に想到できた事項である。
(3)相違点3について
引用発明は,歯車装着部と偏心部を有するクランク軸の製造方法に関するものであるが,回転軸の軸方向に複数の非真円部を有する部材を製造する際に,軸の回転方向(位相)に対する位置決めのための何らかの基準が必要なことは,当業者にとって自明というべきであり,その基準としてのマークを回転軸の端部に設けることは,引用文献4記載の周知技術に示すように,回転軸の軸方向に複数の非真円部を有する部材を製造する技術分野において広く知られている。
したがって,引用発明のクランク軸の端部に引用文献4記載の周知技術を適用し,クランク軸の端面に,歯車装着部と偏心部の位相を管理するためのマークを付けるように構成することは,当業者が容易に想到できた事項である。
(4)意見書の主張について
ア.意見書の主張の概要
平成31年2月7日に提出された意見書において,請求人は,おおむね以下のように主張している。
相違点1について,引用文献2に記載の技術を引用文献1に適用することで拒絶し,相違点2について,引用文献3の技術を適用しているが,引用文献2の段落【0006】に「主軸2先端のチャックにワークが把持される」と記載されている(上記第4の2.(1))とおり,引用文献2は固定手段として「チャック」を既に有しており,引用文献2の技術を引用文献1に適用したのであれば,その結果物は固定手段として「チャック」を既に有するから,引用文献3の技術を適用する必要性がない。
もし,相違点1の構成については引用文献2から抽出して引用文献1に適用する一方,固定手段については引用文献2から抽出せずに,引用文献3から抽出して引用文献1に適用するというのであれば,そのような判断は,本願発明の内容を知ったからこそ可能な後知恵の判断である。
本願発明の内容を知らない当業者であれば,相違点1の構成と固定手段の両方を引用文献2から抽出するのが自然であり,本願発明の内容を知らない当業者であれば到底行わない引用文献2および引用文献3からの技術の選択的抽出,引用文献1への適用を行った上で,さらに偏心揺動型減速装置のクランク軸と無関係な引用文献4に基づいて相違点3の構成を創作するなどという行為が容易なはずがない。
イ.意見書の主張に対して
(ア)引用文献2の記載に接した当業者は,引用文献2において解決しようとする課題は,ワークを載置替えして加工を行っていたため,位相差が生じ,加工精度が低下するというものであり,この課題を,ワークを載置替えをせずに加工するという手段で解決していることを理解できる。
そして,引用文献2には,特定の装置でワークを把持する場合に限って,ワークを載置替えをせずに加工ができる旨の記載はないから,当業者は,どのような装置でワークを把持するとしても,ワークを載置替えをせずに加工ができると認識するといえる。
したがって,引用文献2には,チャックでワークを把持することが記載されているが,当業者であれば,ワークを載置替えをせずに加工するためには,当該チャック装置が必須の構成であるとまでは認識しないから,引用発明に引用文献2記載の技術的事項2を適用する際に,チャック装置についても適用するとは認識しない。
請求人の主張は,引用発明に引用文献2記載の技術的事項2を適用すれば,チャック装置についても適用することになることを前提としているが,当該前提は誤りであるから,請求人の主張は採用できない。
(イ)また,仮に,請求人の主張するように,引用発明に引用文献2記載の技術的事項2を適用する際に,チャック装置についても適用するとしても,工作物回転工具としてフェイスドライバーが用いられていることは,引用文献3記載の周知技術に示すように広く知られているから,チャック装置をフェイスドライバーに置換することは,主引用例に副引用例を適用する際の設計変更に過ぎない。したがって,請求人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明,引用文献2に記載された技術的事項並びに引用文献3記載の周知技術及び引用文献4記載の周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-014034