特許拒絶査定不服審判
2017-008795
油圧パワーステアリングシステム、それを搭載した車両、及び油圧パワーステアリングシステムの制御方法
- 審判番号
- 2017-008795
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-081047外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年06月16日
- 審決日
- 2018年05月08日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】いすゞ自動車株式会社
- 【請求人代理人】清流国際特許業務法人
- 【請求人代理人】昼間 孝良
- 【請求人代理人】境澤 正夫
- 【請求人代理人】山田 祐樹
- 分類
- P18 .121-WY (B62D) / P18 .56 -WY (B62D) / P18 .572-WY (B62D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013- 81047号「油圧パワーステアリングシステム、それを搭載した車両、及び油圧パワーステアリングシステムの制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月27日出願公開、特開2014-201270号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月9日の出願であって、平成28年12月22日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、同年6月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 本件補正についての却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年6月16日付けの手続補正を却下する。
[理由](目的外補正)
1 補正の内容
平成29年6月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をすることを含むものであって、補正前の請求項1と、補正後の請求項1を示すと以下のとおりである。また、下線は補正箇所である。
(補正前の請求項1)
「ステアリングの操舵力を作動油により補助する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置に作動油を供給するポンプを備える油圧パワーステアリングシステムにおいて、
前記ポンプの吐出流量を制御する流量制御装置により、前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出された値が予め設定した関数判定値よりも大きく、且つ前記操舵角速度及び前記操舵角加速度の方向が一致した場合に急操舵と判断し、急操舵と判断すると、前記ポンプの作動油の吐出流量をその急操舵に応じた急操舵用吐出流量に調節する制御をする構成にしたことを特徴とする油圧パワーステアリングシステム。」
(補正後の請求項1)
「ステアリングの操舵力を作動油により補助する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置に作動油を供給するポンプを備える油圧パワーステアリングシステムにおいて、
前記ポンプの吐出流量を制御する流量制御装置により、前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度とのそれぞれを変数とした二元関数に基づいて算出された絶対値が予め設定した関数判定値よりも大きく、且つ前記操舵角速度及び前記操舵角加速度の方向が一致した場合に急操舵と判断し、急操舵と判断すると、前記ポンプの作動油の吐出流量をその急操舵に応じた急操舵用吐出流量に調節する制御をする構成にしたことを特徴とする油圧パワーステアリングシステム。」
2 補正の目的について
本件補正により、補正前の「前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出された値」は、「前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度とのそれぞれを変数とした二元関数に基づいて算出された絶対値」となった。
そうすると、補正前においては、「操舵角速度」と「操舵角加速度」の両者の「組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出された値」と関数判定値とを比較していたのに対し、補正後においては、「操舵角速度」と「操舵角速度」から別々に算出された値と関数判定値とをそれぞれ比較するようなものまで含み得るものとなっている。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の限定的減縮を目的とするものとはいえない。
また、同項第1号の請求項の削除、同項第3号の誤記の訂正、同項第4号の明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものともいえないことも明らかである。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1~4に係る発明は、引用文献1(特開2012-163031号公報)に記載された発明及び引用文献2(特開2013-39892号公報)に記載された技術的事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 本願発明
本件補正は、上記「第2」のとおり、却下された。
したがって、本願請求項1~4に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」~「本願発明4」という。)は、平成29年2月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
ステアリングの操舵力を作動油により補助する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置に作動油を供給するポンプを備える油圧パワーステアリングシステムにおいて、
前記ポンプの吐出流量を制御する流量制御装置により、前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出された値が予め設定した関数判定値よりも大きく、且つ前記操舵角速度及び前記操舵角加速度の方向が一致した場合に急操舵と判断し、急操舵と判断すると、前記ポンプの作動油の吐出流量をその急操舵に応じた急操舵用吐出流量に調節する制御をする構成にしたことを特徴とする油圧パワーステアリングシステム。
【請求項2】
前記流量制御装置に接続されて、前記操舵角速度を検知する操舵角速度センサと、前記操舵角加速度を検知する操舵角加速度センサとを備えた請求項1に記載の油圧パワーステアリングシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油圧パワーステアリングシステムを搭載することを特徴とする車両。
【請求項4】
ステアリングの操舵力を作動油により補助する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置に作動油を供給するポンプを備え、該ポンプの作動油の吐出流量を制御する油圧パワーステアリングシステムの制御方法において、
センサにより前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度とを検知し、
検知した前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出した値と予め設定した関数判定値とを比較し、
算出したその値が前記関数判定値よりも大きく、且つ前記操舵角速度と前記操舵角加速度との方向が一致した場合に、急操舵と判断し、
急操舵であると判断すると、前記ポンプの作動油の吐出流量を急操舵に応じた急操舵用吐出流量に調節する制御をすることを特徴とする油圧パワーステアリングシステムの制御方法。」
第5 引用文献の記載事項並びに引用文献に記載された発明及び技術的事項
1 引用文献1
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付加した。以下同様。)
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵操作に基づいて液圧をもって操舵アシスト力を発生させる車両用操舵装置に作動液を供給する可変容量形ポンプであって、
内部にポンプ要素収容部を有するポンプハウジングと、
該ポンプハウジングに回転自在に支持される駆動軸と、
前記ポンプ要素収容部に収容配置され、前記駆動軸によって回転駆動されることで作動液を吸入すると共に吸入した作動液を吐出するポンプ要素と、
前記ポンプ要素収容部において前記ポンプ要素の外周側に前記駆動軸の軸心に対して偏心可能に設けられ、この偏心量に基づいて前記ポンプ要素の1回転あたりの吐出流量である固有吐出量を可変するカムリングと、
その通電量に応じて駆動制御され、前記カムリングの偏心量を制御するソレノイドと、
前記ステアリングホイールの回転角速度である操舵角速度と車両速度とに基づいて求められる、前記ソレノイドの駆動制御に供する基本通電量を演算する基本通電量演算回路と、
前記ステアリングホイールの操舵操作に伴い増加する前記基本通電量の増加速度よりも前記ソレノイドに入力される総通電量の増加速度が大きくなるように、前記ステアリングホイールの回転角加速度である操舵角加速度と前記基本通電量とに基づいて前記総通電量を演算する総通電量演算回路と、を備えたことを特徴とする可変容量形ポンプ。
【請求項2】
前記総通電量演算回路は、前記操舵角加速度が所定値以上のときに、前記操舵角加速度が前記所定値より小さいときよりも前記総通電量の増加速度が大きくなるように前記総通電量を演算することを特徴とする請求項1に記載の可変容量形ポンプ。」
イ 「【0001】
本発明は、例えば自動車のパワーステアリング装置の油圧源として用いられる可変容量形ポンプに関する。」
ウ 「【0005】
しかしながら、前記従来の可変容量形ポンプにあっては、前述のように車速信号と操舵角信号とによりソレノイドを制御する構成となっていることから、急転舵時のように瞬時に吐出量を増大させたい場合に、当該吐出量の増大化に遅れが生じてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる技術的課題に鑑みて案出されたものであって、急転舵時のような瞬時の吐出量増大化にも追従し得る可変容量形ポンプを提供するものである。」
エ 「【0014】
以下に、本発明に係る可変容量形ポンプの各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、下記各実施形態では、この可変容量形ポンプを、従来と同様に、自動車の操舵装置であって液圧式のパワーステアリング装置に適用したものを示している。
【0015】
図1~図8は本発明の第1実施形態を示し、まず、本発明に係る可変容量形ポンプ(以下、単に「ポンプ」という。)が適用される前記パワーステアリング装置について説明すれば、このパワーステアリング装置は、図1に示すように、その一端側がステアリングホイール1と一体回転可能に連係され、運転者からの操舵入力を行う入力軸2と・・・その内部に隔成された後記の一対の圧力室P1,P2に作用する液圧に基づいて出力軸3による操舵出力を補助(アシスト)するパワーシリンダ5と、・・・パワーシリンダ5へ供給する作動液の液量を制御するコントロールバルブ7と、から主として構成されている。」
オ 「【0018】
前記ポンプ10は、ベーン式の可変容量形ポンプであって、その内部にほぼ円柱状の空間であるポンプ要素収容部11aを有するポンプハウジング11と、該ポンプハウジング11に回転自在に支持され、図外のエンジンによる駆動力をもって回転駆動される駆動軸12と、ポンプ要素収容部11a内に収容され、駆動軸12によって図1中の反時計方向に回転駆動されることで作動液を吸入すると共にこの吸入した作動液を吐出するといったいわゆるポンプ作用を行うポンプ要素13と、ポンプ要素収容部11a内においてポンプ要素13の外周側に駆動軸12の軸心に対し偏心(移動)可能に設けられ、この偏心量に基づいてポンプ要素13の1回転あたりの吐出流量(以下、『固有吐出量』という。)を可変にするほぼ円環状のカムリング14と、ポンプハウジング11内に設けられ、その内部にて摺動自在に収容された弁体15aの軸方向位置に基づいて後記の第1、第2流体圧室21a,21bの差圧を変化させることによりカムリング14の偏心量を制御する制御弁15と、ポンプハウジング11内に収容固定され、後記のECU40から出力される制御電流に基づいて後記の第1、第2圧力室15b,15cの差圧を変化させることにより前記固有吐出量を制御するソレノイドである電磁弁16と、を備えている。」
カ 「【0024】
より具体的に説明すれば、このECU40では、図2に示すように、電磁弁16を駆動制御するMPU(Micro Processor Unit)50に、前記パワーステアリング装置の入力軸2に設けられた舵角センサ33からの操舵角信号と、図外の各車輪に備えるブレーキ制御装置に設けられた車速センサ34からの車速信号と、図外のエンジン制御装置に設けられたエンジン回転センサ35からのエンジンの回転数信号とがCANインターフェース41を介して与えられ、前記各センサ33,34,35の出力に基づいてMPU50が電磁弁16を駆動するためのPWM駆動制御信号を出力するようになっている。そして、前記MPU50への電源の供給は、バッテリ31からヒューズ38、イグニッションスイッチ32、ダイオード42、及びレギュレータ43を介して行われる。ここで、レギュレータ43は、通常12V程度のバッテリ電圧をMPU50の動作電圧である5Vに降圧するものである。
【0025】
また、前記MPU50からのPWM駆動制御信号は、いわゆるスイッチング手段としてのFET(Field Effect Transistor)44に与えられ、このFET44は、バッテリ31からヒューズ38、イグニッションスイッチ32、及びダイオード42を介して供給される電流をPWM駆動制御信号に基づいてスイッチングすることで、電磁弁16のコイル16aに励磁電流を供給するようになっている。」
キ 「【0027】
前記MPU50は、図3に示すように、車速センサ34からの車速信号に基づき車速Vを算出する車速算出部51と、舵角センサ33からの操舵角信号に基づき操舵角θを算出する操舵角算出部52と、該操舵角算出部52にて算出された操舵角θに基づき操舵角速度ωを算出する操舵角速度算出部53と、該操舵角速度算出部53にて算出された操舵角速度ωに基づき操舵角加速度ωdを算出する操舵角加速度算出部54と、前記操舵角速度算出部53にて算出された操舵角速度ωと車速算出部51にて算出された車速Vとに基づき基本吐出流量Qω_CMDを算出する基本吐出流量算出部55と、車速算出部51にて算出された車速Vに基づき補正加算流量Qωd_CMDを算出する補正加算流量算出部56と、基本吐出流量算出部55において算出された基本吐出流量Qω_CMDに補正加算流量算出部56により算出された補正加算流量Qωd_CMDを加算することで得られた目標吐出流量QCMDを電磁弁16に供給するための指令電流である目標指令電流ICMDを算出する目標電流算出部57と、該目標電流算出部57において算出された目標指令電流ICMDとソレノイド電流検出部58により検出されたコイル16aに流れる実供給電流Irealとの差に基づきPI制御によりPWMデューティを算出するPI制御部59と、該PI制御部59により算出されたPWMデューティに基づきFET44へPWM駆動制御信号を出力するPWM信号出力部60と、を備えている。」
ク 「【0029】
前記基本吐出流量算出部55では、車速Vと操舵角速度ωとに基づいて図外の所定のマップから基本吐出流量Qω_CMDを求める。換言すれば、この基本吐出流量算出部55は、車速Vと操舵角速度ωとに基づいて電磁弁16の駆動制御のベースとなる基本通電量の演算に供する本発明に係る基本通電量演算回路を構成する。なお、前記車速V及び操舵角速度ωと基本吐出流量Qω_CMDとの関係については、車速Vが高くなるにつれて基本吐出流量Qω_CMDを減少させるような特性になっていると共に、同一車速内においては、操舵角速度ωが高くなるにつれて基本吐出流量Qω_CMDを増加させるような特性になっている。」
ケ 「【0032】
前記目標電流算出部57では、基本吐出流量算出部55において算出された基本吐出流量Qω_CMDと補正加算流量算出部56において算出された補正加算流量Qωd_CMDとを加算し、図外の所定マップに基づいて電磁弁16に供給する目標指令電流ICMDを求める。換言すれば、この目標電流算出部57は、操舵角速度ωに依存する基本吐出流量Qω_CMDに操舵角加速度ωdに依存する補正加算流量Qωd_CMDを加算することで、電磁弁16に供給する総通電量として前記基本通電量よりも増加速度の大きい通電量の演算に供し、補正加算流量算出部56と共に本発明に係る総通電量演算回路を構成している。
【0033】
また、前記MPU50には、車速算出部51により算出された車速Vと操舵角加速度算出部54により算出された操舵角加速度ωdとをもって急転舵状態にあるか否かを判定する舵角急転判定部62を備えている。この舵角急転判定部62は、所定の信号切換手段63を介して補正加算流量算出部56及び目標電流算出部57と連係されていて、当該舵角急転判定部62にて急転舵状態と判断された場合には、急転判定フラグFcに『1』をセットして、前記補正加算流量算出部56により算出された補正加算流量Qωd_CMDを、前記信号切換手段63を介してそのまま目標電流算出部57へ出力する一方、当該舵角急転判定部62にて急転舵状態と判断されない場合には、急転判定フラグFcに『0』をセットして、前記補正加算流量算出部56により算出された補正加算流量Qωd_CMDを、前記信号切換手段63を介してゼロに切り換えて目標電流算出部57へ出力するようになっている。」
コ 「【0037】
すなわち、次のステップS108において前記車速V及び操舵角加速度ωdに基づいて図6に示すような車速-操舵角加速度マップから舵角急転判定用閾値ωdthを算出した後、この算出した舵角急転判定用閾値ωdthに基づいて、操舵角加速度の絶対値|ωd|≧舵角急転判定用閾値ωdthの条件を満たすか否かを判断する(ステップS109)。ここで、当該条件を満たすと判断された場合は、車速Vに応じた補正加算流量Qωd_CMDを算出する(ステップS110)一方、当該条件を満たさないと判断された場合には、補正加算流量Qωd_CMDを『0』に設定する(ステップS111)。
【0038】
そして、かかる急転判定処理を行った後、次のステップS112にて操舵角速度ωに応じた基本吐出流量Qω_CMDを算出し、この算出した基本吐出流量Qω_CMDに前記舵角急転判定結果に応じた補正加算流量Qωd_CMDを加算することによって、目標吐出流量QCMDを算出する(ステップS113)。その後、この算出した目標吐出流量QCMDについて上限値制限をかける上限リミット処理を行うと共に(ステップS114)、当該処理後の値につき、所定時間の間、上限保持を継続した後にこれを所定の割合で漸減するピークホールド及び漸減処理を行うことで、これらの処理により得られた値に基づいて指令吐出流量Qoutを算出する(ステップS115)。その後、この算出した指令吐出流量Qoutに基づいて電磁弁16に供給する目標指令電流ICMDを算出した後に(ステップS116)、この算出した目標指令電流ICMDとコイル16aに流れる実供給電流Irealとの差分からPI制御を用いてPWMデューティを算出し(ステップS117)、この算出したPWMデューティに基づいて電磁弁16に対してPWM駆動制御信号を出力することによって(ステップS118)、当該プログラムが終了することとなる。」
(2)引用発明
上記コの舵角急転判定に基づいた電磁弁16の制御は、上記カ~ケを踏まえれば、「車速算出部51」、「操舵角算出部52」、「操舵角速度算出部53」、「操舵角加速度算出部54」、「基本吐出流量算出部55」、「補正加算流量算出部56」、「目標電流算出部57」、「PWM信号出力部60」、「舵角急転判定部62」を有する「MPU50」により行われていることは明らかである。
以上のことと、上記(1)の各記載事項及び図面の記載からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「ステアリングホイール1の操舵操作に基づいて液圧をもって操舵出力をアシストするパワーシリンダ5と、該パワーシリンダ5へ供給する作動液の液量を制御するコントロールバルブ7と、該パワーシリンダ5に作動液を供給する可変容量形ポンプ10を備える液圧式のパワーステアリング装置であって、
内部にポンプ要素収容部11aを有するポンプハウジング11と、
該ポンプハウジング11に回転自在に支持される駆動軸12と、
前記ポンプ要素収容部11aに収容配置され、前記駆動軸12によって回転駆動されることで作動液を吸入すると共に吸入した作動液を吐出するポンプ要素13と、
前記ポンプ要素収容部11aにおいて前記ポンプ要素13の外周側に前記駆動軸12の軸心に対して偏心可能に設けられ、この偏心量に基づいて前記ポンプ要素13の1回転あたりの吐出流量である固有吐出量を可変するカムリング14と、
その通電量に応じて駆動制御され、前記カムリング14の偏心量を制御する電磁弁16と、
電磁弁16を駆動制御するMPU(Micro Processor Unit)50とを備え、
前記MPU50は、車速センサ34からの車速信号に基づき車速Vを算出する車速算出部51と、舵角センサ33からの操舵角信号に基づき操舵角θを算出する操舵角算出部52と、該操舵角算出部52にて算出された操舵角θに基づき操舵角速度ωを算出する操舵角速度算出部53と、該操舵角速度算出部53にて算出された操舵角速度ωに基づき操舵角加速度ωdを算出する操舵角加速度算出部54と、前記操舵角速度算出部53にて算出された操舵角速度ωと車速算出部51にて算出された車速Vとに基づき基本吐出流量Qω_CMDを算出する基本吐出流量算出部55と、車速算出部51にて算出された車速Vに基づき補正加算流量Qωd_CMDを算出する補正加算流量算出部56と、基本吐出流量算出部55において算出された基本吐出流量Qω_CMDに補正加算流量算出部56により算出された補正加算流量Qωd_CMDを加算することで得られた目標吐出流量QCMDを電磁弁16に供給するための指令電流である目標指令電流ICMDを算出する目標電流算出部57と、該目標電流算出部57において算出された目標指令電流ICMDとソレノイド電流検出部58により検出されたコイル16aに流れる実供給電流Irealとの差に基づきPI制御によりPWMデューティを算出するPI制御部59と、該PI制御部59により算出されたPWMデューティに基づきFET44へPWM駆動制御信号を出力するPWM信号出力部60と、車速算出部51により算出された車速Vと操舵角加速度算出部54により算出された操舵角加速度ωdとをもって急転舵状態にあるか否かを判定する舵角急転判定部62を備え、
前記MPU50は、前記車速V及び操舵角加速度ωdに基づいて車速-操舵角加速度マップから舵角急転判定用閾値ωdthを算出した後、この算出した舵角急転判定用閾値ωdthに基づいて、操舵角加速度の絶対値|ωd|≧舵角急転判定用閾値ωdthの条件を満たすか否かを判断し、当該条件を満たすと判断された場合、車速Vに応じた補正加算流量Qωd_CMDを算出し、操舵角速度ωに応じた基本吐出流量Qω_CMDを算出し、この算出した基本吐出流量Qω_CMDに前記舵角急転判定結果に応じた補正加算流量Qωd_CMDを加算することによって、目標吐出流量QCMDを算出し、この算出した目標吐出流量QCMDについて上限値制限をかける上限リミット処理を行うと共に、当該処理後の値につき、所定時間の間、上限保持を継続した後にこれを所定の割合で漸減するピークホールド及び漸減処理を行うことで、これらの処理により得られた値に基づいて指令吐出流量Qoutを算出し、その後、この算出した指令吐出流量Qoutに基づいて前記電磁弁16に供給する目標指令電流ICMDを算出した後に、この算出した目標指令電流ICMDと前記電磁弁16のコイル16aに流れる実供給電流Irealとの差分からPI制御を用いてPWMデューティを算出し、この算出したPWMデューティに基づいて前記電磁弁16に対してPWM駆動制御信号を出力する液圧式のパワーステアリング装置。」
2 引用文献2
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同じ前後方向位置にある左右の車輪を独立して制動力制御または駆動力制御可能なブレーキおよび駆動系のいずれか一方と、前記左右の車輪を独立して転舵可能な転舵装置とを備えた車両において、
操舵手段の操舵指令に従って前記転舵装置を駆動するときに、左右の車輪の転舵動作に時間差を生じさせると共に、左右の車輪の制動・駆動力差を生じさせて旋回ヨーモーメントを発生させる旋回アシスト制御を行う旋回アシスト制御手段を設けたことを特徴とする車両のヨーモーメント発生旋回効率化装置。
・・・
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記旋回アシスト制御手段は、前記操舵手段の操舵指令から、設定規則に従って操舵の緊急度を判断する判断部を有し、この判断部により緊急度が高いと判断された場合のみ、前記旋回アシスト制御を行うようにした車両のヨーモーメント発生旋回効率化装置。
【請求項4】
請求項3において、前記判断部による緊急度の判断を、前記操舵手段の操舵角速度および操舵角加速度の値によって行う車両のヨーモーメント発生旋回効率化装置。
・・・
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のいずれか1項において、前記判断部で判断された緊急度が高いほど、前記左右の車輪の制動・駆動力差を生じさせる程度を定めるアシスト量を大きくする車両のヨーモーメント発生旋回効率化装置。
・・・」
イ 「【0005】
この発明の目的は、急な旋回の必要時に車両の旋回ヨーモーメントを効率的に発生させることができて、緊急操舵時の確実な転舵が行える車両のヨーモーメント発生旋回効率化装置を提供することである。」
ウ 「【0010】
この発明において、前記判断部11による緊急度の判断は、前記操舵手段18の操舵角速度および操舵角加速度の値によって行うようにしても良い。一般的に、運転者の障害物回避の意図が強い場合は、操舵角速度の絶対値が大きくなる。また、操舵角加速度により、操舵の意図があるのか、保舵に移行したいかが判断できる。したがって、判断部11による緊急度の判断を、操舵手段18の操舵角速度および操舵角加速度の値によって行うことで、運転者の意図に応じた緊急度の判断が適切に行える。」
エ 「【0016】
この発明の一実施形態を図1~図4と共に説明する。図1において、同実施形態が適用される車両20は、前輪となる車輪1L,1Rが転舵輪となる4輪の自動車、例えば乗用車であり、転舵輪となる左右の車輪1L,1Rを独立して転舵可能な転舵装置3を備える。走行駆動は、前輪となる車輪1L,1Rと、後輪となる車輪2L,2Rのいずれを駆動する形式であっても、4輪駆動であっても良く、またその駆動源は、エンジン等の内燃機関、電動モータのいずれであっても、両者のハイブリッド形式であっても良い。ただし、転舵輪となる左右の車輪1L,1Rを独立して制動力制御可能なブレーキ4L,4Rを、各車輪1L,1Rに対して設けてある。非転舵輪となる車輪2L,2Rのブレーキ5L,5Rは、左右輪の独立した制御が不可能なものであっても、可能なものであっても良い。各ブレーキ4L,4R,5L,5Rは、油圧式ブレーキであっても、その他の方式、例えば電動式やワイヤ式であっても良い。」
オ 「【0020】
旋回アシスト制御手段7は、操舵手段18の操舵指令に従って転舵装置3を駆動するときに、左右の車輪1L,1Rの転舵動作に時間差を生じさせると共に、左右の車輪1L,1Rの制動・駆動力差を生じさせて旋回ヨーモーメントを発生させる制御である旋回アシスト制御を行う手段である。この旋回アシスト制御として生じさせる前記『制動・駆動力差』は、左右の車輪1L,1Rを個別に駆動する駆動系6を有しない場合は、制動力差であるが、左右個別に制御可能な駆動系6(駆動源6L,6R)を有する場合は駆動力差であっても良く、また左右個別に制御可能な駆動系6と左右個別に制御可能なブレーキ4L,4Rの両方を有する場合は、制動力差と駆動力差のいずれであっても、また両方であっても良い。旋回アシスト制御手段9は、演算部10と、判断部11と、制御部12とを備え、制御部12は制動・駆動力差制御部13と転舵時間差制御部14とで構成される。
【0021】
演算部10は、操舵角センサ19の出力する操舵角より、操舵角速度、および操舵角加速度を演算する手段である。演算部10は、必ずしも旋回アシスト制御手段9の一部として設けられていなくても良く、例えば操舵角センサ19の機能として設けられてもいても良い。つまり操舵角センサ19が操舵角速度および操舵角加速度を出力するものであっても良い。また、判断部11が演算部10の機能を有していても良い。
【0022】
判断部11は、操舵手段18の操舵指令から、設定規則Rに従って操舵の緊急度を判断する手段であり、制御部12は、この判断部11により緊急度が高いと判断された場合のみ旋回アシスト制御を行う。前記設定規則Rは、例えば、演算部10によって演算された操舵手段18の操舵角速度および操舵角加速度の値と、操舵の緊急度との関係を定めた規則である。前記設定規則Rは、より具体的には、例えば、運転者の状況に応じた操舵パターンであり、この操舵パターンと照らし合わせ判断を行う。運転者の状況に応じた操舵パターンは、車速、操舵角、操舵角速度、操舵角加速度の関係のパターン等である。上記操舵パターンは、試験やシミュレーション等に基づいて任意に設定すれば良く、また初期値を設定しておいて、実際の運転の繰り返しに応じて学習して更新を行うようにしても良い。」(なお、段落【0020】冒頭の「旋回アシスト制御手段7」は「旋回アシスト制御手段9」の誤記であることが明らかである。)
カ 「【0033】
これらの過程(S1~S6)で、判断部11は、演算部10から得られる操舵情報を用いて判断を下す場合、設定規則Rに応じて、例えば運転者の状況に応じた操舵パターンと照らし合わせ判断を行う。緊急度が高く、運転者の回避の意図が強い場合は、操舵角速度の絶対値が大きくなる。具体例を挙げると、判断部11は、この操舵角速度の絶対値に閾値を定め、αとする。また、操舵角加速度より、操舵の意図があるか、保舵に移行したいかが判断できる。以上から具体的な判断を行うと、操舵角が正の場合(操舵角:反時計回りを正)、(操舵角速度)>α、かつ(操舵角加速度)>0の時は緊急性の高い切り増し状態であり、(操舵角速度)<-α、かつ(操舵角加速度)<0の時は緊急性の高い切り戻し状態と判断し、旋回アシスト制御を行う条件とする。なお、操舵角が負の場合はαが負の値となり、大小符号も逆となる。また、それぞれの絶対値が大きいほど、制動・駆動力差制御部13のアシスト量設定部13aに設定するアシスト量を大きくする。」
(2)引用文献2に記載された技術的事項
上記(1)の各記載事項及び図面の記載からみて、引用文献2には次の技術的事項が記載されているものと認める。
「互いに同じ前後方向位置にある左右の車輪1L,1Rを独立して制動力制御または駆動力制御可能なブレーキ4L,4Rおよび駆動系6のいずれか一方と、前記左右の車輪1L,1Rを独立して転舵可能な転舵装置3とを備えた車両20において、
操舵手段18の操舵指令に従って前記転舵装置3を駆動するときに、左右の車輪1L,1Rの転舵動作に時間差を生じさせると共に、左右の車輪1L,1Rの制動・駆動力差を生じさせて旋回ヨーモーメントを発生させる旋回アシスト制御を行う旋回アシスト制御手段9を設け、
前記旋回アシスト制御手段9は、前記操舵手段18の操舵指令から、設定規則Rに従って操舵の緊急度を判断する判断部11を有し、この判断部11により緊急度が高いと判断された場合のみ、前記旋回アシスト制御を行うものであり、
前記判断部11は、操舵角速度の絶対値に閾値αを定め、操舵角加速度より、操舵の意図があるか、保舵に移行したいかが判断でき、操舵角が正の場合(操舵角:反時計回りを正)、(操舵角速度)>α、かつ(操舵角加速度)>0の時は緊急性の高い切り増し状態であり、(操舵角速度)<-α、かつ(操舵角加速度)<0の時は緊急性の高い切り戻し状態と判断し、旋回アシスト制御を行う条件とし、操舵角が負の場合はαが負の値となり、大小符号も逆となり、また、それぞれの絶対値が大きいほど、制動・駆動力差制御部13のアシスト量設定部13aに設定するアシスト量を大きくする車両のヨーモーメント発生旋回効率化装置。」
第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「ステアリングホイール1」は前者の「ステアリング」に相当し、同様に、「可変容量形ポンプ10」は「ポンプ」に相当する。
イ 後者の「作動液」、「液圧式」という事項について、引用文献1の「自動車のパワーステアリング装置の油圧源として用いられる可変容量形ポンプに関する」(第5 1(1)イ)という記載より、「液」は「油」であることが明らかである。
ウ 前者の「操舵力補助装置」は、具体的には本願明細書段落【0007】に記載されるように「ステアリングギアボックス4に設けられたバルブボディ12とパワーシリンダ13とから構成される」ものである。
そうすると、後者の「パワーシリンダ5」及び「コントロールバルブ7」は、前者の「操舵力補助装置」に相当するといえる。
エ 上記ア~ウを踏まえると、後者の「ステアリングホイール1の操舵操作に基づいて液圧をもって操舵出力をアシストするパワーシリンダ5と、該パワーシリンダ5へ供給する作動液の液量を制御するコントロールバルブ7と、該パワーシリンダ5に作動液を供給する可変容量形ポンプ10を備える液圧式のパワーステアリング装置であって」は、前者の「ステアリングの操舵力を作動油により補助する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置に作動油を供給するポンプを備える油圧パワーステアリングシステムにおいて」に相当するといえる。
オ 後者の「MPU50」も「電磁弁16を駆動制御する」ことにより、「可変容量形ポンプ10」の「1回転あたりの吐出流量である固有吐出量」を制御しているものである。
そうすると、後者の「電磁弁16を駆動制御するMPU50」は、前者の「ポンプの吐出流量を制御する流量制御装置」に相当するといえる。
カ 後者の「舵角急転判定」とは急操舵を判断するものであり、「車速Vに応じた補正加算流量Qωd_CMDを算出し、操舵角速度ωに応じた基本吐出流量Qω_CMDを算出し、この算出した基本吐出流量Qω_CMDに前記舵角急転判定結果に応じた補正加算流量Qωd_CMDを加算することによって、目標吐出流量QCMDを算出し、この算出した目標吐出流量QCMDについて上限値制限をかける上限リミット処理を行うと共に、当該処理後の値につき、所定時間の間、上限保持を継続した後にこれを所定の割合で漸減するピークホールド及び漸減処理を行うことで、これらの処理により得られた値に基づいて指令吐出流量Qoutを算出し、その後、この算出した指令吐出流量Qoutに基づいて前記電磁弁16に供給する目標指令電流ICMDを算出した後に、この算出した目標指令電流ICMDと前記電磁弁16のコイル16aに流れる実供給電流Irealとの差分からPI制御を用いてPWMデューティを算出し、この算出したPWMデューティに基づいて前記電磁弁16に対してPWM駆動制御信号を出力する」ことは、「可変容量形ポンプ10」の吐出流量を舵角急転(急操舵)に応じた吐出流量に調節する制御をしているといえるものである。
そうすると、上記ア、イ、オをも踏まえると、後者の
「前記MPU50は、前記車速V及び操舵角加速度ωdに基づいて車速-操舵角加速度マップから舵角急転判定用閾値ωdthを算出した後、この算出した舵角急転判定用閾値ωdthに基づいて、操舵角加速度の絶対値|ωd|≧舵角急転判定用閾値ωdthの条件を満たすか否かを判断し、当該条件を満たすと判断された場合、車速Vに応じた補正加算流量Qωd_CMDを算出し、操舵角速度ωに応じた基本吐出流量Qω_CMDを算出し、この算出した基本吐出流量Qω_CMDに前記舵角急転判定結果に応じた補正加算流量Qωd_CMDを加算することによって、目標吐出流量QCMDを算出し、この算出した目標吐出流量QCMDについて上限値制限をかける上限リミット処理を行うと共に、当該処理後の値につき、所定時間の間、上限保持を継続した後にこれを所定の割合で漸減するピークホールド及び漸減処理を行うことで、これらの処理により得られた値に基づいて指令吐出流量Qoutを算出し、その後、この算出した指令吐出流量Qoutに基づいて前記電磁弁16に供給する目標指令電流ICMDを算出した後に、この算出した目標指令電流ICMDと前記電磁弁16のコイル16aに流れる実供給電流Irealとの差分からPI制御を用いてPWMデューティを算出し、この算出したPWMデューティに基づいて前記電磁弁16に対してPWM駆動制御信号を出力する」
と、前者の
「前記ポンプの吐出流量を制御する流量制御装置により、前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出された値が予め設定した関数判定値よりも大きく、且つ前記操舵角速度及び前記操舵角加速度の方向が一致した場合に急操舵と判断し、急操舵と判断すると、前記ポンプの作動油の吐出流量をその急操舵に応じた急操舵用吐出流量に調節する制御をする」
とは、
「前記ポンプの吐出流量を制御する流量制御装置により、急操舵と判断すると、前記ポンプの作動油の吐出流量をその急操舵に応じた急操舵用吐出流量に調節する制御をする」
の限度で一致するといえる。
キ 以上のことから、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
「ステアリングの操舵力を作動油により補助する操舵力補助装置と、該操舵力補助装置に作動油を供給するポンプを備える油圧パワーステアリングシステムにおいて、
前記ポンプの吐出流量を制御する流量制御装置により、急操舵と判断すると、前記ポンプの作動油の吐出流量をその急操舵に応じた急操舵用吐出流量に調節する制御をする構成にした油圧パワーステアリングシステム。」
〔相違点〕
「急操舵」の判断に関し、本願発明1が、「前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出された値が予め設定した関数判定値よりも大きく、且つ前記操舵角速度及び前記操舵角加速度の方向が一致した場合に急操舵と判断」するのに対し、引用発明1は、「前記車速V及び操舵角加速度ωdに基づいて車速-操舵角加速度マップから舵角急転判定用閾値ωdthを算出した後、この算出した舵角急転判定用閾値ωdthに基づいて、操舵角加速度の絶対値|ωd|≧舵角急転判定用閾値ωdthの条件を満たすか否かを判断し、当該条件を満たすと判断された場合」に舵角急転(急操舵)と判断するものであって、操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づくものではなく、操舵角速度と操舵角加速度の方向が一致した場合に係る事項も有していない点。
(2)判断
ア 引用文献2に記載された技術的事項」は、上記「第5 2(2)」で示した「車両のヨーモーメント発生旋回効率化装置」に係るものであって、引用発明の「液圧式のパワーステアリング装置」とは技術分野が異なるものであり、「アシスト量を大きくする」制御対象も「左右の車輪1L,1Rの制動・駆動力差」であって、解決しようとする課題も「急な旋回の必要時に車両の旋回ヨーモーメントを効率的に発生させることができて、緊急操舵時の確実な転舵が行える車両のヨーモーメント発生旋回効率化装置を提供すること」(第5 2(1)イ)である。
そうすると、引用発明に対し、基本的な構造も技術思想も異なる引用文献2に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえないし、仮に適用したとしても、引用文献2に記載された技術的事項は「車両のヨーモーメント発生旋回効率化装置」に係るものであって、「アシスト量を大きくする」制御対象も「左右の車輪1L,1Rの制動・駆動力差」であるから、上記相違点に係る本願発明1の事項を有するものには至らない。
イ さらに、引用文献2から、「操舵の緊急度を判断する判断部11」に係る事項と「車両のヨーモーメント発生」に係る事項とが、一体として把握されるものではなく、両者は可分であって前者の事項のみを把握できると仮定したとしても、次のとおりである。
引用文献2に記載された「判断部11」は、「操舵の緊急度」(急操舵)を、「操舵角速度の絶対値に閾値αを定め、操舵角加速度より、操舵の意図があるか、保舵に移行したいかが判断でき、操舵角が正の場合(操舵角:反時計回りを正)、(操舵角速度)>α、かつ(操舵角加速度)>0の時は緊急性の高い切り増し状態であり、(操舵角速度)<-α、かつ(操舵角加速度)<0の時は緊急性の高い切り戻し状態と判断」している。
すなわち、操舵角速度と閾値αとの大小の比較と、操舵角加速度と0との大小の比較を別個に行っているものであって、少なくとも本願発明1のように「操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出された値」に係る事項を有するものではない。
したがって、仮に引用文献2の「操舵の緊急度を判断する判断部11」に係る事項を引用発明に適用したとしても、上記相違点に係る本願発明1の事項を有するものには至らない。
ウ 以上検討したとおり、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 本願発明2、3について
上記「第4」のとおり、本願発明2、3は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 本願発明4について
上記「第4」のとおり、本願発明4は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の「前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出された値が予め設定した関数判定値よりも大きく、且つ前記操舵角速度及び前記操舵角加速度の方向が一致した場合に急操舵と判断し」という事項に対応する、「検知した前記ステアリングの操舵角速度と操舵角加速度との組み合わせを一つの変数とした関数に基づいて算出した値と予め設定した関数判定値とを比較し、算出したその値が前記関数判定値よりも大きく、且つ前記操舵角速度と前記操舵角加速度との方向が一致した場合に、急操舵と判断し」という事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明1~4は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-008795