特許拒絶査定不服審判
2017-001900
旅客室内の乗員の安全を確保できる電気推進旅客船
- 審判番号
- 2017-001900
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-048583外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年02月08日
- 審決日
- 2018年02月20日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】ツネイシクラフト&ファシリティーズ株式会社
- 【請求人代理人】田村 良介
- 分類
- P18 .113-WY (B63H) / P18 .03 -WY (B63H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第44条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015- 48583号「旅客室内の乗員の安全を確保できる電気推進旅客船」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月 6日出願公開、特開2015-143099号、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月30日に出願された特願2012-263020号(以下「原出願」という。)の一部を平成27年3月11日に新たな特許出願としたものであって、平成27年9月14日付けで拒絶理由が通知され、同年12月4日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年2月3日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年4月7日に意見書が提出され、同年6月23日付けで拒絶理由が通知され、同年8月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年2月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同年3月22日に審判請求書を補正する手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~7に係る発明(以下「本願発明1」~「本願発明7」という。)は、平成28年8月25日にされた手続補正により補正された請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
旅客室を備えた電気推進旅客船であって、
旅客室と区画して旅客室より後方に動力室が設けられ、動力室を形成する船体の壁部の上壁部に、壁部よりも爆風に対する強度が相対的に低いハッチが設けられていることを特徴とする電気推進旅客船。
【請求項2】
船体がアルミニウム製である、請求項1記載の電気推進旅客船。
【請求項3】
ハッチが合成樹脂製板からなる、請求項2記載の電気推進旅客船。
【請求項4】
動力室が、動力室と旅客室との間の隔壁を介して、旅客室とは所定の距離、離間して設けられている、請求項1~3のいずれかに記載の電気推進旅客船。
【請求項5】
動力室内のバッテリー部が、船底から所定の高さの位置に設けられている、請求項1~4のいずれかに記載の電気推進旅客船。
【請求項6】
動力室を形成する船体の壁部の適宜箇所に、動力室内のバッテリー部を冷却するための空冷用換気部が設けられている、請求項1~5のいずれかに記載の電気推進旅客船。
【請求項7】
船体後部に、燃料で駆動する非常用の推進動力部が設けられている、請求項1~6のいずれかに記載の電気推進旅客船。」
第3 原査定の理由の概要
本願発明1~7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2014-108672号公報
平成28年8月25日付け手続補正書の請求項1~7に係る発明では電気推進旅客船の動力源を特定しておらず、本願の原出願で動力源としている「リチウムイオン電池」以外の動力源をも含むものとなっている。
それに対して、原出願の出願当初明細書等には、電気推進旅客船の動力源として「リチウムイオン電池」を用いることのみが記載されている。
動力源としてリチウムイオン電池以外をも含む本願の請求項1~7は、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内でない新たな技術的事項を含むものであり、本願は分割出願の実体的要件を満たさない。
よって、本願については、出願日の遡及を認めず、現実の出願日である平成27年3月11日に行われたものとする。
そうすると、本願の原出願の公開特許公報である引用文献1の段落【0001】~【0024】及び【図1】~【図3】には、本願発明1~7と同様の構成が記載されている。
したがって、本願発明1~7は、引用文献1に記載された発明である。
第4 当審の判断
1 分割出願の実体的要件について
上記第3のとおり、原査定は、分割出願の実体的要件を満たさないとした上で、本願発明1~7は、原出願の公開特許公報である引用文献1に記載された発明であるとしているので、まず、分割の実体的要件の適否について検討する。(以下、原出願の出願当初の明細書を「原明細書」、同図面を「原図面」、それらに同特許請求の範囲を併せて「原明細書等」という。なお、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部が本願の請求項に係る発明でないこと、及び、形式的要件を満たしていることは明らかである。)
(1)原明細書の記載
原明細書には次の記載がある。なお、下線は当審で付加した。
ア 「【0005】
省エネルギー効果をさらに高めるため、蓄電池の電力のみで長時間航行を行うことも考えられるが、それには、大容量のリチウムイオン電池を使用することが有効な手段となる。特に、船体がアルミニウム製の場合、非常に軽量であるため、リチウムイオン電池の電力のみでの航行に適していると言える。しかし、リチウムイオン電池を利用する場合、何らかの原因で電解液が漏れた場合に揮発したガスが滞留しないことや、万一の爆発事故に備えて被害を最小限に留め、被害が拡大しないことが求められる。もちろんこのような要請は旅客船の場合にはより強く求められる。」
イ 「【0009】
本発明の電気推進旅客船によれば、リチウムイオン電池を含むバッテリー部を配置した動力室は、旅客室と区画しているので、何らかの原因によって、万一、動力室内で爆発が起きたとしても、旅客室内の乗員の安全を確保できる。」
ウ 「【0010】
また、動力室を形成する船体の壁部の適宜箇所に、相対的に強度の低い弱体部を設けることで、万一、何らかの原因によって動力室内で爆発が起きたとしても、その爆風によって弱体部が開放あるいは吹き飛ばされる。そのため、動力室の壁部のダメージが小さく抑えられ、旅客室の被害をより低く抑えることができる。弱体部を、船体の上壁部に形成したハッチとすることで、爆発時における船底へのダメージを軽減でき、船底からの水の浸入を回避するのに役立つ。」
エ 「【0012】
以下、図面に示した実施形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。図1~図3に示したように、本発明の実施形態に係る電気推進旅客船10は、船体11が、アルミニウム製(アルミ合金を含む)で、例えば全長10~20m、幅3~5m、定員数十名程度のものである。もちろん、これより大型、小型のいずれでも本発明は適用可能である。アルミニウム製とすることにより船体を軽量化でき、リチウムイオン電池31,32の電力によって推進するのに適している。
【0013】
また、電気推進船10の前進方向の前部に、客席16を配置した旅客室12が設けられ、前進方向の後部に、電気推進船10を推進するための各種機器を配置した動力室20が設けられている。なお、客席16もアルミニウム製とすることで軽量化が可能となるだけでなく、旅客室12が燃えにくくなるため安全面からも好ましい。動力室20には、推進用電動機36、バッテリー部を構成する2個のリチウムイオン電池31,32、推進用電動機制御盤33、船内給電用の配電盤34などが配置されている。」
オ 「【0015】
動力室20を形成する船体11の壁部21には、相対的に強度の低い弱体部を適宜箇所に設けることが望ましい。本実施形態では、船体11の上壁部にハッチ23を形成し、このハッチを弱体部としている。ハッチ23は、例えばアクリル板などの合成樹脂製板で構成することができる。万一、何らかの原因によって動力室20内で爆発が生じたときには、その爆風によってハッチ23が開放されるかあるいは吹き飛ばされ、圧力が逃がされる。それにより、旅客室12に及ぶ爆発の影響を抑制できる。ハッチ23は、本実施形態のように上壁部に形成することで、船底とは反対方向に圧力が逃がされるため、爆風によって船底に穴があいて水が浸入することを回避できる。」
カ 「【0019】
バッテリー部を構成するリチウムイオン電池31,32は、推進用電動機36へ電力を供給する電源である。動力室20の長さ方向のほぼ中央に位置して推進用電動機36の左右両側へ1個ずつ、左右のバランスをとって配置されている。本実施形態では、各リチウムイオン電池31,32が電池集合パックで構成されており、それぞれが数十kwの大容量の電力を蓄電可能となっている。
【0020】
2個のリチウムイオン電池31,32は、それぞれ、船底から所定の高さの位置に設けることが望ましい。万一、何らかの原因によって動力室20内でリチウムイオン電池31,32が爆発した際に、このように所定高さの位置に設けられていると、船底への爆風の影響を少なくでき、船底に穴があいたりすることを防止できる。なお、動力室20の後方寄りには、鉛バッテリー35が複数個配設され、船内給電用の配電盤34に接続されて、船内の照明、操縦用の電子機器、電熱機器、その他の機器の一般用電源として用いられる。」
キ 「【0024】
本実施形態によれば、リチウムイオン電池31,32を含むバッテリー部を配置した動力室20が、旅客室12と区画して離間させていると共に、動力室20の上壁部にアクリル板からなるハッチ23を設けた構成である。したがって、何らかの原因によって、万一、動力室20内で爆発が起きたとしても、ハッチ23が優先して開放され、あるいは、吹き飛ぶため、旅客室12に及ぶ爆発の影響を抑制できる構造であり、リチウムイオン電池31,32を駆動源として用いた電気推進旅客船10として適している。」
(2)原明細書等に記載された事項の検討
上記(1)ア、イ、エ、カ、キの記載より、原明細書に開示された実施例そのものの動力源(駆動源)はリチウムイオン電池であるといえ、特に上記(1)ア、イの記載からみて、実施例は元々リチウムイオン電池の爆発に対応したものであることが窺える。
しかしながら、電気推進旅客船において、動力源(駆動源)として利用可能であるのはリチウムイオン電池に限らないことは当業者にとって自明のことであって、他の種類の動力源(駆動源)の種類によっては、あるいは、動力室に配置される機器等においてもその種類によっては爆発の可能性があることも自明のことである。また、少なくとも上記(1)ウ、オにおいては、爆発源の特定はないし、上記(1)キにおいても「リチウムイオン電池31,32を駆動源として用いた電気推進旅客船10として適している」と記載されるように、爆発源がリチウムイオン電池のみと限定するようには記載されていない。そして、動力室を形成する船体の壁部の上壁部に設けられた「壁部よりも爆風に対する強度が相対的に低いハッチ」は、爆発源の種類を問わず、電気推進旅客船の船体自体の構造として変わるところはなく、動力室内の爆発の客室への影響を抑制する作用効果を奏することもその構成上明らかである。
以上のことからすると、動力室で何らかの原因により発生した爆発の客室への影響を抑制するため、動力室を形成する船体の壁部の上壁部に、壁部よりも爆風に対する強度が相対的に低いハッチを設けるという技術思想が、原明細書等全体から把握できるといえ、爆発の原因をリチウムイオン電池に限定して解釈すべき特段の事情があるとはいえない。
そうすると、原明細書等には本願発明1~7も記載されていたといえる。
また、本願の明細書及び図面は、原明細書及び原図面と同一内容である。
したがって、本願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」という。)に記載された事項は、原明細書等に記載した事項の範囲内であるといえる。
(3)原出願の分割直前の明細書等について
本願は、原出願の特許査定の謄本送達日から30日以内かつ設定登録前に分割出願されたものであるので、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「分割直前の明細書等」という。)に記載された事項の範囲内であるかどうかについても検討する。
まず、原出願の分割直前の明細書及び図面は、原明細書及び原図面と同一内容である。
そうすると、上記(2)で検討したのと同様理由により、本願発明1~7は原出願の分割直前の明細書等に記載されていたといえる。
したがって、本願明細書等に記載された事項は、原出願の分割直前の明細書等に記載した事項の範囲内であるといえる。
(4)小括
以上のとおりであるから、本願は、特許法第44条に規定される特許出願の分割の要件を満たしているといえる。
2 原査定の判断
上記1で述べたように、本願は、適法な分割出願であるから、特許法第29条第1項第3号の適用については、本願は、原出願の出願日に出願されたものとみなされ、それより後に頒布された刊行物である引用文献1により、本願発明1~7が新規性を欠くものということはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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