特許無効審判
2016-800075
水質自動監視装置及び低濃度毒性検知方法
- 審判番号
- 2016-800075
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2010-246015
- 登録番号
- 特許第4712908号(P4712908)
- 請求日
- 2016年06月24日
- 審決日
- 2018年01月15日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 アニマックス
- 【請求人代理人】協明国際特許業務法人
- 【被請求人】環境電子 株式会社
- 【被請求人代理人】田上 洋平
- 【被請求人】山本 隆洋
- 【被請求人代理人】田上 洋平
- 審判長/審判官
- 審判長 福島 浩司
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 審判官 伊藤 昌哉
- 分類
- P1113.113-YAA(G01N) / P1113.121-YAA(G01N) / P1113.537-YAA(G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条特許法36条特許法123条1項2号特許法123条1項4号特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第36条、特許法第134条の2第3項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4712908号発明「水質自動監視装置及び低濃度毒性検知方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4712908号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~12〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
1 本件特許第4712908号の請求項1~12に係る発明は、平成22年11月2日に出願され、平成23年4月1日に特許権の設定登録がなされた(請求項の数12。以下、その特許を「本件特許」という。)。
2 本件特許について、平成28年6月24日に利害関係人である株式会社アニマックスから、本件特許を無効にすることを求める旨の無効審判がなされた。
以下に、本件審判の請求以後の経緯を整理して示す。
平成28年 6月24日 審判請求書及び甲第1~5号証の提出(請求人)
平成28年 7月21日 審判請求書の全文訂正書提出(請求人)
同日 上申書(1)の提出(請求人)
同日 証拠説明書の提出(請求人)
平成28年 9月30日 審判事件答弁書及び乙第1~6号証の提出(被請
求人)
平成28年12月22日 審理事項通知書(起案日)
平成29年 2月 9日 口頭審理陳述要領書及び甲第6号証~甲第8号証
の3の提出(請求人)
同日 上申書(2)(平成27年(ワ)第10267号
特許権侵害差止等請求事件において被告提出の書
面一式)の提出(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書及び乙第7号証の提出(被請
求人)
同日 上申書(1)(平成27年(ワ)第10267号
特許権侵害差止等請求事件において原告提出の書
面一式)の提出(被請求人)
平成29年 2月23日 口頭審理の実施及び審尋書の手交
平成29年 2月28日 上申書(3)(平成27年(ワ)第10267号
特許権侵害差止等請求事件における平成29年2
月20日判決)の提出(請求人)
平成29年 3月 9日 上申書(4)の提出(請求人)
同日 証拠説明書の提出(請求人)
平成29年 3月31日 上申書(2)(審尋に対する回答)及び乙第8~
10号証の提出(被請求人)
平成29年 5月17日 無効理由通知書、職権審理結果通知書(起案日)
平成29年 6月21日 訂正請求書の提出(被請求人)
同日 意見書及び乙第11~16号証の提出(被請求人
)
平成29年10月16日 審判事件弁駁書及び甲第9号証(平成29年(ネ
)第10039号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成27年(ワ)第10
267号)における平成29年8月29日判決)
の提出(請求人)
なお、上申書については提出日の順に「上申書(1)」のように括弧数字を付す。
第2 平成29年6月21日付け訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成29年6月21日付け訂正請求は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ヒメダカ等の小型魚類を監視水槽内に群れで飼育しておき、その監視水槽に試料水を連続給水し、その試料水への低濃度有毒物質の混入を連続的に監視して検知する低濃度有毒物質検知方法において、
ヒメダカ等の小型魚類は大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能から低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し、監視水槽の外側に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内の小型魚類の動きを撮影し、この映像から画像処理によって小型魚類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定するようにしたことを特徴とする低濃度有毒物質検知方法。」と記載されているものを、
「ヒメダカ等のメダカ類を監視水槽内に群れで飼育しておき、その監視水槽に試料水を連続給水し、その試料水への低濃度有毒物質の混入を連続的に監視して検知する低濃度有毒物質検知方法において、
ヒメダカ等のメダカ類は大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能から低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し、監視水槽の外側に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内のメダカ類の動きを撮影し、この映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定するようにしたことを特徴とする低濃度有毒物質検知方法。」と訂正する。(下線は、訂正箇所を示す。訂正事項において以下同様。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に、
「CCDビデオカメラで監視水槽内の小型魚類の動きを俯瞰撮影する」と記載されているものを、
「CCDビデオカメラで監視水槽内のメダカ類の動きを俯瞰撮影する」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によって小型魚類が群れで固まる状態をセンサードットで検知する」と記載されているものを、
「CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態をセンサードットで検知する」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、
「CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理により監視水槽全面に所定数のセンサードット毎に縦横にブロック化した複数のセンサーブロックを配置し、監視水槽内の小型魚類が動いて各センサーブロック内のセンサードットに触れるとセンサーブロックが計数される仕組みのアルゴリズムにおいて、計数されたセンサーブロック数が所定時間連続して予め設定した設定ブロック数以下である時に小型魚類が群れで固まる状態を検知することで」と記載されているものを、
「CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理により監視水槽全面に所定数のセンサードット毎に縦横にブロック化した複数のセンサーブロックを配置し、監視水槽内のメダカ類が動いて各センサーブロック内のセンサードットに触れるとセンサーブロックが計数される仕組みのアルゴリズムにおいて、計数されたセンサーブロック数が所定時間連続して予め設定した設定ブロック数以下である時にメダカ類が群れで固まる状態を検知することで」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に、
「ヒメダカ等の小型魚類を群れで飼育する監視水槽と、
前記監視水槽内に試料水を連続供給する給水手段と、
前記監視水槽内の小型魚類の動きを外部から撮影するCCDビデオカメラと、
前記CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によって小型魚類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する画像処理手段と、」と記載されているものを、
「ヒメダカ等のメダカ類を群れで飼育する監視水槽と、
前記監視水槽内に試料水を連続供給する給水手段と、
前記監視水槽内のメダカ類の動きを外部から撮影するCCDビデオカメラと、
前記CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する画像処理手段と、」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に、
「監視水槽内の小型魚類の動きを俯瞰撮影するようにしたこと」と記載されているものを、
「監視水槽内のメダカ類の動きを俯瞰撮影するようにしたこと」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に、
「CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によって小型魚類が群れで固まる状態をセンサードットで検知する」と記載されているものを、
「CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態をセンサードットで検知する」と訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に、
「監視水槽内の小型魚類が動いて各センサーブロック内のセンサードットに触れるとセンサーブロックが計数される仕組みのアルゴリズムにおいて、計数されたセンサーブロック数が所定時間連続して予め設定した設定ブロック数以下である時に小型魚類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有害物質の混入と判定する」と記載されているものを、
「監視水槽内のメダカ類が動いて各センサーブロック内のセンサードットに触れるとセンサーブロックが計数される仕組みのアルゴリズムにおいて、計数されたセンサーブロック数が所定時間連続して予め設定した設定ブロック数以下である時にメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有害物質の混入と判定する」と訂正する。
2 本件訂正の適否
訂正事項1~8は、上記1で示したとおり、訂正前の特許請求の範囲の請求項1~12に記載された発明の発明特定事項である「小型魚類」を「メダカ類」に訂正するものであるから、訂正事項1~8を一括して判断する。
(1)訂正の目的の適否
訂正事項1~8は、「小型魚類」を「メダカ類」に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
訂正事項1~8は、願書に添付した明細書の段落【0024】には、「自然界のメダカは、群れで生息する習性をもち、水の流れがある田圃や小川を好んだ生息環境と習性をもつため、本実施例の監視水槽4は約20匹のヒメダカを群で飼育し、監視水槽4内の水位を浅くして、原水を常に回流している。」と記載されており、明細書の上記記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1~8は、「小型魚類」を概念的に下位の「メダカ類」に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)一群の請求項について
訂正事項1~4に係る本件訂正前の請求項1~6は、本件訂正前の請求項1の記載を、本件訂正前の請求項2~6が引用しているものであるから、一群の請求項であり、これらに対応する本件訂正後の請求項1~6も一群の請求項である。
また、訂正事項5~8係る本件訂正前の請求項7~12は、本件訂正前の請求項7の記載を、本件訂正前の請求項8~12が引用しているものであるから、一群の請求項であり、これらに対応する本件訂正後の請求項7~12も一群の請求項である。
よって、上記訂正事項1~8に係る本件訂正は、一群の請求項ごとに特許請求の範囲の訂正を請求するものであって、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明12」といい、本件発明1~12を総称して「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
なお、請求項7の「低濃度有害物質混入の混入」は、「低濃度有害物質の混入」の明らかな誤記と認められるので、「低濃度有害物質の混入」であると認定した。
【請求項1】
ヒメダカ等のメダカ類を監視水槽内に群れで飼育しておき、その監視水槽に試料水を連続給水し、その試料水への低濃度有毒物質の混入を連続的に監視して検知する低濃度有毒物質検知方法において、
ヒメダカ等のメダカ類は大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能から低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し、監視水槽の外側に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内のメダカ類の動きを撮影し、この映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定するようにしたことを特徴とする低濃度有毒物質検知方法。
【請求項2】
請求項1記載の水質自動監視装置における低濃度有毒物質検知方法において、
試料水への低濃度有毒物質の混入を検知すると警報を発報するようにしたことを特徴とする水質自動監視装置における低濃度有毒物質検知方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の低濃度有毒物質検知方法において、
監視水槽の上部に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内のメダカ類の動きを俯瞰撮影するようにしたことを特徴とする低濃度有毒物質検知方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の低濃度有毒物質検知方法において、
CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態をセンサードットで検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定するようにしたことを特徴とする低濃度有毒物質検知方法。
【請求項5】
請求項4に記載の低濃度有毒物質検知方法において、
CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理により監視水槽全面に所定数のセンサードット毎に縦横にブロック化した複数のセンサーブロックを配置し、監視水槽内のメダカ類が動いて各センサーブロック内のセンサードットに触れるとセンサーブロックが計数される仕組みのアルゴリズムにおいて、計数されたセンサーブロック数が所定時間連続して予め設定した設定ブロック数以下である時にメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有害物質の混入と判定するようにしたことを特徴とする低濃度有毒物質検知方法。
【請求項6】
請求項5に記載の低濃度有毒物質検知方法において、
前記設定ブロック数を段階的に複数設定し、計数されたセンサーブロック数が所定時間連続して最少設定ブロック数に満たない時に低濃度有害物質の混入による水質異常を検知して異常警報を発報し、センサーブロック数が所定時間連続して最少設定ブロック数より多い設定ブロック数以下である時はその時の設定ブロック数に応じて段階的に注意状態を検知して注意警報を発報するようにしたことを特徴とする低濃度有毒物質検知方法。
【請求項7】
ヒメダカ等のメダカ類を群れで飼育する監視水槽と、
前記監視水槽内に試料水を連続供給する給水手段と、
前記監視水槽内のメダカ類の動きを外部から撮影するCCDビデオカメラと、
前記CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する画像処理手段と、
前記画像処理手段で試料水への低濃度有害物質の混入と判定すると警報を表示する表示手段と、
を備えていることを特徴とする水質自動監視装置。
【請求項8】
請求項7記載の水質自動監視装置において、
前記画像処理手段で試料水への低濃度有毒物質の混入と判定すると警報を発報する警報手段を備えることを特徴とする水質自動監視装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の水質自動監視装置において、
前記CCDビデオカメラは、監視水槽の上部に備えられ、監視水槽内のメダカ類の動きを俯瞰撮影するようにしたことを特徴とする水質自動監視装置。
【請求項10】
請求項7~9のいずれかに記載の水質自動監視装置において、
前記画像処理手段は、CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態をセンサードットで検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定するようにしたことを特徴とする水質自動監視装置。
【請求項11】
請求項10記載の水質自動監視装置において、
前記画像処理手段は、CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理により監視水槽全面に所定数のセンサードット毎に縦横にブロック化した複数のセンサーブロックを配置し、監視水槽内のメダカ類が動いて各センサーブロック内のセンサードットに触れるとセンサーブロックが計数される仕組みのアルゴリズムにおいて、計数されたセンサーブロック数が所定時間連続して予め設定した設定ブロック数以下である時にメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有害物質の混入と判定するようにしたことを特徴とする水質自動監視装置。
【請求項12】
請求項11記載の水質自動監視装置において、
前記画像処理手段は、設定ブロック数を段階的に複数設定し、センサーブロック数が所定時間連続して最少設定ブロック数に満たない時に低濃度有害物質の混入による水質異常を検知して警報手段で異常警報を発報し、計数されたセンサーブロック数が所定時間連続して最少設定ブロック数より多い設定ブロック数以下である時はその時の設定ブロック数に応じて段階的に注意状態を検知して警報手段で注意警報を発報するようにしたことを特徴とする水質自動監視装置。
第4 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、審判請求書において、「特許第4712908号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至12に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。
2 請求人の証拠方法
請求人は、審判請求書に添付して以下の甲第1号証~甲第5号証を、口頭審理陳述要領書に添付して以下の甲第6号証~甲第8号証の3を、審判事件弁駁書に添付して以下の甲第9号証を提示している。
甲第1号証:特開2007-85828号公報
甲第2号証:特開2004-125753号公報
甲第3号証:川端雅博 他3名「ヒメダカの活動低下に着目した画像解析による水質異常検知特性」 水環境学会誌 平成22年1月9日 Vol.30 No.11 P645~650
甲第4号証の1:環境電子株式会社 水質自動監視装置 NBA-03型(簡易加湿器搭載仕様) 平成22年2月 仕様書
甲第4号証の2:環境電子株式会社 メダカのバイオアッセイ 水質自動監視装置 NBA-03型 取扱説明書(簡易加湿器搭載仕様)
(以下、「甲第1号証」~「甲第4号証の2」をそれぞれ「甲1」~「甲4の2」という。)
甲第4号証の3:環境電子株式会社作成の検査成績書(検査日2010.01.20) 装置名「水質自動監視装置 NBA-03型」 納入先「鹿児島県阿久根市水道課」 製造NO「BA1001001」
甲第4号証の4:環境電子株式会社作成の試運転調整報告書(検査日平成22年3月23日) 装置名「バイオアッセイ水質自動監視装置 NBA-03型) 設置場所 宮之前水源地 監視装置室 製造NO「BA1001001」
甲第4号証の5:(株)ユニオンシステム作成のNBA-03操作説明会資料
甲第4号証の6:環境電子株式会社作成の水質自動監視装置 外形図 図面番号「YH040521-1」、機器配置図 図面番号「YH081122-1」
甲第4号証の7:環境電子株式会社作成の水質自動監視装置 配線図1/2 図面番号「20041121-1」 配線図2/2 図面番号「20041121-2」
甲第4号証の8:付属品及び予備品リスト(1/1)に関する文書
甲第4号証の9:環境電子株式会社作成のメダカのバイオアッセイ 水質自動監視装置 NBA-03型に関する文書
甲第5号証:公知性を示す刊行物の頒布時期証明書
甲第6号証:平成29年2月8日 株式会社アニマックス作成のバイオアッセイを用いた水質監視装置における検知技術の変遷に関する文書
甲第7号証の1:株式会社アニマックス OS-II/DX オルセイバー 見積仕様書
甲第7号証の2:ORGANO CORPORATION メダカによる水の安全監視システム NEW オルセイバーOS-II/DXに関する文書
甲第7号証の3:共同開発契約書
甲第8号証の1:特開平9-178731号公報
甲第8号証の2:特開平9-229924号公報
甲第8号証の3:特開2009-74840号公報
甲第9号証:平成29年(ネ)第10039号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成27年(ワ)第10267号)における平成29年8月29日判決
3 請求人が主張する無効理由
請求人が主張する無効理由(全文訂正書の第19頁第16行~第21頁第9行「(3)特許無効審判請求の根拠」)は、次のとおりである。
(1)無効理由1
本件発明1は、甲1に記載された発明であるから、その特許は特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(3)無効理由3
本件発明7は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(4)無効理由4
本件発明7は、甲1に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(5)無効理由5
本件発明2は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(6)無効理由6
本件発明2は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(7)無効理由7
本件発明8は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(8)無効理由8
本件発明8は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(9)無効理由9
本件発明3は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(10)無効理由10
本件発明3は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2、甲3、甲4の1に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(11)無効理由11
本件発明9は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(12)無効理由12
本件発明9は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2、甲3、甲4の1に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(13)無効理由13
本件発明4は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2、甲4の2に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(14)無効理由14
本件発明10は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2、甲4の2に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(15)無効理由15
本件発明5は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2、甲3、甲4の2に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(16)無効理由16
本件発明11は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2、甲3、甲4の2に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(17)無効理由17
本件発明6は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2、甲4の2に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
(18)無効理由18
本件発明12は、甲1(主引例)に記載された発明、及び甲2、甲4の2に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
4 請求人の主張内容
審判請求書、全文訂正書、口頭審理陳述要領書、口頭審理、上申書(1)~(4)及び審判事件弁駁書を総合すると、請求人が主張する具体的な主張内容は、概略、次のとおりである。
(1)審判請求書、全文訂正書
ア 無効理由1~4の内容
甲1発明には、試料水への低濃度有毒物質の混入を連続的に監視して検知する点、ヒメダカ等の小型魚類が低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し、監視水槽の外側に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内の小型魚類の動きを撮影し、この映像から画像処理によって小型魚類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する点が記載され、たとえ、甲1発明に本件特許発明1の構成要件B.に記載の「ヒメダカ等の小型魚類は大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能」を利用する点が記載されていない点で相違するとしても、発明の本質的な構成要件は「小型魚類が群れで固まる状態を検知すること」であって、当該検知によって低濃度有毒物質の混入と判定することが甲1発明に記載されている以上、低濃度有毒物質を検知する方法自体になんら相違点は見当たらない。(全文訂正書第28頁第12行~第29頁第5行から抜粋)
イ 無効理由5~8の内容
甲1発明には、本件特許発明2及び本件特許発明8に記載の「試料水への低濃度有毒物質の混入を検知すると警報を発報するようにしたこと」が記載され、甲第2号証にも、本件特許発明2及び本件特許発明8の上記構成要件の記載がある。(全文訂正書第29頁第8行~第19行から抜粋)
ウ 無効理由9~12の内容
甲1発明には、本件特許発明3及び本件特許発明9に記載の「監視水槽の上部に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内の小型魚類の動きを俯瞰撮影するようにしたこと」が記載され、甲第2号証、甲第3号証、さらには甲第4号証の1にも、本件特許発明3及び本件特許発明9の上記構成要件の記載がある。(全文訂正書第29頁第22行~第30頁第4行から抜粋)
エ 無効理由13及び14の内容
甲1発明には、本件特許発明4及び本件特許発明10に記載の「CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によって小型魚類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定するようにしたこと」が記載されており、甲第2号証及び甲第4号証の2には「センサードットでメダカの異常行動を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定すること」が記載されている。(全文訂正書第30頁第7行~第24行から抜粋)
オ 無効理由15及び16の内容
甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証の2には、本件特許発明5及び本件特許発明11に記載の「CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理により監視水槽全面に所定数のセンサードット毎に縦横にブロック化した複数のセンサーブロックを配置」することが記載され、甲第2号証及び甲第4号証の2には、本件特許発明5及び本件特許発明11に記載の「監視水槽内の小型魚類が動いて各センサーブロック内のセンサードットに触れるとセンサーブロックが計数される仕組みのアルゴリズム」が記載されている。(全文訂正書第30頁末行~第31頁第23行から抜粋)
カ 無効理由17及び18の内容
甲第2号証、甲第4号証の2には、本件特許発明6及び本件特許発明12に記載の「設定ブロック数を段階的に複数設定し、センサーブロック数が所定時間連続して最少設定ブロック数に満たない時に低濃度有害物質の混入による水質異常を検知して警報手段で異常警報を発報」が記載され、甲第2号証、甲第4号証の2には、本件特許発明6及び本件特許発明12に記載の「計数されたセンサーブロック数が所定時間連続して最少設定ブロック数より多い設定ブロック数以下である時はその時の設定ブロック数に応じて段階的に注意状態を検知して警報手段で注意警報を発報する」が記載され、特に甲第4号証の2には、設定ブロック数を段階的に複数設定し(「05」「04」「03」「02」)、センサーブロック数が所定時間(300秒)連続して最少設定ブロック数(MINIMUM BLOCKS「02」)に満たない時に警報を発報する点(13頁,18頁,20頁等)、計数されたセンサーブロック数が所定時間(120秒、180秒、240秒)連続して最少設定ブロック数(MINIMUM BLOCKS「05」「04」「03」)より多い設定ブロック数以下である時はその時の設定ブロック数に応じて段階的にアラームを発報(注意1、注意2、注意3)する点(12頁,13頁,18頁,20頁等)が記載されている。(全文訂正書第31頁第26行~第32頁第21行から抜粋)
(2)審判事件答弁書に対して
甲第1号証に記載された発明の相違点について
「被請求人は、答弁書第13頁において本件発明1との相違点1を「『低濃度有毒物質』の検知において、本件発明1においては、シアン化カリウム(青酸カリ)0.02mg/Lを検知する方法であるのに対し、甲1発明においては陰イオン界面活性剤LAS200ppmを検知する方法にすぎない点」と述べている。しかし、本件特許発明1には、シアン化カリウム(青酸カリ)0.02mg/Lの記載がなく、甲1発明との相違点とは言えない。」(口頭審理陳述要領書第7頁1行~第6行)
(3)意見書に対して
ア 「低濃度」がどのような濃度を意味するか
「本件特許発明1~本件特許発明6は、「低濃度有毒物質検知方法」であり、本件特許発明7~本件特許発明12は「試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する水質自動監視装置」である以上、低濃度とはどのような濃度を意味するのかを明確にしなければ、・・・特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとはいえない。」(審判事件弁駁書第3頁第3行~第8行)
イ 「群れで固まる状態」についての定義
「乙第9号証の動画をみると、「群れで固まる(一定の速度で移動する状態ではない)」状態は有毒物質投入以外にも見当たる。しかもその「群れ」の状態は、1つの大きな群れでもよいし、複数の群れでもよい(・・・)となると、一層どのような状態を「群れで固まる状態」として定義して検知しているものなのかが明確でない。」(審判事件弁駁書第4頁第3行~第18行)
ウ 「捕食防御本能」により「群れで固まる性質」について
「本件無効理由通知・6~7頁で指摘されているように、そもそもヒメダカは、自然環境の中では、群れで生息しており、敵が近付いてきたときは、敵とは反対の方向に散らばったり、物陰に隠れたりする。また、平成29年2月23日に行われた口頭審理の際にも、ヒメダカが飼育されている水槽に人が近づいただけでヒメダカは忌避行動を起こすという話とともに、このような忌避行動と「群れで固まる」との違いは「移動」が伴うか否かであるとの説明が被請求人からあった。
これらを考慮しても、また乙第16号証を参照しても、被請求人の主張に係る大型魚類から捕食される捕食防御本能があり、危険を検知すると群れで固まる生態本能というものがヒメダカにあるかどうかは依然として不明である。すなわち、乙第16号証から、ヒメダカはヒメダカよりも大きな魚が水槽に投入されると、逃げようと忌避行動をとるであろうことは推測できても、ヒメダカが死なない程度の濃度の有毒物質が水槽に投入されたとき、同じ行動を採るのかは不明である。また本件特許は、画像処理によって試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する低濃度有毒物質検知方法及び水質自動監視装置であって、乙第3号証にあるように人の目で目視して判断する特許発明ではないはずである。そうであるなら、本来、本件特許は、具体的にどのうような画像処理を行っているか、甲第1号証~甲第3号証、そして甲第6号証に示す従来技術と異なる技術内容を特定しなければ、新規な特許発明といえないはずである。
もし、ヒメダカよりも大きな魚が水槽に投入されたときの行動と、ヒメダカが死なない程度の濃度の有毒物質が水槽に投入されたときのヒメダカの行動とが、同じであったとすれば、それは「発見」であって、特許法上の「発明」とはいえない。よって、「捕食防御本能」により「群れで固まる性質」については、本件特許の発明特定事項から除外して特許性の判断をすべきである。
被請求人は、平成29年3月31日付上申書・3頁において、動物行動学の知見から、「捕食防御本能で固まる性質」を導いたとも説明している。となれば、やはり、本件特許における自然法則を利用した技術的思想の創作は、実質的に、ヒメダカの活動量の低下を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定するものであるということになり、本件特許の特許性は甲第1号証等の存在により、否定される。
・・・
さらに今般の訂正請求の内容及び意見の内容を踏まえても、「捕食防御本能で固まる性質」で生じる群れと通常の群れとの違いも依然として不明であって、本件特許は明確性を欠く無効理由がある特許である。」(審判事件弁駁書第4頁第26行~第6頁第8行)
エ 本件特許の技術的核心部分について
「本審判は、いっこうに本来特許発明における核心であるはずの技術論に到達しないでいる。被請求人は、本件特許の特許性を主張するのであれば、平成29年2月23日に行われた口頭審理における審尋書の(3)検出手法について1の質問5や、質問6、さらに同審尋書の(3)固まりについて1の質問1、質問2に対して、技術的な説明を明確に行うべきであるし、それに沿った訂正を行うべきである。“動き検知ブロック数が4個以下で75秒経過”という条件で低濃度有毒物質検知としてみなす根拠については、大いに疑問がある。・・・上記“動き検知ブロック数が4個以下で75秒経過”の条件では、低濃度有毒物質以外の誤報発信が危惧される。・・・本件特許の実施例には、ヒメダカの活動量を検知し、予め設定した“ブロック4個が75秒”でアラームを発信とされている。検知ブロック数はヒメダカの投入匹数が左右されるが、“動き検知ブロック数が4個以下で75秒経過”でなぜ複数のメダカが群れで固まっていると判断できるのか、不明としかいいようがない。水槽内には、一定の周流があり、「固まる」とはいえ、ヒメダカが生きている以上、ヒメダカは水流に逆らって一定の速度で動いていることになる。このような動き、匹数の検知を無視した本件特許の検知精度には、疑問を呈さずにはいられない。さらにいえば、本件特許はヒメダカの活動量の減少のみをとらえているが、有毒物質の暴露開始から本件特許にいう「固まる」までの経過時間や、ヒメダカが有毒物質を検知して激しく動きまわる状態をも無視していることは、いくら「低濃度」有毒物質の検知方法もしくは検知装置といえ、片手落ちと言わざるを得ない。」(審判事件弁駁書第6頁第10行~第7頁第11行)
第5 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は、審判事件答弁書において、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めている。
2 被請求人の証拠方法
被請求人は、審判事件答弁書に添付して以下の乙第1号証~乙第6号証を、口頭審理陳述要領書に添付して以下の乙第7号証を、上申書(2)に添付して以下の乙第8号証~乙第10号証を、意見書に添付して以下の乙第11号証~乙第16号証を提示している。
乙第1号証:平成23年5月23日付け日本水道新聞の環境電子・メダカのバイオアッセイに関する記事
乙第2号証:平成25年3月13日 (株)ユニオンシステム作成の注文書
乙第3号証:環境電子株式会社作成のメダカのバイオアッセイ 水質自動監視装置 NBA-03型に関する文書
乙第4号証:水質基準に関する省令に関する文書
乙第5号証:平成24年3月1日 環境電子(株)技術部作成の東京都水道局 工場検査記録
乙第6号証:平成20年8月26~28日 鹿児島状況に関する文書
乙第7号証:特開平9-229924号公報
乙第8号証:講談社の動く図鑑 MOVE 魚 平成25年12月2日発行
乙第9号証:環境電子(株)作成の乙第5号証の試験記録動画(編集版)
乙第10号証:山本隆洋 「微量毒物によるヒメダカの異常行動を画像解析により自動検知発報するバイオアッセイ」 用水と廃水 Vol.58 No.2 p.3~9
乙第11号証:特許第5013399号公報
乙第12号証:特許第3740562号公報
乙第13号証:特許第5787288号公報
乙第14号証:特許第5416425号公報
乙第15号証:小林紀有起 「メダカの集団行動のモデル化に関する研究」 三重大学 平成19年度 1~3頁
乙第16号証:被請求人によるメダカの補食防御行動の実験に関する書面
3 被請求人の主張内容
審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、口頭審理、上申書(1)、(2)及び意見書を総合すると、被請求人が主張する具体的な主張内容は、概略、次のとおりである。
(1)審判請求書及び全文訂正書に対して
ア 無効理由1~4について
「イ 甲第1号証に記載された発明
上記からすると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
ヒメダカ等の水生生物を水槽内に複数飼育しておき、その水槽に検水を一定の流量にて導入し、その検水への低濃度毒性物質(陰イオン界面活性剤LAS200ppm)の混入を連続的に監視して検知する水質監視方法において、
水槽の外側に設置したCCDビデオカメラで水槽全体の映像を撮影し、この映像から画像解析によってヒメダカ等の複数の水性生物の行動パターン(水槽内における水生生物の分布の遷移、水槽内における水生生物の群の分布、水槽内における水生生物の少なくとも一群の包括形状、水槽内における水生生物の活動量の遷移等、これらの組み合わせ含む。)を監視することで、検水の水質を判断することを特徴とする水質監視方法。
ウ 一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1の監視水槽は、甲1発明の水槽に、本件発明のヒメダカ等の小型魚類を群れで飼育することは、甲1発明のヒメダカ等の水生生物を水槽内に複数飼育することに、甲1発明の検水は、本件発明1の試料水にそれぞれ相当する。
これに対し、甲1発明における、低濃度毒性物質の濃度は陰イオン界面活性剤LAS200ppm(甲第1号証 段落【0034】)であるのに対し、本件発明1における低濃度有毒物質の濃度はシアン化カリウム(青酸カリ)0.02mg/L(0.02ppm)という1万分の1の低濃度を検知するのである(本件特許明細書段落【0044】)。
ここで、陰イオン界面活性剤LASとシアン化カリウムは毒性が異なるが、前者の水道水の水質基準は 0.2mg/L以下であり、後者は0.01mg/Lである(乙第4号証)ことから、この点を勘案したとしても、500分の1低濃度を意味することとなる。
したがって、本件発明1と甲1発明は、
「ヒメダカ等の小型魚類を監視水槽内に群れで飼育しておき、その監視水槽に試料水を連続給水し、その試料水への有毒物質の混入を連続的に監視して検知する有毒物質検知方法において、
監視水槽の外側に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内の小型魚類の動きを撮影し、この映像から画像処理によって小型魚類の行動を検知することで試料水への有毒物質の混入と判定するようにしたことを特徴とする有毒物質検知方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1
「低濃度有毒物質」の検知において、本件発明1においては、シアン化カリウム(青酸カリ)0.02mg/Lを検知する方法であるのに対し、甲1発明においては陰イオン界面活性剤LAS200ppmを検知する方法にすぎない点。
相違点2
本件発明1が小型魚類の大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生体本能から低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し、小型魚類が群れで固まる状態を検知するものであるのに対し、甲1発明は水性生物の行動パターン(水槽内における水生生物の分布の遷移、水槽内における水生生物の群の分布、水槽内における水生生物の少なくとも一群の包括形状、水槽内における水生生物の活動量の遷移等、これらの組み合わせ含む。)を検知する方法である点。
エ 相違点についての判断
上記のとおり本件発明1と甲1発明との間には相違点が存在することから、請求人主張の無効理由1は理由がない。
また、本件特許明細書の段落【0004】に記載のとおり「そのため希釈された薄い毒性に対しては異常行動は現れずバイオアッセイ法が試薬を使う化学分析法に比べて劣るとされていた点であった」とされており、かつ、同段落【0044】において記載のとおり「シアン化カリウム・・・0.02mg/Lで検出できるのは、従来は試薬を使った化学分析法でバイオアッセイ法では検出できなかった。」のである。
これに対し、本件発明1により初めてバイオアッセイ法(魚類を使った方法)によりシアン化カリウム0.02mg/Lが検出できることとなったのである。そのため、当該事実は専門新聞において大きく取り上げられ(乙第1号証)、東京都水道局と被請求人環境電子との共同試験においては、シアン化カリウム0.01mg/Lにおいても、5時間46分後に有毒物質の混入と判定したのである(乙第5号証)。
さらに相違点2についても、甲1発明には、本件発明1に記載の小型魚類の大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生体本能を利用することについては、記載も示唆も存在しない。
よって、甲1発明から相違点1及び2にかかる構成を、本件特許権出願前の当業者が容易に想到することはできない。」(審判事件答弁書第12頁第11行~第14頁第26行)
イ 請求人の主張に対する反論
(ア)「請求人は、本件発明1と甲1発明の効果及び解決課題が一致すると主張する(全文訂正書28頁20~22行)。
しかしながら、本件発明1と甲1発明の効果が相違すること(シアン化カリウム0.02mg/Lの検知)は上記のとおりである。
・・・
すなわち、本件発明1において、シアン化カリウム0.02mg/Lを異常として検知するのは、11時間後であるが(本件特許明細書段落【0048】)、甲1発明が対象としているのは5~30分という極めて短い時間であり(甲第1号証【0034】「検水2の導入開始からの時間によって5分毎にフェーズ1からフェーズ6まで・・・」との記載)、明らかに早期の毒物検知を解決課題とするものである。
このように、本件発明1と甲1発明は効果及び解決課題においていずれも相違するものであり、請求人の主張には理由がない。」(審判事件答弁書第14頁末行~第15頁第22行)
(イ)「請求人はまた、甲1発明には、「発明の本質的な構成要件は『小型魚類が群れで固まる状態を検知すること』であって、当該検知によって低濃度有毒物質の混入と判定することが甲1発明に記載されている」(全文訂正書28頁26~28行)とも主張する。
しかしながら、甲第1号証に記載されているのは・・・(段落【0018】)であり、水槽内での群れの分布(どのセクタに群れが形成されているか)は確認するものの、「群れで固まる状態を検知する」ことなどは記載されておらず、甲1発明とは認定できない。この点段落【0034】においても「本試験では先ずフェーズ1にて、セクタ2にメダカが集まって群を形成した。」として群れの分布を検知しているにすぎないのである。
よって、「小型魚類が群れで固まる状態を検知すること」は甲第1号証には記載されていないし、ましてや、それが「大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能」を利用するものであることなどは、記載も示唆もない。」(審判事件答弁書第14頁第23行~第16頁第14行)
(2)審尋書に対して
「捕食防御本能で固まる性質」で生じる群れの特徴(定義)について
「群れの特徴の定義は、・・・固まりを形成し、固まりは一群の場合もあれば複数の場合もあり、群れを形成する小型魚類は活発には動かないが、尾びれや背びれを動かしたり、静止したり、緩やかに遊泳していることもある。必ずしも群れを形成する小型魚類が、同じ方向を向いて回遊しているわけでもない。
・・・
明細書の記載としては、【0032】・・・【0051】・・・【0052】・・・との記載から導かれる。すなわち、ヒメダカが動かないとセンサーブロックを計数しないことから、ヒメダカの動きが活発ではないことが導かれ、群れの個数については特に限定が存在しない、また、図14の写真から、ヒメダカが同じ方向を向いて回遊しているわけではないことが導かれる。」(上申書(2)第5頁第4行~第6頁第20行)
第6 甲号証の記載等
1 甲1の記載事項等
(1)甲1の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1(特開2007-85828号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審が付与したもの)。
(甲1-ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記のような用途においてもなお、検出手法の最適化によって、少しでも迅速に検知することが求められるのは当然のことである。また、異常の早期発見(早期検知)に加え、低濃度の毒性であっても、将来的あるいは長期的な影響が考えられるので、当座の使用には問題のない水質レベルであっても、その低濃度の毒性を検出できるようにすることが望まれる場合も多いと考えられる。
【0007】
そして、毒性の検出の迅速化や早期検出には、水生生物の異常行動をごく初期段階で見極め、毒性反応が疑われる行動が始まったことを警報として発信することが有効であると考えられる。この初期行動は、狂乱行動や逃避行動に見られるが、生物群の動きを注意深く観察することによって始めて察知できるものと考えられる。
【0008】
しかしながら、このような考え方に基づいて、水生生物の異常行動をごく初期段階で見極めるようにした、つまり、即座に急性毒性と関連付けることができるような異常行動ではなく、そのような毒性に発展するおそれがある段階にて、あるいは極めて低濃度の毒性が生じている初期段階にて、その検知を水生生物の行動と関連付けたものは見当たらない。
【0009】
そこで本発明の課題は、上記のような観点から水生生物を用いた水質監視方式を総合的に見直し、水生生物の行動をごく初期の段階から詳細に監視することにより、急性毒性に対してはもとより、そのような毒性に発展するおそれがある初期段階や極めて低濃度の毒性が生じている初期段階に対しても、適切に水質を判断できるようにした水質監視方法および装置を提供することにある。」
(甲1-イ)「【0028】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の一実施態様に係る水質監視装置の基本構成例を図1に示す。この水質監視装置は、複数の水生生物を浮遊させた水槽と、水生生物の分布や挙動を監視するための撮像手段(例えば、CCDカメラ)を備えた生物連続監視設備1を有しており、生物連続監視設備1の水槽内に検水2が導入される。水槽内では、導入された検水は、例えば後述の一定の流路を経て、水槽の排出部から排水3として排出される。CCDカメラ等の撮像手段で撮像された水生生物の分布や挙動は、水質判断手段4内に映像信号5として取り込まれ、水質判断手段4内に予め設定あるいは記憶されているプログラムや試験データと比較照合され、その結果に基づいて必要に応じて警報信号6が発せられる。警報信号6としては、比較照合結果に応じて、ランク付けされたものとすることができる。 」
(甲1-ウ)「【0029】
図2に示すように、例えば、水槽11内を複数の監視領域に分けて水生生物の行動パターンを監視することができる。図2に示した例では、検水2は水槽11の入口部12から導入され、上方から見て中央部に設けられた排水部13から排出されるが、この入口部12から排水部13へと形成される一定の流路14に沿って、セクタ1、セクタ2、セクタ3、セクタ4の4つの小監視領域15に分割されている。なお、本実施態様では、検水2は、一定の少量流量にて水槽11内に導入されるので、流路14も一定の経路に保たれており、小監視領域15が変動することはないようになっている。
【0030】
このように複数の小監視領域15に分割しておくと、例えば図3に示すように、水生生物16(例えば、メダカ)が、水流に沿って列状に分布したり(図示例のパターン1)、図2におけるセクタ2部分に集中したり(図示例のパターン2)、図2におけるセクタ1部分には存在しないことを確認したり(図示例のパターン3)、図2におけるセクタ1とセクタ3に分かれた群を形成するように分布したり(図示例のパターン4)する、各種の行動パターン例を、より定量的なデータとして把握することが可能になる。またこのとき、水生生物16の少なくとも一群の包括形状を監視し、例えばそのときの毒性のレベルを判断することも可能である、例えば、図示例のパターン2では、水生生物16が水流方向に沿って列状に並んだ群形状を示しており、例えば未だ比較的低いレベルにある毒性に対して警戒し始めた段階であると判断することが可能である。図示例のパターン4では、2群に分かれるとともに各群が不定形の包括形状を示しており、水生生物16の遊泳形態がおかしくなって、例えば比較的高いレベルに毒性が到達していると判断することが可能である。」
(甲1-エ)「【0031】
上記のような本発明に係る水質監視装置を用いて、実際に行った試験について説明する。本試験におけるバイオアッセイによる水質連続監視設備では、約10匹のメダカ(ヒメダ)の映像をCCDカメラで画像として認識して、この魚類の活動度を数値化し、その数値または数値の推移によって通常行動と異常行動の違いを認識させるプログラムを介して異常警報を発するという方法を採用した。
【0032】
行った画像解析の手法は、以下の通りである。メダカの動きをCCDカメラで捕え、メダカの分布とともに活動量を測定し、この推移を連続モニターする。活動量は、各メダカの画像の微小単位時間に対する移動量の合計として数値化できる。この活動量が急激に低下したときおよび変化が見られたとき、水質異常の警報を発信する。コンピュータソフトウェアで活動量を統計処理し、異常を検知すると警報発信し、履歴を保存する。異常の原因究明にこの履歴データが活用される。
【0033】
本発明では、上記のようなメダカ群全体の活動の有無や程度を判断する指標として活動量を定量する他、計測する区域(監視領域)を時間毎に変化させることによって、概略の群行動を把握し、狂奔行動、水質急変ならびに物音や光の点滅などに対する警戒行動、および活動量減衰期における死亡等の検出を行い、異常発生時の早期検知や原因推定に有効なデータ取得を可能とする。」
(甲1-オ)「【0034】
図4に実際に薬物として陰イオン界面活性剤LASを200ppmになるように調製した検水2を、貯水量7Lの水槽11に、1L/minの一定流量にて導入した際の、連続撮影した監視水槽画面を、検水2の導入開始からの時間によって5分毎にフェーズ1からフェーズ6まで水生生物16としてのヒメダカの分布並びに挙動の例を示す。なお、本試験では、各監視領域(セクタ1~セクタ4)を、図2に示したものとは若干異なる分割形態とした。連続監視装置で実施したこのような急性毒性物質の投与時にメダカの個体の分布を目測で記録した際、メダカが異変を感じた場合、水流に逆らいつつ遊泳の姿勢をとったまま、群れを形成することを確認している。CCDカメラで水槽全体の映像を撮影すると、本試験では先ずフェーズ1にて、セクタ2にメダカが集まって群を形成した。各セクタ内に示した数値はそのセクタ内のメダカの活動量を示しており、各フェーズの数値は、各フェーズにおける水槽11内メダカ全数のトータル活動量を示している。次いでフェーズ2にて、水流に逆らいつつ遊泳の姿勢をとったセクタ1からセクタ2にかけての一群と、セクタ3に集まった群とに分かれた。次いで、フェーズ3にて、全てのメダカが逃避した。このときには、メダカは毒性を強力に感じており、その活動量は未だ比較的大きい。そして、フェーズ4では、毒性がメダカに作用し始め、体力を消耗すると流れに抗しきれない個体が、下流側に押し流されたり、遊泳姿勢を保持できなくなって動きがおかしくなるメダカが生じ、次第に群から離脱しはじめ、分布が乱れるとともに全体の活動量が低下する。フェーズ5では、さらに全体の活動量が低下し、ほとんど泳げなくなる。ついにフェーズ6では、全体の活動量が零となり、生存しているメダカが存在しなくなるか、生存していても底に沈んだりして動かない状態となる。
【0035】
このように、個別の位置を座標情報として取得するのではなく、流れ方向に沿って、監視セクタを複数箇所設定し、時間ごとの各セクタにおける活動量を水流方向に従って順次取得し、データ処理を行うことで、主要な群れの中心位置(セクタ)、密度、偏差、群の崩壊による分散を検知して群行動を概略把握できることを見出した。
【0036】
上記のような取得画像に対して、重み付けを行って(画像解析の優先度をつけて)、メダカの行動異常の判定条件を適宜設定することができる。例えば表1に行動異常判定条件設定例を示すように、メダカが水の流れに対して逆らって泳いでいるか、あるいは流される傾向が認められるかを判断するルーチンとして条件a~dをループして、セクタ別の活動量変化を計測したり、全体の活動は低下していない前提のもとで、ある特定のセクタにメダカがとどまり続けるような警戒(物音などへの怯え)行動を検知したり(条件m~o)することができる。さらに、活動量をセクタごとに把握したり、全体のトータル活動量を把握したりするルーチンを実行することもできる(条件y、z)。また、これらを組み合わせて繰り返し実行することもできる。表1は、条件a~dのルーチンをONとし、それ以外の条件のルーチンをOFFとしてプログラムを実行している場合を示している。このように幅広い判断基準で、全体の動きを見渡せるとともに群ごとにも挙動を把握できるアルゴリズムを構築できることが本発明の最大の特徴である。
【0037】
【表1】
【0038】
これにより、メダカの行動パターンを、分布はもとより、分布や行動パターンの時間的推移まで監視することが可能になり、従来にない、極めて高精度でかつ詳細な分析を行うことが可能になる。しかも、検水を導入しはじめたごく初期の段階から連続的に監視できるから、わずかなメダカの異常行動についても確実に認識でき、問題となる毒性に至るまえのごく初期の段階、あるいは、ごく低濃度の毒性であっても、それを検出したり、後の段階における毒性の発展を予測したりすることが可能になり、極めて有用な水質監視が可能となる。
【0039】
したがって、監視しようとする水質の目標レベルに応じて、監視レベルや警報発信レベルを自由に設定することが可能になる。表1においては、フェーズ4とフェーズ5の間で事前警報を発生させて注意を促し、フェーズ5とフェーズ6の間で警報を発生させて異常発生を報知するようにしているが、より早い段階(フェーズ)での警報信号の発信も可能である。そのような早い段階で警報信号を発信すれば、極めて早期に水質異常、あるいは水質異常発生の可能性を予測したり、報知したりすることが可能になり、より安全を求められる用途にとっては、従来にない有用な情報が得られることになる。このような有用な情報が得られれば、毒性発生の原因となった発生源に対しても、早期に処置を講じることが可能になる。」
(甲1-カ) 図3には、水性生物の行動パターン例を示す水槽の概略平面図が示されている。
(甲1-キ) 図4には、水性生物の行動パターンの推移例を示す水槽の概略平面図が示されている。
(2)甲1発明の認定
上記(甲1-ア)~(甲1-キ)を含む甲1全体の記載を総合すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という)。
「複数の水生生物を浮遊させた水槽と、水生生物の分布や挙動を監視するための撮像手段(例えば、CCDカメラ)を備えた生物連続監視設備1を有している水質監視装置は、
生物連続監視設備1の水槽内に検水2が導入され、水槽内では、導入された検水は、一定の流路を経て、水槽の排出部から排水3として排出され、CCDカメラ等の撮像手段で撮像された水生生物の分布や挙動は、水質判断手段4内に映像信号5として取り込まれ、水質判断手段4内に予め設定あるいは記憶されているプログラムや試験データと比較照合され、その結果に基づいて必要に応じて警報信号6が発せられる水質監視装置であって、
行った画像解析の手法は、メダカの動きをCCDカメラで捕え、メダカの分布とともに活動量を測定し、この推移を連続モニターし、活動量は、各メダカの画像の微小単位時間に対する移動量の合計として数値化でき、この活動量が急激に低下したときおよび変化が見られたとき、水質異常の警報を発信するものであり、
実際に薬物として陰イオン界面活性剤LASを200ppmになるように調製した検水2を、貯水量7Lの水槽11に、1L/minの一定流量にて導入した際の、連続撮影した監視水槽画面を、検水2の導入開始からの時間によって5分毎にフェーズ1からフェーズ6まで水生生物16としてのヒメダカの分布並びに挙動は、
CCDカメラで水槽全体の映像を撮影すると、先ずフェーズ1にて、セクタ2にメダカが集まって群を形成し、次いでフェーズ2にて、水流に逆らいつつ遊泳の姿勢をとったセクタ1からセクタ2にかけての一群と、セクタ3に集まった群とに分かれ、次いで、フェーズ3にて、全てのメダカがセクタ3に逃避し、このときには、メダカは毒性を強力に感じており、その活動量は未だ比較的大きく、そして、フェーズ4では、毒性がメダカに作用し始め、体力を消耗すると流れに抗しきれない個体が、下流側に押し流されたり、遊泳姿勢を保持できなくなって動きがおかしくなるメダカが生じ、次第に群から離脱しはじめ、分布が乱れるとともに全体の活動量が低下し、フェーズ5では、さらに全体の活動量が低下し、ほとんど泳げなくなり、ついにフェーズ6では、全体の活動量が零となり、生存しているメダカが存在しなくなるか、生存していても底に沈んだりして動かない状態となり、
監視しようとする水質の目標レベルに応じて、監視レベルや警報発信レベルを自由に設定することが可能になる、
水質監視装置。」
2 甲2の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2には、次の事項が記載されている。
(甲2-ア)「【請求項1】
取水した原水を連続的に水槽に通過させ、その水槽内で棲息させた魚類を監視カメラで常時監視し、監視中の魚類が予め自動検出回路に設定した健全な生活行動パターンから外れたのを検出し、その原水が用水に適さないものであると判断するのに供するようにした水質検知装置において、
前記水槽を第1水槽と第2水槽で構成し、
前記第1水槽の上方開口部から水面を透かして魚類を撮影するように配置される第1監視カメラと、前記第2水槽の上方開口部から水面を透かして魚類を撮影するように配置される第2監視カメラとをそれぞれ設置し、
前記第1監視カメラの映像を元に生存している魚類の数を検出し、
前記第2監視カメラの映像を元に狂奔した魚類の行動を検出し、
前記生存している魚類の数の検出結果及び狂奔した魚類の行動の検出結果に応じて警報を発することを特徴とする魚類を使用した水質検知装置。」
(甲2-イ)「【0022】
先ず、第1水槽T1は縦横に7×8の56個の検知ブロックが水槽全体に配置され、この1ブロック毎にセンサドットが8×8の64個が設定され、このセンサドットの1個毎に輝度信号で感知するセンサ機能を持たせており、メダカが泳いでこのセンサドットに触れると感知するように設定され、各検知ブロックは警報を出す数が指定される。
この検知ブロックの1個より小さなメダカを第1水槽T1の中に10匹から20匹の範囲で入れておき、第1監視カメラK1の監視映像を映像分配器5dで3分岐して画像処理回路5eに入力される。
画像処理回路5eは、第1水槽の監視用として、検知ブロックの警報を3段階の内それぞれ異なった段階の内一つを担当して検知するよう3つ回路を有している。
【0023】
そして、主制御部3は第1水槽T1のメダカの数が減少して予め設定された数になったときは注意2(ランプ3c)を点滅させ、続いて更にメダカの数が減少して予め設定された数になった場合は注意3(ランプ3d)を点滅させ、全滅した場合は異常(3e)を点滅させて警報を発する。
【0024】
一方、第2水槽T2は縦横に7×8の56個の検知ブロックが水槽全体に配置され、この1ブロック毎にセンサドットが8×8の64個が設定され、このセンサドットの1個毎に輝度信号で感知するセンサ機能を持たせており、メダカが泳いでこのセンサドットに触れると感知するように設定されている。
なお、第2監視カメラK2の監視映像は直接画像処理回路5eの担当する回路に直接入力される。
そして、前記メダカの行動が予め設定されたパターンから外れたとき、具体的には前記輝度信号の変化が所定値から外れたとき、メダカが狂奔行動をしているとみなして主制御部3は注意1(ランプ3b)を点滅させて警報を発する。」
(甲2-エ)「【0032】
本実施の形態の水質検知装置Aの監視中に原水に毒物が混入した場合、先ず、第2水槽T2のメダカが狂奔してランプ3bが点滅して警報が発せられる。
次に、時間の経過に伴って第1水槽T1のメダカの生存数が減少することによりランプ3c,3dが段階的に点滅すると共に警報が発せられ、メダカが全滅するとランプ3eが点滅して警報が発せられる。
なお、第2水槽T2のメダカの狂奔行動は実験の結果、第1水槽T1の最初に死亡したメダカを検出するまでに終了する。」
(甲2-エ)「【0036】
【発明の効果】
以上、本発明の請求項1記載の魚類を使用した水質検知装置にあっては、上述したように構成したため、第1水槽と第2水槽の魚類の監視を並行して行うことで装置の検知の信頼性を高めることができる。
さらに、原水に含まれる毒物の濃度が薄い場合でも、第2水槽の魚類の狂奔行動を検出することによって、原水の異常を早期に検知することができる。」
3 甲3の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲3には、次の事項が記載されている。
(甲3-ア)「監視水槽の中央上方に解像度25万画素のCCDカメラ(SAMSUNG社製、SCC-130AN型)を設置した。」(第40頁左欄第22行~第23行)
(甲3-イ)「水槽を縦7列×横8列の56ブロック(1ブロックは35mm×45mm)に分割し、連続検出器によって各ブロックの画像を2sごとに撮像して、ヒメダカの存否に変化が生じたブロック数を経時的に計数できるようにした。」(第40頁右欄第30行~第34行)
(甲3-ウ)「ヒメダカの存否の発生によって計数されるブロック数は、ヒメダカが活発に遊泳するほど多くなり、逆に化学物質等の影響で活動が減少すると少なくなる。そこで、所定の時間間隔で計数されるブロック数が一定値を下回る活動低下状態が一定時間を超えて継続した場合に水質異常を検知したものとみなし、警報を発信することとした。」(第40頁右欄第41行~第47行)
4 甲4の1の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲4の1には、次の事項が記載されている。
(甲4の1-ア)「水槽のヒメダカをCCDカメラにて撮像し、その映像を画像処理装置に取り込みます。」(第2頁第1~第2行)
(甲4の1-イ)システム構成図
システム構成図から、監視水槽の上部に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内の小型魚類の動きを俯瞰撮影する点が見て取れる。
5 甲4の2の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲4の2には、次の事項が記載されている。
(甲4の2-ア)「メダカの動きを検知するために画面上に3584個のセンサドットを配置し、それを64個づつグループ化して56個のセンサブロックを設けています。」(第12頁第7行~第8行)
(甲4の2-イ)「メダカが衰弱・仮死状態・死亡等で、動きが鈍くなったり止まったりした場合モニタ画面に表示される感知ブロック数が減少し、「注意1」→「注意2」→「注意3」と段階的にアラームを発報します。」(第21頁第5行~第7行)
第7 無効理由についての当審の判断
当審は、以下に示すとおり、請求人の主張する無効理由、及び当審で通知した無効理由には、理由がないものと判断する。
事案に鑑み、まず、無効理由3及び4について検討する。
1 無効理由3及び4(本件発明7の新規性・進歩性)について
(1)本件発明7について
ア 発明特定事項ごとの分説
本件発明7を発明特定事項ごとに分説すると、以下のとおりである。
A ヒメダカ等のメダカ類を群れで飼育する監視水槽と、
B 前記監視水槽内に試料水を連続供給する給水手段と、
C 前記監視水槽内のメダカ類の動きを外部から撮影するCCDビデオカメラと、
D 前記CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する画像処理手段と、
E 前記画像処理手段で試料水への低濃度有害物質の混入と判定すると警報を表示する表示手段と、
F を備えていることを特徴とする水質自動監視装置。
イ 本件明細書の記載
本件明細書の【発明の詳細な説明】には、以下の記載がある。
(ア)技術分野及び発明が解決しようとする課題
本件発明は、「河川水や湖沼水、地下水、湧水、排水などのあらゆる水に有害物質が含有したとき、ヒメダカなどの小型魚類を監視水槽に常時飼育しヒメダカ等の小型魚類の動きを画像処理により検知し自動で警報を発報する装置」に関するものである(【0001】)。
「従来の魚類を監視水槽に飼育して水質を自動で監視をする装置」において、「有毒物質に反応する魚類の異常行動としては、従来、急性毒物のシアン系のシアン化カリウムに対しては魚類の呼吸器官が損傷を受けるため水面上に浮き上がって空気呼吸をする鼻上行動と言われる行動や農薬の殺虫剤でフェニトロチオンなどでは神経系の器官に損傷を受けるため水の中を狂奔する狂奔行動や死んで底部に沈む停止行動など」に基づいて警報が発せられていたが、「これらの行動はいずれも有毒物質の濃度が高く魚類が毒性に身体的損傷を受けた結果の行動であ」り、「毒性の濃度が高い場合は監視魚類の身体の損傷による反応でこれらの装置は検出できた」が、これに対し、「稀釈された薄い毒性に対しては異常行動は現れず」、「毒性濃度の薄いものでは身体の損傷が軽く判定が難しく、無理に警報を出そうとすれば正常行動との違いが余りなく誤判定による誤発報を出していた」という問題があった(【0004】、【0010】)。
そこで、本件発明の「解決しようとする課題は、希釈された低濃度の毒性でも検出することができる水質自動監視装置における低濃度毒性検知方法及び水質自動監視装置を提供することにある」(【0005】)。
(イ)発明の効果
本件発明では、「監視水槽の外側に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内の小型魚類の動きを撮影し、この映像から画像処理によって小型魚類が群れで固まる状態を検知することで、ヒメダカ等の小型魚類が大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能から低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し、希釈された低濃度の毒性でも検出することができるようになるという効果が得られる」(【0008】)。また、本件発明によれば、「小型魚類が大型魚類に捕食される時の危険を感じた時の群れが固まる捕食防御の生態本能から、低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用することで希釈された低濃度の毒性でも検出し、警報を発報することが可能になる」(【0010】)。
(ウ)発明を実施するための形態
実施例1では、「シアン化カリウムの0.02mg/Lを監視水槽内のヒメダカ20匹に曝露した」することとされ、「シアン化カリウムの0.02mg/Lは水道法(厚生労働省所管の水道法)によるシアン化カリウムの許容量0.01mg/Lの1段上の危険と認定された濃度であり0.02mg/Lで検出できるのは、従来は試薬を使った化学分析法でバイオアッセイ法では検出できなかった」(【0044】)。画像処理部Fでは、「CCDビデオカメラ18で撮影した映像を・・・0.5秒間隔で順次取り込み、取り込まれた各映像をそれぞれ画像処理によって監視水槽4全面に総数3584個設定されたセンサードットsを64個のセンサードット毎に分割したセンサーブロックSを縦横に配置し、監視水槽4内のヒメダカ11が動いて各センサーブロックS内のセンサードットsに触れるとセンサーブロックSを計数し、計数されたセンサーブロック数が、タイマー制御部Hにより予め設定した検知時間(「異常」用は75秒、「注意3」用は60秒、「注意2」用は45秒、「注意1」用は30秒)連続して、予め設定した設定ブロック数(「異常」用は4、「注意3」用は6、「注意2」用は8、「注意1」用は10)以下である時に試料水への低濃度有害物質の混入を検知する」(【0032】、【0033】)。なお、「各警報は計数されたセンサーブロックの設定ブロック数と検知時間の設定が自由にできる。」(【0047】)。
「画像処理部Fは、CCDビデオカメラ18で撮影した映像から画像処理によってヒメダカ11が群れで固まる状態をセンサードットsで検知するもので、CCDビデオカメラ18で撮影した映像から画像処理により監視水槽4全面に所定数のセンサードットs毎に縦横にブロック化した複数のセンサーブロックSを配置し、監視水槽4内のヒメダカ11が動いて各センサーブロックS内のセンサードットsに触れるとセンサーブロックSが計数される仕組みのアルゴリズムにおいて、計数されたセンサーブロック数が予め設定した設定ブロック数以下である時に試料水への低濃度有害物質の混入と判定するようにした。これにより、ヒメダカ11が群れで固まる状態を容易かつ確実に検知することができる」(【0056】)。
「1回の検知でセンサーブロックSの計数が設定ブロック数(「異常」用は4、「注意3」用は6、「注意2」用は8,「注意1」用は10)以下と判定しても、ヒメダカ11は常に動いているため、一瞬だけかもしれないし、また、大きな音や振動で驚いて瞬間的に設定ブロック数以下になることもある。そのための確認機能としてタイマー制御部Hで、検知時間(「異常」用は75秒、「注意3」用は60秒、「注意2」用は45秒、「注意1」用は30秒)を設定し、この検知時間連続してセンサーブロックSの計数が設定ブロック数以下となった場合に異常状態または注意状態を検出して警報を発報する。・・・なお、注意警報の段階、設定ブロック数、検知時間等は、状況に応じて任意に設定することができる」(【0058】)。
「シアン化カリウムの0.02mg/Lを監視水槽内のヒメダカ20匹に曝露した時の警報の発報経過を試験した表」1によれば、「20時間まで経過しても1匹も死んでいないこと」、「1時間後には注意1が発報し、2時間後には注意2が発報し、7時間後には注意3が発報し、11時間後には重大警報の異常が発報していること」が分かる(【0044】、【0048】)。「 図14の写真は、本件試験におけるシアン化カリウムの0.02mg/Lを監視水槽内のヒメダカ20匹に曝露後のヒメダカ群の動く様子をモニターテレビ画面に映しだした映像である。監視水槽内のヒメダカの群れは表1が示すように20時間経過しても1匹も死なないシアン化カリウムの0.02mg/Lの希釈された毒性では捕食防御本能で群れが固まる生態本能を示」し(【0051】)、「図15の写真(当審注:下記参照)は、センサーブロックが4個しか表示されていないように、シアン化カリウム0.02mg/Lの毒性で群れが捕食防御本能で固まり、センサーブロック4個しか表示されていないため異常警報の対象である」(【0052】)。
ウ 発明特定事項Dについて
(ア)発明特定事項Dは、「前記CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する画像処理手段と、」というものである。
(イ)上記イの本件明細書の記載によれば、本件発明7は、従来の魚類を監視水槽に飼育して水質を自動で監視をする装置においては、鼻上行動、狂奔行動、停止行動などに基づいて警報を発していたが、これらの行動はいずれも有害物質の濃度が高く魚類が毒性に身体的損傷を受けた結果の行動であったため、希釈された薄い毒性に対しては異常行動は現れないという課題があったことから(【0004】)、ヒメダカ等のメダカ類が生態本能から低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し、監視水槽の外側に設置したCCDビデオカメラで監視水槽内のメダカ類の動きを撮影し、この映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定するようにしたものである(【0008】)と認められる。
そして、本件明細書では、低濃度有毒物質の混入として、シアン化カリウム0.02mg/L等の低濃度の毒性が想定されており、これは水道法によるシアン化カリウムの許容量0.01mg/Lの1段上の危険と認定された濃度であり(【0044】)、この濃度の下では、実施例1においてヒメダカは20時間経過後も20匹のままで1匹も死んでおらず、本件発明7は、このような希釈された毒性の下で、捕食防御本能から群れが固まる生態本能を利用したものである(【0051】)。
(ウ)したがって、本件明細書によれば、発明特定事項Dは、CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知し、この結果を基に試料水への低濃度有毒物質(その程度は、水道法による許容度は超えるが、ヒメダカの致死量には達しない程度の微量のものである。)の混入と判定する画像処理手段と解するのが相当である(本件無効審判事件に関連する平成29年(ネ)第10039号特許権侵害差止等請求控訴事件の判決(甲第9号証の第6頁第8~第12行)においても、同じ解釈が判示されている)。
(2)対比・判断
ア 対比
本件発明7と甲1発明とを対比する。
(ア)発明特定事項Aについて
甲1発明の「複数の水生生物を浮遊させた水槽」は、水生生物としての「ヒメダカ」を群れで飼育するための「生物連続監視設備1」であるから、本件発明7の「ヒメダカ等のメダカ類を群れで飼育する監視水槽」に相当する。
(イ)発明特定事項Bについて
甲1発明の「生物連続監視設備1の水槽内に検水2」を「導入」する手段は、本件発明7の「前記監視水槽内に試料水を連続供給する給水手段」に相当する。
(ウ)発明特定事項Cについて
甲1発明の「水生生物の分布や挙動を監視するための撮像手段(例えば、CCDカメラ)」は、本件発明7の「前記監視水槽内のメダカ類の動きを外部から撮影するCCDビデオカメラ」に相当する。
(エ)発明特定事項Dについて
甲1発明の「水質判断手段4」において「行った画像解析の手法は、メダカの動きをCCDカメラで捕え、メダカの分布とともに活動量を測定し、この推移を連続モニターし」、「この活動量が急激に低下したときおよび変化が見られたとき、水質異常」と判断するものであり、ここでの「水質異常」は、「陰イオン界面活性剤LAS」のような有毒物質の混入であるから、甲1発明の「画像解析の手法」として「メダカの動きをCCDカメラで捕え、メダカの分布とともに活動量を測定し、この推移を連続モニターし」、「この活動量が急激に低下したときおよび変化が見られたとき、水質異常」と判断する「水質判断手段4」と、本件発明7の「前記CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する画像処理手段」とは、「前記CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類の分布及び活動の状態を検知することで試料水への有毒物質の混入と判定する画像処理手段」である点で共通する。
(オ)発明特定事項Eについて
甲1発明の「水質判断手段4」は、「水質異常」と判断すると「警報を発信する」発信手段でもあるから、甲1発明の「水質異常」と判断すると「警報を発信する」「水質判断手段4」と、本件発明7の「前記画像処理手段で試料水への低濃度有害物質の混入と判定すると警報を表示する表示手段」とは、「前記画像処理手段で試料水への有害物質の混入と判定すると警報を発信する発信手段」である点で共通する。
(カ)発明特定事項Fについて
甲1発明の「水質監視装置」は、本件発明7の「水質自動監視装置」に相当する。
イ 一致点及び相違点
してみると、 本件発明7と甲1発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。
(一致点)
「ヒメダカ等のメダカ類を群れで飼育する監視水槽と、
前記監視水槽内に試料水を連続供給する給水手段と、
前記監視水槽内のメダカ類の動きを外部から撮影するCCDビデオカメラと、
前記CCDビデオカメラで撮影した映像から画像処理によってメダカ類の分布及び活動の状態を検知することで試料水への有毒物質の混入と判定する画像処理手段と、
前記画像処理手段で試料水への有害物質の混入と判定すると警報を発信する発信手段と、
を備えている水質自動監視装置。」
(相違点1)
画像処理手段が、本件発明7では、「メダカ類が群れで固まる状態」を検知することで試料水への「低濃度」有毒物質の混入と判定するのに対し、甲1発明では、「メダカの分布とともに活動量を測定し」、この測定結果に基づき「水質異常」を判断するが、本件発明7のように「メダカ類が群れで固まる状態」を検知することで試料水への「低濃度」有毒物質の混入と判定するかは不明である点。
(相違点2)
発信手段が、本件発明7では、警報を「表示する表示手段」であるのに対し、甲1発明では、「警報を発信する」が、本件発明7のように警報を「表示」するかは不明である点。
ウ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)本件発明7が想定する「低濃度有毒物質」は、上記「(1)ウ(ウ)」で説示したように、その程度は、水道法による許容度は超えるが、ヒメダカの致死量には達しない程度の微量のものである。
一方、甲1発明では、「実際に薬物として陰イオン界面活性剤LASを200ppmになるように調製した検水2を、貯水量7Lの水槽11に、1L/minの一定流量にて導入した際の」、「検水2の導入開始からの時間によって5分」後の「フェーズ1」で、陰イオン界面活性剤LAS200ppmが5L流入されて、その濃度は、そのうち半量(2.5L)が残存しているとすると、35.7ppm(35.7mg/L)、水道法による水質基準である0.2mg/L(乙第4号証:第41欄の陰イオン界面活性剤)の178.6倍となり、また、検水2の導入開始から30分後の「フェーズ6では、全体の活動量が零となり、生存しているメダカが存在しなくなるか、生存していても底に沈んだりして動かない状態とな」る。
このような状況を踏まえると、甲1発明が想定する有毒物質の濃度は、「フェーズ1」~「フェーズ6」の、どのフェーズを捕らえても、水道法による許容度を大きく超え、ヒメダカの致死量に達するものであり、本件発明7が想定する有毒物質の濃度より、はるかに高濃度であるといえることから、甲1発明は、試料水への「低濃度」有毒物質の混入を判定するものではない。
したがって、甲1発明が「メダカ類が群れで固まる状態」を検知しているか否かについて検討するまでもなく、甲1発明は、本件発明7における有毒物質の濃度(その程度は、水道法による許容度は超えるが、ヒメダカの致死量には達しない程度の微量のものである。)を想定していない以上、試料水への「低濃度」有毒物質の混入を判定する上記相違点1に係る本件発明7の構成は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。
(イ)次に更に進めて、甲1発明が「メダカ類が群れで固まる状態」を検知しているか否かを含めて、上記相違点1について検討する。
本件発明7の「メダカ類が群れで固まる状態」を検知することについて、本件明細書には、「図15の写真は、センサーブロックが4個しか表示されていないように、シアン化カリウム0.02mg/Lの毒性で群れが捕食防御本能で固まり、センサーブロック4個しか表示されていないため異常警報の対象である」(【0052】)と記載され、また、「画像処理部Fは、CCDビデオカメラ18で撮影した映像から画像処理によってヒメダカ11が群れで固まる状態をセンサードットsで検知するもので、CCDビデオカメラ18で撮影した映像から画像処理により監視水槽4全面に所定数のセンサードットs毎に縦横にブロック化した複数のセンサーブロックSを配置し、監視水槽4内のヒメダカ11が動いて各センサーブロックS内のセンサードットsに触れるとセンサーブロックSが計数される仕組みのアルゴリズムにおいて、計数されたセンサーブロック数が予め設定した設定ブロック数以下である時に試料水への低濃度有害物質の混入と判定するようにした。これにより、ヒメダカ11が群れで固まる状態を容易かつ確実に検知することができる」(【0056】)と記載されている。
上記の記載によれば、「監視水槽4内のヒメダカ11が動いて各センサーブロックS内のセンサードットsに触れるとセンサーブロックSが計数される仕組みのアルゴリズムにおいて、計数されたセンサーブロック数が予め設定した設定ブロック数以下である時」(【0056】)、図15の写真では「センサーブロックが4個しか表示されていない」(【0052】)時が、「ヒメダカ11が群れで固まる状態」であることから、「ヒメダカ11が群れで固まる状態」は、「ほとんどのヒメダカ11の動きが静止した状態」として検知している。
よって、本件発明7の「メダカ類が群れで固まる状態」は、「ほとんどのメダカ類の動きが静止した状態」として検知するものといえる。
そして、この点を踏まえて、甲1発明の「実際に薬物として陰イオン界面活性剤LASを200ppmになるように調製した検水2を、貯水量7Lの水槽11に、1L/minの一定流量にて導入した際の、連続撮影した監視水槽画面を、検水2の導入開始からの時間によって5分毎にフェーズ1からフェーズ6まで水生生物16としてのヒメダカの分布並びに挙動」について検討すると、
甲1発明では、「先ずフェーズ1にて、セクタ2にメダカが集まって群を形成し」ているが、図4の活動量をみても「ほとんどのメダカ類の動きが静止した状態」であるとはいえないことから、甲1発明の「フェーズ1」の状態は、本件発明7の「メダカ類が群れで固まる状態」であるとはいえない。
「次いでフェーズ2にて、水流に逆らいつつ遊泳の姿勢をとったセクタ1からセクタ2にかけての一群と、セクタ3に集まった群とに分かれ」ているが、図4の活動量をみても「ほとんどのメダカ類の動きが静止した状態」であるとはいえないことから、甲1発明の「フェーズ2」の状態は、本件発明7の「メダカ類が群れで固まる状態」であるとはいえない。
「次いで、フェーズ3にて、全てのメダカがセクタ3に逃避し、このときには、メダカは毒性を強力に感じており、その活動量は未だ比較的大き」いことから、甲1発明の「フェーズ3」の状態は、「ほとんどのメダカ類の動きが静止した状態」であるとはいえず、本件発明7の「メダカ類が群れで固まる状態」であるとはいえない。
「そして、フェーズ4では、毒性がメダカに作用し始め、体力を消耗すると流れに抗しきれない個体が、下流側に押し流されたり、遊泳姿勢を保持できなくなって動きがおかしくなるメダカが生じ、次第に群から離脱しはじめ、分布が乱れるとともに全体の活動量が低下し」ており、群れから離脱しはじめるメダカもいることから、「ほとんどのメダカ類の動きが静止した状態」であるとはいえず、甲1発明の「フェーズ4」の状態は、本件発明7の「メダカ類が群れで固まる状態」であるとはいえない。
「フェーズ5では、さらに全体の活動量が低下し、ほとんど泳げなくな」り、この状態は、フェーズ4のメダカの状態と併せてみれば、泳げなくなることにより、下流側に押し流されたりすることによって、群れから離脱するメダカが増加していると解されることから、「ほとんどのメダカの動きが静止した状態」であるとはいえず、さらに、図4をみてもメダカが群れているとはいえないことから、甲1発明の「フェーズ5」の状態は、本件発明7の「メダカ類が群れで固まる状態」であるとはいえない。
「ついにフェーズ6では、全体の活動量が零となり、生存しているメダカが存在しなくなるか、生存していても底に沈んだりして動かない状態とな」り、ほとんどのメダカが死亡した状態であるから、甲1発明の「フェーズ6」の状態は、本件発明7の「メダカ類が群れで固まる状態」であるとはいえない。
ここで、甲1発明は、「監視しようとする水質の目標レベルに応じて、監視レベルや警報発信レベルを自由に設定することが可能」であるから、上記で検討した「フェーズ1」~「フェーズ6」のいずれの状態に着目しても、有毒物質の混入を判定できるものである。
そうすると、「フェーズ1」~「フェーズ6」で一番低濃度であり、「セクタ2にメダカが集まって群を形成し」ている「フェーズ1」の状態を検知して、有毒物質の混入を判定するとしても、上記(ア)のとおり本件発明7が想定する「低濃度」有毒物質の混入を判定するものでない上に、上記で検討したとおり「メダカ類が群れで固まる状態」を検知するものでないことから、甲1発明において、「フェーズ1」の状態に着目しても上記相違点1に係る本件発明7の構成にはならない。そして、甲1発明のその他の、どのフェーズに着目しても、上記フェーズ1と同様の理由で、上記相違点1に係る本件発明7の構成にはならない。
以上のとおり、甲1発明が「メダカ類が群れで固まる状態」を検知しているか否かを含めて検討しても、甲1発明から、「メダカ類が群れで固まる状態」を検知することで試料水への「低濃度」有毒物質の混入と判定する上記相違点1に係る本件発明7の構成を、当業者が容易に想到し得ることではない。
(ウ)最後に、甲1において、甲1発明の認定に用いていない記載中に、上記相違点1に係る本件発明7の構成が容易想到であることを根拠付ける記載があるか確認しておく。
甲1(上記「第6 1(1)」参照。)には、「毒性の検出の迅速化や早期検出には、水生生物の異常行動をごく初期段階で見極め、毒性反応が疑われる行動が始まったことを警報として発信することが有効であると考えられる。この初期行動は、狂乱行動や逃避行動に見られ」(【0007】)、「水生生物の行動をごく初期の段階から詳細に監視することにより、急性毒性に対してはもとより、そのような毒性に発展するおそれがある初期段階や極めて低濃度の毒性が生じている初期段階に対しても、適切に水質を判断できるようにした水質監視方法および装置を提供することにあ」り(【0009】)、また「図3に示すように、・・・図示例のパターン2では、水生生物16が水流方向に沿って列状に並んだ群形状を示しており、例えば未だ比較的低いレベルにある毒性に対して警戒し始めた段階であると判断することが可能であ」る(【0030】)などの事項が記載されており、水生生物は、初期行動として狂乱行動、逃避行動、警戒行動をすることが挙げられているが、これらの行動をする場合の有毒物質の濃度が、本件発明7が想定する濃度(その程度は、水道法による許容度は超えるが、ヒメダカの致死量には達しない程度の微量のものである。)ということまでの記載も示唆もなく、また、これらの行動が「メダカが群れで固まる状態」である旨の記載も示唆もない。
よって、甲1には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
(エ)したがって、上記(ア)~(ウ)のとおりであるから、本件発明7は、他の相違点について判断するまでもなく、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)無効理由3及び4(本件発明7の新規性・進歩性)のまとめ
上記「(2)ウ」で検討したとおり、上記相違点1は実質的相違点である。
したがって、本件発明7は、甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
また、本件発明7は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由3及び4には、理由がなく、本件発明7についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由3及び4により無効とすべきものではない。
2 無効理由1及び2(本件発明1の新規性・進歩性)について
本件発明1と本件発明7の実質的な相違は、方法の発明(低濃度有毒物質検知方法)か物の発明(水質自動監視装置)かの発明のカテゴリーの相違と、本件発明7には「警報を表示する表示手段」(発明特定事項E)が存在する点である。
そして、本件発明7の水質自動監視装置は、上記「1(1)ウ(イ)」に示したとおり、「ヒメダカ等のメダカ類が生態本能から低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し」たものであるところ、本件発明1の濃度有毒物質検知方法においても同じ性質を利用したものであるから、本件発明7の発明特定事項Dについては、上記「1(1)ウ(ウ)」で説示したとおりの解釈であるところ、本件発明7の発明特定事項Dに対応する本件発明1の「ヒメダカ等のメダカ類は大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能から低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し、・・・この映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質の混入と判定するようにした」という発明特定事項についても、同様に、「ヒメダカ等のメダカ類は大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能から低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質を利用し、・・・この映像から画像処理によってメダカ類が群れで固まる状態を検知することで試料水への低濃度有毒物質(その程度は、水道法による許容度は超えるが、ヒメダカの致死量には達しない程度の微量のものである。)の混入と判定するようにした」と解するのが相当であるといえる。
してみると、上記1で検討したとおりの同様の理由により、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
また、本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由1及び2には、理由がなく、本件発明1についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1及び2により無効とすべきものではない。
3 無効理由5及び6(本件発明2の新規性・進歩性)について
本件発明2は、本件発明1を限定したものである。
したがって、上記2で検討したとおりの同様の理由により、本件発明2は、甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明2は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由5及び6には、理由がなく、本件発明2についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由5及び6により無効とすべきものではない。
4 無効理由7及び8(本件発明8の新規性・進歩性)について
本件発明8は、本件発明7を限定したものである。
したがって、上記1で検討したとおりの同様の理由により、本件発明8は、甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明8は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由7及び8には、理由がなく、本件発明2についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由7及び8により無効とすべきものではない。
5 無効理由9及び10(本件発明3の新規性・進歩性)について
本件発明3は、本件発明1を限定したものである。
したがって、上記2で検討したとおりの同様の理由により、本件発明3は、甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)、甲3(上記「第6 3」を参照。)、甲4の1(上記「第6 4」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明3は、甲1発明及び甲2、甲3、甲4の1に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2、甲3、甲4の1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由9及び10には、理由がなく、本件発明2についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由9及び10により無効とすべきものではない。
6 無効理由11及び12(本件発明9の新規性・進歩性)について
本件発明9は、本件発明7を限定したものである。
したがって、上記1で検討したとおりの同様の理由により、本件発明9は、甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)、甲3(上記「第6 3」を参照。)、甲4の1(上記「第6 4」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明9は、甲1発明及び甲2、甲3、甲4の1に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2、甲3、甲4の1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由11及び12には、理由がなく、本件発明2についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由11及び12により無効とすべきものではない。
7 無効理由13(本件発明4の進歩性)について
本件発明4は、本件発明1を限定したものである。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)、甲4の2(上記「第6 5」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、上記2で検討したとおりの同様の理由により、本件発明3は、甲1発明及び甲2、甲4の2に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2、甲4の2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由13には、理由がなく、本件発明4についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由13により無効とすべきものではない。
8 無効理由14(本件発明10の進歩性)について
本件発明10は、本件発明7を限定したものである。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)、甲4の2(上記「第6 5」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、上記1で検討したとおりの同様の理由により、本件発明10は、甲1発明及び甲2、甲4の2に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2、甲4の2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由14には、理由がなく、本件発明10についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由14により無効とすべきものではない。
9 無効理由15(本件発明5の進歩性)について
本件発明5は、本件発明1を限定したものである。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)、甲3(上記「第6 3」を参照。)、甲4の2(上記「第6 5」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、上記2で検討したとおりの同様の理由により、本件発明5は、甲1発明及び甲2、甲3、甲4の2に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2、甲3、甲4の2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由15には、理由がなく、本件発明5についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由15により無効とすべきものではない。
10 無効理由16(本件発明11の進歩性)について
本件発明11は、本件発明7を限定したものである。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)、甲3(上記「第6 3」を参照。)、甲4の2(上記「第6 5」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、上記1で検討したとおりの同様の理由により、本件発明11は、甲1発明及び甲2、甲3、甲4の2に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2、甲3、甲4の2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由16には、理由がなく、本件発明11についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由16により無効とすべきものではない。
11 無効理由17(本件発明6の進歩性)について
本件発明6は、本件発明1を限定したものである。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)、甲4の2(上記「第6 5」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、上記2で検討したとおりの同様の理由により、本件発明6は、甲1発明及び甲2、甲4の2に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2、甲4の2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由17には、理由がなく、本件発明6についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由17により無効とすべきものではない。
12 無効理由18(本件発明12の進歩性)について
本件発明12は、本件発明7を限定したものである。
また、甲2(上記「第6 2」を参照。)、甲4の2(上記「第6 5」を参照。)には、上記相違点1に係る本件発明7の構成について記載も示唆もされていない。
したがって、上記1で検討したとおりの同様の理由により、本件発明12は、甲1発明及び甲2、甲4の2に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲1、甲2、甲4の2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由18には、理由がなく、本件発明12についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由18により無効とすべきものではない。
13 当審で通知した無効理由(明確性・サポート要件)について
(1)当審で通知した無効理由の概要
当審で通知した無効理由の要旨は、以下のとおりである。
ア 本件発明1~12における「低濃度」がどのような濃度を意味するのか明確でない。(特許法第36条第6項第2号違反)
イ ヒメダカ等のメダカ類について、「大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能」があることが、本件特許の出願時に技術常識として知られていたとはいえないことから、本件発明1~6における「大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能」により形成された「群れ」がどのようなものなのか明確でない。(特許法第36条第6項第2号違反)
ウ 上記ア及びイの点が明確でないことから、どのような群れでも含まれる可能性がある本件発明1~6は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えている。(特許法第36条第6項第1号違反)
エ どのような群れであれ「群れで固まる状態」が検知されれば、「試料水への低濃度有毒物質の混入と判定する」本件発明7~12は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えている。(特許法第36条第6項第1号違反)
オ メダカ以外の小型魚類にまで一般化している本件発明1~12は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えている。(特許法第36条第6項第1号違反)
(2)当審で通知した無効理由についての検討
無効理由アについては、上記「1(1)ウ(ウ)」で説示した解釈に鑑みると、本件発明1~12の「低濃度」は明確でないということはできないから、無効理由アに理由がない。また、無効理由イについては、ヒメダカ等のメダカ類の「大型魚類から捕食される捕食防御本能があり危険を感知すると群れで固まる生態本能」を含めて「低濃度の毒性でも危険を感じて群れで固まる性質」が、上記「1(2)ウ(イ)」の説示から理解できる以上、本件発明1~6は明確でないということはできないから、無効理由イに理由がない。そして、無効理由ウは、無効理由ア及びイに理由がないことから、理由がない。また、無効理由エについては、「メダカ類が群れで固まる状態」が、上記「1(2)ウ(イ)」の説示から理解できる以上、本件発明7~12は、発明の詳細な説明に記載したものでないということはできないから、無効理由エに理由はない。また、無効理由オは、本件訂正を認めるので、理由がない。
よって、本件発明1~12についての特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、当審で通知した無効理由により無効とすべきものではない。
第8 請求人の主張に対して
請求人は、上記「第4(3)エ 本件特許の技術的核心部分について」に示したとおり、「“動き検知ブロック数が4個以下で75秒経過”という条件で低濃度有毒物質検知としてみなす根拠については、大いに疑問がある。」、「“動き検知ブロック数が4個以下で75秒経過”でなぜ複数のメダカが群れで固まっていると判断できるのか、不明としかいいようがない。」と主張するが、当該主張は、請求人の主張する無効理由でも、当審で通知した無効理由でもないが、以下、当審の見解を述べる。
上記「第7 1(1)イ(ウ)」に示したとおり、本件明細書において、低濃度有毒物質を混入すると、“動き検知ブロック数が4個以下で75秒経過”する状態になることが実施例1として確認できている以上、「“動き検知ブロック数が4個以下で75秒経過”という条件で低濃度有毒物質検知としてみなす根拠」がないとはいえない。
また、上記「第7 1(2)ウ(イ)」に示したとおり、本件明細書の記載によれば、「ヒメダカが群れで固まる状態」は、「ほとんどのヒメダカの動きが静止した状態」として検知していることから、「“動き検知ブロック数が4個以下で75秒経過”で・・・複数のメダカが群れで固まっていると判断」できないことはない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。
本件発明1~12の特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、請求人の主張する無効理由によって無効とすべきものではない。
本件発明1~12の特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第123条第1項第4号に該当せず、当審で通知した無効理由によって無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-800075