特許異議申立
2016-700572
発酵飲料の製造方法
- 審判番号
- 2016-700572
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-524960
- 登録番号
- 特許第5861004号(P5861004)
- 請求日
- 2016年06月24日
- 審決日
- 2017年05月23日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】細田 芳徳
- 【異議申立人】萩原 真紀
- 審判長/審判官
- 審判長 千壽 哲郎
- 審判官 莊司 英史
- 審判官 山崎 勝司
- 分類
- P1651.121-Y (C12H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5861004号発明「発酵飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5861004号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5861004号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成27年12月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人萩原真紀より特許異議の申立てがされ、平成28年12月2日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年2月7日に意見書が提出され、同年3月13日付けで特許異議申立人萩原真紀より上申書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1ないし9」という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
穀類、ホップ、酵母、及び水を含有する原料を発酵させた酵母含有発酵液にプリン体吸着剤を添加するプリン体吸着剤添加工程、前記プリン体吸着剤が添加された酵母含有発酵液を200kPa~700kPaの水圧でろ過機へ液送する液送工程、並びに前記液送された液をろ過するろ過工程を含み、さらに、前記プリン体吸着剤添加工程の前に、酵母含有発酵液を容器の底部に200kPa以下の圧力がかかる条件下で容器内に貯留する貯留工程を含む、発酵飲料の製造方法。
【請求項2】
穀類が麦芽を含有し、酵母含有発酵液の麦芽比率が50%未満である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
穀類が麦芽を含有し、酵母含有発酵液の麦芽比率が25%未満である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
発酵飲料のエキス分の総量が0.4重量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
貯留工程の容器底部圧力の最大値(P1)と、液送工程での液送用配管内の水圧の最大値(P2)とが、以下の関係にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
(P1)<(P2)
【請求項6】
貯留工程から後において、酵母含有発酵液に、さらに、香料、酸味料、甘味料、食物繊維、苦味料、色素、安定剤、炭酸ガス、水、醸造用アルコール、及びスピリッツからなる群より選ばれる一又は二以上を含有させて調合する調合工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
水が、水道水及び/又は水道水処理水を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
発酵飲料のプリン体の含有量が1mg/100mL未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
発酵飲料のアルコール度数が1~15%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
第3 取消理由の概要
平成28年12月2日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
本件発明1ないし9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物(甲第1号証ないし甲第7号証)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:特開2003-169658号公報
甲第2号証:Wolfgang Kunze et al.,"TECHNOLOGY BREWING and MALTING",3rd INTERNATIONAL EDITION,Die Deutsche Bibliothek,2004年,奥付,内表紙,第5~第18,第453~471頁
甲第3号証:特開昭63-123376号公報
甲第4号証:宮地秀夫著,「ビール醸造技術」,株式会社食品産業新聞社,1999年12月28日発行,表紙、第322~325頁,奥付
甲第5号証:Claudine CHARPENTIER et al.,"Release of Nucleotides and Nucleosides during Yeast Autolysis: Kinetics and Potential Impact on Flavor", J.Agric. Food Chem.,第53巻,第8号,2005年,第3000~第3007頁
甲第6号証:特開2013-169198号公報
甲第7号証:Chery L.Jenkins et al.,"Impact of Serial Repitching on Lager Brewing Yeast Quality",J.Am.Soc.Brew.Chem.,第61巻,第1号,2003年,第1~9頁
第4 取消理由についての判断
1 本件発明1について
(1) 引用発明
甲第1号証には、
「ビールの製造工程において、ビール発酵液からプリン体化合物を選択的に吸着する吸着剤による処理が、貯蔵タンクにおけるビールの熟成工程において行われ、その後、吸着剤を酵母と共に回収し、濾過される、プリン体化合物低減ビールの製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている(特許請求の範囲、段落0005、0028参照。)。
(2) 甲第2号証
甲第2号証には、
「4.5 Beer filtraion
At the end of the maturation process the beer is oxygen-free, but up to 1 million yeast cells and other turbidity-causing particles per ml are still contained in suspension which have to be removed without harmful oxygen having access to the beer.
Filtration is a separation process in which the yeast cells and other turbidity-causing materials still present in the beer are removed. At the same time substances are removed which would, in the course of the next few weeks or months, themselves precipitate and make the beer turbid.
The purpose of filtration is to make beer so stable that no visible changes occur for a long time.」(第453ページ右欄第16行ないし第31行)
(訳文:4.5ビールろ過
熟成工程の最後において、ビールは酸素を含まないが、しかし、1ml当たり最大百万個の酵母細胞及びその他の混濁原因粒子が依然として懸濁しており、有害な酸素にビールを接触させることなくこれらを除去する必要がある。
ろ過は、ビール中に依然として存在する酵母細胞及びその他の混濁原因材料を除去する分離方法である。同時に、今後の数週間から数ヶ月が進行する間に沈殿し、ビールを混濁させるであろう物質が除去される。
ろ過の目的は、長期間にわたって目に見える変化が発生しないようにビールを安定化することにある。)
「Continuous dosing. This serves mainly to maintain the permeability of the precoat after the changeover to filtration with a constant volume flowrate. The constant flowrate is necessary since with pressure surges or flow irregularities the bridges formed on the sieve or candles may be broken through and the beer would run turbid. This must be prevented in all circumstances. The uniform flowrate, however, cauases a continual increase in the pressure difference between inflow and outflow. It is desirable that this pressure increase occurs slowly and continuously up to an excess pressure of
・ in the case of powder sheet filters 2 to 5 bar,
and
・in the case of powder pressure filters 6 to 8 bar.
The pressure difference should on average increase at most 0.2 to 0.3 bar per hour(normally filterable beer). The brewery decides on the composition of the guhr mixture on the basis of experience. Normally the continuously dosed mixture consists of
2/3 medium guhr and
1/3 fine guhr.
Kieselguhr usage during continuous dosing is between 60 and 120 g/hl beer.」(第460ページ右欄下から第10行ないし第461ページ左欄第18行及びFig.4.79参照。)
(訳文:連続投与すること。そのことにより、主として切り替え後のプレコートの透過性が維持され、一定体積の流量にてろ過される。一定の流量が必要である。圧力の急変又は不規則な流れによって篩い又はキャンドルに形成されたブリッジが決壊して、ビールが濁ることがあるからである。全ての場合においてかかる事態は防止されるべきである。しかしながら、流量を一定にした場合、流入と流出との間の差圧が連続的に増加する。かかる圧力の増加は、圧力が過剰にならないように、徐々に連続的に生じることが好ましい。圧力の増加は、
パウダーシートフィルターの場合は2~5バールであり、
パウダー圧力フィルターの場合は6~8バールである。
差圧は、最大1時間当たり0.2~0.3バールの平均増加量(通常のろ過可能なビール)であるべきである。醸造所は土状物混合物の組成を経験的に決定する。通常は、連続投与される混合物は、
2/3中間寸法土状物及び
1/3微細寸法土状物からなるものである。
連続投与の間に使用される珪藻土の量は、ビール1hl当たり60~120gである。)
(3) 甲第3号証
甲第3号証には、
「熟成後の発酵液中の酵母をプレコート助剤を用いて除去する第1の濾過工程の後に、セラミックフィルタを使用した濾過器において入力圧力2kg/cm2 、濾過速度3m/HRの定速濾過により濾過すること。」が記載されている(公報第2ページ右下欄第9行ないし第3ページ右上欄第8行、第3ページ左下欄第2行ないし第6行及び第2図参照。)。
(4) 本件発明1と引用発明との対比、判断
引用発明の「ビールの製造工程」及び「ビールの製造方法」並びに「ビール発酵液からプリン体化合物を選択的に吸着する吸着剤による処理」は、その機能・作用からみて、本件発明1の「発酵飲料の製造方法」及び「穀類、ホップ、酵母、及び水を含有する原料を発酵させた酵母含有発酵液にプリン体吸着剤を添加するプリン体吸着剤添加工程」に相当する。
引用発明の「貯蔵タンクにおけるビールの熟成工程」は酵母回収前の工程であるところ、本件発明1の「酵母含有発酵液を容器の底部に200kPa以下の圧力がかかる条件下で容器内に貯留する貯留工程」と「酵母含有発酵液を容器内に貯留する貯留工程」の限りにおいて一致する。
よって、本件発明1と引用発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点
本件発明1は、「プリン体吸着剤が添加された酵母含有発酵液を200kPa~700kPaの水圧でろ過機へ液送する液送工程」を備えているのに対して、引用発明は「ビール発酵液からプリン体化合物を選択的に吸着する吸着剤による処理が、貯蔵タンクにおける発酵麦芽飲料の熟成工程において行われ、その後、吸着剤を酵母と共に回収し、濾過される」ものの、当該濾過されるところにビール発酵液をどの程度の水圧で液送しているかは明らかでない点。
上記相違点について検討する。
甲第2号証及び甲第3号証には、酵母を発酵させてビールを醸造する各工程中、酵母含有発酵液中から酵母を除去するためのろ過工程で、酵母含有発酵液を200kPa~700kPaの圧力でろ過機のフィルタによりろ過することが記載されているが、いずれもろ過機内部のフィルタにかかる圧力を示すものであって、当該ろ過機までの液送流路において酵母含有発酵液を200kPa~700kPaの圧力でろ過機に液送しているものではなく、また、液送の圧力により、ろ過機のフィルタでろ過しているとの記載もない。
その余の甲各号証にも、上記相違点に係る本件発明1の構成についての記載はないし、示唆をする記載も見当たらない。
また、上記相違点に係る本件発明1の構成が周知技術又は技術常識であったともいえない。
むしろ、甲第6号証及び甲第7号証の記載にあるように、酵母はストレスにより自己消化することが技術常識であることを踏まえると、酵母含有発酵液をろ過機に液送するときの圧力を酵母含有発酵液を貯留する容器の底部の圧力よりも高めないようにすることが、技術常識に則するものであったといえる。
そして、本件発明1は、上記相違点に係る構成により、発酵液にプリン体吸着剤を添加した後は、(技術常識よりも若干高い)特定の範囲内の水圧条件下で液送するのであれば、多少ストレスをかけて液送しても穀類及び/又は酵母からプリン体の放出が起こりにくく、極小量のプリン体量の発酵飲料を効率よく製造できるという効果を奏するものである(本件特許明細書段落[0008])。
そうすると、酵母含有発酵液を200kPa~700kPaの水圧でろ過機へ液送する液送工程は、当業者が適宜なし得る単なる設計事項の範囲内であるともいえない。
したがって、引用発明において、上記相違点に係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明、甲第2号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 特許異議申立人の上申書について
特許異議申立人の、上申書における甲第2号証、甲第3号証の開示についての主張を検討する。
ア 甲第2号証の開示について
特許異議申立人は、概略、「特許権者も認めるように、酵母含有発酵液は(4)未ろ過ビール供給管を通して(1)フィルター容器に供給される。未ろ過ビール供給管は配管に該当するので、酵母含有発酵液を未ろ過ビール供給管を通してフィルター容器に供給することは、酵母含有発酵液を配管を通してろ過機へ液送する液送工程に該当する。」と主張している。
上記主張を検討すると、フィルタ容器に酵母含有発酵液を供給する(4)未ろ過ビール供給管は、ろ過ポンプの下流に配置されていることから、ろ過機内部の配管であって、ろ過機へ酵母含有発酵液を液送する液送工程の配管であるとはいえない。また、ろ過ポンプの上流における配管の圧力についての開示もない。
したがって、酵母含有発酵液を未ろ過ビール供給管を通してフィルタ容器に供給することは、酵母含有発酵液を配管を通してろ過機へ液送する液送工程に該当するとはいえず、甲第2号証には酵母含有発酵液をろ過器へ液送する液送工程が開示されていないから、「酵母含有発酵液をろ過器へ液送する液送工程においても、水圧が200kPa~700kPa程度になる」との特許異議申立人の上申書による主張は失当である。
イ 甲第3号証の開示について
特許異議申立人は、概略、「配管と2フィルタープレス、6プレスコートろ過器及び4ろ過器は、内部空間が少なくとも連通している必要がある。そうすると、熟成タンクの内容物が4ろ過器等に導入されるときに配管に圧力がかかり、その圧力は、ろ過時の水圧と同一になる。」と主張している。
上記主張を検討すると、熟成タンク1内の発酵液は、配管、フィルタプレス2、プレスコートろ過器6介してろ過器4に液送されているが、フィルタープレス2では加圧手段にて発酵液が加圧がされることが技術常識であり、プレスコートろ過器6においても加圧またはフィルタ圧損が発生すると認められるから、ろ過器へ液送する液送工程で液送する配管にかかる圧力とろか器4のろ過時の圧力とが同一になるとはいえない。
したがって、「酵母含有発酵液をろ過器へ液送する液送工程においても、水圧が200kPa~700kPa程度になる」との特許異議申立人の上申書による主張は失当である。
2 本件発明2ないし9に対して
本件発明2ないし9は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明2ないし9と引用発明とは、上記1に示したとおり、少なくとも上記相違点において相違する。
そして、上記相違点についての判断は上記1に示したとおりであるから、本件発明2ないし9は、引用発明、甲第2号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 小括
以上のとおり、本件発明1ないし9は、引用発明、甲第2号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
第5 むすび
以上のとおり、上記取消理由によっては、本件発明1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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