特許拒絶査定不服審判
2016-014616
ホイールローダ及びその制御方法
- 審判番号
- 2016-014616
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-549887外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年09月29日
- 審決日
- 2017年07月24日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社小松製作所
- 【請求人代理人】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
- 分類
- P18 .121-WY (F16H) / P18 .537-WY (F16H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-549887「ホイールローダ及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月24日国際公開、WO2016/043222、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
本願は、2015年9月16日を国際出願日とする出願であって、平成28年5月10日付けで拒絶理由が通知され、同年7月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月5日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。発送日:同年8月9日)がなされ、これに対し、同年9月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に、手続補正書が提出され、前置審査において同年10月21日付けで拒絶理由(以下、「前置拒絶理由」という。)が通知され、同年12月13日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。その後、当審において平成29年4月12日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2.原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。
本願の平成28年7月12日に手続補正された請求項1ないし8及び10ないし14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.請求項1、5について
刊行物A(段落【0005】~【0102】、【図1】~【図14】には、走行輪(4a、4b)と、エンジン(8)と、前記エンジンからの駆動力によって前記走行輪を回転駆動する動力伝達装置と、前記エンジンによって駆動される作業機ポンプ(11)と、を有する駆動系と、前記作業機ポンプから吐出される作動油によって駆動される作業機(3)と、所定の第1モード(トラクションコントロール解除モード)と、前記第1モードよりも牽引力を小さく制御する第2モード(トラクションコントロール作動モード)とを含む複数のモードから選択された制御モードを示す操作信号を生成するモード選択部と、前記モード選択部からの前記操作信号を取得し、選択された前記制御モードに従って前記駆動系を制御する制御部と、を備えるホイールローダが開示されている。
刊行物A(段落【0081】~【0084】)には、一時的に大きな牽引力が必要となる作業が終了した場合に、第1モードが選択されていても、第2モードに自動的に復帰することが開示されている。かように、第2モードに自動的に復帰するため、次回の車両の始動時(始動スイッチがオンされたとき)には、前記第2モードにて駆動系の制御が開始すると認められる。
また、車両の始動時に「一時的に大きな牽引力が必要となる作業」を行うことは想定しにくいから、車両の始動時(始動スイッチがオンされたとき)に仮に第1モードが選択されていても、上記のように第2モードに自動的に復帰させることは、当業者であれば容易になし得たことである。
2.請求項2について
刊行物A(特に【図4】)には、第1モードでの最大牽引力は、全ての制御モードのなかで最も大きいことが開示されている。
3.請求項3について
刊行物A(特に段落【0054】)には、制御モードが第2モードである場合、作業局面に応じて、最大牽引力を制御することが開示されている。
制御部において作業局面を判定し、自動的に最大牽引力を制御することは、自動化の問題であり、当業者であれば容易になし得たことである。
4.請求項4について
刊行物A(特に段落【0054】)には、最大牽引力の大きさを設定する牽引力設定部をさらに備え、制御モードが第2モードである場合、制御部は、最大牽引力を、前記牽引力設定部によって設定された大きさ(レベルL1~L3の大きさ)とすることが開示されている。
5.請求項6について
刊行物Aに記載された発明において、上記第2モードに自動的に復帰させた場合(段落【0081】~【0084】)、車両の始動時に「一時的に大きな牽引力が必要となる作業」を行うことは想定しにくいから、車両の始動時まで当該第2モードを保持させることは、当業者であれば容易になし得たことである。
6.請求項7について
刊行物A(特に【図4】)には、第2モードでは、車速が所定の第1速度であるときに牽引力が最大となり、複数のモードは、第3モード(スノーモード)をさらに含み、車速が前記第1速度であるときの前記第3モードでの牽引力は、前記第2モードでの最大牽引力より小さいことが開示されている。
刊行物Aに記載された発明において、モード選択部によって第3モードが選択されているときには(段落[0052]参照)、制御部は、車両の始動時に前記第3モードにて駆動系の制御を開始すると認められる。
7.請求項8について
刊行物A(特に段落【0052】)には、モード選択部は、第1モードの選択位置と第2モードの選択位置と第3モードの選択位置とに切り換え可能なスイッチであることが開示されている。また、刊行物A(特に段落【0081】~【0084】)、【図13】)には、第1モードから第2モードに自動的に復帰し、第2モードと第3モードとのいずれかに選択的に保持されることが開示されている。
上記スイッチの選択位置を上記自動的な復帰・保持と適合させることは、当業者であれば容易になし得たことである。
8.請求項10について
刊行物A(特に段落【0052】、【0081】~【0084】)には、モード選択部は、第1モードの選択位置と第2モードの選択位置とに切り換え可能なスイッチであることが開示されている。また、刊行物A(特に段落【0081】~【0084】)には、第1モードから第2モードに自動的に復帰することが開示されている。
上記スイッチの選択位置を上記自動的な復帰と適合させることは、当業者であれば容易になし得たことである。
9.請求項11について
刊行物Aには、動力伝達装置は、エンジンによって駆動される走行ポンプ(9)と、前記走行ポンプから吐出された作動油によって駆動され、走行輪を回転駆動する油圧モータ(12、13)と、を有することが開示されている。
10.請求項12について
一般に、車両において、トルクコンバータ及び変速機を備えることは、慣用の技術である。
11.請求項13について
刊行物A(【図4】)には、所定の車速未満の速度領域において、第2モードの牽引力は、第1モードの牽引力よりも小さく、前記所定の車速以上の速度領域において、前記第2モードの牽引力は、前記第1モードの牽引力と同じであることが開示されている。
12.請求項14について
請求項14(方法に関する発明)は、上記請求項1(装置に関する発明)とカテゴリーが異なり、かつ、上記請求項1の上位概念に当たる発明である。
刊行物A:特開2008-144942号公報
第3 前置拒絶理由の概要
前置拒絶理由の概要は、次のとおりである。
請求項1ないし12に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記の刊行物1及び2に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
刊行物1:特開2008-144942号公報(拒絶査定時の刊行物A)
刊行物2:国際公開第2007/074608号
第4 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、平成29年6月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
走行輪と、
エンジンと、前記エンジンからの駆動力によって前記走行輪を回転駆動する動力伝達装置と、前記エンジンによって駆動される作業機ポンプと、を有する駆動系と、
前記作業機ポンプから吐出される作動油によって駆動される作業機と、
所定の第1モードと、前記第1モードよりも牽引力を小さく制御する第2モードと、第3モードとを含む複数のモードから選択された制御モードを示す操作信号を生成するモード選択部と、
前記モード選択部からの前記操作信号を取得し、選択された前記制御モードに従って前記駆動系を制御し、前回の車両の作動停止時に前記モード選択部によって前記第1モードが選択されていても車両の始動時には前記第2モードにて前記駆動系の制御を開始し、前記モード選択部によって前記第3モードが選択されているときには、前記車両の始動時に前記第3モードにて前記駆動系の制御を開始する制御部と、
を備え、
前記第2モードでは、車速が所定の第1速度であるときに牽引力が最大となり、
車速が前記第1速度であるときの前記第3モードでの牽引力は、前記第2モードでの最大牽引力より小さく、
前記第2モードでは、前記第1速度以下の速度範囲では、車速が小さくなるほど牽引力が小さくなり、
前記第3モードでは、前記第1速度以下の速度範囲では、車速が小さくなるほど牽引力が大きくなる、
ホイールローダ。
【請求項2】
前記第1モードでの最大牽引力は、全ての前記制御モードのなかで最も大きい、
請求項1に記載のホイールローダ。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両の作業局面を判定し、
前記制御モードが前記第2モードである場合、前記制御部は、掘削中にスリップが生じ易い局面であると判定したときには、前記第2モードでの前記最大牽引力を低減する、
請求項1又は2に記載のホイールローダ。
【請求項4】
最大牽引力の大きさを設定する牽引力設定部をさらに備え、
前記制御モードが前記第2モードである場合、前記制御部は、前記第2モードでの最大牽引力を、前記牽引力設定部によって設定された大きさとする、
請求項1又は2に記載のホイールローダ。
【請求項5】
前記エンジンを始動するための始動スイッチをさらに備え、
前記制御部は、前記始動スイッチがオンされたときに、前記第2モードにて前記駆動系の制御を開始する、
請求項1から4のいずれかに記載のホイールローダ。
【請求項6】
前記モード選択部によって選択された前記制御モードが前記車両の始動時に保持されるように設定するモード保持設定部をさらに備える、
請求項1から5のいずれかに記載のホイールローダ。
【請求項7】
前記モード選択部は、前記第1モードの選択位置と前記第2モードの選択位置と前記第3モードの選択位置とに切り換え可能なスイッチであり、前記第1モードの選択位置から前記第2モードの選択位置に自動的に復帰し、前記第2モードの選択位置と前記第3モードの選択位置とのいずれかに選択的に保持される、
請求項1から6のいずれかに記載のホイールローダ。
【請求項8】
前記モード選択部は、前記第1モードの選択位置と前記第2モードの選択位置とに切り換え可能なスイッチであり、前記第1モードの選択位置から前記第2モードの選択位置に自動的に復帰する、
請求項1から7のいずれかに記載のホイールローダ。
【請求項9】
前記動力伝達装置は、
前記エンジンによって駆動される走行ポンプと、
前記走行ポンプから吐出された作動油によって駆動され、前記走行輪を回転駆動する油圧モータと、
を有する、
請求項1から8のいずれかに記載のホイールローダ。
【請求項10】
前記動力伝達装置は、前記エンジンからの駆動力を前記走行輪に伝達するトルクコンバータ及び変速機を有する、
請求項1から8のいずれかに記載のホイールローダ。
【請求項11】
所定の車速未満の速度領域において、前記第2モードの牽引力は、前記第1モードの牽引力よりも小さく、
前記所定の車速以上の速度領域において、前記第2モードの牽引力は、前記第1モードの牽引力と同じである、
請求項1から10のいずれかに記載のホイールローダ。
【請求項12】
所定の第1モードと、前記第1モードよりも牽引力を小さく制御する第2モードと、第3モードとを含む複数のモードからモード選択部によって選択された制御モードを示す操作信号を取得するステップと、
選択された前記制御モードに従って、駆動系を制御するステップと、
前回の車両の作動停止時に前記モード選択部によって前記第1モードが選択されていても車両の始動時には前記第2モードにて前記駆動系の制御を開始するステップと、
前記モード選択部によって前記第3モードが選択されているときには、前記車両の始動時に前記第3モードにて前記駆動系の制御を開始するステップと、
を備え、
前記第2モードでは、車速が所定の第1速度であるときに牽引力が最大となり、
車速が前記第1速度であるときの前記第3モードでの牽引力は、前記第2モードでの最大牽引力より小さく、
前記第2モードでは、前記第1速度以下の速度範囲では、車速が小さくなるほど牽引力が小さくなり、
前記第3モードでは、前記第1速度以下の速度範囲では、車速が小さくなるほど牽引力が大きくなる、
ホイールローダの制御方法。」
第5 刊行物
1.刊行物1
前置拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物1(特開2008-144942号公報)には、「建設車両の牽引力制御装置」に関して、図面(特に、【図4】、【図13】参照。)とともに、次の事項が記載されている。
ア.「【0005】
本発明の課題は、トラクションコントロール等の牽引力を抑制する制御中であっても、必要な場合には簡単な操作によって車両の牽引力を一時的に上昇させて作業効率を向上させることが可能な建設車両の牽引力制御装置を提供することにある。」
イ.「【0033】
本発明の一実施形態に係る建設車両の牽引力制御装置を搭載したホイルローダ(建設車両)1について、図1~図14を用いて説明すれば以下の通りである。
なお、以下の説明において登場する「トラクションコントロール作動モード」とは、油圧モータ(後述する走行モータ(走行用油圧モータ)12,13)の最大傾転角を調整することでホイルローダ1の牽引力を制御するモードを意味し、「スノーモード)」とは、エンジン8のMAX回転数の制限、あるいは走行用油圧ポンプ容量(後述するメインポンプ9の最大容量)、ポンプ容量制御シリンダ23へ付与されるパイロット圧等を調整する制御によってホイルローダ1の牽引力を制御するモードを意味するものとする。
【0034】
[ホイルローダ1の全体構成]
本発明の一実施形態に係るホイルローダ(建設車両)1は、図1に示すように、タイヤ4a,4bにより自走可能であると共に作業機3を用いて所望の作業を行う建設車両である。ホイルローダ1は、車体フレーム2、作業機3、タイヤ4a,4b、キャブ5を備えている。」
ウ.「【0038】
作動油タンク6は、キャブ5の後方に配置されており、各種の油圧ポンプによって加圧される作動油を蓄積する。
[油圧駆動機構7]
油圧駆動機構7は、図2に示すように、主として、エンジン8、メインポンプ(走行用油圧ポンプ)9、チャージポンプ10、作業機用油圧ポンプ11、第1走行モータ(走行用油圧モータ)12、第2走行モータ(走行用油圧モータ)13、クラッチ14、駆動軸15、コントローラ(制御部)16(図3参照)を有しており、いわゆるHST(Hydro Static Transmission)システムが採用されている。
【0039】
エンジン8は、ディーゼル式のエンジンであり、エンジン8で発生した出力トルクが、メインポンプ9、チャージポンプ10、作業機用油圧ポンプ11、ステアリング用油圧ポンプ(図示せず)等に伝達される。エンジン8には、エンジン8の出力トルクと回転数とを制御する燃料噴射装置17が付設されており、アクセルの操作量(以下、「アクセル開度」と呼ぶ)に応じてスロットル開度を調整し、燃料の噴射量を調整する。アクセルは、エンジン8の目標回転数を指示する手段であり、アクセル開度検出部18(図3参照)が設けられている。アクセル開度検出部18は、ポテンショメータなどで構成されており、アクセル開度を検出する。アクセル開度検出部18は、アクセル開度を示す開度信号をコントローラ16へと送り、コントローラ16から燃料噴射装置17に制御信号が出力される。このため、オペレータはアクセルの操作量を調整することによってエンジン8の回転数を制御することができる。また、エンジン8には、エンジン8の実回転数を検出する回転センサからなるエンジン回転数検出部19(図3参照)が設けられており、エンジン回転数検出部19からの回転数信号がコントローラ16に入力される。」
エ.「【0046】
コントローラ16は、図3に示すように、燃料噴射装置17、アクセル開度検出部18、エンジン回転数検出部19、主回路油圧検出部22、前後進切換弁24、第1モータ制御弁30、第2モータ制御弁32、クラッチ制御弁33、車速検出部34、トラクションコントロール解除ボタン(トラクションコントロール解除操作部)35、トラクションコントロールスイッチ(トラクションコントロール設定部、スノーモード設定部)36、モード判定部39、前後進切換レバー55等と接続されており、制御ブロック(牽引力制御装置)40を構成する。そして、コントローラ16は、各検出部からの出力信号に基づいて各制御弁や燃料噴射装置17を電子制御して、エンジン回転数、各油圧ポンプ9~11の容量、各走行モータ12,13の容量等を制御したり、トラクションコントロール解除ボタン35等の操作によりトラクションコントロール作動モードからトラクションコントロール解除モードへ移行、復帰等を制御したりすることができる。なお、コントローラ16におけるトラクションコントロール解除モードとトラクションコントロール作動モードとの間の移行、復帰制御等の各種制御内容については、後段にて詳述する。
【0047】
[キャブ5内部の配置]
キャブ5は、図6に示すように、内部に、オペレータシート(運転席)42、ステアリング43、右側コンソールボックス44、前方コンソールボックス46、右側コンソールボックス44の前方であってオペレータシート42の近接する位置に配置された作業機レバー53、を備えている。また、オペレータシート42の前方でステアリング43の下方、左側部分には、前方側に前後進切換レバー55と、が配置されている。そして、オペレータシート42にオペレータが着座した際の左右両側には、乗降用ドア45a,45bが取り付けられている。」
オ.「【0050】
スイッチパネル52に含まれる複数のスイッチ類には、エンジンをスタートさせるキースイッチ61、車速レンジ切換スイッチ62,63、ファン逆転スイッチを含むスイッチ群64、およびT/Cスイッチ36等が含まれる。
作業機レバー53は、これら2本のレバーを前後に傾斜させることで、ホイルローダ1の前方に取り付けられた作業機、つまりリフトアーム37やバケット38の動きを操作するためのレバーである。作業機レバー53は、上部にオペレータに把持されるグリップを有しており、作業機レバー53のうちの一方(この例では外側)のグリップ上面に、トラクションコントロール解除を実行するためのトラクションコントロール解除ボタン35が設けられている。」
カ.「【0052】
トラクションコントロールスイッチ36は、図8に示すように、右側コンソールボックス44の上面に配置されたスイッチパネル52に含まれており、図9に示すように、切換スイッチ36aと、表示部36bと、を有している。切換スイッチ36aは、図10(a)~図10(c)に示す表記36ba~36bcに対応する3つのモード(トラクションコントロール解除モード、トラクションコントロール作動モード、スノーモード)を切り換える。具体的には、図11(a)に示すような切換スイッチ36aの中立状態では、図10(b)に示すトラクションコントロール作動モードとなり、図11(b)に示すような切換スイッチ36aが前方へ押下された状態では、図10(b)に示すトラクションコントロール解除モードとなり、図11(c)に示すような切換スイッチ36aが後方へ押下された状態では、図10(c)に示すスノーモードとなるように各モードが切り換えられる。」
キ. 「【0054】
また、上述した切換スイッチ36aが図11(a)に示す中立状態にある場合には、トラクションコントロール作動モードとなるが、その際の牽引力のレベルL1~L3については、図6に示す前方コンソールボックス46に設置された2つのモニタパネルモード切換えスイッチ46a,46aを操作することで、液晶モニタ76(図14参照)の画面を介して予め設定される。具体的には、上記モニタパネルモード切換えスイッチ46aを操作してカーソルを進めることによりキャラクタディスプレイの機能切換え操作を行うことで、トラクションコントロール作動モードへ移行した際の牽引力の大きさを、予めレベルL1~L3のいずれかに設定することができる。これにより、作業現場の状況に応じて、トラクションコントロール作動モード時におけるホイルローダ1の牽引力を適切な大きさに調整することができる。」
ク.「【0060】
<スノーモードにおけるエンジン8のMAX回転数の制限制御>
本実施形態では、図10(a)~図10(c)および図11(a)~図11(c)に示すように、トラクションコントロールスイッチ36を操作することによって、上述したトラクションコントロール作動モード以外に、スノーモードの選択も可能となっている。そして、スノーモードが選択された場合には、モータの最大容量の調整に加えて、車速-牽引力特性を示すグラフにおいて特性曲線のピーク位置を車速0側に移動させる制御も行って、図4に示すような牽引力特性を得る。
【0061】
すなわち、スノーモードに設定されると、コントローラ16は、第2走行モータ13の最大傾転角を調整してモータの最大容量を調整することで、タイヤ4a,4bに伝達される駆動力を低減してホイルローダ1の牽引力を抑制するとともに、ホイルローダ1の車速が小さくなるほど、スロットル開度の上限を段階的に小さくすることにより、牽引力のピーク位置を車速0側へ移動する制御を行う。
【0062】
なお、スノーモードのオンとオフの2つの状態の切換は、トラクションコントロールスイッチ36の操作によって行うことができる。トラクションコントロールスイッチ36を図11の(b)の状態となるように操作したとき、スノーモードオンとなる。
これにより、ホイルローダ1が低速域において作業を行う際には、車速-牽引力特性を示す図4のグラフにおいて、特性曲線を「スノーモード」のようになるように牽引力を低減する制御を行うことができる。」
ケ.「【0080】
これにより、一時的に大きな牽引力が必要となる作業が終了した場合には、トラクションコントロール解除モードへ移行する際に操作したトラクションコントロール解除ボタン35をそのまま再度操作することで、容易に元の牽引力が低いトラクションコントロール作動モードへと復帰させることができる。この結果、オペレータの所望のタイミングで、操作性よくトラクションコントロール作動モード、トラクションコントロール解除モード間での切換えを行うことができる。
【0081】
(6)
本実施形態のホイルローダ1では、図13のステップS5に示すように、トラクションコントロール解除ボタン35を操作してトラクションコントロール作動モードからトラクションコントロール解除モードへ移行した後、前後進切換レバー55が操作された場合には、コントローラ16は、低速域におけるスリップを防止するために牽引力が低く設定されたトラクションコントロール作動モードへと復帰する。
【0082】
これにより、一時的に大きな牽引力が必要となる作業が終了した場合には、例えば、走行方向を前向きから後ろ向きへ切り換えると想定されるため、前後進切換レバー55が操作されたことを検知することで、元の牽引力が低いトラクションコントロール作動モードへと復帰させることができる。この結果、オペレータの操作によらず、トラクションコントロール解除モードからトラクションコントロール作動モードへの復帰制御を自動的に容易に行うことができる。
【0083】
(7)
本実施形態のホイルローダ1では、図13のステップS6に示すように、トラクションコントロール解除ボタン35を操作してトラクションコントロール作動モードからトラクションコントロール解除モードへ移行した後、ホイルローダ1の車速が所定値以上になったことが車速検出部34において検出された場合には、コントローラ16は、低速域における牽引力が低く設定されたトラクションコントロール作動モードへと復帰する。
【0084】
これにより、一時的に大きな牽引力が必要となる作業が終了した場合には、例えば、ある程度の車速で別の場所等へ移動すると想定されるため、車速をセンシングしながら所定値以上になったことを検出することで、容易に元の牽引力が低いトラクションコントロール作動モードへと復帰させることができる。この結果、オペレータの操作によらず、トラクションコントロール解除モードからトラクションコントロール作動モードへの復帰制御を自動的に行うことができる。」
コ.「【0092】
(D)
上記実施形態では、図13のステップS4~S6に示すように、トラクションコントロール解除ボタン35を再度操作した場合、前後進切換レバー55が操作された場合や、車速検出部34において検出された車速が所定値以上になった場合等に、牽引力が高いトラクションコントロール解除状態から牽引力が低いトラクションコントロール作動モードやスノーモードへと復帰する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0093】
例えば、トラクションコントロールモードやスノーモードへの復帰条件として、所定時間が経過したこと等のような、上記以外の条件を付加して復帰制御を行うことも可能である。
また、上記3つの条件(ステップS4~S6)を組み合わせてトラクションコントロール作動モードやスノーモードへの復帰制御を行うのではなく、オペレータの設定によって、1つあるいは2つの復帰条件だけに絞って設定することも可能である。」
上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「タイヤ4a、4bと、
エンジン8と、前記エンジン8からの駆動力によって前記タイヤ4a、4bを回転駆動する走行用油圧ポンプ9、走行用油圧モータ12、走行用油圧モータ13と、前記エンジン8によって駆動される作業機用油圧ポンプ17と、を有する駆動系と、
前記作業機用油圧ポンプ17から吐出される圧油によって駆動される作業機3と、
トラクションコントロール解除モードと、トラクションコントロール作動モードと、スノーモードとを含む複数のモードから選択された制御モードを示す操作信号を生成するトラクションコントロールスイッチ36と、
前記トラクションコントロールスイッチ36からの前記操作信号を取得し、選択された前記制御モードに従って前記駆動系を制御するコントローラ16と、
を備える、
ホイルローダ1。」
2.刊行物2
前置拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物2(国際公開第2007/074608号)には、「建設車両」に関して、図面(特に【図3】、【図4】参照。)とともに、次の事項が記載されている。
「[0038] ここで、この建設車両1では、最大牽引力選択部35 (図3参照)を備えており、最大牽引力選択部35を操作することにより最大牽引力を変更することができる。最大牽引力選択部35は、運転室5に設けられたスイッチであり、制御部16は、最大牽引力選択部35からの出力信号に基づいて第2走行モータ13の傾転角の最大値を切り替え、これにより最大牽引力を変更する。この建設車両1では、最大牽引力選択部35はオン状態とオフ状態の2段階に切替可能である。最大牽引力選択部35がオフ状態の場合は、最大傾転角は図5のMaxの位置となり、この状態では車速―牽引力特性は図4のグラフL1となる。そして、最大牽引力選択部35がオン状態にされると、最大傾転角が図5のMaxから Max’に変更される。このように、最大傾転角が、Maxよりも小さいMax’に変更されることにより、図4のグラフL2のように最大牽引力が低下した車速-牽引力特性が得られる。なお、グラフL1,L2はいずれもアクセル開度が全開の状態における車速-牽引力特性である。これによつて、軟弱路面や雪上路面等の低摩擦路面において、作業機3による作業量を確保するためにアクセル開度を最大としても、タイヤ4a,4bの駆動力が抑えられてスリップを防止することが可能となる。なお、最大牽引力の変更は2段階ではなく3以上の複数段階に変更可能であってもよく、連続的に変更可能であってもよい。」
第6 対比・判断
1.本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「タイヤ4a、4b」は本願発明1の「走行輪」に相当し、以下同様に、「エンジン8」は「エンジン」に、「走行用油圧ポンプ9、走行用油圧モータ12、走行用油圧モータ13」は「動力伝達装置」に、「作業機用油圧ポンプ17」は「作業機ポンプ」に、「圧油」は「作動油」に、「トラクションコントロール解除モード」は「所定の第1モード」に、「トラクションコントロール作動モード」は「前記第1モードよりも牽引力を小さく制御する第2モード」に、「スノーモード」は「第3モード」、「トラクションコントロールスイッチ36」は「モード選択部」に、「コントローラ16」は「制御部」に、「ホイルローダ1」は「ホイールローダ」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「走行輪と、
エンジンと、前記エンジンからの駆動力によって前記走行輪を回転駆動する動力伝達装置と、前記エンジンによって駆動される作業機ポンプと、を有する駆動系と、
前記作業機ポンプから吐出される作動油によって駆動される作業機と、
所定の第1モードと、前記第1モードよりも牽引力を小さく制御する第2モードと、第3モードとを含む複数のモードから選択された制御モードを示す操作信号を生成するモード選択部と、
前記モード選択部からの前記操作信号を取得し、選択された前記制御モードに従って前記駆動系を制御する制御部と、
を備える、
ホイールローダ。」
で一致し、次の各点で相違する。
〔相違点1〕
本願発明1は、「前回の車両の作動停止時に前記モード選択部によって前記第1モードが選択されていても車両の始動時には前記第2モードにて前記駆動系の制御を開始し、前記モード選択部によって前記第3モードが選択されているときには、前記車両の始動時に第3モードにて前記駆動系の制御を開始する」のに対し、引用発明は、かかる構成を有しているかどうか明らかでない点。
〔相違点2〕
本願発明1は、「前記第2モードでは、車速が所定の第1速度であるときに牽引力が最大となり、車速が前記第1速度であるときの前記第3モードでの牽引力は、前記第2モードでの最大牽引力より小さく、前記第2モードでは、前記第1速度以下の速度範囲では、車速が小さくなるほど牽引力が小さくなり、前記第3モードでは、前記第1速度以下の速度範囲では、車速が小さくなるほど牽引力が大きくなる」のに対し、 引用発明は、かかる構成を備えていない点。
上記相違点1について検討する。
相違点1に係る本願発明1の「前回の車両の作動停止時に前記モード選択部によって前記第1モードが選択されていても車両の始動時には前記第2モードにて前記駆動系の制御を開始し、前記モード選択部によって前記第3モードが選択されているときには、前記車両の始動時に第3モードにて前記駆動系の制御を開始する」という構成は、上記刊行物1及び2には、記載も示唆もされておらず、本願出願日前において周知の技術であるともいえない。
そして、本願発明1は、かかる構成を備えることにことにより、明細書の段落【0089】における「以上説明した本実施形態に係るホイールローダ1では、制御モードがMAXモードに設定されていても、車両が作動停止された後、次の車両の始動時には、トラクションコントロールモードにて駆動系6の制御が開始される。すなわち、車両の始動時の制御モードとしてトラクションコントロールモードがデフォルトとして設定されている。従って、車両の始動時に、オペレータがモード選択部46を操作しなくても、燃費の良いトラクションコントロールモードにて駆動系6を制御することができる。これにより、燃費を向上させることができる。」との効果を奏するものである。
このような本願発明1が奏する効果は、引用発明及び刊行物2に記載された事項から、当業者が予測できるものではない。
したがって、引用発明において、当業者が刊行物2に記載された事項を適用して、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。
よって、本願発明1は、相違点2について検討するまでもなく、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
2.本願発明2ないし11について
本願発明2ないし11は、本願発明1をさらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
3.本願発明12について
本願発明12は、本願発明1に対応する制御方法の発明であり、本願発明1と同様に、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
第7.原査定についての判断
平成29年6月14日付けの手続補正により、補正後の請求項1ないし11は、「前回の車両の作動停止時に前記モード選択部によって前記第1モードが選択されていても車両の始動時には前記第2モードにて前記駆動系の制御を開始し、前記モード選択部によって前記第3モードが選択されているときには、前記車両の始動時に第3モードにて前記駆動系の制御を開始する」という発明特定事項を有するものとなり、また、補正後の請求項12は、「前回の車両の作動停止時に前記モード選択部によって前記第1モードが選択されていても車両の始動時には前記第2モードにて前記駆動系の制御を開始するステップと、前記モード選択部によって前記第3モードが選択されているときには、前記車両の始動時に前記第3モードにて前記駆動系の制御を開始するステップと」という発明特定事項を有するものとなった。当該発明特定事項は、原査定における刊行物Aには記載されておらず、本願の出願日前における周知技術でもないので、本願発明1ないし12は、原査定における刊行物Aに基いて当業者が容易に発明できたものでない。
したがって、原査定を維持することはできない。
第8.当審拒絶理由について
当審では、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知している。
(1)請求項3における「前記最大牽引力を制御する」との記載に関し、最大牽引力をどのように制御するか明確でない。
請求項3は、請求項1又は請求項2を引用する形式で記載されているが、請求項3に記載された「前記最大牽引力」と、請求項1に記載された「前記第2モードでの最大牽引力」、請求項2に記載された「前記第1モードでの最大牽引力」との関係が明確でない。
これに対して、平成29年6月14日の手続補正により、請求項3は「前記制御部は、掘削中にスリップが生じ易い局面であると判定したときには、前記第2モードでの前記最大牽引力を低減する」と補正された結果、これらの拒絶の理由は解消した。
(2)請求項4は、請求項1又は請求項2を引用する形式で記載されているが、請求項4に記載された「最大牽引力」、「前記最大牽引力」と、請求項1に記載された「前記第2モードでの最大牽引力」、請求項2に記載された「前記第1モードでの最大牽引力」との関係が明確でない。
これに対して、平成29年6月14日の手続補正により、請求項4は「前記第2モードでの最大牽引力」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。
第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-014616