特許拒絶査定不服審判
2016-011427
走査型プローブ顕微鏡を動作させる方法
- 審判番号
- 2016-011427
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-542168
- 請求日
- 2016年07月29日
- 審決日
- 2017年07月18日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】ブルカー ナノ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】恩田 誠
- 【請求人代理人】恩田 博宣
- 【請求人代理人】本田 淳
- 審判長/審判官
- 審判長 伊藤 昌哉
- 審判官 松岡 智也
- 審判官 渡戸 正義
- 分類
- P18 .121-WY (G01Q) / P18 .537-WY (G01Q) / P18 .575-WY (G01Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-542168「走査型プローブ顕微鏡を動作させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 9日国際公開、WO2011/068905、平成25年 4月11日国内公表、特表2013-512456、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)12月1日(パリ条約による優先権主張 2009年12月1日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年7月9日付けで拒絶理由が通知され、同年11月12日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年4月21日付けで拒絶理由が通知され、同年10月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月18日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)されたところ、同年7月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
第2 平成28年7月29日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年7月29日提出の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という)を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1を、補正後の請求項1に変更する補正事項(以下、「本件補正事項」という。)を含むものである。
本件補正における補正前の請求項1及び補正後の請求項1は、それぞれ以下のとおりである。
(1) 補正前の請求項1
「【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡を動作させる動作方法であって、前記動作方法は、
プローブと試料との間に周期的相対運動を生成する生成段階と;
前記プローブの運動を検出して検出プローブ運動を得る検出段階と;
前記検出プローブ運動から前記プローブと前記試料との間の瞬間力を回収する回収段階であって、前記瞬間力は寄生プローブ撓みとは無関係であり、前記寄生プローブ撓みは前記走査型プローブ顕微鏡の動作に関する背景によって生じることと;
前記瞬間力を回収することに応じて、走査中に前記瞬間力をフィードバック設定値に維持すべく前記プローブと前記試料との間の距離をフィードバック制御するように前記生成段階を自動的に制御する自動制御段階と
を含み、
前記回収段階は、前記検出プローブ運動から前記背景を減算することを含み、
前記自動制御段階は、対応フィードバックループにおけるゲインを自動的に制御することを含む、動作方法。」
(2) 補正後の請求項1
「【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡を動作させる動作方法であって、前記動作方法は、
プローブと試料との間に周期的相対運動を生成する生成段階と;
前記プローブの運動を検出して検出プローブ運動を得る検出段階と;
前記検出プローブ運動から前記プローブと前記試料との間の瞬間力を回収する回収段階であって、前記瞬間力は寄生プローブ撓みとは無関係であり、前記寄生プローブ撓みは前記走査型プローブ顕微鏡の動作に関する流体力、ドラッグ力、空気力およびレーザ干渉を含む背景によって生じることと;
前記瞬間力を回収することに応じて、走査中に前記瞬間力をフィードバック設定値に維持すべく前記プローブと前記試料との間の距離をフィードバック制御するように前記生成段階を自動的に制御する自動制御段階と
を含み、
前記回収段階は、前記検出プローブ運動から前記流体力、ドラッグ力、空気力およびレーザ干渉を含む背景を減算することを含み、
前記自動制御段階は、対応フィードバックループにおけるゲインを自動的に制御することを含む、動作方法。」
したがって、本件補正事項は、補正前の「前記走査型プローブ顕微鏡の動作に関する背景」を、「前記走査型プローブ顕微鏡の動作に関する流体力、ドラッグ力、空気力およびレーザ干渉を含む背景」に限定するものである。
2 本件補正の適否の判断
(1) 新規事項の追加について
本件補正事項は、本願の国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、「翻訳文等」という。)の【0078】段落に、「これらの寄生力(流体力、ドラッグ力と空気、軸外運動、レーザ干渉およびプローブが試料に相互作用していない場合に生じる任意の他の周期的運動を含む)によるプローブ撓みへの寄与は、大きい」と記載されていることを補正の根拠としているから、本件補正事項は、本願の翻訳文等に記載された範囲内においてなされた補正であって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
(2) 補正の目的及び独立特許要件について
本件補正事項は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、本件補正の前後で請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下で検討する。
ア 記載不備(明確性要件違反)について
本件補正事項において限定された「流体力」、「ドラッグ力」、「空気力」及び「レーザ干渉」とは、それぞれ、どのような力又は現象を指すのかが、翻訳文等及び当業者の技術常識を参酌しても不明である。
特に、「空気」が「流体」に包含されていることは当業者の技術常識であるが、「空気力」及び「流体力」と記載する本件補正事項について、「流体力」と「空気力」との包含関係が不明である。
また、「ドラッグ力」が、何に対する抗力であるのかが不明であり、「流体力」及び「空気力」との関係も不明である。
また、「レーザ干渉」とは、どのようなレーザによる干渉であるのか不明である。
よって、本願補正発明1は明確でない。
したがって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 小括
以上のとおり、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1-17に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2001-108601号公報
2.特開平11-133038号公報
3.特開平07-270434号公報
第4 本願発明
本件補正は、上記「第2 平成28年7月29日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願請求項1-17に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明17」という。)は、平成27年10月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-17に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1、10は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡を動作させる動作方法であって、前記動作方法は、
プローブと試料との間に周期的相対運動を生成する生成段階と;
前記プローブの運動を検出して検出プローブ運動を得る検出段階と;
前記検出プローブ運動から前記プローブと前記試料との間の瞬間力を回収する回収段階であって、前記瞬間力は寄生プローブ撓みとは無関係であり、前記寄生プローブ撓みは前記走査型プローブ顕微鏡の動作に関する背景によって生じることと;
前記瞬間力を回収することに応じて、走査中に前記瞬間力をフィードバック設定値に維持すべく前記プローブと前記試料との間の距離をフィードバック制御するように前記生成段階を自動的に制御する自動制御段階と
を含み、
前記回収段階は、前記検出プローブ運動から前記背景を減算することを含み、
前記自動制御段階は、対応フィードバックループにおけるゲインを自動的に制御することを含む、動作方法。」
「【請求項10】
原子間力顕微鏡を動作させる動作方法であって、前記動作方法は、
プローブと試料の断続的接触を誘発する誘発段階と;
前記プローブの振動の各々の変調周期において走査中に前記プローブと前記試料との間で同じピーク相互作用力を維持するように前記プローブと前記試料との間の距離を制御する維持段階と
を含み、
前記ピーク相互作用力は寄生プローブ撓みとは無関係であり、前記寄生プローブ撓みは走査型プローブ顕微鏡の動作に関する背景によって生じる、動作方法。」
第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。)。
(引1a)「【0008】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[実施の形態1]図1は本発明を走査型プローブ顕微鏡の一つである原子間力顕微鏡に適用した場合のブロック図である。
【0009】たわみ信号処理装置8は内部に周波数と振幅を任意に設定可能な発振器を持ち、それによって、試料または、カンチレバーを加振する。図1においては、試料側に取り付けられた、XYZトランスレータが試料14を加振するため、発振器の出力は、Zトランスレータコントローラ3からの信号に加算器2で重畳される。たわみ検出器10がカンチレバーのたわみを検出し、たわみ信号処理装置8がたわみ信号から試料の位置制御に必要な信号を生成しAFMコントローラ5に送る。AFMコントローラ5とZトランスレータコントローラ3はたわみ信号処理装置8からの信号をもとに、上下に振動する試料14とプローブが周期的に接触と離脱を繰り返し、かつ、接触したプローブ12と試料14との間に働く最大斥力が一定になるように、試料14の上下方向の位置を制御する。
・・・
【0012】図3は、加振用アクチュエータ15をカンチレバー側に配した場合の模式図である。このようにすることで、加振用アクチュエータ15の負荷が低減されより高速に加振することができ、また、走査および制御の安定化を図ることができる。」
(引1b)「[実施の形態2]図4は実施の形態1で説明した、原子間力顕微鏡におけるたわみ信号の模式図である。たわみ信号16および、17はそれぞれ、プローブまたは試料間の距離が等速で変化する場合と正弦的に変化する場合とを表している。18,19はともにトリガ信号を表している。
【0013】たわみ信号処理装置はトリガ19のbとcの間で、たわみ信号のピーク値を検出し、また、トリガ18のaのタイミングでの信号値を検出する。トリガ19のタイミングを図4に示すように調節することでプローブと試料間に働く斥力が最大となっているときのたわみ信号の値を検出することができ、この値を一定に保つように試料表面を走査することによって試料の表面形状を得ることができる。」
(引1c)「[実施の形態4]ノイズを除去する方法について、本発明を応用した走査型プローブ顕微鏡を用いて液体中で測定した場合を例に説明する。図7は、液体中でのたわみ信号を模式的に表している。
【0019】液体中では、液体の粘性抵抗により、カンチレバーの自由振動は過減衰状態になり、たわみ信号29の様になる。しかし、実際には、試料に対して相対的に振動しているカンチレバーには、粘性抵抗が働きたわみ信号は27の様になる。つまり、実際に得られるたわみ信号27は、プローブと試料との接触、または、プローブと試料間に働く相互作用によるカンチレバーのたわみと粘性抵抗によるたわみを含んでいる。また、プローブと試料が接触しない十分な距離だけ、試料とプローブをはなして、試料または、カンチレバーを振動させるとたわみ信号28が得られる。たわみ信号28は、粘性抵抗のみによるカンチレバーのたわみのみである。したがって、たわみ信号27と28を演算することにより粘性抵抗による影響を除去することができ、29に示すようなたわみ信号を得ることができる。」
(引1d)「[実施の形態5]図8を用いて、図7におけるたわみ信号28を取得する方法について説明する。
【0020】図8はプローブが振動する場合を示している。通常、プローブ12は上下に振動し試料表面に周期的に接触しているが、たわみ信号28を取得するためには、プローブが試料表面に接触しないように、プローブを試料から離さなければならない。そこで、aはプローブが試料表面を走査しているときに、各位置でプローブと試料を離してたわみ信号28を取得する場合を示している。bは、1ライン走査後同一ライン上をプローブと試料とを離して走査しながら、同一の場所でたわみ信号28を取得する場合を示している。cは、プローブが試料表面を走査しているときに、各位置でプローブと試料を離すが、試料の表面形状を反映する信号に基づいて常に、たわみ信号28を取得するときの、プローブと試料間の距離が一定になるようにした場合を示している。dは、1ライン走査後同一ライン上を試料の表面形状を反映する信号に基づいて常に、たわみ信号28を取得するときの、プローブと試料間の距離が一定になるようにした場合を示す。
【0021】eは、測定対象領域を走査後、プローブ試料間を離し、同一領域を走査したわみ信号28を各位置で取得する場合を示している。また、この場合においても、cやdと同様に、試料の表面形状を反映する信号に基づいてたわみ信号28を取得するときのプローブと試料との距離を一定になるように同一領域を走査することができる。
【0022】このようにすることで、位置によってたわみ信号28が変化する様な場合でも、正確ににたわみ信号28を取得することができる。また、液体の粘性抵抗のように、場所によってたわみ信号28が変化しないような場合には走査前、または、走査後に一度たわみ信号28を取得するだけで十分であり、このようにすることでデータ量の削減および、測定時間の短縮をはかることができる。」
(引1e)「【符号の説明】
・・・
11 カンチレバー
12 プローブ
13 カンチレバー支持体
14 試料
15 加振用アクチュエータ」
(引1f)図3は以下のようなものである。
図3及び(引1e)から、カンチレバー11の先端にプローブ12が一体的に設けられていることが分かる。
(引1g)図4は以下のようなものである。
(引1h)図7は以下のようなものである。
(引1i)図8は以下のようなものである。なお、「e」の図は省略した。
図8a及びcにおけるプローブ12間の矢印から、【0020】段落における「プローブが試料表面を走査しているときに」との記載で説明されるタイミングは、プローブの試料表面の検出によるたわみ信号27の取得の後であって、次の場所に移動する前のタイミングであることが読み取れる。
したがって、(引1a)、(引1b)及び(引1f)の下線部の記載を総合すると、引用文献1には、以下の発明(「引用発明1」という。)が記載されている(引用発明1の認定の根拠となった段落番号を附記した。)。
「原子間力顕微鏡(【0008】)を動作させる動作方法であって、
たわみ信号処理装置8は内部に周波数と振幅を任意に設定可能な発振器を持ち、それによって、カンチレバーを加振し(【0009】)、
カンチレバーの先端にプローブ12が一体的に設けられ(図3)、
たわみ検出器10がカンチレバーのたわみを検出し、たわみ信号処理装置8がたわみ信号から試料の位置制御に必要な信号を生成しAFMコントローラ5に送り、AFMコントローラ5とZトランスレータコントローラ3はたわみ信号処理装置8からの信号をもとに、上下に振動するプローブ12と試料14が周期的に接触と離脱を繰り返し、かつ、接触したプローブ12と試料14との間に働く最大斥力が一定になるように、試料14の上下方向の位置を制御する方法であって(【0009】)、
たわみ信号処理装置はトリガ19のbとcの間で、たわみ信号のピーク値を検出し、プローブ12と試料14との間に働く斥力が最大となっているときのたわみ信号の値を検出することができ、この値を一定に保つように試料表面を走査することによって試料の表面形状を得ることができる(【0013】)
動作方法。」
2 引用文献2記載の事項
引用文献2には、その【請求項1】の記載からみて、「試料表面の物理量を検知するための探針の動作を制御するZサーボ系を有する走査プローブ顕微鏡において、前記Zサーボ系の発振を検出する発振検出手段と、該発振検出手段の出力に基づいて、前記Zサーボ系のサーボゲインを所定の大きさに自動設定するサーボゲイン自動設定手段とを具備したことを特徴とする走査プローブ顕微鏡」が記載されている。
3 引用文献3記載の事項
引用文献3には、その【請求項1】の記載からみて、「レバーアームに取り付けられたプローブ先端を含むプローブを試料の表面で走査させ、プローブ先端が走査するときのレバーアームの位置に関連して試料の表面を反映するデータを収集する原子間力顕微鏡を作動させる方法において、前記方法が、プローブを前記プローブの共振周波数またはその付近、あるいは前記共振周波数の調波またはその付近で振動させる段階と、振動プローブが試料の表面に接触し、プローブの振動の振幅が試料表面との衝突による影響を受けて、試料の表面のトポグラフィーの変化を示す信号を生成するように、振動プローブを試料の表面で並進させる段階と、前記並進段階で生成された信号に関連して試料の表面を表わすデータ値を決定する段階と、から成る原子間力顕微鏡の作動方法」が記載されている。
第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明1における「原子間力顕微鏡」は、本願発明1における「走査型プローブ顕微鏡」に相当する。
イ 引用発明1は「プローブ12が一体的に設けられ」た「カンチレバー」のたわみを検出するものであるから、引用発明1における「プローブ12」及び「カンチレバー」が本願発明1における「プローブ」に相当し、引用発明1の「たわみ信号処理装置8は内部に周波数と振幅を任意に設定可能な発振器を持ち、それによって、カンチレバーを加振」することは、当該「加振」によって「上下に振動するプローブ12と試料14が周期的に接触と離脱を繰り返」すものであるから、本願発明1における「プローブと試料との間に周期的相対運動を生成する生成段階」に相当する。
ウ 引用発明1における「プローブ12と試料14との間に働く斥力が最大となっているときのたわみ信号の値」は、「最大となっているとき」とはある「瞬間」を指すことは明らかであるから、その意味において、本願発明1における「前記プローブと前記試料との間の瞬間力」に相当する。
エ 引用発明1における「たわみ信号処理装置はトリガ19のbとcの間で、たわみ信号のピーク値を検出」することと、本願発明1の「前記プローブの運動を検出して検出プローブ運動を得る検出段階」とは、「前記プローブの運動を検出して信号を得る検出段階」である点で共通する。
オ 引用発明1における「プローブ12と試料14との間に働く斥力が最大となっているときのたわみ信号の値を検出する」ことと、本願発明1の「検出プローブ運動から前記プローブと前記試料との間の瞬間力を回収する回収段階」に対して、「検出段階で得られた信号から前記プローブと前記試料との間の瞬間力を回収する回収段階」である点で共通する。
カ 引用発明1における「接触したプローブ12と試料14との間に働く最大斥力が一定になるように、試料14の上下方向の位置を制御する」及び「この値を一定に保つように試料表面を走査する」ことは、本願発明1の「前記瞬間力を回収することに応じて、走査中に前記瞬間力をフィードバック設定値に維持すべく前記プローブと前記試料との間の距離をフィードバック制御するように前記生成段階を自動的に制御する自動制御段階」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点がある。
(一致点)
「走査型プローブ顕微鏡を動作させる動作方法であって、前記動作方法は、
プローブと試料との間に周期的相対運動を生成する生成段階と;
前記プローブの運動を検出して信号を得る検出段階と;
前記検出段階で得られた信号から前記プローブと前記試料との間の瞬間力を回収する回収段階と;
前記瞬間力を回収することに応じて、走査中に前記瞬間力をフィードバック設定値に維持すべく前記プローブと前記試料との間の距離をフィードバック制御するように前記生成段階を自動的に制御する自動制御段階と
を含む、
動作方法。」
(相違点)
(相違点1)検出段階について、本願発明1は、「検出プローブ運動を得」ているのに対して、引用発明1は、トリガ19のbとcの間における「たわみ信号のピーク値」を得ている点。
(相違点2)「瞬間力」について、本願発明1は、「前記瞬間力は寄生プローブ撓みとは無関係であり、前記寄生プローブ撓みは前記走査型プローブ顕微鏡の動作に関する背景によって生じ」るのに対し、引用発明1は、「寄生プローブ撓み」及びその原因である「背景」に関する特定がない点。
(相違点3)「回収段階」について、本願発明1は、「前記回収段階は、前記検出プローブ運動から前記背景を減算することを含」むのに対して、引用発明1にはそのような処理が特定されていない点。
(相違点4)本願発明1は「対応フィードバックループにおけるゲインを自動的に制御する」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。
ア
(ア)引用文献1記載のノイズ除去方法について
引用文献1には、(引1c)の下線部の記載を総合すれば、「演算」が「減算」を含む処理であることは当業者に明らかであるから、「実際に得られるたわみ信号27から、粘性抵抗によるたわみ信号28を減算することを含む、ノイズ除去されたたわみ信号29を得る方法」という技術的事項が記載されている(以下「引用文献1記載のノイズ除去方法」という。)。
ここで、引用文献1記載のノイズ除去方法における「粘性抵抗によるたわみ信号28」は、走査型プローブ顕微鏡の動作に関する背景であって、試料-プローブ相互作用とは別のプローブ撓みを引き起こす要因となるものであることは明らかであるから、本願発明1の「寄生プローブ撓み」を生じさせる「前記走査型プローブ顕微鏡の動作に関する背景」に相当する。
(イ)引用文献1記載のノイズ除去方法を、引用発明1におけるたわみ信号のピーク値の検出に適用することの容易性について
(引1d)及び(引1i)に摘記したように、引用文献1記載のノイズ除去方法において、「粘性抵抗によるたわみ信号28」を取得するタイミングは、「実際に得られるたわみ信号27」を取得した後の場合もあることから、引用文献1記載のノイズ除去方法は、「ノイズ除去されたたわみ信号29」から、フィードバック制御において設定値に維持される「プローブ12と試料14との間に働く斥力が最大となっているときのわたみ信号の値」を検出することを意図したものではない。
また、引用文献1には、引用文献1記載のノイズ除去方法によって得られた「ノイズ除去されたたわみ信号29」をフィードバック制御に用いることを示唆する記載もない。
(ウ)したがって、引用文献1には、「実際に得られるたわみ信号27から、粘性抵抗によるたわみ信号28を減算することを含む、ノイズ除去されたたわみ信号29を得る方法」は記載されているが、引用発明1のフィードバック制御において設定値に維持される値である「プローブと試料間に働く斥力が最大となっているときのたわみ信号の値」を、当該「ノイズ除去されたたわみ信号29」から検出することは、動機がない。
イ 引用文献2及び3には、寄生プローブ撓みに関して記載も示唆もされていない。
ウ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献1-3に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 本願発明2-9、15-17について
本願発明2-9、15-17も、上記相違点2に記した本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献1-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 本願発明10-14について
本願発明10における「前記プローブと前記試料との間」の「ピーク相互作用力」は、「走査型プローブ顕微鏡の動作に関する背景によって生じる」「寄生プローブ撓みとは無関係である」点において、本願発明1の「瞬間力」と共通する。
してみれば、本願発明10-14も、上記相違点2に記した本願発明1の構成と同様の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献1-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-17は、当業者が引用発明1及び引用文献1-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-011427