特許拒絶査定不服審判
2016-009723
信号選別装置、信号選別方法、及びレーダ装置。
- 審判番号
- 2016-009723
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-013352外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年06月29日
- 審決日
- 2017年06月19日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (G01S) / P18 .537-WY (G01S)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012- 13352「信号選別装置、信号選別方法、及びレーダ装置。」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日出願公開、特開2013-152157、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月25日の出願であって、平成27年10月22日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年1月15日付けで手続補正がなされたが、平成28年3月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年6月29日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、当審において、平成29年2月15日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、平成29年4月26日付けで手続補正がなされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(平成28年3月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
理由1
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1~13
・引用文献等1~6
<引用文献等一覧>
1.特開昭57-149978号公報
2.特開2010-266292号公報(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2006/134912号(周知技術を示す文献)
4.特開平7-253467号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2003-57339号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2008-185357号公報(周知技術を示す文献)
理由2
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
・請求項1~13
請求項1の記載では、「相関値」と「同一の物標」の「選別」との関係が、依然として明らかでないから、請求項1及びこれを引用する請求項2~9に係る発明は、明確でない。同様の点で、請求項10~13に係る発明も、明確でない。
第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。
理由1
本願の請求項1ないし6に係る発明は、引用発明1及び引用例2~4に記載された技術、及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
引 用 文 献 等 一 覧
引用例1:特開昭57-149978号公報
引用例2:特開2010-266292号公報
引用例3:特開平7-209410号公報
引用例4:高橋隆史、池田幸史、三島健稔、栗田多喜夫、恒等写像学習を用いたオプティカルフローからのカメラ回転情報の抽出、電子情報通信学会技術研究報告、第99巻、第686号(NC99-168)、2000年3月15日、社団法人 電子情報通信学会、p.135~141
理由2
特許請求の範囲の請求項1、2、6の記載では、「重み付け」と、各変化量の2乗の和における「係数」との差違が不明であるから、請求項1、2、6、及び請求項1又は2を引用する請求項3~5に係る発明は明確でない。
よって、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
第4 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成29年4月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし本願発明6は、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
電磁波の送受信を繰り返す送受信部と、
前記送受信部が受信したエコー信号に基づいて複数の物標を検出するターゲット候補検出部と、
第一スイープにおいて、検出した前記物標を示すエコー信号の位相と、前記第一スイープより前に送受信された第二スイープにおいて、前記第一スイープにおいて検出した前記物標を示すエコー信号と前記送受信部からの距離が略等しい距離にある物標を示すエコー信号の位相との変化量である位相変化量を算出する位相変化量算出部と、
第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記第一スキャンより前の第二スキャンにおいて選別した特定物標と同一の物標を前記特定物標に選別する物標選別部と、
を備え、
前記物標選別部は、
前記第二スキャンの前記特定物標の位置から前記第一スキャンの前記複数の物標が検出されたそれぞれの観測位置への位置変化量と、前記第二スキャンの前記特定物標の位相変化量から前記第一スキャンの前記複数の物標それぞれの前記位相変化量への位相変化量変化量と、を算出し
前記複数の物標それぞれにおいて、前記位置変化量と前記位相変化量変化量との重み付け加算を行った相関評価値を算出し、第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記相関評価値が最も小さい物標を前記特定物標に選別し、
前記重み付けは状況に応じて変更できることを特徴とする物標選別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物標選別装置であって、
次回スキャンでの前記特定物標の観測位置である予測位置を算出する運動推定部を更に備え、
前記位置は、前記予測位置であって、
前記運動推定部は、
前記第二スキャンで予測された前記予測位置から前記第一スキャンでの前記観測位置への変化速度と、前記第二スキャンでの前記特定物標の推定速度と、の重み付け加算によって、前記第一スキャンでの前記推定速度を算出し、
前記第一スキャンでの前記観測位置と、前記第二スキャンで予測された前記予測位置と、の重み付け加算によって、前記第一スキャンでの前記特定物標の推定位置を算出し、
前記第一スキャンでの前記推定位置及び前記推定速度に基づいて、前記第一スキャンの次のスキャンでの前記予測位置を算出し、
前記物標選別部は、
前記第二スキャンで予測された前記特定物標の前記予測位置から、前記第一スキャンの前記複数の物標のそれぞれの観測位置への変化量から、第二スキャンの前記予測位置と第一スキャンの前記複数の物標が検出されたそれぞれの前記観測位置への位置変化量と、前記第二スキャンの前記特定物標の位相変化量から前記第一スキャンの前記複数の物標それぞれの前記位相変化量への位相変化量変化量と、を算出し、
前記複数の物標それぞれにおいて、前記位置変化量と前記位相変化量変化量との重み付け加算を行った相関評価値を算出し、第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記相関評価値が最も小さい物標を前記特定物標に選別し、
前記重み付けは状況に応じて変更できることを特徴とする物標選別装置。
【請求項3】
請求項1に記載の物標選別装置であって、
前記位置は、前記特定物標が検出された観測位置であることを特徴とする物標選別装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の信号選別装置であって、
同一平面内で回転するアンテナを介して、電磁波の送受信を繰り返すアンテナと、
前記複数の物標の位置を示すレーダ映像を表示する表示器と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の信号選別装置であって、
船舶に搭載されることを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
電磁波の送受信を繰り返す送受信行程と、
前記送受信部が受信したエコー信号に基づいて複数の物標を検出するターゲット候補検出行程と、
第一スイープにおいて、検出した前記物標を示すエコー信号の位相と、前記第一スイープより前に送受信された第二スイープにおいて、前記第一スイープにおいて検出した前記物標を示すエコー信号と前記送受信部からの距離が略等しい距離にある物標を示すエコー信号の位相との変化量である位相変化量を算出する位相変化量算出行程と、
第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記第一スキャンより前の第二スキャンにおいて選別した特定物標と同一の物標を前記特定物標に選別する物標選別工程と、
を備え、
前記物標選別工程は、
前記第二スキャンの前記特定物標の位置から前記第一スキャンの前記複数の物標が検出されたそれぞれの観測位置への位置変化量と、前記第二スキャンの前記特定物標の位相変化量から前記第一スキャンの前記複数の物標それぞれの前記位相変化量への位相変化量変化量と、を算出し
前記複数の物標それぞれにおいて、前記位置変化量と前記位相変化量変化量との重み付け加算を行った相関評価値を算出し、第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記相関評価値が最も小さい物標を前記特定物標に選別し、
前記重み付けは状況に応じて変更できることを特徴とする物標選別方法。」
第5 当審拒絶理由通知における理由1について
1 引用例、引用発明等
(引用例1)
当審拒絶理由通知における拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開昭57-149978号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
ア 「本発明はレーダー管制システムにおいて使用する追尾装置に関する。」(第1頁左下欄第10~11行)
イ 「レーダー装置に対する航空機の速度成分は一般に送信周波数に対する航空機からの反射波の周波数偏移(ドプラー効果のため)により検出される。」(第1頁右欄第10~12行)
ウ 「2機の航空機のレーダーに対するラジアル速度は、大部分の場合異なっていると考えられ、フィルター出力も異なったものが得られると予想される。従って2機の航空機が接近した場合でも前スキャンの速度情報と現スキャンの速度情報とを比べることにより(1スキャンの間の速度の変化は少ないと考えられるので)目標の識別、分離が可能となる。
第4図は本発明の速度検出追尾装置のうち、主に相関処理部に関する概略構成図である。
バッファ1にはレーダー受信機により検出された目標の距離RT、方位角θT及び周波数偏移より検出された速度VTを一時的に蓄え、相関器2,3,4と制御器5に送出する。予測部8は、相関のとれた追尾目標データ及びこの予測部8で予測した追尾目標予測データが格納され、逐次最新データに更新されているメモリ7にある、前スキャン目標データと入力される相関のとれた目標データより、次スキャン時における予測データRP,θP VPを作る。相関器2,3,4は距離、方位角、速度に関する相関器で、バッファ1より入力される目標データ(RT,θT,VT)と、後述するバッファ6より入力される追尾目標の予測データ(RP,θP,VP)とを各成分ごとに比較する。各相関器において2つの入力差が許容範囲内であれば、相関ありの信号を制御器5へ送る。制御器5は相関ありの信号を受けると、入力目標データを予測部8へ送り、また相関器2,3,4で相関がとれないときはバッファ6へ別の予測データを読み出すよう制御信号を送る。バッファ6には追尾目標予測データRP(距離)、θP(方位角)VP(速度)が格納され、メモリ7からデータを読み出し、相関器2,3,4に与える。
本発明は以上説明したように、目標の速度及び、位置を検出し、速度及び位置の相関をとることにより、複数航空機の位置が接近している場合の分離、識別をより確実に行うことができる。」(第2頁左上欄第3行~同頁右上欄第19行)
よって、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「レーダー管制システムにおいて使用する追尾装置であって(上記「ア」より。以下同様。)、レーダー装置に対する航空機の速度成分は一般に送信周波数に対する航空機からの反射波の周波数偏移(ドプラー効果のため)により検出されるが(イ)、2機の航空機のレーダーに対するラジアル速度は、大部分の場合異なっていると考えられ、従って2機の航空機が接近した場合でも前スキャンの速度情報と現スキャンの速度情報とを比べることにより(1スキャンの間の速度の変化は少ないと考えられるので)目標の識別、分離が可能となり、
追尾装置のうち相関処理部では、バッファ1にはレーダー受信機により検出された目標の距離RT、方位角θT及び周波数偏移より検出された速度VTを一時的に蓄え、相関器2,3,4と制御器5に送出し、
予測部8は、相関のとれた追尾目標データ及びこの予測部8で予測した追尾目標予測データが格納され、逐次最新データに更新されているメモリ7にある、前スキャン目標データと入力される相関のとれた目標データより、次スキャン時における予測データRP,θP VPを作り、
相関器2,3,4は距離、方位角、速度に関する相関器で、バッファ1より入力される目標データ(RT,θT,VT)と、後述するバッファ6より入力される追尾目標の予測データ(RP,θP,VP)とを各成分ごとに比較し、各相関器において2つの入力差が許容範囲内であれば、相関ありの信号を制御器5へ送り、制御器5は相関ありの信号を受けると、入力目標データを予測部8へ送り、
バッファ6には追尾目標予測データRP(距離)、θP(方位角)VP(速度)が格納され、メモリ7からデータを読み出し、相関器2,3,4に与え、
目標の速度及び、位置を検出し、速度及び位置の相関をとることにより、複数航空機の位置が接近している場合の分離、識別をより確実に行うことができる(ウ)、追尾装置。」
(引用例2)
当審拒絶理由通知における拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2010-266292号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0068】
次に、物標の移動速度を算出するための構成について説明する。
【0069】
前述のとおり、他船の移動速度を検出するためにAISやARPAを用いていた従来のレーダ装置においては、複数の物標の速度を確実かつリアルタイムで求めることができないという課題があった。
【0070】
そこで、本実施形態のレーダ装置は、エコーのドップラー周波数を推定し、前記ドップラー周波数に基づいて物標の移動速度を求めるように構成されている。この構成によれば、他船からのAIS情報の受信を待機したり、過去のレーダ映像の推移を複数スキャンにわたって観測したりしなくても、物標の移動速度を求めることができる。従って、多数の物標の移動速度を、確実かつ即座に求めることができる。
【0071】
また、AISやARPAによって求めることができるのは、水平面内における物標の絶対速度又は相対速度である。この点、ドップラー周波数に基づけば、自船に対する物標の相対速度のうち、電波の放射方向成分のみを検出することができる。従って、ドップラー周波数から求めた物標速度の値は、自船に対して物標がどれだけの速さで近づいてきているかの指標として用いることができるため、本実施形態のレーダ装置において特に有効である(詳しくは後述)。
【0072】
ただし、船舶の速度は比較的遅いため、発生するドップラー周波数も小さく、1回の送受信でドップラー周波数を検出するのは困難である。そこで、本実施形態ではパルスドップラー(パルスペア)法によってドップラー周波数を求めている。
【0073】
パルスドップラー法とは、適宜の間隔を空けてパルス状電波を放射し、同一物標からの受信パルスを2回取得して、2つの受信パルス間の位相変化を検出することにより物標のドップラー周波数を求めるものである。本実施形態ではレーダアンテナ1を回転させながらパルス状電波を放射しているため、2回の送信パルス間でパルスの送信方向は若干変化するが、例えば図5に示すように、直前のスイープと今回のスイープとの間で考えれば同じ物標800からのエコーを取得しているとみなすことができる。そこで本実施形態では、パルスヒット間(今回のスイープで受信したエコーと、直前のスイープで受信したエコーとの間)の位相変化に基づいて、物標からのエコーのドップラー周波数を検出するように構成している。」
よって、引用例2には、次の技術(以下、「引用例2に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。
「レーダ装置は、パルスドップラー(パルスペア)法によってドップラー周波数を求め、前記ドップラー周波数に基づいて物標の移動速度を求めるように構成されており(【0070】、【0072】)、パルスドップラー法とは、適宜の間隔を空けてパルス状電波を放射し、同一物標からの受信パルスを2回取得して、2つの受信パルス間の位相変化を検出することにより物標のドップラー周波数を求めるものであるが、実施形態ではレーダアンテナ1を回転させながらパルス状電波を放射し、直前のスイープと今回のスイープとの間で考えれば同じ物標からのエコーを取得しているとみなすことができるので、パルスヒット間(今回のスイープで受信したエコーと、直前のスイープで受信したエコーとの間)の位相変化に基づいて、物標からのエコーのドップラー周波数を検出するように構成している(【0073】)、レーダ装置。」
(引用例3)
当審拒絶理由通知における拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平7-209410号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車載用の物体検出装置に関し、先行車両等の物体を検出する車載用の物体検出装置に関する。」
「【0008】また、本発明は、目標物体の検出強度と過去の目標物体の検出強度を比較することにより、検出された複数の目標物体の位置と過去の複数の目標物体の位置との対応付けの精度を向上する車載用の物体検出装置を提供することを目的とする。」
「【0036】ステップS46では差が最小の2つ以上の新データについて、保存データとの相対距離の差の2乗と、相対速度の差の2乗の和(例えば(R’m+Ri)2 +(V’m+Vi)2 を求め、2乗の和が最小となる新データを選択する。」(当審注:相対距離の差の2乗についての「(R’m+Ri)2 」との表記は、「(R’m-Ri)2」の誤記と認められる。また、相対速度の差の2乗についての「(V’m+Vi)2」との表記も、「(V’m-Vi)2」の誤記と認められる。)
よって、引用例3には、次の技術(以下、「引用例3に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「検出された2つ以上の目標物体の位置と過去の目標物体の位置との対応付けのため、2つ以上の新データについて、保存データとの相対距離の差の2乗と、相対速度の差の2乗の和(例えば(R’m-Ri)2 +(V’m-Vi)2を求め、2乗の和が最小となる新データを選択する、車載用の物体検出装置。」
(引用例4)
当審拒絶理由通知における拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、高橋隆史、池田幸史、三島健稔、栗田多喜夫、恒等写像学習を用いたオプティカルフローからのカメラ回転情報の抽出、電子情報通信学会技術研究報告、第99巻、第686号(NC99-168)、2000年3月15日、社団法人 電子情報通信学会、p.135~141(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「しかし、単純な平均二乗誤差に基づく主成分分析はデータに含まれるノイズに敏感なため、大きなノイズを含むことのあるオプティカルフローのようなデータには適当でない。」(第137頁左欄下から6行目~下から3行目)
イ 「3.2 重み付き二乗誤差
ノイズの影響を低減するため、データの成分毎にその値がどの程度信頼できるかを表す「確からしさ」を算出し、これによって重み付けした誤差を最小化する。」(第137頁右下欄下から3行目~第138頁左上欄第1行)
従って、引用例4には、次の技術(以下、「引用例4に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「ノイズの影響を低減するため、データの成分毎にその値がどの程度信頼できるかを表す「確からしさ」を算出し、これによって重み付けした二乗誤差を分析に用いる技術。」
2 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「追尾装置」が使用する「レーダー装置」は、「スキャン」を行うレーダー装置であって、「送信周波数に対する航空機からの反射波」を受けているから、本願発明1と同様に、電磁波の送受信を繰り返す送受信部を備えていることは明らかである。
(イ)引用発明1における「追尾装置」は、「2機の航空機が接近した場合でも」、レーダー装置により「目標の識別、分離が可能」となっているから、複数の目標を検出していることがわかる。よって、引用発明1の「追尾装置」において、複数の目標を検出している部分が、本願発明1における「前記送受信部が受信したエコー信号に基づいて複数の物標を検出するターゲット候補検出部」に相当するといえる。
(ウ)引用発明1の「追尾装置」における「周波数偏移(ドプラー効果のため)」を「検出」する部分は、「レーダー装置に対する航空機の速度成分」を「送信周波数に対する航空機からの反射波の周波数偏移(ドプラー効果のため)により検出」しているから、本願発明1における「第一スイープにおいて、検出した前記物標を示すエコー信号の位相と、前記第一スイープより前に送受信された第二スイープにおいて、前記第一スイープにおいて検出した前記物標を示すエコー信号と前記送受信部からの距離が略等しい距離にある物標を示すエコー信号の位相との変化量である位相変化量を算出する位相変化量算出部」とは、「検出した前記物標を示すエコー信号から、物標の移動に伴う電波の振動変化量を算出する電波の振動変化量算出部」である点で共通する。
(エ)引用発明1の「追尾装置のうち相関処理部」は、「前スキャン目標データ」から得られる「追尾目標の予測データ(RP,θP,VP)」と、「現スキャン」から得られる「目標データ(RT,θT,VT)」との「相関」をとって、「複数航空機の位置が接近している場合の分離、識別」を行っているから、本願発明1における「第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記第一スキャンより前の第二スキャンにおいて選別した特定物標と同一の物標を前記特定物標に選別する物標選別部」に相当するといえる。
(オ)引用発明1の「相関器2,3,4」において、「前スキャン目標データ」から得られる「航空機」の予測位置、つまり「追尾目標予測」「RP(距離)、θP(方位角)」と、「現スキャン」から得られる「2機の航空機」それぞれについての「目標の距離RT、方位角θT」との「入力差」を求めることが、本願発明1における「物標選別部」が「前記第二スキャンの前記特定物標の位置から前記第一スキャンの前記複数の物標が検出されたそれぞれの観測位置への位置変化量」を「算出」することに相当する。
(カ)引用発明1の「相関器2,3,4」において、「前スキャン目標データ」から得られる「前スキャンの速度情報」、つまり「追尾目標予測」「VP(速度)」と、「現スキャン」から得られる「2機の航空機」それぞれについての「周波数偏移より検出された速度VT」との「入力差」を求めることと、本願発明1における「物標選別部」が「前記第二スキャンの前記特定物標の位相変化量から前記第一スキャンの前記複数の物標それぞれの前記位相変化量への位相変化量変化量」を「算出」することとは、「物標選別部」が「前記第二スキャンの前記特定物標の物標の移動に伴う電波の振動変化量から前記第一スキャンの前記複数の物標それぞれの物標の移動に伴う電波の振動変化量への電波の振動変化量変化量」を「算出」する点で共通する。
(キ)引用発明1の「追尾装置のうち相関処理部」が、「相関器2,3,4」によって、「2機の航空機」それぞれについての「目標データ(RT,θT,VT)」と、「追尾目標の予測データ(RP,θP,VP)」とを「各成分ごとに比較し、各相関器において2つの入力差が許容範囲内であれば、相関あり」とすることで、「複数航空機の位置が接近している場合の分離、識別をより確実に行う」ことと、本願発明1における「前記複数の物標それぞれにおいて、前記位置変化量と前記位相変化量変化量との重み付け加算を行った相関評価値を算出し、第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記相関評価値が最も小さい物標を前記特定物標に選別する」こととは、「前記位置変化量と前記電波の振動変化量変化量との相関評価値を算出し、第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記相関評価値が所定の条件を満たす物標を前記特定物標に選別する」点で共通する。
(ク)引用発明1における「追尾装置のうち相関処理部」が、次の相違点は除いて、本願発明1の「物標選別装置」に相当する。
すると、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「電磁波の送受信を繰り返す送受信部と、
前記送受信部が受信したエコー信号に基づいて複数の物標を検出するターゲット候補検出部と、
検出した前記物標を示すエコー信号から、物標の移動に伴う電波の振動変化量を算出する電波の振動変化量算出部と、
第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記第一スキャンより前の第二スキャンにおいて選別した特定物標と同一の物標を前記特定物標に選別する物標選別部と、
を備え、
前記物標選別部は、
前記第二スキャンの前記特定物標の位置から前記第一スキャンの前記複数の物標が検出されたそれぞれの観測位置への位置変化量と、前記第二スキャンの前記特定物標の物標の移動に伴う電波の振動変化量から前記第一スキャンの前記複数の物標それぞれの物標の移動に伴う電波の振動変化量への電波の振動変化量変化量と、を算出し
前記位置変化量と前記電波の振動変化量変化量との相関評価値を算出し、第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記相関評価値が所定の条件を満たす物標を前記特定物標に選別することを特徴とする物標選別装置。」
(相違点1)
本願発明1では、位相変化量算出部が「第一スイープにおいて、検出した前記物標を示すエコー信号の位相と、前記第一スイープより前に送受信された第二スイープにおいて、前記第一スイープにおいて検出した前記物標を示すエコー信号と前記送受信部からの距離が略等しい距離にある物標を示すエコー信号の位相との変化量である位相変化量」を算出し、物標選別部が「前記第二スキャンの前記特定物標の位相変化量から前記第一スキャンの前記複数の物標それぞれの前記位相変化量への位相変化量変化量」を「算出」しているのに対し、引用発明1では、「追尾装置」における「周波数偏移(ドプラー効果のため)」を「検出」する部分が、「レーダー装置に対する航空機の速度成分」を「送信周波数に対する航空機からの反射波の周波数偏移(ドプラー効果のため)により検出」し、「相関器2,3,4」において、「前スキャン目標データ」から得られる「前スキャンの速度情報」、つまり「追尾目標予測」「VP(速度)」と、「現スキャン」から得られる「2機の航空機」それぞれについての「周波数偏移より検出された速度VT」との「入力差」を求めている点。
(相違点2)
本願発明1では、物標選別部が、「前記複数の物標それぞれにおいて、前記位置変化量と前記位相変化量変化量との重み付け加算を行った相関評価値を算出し、第一スキャンで検出した前記複数の物標のうち、前記相関評価値が最も小さい物標を前記特定物標に選別」し、「前記重み付けは状況に応じて変更できる」のに対して、引用発明1では、「追尾装置のうち相関処理部」が、「相関器2,3,4」によって、「2機の航空機」それぞれについての「目標データ(RT,θT,VT)」と、「追尾目標の予測データ(RP,θP,VP)」とを「各成分ごとに比較し、各相関器において2つの入力差が許容範囲内であれば、相関あり」とすることで、複数航空機の位置が接近している場合の分離、識別をより確実に行う点。
イ 判断
そこで、上記相違点について検討すると、
(ア)(相違点1)について
引用例2に記載された技術には、「レーダ装置」において、「パルスドップラー(パルスペア)法によってドップラー周波数を求め、前記ドップラー周波数に基づいて物標の移動速度を求める」こと、具体的には、「レーダアンテナ1を回転させながらパルス状電波を放射し、直前のスイープと今回のスイープとの間で考えれば同じ物標からのエコーを取得しているとみなすことができるので、パルスヒット間(今回のスイープで受信したエコーと、直前のスイープで受信したエコーとの間)の位相変化に基づいて、物標からのエコーのドップラー周波数を検出する」ことが示されている。
そして、引用発明1と引用例2に記載された技術とは、「レーダ装置」においてドップラー周波数に基づいて物標(航空機)の移動速度(速度情報)を求める点で共通するから、引用発明1に引用例2に記載された技術を適用し、引用発明1において、「追尾装置」における「周波数偏移(ドプラー効果のため)」を「検出」する部分が、レーダアンテナ1を回転させながらパルス状電波を放射し、直前のスイープと今回のスイープとの間で考えれば同じ航空機(物標)からのエコーを取得しているとみなすことができるので、パルスヒット間(今回のスイープで受信したエコーと、直前のスイープで受信したエコーとの間)の位相変化に基づいて、航空機(物標)からのエコーのドップラー周波数を検出する」ようにし、「相関器2,3,4」において、「前スキャン目標データ」から得られる「航空機」(物標)の「位相変化」から、「現スキャン」から得られる「2機の航空機」それぞれについての「航空機」(物標)の「位相変化」の「入力差」(つまり、本願発明1でいう「位相変化量変化量」)を求めるようにして、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(イ)(相違点2)について
引用例3に記載された技術には、「検出された2つ以上の目標物体の位置と過去の目標物体の位置との対応付けのため、2つ以上の新データについて、保存データとの相対距離の差の2乗と、相対速度の差の2乗の和(例えば(R’m-Ri)2 +(V’m-Vi)2を求め、2乗の和が最小となる新データを選択する」ことが示されている。
また、引用例4に記載された技術には、「ノイズの影響を低減するため、データの成分毎にその値がどの程度信頼できるかを表す「確からしさ」を算出し、これによって重み付けした二乗誤差を分析に用いる」ことが示されている。
さらに、引用例4には、 「ノイズの影響を低減するため、データの成分毎にその値がどの程度信頼できるかを表す「確からしさ」を算出し、これによって重み付けした二乗誤差」を用いることが記載されている。
しかし、相違点2に係る本願発明1の構成である、「前記複数の物標それぞれ」における「前記位置変化量と前記位相変化量変化量との重み付け加算」について、「前記重み付けは状況に応じて変更できる」ようにすることは、引用発明1ないし引用例4のいずれにも記載されておらず、また、本願の出願前において周知技術であるともいえない。
(ウ)本願発明1についてのまとめ
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用例2~4に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本願発明2について
本願発明2は、上記相違点2に係る本願発明1の構成と同じ構成を備えているから、本願発明1について述べたのと同じ理由により、引用発明1及び引用例2~4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本願発明3ないし本願発明5について
本願発明3ないし本願発明5は、本願発明1または本願発明2に所定の限定を付加した発明であるから、本願発明1、本願発明2について述べたのと同じ理由により、引用発明1及び引用例2~4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本願発明6について
本願発明6は、本願発明1に係る発明を方法として表現したものであって、上記相違点2に係る本願発明1の構成と同じ構成を備えているから、本願発明1について述べたのと同じ理由により、引用発明1及び引用例2~4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 小括
以上のとおり、本願発明1ないし本願発明6は、引用発明1及び引用例2~4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第6 当審拒絶理由通知における理由2について
平成29年4月26日付けの手続補正により、請求項1、2、6に記載された「前記複数の物標それぞれ」における「前記位置変化量と前記位相変化量変化量との重み付け加算」について、「前記重み付けは状況に応じて変更できる」ことが特定された。
これにより、特許請求の範囲の請求項1、2、6に記載された「重み付け」と、各変化量の2乗の和における「係数」との差違が明確となったから、請求項1、2、6及び請求項1又は2を引用する請求項3~5に係る発明は明確なものとなった。
第7 原査定についての判断
(1)理由1について
平成29年4月26日付けの手続補正により、本願発明1、本願発明2、本願発明6(それぞれ、拒絶査定の対象とされた、平成28年6月29日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項2、4、10に記載された事項により特定される発明に対応する。以下、同様。)は、「前記複数の物標それぞれ」における「前記位置変化量と前記位相変化量変化量との重み付け加算」について、「重み付けは状況に応じて変更できること」という技術的特徴を有するものとなった。
当該「前記複数の物標それぞれ」における「前記位置変化量と前記位相変化量変化量との重み付け加算」について、「重み付けは状況に応じて変更できること」は、原査定における引用文献1~6(引用文献1、2は、当審拒絶理由における引用例1、2)には記載されておらず、また、本願の出願前において周知技術であるともいえないので、本願発明1、本願発明2、本願発明6は、当業者であっても、原査定における引用文献1~6に基づいて容易に発明できたものではない。
また、本願発明3ないし本願発明5は、本願発明1または本願発明2に所定の限定を付加した発明であるから、同様の理由により、当業者であっても、原査定における引用文献1~6に基づいて容易に発明できたものではない。
従って、原査定を維持することはできない。
(2)理由2について
平成29年4月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2、6には、「前記相関評価値が最も小さい物標を前記特定物標に選別」することが特定されているから、「相関値」と「同一の物標」の「選別」との関係は明確となっている。
よって、原査定を維持することはできない。
第8 まとめ
以上のとおり、原査定の理由によって本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-009723